――――作品、それは現実と非現実を彷徨う事柄。
人は時に自然に作品という概念を当て嵌め、ただのゴミにさえ作品性を見出してしまう。
逆説的には、人は存在しえた作品を作品として扱えていないのである。
ここナイトスプリングスでも数多くの作品が………。
今夜のお話は「傑作」。
キング氏は小説家を目指す文学青年だった。聖書から娯楽小説までを穴が空くまで読み込み、日々の研究を重ねるような彼だったが、投稿する小説すべてが悉く落選してしまうのであった。
キング氏は絶望的な気持ちにあったが諦めることなく立ち向かっていった。
「………それだ!」
ある日キング氏は本を読まずキーをタイプせずに椅子に深く腰掛けて考えていた。
素晴らしいアイディア。インスピレーション。そのひらめきと情熱に任せて筆を進めてみようと思い立ったのである。
半日の苦悩と、靄が彼の作品作りを阻害していたが、ある瞬間に晴れた。
彼は大喜びして作品作りに取り掛かった。
一時間。
彼はタイプを止めることなく只管文章を並べていった。
それは宇宙だった。星間物質をより集めて整合性を見出し星屑となった物体を更に星座に並べていくのだ。有限の中に成り立った無限をもとめて彼は指でキーを叩いた。
一日目、二日目、そして一か月。
とうとう彼の作品は作品となった。
彼はタイトルに「ディパーチャー」と銘を打つと、まずは文学仲間に見て貰おうと印刷して封筒に入れた。
「よし、これは素晴らしいできだ」
彼は印刷した作品に軽く目を通し、満足げに頷くと、再度封筒に入れ直して家を出発した。
友人宅着。
彼は早速封筒を友人に手渡した。友人は早速読み始めたが二枚目つまり作品本文に目を通すや顔色が変わった。
「どうやら印刷ミスのようだ。白紙だよ。これも白紙。ああ全て白紙だ」
「なんだって? それは本当かい?」
「見てごらんよ。ウーム」
友人から作品を渡されたキング氏は眩暈を覚えた。たしかに白紙だった。タイトルさえなかったのだ。
キング氏は友人に謝罪すると帰宅し、悲鳴をあげた。
「ない! ない! そんなばかなことがあるもんか!」
確かに書き上げた作品は、パソコンの中にも、それどころか印刷機にもその痕跡がきれいさっぱり消えていたのだ。まるで書かなかったかのように。
駄作と傑作、黒と白、光と闇、有と無が紙一重の場所……
それがナイトスプリングス。