「遅いよアキ、どこ行ってたの?」
「どこでもいいだろ……」
「よくない、あたしもママさんも心配してたんだから! ね、ママさん!」
ぱたぱたとまるで無邪気な子供のように騒ぎながら金髪の少女、エリーがアキへと詰め寄って行く。元気が有り余っているかのようなオーラを発しながら迫って来るエリーの姿にアキは溜息を吐きながらも押されっぱなし。既に同居し始めて一年以上になるというのにアキはまだこのエリーの騒がしさ、天然さには振り回されっぱなしだった。
「あ、おかえり、イーちゃん、ハーちゃん! 新しい雑誌買って来たの! 試してみよう! きっと似合うよ!」
「ちょっと待て、お前また勝手に出歩いたのか!?」
「大丈夫だよ、ちゃんとママさんに着いてきてもらったもん」
「余計問題があるわっ!? お前狙われてるって自覚ねーのかよっ!?」
「えー? だってその時はアキが守ってくれるんでしょ?」
「う……そ、それは……まあそうだが……」
「よし! じゃあさっそく始めよう! ママさんも一緒にする? うん、ちゃんとママさんに似合いそうなものも載ってるよ!」
「………はぁ」
アキの必死の抗議もなんのその。持ち前の明るさ、天然さを振りまきながらエリーはアキから二つのDBを強引に奪った後、買って来たらしい雑誌を前にしてキャッキャと騒ぎ出してしまう。既に男が入り込むことができない女の子空間が形成されている。そこに割って入ることもできずアキはがっくりと肩を落としながらも近くの椅子に腰を下ろす。
はあ……どうも、アキです。ダークブリングマスターです。元気です。元気ではあるのですが何というか……精神的疲労がたまっています。もちろん先程のレイナとの接触もそうなのだが一番は言うまでもなく目の前の少女、いや光景にあります。エリーです。はい、間違いなくあのエリーなんです。原作のヒロインでもあり。最重要人物でもある存在。ある意味もっとも接触してはいけない少女が今、目の前にいます。しかも何故かDBたちと楽しそうに遊んでいます。心なしかDBたちも楽しそうです。うんうん、仲良きことはいいことかな……ってんなわけねえだろがあああああっ!? 何っ!? 何なのこの状況っ!? 何でエリーがここにいてしかもDBと楽しそうに交流してるわけっ!? しかもその中一つはシンクレア、悪の親玉ですよ!? なんでそいつと仲良くなっちゃってんのっ!? エリーさん、あんたそいつを倒すために五十年の時間を超えてきたんでしょうっ!? もう何か全部台無しだよ! リーシャの意志も、シバの決意も、ジークの願いもなんか全てを台無しにしちまってるんじゃないかっ!? い、いや……リーシャじゃなくて今はエリー、記憶を失ってるから仕方ないことなのかもしれんが……待てよ、となるとあれか? やっぱこれって俺のせい? ははっ、分かってます。俺のせいでこんなことになっちまったのは……ちょっと現実逃避したくなっただけです。ふう……とにかく落ち着こう。焦ったって仕方ない。というか焦ったからといってこの状況がどうにかなるわけじゃないんだから。どうにかなるんだったらいくらでも焦ってやるよこんちくしょう……
それはともかく……もう少し静かに遊べないのか。騒がしい声がめちゃくちゃ耳障りなんですけど。もっともうるさいのはエリーだけだが。マザーたちもそれに振り回されているようなもんだろう。まあ楽しんでるのは違いないだろうが……一応あいつらも性別は女だし、イリュージョンとハイドは少女だから気は合うのかもしれん。あの……エリーさん? その遊びは個人的にはやめてほしいんですけど……主に俺のDB観を守るために。あ、ダメ? 可愛いからいいって? そうですか、可愛いは正義なんですね、分かります。エリーの他に一人の女性と二人の少女の姿が見えるような気がするが気のせいだろう。俺には何も見えていない、うん。何か俺の地位が、威厳が全くなくなってしまっているような気がする。もっとも初めからそんなもの無かったのかもしれんがここのところそれが顕著だ。一応俺、マスターなんだけど……何かエリーの方が慕われてない? 気のせいかな……あれ? なんか涙が出てきそう、何だろう、別にDBマスターになりたくてなったわけじゃないのに何でこんなに敗北感があるんだろうか……ん? 師匠? 何かあったのかって? い、いえ……特になにも……え? 何か悩みがあるんなら言ってみろって? そ、そんな……大丈夫です! その心遣いだけ十分です! ありがとうございます! ふう、流石は師匠……貫録がぱねえ……師匠がいればこの追いやられつつある我が家(?)のパワーバランスの中でもくじけずやっていけるような気がする! よし、とりあえず気を取り直しつつ現状を確認することにしよう!
