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No.33430の一覧
[0] [HB](2012/06/17 02:07)
[1] 春と綻び1[HB](2012/06/16 02:03)
[2] 春と綻び2[HB](2012/06/23 00:45)
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[33430]
Name: HB◆6094d4df ID:9a122133 次を表示する
Date: 2012/06/17 02:07
『恋愛に勝ち負けを、いや人生のあらゆる事に勝ち負けをつけるのはナンセンスだとは思うが俺は負け組なのだろう。
初恋の女の子には嫌の一言で振られ、初めての彼女は三日で別れた。
あっちから告白してきたのにも関わらずだ。女とはまったくわからない生き物である。
そういえば、高校時代に好きになった神永さんの件も散々だった。

「彼氏の事で相談がある」

「会いたい」

などと泣きながら言われたら男しては行かないわけにはいかず、散々泣き喚く彼女を優しく慰め抱きしめる俺は、春の到来を確信していた。
それがなんだ晴れて学生結婚?おめでたいねまったく。
あの時別れるってさんざん言ってたよな?な!
よく結婚式の二次会に呼べるよ。
あの場であの時の交通費と涙と鼻水でグシャグシャにされたジャケット弁償してもらえばよかったよ!
今日だってそうだ。
はっきり言わないで結局付き合ってたのかよ。
映画をみにいっただけで浮かれていた自分が馬鹿みたいじゃないか。
チクショウ。
可愛い顔してやり手ですね。
おっさんもう完璧に落ちてましたよ。
もう勝手に幸せになってくれ!!
太陽の馬鹿野郎。海の馬鹿野郎。酒の馬鹿y』


 野島勇太は打ち込んでいた手を止めキーボードから手を離した。
自分は何を書いていたのだろう。
読み返してさらに馬鹿馬鹿しくなりはぁと深い自嘲のため息をついた。
机の2番目の引き出しを開けた。
そこからでかでかと封印と書かれたタバコを取り出し口にくわえ火をつける。
最低なタイミングで禁煙を始めてしまったようだ。
今回は二日か、と改めて顔に卑屈な笑みを浮かべた。二日ぶりのタバコは体に染みた。目にも染みた。
この頬をつたう熱いものはきっと心の汗なのだろう。
きっとそうに違わない。そう思っておこう。
思えばいろいろあった。
今回の事はまた当分忘れられないだろう。
失恋は何回も経験しているがこの胸を雑巾のように絞られるような感覚には慣れる事は無いのだろう。
そうだ、今回の事でいろいろとお世話になった梅田には報告しなくては。
誰かに話さないと気がすまない。
携帯を取り出し、

「ダメだった」

とだけ打ち込み梅田に送った。
返事はすぐに返ってきた。

「そうか…残念だったな。野島にとって前の彼女を忘れるいい機会になると思ったんだが。下手な慰めはしないよ。お疲れ。」

相変わらずそっけない。
いろいろと吐き出したい物があったがまとまらず結局

「ありがとう」

とだけ返信して携帯を閉じた。
(前の彼女か・・・)
さっきとはまた違う痛みが胸を走り顔をしかめる。
ダメだ。これ以上考えないようにしよう。でないと眠れなくなってしまう。
パソコンに書かれた投稿前の日記を削除しのろのろと布団に潜った。
明日は始業日だ。早起きしなくては・・・
電気を消し目を閉じた。
もちろん寝付くことなどできるわけもなく、たらとかればとかそういったどうしよも無い事を考えてばかりいた。
なんて格好の悪い男なのだろう。


駅から出たバスは相変わらず混んでいた。
学生とサラリーマンとが入り混じるいつも通りの光景だ。
携帯をいじる人、イヤホンをつけうつむく人、周りをきにせず大声で話す人。そんな人の中にいると彼はひどく落ち着かない気分になった。
通学でバスを使い続けているのだがこの人ごみに慣れる事はなく、緊張とも苛立ちともいえる微妙な感情が彼の心をザワザワとさせた。
なるべくそれから目を反らせるようにいつも通り窓の外をどこを見るわけでもなくぼーっと眺めていた。

宮下銀座を少し過ぎた停留所に見覚えのある顔を見つけた。
両手でカバンを持った彼女はいちど伸びをするとこちらに目をやった。
見つかれば声をかけられる。
そう思い顔を背けたが少し遅かったようだ。
バスが止まり乗り込んだ彼女は人ごみをかき分けわざわざこちらまでやってきた。

