―――――確率を制御する存在があるとすれば、その存在は神と呼べるだろう。
だが確率は無常にも牙を剥くことがある。
ナイトスプリングスでも。
アイヴァー・ジェーバー氏はある日とんでもない能力を身につけてしまった。
彼は壁などの障害物を素通りして反対側に抜けることができるのであった。
「素晴らしい能力だ! 神様ありがとう!」
彼はまっとうな商売をしていなかった。つまり泥棒を生業としていたので、この能力はまさに打ってつけだった。
彼の行くところ敵は無かった。
ある日彼は豪邸に忍び込んだ。
「お安いもんだ」
彼は守衛の目を盗んで壁に潜り込むと反対側に出た。
更に建物の壁に潜り込むと内部に侵入することに成功した。能力を使えば侵入などお茶の子さいさいであった。
彼は豪邸の金庫に入り込むと札束をバッグに詰め込んだ。ざっと計算しても数十年は遊んで暮らせる金額だった。
能力で三階まで上った彼は貴重品類を盗んだ。
「誰かそこにいるの!?」
「しまった!」
ところが彼の行動が大胆すぎたのかハウスキーパーに見つかってしまった。
彼は気が動転して能力で壁に潜り込むのではなく、普通の泥棒時代にやっていたように窓から飛び降りようとした。
彼の体は地面に着くなり潜り込んでいった。
警備員が駆けつけてきたが泥棒の姿は見えない。
ただ、地面には赤い染みが残されていた。
能力を過信した彼はどこかに消えてしまった。
確率の神に弄ばれたのか、それとも呪われたのか、いずれにせよ、何かおぞましいことがあったのだ。
見えない力が支配的な町……それがナイトスプリングス。