可能性は無限に広がっている―――……。
そう、何事にも可能性は広がっている。
その広がりはまるで霧のようだ。成功の可能性、失敗の可能性、ともに我々には見通すことができない。
一日中霧の晴れぬ場所、それがナイトスプリングス。
今夜のお話は「霧のつまった箱」。
あるところにエルヴィンという男が住んでいた。彼はその箱を開けることをためらっていた。
霧をびっしりと詰め込んだ箱は無限の可能性を秘めていたが、中を開けてしまうと可能性が縮んでしまうということを知っていたからだ。
ある日高慢ちきな女がやってきて箱を開けることをせがんだ。
「ねぇエルヴィン、その箱を開けるべきじゃない?」
「駄目だ。この箱は開けてはいけない」
エルヴィンはそういうと箱を隠してシャワーを浴びにいった。
箱を開けられないようにと骨董品の壺の中に収めておいた。これで、見つかることはないだろう。
ところが女はその隠すところをしっかりとみていた。
「しめたものだわ。開けるなと言われると開けたくなるのよね」
エルヴィンが居なくなったのを見計らって女は箱を開けてしまった。女は忽然と姿を消した。
シャワーを浴びて戻ってきたエルヴィンは悲しそうな目で蓋の開いた箱を見つめた。
「だから言ったのに」
全ての可能性を内包した世界。
それがナイトスプリングス。