「おはよー勇太。相変わらずの寝癖頭だね」

幼馴染の樋口沙織は屈託のない笑顔で挨拶をしてきた。

「あー、おはよ」

と今出せるありったけの元気な挨拶で返す。なんとも間の抜けた挨拶になってしまった。
バスが動き出し彼女は少しよろめき吊皮を急いでつかんだ。

「おまけにひどいクマ、ちゃんと寝たの?」

「全然。いや2時間位は寝たかな」

「2時間位じゃ寝たうちに入らないよ、ちゃんと寝ないとお肌に悪いぞ」

「そうだなー」

窓に映る頭には確かに寝癖がついていた。
手で何回か撫でてみたが頑固な寝癖は屈するはずも無く重力に逆らいぴょんともとの位置にもどった。

「あのさ、昨日女の子と二人で居たでしょ。彼女?」

「……違うよ。ただのサークルの後輩だ」

彼は動揺を悟られないようにぶっきら棒に返事をした。

「そうだよねー。勇太にあの子は扱いきれないもん」

思わず顔を向けると彼女は横を向いて笑っていた。
昔からこの癖がでる時はいろいろと見透かされている時なので状況を瞬時に理解し首をガクッと下ろしうなだれた。

「誰に聞いた?どうせ梅田だろうけど」

「ご名答」

「あの野郎」

「でも梅田君から話してきたわけじゃないよ。昨日たっくんとデートしてたら偶然勇太を見かけてさ。で、気になってつい」

たっくんというのは樋口沙織の彼氏の西崎琢磨のことだ。
同じ大学の一つ上の先輩で何回か話したこともあるがこちらの事が苦手らしい、そして野島勇太自身も彼のことが少し苦手だった。

「で、その様子だと結局ダメだったんだ」

彼女は横を向いたままで言った。笑みはもう消えていた。

「まぁな。彼氏が居たらしい」

また窓を見やるとハンバーガーショップを通りすぎるところだった。
そういえば朝ごはんを食べていなかった事を思い出した。出されてもあまり食べることはできなかっただろうが。

「勇太にはもっと可愛い彼女がそのうち出来るよ」

「何回も聞いた慰めどうも」

「大丈夫。勇太なら」

「だといいけど」

会話が途切れてしばらく窓の外を眺めていた。
可愛い豚のマークの看板が見えてきてそういえば初めて沢口香織と話したのはあそこでやった新歓コンパだったなぁと思い出したくない事を思いだしてしまい彼はまた憂鬱な気持ちになった。

「そういえば勇太に渡すものがあったんだ」

彼女が肩をポンと叩いて言ってきた。

「何?ずっと前に貸したCDか?」

「それもそうだけど……」

と、ごそごそと肩にかけたバックを漁りだした。
女の子のバックはいったいそんなに何が入っているのだろう。大きなバックをいっぱいにしている子が多いこと多いこと。
彼女もその類に違わずピンク色の大きなバックから小さな箱をやっとの思いで取り出した。

「夢の国のお土産です」

と差し出そうとしてヒョイとそのお土産を上げた。

「なんだよ」

「やっぱりやめた。後で渡す」

お土産をバックにしまいながら彼女は笑った。

「お家に伺わせていただきます。おじさんおばさんに挨拶したいし」

「面倒臭い奴だな」

「へへへ」

バスは大学のすぐそこまで来ていた。
バックに入れた定期券を探し始めて、それを見た樋口沙織もガサガサとピンク色のバックを漁る。
程なくしてバスは止まり乗客が動き出した。立ち上がり彼女の後ろに並ぶ。

「俺が居なかったらポストにでもいれておいてくれ」

「やだよ、おばさんに挨拶しなきゃ」

彼女は振り向かずに定期券をひらひらさせた。

「勝手にしてくれ」

「んじゃ明日行くから」

「あのなあ」

定期券を機械にかざし降りる。

「またね勇太。元気だせよ」

引き止める間もなく彼女は走り去って行った。
ため息を一つついて大学入口の坂を登り出す。
ついさっきまで話していた幼馴染のことなど忘れあの子に会ったらどうしようとそんなことばかり考えていた。


昼を少し過ぎたころ大学内にあるコンビニのひどい混雑を見て野島勇太は顔をしかめた。

「どうした?」

と隣を歩く梅田雅弘が訊ねてくる。
彼の顔は髭剃り負けをしたのか所々が赤くなっていてとても痛々しかった。

「いや混みすぎだなと思って」

目の前を手をつないだカップルが通りすぎていく。空腹でムカムカしていた胃がさらにムカムカした気がした。

「ここが混むのはいつものことだろ。おばちゃん食堂にでもするか?」

梅田はやはり痛いのか頬をさすりながら言った。

「そうしよう。あっちならおしぼりもあるしな」

「しかし野島はこれで大学入って3連敗だな」

表情も変えずに梅田雅弘はそういった。心がチクリと針にでも刺された気分がしてさらに胃のムカムカを感じた。

「いや、そうかも知れないが今回は個人的にはノーゲームだ。なんせあっちに彼氏がいたんだからな」

「マジかよ。それでお前を映画に誘ったのか?」

「誘ったのはこっちからだ」

「ああ。そりゃそうだよな」

学生たちからおばちゃん食堂と呼ばれる食堂はこの大学では比較的新しい建物の中に入っている。
自動ドアをくぐると暖房が効いていて四月なのにやたらと寒いと思っていた野島勇太にはとてもありがたかった。

