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No.33455の一覧
[0] ダークブリングマスターの憂鬱(RAVE二次創作) 【完結 後日談追加】[闘牙王](2017/06/07 17:15)
[1] 第一話 「最悪の出会い」[闘牙王](2013/01/24 05:02)
[2] 第二話 「最悪の契約」[闘牙王](2013/01/24 05:03)
[3] 第三話 「運命の出会い」[闘牙王](2012/06/19 23:42)
[4] 第四話 「儚い平穏」[闘牙王](2012/07/09 01:08)
[5] 第五話 「夢の終わり」[闘牙王](2012/07/12 08:16)
[6] 第六話 「ダークブリングマスターの憂鬱」[闘牙王](2012/12/06 17:22)
[7] 第七話 「エンドレスワルツ」[闘牙王](2012/08/08 02:00)
[11] 第八話 「運命の出会い(その2)」[闘牙王](2012/08/10 20:04)
[12] 第九話 「魔石使いと記憶喪失の少女」[闘牙王](2012/08/10 20:08)
[13] 番外編 「アキと愉快な仲間達」[闘牙王](2013/01/24 05:06)
[14] 第十話 「将軍たちの集い」前編[闘牙王](2012/08/11 06:42)
[15] 第十一話 「将軍たちの集い」後編[闘牙王](2012/08/14 15:02)
[16] 第十二話 「ダークブリングマスターの絶望」前編[闘牙王](2012/08/27 09:01)
[17] 第十三話 「ダークブリングマスターの絶望」中編[闘牙王](2012/09/01 10:48)
[18] 第十四話 「ダークブリングマスターの絶望」後編[闘牙王](2012/09/04 20:02)
[19] 第十五話 「魔石使いと絶望」[闘牙王](2012/09/05 22:07)
[20] 第十六話 「始まりの日」 前編[闘牙王](2012/09/24 01:51)
[21] 第十七話 「始まりの日」 中編[闘牙王](2012/12/06 17:25)
[22] 第十八話 「始まりの日」 後編[闘牙王](2012/09/28 07:54)
[23] 第十九話 「旅立ちの時」 前編[闘牙王](2012/09/30 05:13)
[24] 第二十話 「旅立ちの時」 後編[闘牙王](2012/09/30 23:13)
[26] 第二十一話 「それぞれの事情」[闘牙王](2012/10/05 21:05)
[27] 第二十二話 「時の番人」 前編[闘牙王](2012/10/10 23:43)
[28] 第二十三話 「時の番人」 後編[闘牙王](2012/10/13 17:13)
[29] 第二十四話 「彼と彼女の事情」[闘牙王](2012/10/14 05:47)
[30] 第二十五話 「嵐の前」[闘牙王](2012/10/16 11:12)
[31] 第二十六話 「イレギュラー」[闘牙王](2012/10/19 08:22)
[32] 第二十七話 「閃光」[闘牙王](2012/10/21 18:58)
[33] 第二十八話 「油断」[闘牙王](2012/10/22 21:39)
[35] 第二十九話 「乱入」[闘牙王](2012/10/25 17:09)
[36] 第三十話 「覚醒」[闘牙王](2012/10/28 11:06)
[37] 第三十一話 「壁」[闘牙王](2012/10/30 06:43)
[38] 第三十二話 「嵐の後」[闘牙王](2012/10/31 20:31)
[39] 第三十三話 「違和感」[闘牙王](2012/11/04 10:18)
[40] 第三十四話 「伝言」[闘牙王](2012/11/06 19:18)
[41] 第三十五話 「変化」[闘牙王](2012/11/08 03:51)
[44] 第三十六話 「金髪の悪魔」[闘牙王](2012/11/20 16:23)
[45] 第三十七話 「鎮魂」[闘牙王](2012/11/20 16:22)
[46] 第三十八話 「始動」[闘牙王](2012/11/20 18:07)
[47] 第三十九話 「継承」[闘牙王](2012/11/27 22:20)
[48] 第四十話 「開幕」[闘牙王](2012/12/03 00:04)
[49] 第四十一話 「兆候」[闘牙王](2012/12/02 05:37)
[50] 第四十二話 「出陣」[闘牙王](2012/12/09 01:40)
[51] 第四十三話 「開戦」[闘牙王](2012/12/09 10:44)
[52] 第四十四話 「侵入」[闘牙王](2012/12/14 21:19)
[53] 第四十五話 「龍使い」[闘牙王](2012/12/19 00:04)
[54] 第四十六話 「銀術師」[闘牙王](2012/12/23 12:42)
[55] 第四十七話 「騎士」[闘牙王](2012/12/24 19:27)
[56] 第四十八話 「六つの盾」[闘牙王](2012/12/28 13:55)
[57] 第四十九話 「再戦」[闘牙王](2013/01/02 23:09)
[58] 第五十話 「母なる闇の使者」[闘牙王](2013/01/06 22:31)
[59] 第五十一話 「処刑人」[闘牙王](2013/01/10 00:15)
[60] 第五十二話 「魔石使い」[闘牙王](2013/01/15 01:22)
[61] 第五十三話 「終戦」[闘牙王](2013/01/24 09:56)
[62] DB設定集 (五十三話時点)[闘牙王](2013/01/27 23:29)
[63] 第五十四話 「悪夢」 前編[闘牙王](2013/02/17 20:17)
[64] 第五十五話 「悪夢」 中編[闘牙王](2013/02/19 03:05)
[65] 第五十六話 「悪夢」 後編[闘牙王](2013/02/25 22:26)
[66] 第五十七話 「下準備」[闘牙王](2013/03/03 09:58)
[67] 第五十八話 「再会」[闘牙王](2013/03/06 11:02)
[68] 第五十九話 「誤算」[闘牙王](2013/03/09 15:48)
[69] 第六十話 「理由」[闘牙王](2013/03/23 02:25)
[70] 第六十一話 「混迷」[闘牙王](2013/03/25 23:19)
[71] 第六十二話 「未知」[闘牙王](2013/03/31 11:43)
[72] 第六十三話 「誓い」[闘牙王](2013/04/02 19:00)
[73] 第六十四話 「帝都崩壊」 前編[闘牙王](2013/04/06 07:44)
[74] 第六十五話 「帝都崩壊」 後編[闘牙王](2013/04/11 12:45)
[75] 第六十六話 「銀」[闘牙王](2013/04/16 15:31)
[76] 第六十七話 「四面楚歌」[闘牙王](2013/04/16 17:16)
[77] 第六十八話 「決意」[闘牙王](2013/04/21 05:53)
[78] 第六十九話 「深雪」[闘牙王](2013/04/24 22:52)
[79] 第七十話 「破壊」[闘牙王](2013/04/26 20:40)
[80] 第七十一話 「降臨」[闘牙王](2013/04/27 11:44)
[81] 第七十二話 「絶望」[闘牙王](2013/05/02 07:27)
[82] 第七十三話 「召喚」[闘牙王](2013/05/08 10:43)
[83] 番外編 「絶望と母なる闇の使者」[闘牙王](2013/05/15 23:10)
[84] 第七十四話 「四天魔王」[闘牙王](2013/05/24 19:49)
[85] 第七十五話 「戦王」[闘牙王](2013/05/28 18:19)
[86] 第七十六話 「大魔王」[闘牙王](2013/06/09 06:42)
[87] 第七十七話 「鬼」[闘牙王](2013/06/13 22:04)
[88] 設定集② (七十七話時点)[闘牙王](2013/06/14 15:15)
[89] 第七十八話 「争奪」[闘牙王](2013/06/19 01:22)
[90] 第七十九話 「魔導士」[闘牙王](2013/06/24 20:52)
[91] 第八十話 「交差」[闘牙王](2013/06/26 07:01)
[92] 第八十一話 「六祈将軍」[闘牙王](2013/06/29 11:41)
[93] 第八十二話 「集結」[闘牙王](2013/07/03 19:57)
[94] 第八十三話 「真実」[闘牙王](2013/07/12 06:17)
[95] 第八十四話 「超魔導」[闘牙王](2013/07/12 12:29)
[96] 第八十五話 「癒しと絶望」 前編[闘牙王](2013/07/31 16:35)
[97] 第八十六話 「癒しと絶望」 後編[闘牙王](2013/08/14 11:37)
[98] 第八十七話 「帰還」[闘牙王](2013/08/29 10:57)
[99] 第八十八話 「布石」[闘牙王](2013/08/29 21:30)
[100] 第八十九話 「星跡」[闘牙王](2013/08/31 01:42)
[101] 第九十話 「集束」[闘牙王](2013/09/07 23:06)
[102] 第九十一話 「差異」[闘牙王](2013/09/12 06:36)
[103] 第九十二話 「時と絶望」[闘牙王](2013/09/18 19:20)
[104] 第九十三話 「両断」[闘牙王](2013/09/18 21:49)
[105] 第九十四話 「本音」[闘牙王](2013/09/21 21:04)
[106] 第九十五話 「消失」[闘牙王](2013/09/25 00:15)
[107] 第九十六話 「別れ」[闘牙王](2013/09/29 22:19)
[108] 第九十七話 「喜劇」[闘牙王](2013/10/07 22:59)
[109] 第九十八話 「マザー」[闘牙王](2013/10/11 12:24)
[110] 第九十九話 「崩壊」[闘牙王](2013/10/13 18:05)
[111] 第百話 「目前」[闘牙王](2013/10/22 19:14)
[112] 第百一話 「完成」[闘牙王](2013/10/25 22:52)
[113] 第百二話 「永遠の誓い」[闘牙王](2013/10/29 00:07)
[114] 第百三話 「前夜」[闘牙王](2013/11/05 12:16)
[115] 第百四話 「抵抗」[闘牙王](2013/11/08 20:48)
[116] 第百五話 「ハル」[闘牙王](2013/11/12 21:19)
[117] 第百六話 「アキ」[闘牙王](2013/11/18 21:23)
[118] 最終話 「終わらない旅」[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[119] あとがき[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[120] 後日談 「大魔王の憂鬱」[闘牙王](2013/11/25 08:08)
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[33455] 第百六話 「アキ」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:7bdaaa14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/18 21:23
星の記憶。時空操作が可能な星の聖地でありこの世の全てがあるといわれる禁忌。そこで今、並行世界の命運を決める決戦が行われていた。

