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No.33282の一覧
[0] ウツクシキモノ (ジョジョ第5部)[海堂 司](2012/05/28 21:40)
[1] ウツクシキモノ 2 (ジョジョ第5部)[海堂 司](2012/06/02 07:38)
[2] ウツクシキモノ 3 (ジョジョ第5部)[海堂 司](2012/06/15 22:13)
[3] ウツクシキモノ 4 (ジョジョ第5部)[海堂 司](2012/06/17 17:19)
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[33282] ウツクシキモノ (ジョジョ第5部)
Name: 海堂 司◆39f6d39a ID:fc355867 次を表示する
Date: 2012/05/28 21:40
 ポンペイ。ヴェスビオ火山の噴火によって滅び、現在もその当時のまま残っている遺跡都市に、『犬のゆか絵』で知られる『悲劇詩人の家』がある。その家を出てまっすぐ行った曲がり角に、一人の男が倒れていた。190センチ近い身体に黒いコートに身を包んだその男の身体は、激しい殴り合いでもしたのかボロボロで、時折、苦しそうに小さくうなり声を上げては、右手で左手を押さえている・・・ ように見えた。だがよくよく見てみると、彼の左手はその手首から先が無く、そこから流れ出る血が、彼のそばに小さな血だまりを作っていた。
 と、そこに誰かが駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。
「アバッキオ!」
 足音の主は、まだ少年と言っていいほどの外見ながら、倒れている男とは違い、どこか理知的な雰囲気を持っていた。白い肌に少し痩せているその体には、男と同じように殴りあいでもしたのか所々にアザがあり、それと同じくらい傷を負っていた。
「アバッキオ、無事か?」
 アバッキオと呼ばれた男は、苦痛に顔を歪めつつも、右手を地面に付けて身体を起こし、近くの壁に寄りかかった。
「フーゴ、お前コレが無事に見えるのかよ?」
 アバッキオは切断された左手の傷をこれ見よがしにフーゴと呼んだ少年の前にさらけ出す。もっとも左手をこうしたのは他ならぬアバッキオ自身であるのだが、そのことは言わずにおいた。言う必要など無い、と判断したためだ。フーゴの方も、そんな彼の性格を分かっているのか、詳しく聞くようなことはせず、上着から大き目のハンカチを取り出すと、手早く傷口に巻き、軽い止血を施した。
「大丈夫だ、あんたの左手は向こうに転がっている。それよりも・・・ 立てるか? アバッキオ」
「ああ、なんとかな」
 そう言って、フーゴに支えてもらうような形で立ち上がると、止血したとはいえ、まだズキズキと痛む左手首を睨みつける。
「睨んだところで痛みは引かないよ。ちゃんとした所で手当てをしないと・・・ もっともちゃんとした所に行ければ、の話だけど」
「フン。ブチャラティの『ジッパー』でくっつけてもらうさ。だいたい俺の左手より、俺が立てるかの方が問題なのかよ?」
「アンタのその身体を僕とジョルノで抱えて運べって?」
 立ち上がる時こそフーゴの支えが必要だったが、一度立ち上がってしまえば後はフーゴの手を借りずに歩くことが出来た。アバッキオは普段はここまで喋ったりはしない、寡黙な男なのだが、今は傷の痛みを少しでも紛らわそうというのか、顔をしかめながらもフーゴと饒舌にしゃべっていた。やがて二人の行く先に、また別の少年が苦しげな息をしてうずくまっているのが見えた。そのそばには、まるでパズルのように組み合わされた割れた鏡が地面に転がっており、さらにそばの壁には、男性用の洋服が、まるで中身は溶けて消えてしまったかのように得体の知れない液体に浸されて、そこに転がっていた。
「ジョルノ!」
 アバッキオの隣を歩いていたフーゴが、名前を呼びながらその少年へと駆け寄った。ジョルノと呼ばれた少年は、他の二人と違って殴りあった後など見受けられないものの、まるで何か性質の悪い病気にでも侵されているかのように苦しげに肩で息をし、その額にはうっすらと汗を浮べている。
「大丈夫か、ジョルノ?」
 アバッキオの時よりよほど心配そうな声で、フーゴはうずくまるジョルノのそばに片膝をつくと、少しでも呼吸が楽になるようにと、その背中をゆっくりと撫でる。その効果があったかは知らないが、ジョルノの息はだんだんと落ち着きを取り戻していった。
「ええ、もう大丈夫です。ありがとうフーゴ。心配をかけました」
 まだ少しだけ苦しそうにしながら、声変わりしきれていない、まだほんの少しだけ高い声でそう言うと、なおも心配そうなフーゴを安心させようとでもいうのか、ジョルノはまだ汗の残る顔に笑顔を浮べると、ゆっくりと立ち上がった。そこで初めて、不機嫌そうな顔で立っているアバッキオに気づいたようで、浮べたばかりの笑顔を消し、無表情に近い、真剣な顔になると、アバッキオの正面に歩いてきた。そして軽く頭を下げると、手にしていた物をアバッキオへと差し出した。
 アバッキオの左手と、古めかしい装飾の『鍵』だ。アバッキオはフンと鼻を鳴らすと、自分の左手をフーゴへと放り、『鍵』をジョルノの手からひったくるようにして手に取った。そしてチラリ、壁のそばの、まだグズグズの液体に浸ったままの服に目をやり、そしてまた、ジョルノの方へと視線を戻す。
「フーゴ、お前の『パープルヘイズ』か?」
 唐突な問いに、渡された左手をどうしようかと難しい顔をしていたフーゴはアバッキオの方へと目を向ける。
「え? ・・・ああ、そうだ。ジョルノの機転のおかげでね」
 そう言うと、フーゴは羽織っていた自分の服を脱いで手に掛け、そこに隠すようにしてアバッキオの左手を持つ。アバッキオはその間、険しい目で頭を下げたままジョルノを睨みつけていた。その迫力たるや、フーゴが思わず後ずさってしまう程だったが、目の前の少年はその姿勢を崩す事無く、その視線を受け止めていた。アバッキオの迫力に身がすくんで動けないのではない。コイツはそんなヤツじゃない、とアバッキオは感じていた。
「おい、どうしたんだアバッキオ?」
 二人の間の緊張した空気に耐えられなくなったのか、フーゴが不安げな声を掛けてきた。だがそれに耳を貸す事無く、アバッキオはジョルノをにらみ続ける。フーゴは知らないのだ。この二人の間になにがあったのかを。