今、俺はエリーと同居しています。だいたい一年くらい前からかな。なんか同居って言うと語弊があるかもしれん。正確には保護だな、うん。決してやましいことはしてません! っていうかできるわけねえだろっ!? だってヒロインですよっ!? ハルの相手ですよっ!? 手を出したらどんなことになるか想像もしたくない……原作崩壊ってレベルじゃないっつーの……まあ確かに可愛いし、スタイルもいいのだが……っ!? っといかんいかん! 俺にはカトレア姉さんという心に決めた人がいるんだ! ふう……まったく危ないところだった。流石はヒロインといったところか。そういえば本物のルシアも惚れてたみたいだし、シバ、ジークも含めれば四人の男性に惚れられてたってことか……半端ない。気をつけておかねば俺もいつの間にか……なんてことになりかねん。早くこの厄介者(爆弾的な意味で)をハルのところに押し付け……ゴホンッ、送り届けなければ! しかしすぐにどうにかできる問題ではなかった。何故ならハルはレイヴマスターになるのは今から約一年後。できる限り原作に近い形で修正を図りたい。っていうか無理やりにでも修正して見せる! そのままエリーをガラージュ島に置いてこようかとも思ったがそんなことしてエリーだけが記憶探しの旅に、もしくはハルがレイヴマスターになる前に島を出られでもしたらどうしようもなくなる。結局俺が面倒を見るしかないという結論に達したわけだ。
でも最初は色々考えた。予想外だったとはいえエリーと出会うことができたのだ。そう、魔導精霊力というシンクレアを、エンドレスを倒す力を持つエリーと! ならエリーの記憶を戻し、原作の流れを無視してでもシンクレアを倒してもらうという手もあった。だがそれはかなりのリスクを伴う。何が起こるか分からんし、原作知識も全く当てにならんほどむちゃくちゃな流れになるだろう。だが原作通りに進めるよりも遥かに早く解決できる可能性もある。様々なリスクを考えながらも結局俺は………
できるだけ原作寄りに行動する道を選んだ。ヘタレと言われても構わん! だが不安要素もあった。それはエリーが一人で記憶探しの旅に行ってしまうのではないかということ。原作でもハルと出会うまでは一年間、旅をしてたみたいだしそうなっちまってもおかしくない。その際には悪いが監視をさせてもらいながら警護するしかない。何かストーカーみたいだが仕方ない。その汚名を被る覚悟だった。だが予想外にエリーは旅に出かける気配も、一人で遠くに行く様子も見せなかった。こちらとしては助かるのだが何だがおかしい。確かにエリーは俺が記憶の手掛かりを知っていると思っている(実際手掛かりどころか全部知っているのだが)のでそれが理由なのかもしれんがそれにしても一年以上経つのだから別の手掛かりを探そうとしてもおかしくないはずなのだが……うむ、DBたちとも仲良くなったし、居心地がよくなったのかもしれんな。それはそれで問題があるのだが……あ、それとエリーがDBたちと話せているのはマザーが生み出したDBのおかげです。DBの声が聞こえるようになるDB。何か自分で言ってて何言ってるのか分からなくなりそうな能力だ。エリーと暮らし始めた当初、俺はDBのことは秘密にするつもりだった。当たり前だ。エリーにとってDBはまさしく倒すべき敵。いや、正確にはエンドレスという名のDBを倒すためにリーシャとしての人生を捨てて、文字通り死んでまでこの時代にやってきたのだから。なによりもDBと、シンクレアと接触させたくなかった。マザーには何だかんだ言い訳してエリーと同居する許可を得た(ほとんど無理やり) だがマザーはめちゃくちゃ怪しんでいた。言うまでもなくそれはエリーの容姿。髪が短い以外はどうみてもリーシャそのまま……っていうか本人だから当然なのだが……
そしてエリー自身の問題。魔導精霊力という名の世界を破壊しかねない魔力を持っているという問題。冗談でも何でもなくそれだけの力がエリーにはあった。しかも制御の仕方を覚えていないと言うおまけ付き。もしマザーに狙われたり、感情の高ぶりで暴走でもすればゲームオーバー。世界が消滅すると言う無理ゲーを押しつけられてしまったようなものだった……ま、まあ対策を講じてはいるのだがそれでも危険なことには変わりない。
あれ……? 何で俺こんな目にあってんだろう……? 状況が良くなるどころか悪化してばっかりなんだけど? マザーだけでも手を焼いてんのに何でエリーまで追加されてんの? このセットとかなんの嫌がらせ? 世界滅亡セットなんて誰も頼んでないんだけど、割とマジでしゃれになってないっすよ……? 返品はどこにすればいいんですか?