エンドレス。時空操作によって生まれた怪物。過ちである並行世界を消滅させんとする力を持つもの。全てのシンクレアと一つとなり、元の姿となったエンドレスは大破壊によって全てを消滅させんとしている。その代替である四天魔王のアスラはただ目の前の光景に言葉を失っていた。

完璧だった。魔導精霊力を持つエリーの元には他の四天魔王を。レイヴマスターであるハルにはアキを差し向け力を削いだ。どう転んでもエンドレスの勝利となるはずの策。しかし今、アスラが目にしている光景はそのどれとも異なる、想像すらしていなかったもの。


「さて……では『オレ達』の戦を始めるとしようか、アキよ」


『永遠のウタ』 『獄炎のメギド』 『絶望のジェロ』


自分以外の全ての四天魔王がエンドレスを裏切り、牙を向かんとしている信じがたい現実だった。


「ウタ……」
「何を呆けている。オレを倒した男ならばもっと堂々としているがいい」


驚愕しているのはアキもまた同じ。ある意味アスラ以上にアキは目の前で起こっていることが何なのか理解できず呆然とすることしかできない。ただ分かること。今、アスラを除いた全ての四天魔王が自分を救うためにこの場に集ったのだということだけ。


「……ホム。ウタ、まさか貴様までエンドレスを裏切るつもりではあるまいな。レイヴマスターと戦うことを楽しみにしていたはずではなかったのか?」


アスラは臨戦態勢になりながらも最終通告をウタへと告げる。レイヴマスターと戦うこと。それこそがこの戦いでのウタの目的。改めてそれを突きつけることでウタをけしかけるために。戦いこそが全てであるウタの在り方を誰よりも知っているからこそ。そんなアスラの言葉に従うようにウタは目を動かしアキの隣にいるハルに視線を送るも一瞬。


「確かにレイヴマスターと戦うことはオレの愉しみ。だがアキと戦った後のレイヴマスターと戦ったところでオレは満たされん。それは二人の戦を汚すことだ」


ウタはどこか震えを抑えられないような姿を見せながら己が本心を明かす。レイヴマスターと戦うことはウタにとってはアキとの再戦に劣らない楽しみであり目的。戦こそが全てである戦王である証。だがそれは今の疲労し、満身創痍のハルを相手にしてのものではない。望むのは互いに万全な、全力を以っての決闘。今、ハルと戦うことはウタにとってはあり得ない。戦を何よりも重んじるからこそ二人の戦いを汚すことは許さない。それがウタの在り方。


「だが体が昂ぶって仕方がない……悪いが付き合ってもらうぞ、アスラ。貴様とは一度も本気で戦ったことがなかったからな……四天魔王最強を決めるいい機会だ」


それこそがウタがアスラを相手にする何よりの理由。先のアキとハルの戦いを目の当たりにしたウタはまさに肉を前にした獣同然。その昂ぶりを、高まりを収めるためにアスラ、エンドレスへと牙をむく。四天魔王となって以来、一度もアスラと全力で戦ったことがないからこそ。戦いの狼煙を上げるようにウタは身に纏った外装を投げ捨てる。


