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No.33445の一覧
[0] 【完結】蝉だって転生すれば竜になる(ミンミンゼミ→竜・異世界転生最強モノ)[あぶさん](2014/07/11 00:39)
[1] 第二話 竜は真の慈愛を知る[あぶさん](2014/07/11 00:08)
[2] 第三話 孤独な竜はつがいを求める[あぶさん](2014/07/11 00:09)
[3] 第四話 竜はやがて巣立ちを迎える[あぶさん](2014/07/11 00:17)
[4] 第五話 竜の闘争[あぶさん](2014/07/11 00:22)
[5] 第六話 竜と少女の夏休み[あぶさん](2014/07/11 00:29)
[6] 第七話 蝉の声は世界に響く[あぶさん](2014/07/11 00:35)
[7] 幕間[あぶさん](2014/07/11 00:37)
[8] エピローグ 蝉だって転生すれば竜になる[あぶさん](2014/07/11 00:39)
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[33445] エピローグ 蝉だって転生すれば竜になる
Name: あぶさん◆5d9fd2e7 ID:de479454 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/11 00:39


私は暗闇の中にいた。


永遠とも思える、闇の中にいた。


土の中に似た、暗闇だ。


ここが何処かも、自分が何者であるのかも、わからなかった。


やり残したことがあるような、とても大切な事を置き去りにしてしまったような気もするが、


やはりよくは分からなかった。


人は死を闇、生を光と捉えるというが、ならばこの場所は死なのであろう。


感触も匂いも、重力も地平線もない。只の黒であった。




しかし、温度だけはそこにあった。





死の暗闇の中に、何故かぬくもりだけがあったのだ。


終ることがないと思っていた永遠の闇に、閉じきったままの暗闇の世界に


暖かい何かが、伝わってくるのだ。



遠くの近くから、声が聞こえる。







「‥ねぇねぇ、竜様はいつ産まれるの?」


「もうすぐ、もうすぐ産まれるはずですよ」


「触ってもいい?」


「だだ、だめなんだな。た、た、卵が割れたら大変なんだな」


「こら、ミンミ! 大人しくしてなさい」


「むぅ…、中に竜さんいるんでしょ? 触ったら起きるかもしれないよ?」


「だぁめじゃあ。竜様が自分で起きようと思った時まで、起こしちゃだめだあ」


「寝ぼすけさんだねえ。ずーっと寝てるんでしょ」


「そうよ。もう七年。ミンミちゃんが生まれた日から、ずーっと眠っているの」


「そんなに眠るとあたまがぼーってならないのかなあ。なっちゃうよねえ? ねぇ、ハーピーお姉ちゃん」


「ミンミ! 大人しくしていなさいと言っているでしょう」


「……巫女様。竜さんは私達の事を覚えていてくださるのでしょうか」


「それは…、難しいと思いますわ。竜の知識と記憶は肉体に宿ります。あれほどの血と肉を失ってしまえば‥、もう」


「…竜さんの卵、私と同じぐらいの大きさになっちゃったね」


「卵が残っただけでも奇跡ですもの。あの時、ユグドラシル様の樹液が死んだ我が君の頭部に流れ込まければ、卵を残すことなど決して叶わなかったでしょう」


「あんなに大きくて、雲の上まで連れて行ってくれたのに…。あの事も全部…、忘れちゃったのかな…」


「忘れているならもう一度教えればいいのです! 知らないことは新しく知ってもらえばいいのです!」


「ニュージュちゃん…」


「だって私は、竜さんにたくさんの事を教えてもらったのですから。今度は私が教えてあげる番なのです!」


「その通りですわ。まだ物を知らぬ我が君に色々と教えて差し上げる、これ以上の喜びがこの世にあるでしょうか」


「ゲーコゲコゲコゲコ!」


「んだんだぁ。音楽も、木の選び方も削り方も、もう一度ちゃあんと知ってもらうべなぁ」


「トト、トーテムポールの作り方を、お、お、教えるんだな」


「ねえ、ハーピーお姉ちゃん。あのおっきなトーテムポールは竜様が作ったんでしょ?」


「そうよ。皆の大好きなトーテムポールを作ったのよ。ミンミちゃんはトーテムポール好き?」


「うん、大好き! だってみんな笑っているもの」


「…ミンミ、貴方の名前はね。竜様の鳴き声から頂いたのよ」


「えー、竜様ミンミって鳴くの? お母さんうそつきだよー。竜はもっと怖い声で鳴くんだよ。ねえ? ニュージュお姉ちゃん」


「いいえ、このトーテムポールを作った竜さんだけは、ミンミンと鳴いていたのです」


「ホント? じゃあ、この竜様もミンミンって鳴くの?」


「それは‥、わかりません」


「ニュージュお姉ちゃんでもわからないんだ」


「‥でも、そう鳴いてくれたらいいなと、いつも思っています」


「うん。また聞きたいな。竜さんの歌」


「ゲーコゲコゲコゲコ…」




「だったらさ、ミンミンって鳴いたら、寝ぼすけな竜様もミンミンって返してくれないかなあ? おんなじ言葉でしゃべったら、竜様も聞こえるんじゃないかな」


「あら。それはいい考えですわね。胎教という言葉もございますし」


「ええ。ミンミが私のお腹にいた頃は、毎日あの歌を聞いていたはずですもの」


「うん。 私が歌えるようになったって、早く知ってもらいたい。触っちゃだめでも、歌うだけなら、いいよね?」


「はい。いつまでも目を覚まさない竜さんに、大きな声で歌ってあげましょう」


「じゃじゃ、じゃあ。みみ、みんなで「せーの」で、う、う、歌うんだな」


「よぉし。んだばいくべえ…、せぇのお!!」






「「「「「「「ミーンミンミンミン!!!!!!!」」」」」」」
「ゲーコゲコゲコゲコ!!!!!!!」







なんだか外の世界というのは、やかましくて、暖かい。


ぽかぽかと体が温まったから。気持ちがいい。


気持ちがいいから、もう少し眠るか。そう思った。





―待っています-





その声が聞こえるまでは。



-貴方がもう一度、鳴いてくれる事を-



音波として、耳に伝わる声ではない。



-わたしにもう一度、出会ってくれることを-



心に、魂に直接、語りかけてくる声であった。



-信じています-



優しく、柔らかく、透き通った、美しい声だった。



-だってあなたは-



ああ、これはあなただ。



-わたしに約束してくれたのですから-



覚えている。



-もう一度、わたしのために鳴いてくれると、約束してくれたのですから-



あなたの事だけは覚えている。



-今度は、私だって一緒に歌うんですから-



名は忘れたが、覚えているのだ。



-貴方のように、大きな声で-



貴方の声を、覚えているのだ。



-こんなふうに-



貴方の魂をおぼえているのだ。





-ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン-





魂が踊った。


それが誰かは分からない。ただ、誰よりも大切な人だと言うことだけはわかった。


待たせている場合ではない。


いつまでも、この暗い世界にぐずぐずと留まっている場合ではない。


ずっと会いたかったのだから。


ずっと貴方を探していたのだから。


黒い世界を突き破る。


闇の世界を覆う、殻が弾けた。




光だ




そして、




あなただ




何をするべきかは、魂が教えてくれた。




-鳴こうよ-




ああ、鳴こう。






ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン

















おわり


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