――――宗教、哲学が避けて通れない道の一つに神の存在意義についての問題がある。
神が在るから宗教があるのか、宗教が在るから神が在るのか、難解になりがちなこの議論にピリオドが打たれた試しはない。
ここナイトスプリングスにおいてもこの問いかけに白黒付けられるものが居ないのは確かである。
今夜のお話は「救いの神」
ダンテ青年は人生にうんざりしていた。
退屈な日々。つまらない教師。未来への閉塞感。両親の不仲。加速する世界的な破滅への傾向。
そんなある日彼は事故で死んでしまった。
あっさりとした死の後、彼は自分の意識が保たれていることに気が付いた。
「地獄ってのは暇なんだな」
「そうでもないぞ」
何もない空間で彼が呟くと、誰かが返事をした。
彼は直感でその存在が神であると認識した。
彼は光り輝くその存在が意外とフレンドリーであることに驚愕を覚えつつも、質問した。
「俺は死んだのか」
「死んだ」
「これから俺はどうなるんだ」
「私の気まぐれで第二の人生を歩ませてやろう」
彼はその提案に喜び、自分の考える限りの最高の人生を希望した。
その存在はそれを了承した。
彼が気が付くと、限りない荒野に立っていた。多くのボロ服を着た人達が黒い翼を生やした者たちに重労働を強いられていた。別の方に目を向ければ、業火に焼かれる人がいた。別の方には体を切り刻まれる人が居た。
彼が呆然としていると、そのうちの一人が顔を向けてこう言った。
「地獄へようこそ新入り」
詐欺師の常套手段は相手に勘違いさせることと言うが、このケースでは果たして……。
ダンテ青年がこの後どうなったかを知る者はいない。
きっとナイトスプリングスでさえ。