「さあ……本気のオレを楽しませてくれ!!」


宣言と共にウタは弾けるように動き出す。同時にジェロとメギドも呼応するように自らの主を守るために臨戦態勢を取る。今、あり得なかった四天魔王同士の戦いの火蓋が切って落とされた――――




「愚かな……もうよい。偽りの世界もろとも消え去るがいい!!」


アスラの号令と共にエンクレイムによって生まれた魔石兵達がアキとハルを圧殺せんと迫る。もはや容赦はない。エンドレスの恩恵を得たアスラの力はかつてを遥かに上回る。魔石兵たちもそれはまた同じ。一つ一つがDBの能力を有した生きたDB。力はかつてのキングにすら匹敵する。それが無尽蔵に湧き、軍勢となって襲いかかる。圧倒的な数の暴力に加え、質すらも兼ね備えた理不尽。だが


それすらも超える絶望がここに存在する。


瞬間、冷気が全てを支配する。大地も、空気も、時間さえも凍結させる絶望が吹雪となりながら氷の女王を中心に巻き起こる。凍結によってできた氷の翼と共に魔力光によってその姿はまさに天使そのもの。だが今の彼女は無慈悲な氷の女王であり、大魔王に従う魔王。

氷の女王を前にしても魔石兵たちは止まることはない。意志も感情も持たない人形である彼らは止まることも、恐怖を感じることもない。だがそれは大きな間違い。もしそれがあったのなら彼らはすぐに悟っただろう。絶望に挑むことがいかに愚かなことかを。


「――――そこまでよ。さあ、絶望なさい」


死の宣告と共にジェロの力が解放される。他の四天魔王よりも早く。まるで自分こそが最も早くアキに忠誠を誓ったのだと誇示するかのように。

『絶対氷結』

時間さえも凍結させるジェロの禁呪。超魔導である彼女のそれはまさに死の息吹と同義。魔石兵達は為すすべなく凍結されていく。DBでできている魔石兵を倒すことはできない。四天魔王であっても変わらない理。しかし、ジェロにとってそれは何の関係もない。相手を殺すことなく、永遠の眠りに就かせる。それこそがジェロが絶望の二つ名を持つ理由。人形である魔石兵は絶望を感じることなく、ただ動きを封じられる。まるで絶望を与えるに値しないと断ずるかのよう。

しかしその数は優に万を超える。いかにジェロの絶対氷結といえども全てを氷結させることはできない。その隙を突き、無数のDBの能力がジェロに降り注ぐ。全てが六星DBを超える暴力。だがその全てを受けながらも魔石兵たちはジェロの体に傷一つつけることはできない。否、傷を与えられてもその全てが瞬時に消え去り、治ってしまう。自動再生という神秘によって。ウタをして倒すことができないと言わしめる不死身。


「――――アキには指一本触れさせないわ」


ジェロではなく、アキへとその矛先を向けんとする者達に向かって身も凍るような瞳と共にジェロは鉄槌を下す。

『氷河期』

絶対氷結によって氷山を作り出し、相手を圧殺する奥義。大質量の鉄槌によって魔石兵はそのまま押しつぶされ、身動きすら封じられていく。壊れることはなくとも、決して溶けることのない氷によって封じられることは死と同じ。ジェロは自らの全力によってアキの片翼を担う。


そして片翼を担うもう一つの存在が咆哮を上げる。


「アキよ……我がこの世界のかがり火となろうぞ」


不敵な笑みを浮かべながらメギドが吠える。炎の獣であり魔王の名を冠する存在。だが魔王はここにはいなかった。その場にいるのはただの獣。自らが主であるアキに従う一匹の獣。故にもはや王位も関係ない。ただあるのは目の前の敵を排除し、主を守ることのみ。

瞬間、光が地面から噴き出していく。大地は割れ、熱気が、灼熱が世界を支配する。ジェロが作る氷の世界とは対極となる炎の世界。

同時にメギドの体が揺らいでいく。まるで蜃気楼のように姿が虚ろになって行く。だが次第にその姿が形を為していく。炎。凄まじい熱気と光を含んだ炎がメギドを形成していく。

『炎化』

炎の化身に相応しいメギドの真の姿。自らを決して消えることのない炎へと変じる極み。文字通り今、メギドは炎獣と化す。今のメギドにはいかなる攻撃も通用しない。誰もメギドの炎をかき消すことなどできはしない。触れる者全てを燃やし尽くす力の象徴。ジェロが静とすればメギドは動。圧倒的な力によって相手を滅ぼす火。

メギドが炎化した余波によって大地は割れ、マグマが溢れだし魔石兵達は飲み込まれていく。溶けることはなくともそれに巻き込まれれば脱出することはできない。その合間を縫って魔石兵たちはあきらめることなくメギドへと向かってくる。機械のように、無造作な動き。メギドは哀れな人形達を前にしながらも欠片の慈悲も見せることはない。示すようにメギドは大きく息を吸い、己が内に力をためる。余波だけで周囲の温度がさらに上がって行く。その場にいるだけで皮膚が焼けてしまいかねない熱。

炎を超える炎。地獄より吹き上がる超高熱の炎。全てを焼きつくす究極の灼熱。その名は


「これが……獄炎なり――――!!」


『獄炎』

地獄の炎の名を冠するメギドの奥義。どんなものも焼きつくす炎であり、ジェロの絶対氷結と対を為すもの。その咆哮が魔石兵を圧倒的な力で吹き飛ばしていく。例え溶かすことが、焼きつくすことができずとも獄炎によって蹴散らすことでメギドは己が主であるアキを守護する。大魔王を守るための獣。それこそがメギドが追い求めた自らの本懐。


(……! やはり魔石兵たちでは相手にならんか……やはりわしが自ら動くしか……)


アスラは目の前の現状を見据えながら自らの見通しが甘かったことを悟る。氷と炎。二人の守護者を突破することは容易ではない。元々ジェロとメギドの能力は一対多数を得意とするもの。エンドレスの加護によって力を得た魔石兵達であれ苦戦は必至。ならば同じ四天魔王である自分が。アスラはそう思考するも


「どうした。考え事をするほど今のお前に余裕があるとは思えんが」


それは音速を優に超えるかのような拳を寸でのところで躱すことによって終わりを告げる。瞬間、拳圧のみでアスラの後方の大地が崩壊していく。戦王であるウタの拳の力。その速度も桁外れ。閃光を凌駕するほどの域。ウタはどこか楽しげな表情を浮かべながらアスラへと間髪いれず迫ってくる。戦闘狂とでもいうべき姿にアスラは舌打ちをしながらすぐさま意識を切り替える。


「調子に乗りおって……片腕を失った貴様などわしの敵ではない! 消え去るがいい!!」


まずは目の前にいるウタを排除する。その後にジェロとメギド。最後にアキ、ハル。単純な答え。アスラは自らの体に無数にちりばめられているDBの力によってウタを迎え撃つ。