ま、まあ今のところは問題なく生活できている。というかなじみすぎていて怖いぐらいです。エリーさん、マジで順応力半端ないです。俺の代わりにDBマスターになってくれません? マジで。ははっ、やっぱ無理ですよねーっていうか三代目レイヴマスターらしいし……っていうか結局三代目ってどういう意味だったわけ? まあそれはともかくエリーにはDBマスターだということはバレてしまいました。マザーと隠れて話しているところを目撃されてしまったのが原因で。その瞬間、俺は血の気が引く思いだった。バレてしまったこともだがそれでエリーがどんな反応を示すか分からない。何かのはずみで記憶が一時的に戻ったりでもすればどうなるか。マザーに気取られないように臨戦態勢で身構えていたのだが
『すごーい! アキ、この石と話してたの? あたしも話してみたい♪』
そんな予想の斜め上を行くエリーの喜びの声によって全て台無しになってしまった。よく考えればエリーは記憶喪失。DBのこともシンクレアのことも知らない、覚えていない。そして天然の、好奇心の塊のようなエリーにとってはDBと話している俺の姿は面白そうに見えて仕方なかったらしい。あとDBがほんとは虫だと思うとか訳が分からないことを言っていたが全部スルーした。俺としてはバレなかったのを喜ぶべきか、悲しむべきか分からない状況。しかもマザーがDBの声が聞こえるDBを勝手に作ってエリーに渡すというめちゃくちゃなことまでする始末。(もっともマザーとしてはエリーの正体を探りたいとう意図もあったのだが)もっともそのDB自体は通信機のようなもので意志もなく、使っても汚染されるような代物ではなかったのが唯一の救いだったのだが……うん、やっぱエリーにDBを使わせてしまっているのは罪悪感というか、申し訳なさがある。一応DBは良くない物だとやんわりと忠告はしたのだがまったく聞く耳を持ってくれない。まあ会話できるようになったせいで余計にそうなってしまっているようだが……
それもこれも全ての原因は奴にあると言っていい。そう、時の番人ジークハルト。それが全ての始まりであり、そしてこの事態を引き起こす原因だった。
それはおよそ一年以上前。俺はDCとも非公式だが協力関係を取り付け、一息をつくことができた時期だった。目下の問題である六星DBの問題、そして生活費の問題も解決することができたのだから。小さないざこざや問題は残ってはいたもののとりあえずは大きな峠は越えることができた。あとはハルがレイヴマスターとなり原作が始まる時期まで身を隠し情報を得ながら第一部、キングが死ぬまでは表舞台には上がらない。力を蓄える予定だった。何か力を蓄えようとしてる時点で色々おかしい様な気もするが生きるためだから仕方ない。できる限り人との、特に原作キャラとの接触を避けるのが俺の計画だった。そう……だった。それは空しくも一瞬で砕け散ることになる。
突如現れた蒼い髪をした男の登場によって。まるでそれは死神を連想させるような圧倒的存在感。白いコートに顔に刻まれたタトゥー。そして殺気。まるでゲームでいきなり四天王に出会ってしまったかのような緊張感が、寒気が俺に襲いかかってきた。
あれー? おっかしいなー……気のせいかな? なんか目の前にどっかで見たことあるような人がいるんですけど……? うん、ジークだ。間違いなくジークハルトだ。実物を見るのは初めてだが一目で分かった! すげえな……めちゃくちゃイケメンじゃん……やっぱ原作キャラは違うよなーここは一つサインでも……ってちょっと待てえええええっ!? は!? な、ななな何でこないな場所にジークはんがいらっしゃるんですかっ!? しかも何故にそんな今にも襲いかかってきそうな恐ろしい雰囲気を纏いながらっ!? え? え? も、もしかして、もしかして……