 この三人が、ここポンペイに来たのは観光などではない。裏世界に生きる彼らが所属する組織、『パッショーネ』。そのボスからの指令を遂行するため、いまアバッキオが手にしている『鍵』を手に入れるために、彼らのチームのリーダーであるブチャラティの命令でここに来たのだ。
 最初に異変に気づいたのはフーゴだった。
「石柱の影からボクらを覗いている男がいる」
 言われてすぐ、アバッキオは気づかれないよう、後ろの様子を探った。だが角度が悪いのか、フーゴの言う男の姿を確認することが出来なかった。すぐ近くを歩いていたジョルノもそうだったようで、「どこです?」とフーゴに聞き返している。そんな二人にフーゴは苛々したように、目の前の壁にかかっている古ぼけた鏡を睨みつけながら、先ほどより少し大きな声でささやいた。
「ふざけんじゃないぞアバッキオ・・・ 柱から出てきたぞ、もう分かっただろ?」
 分かっただろ? と言われても、この辺には柱は一本しかなく、そこから出てくる男など影も形も見当たらなかった。
「何を言っているのか分からんが・・・ フーゴ」
 状況を理解できないアバッキオとジョルノに業を煮やしたのか、その細身の外見からは想像もつかないほど短気な性格のフーゴは、振り向きざまに二人の背後を指差し、大声で怒鳴りつけてきた。
「何言ってるんだ! そいつだ! 歩いてくるヤツさ!!」
 そう言ったフーゴが指差した先には、誰もいなかった。フーゴの表情が凍りつき、指差した先と、その風景が映っている鏡を慌てた様子で見比べている。そして鏡がどうの、『敵』がどうのとわめいたかと思うと、
「二人とも鏡から離れるんだ! 離れろ!!」
 そう叫んで二人を突き飛ばし、そして、二人の目の前から忽然と姿を消した。何が起こったかは分からなかった。しかし、この異常な状況が『敵』の仕業であることはすぐに理解できた。
「フーゴ! どこに行った! フーゴ!」
 叫んでも返事は帰ってこない。ジョルノはフーゴが消えた辺りに掛かっていた鏡を調べている。今思えば、こんな所に鏡があること自体を不審に思うべきだったのだが、突如現れた予想外の脅威に、すぐにそんな余裕は無くなった。
「おいジョルノ・・・ ゆっくと俺の方に来るんだ・・・ もうゆっくりじゃねえ! 早く来い!」
 