爆炎。星屑。流動。空気。大地。樹木。

六星DBと呼ばれる六つの自然の力。エンドレスの力によってかつてのそれを大きく凌駕し、昇華した極み。加えて同時にその全てをアスラは解放する。ダークブリングマスターであっても不可能な奇跡。六つの星が互いに高めあいながらウタを消滅させんと迫るも

ウタの体に一つも届くことなく全ての六星は地へと堕ちた。


「なっ―――!?」


瞬間、アスラはようやく思い出す。ウタの力が何であるかを。その体を覆っている闘気が何であるかを。

『戦気』

戦王であるウタだからこそ持ち得る究極の闘気。単純な強さのみでしかそれを破ることはできない攻防一体の極み。その力の前には六星DBですら無力と化す。


「くっ……!! 出鱈目な奴め……!!」
「ほう、貴様がそれを言うか。魔石王よ」


一端距離をとるべく閃光を纏い、瞬間移動を駆使しながらアスラは動くも、全てを予知したかのようにウタは追い縋る。戦気による高速移動と直感による先読み。反則という言葉すら生温い戦王の力。その前にはどんなに無数の能力があったとしても、どんなに無数の兵士がいたとしても意味はない。強さという質を超えなければウタを打倒することはできない。アスラは初めてその身で知る。ウタこそが自分にとって対極の存在、天敵であるのだと。


「だがそれも過去の話よ。今のわしはエンドレスの加護がある。強さにおいてもわしは貴様を超えたのだ!!」


アスラは両手をウタに向けてかざしながらその力を解き放つ。瞬間、全てを飲みこむような重力の穴が生まれていく。

『引力支配』

シンクレアであるヴァンパイアの極み。今のアスラは全てのシンクレアの能力、極みすら扱える。その力も桁違い。ウタの戦気ですら防ぐことができない究極の一。まして今のウタはアキとの儀式によって片腕を失っている。防ぐことも、躱すこともできない死の一撃。だがアスラは知らなかった。自分がエンドレスの力を手に入れたように


「面白い……ではオレもこの力を試させてもらおう」


ウタもまた新たな力を手にしていたことを。


それは光の腕だった。失われたはずの片腕が確かにそこに存在している。だがかつての腕ではない。再生したわけではない。失われた腕はウタにとっては誉。自分が自分より強い者と戦った、アキと戦った証。

隻腕。それは戦士にとっては致命的な代償。しかしそれに見合う、凌駕するものをウタはアキから知った。強さ以外、自分にとっては不純物でしかなかったものが戦士を大きく強くすることを。

『想いの拳』

自分ではない誰かのために拳を振るうこと。想いの剣と対を為すもう一つの終着点。今、ウタは生まれて初めて自分以外のために、アキのために拳を振るう。自分に新たな強さの可能性を与え、永遠に叶うはずのない夢を叶えてくれた戦友に応えるために。それがウタのこの戦の意味だった。

その一撃がシンクレアの極みすら吹き飛ばし、アスラへと突き刺さる。アスラはただその力にされるがまま。もちろん他のシンクレアも発動させている。

物理無効も。時間逆行による非物理無効も。だがその全てがウタの前には通用しない。ウタが手にした『強さ』の前には無力。


「ふむ……悪くないな」


戦気によって生み出した新たな腕を握りながらウタはアスラへと悠然と近づいて行く。己に足りなかった唯一の強さ、心を手にしたことによってウタは真の戦王へと至ったのだった。


「凄え……!」


ハルは満身創痍の体を剣で支えながらもその光景に目を奪われていた。四天魔王という本来なら自分たちにとって倒さなければならない相手が今、自分たちを守るために戦ってくれている。正確には主であるアキを守るために。エンドレスの加護を得ているはずのアスラの侵攻を阻めるほどの三天の力。だがそんなハルとは対照的にアキは苦渋の表情でそれを見ることしかできない。


(くそ……!! ダメだ……もう戦う力は残ってねえ……このままじゃあいつらも……!!)


アキは手にあるネオ・デカログスの力を込めんとするも握っているだけで精一杯。羅刹剣の後遺症に加え、力のほとんどをアスラに持って行かれてしまっている。これでは戦うこともできない。ハルもそれは同じ。今戦況は互角。にもかかわらずアキは歯を食いしばりながら悔しさを滲ませている。それは


「……無駄なことを。貴様らではわしはおろか魔石兵ですら倒すことはできん。いくら抗ったところでできるのは時間稼ぎだということに何故気づかん」


ウタの拳によって圧倒されながらもアスラは嘲笑うように現実を突きつける。このままいくら抗っても意味はないと。

エンドレスとDB。

いかなる力を以てしても破壊することができない存在。四天魔王であってもそれは絶対。DBでできているアスラと魔石兵はウタ達では倒すことはできない。その証拠にウタの想いの拳であってもアスラの体にはヒビ一つできていない。完全な無傷。ジェロとメギドも同じ。今は抑えていられるが魔石兵は無尽蔵に湧き続ける。いずれはその物量によって圧倒される運命。アスラの言葉は正しい。ウタ達ではアスラを、エンドレスを倒すことはできない。


「…………」


だが三天は誰一人動じることはない。それどころか今まで以上の気迫を以って向かって行く。無意味な特攻でも自暴自棄でもない。明確な目的を以って。

アスラの間違い。それは三天にとっては今の状況、時間稼ぎこそが真の目的であったということ。

そしてついに、その時が訪れた。


「ごめん、二人とも。遅くなっちゃった……」


まるでその場に突然現れたかのように聞き慣れた、聞き覚えのある声がハルとアキに掛けられる。二人は慌てながらその少女に目を向ける。いつもと変わらない優しい笑みを浮かべ、その手に杖を持った姿。


「エリー……! 大丈夫か!? 怪我は……!?」
「大丈夫だよ、ハル。ジークもいたから」


ハルは自分の負傷を気にすることなくエリーへと駆け寄って行くもエリーは笑いながら自身の無事を告げる。その言葉が証明するように隣にはジークが控えている。アキはただそんなエリーの姿に言葉を失うしかない。何故なら四天魔王はエリーを排除するために送りこまれたはず。にもかかわらず何故全くの無傷なのか。いくらジークがいたとしてもあり得ない。そもそも何故この場にジークがいるのか。理解できない事態の連続にアキはただ圧倒されるしかない。


「アキ……よかった。間に合ったんだね。それにいつものアキに戻ってるみたい」
「ああ。もう心配ない。ガラージュ島にいた頃のアキだ」
「そっか……ありがとね、ハル。無茶なお願いしちゃって……」
「いいさ。オレがしたくてしたことだからな」


