―――人は外界を認識する手段として視覚に大部分を頼り切っている。
我々が物を見るということは、情報のほとんどを視覚から入手していることなのだ。
だが時に、見えなくてもいいものが見えてしまうこともある。
ここナイトスプリングではとても。
今夜のお話は「盲目の男」
ルイ・ブライユ氏は先天的に目が弱く、文字を読むのにも一苦労な生活を強いられてきたが、ある日事故にあってしまう……。
事故により視力を完全に喪失してしまった彼は務めていた仕事先を辞めると、故郷へと帰った。
湖が美しい町へ。
彼は少年時代、ぼやけた視界のなかでも美しいと感じられた町でのんびりとした日々を過ごした。
ある日彼が家のテラスに出ると何者かの気配を感じた。
「誰かいるのか?」
何かの気配があるのは確実で、息遣いさえ感じ取れるというのに、返事はなかった。
「メアリ! メアリ!」
「どうしました、こんな夜更けに」
妻がやってきた。彼は身振り手振りで何者かが居ることを告げた。
「何かがいるんだ。嘘はついていない。誰かが潜んでいる!」
「私には何も……」
妻が嘘をついている様子はなかった。彼は恐怖に震えながら眠りについた。
それから数年間の間彼は気配に悩まされ続けてきたが、科学の進歩によりその目で確認することができる日を迎えた。
カメラから取り入れた映像を脳に流すことで視界を得ると言う技術だ。
システムの電源を入れた彼は半狂乱になった。
「なんて……なんて恐ろしい!! ああ神様! 神様!」
見えないことが幸せなこともある。
それがナイトスプリングの掟なのだ……。