『ぐあるるるるるる・・・』

 不機嫌そうな、喉の奥のほうでひねり出したような唸り声と、それを発した異形の者の姿に、これまで新入りらしからぬ冷静な行動を取っていたジョルノも一瞬、焦ったようで、彼の『能力』を発現させ、攻撃の構えを見せた。生命の輝きそのものとも言えるような、金色の輝きを全身に纏い、ジョルノの身体と重なるようにして立つその姿。ジョルノの『スタンド能力』である『ゴールド・エクスペリエンス』。それが拳を構え、紫の、出来の悪いアップリケで編まれたような、不気味なその異形へ攻撃を加えようとした。が、
「構うな! そいつは敵じゃない!」
 不気味なうなり声を上げ続けている異形の正体と、その拳に秘められた凶悪極まりない『能力』を知るアバッキオはあらん限りの声で叫び、それがジョルノの動きを止めた。
 フーゴのスタンド、『パープルヘイズ』。片方の拳に3つ、計6個のカプセルの中に仕込まれている『殺人ウイルス』とも呼べる能力は、一度発動すれば、日光などの光に殺菌されるまで獰猛に生命という生命を食らい尽くす。それは『パープルヘイズ』の本体であるフーゴですら制御できないのだ。
 アバッキオは『パープルヘイズ』から十分に距離を取ったことを確認すると、再び辺りを見渡してフーゴの姿を探した。『パープルヘイズ』の射程距離は数メートル。フーゴ本人のいない所で闘えるようなスタンドではない。にもかかわらず、フーゴはいない。そして、変わらず敵の姿を見ることも出来なかった。敵の『スタンド能力』が何なのかは分からない。だが、今『パープルヘイズ』が発現しているということは、フーゴはまだ無事だということ、そして、まだ見ぬ『敵』はフーゴにかかりきりであるということが予想できた。
 であれば、『鍵をゲットする』という目的がある以上、自分たちがとるべき行動は一つだ。フーゴを見捨て、確実に『鍵』を手に入れることが、今の自分たちに出来る最良の一手。仲間を見捨てるということに心が痛まないと言えば嘘になる。だがそれ以上に、『命令を守る』ことは、アバッキオにとっては大切な事だった。だが、そのために先を急ごうとしたアバッキオに、ジョルノは首を縦に振ることはしなかった。
「もう一度言う! 先へ進むぜ! 来いっ!」
「拒否します! フーゴを助け、敵を倒すことが、みんなの安全を守ることです!」
 まるで命令を聞かない新入りを怒鳴りつけるアバッキオに、これまでのように冷静に反論するジョルノ。交わらない意見をぶつけ合い、結果、二人はそこで分かれることになった。
 結果から見れば、ジョルノの言うとおりになってしまった。鏡を入り口にして、左右逆転の「死の世界」へと引きずり込むスタンド、『マン・イン・ザ・ミラー』の前に、もう少しで『鍵』を奪われそうになってしまい、フーゴもアバッキオも殺されるところだったのだ。それが自分は左手に大きなダメージを負ったとはいえ、いち早く、敵の能力をほぼ完璧に推測していたジョルノの機転が、三人の命を救う結果となった。



「なあ、アバッキオ。何があったか知らないが、ジョルノのおかげで助かったんだ。許してやれよ」
 事情は知らずとも、自分が『鏡の世界』に引きずりこまれている間に何があったのか察したのだろう。フーゴが困ったような声で言う。だがアバッキオはジョルノを睨みつけるのを止めようとしないし、ジョルノも何も言わず、頭を下げたままだ。
 ジョルノのおかげで助かった、というのはアバッキオも理解している。だがそれとこれとは話が別だ。アバッキオにとって、『命令』は絶対だ。それが無くとも、あの状況では先輩であるアバッキオの命令が絶対だった。にもかかわらず、目の前の新入りはそれを拒んだ。結果がどうであれ、命令違反には変わりない。ジョルノもそれが分かっているからこそ、頭を下げたまま、アバッキオからの殺気に近い視線を黙って受け止めているのだろう。
 気に食わなかった。始めから、この新入りは気に食わなかったのだ。ブチャラティから紹介されたとき、この世界の序列というヤツを思い知らせてやろうと小便入りの茶を飲ませたときも、コイツは涼しい顔で飲み干した。後になってコイツの能力、『ゴールド・エクスペリエンス』でどうにかしたのだと分かったが、その時はこの新入りにやり返されたような気がしたのだ。
 さらにその後、ブチャラティとジョルノ、そして自分以外のメンバーが謎の能力を持つ『スタンド使い』にとらわれた時も、自分は大したことの無い敵だと構えたのに対して、ジョルノは慎重な姿勢を見せ、結果、その通りになってしまった。そして今回だ。間違いない、この新入りは只者ではない。
 だが、アバッキオはどうしてもこの新入りを受け入れることができなかった。コイツを見ていると、何故かは分からないが、

 『あの出来事』

 が頭をよぎるのだ。それはジョルノと出会う少し前に起こった事件。
「おいアバッキオ、いい加減に―」
「なあ、ジョルノ」
 しびれを切らしたフーゴの言葉を遮るように、息を一つ吐いて、睨みつけるのを止めたアバッキオがジョルノに話しかける。ジョルノも下げていた頭を起こし、アバッキオに視線を合わせた。嫌になるくらいまっすぐなその眼差しに、アバッキオは少し眉をひそめるような仕草をしたが、睨みつけるような事はしなかった。
 そしてアバッキオは、ゆっくりと口を開いた。
 気に入らない新入りだが、コイツならもしかしたら。そう思って、一つの問いをジョルノへ向けた―









〈後書き〉
 どうも初めまして。チラシの裏に投稿していましたが、今回、初めてこちらの方へ投稿します。海堂 司と申します。しかもネタ元はジョジョです。素手で爆弾を解体しているような気分です。

 オリキャラも登場しますが、主役はアバッキオです。私はジョジョで彼が一番好きです。それでは今回はこの辺で。読んで下さってありがとうございました。


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