俺はインターネットを利用していた。
書物を書く際にインターネットは有用だったが、情報の正確さに難点があった。
だがアイディアを得るきっかけとしてのインターネットは、まさに大海原の回遊魚のように膨大で流動的で愛すべき人のように魅力を持っていた。
俺は自身の情報には極力触れないように画面を見つめていた。
熱狂的なファン。批評家。商売屋。どれも好みになれなかった。特に熱狂的なファンは煩わしく、手に負えなかった。
ふと我に返ると掲示板にアクセスしていた。
俺は、書き込みの節々で登場する単語に目を見開いた。
ありえない。こんなことがあっていいはずがない。
「ナイトスプリングス」
俺の小説に登場する地名がなぜ、インターネットに掲載されているのだ。
まだ未発表どころか完成させてすらいないはずだった。
誰かに相談するべきだろう。
俺は携帯電話を握っていた。今の俺にとって、まさにうってつけの道具だった。