――――例え一生かけても伝えられる情報はごくごく少ないことは周知の事実だが、媒体を用いることで時代を超えて伝えることは可能である。
だが時に、媒体とは名ばかりの恐怖が潜んでいることがある。
ナイトスプリングスでは。
物欲は人の渇望が招く現象だ。
ダーレス氏は古今東西の書物のコレクターであったが、どうしても手に入らないものがあった。
とあるコレクターが秘蔵しているという書物がその最もたるものであった。
ダーレス氏はありとあらゆる手段を用いてコレクターに接触して本を譲り受けた。
「さて、読んでみるか」
ダーレス氏はその書物をまずは目を通してみようと手袋を嵌めると包み紙からそっと出した。
それは何かの皮を縫い合わせた奇妙な本であったが、外側の奇異性にさえ目を瞑れば普通の本に思えた。
古代から続いてきたオカルティズムに関する貴重な資料ということもあり、ダーレス氏はコレクションに加えたいと考えてきたのである。
一ページ捲った。
「あああ……」
ダーレス氏は奇妙な声を漏らした。
ページには何やら冒涜的な文字列が並んでおりとても三次元上では理解することもはばかられる恐ろしき内容だった。
三次元上でさえ狂った文字の配列と脳髄まで外なる神秘で汚されてしまうような、あまりの恐怖に涙がとめどなく溢れ、やがて出血が始まった。
まるで涙を流すかのように目から出血しはじめたダーレス氏は悲鳴を上げて顔を掻きむしると突然走り出した。
壁にぶつかった彼は天に許しを請うかのように両手を掲げると、窓ガラスに頭を打ちつけた。
「ああ許してくれ! 許してくれ! 神よ! このようなことが!! ああ窓に! 窓が!」
ダーレス氏は口から泡を吹き、そして窓を頭突きで破った。
次の瞬間彼は窓から身を躍らせた。
彼の体は重力と言う理に引かれてミンチと化した。
好奇心が身を滅ぼしてしまう場所……
それがナイトスプリングス。