自分が知る、かつてのアキにアキが戻っていることにエリーはハルが自分との約束を果たしてくれたことを悟る。エリーのこの場に似つかわしくない態度にアキは呆然とするしかない。一体何の話をしているのか。だがアキはすぐさま意識を戦闘へと戻す。何故ならこの瞬間、待ち望んだ唯一の勝機が訪れたのだから。


「っ!! 何訳が分からねえこと言ってやがる!! 早く魔導精霊力でエンドレスを倒すんだ!! 今しかチャンスはねえ!!」


アキはそれを逃すまいと叫ぶ。そう、事情はどうあれエンドレスがいるこの場にエリーが到着した。紛れもない無傷、恐らくは力を消費することもなく。つまりエンドレスを倒すことが可能であるということ。手にしている時空の杖がエリーが魔導精霊力の完全制御が可能なことを証明している。アキは必死の形相で、有無を言わさぬ勢いでエリーへと叫ぶ。そのために、ただそれだけのためにここまでルシアを演じてきた。自分がここまで足掻いてきた理由。だが


「……なるほど。だが貴様がそれをできるか? そこの人形、アキはエンドレスの力で生き長らえている。エンドレスを倒すということはアキを殺すということだぞ」


エリーが、魔導精霊力が目の前に現れたにもかかわらずアスラは、エンドレスは動じることなく言葉によってエリーを追い詰めんとする。アキを人質とし、エリーの魔導精霊力を封じる。そのためにエンドレスは未だにアキとの繋がりを絶たず、延命させていた。奇しくもあり得た未来ではルシアがハルをエンドレスに取り込みそうしたように。しかも今はさらに状況が違う。


「ウタ、ジェロ、メギド……貴様らも分かっておろう。エンドレスを裏切るということはすなわちアキが死ぬということ。あの娘を生かしておけばアキは死ぬのみ。今ならまだ間に合う……魔導精霊力の娘を殺せ。そうすれば貴様らもアキも共に現行世界に導いてやろう」


四天魔王。その内の三天もこの場にいるということ。彼らの目的はアキを救うこと。エンドレスが消滅すればそれは為し得ない。エリーが魔導精霊力を解放すればエンドレスと共にアキもこの世から消滅する。アスラはその矛盾を突き、三天へと囁く。これがエンドレスの策。どんなに抗ったとしてもアキが囚われている限り勝ちは揺るがない。だからこそ誤算はたった一つ。


「……ううん、大丈夫だよアキ。あたし達はアキを助けに来たんだから」


エリーも、三天も、その全てを最初から知っていたということ。この状況こそがかつて『彼女』が待ち望んでいたものだったということ。


「何言ってんだ……今ならエンドレスを倒せる! お前はそのために五十年前から来たんだろ!? なんのためにここまで……今までの全てを無駄にする気か!?」


アキは未だ魔導精霊力をエンドレスに向けようとしないエリーに向かって吠える。今まで何のために戦って来たのかと。全てはこの瞬間のため。エンドレスを倒し、並行世界を救うため。そのためなら自分の命など塵に等しい。否、本来あり得ない存在である自分は塵ですらない。エリーが持つ甘さ。それを知っているからこそアキはエンドレスが真実を明かす前にエリーに攻撃するよう促した。だがそれは間に合わなかった。このままではエンドレスの大破壊が、三天達が再び自分を守るためにエリー達に牙を向いてしまいかねない。アキは気づいてはいなかった。エリーの言葉が、行動が甘さではないことを。


「うん。分かってる……でもあたしが受け継いだのは魔導精霊力だけじゃないの」


アキの言葉を全て理解しながらもエリーはただ言葉を繋ぐ。まるでアキに言い聞かせるように。自分に言い聞かせるように。

エリーの脳裏に蘇る。五十年前から今に至るまで、魔導精霊力をこの瞬間にまで繋ぐために多くの人が犠牲になったことを。


シバが。蒼天四戦士が。カームが。


その想いこそが、信じる力こそが受け継がれてきた真の力。


「この力は……みんなが未来に繋げてくれたもの。信じる力だから」


だからこそエリーは決意した。この力を、自分を信じてくれた人達の力を使うことを。自分ではなく、誰かのために。自分に全てを託してくれた彼女に応えるために。

エリーはそのまま目を閉じながら自らの杖をアキが持つ剣へと重ねる。第十の剣。アキにしか持ち得ない、アキの本当の心を形にした魔剣。時空の剣という時空の杖と対となる形態を持つ剣と杖が一つになる。


「教えて、アキ……アキは何を願うの?」


優しく、包み込むようなエリーの問いがアキを包み込んでいく。まるで違う世界に迷い込んでしまったような浮遊感。得もしれない感覚に囚われながらもアキはいつかの時を思い出していた。同じように、自分がこの世界に来た場所で誰かが同じことを聞いてきた。

『どんな願いでも一つだけ叶える』

そんな夢のような、あり得ないお伽噺。あまりにも胡散臭くて本気で受け取らなかった誰かの言葉。それが今、ようやくアキの中に浸透していく。


「俺は……」


アキはその先を口にすることはない。もはや口にするまでもない。ハルとの戦いによってアキはその願いにようやく辿り着いた。取るに足らない願い事。だが今のアキにとってはどんな願いよりも大切なもの。アキがそれを想い浮かべた瞬間

まばゆい光が時空の杖を、アキの体を包み込んだ――――


「なっ―――!? これは――――!?」


それはアスラとエンドレスだけの驚き。ハルも、ジークも、三天すらもその光景をただ見守っているだけ。この瞬間こそが待ち望んでいた、彼らの目指すものなのだから。

アキはただ自分が生まれ変わるような感覚に襲われていた。時空の杖から、ネオ・デカログスからエンドレスではない力が流れ込んでくる。その光を、力をアキは何度も目にしている。魔導精霊力。それがまるで自分を包み込むように流れ込んでくる。そのつながりを、魂を取り戻すかのように。

その意味にエンドレスが瞬時に気づく。エリーがまさに魔導精霊力を使ってアキの魂を救おうとしているのだと。そのつながりをエンドレスから絶ち、新たな繋がりを以って為そうとしていることを。魔導精霊力とエンドレスは対を為すもの。エンドレスにできることは逆を言えば魔導精霊力にも可能。それこそがエリーの、エリー達の狙い。だがこれは今だからこそできる方法。

全てのシンクレアが一つとなり、エンドレスとなった今だからこそ。でなければアキとエンドレスの繋がりを完全に奪うことはできない。

アキが自分の本当の願いを取り戻した今だからこそ。アキ自身の意志がなければエンドレスの呪縛から逃れることはできない。

エンドレスはすぐさま力で対抗しようとするも間に合わない。力の大半をアスラに移してしまっていたこと。担い手の願いを叶えるという契約という名の縛りの残滓。何よりもあまりにも理解できない行動であるが故。当たり前だ。まさかこんなことのために、アキ一人を助けるために魔導精霊力を無駄に消費するなどエンドレスには到底理解できない愚策だった。今この瞬間、アキはエンドレスからの繋がりから解放された。だが