「ちょうど空いてるな」

二人は貰ったばかりのカリキュラムの一覧やら講義の要綱やらが入った重たい緑の袋を椅子に置き食堂のほうへ歩いた。

「しかし、そうなると今回も出遅れだな。前の真田さんの件もそうだし」

「奥手中の奥手だからな」

「自分で言ったら世話ないわ」

梅田はふっと噴出すように笑った。

「まったくだ」

野島勇太もつられるように笑った。
人気のチキンカツ定食が売り切れていてしょうがなくから揚げ定食を注文し席へ戻った。
プレートにこんもりと盛られたご飯とから揚げそしてキャベツはまさに食べざかりの若者の昼食に相応しい重さである。

「惜しかったよなぁ。野島が前の彼女の呪縛から逃れるチャンスだと思ったんだが」

髭剃り負けにおしぼりを当てながら梅田はさぞ残念そうに言った。

「コンビニで新しいカミソリでも買ったらどうだ?なんだっけあの新しいやつ」

から揚げを一つ口に運ぶ。揚げたてだったのでとても熱い。

「まぁいいけどさ」

梅田もお絞りを脇におき食べ始まった。

「今回は梅田に迷惑かけちまったな。すまない、そしてありがとう」

「いいよ。服貸すくらいなんとも。しかし春だねぇみんなして愛だ恋だって。椎名も運命の人を見つけただとか言ってたしな」

「そういうお前はどうなんだよ」

梅田雅弘は一瞬箸を動かすのを止めてまたゆっくり動かしながら

「俺は……まぁそのうち話す」

と言ってまた食べ始めた。
いつも裏表なく思ったことを口にする彼らしくないと思いつつもそれ以上追求する事もできず

「そうか」

とだけ返事をした。

「そういやお前沙織にいろいろしゃべったろ?」

「いや、あれは不可抗力だ。話さないと後々面倒だからな」

「それにしては詳しく話してくれたみたいだけど」

梅田の顔を見るが彼は顔を上げなかった。もくもくと食べ続けている。

「こういう事に首突っ込むと樋口はしつこいだろ?野島が一番よく知ってるじゃないか」

「いや、まぁそうだけどよ」

確かにその通りだった。

「だからあの件は勘弁してくれ。それより野島今日この後暇か?椎名が麻雀しようっていってたんだよ」
顔をあげて梅田が言った。

「いや今日は遠慮しとく。かなりの寝不足で頭が回らないし。すまない」

「そうか。椎名にはまた今度って言っておくよ」

「そうしておいてくれ」

「おう。まぁかなり参ってるようだがあんまり考えすぎるな、お前の悪い癖だ。こういう時は好きな事して忘れるか寝るしかない」

「寝る?」

「そう。寝る」

一緒にいてもよく寝る彼らしいアドバイスだ。

「それで忘れられたりすれば苦労しないよ」

話しながら目線が下に下にへと行くのを自覚しながらつぶやく。

「なんでもいいんだけどさ、何かしらで区切りをつけた方がいいと思うんだ。いい事も、悪い事もな」

「なるほどな」

「それが俺の場合は寝るって事になるわけだ」

彼のよく寝る理由はこれでよくわかった。

「背もでかくなるしな」

「それは関係ないだろ」

「俺より頭一個も大きいもんな。羨ましいよまったく」

「別に何も変わらないとおもうけどなぁ」

最後の唐揚げを食べ終え箸をおいた。
梅田雅弘の皿をみると見事にキャベツだけが残されていて野菜嫌いにもほどがあるだろと心の中で笑った。

「野島このあとの予定は?」

「図書室にでも行って時間割組むよ。梅田は?」

「俺は買い物にいく。大学での用は終わったし」

「そうか。んじゃまたな」

食べ終わった食器と荷物を持ち立ち上がった。

「おう。あ、野島」

振り返ると梅田はニッと笑い

「油麺2玉の味玉トッピング。忘れんなよ」

と言って親指を立てるのだった。

食堂から出るとひんやりとした空気が頬を撫でた。
空は雲に覆われ暗く雨も降りそうだ。降ったら雪になるかもなぁと図書館に向かいながら考えていた。

「四月に振る雪か・・・・・・」

誰にも聞かれないように小さな声でつぶやいた。




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