この時のことはよく覚えていない。どうやら極限状態に近い状態で記憶が混乱していたらしい。だがそんな中でも本能という名の直感が告げていた。目の前の男、ジークハルトが間違いなく自分を殺しに来たのだと。
それからはひたすらに雷だった。いや、魔法の嵐だった。しかもどれも当たれば即死級の一撃。手加減なしの全力全開。俺はそれを必死にイリュージョンとワープロードを使いながら躱し続けることしかできなかった……え? 何で戦わないのかって? ふざけんなっ!? 相手は六祈将軍と互角の力を持つ大魔導士ですよっ!? 勝てるわけねえだろっ!? こちとらザコ級の相手としか実戦したことねえんだぞっ!? それがいきなりジークとタイマン!? 何の冗談っ!? しかもマザーが反撃をしようと、ジークを消し去ろうとしてるのを抑えるだけで精一杯だったっつーの!?
いきなりの襲撃に驚きながらも命からがらその場からは逃げ出すことができた。どうやら金髪の悪魔である俺を追って来たらしい。ま、まさかそんな展開になるなんて……確か原作ではキングの命を、そして魔導精霊力の研究施設を狙っていたはず。そこにめでたく俺も追加されることになったらしい……もはや涙も流れない程の状況。狙われるだけでもあれなのだがそれ以上にマザーを抑えることが一番厄介だ。一応俺の身を守ろうとしてくれているので文句は言えないがそれでもジークに手を出すわけにはいかない。ジークはRAVEにおいて最も重要とも言える役目を負っているのだから。もし殺してしまいでもしたら取り返しがつかない。そのままバッドエンド直行になりかねない。もしかしたら絶対に役目を果たすまでは死なないようになっているのかもしれないが実際にリーシャの墓にある骸骨を見たわけではないので確証がない。もしかしたら俺がいることでそれが変わってしまう可能性もある。とりあえず俺は逃げ回るしかなかった。イリュージョンとワープロードのおかげで逃げるのは得意になっている。流石俺。まさに先を見通したかのような人選、いやDB選びだった。なんか情けない様な気もするが……だが恐るべきはやはりジーク。何度か接触しただけでこちらのDBの能力を見抜いたのかそれに対抗した戦術で襲いかかって来る。まったく気が抜けない逃亡劇、命を賭けた鬼ごっこはしばらく続くことになった。
もちろん何度か応戦しようかとも考えた。マザーの力ではなく師匠、デカログスの力で追い払えば時間は稼げるのではないかと。だがそれはマザーによって却下された。何でも俺がまだ未熟なのが理由らしい。師匠からは既に仮免許はもらっているのだがやはりマザーの命には逆らえないらしい。親バカと言うか子離れができない親というか……まあ確かにまだ俺、未熟だしな……最近は修行も行き詰っている。マザー、イリュージョン、ワープロードの力を百パーセント使ってもまだシバに負け越している。三回に一回くらいは勝てるようになってきたがほぼ相打ちに使い形。しかも師匠だけではまだ一回も勝ててない。師匠曰く俺には足りない物があるらしい。何だ? やはり補正的なものが俺には足りないのか? まあとにかくシバと互角に戦えるぐらいにならないとな……と話が脱線してしまったがとにかく俺は逃げ続けるしかなかった。だがいくら逃げてもジークは俺を正確に追って来る。まるでレーダーでもあるかのように。何度か話し合いをしようと試みたことがある。だがジークは全く聞く耳を持ってくれなかった。
『時のために』
それを馬鹿みたいに連呼してました。何それ、おいしいの? 状態だった。おいっ! ちったあ他人の話を聞けっつーの!? 確かに初期のジークは堅物そうなイメージだったがまさかこれほどとは……確かに金髪の悪魔でシンクレアを持ってるんだから仕方ないのかもしれんが……いや、別に俺、ジークのこと嫌いじゃないよ? むしろRAVEのキャラの中でベスト3に入るくらい好きなキャラだ。でもやっぱ実際に命を狙われて、殺されかけるのは話が別だっつーの!? 誰か、誰かこの人どうにかしてええええっ!?