「うう……!! まだ、まだ……!!」


エリーは苦悶の表情を浮かべながら時空の杖に魔導精霊力を注ぎ込む。その量は先の比ではない。辺り全てが光によって見えなくなるほどの、時空を歪みかねない魔力が荒れ狂う。全てがアキ、その中のエンドレスの繋がりへと注ぎこまれていく。もはやアキの魂を繋ぎとめた以上、それ以上魔導精霊力を使う意味はない。だがエリーは己の全ての魔導精霊力を解放し、綱渡りをするかのようにその先を目指す。


「…………ママさん」


ぽつりと、漏らすような、かき消えるような声でエリーはその名を口にする。エリーだけが呼ぶ、彼女の呼び名。

エリーは思い出す。彼女と共に過ごした日々を。自分に負けず劣らずのはちゃめちゃさ。DB、シンクレアという人ではない存在。自分にとっては心を許してはならない、敵である相手。だがエリーにとってはそうではなかった。

短い間であっても共に笑い、共に泣き、共に同じ人に惹かれた相手。その日々を覚えている。人間と同じように、人間以上に人としての心を持っていた存在。

星跡の洞窟での争い。その後、アキがやってくるまでの間に彼女はエリーに全てを明かした。自分が遠からず消えることを。それによってアキがどうなるかを。その全てを彼女は知っていた。

だが自らの運命に嘆くことはなく、憂うのはただ主であるアキのことだけだった。ただアキを助けてやってほしい、と。魔導精霊力を持つエリーならばそれができると。その結果自分がどうなるかを全て知った上で。


「ママさん――――!!」


エリーは名を呼びながら自らの魔力で彼女を救わんとする。取り戻さんとする。彼女は一言も自分を助けてほしいとは言わなかった。約束はアキを助けることだけ。それは既に果たされた。無駄であり、無意味かもしれない足掻き。しかしそれはあまりにも危険な賭け。


『――――無駄なことを』


瞬間、純白の光の中に紫の光が混じり始める。魔導精霊力ではない、エンドレスの光。エリーがその力を注ぎ、挑んでいるのはエンドレスの内側。先のアキの中ではない、エンドレスそのもの。その力によって均衡は崩れ、魔導精霊力はエンドレスに飲み込まれ始める。それを示すようにエリーの体にすらエンドレスの力が逆流し、激痛を与えて行く。全力の魔導精霊力とエンドレスの力のせめぎ合いによって時空の杖には無数のヒビが入り、砕け散らんとしている。


「やめろエリー!! このままじゃお前が死んじまうぞ!?」


アキはエリーがこのままでは危険であることを察し、自ら繋がりの起点となっている魔剣を外さんとするもエリーの杖は決してそれを離さない。それこそが自分の覚悟だと示すように。


「絶対に……絶対に助けて見せる……!! 絶対にもう……誰も失ったりしない……!!」


目に涙をため、歯を食いしばりながらエリーはただ抗う。その脳裏にはかつての彼女の姿がある。

自分とアキしか知らない存在。それでも確かに存在した。こうなることは分かっていた。使命を果たすならするべきではない愚策。

アキさえも見捨てればきっとエンドレスを倒すことはできる。でもそれは今までと変わらない。誰かを犠牲にすることで手にする平和。救い。それをこれまで自分はただ見ているだけだった。自分のために、世界のために命を失って行く大切な人達。でもあきらめられなかった。あきらめたくなかった。

二つの力の衝突によって時空の歪すら生じる。数多ある並行世界。あり得た可能性。過去未来。その中にあるもう一つの自分。

今この世界にいるはずのない人々。自分を救うために、時の番人としての一生を終えたもう一人の誰か。もう二度と同じことを繰り返さないために。

友達との約束を果たすために。友達を助けるために。

信念を持ちながらも、ついにエリーが、魔導精霊力がエンドレスに取り込まれんとしたその瞬間


『全く……見てられないわねー。やるならもっとスマートにやりなさいよねー』


そんな、どこか面倒臭気、気が抜けるような声がアキとエリーの頭に響き渡った。


「え……?」


二人はまるで狐につままれたように呆然とするしかない。エリーの驚きは声だけでなく、自分の杖が急に軽くなったから。正確には自分に襲いかからんとしていたエンドレスの力がまるでせき止められてしまったかのように収まってしまったから。その意味をアキだけは知っていた。


「バルドル……なのか……?」
『本当なら黙って見てるつもりだったんだけどしょうがないわねー。あ、でも勘違いしないでね。あたしはマザーが好きだから協力してあげただけよ。覚えておいてね?』

シンクレアを統べるシンクレア 『バルドル』

いつかと、いつもと変わらない調子であっけらかんとバルドルはアキへと話しかけてくる。まるで裏切りがあってから見せていた猫かぶりがなくなったかのようにバルドルは何も変わっていない。今、エンドレスの力が封じられているのは紛れもない彼女の力。かつて星跡の洞窟で見せた能力の再現。


『ん? 調停者としての役割はどこに行ったのかって? そんなの初めからないようなもんよ。あきらめなさい、ヴァンパイア。やっぱりこの世は愛なのよ、愛!』


アキでもエリーでもなく独り言のようにバルドルはヴァンパイアへと告げる。微かにヴァンパイアのヒステリックな声が聞こえるもすぐに聞こえなくなっていく。バルドルもまた同じ。最後のおせっかいが終わったかのように消えて行く間際。


『あ、一つ言い忘れてたわ。マザーだけじゃなくてちゃんとジェロにも優しくしてあげなさいよー。あれで純粋な娘なんだから、約束よ♪』


忘れるところだったと一言つけたしながら今度こそ完全にバルドルは消えて行く。瞬間、拮抗を破った魔導精霊力が一気に辺りを照らし出した――――



「う…………」


ようやく夢から醒めたようにアキは目をこすりながら辺りを見渡す。そこには変わらない星の記憶と最終決戦のさなか。先の声ややりとりは幻だったのでは。そんな疑問に襲われるもアキはようやく気づく。エリーの右手。そこに先程まではなかった何かがあることに。

アキはただ息を飲んだままエリーの掌の上にあるそれに目を奪われる。小さな、剣十字を模したような石。見間違えようがない、十年以上自分と共に在り続けた魔石。


「……マザー?」


その名を呼ぶ。エンドレスが完成してから決して口にすることがなかった言葉。口にすることで現実を認めてしまう恐れで口にすることができなかったもの。だがいつまでたっても返事が返ってくることはない。それがいつまで続いたのか


