俺が目を覚ますと見たこともない船の上だった。
俺は木製デッキに頬をつけて気を失っていた。手元には懐中電灯のみがあったが、接触不良か電池不足かスイッチが反応しなかった。
闇と戦うためには懐中電灯は必須だが、光が点かなければ棍棒にも劣る代物だ。
俺はまず電池を探さなくてはならなかった。
デッキから水面を見てみると、そこはまるで鏡のようだった。黒々とした雲に隠された月明かりを反射して、湖底、もしくは海底にカーテンをかけていた。
俺はまずデッキを調べた。
デッキには何もなかった。ただ一枚の原稿を除いて。
原稿には俺が恐怖に狂い船の上から身を投げる様子が描写されていた。まぎれもなく俺の文体だ。
原稿を手に入れた途端、あたりがざわめきだった。
刹那、暗闇から霧のような影を纏った斧男が俺に襲いかかってきた。
俺は間一髪身をかわすと敵を排除する手段を探した。
駄目だ。光もなければ銃もない。素手でやるしかなかったが、斧を持った相手に勝てるとは到底思えなかった。
「こっちよ!」
突如、斧男がよろめいた。
ショットガンを構えた女性が背後から散弾を発射して背中に命中させたのだ。
俺は言った。
「闇を倒すには、光が無くては!」
女性が言い返した。
「電池があるわ!」
俺は投げられた電池を空中でキャッチすると懐中電灯に差し込んで、強く握った。迸る光が斧男の闇をはぎ取った。無防備となった闇に、女性が放った散弾がめり込んだ。男はピントが暈けるかのように四散した。
「危なかったわね」
あろうことか、いつか出会った保安官その人がいた。