そんな心の叫びを上げながらもひたすら逃げ続けるという命がけの逃走を続けていたある日、とんでもない出来事が、事態が起こった。
それはいつものようにジークの襲撃から何とか逃げ切った後。俺は二日後に再びその場所、というか街へと戻ってきた。もちろんもう既にジークがいないことを確認した後。ワープロードのおかげで街の行き来は一瞬でできるため問題なし。何気にイリュージョンに勝るとも劣らない万能性。しかもその力を極めたので汎用性はさらに上がっているのだが……まあそれは置いといて。俺が街へ戻ってきたのはDCと接触するため。言うまでもなくDBを売り渡すためだ。元々そのためにここにやってきたのにジークのせいで余計な手間を取らされてしまった。何だかこの状況に慣れつつある自分が怖い。もしかしたら既に色々な感覚がマヒしてきているのかもしれん。
まあそんなこんなでDCの兵士にそれを渡しようやく目的を果たせたと安堵している中、兵士からある話を聞いた。何でも昨日凄まじい雷が落ちる音が街の遥か外れから聞こえたのだと。雨も雲もなかったにもかかわらず。俺は気づく。恐らくはそれがジークの雷、魔法であると。だが同時にある疑問が浮かぶ。何故ジークがそんなことをしたのか。二日前であれば俺を狙って雷を使っていたので説明がつくが昨日は別だ。俺は既にワープロードでここから遥かに離れた場所にいたのだから。DCを狙ったものかと思ったがこの時期のジークはキングを狙うためにDCへ潜入する目的があるのでDCに対して敵対行為をするとは考えづらい。となれば考えられる理由はたった一つ。
魔導精霊力の研究施設の破壊。
う、うん……まあそうだよね。他には考えられないし……ま、まあそういうことだろう……でもなんだろう……なんかめっちゃ嫌な予感がするんですけど……いやいや、ただ施設が壊されただけだ。それに恐らくはそういう施設はいくつかあったはず。ならその一つがたまたま壊されただけ……気にすることないはず……だって、だって彼女が目を覚ますのは記憶の通りならまだ一年後のはず……だから心配することはないっつーの……ははは……
そんな誰に対しての言い訳かわからないことをぶつぶつ呟きながらアキはふらふらとその雷が落ちたと思われる街から遥かに離れた場所、荒野へと足を向ける。まるで何かに導かれるように、夢遊病にかかっているかのような足取りで。だが心のどこかで悟っていたのかもしれない。昨日起こったであろう出来事。そしてこれから起こるであろう出来事。
そこには雷によって吹き飛ばされた建物があった。恐らくは大きな施設であったことが伺えるが雷による攻撃によって無残な廃墟と化してしまっている。間違いなくジークの仕業だろう。だが廃墟などアキの目には全く映っていなかった。
映っていたのはそこから少し離れた場所にいる、いや座りこんでいる人影。それは少女だった。歳は十五、六程、短い金髪に黒い下着のようなタンクトップを身に纏っている。その腕にはELIEという文字が刻まれている。だがその姿は傷つき、表情は悲しみに、不安に満ちている。夕日がそれを照らし出しどこか幻想的な雰囲気を放っている美少女がそこにはいた。
「エリー……?」
「………え?」
知らずアキはその名を口にしてしまった。瞬間、少女は驚いたようにアキへと振り返る。だがアキの驚きは少女の比ではなかった。何故こんなところに、時期に彼女がいるのか。一体何が起こっているのか。だがようやくその理由に気づく。
そう、これが自分というイレギュラーのせいであると。
本来この時期には現れない金髪の悪魔である自分が脱獄してしまったこと。それをジークが追ってきてしまったこと。それによって本来一年後見つかるはずだった魔導精霊力の研究施設が昨日見つかり、そしてその下で眠っていた少女、エリーが目覚めてしまったのだと。
原作よりも一年早く。
「……あなた、誰?」
「………」
どうしよう……これ……
それがアキとエリーの予想外の、そして運命の出会いだった――――