「まったく……我以外の誰に見えるというのだ? とうとう頭までおかしくなったのか、我が主様よ?」


やれやれといった風に、感慨も何もなくいつも通りのマザーの声がアキに向かってかけられる。まるで何年も聞いていなかったような錯覚に陥りながらもアキは確信する。この唯我独尊、自分を苛立たせるしゃべり方、言葉。間違いなくこの石が自分のマザーであることに。


「な、何言ってやがる!? 俺は正常だ! てめえこそ一体どういうつもりだ!? しゃべれるならさっさと返事しろよ!?」
「いやなに、感動の再会でも演出しようかと思ったのだがお主の顔を見て呆れてしまってな。ちょっと見ない間に酷い顔になっておるではないか。泣いてしまうほどに寂しかったわけか」
「っ!? な、泣いてなんかねえ!! これはお前があまりにいつも通りだから呆れて出ちまっただけだ!」
「くくく……まあそういうことにしておいてやろう……だが情けない、やはり我がいなければお主は何にもできんのだからな」


久しぶりの再会も何のその。マザーはいつもと変わらない調子で情けない主をからかうだけ。アキもまたそれにいつものように食ってかかって行くだけ。だがようやくアキは気づく。そのやり取りにどこか既視感があることを。それはかつてウタとの儀式で自分が生き返った際のやり取り。立場が逆になっているもののその内容は全く同じ。マザーなりの再会の演出、もといかつての意趣返しだった。


「さて……どうやら随分無茶をしたようじゃの。エリー」


マザーはそのまま座り込んでしまっているエリーに向かって話しかける。そこで初めてアキはマザーの声が自分以外の者たちにも聞こえていることに気づくも声に出すことはない。


「うん……でもよかった。ママさんも……一緒に助けられて……」


それはエリーのあまりにも疲労した様子とその手にあった時空の杖であったもの。エリーは息も絶え絶え、体中が汗で滲み、目を虚ろ。まるで全ての力を使い果たしてしまったかのよう。それを証明するように時空の杖は跡形もなく粉々に砕け散ってしまっている。全力の魔導精霊力を使用してしまった証。


「まったく……いくらアキを助けられたとしてもお主が死んでしまえば何の意味もないのだぞ」
「ふふっ……だからそれは……ママさんの役目でしょ? あたしは約束したよ。『アキを助ける』って……ね? 何にもおかしくないでしょ?」
「ふん……もしバルドルの奴がお節介を焼かなければ全てが台無しだったのだが……まあよい。済まぬな、エリー……全てお主に押しつけてしまった」


マザーはただエリーに感謝の言葉を述べる。本来ならエリーの魔導精霊力でアキを救いだし、そのままエンドレスを倒す計画。もっともアキを救うために魔導精霊力を消費してしまうためエンドレスに対して不利にもなってしまう諸刃の剣でもあったのだがエリーはそれすらも超えた博打に臨んだ。アキだけではなく、マザーすらもエンドレスから奪い返すこと。もし失敗すれば全てが終わってしまうほど危険な賭け。だがエリーは見事それを成し遂げた。バルドルの助けはあったものの、間違いなくエリーの為した奇跡。


「受け取って……アキ。これが新しい……アキのための、アキだけのママさんだよ」


エリーは疲労によって意識を失いそうになりながらも笑みを浮かべマザーをアキへ手渡す。そこにはかつて果たせなかった約束の想いがあった。


五十年前、シバと約束したにもかかわらず自らの手でレイヴを手渡すことができなかった後悔。だからこそ今度こそ、自分の手で。その想いを感じながらアキはついに新たなマザーを手にする。瞬間、凄まじい力がアキを巡って行く。


かつてのエンドレスの力を持つシンクレアではない。エンドレスだけでなく、魔導精霊力の力も併せ持つ、新しい魔石。アキの魂を繋ぎとめる役目を持つもの。DBでもレイヴでもない。アキにしか扱えない、アキだけの力。


『マザーブリング』


母の名を冠する魔石が今、アキの手に渡った。同時にそれはこの世界に来てから初めてアキがエンドレスの呪縛から解放された瞬間だった。


「……ありがとな、エリー」
「うん……もう二度となくしたらダメだからね」


力強くマザーを握りしめながらアキはエリーへと感謝を告げる。エリーはそれに満足し、安心したかのように目を閉じてしまう。魔導精霊力を解放した疲労によるもの。ハルはそれを抱きとめ、静かに地面へと横たわせる。役目を果たしたエリーを労わるように。


「うむ……そういえば忘れておったわ。アキよ、お主に届けものがあったぞ」
「届けもの……?」
「何でも直接渡すのは憚られたらしい。全く、あやつらしいと言えばあやつらしいが……」


マザーの言葉の意味を問うまでもなく、その届けものがアキの体を包み込んでいく。それだけではない。同じくハルに向かっても力は広がって行く。時間逆行という奇跡。マザーに託された一度限りの純粋な再生。傷だけでなく、体力すらも回復させる神秘。


『――――ご武運を』


そんなアナスタシスの声が確かにアキの心に届く。偽りとはいえ主を欺いたことを恥じ、姿を見せることはなかった誰よりも情に厚いシンクレア。


「さて……ここまでお膳立てが揃ったのだ。後はお主が男を見せるだけよ。まさかこの期に及んで逃げ出したりはせんだろうな?」
「ほざいてろ……てめえこそもう一度エンドレスの中に放り込むぞ」


アキはマザーをネオ・デカログスにはめ込みながらも思い出していた。かつての自分なら戦うことを恐れて逃げ回っていただろう。戦いが嫌いなことは今も変わらない。でも今、自分はこの場に立っている。誰のせいでもない、自分の意志で。自分を想ってくれる全ての人達に応えるために。


「……行くぞ、マザー」
『……ふん! よい。では往くとしようか、我が主様よ』


自らの剣で輝いている小さな魔石。マザーと共にいればどんな相手でも負けることはない。そんな子供じみた意地だけだった――――



『―――――!!』


瞬間、エンドレスが声にならない咆哮を上げる。もはや言葉という体裁を繕う手間すらも省いた純粋な咆哮。自らの命の危機を悟ったが故の行動。この世の物とは思えないような絶叫と共にエンドレスの形が大きく変化していく。球体からかつての人型へ。大破壊ではなく、ただ目の前の障害を排除するために。それを行えば、大破壊は行えず並行世界を消滅させることができないにも関わらず。いわば最終手段。例え並行世界の消滅ができず、自らが消滅しようともアキ達を排除する。

既に魔導精霊力は消え去った。エンドレスは力を奪われたものの健在。それだけであればここまで焦ることはない。勝利はエンドレスのもの。だが魔導精霊力は、エリーは代償として希望を残した。もう一つの、レイヴでも、DBでもない新たな力を。

ダークブリングマスターであるアキとレイヴマスターであるハル。どちらか片方だけなら力を奪われたエンドレスといえども恐れるに足らない。だがその例外が今、起こりつつある。

ダークブリングマスターとレイヴマスター。本来なら敵対する力の持ち主同士。光と闇。決して交わることがない二つの軌跡が交差する時が。

それに呼応するようにアスラが、魔石兵が残る全ての力を以って二人を排除せんと迫るもその全てが届かない。

『獄炎』 『絶望』 『戦王』

三つの頂きが新たに生まれ変わった、力を取り戻した大魔王に鼓舞されたかのように力を増しながら眼前の敵を葬って行く。大魔王を守護する、共に戦うという待ちわびた瞬間。この世に生まれ落ちてから待ち続けた自らが生まれた意味を果たすために三天は大魔王の道を作る。

だがそこまで。自ら動き出したエンドレスを止めることは三天には叶わない。大破壊に用いられるはずだった力を以ってエンドレスはアキとハルを消滅させんとするも見えない力が働いたかのようにその動きは止まってしまう。

『時の番人 ジークハルト』によって。


「行け、ハル、アキ。全ての時のために――――!!」


ジークはその手から己の最高の魔法である七星剣によってエンドレスの動きを封じ込める。それはかつての七星剣ではない。一年前、覆面の男としてこの時代に戻ってから極めたジークだけの奥義。古代禁呪すら超えた時空魔法。現行世界の意志であるクロノスだからこそ可能なもの。星の記憶で放たれるそれはエンドレスの動きを一瞬とはいえ封じることができるもの。ジークはただ己の想いを込めた魔法でそれを為す。エリーを守るという誓い。それに繋がる世界を守るために。例え世界が違ったとしても変わらない永遠の誓い。

自分たちの道を作り出してくれた者達の想いを感じながら、アキはその剣に己が全ての力を込める。


『魔剣 ダークマザー』

母の名を冠する自分だけの第十の剣。その名を持つ自らの半身、相棒もまた共にある。力が魔剣から溢れだす。マザーの、アキのマスターとして力を闇の力に変換すること。単純であるがゆえに究極である魔剣の奥義。


『聖剣 レイヴェルト』

魔剣と対を為す、ハルの、ハルだけの剣。世界の平和を願った頂き。同じ名を冠するレイヴもまたハルの手にある。その奥義はレイヴの、ハルのマスターとしての力を光に変換すること。対を為すがゆえに全くダークマザーと同じ能力。違うのは属性のみ。


鏡合わせのように、剣を肩に担ぎ、構えながらアキとハルの心境は全く同じだった。

一年以上前。エクスペリメントでエリーが魔導精霊力を暴走させてしまった時。その時にあった共闘。それと同じことが今、ここに再現されている。だがそれは同じではなかった。もはやアキはルシアを演じることはない。嘘の仮面を被る必要もない。

ただ互いの想いの剣を合わせることだけ。


「行くぞ、アキ――――!!」
「――――ああ!!」


あの時とは逆のやり取りを合図に魔石使いと聖石使いは互いの至高の剣を振り下ろす。瞬間、白と黒、光と闇の輝きが真っ直ぐに津波のように終わり亡き者に向かって放たれる。本来なら相反する力、破魔と魔が一つになり、高まり合いながら混沌となり全てを消し去って行く。


『剣と魔法はいずれ一つになる』


かつてハルがジークと共にした誓い。例え対極のものであっても分かり会える。光と闇でも、レイヴマスターとダークブリングマスターもきっと同じであると。

今、その誓いが、願いが形となる。アキとハル。シンフォニアとレアグローブ。レイヴとDB。全てが対であった二人であっても同じ方向を向きながら未来を掴むために。


それがこの長くに渡る戦いの終わり。並行世界を巡る石の戦争の終結だった――――




「…………終わった、のか……?」
「……ああ、オレ達の勝ちだ!!」


どこか心非ずといったアキとは対照的にハルはガッツポーズを取りながらアキへと笑いかける。互いに全ての力を出し尽くした後にも関わらずこの差は一体何なのか。精神的な疲労の差か、年の差か。アキはそのまま為す術もなく地面へと座り込む。もうここからはしばらく動かないとばかりの様。


「情けない……せっかくいいところを見せたというのに台無しではないか」
「うるせえよ……俺がヘタレなのは今も昔も一緒だ。てめえが一番よく知ってるだろうが」
「ふむ、そうであったな……まあよい。間違いなくエンドレスは消え去った。アスラも魔石兵も砕け散っておる。もはや疑いようはない」
「そうか……やっと、終わったんだな……」


アキはまるで夢を見ているような現実感のなさを感じながら己が手にあるマザーとネオ・デカログスを見る。これが夢ではない何よりも証。自分が持っている他のDBも全て無事。マザーの加護を受けていたDB達もまたその影響によって生まれ変わったのだろう。文句なしの、これ以上にない大団円。一人では決して為し得なかった結末。

今まで誰にも頼ることなく、自分だけで動くだけでは得られなかったもの。一人ではなく二人でなら、二人でダメならさらに多くの仲間達の力で。誰かを信じ、助け合う心。それこそがアキに最も足りなかった、欠けていたもの。だがそれは今、埋まった。マザーが、バルドルが、アナスタシスが、四天魔王が、ハルが、エリーが自分を信じ、力を貸してくれたおかげで。


「エリー……目が覚めたのか?」
「ん……」


ようやく目覚めたエリーに向かってハルはそのまま慌てて駆け寄って行く。そんなハルの姿にアキは苦笑いするしかない。このままこの場にいては空気が読めないと言われかねない。戦闘が終わったため、四天魔王、今は三天になってしまった魔王達も自分の元に集まらんとしている。同時にこの場にはいない、戦場から排除したムジカ達のことをどうするべきか悩むもアキは溜息を吐くしかない。もはや弁明の余地はない。なるようになるだろうと。だがそんなアキの悩みは一瞬で消え去ってしまう。


「…………あなたたち、誰……ですか?」


そんなエリーの、嘘偽りのない問いによって。


それがこの戦いの結末。五十年の時を超え、並行世界を、数えきれない人々を救った少女。リーシャがかつてレイヴを作り出したことで消えてしまったように。エリーもまた、マザーを生み出したことで消え去ってしまった。ただそれだけ。


「エリー…………」


アキも、マザーも、ジークも誰一人それ以上言葉を発することはない。ハルはただ、口をつぐんだまま。表情をアキは伺い知ることはできない。


この日、世界中に散らばる全てのDBが砕け散った。

0067年9月9日 レイヴとDBによる石の戦争はここに幕を下ろす。

人々はこれから訪れるであろう平和に歓喜した。たくさんの傷跡を抱えながら。

平和への代償は大きかったのか。小さかったのか。その答えも分からぬまま時が過ぎて行く。


そして一年の月日が流れた――――


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