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No.33230の一覧
[0] 「マルチユニバース社㈱・異世界トリップ体験十四日間ツアー」[天賦玲斗](2012/08/02 14:42)
[1] プロローグ 三俣拓也、異世界旅行ツアーに申し込むこと[天賦玲斗](2012/05/26 12:46)
[2] 第一話 異世界で立ち往生すること[天賦玲斗](2012/05/25 09:08)
[3] 第二話 異世界人ガイドに歓待されること[天賦玲斗](2012/05/26 12:56)
[4] 間章 マルチユニバース オフィス カスタマー管理 [天賦玲斗](2012/05/27 09:11)
[5] 第三話 異世界の家庭の団欒に参加すること[天賦玲斗](2012/05/27 09:12)
[6] 間章 マルチユニバース オフィス カスタマーサービス[天賦玲斗](2012/05/27 10:01)
[7] 第四話 異世界の町を観光すること[天賦玲斗](2012/05/27 10:13)
[8] 第五話 異世界でドラゴン退治に行くこと[天賦玲斗](2012/06/12 14:16)
[9] 第六話 異世界でドラゴンに対峙すること[天賦玲斗](2012/05/30 19:57)
[10] 第七話 異世界で絶体絶命になること[天賦玲斗](2012/05/30 20:00)
[11] 第八話 異世界で命拾いすること[天賦玲斗](2012/06/12 14:13)
[12] 第九話 異世界ドラゴンをゲットすること[天賦玲斗](2012/06/12 14:11)
[13] 間章 マルチユニバース・オフィス[天賦玲斗](2012/06/12 14:10)
[14] 第十話 異世界ドラゴンを換金すること[天賦玲斗](2012/07/16 09:10)
[15] 第十一話 ダンジョン探検の注意事項を授かること[天賦玲斗](2012/07/03 14:02)
[16] 第十二話 ダンジョンに潜入すること[天賦玲斗](2012/07/03 14:24)
[17] 第十三話 ダンジョン第一階層の受難[天賦玲斗](2012/07/03 15:32)
[18] 第十四話 ダンジョンサービスエリアで一泊のこと[天賦玲斗](2012/08/03 13:32)
[19] 第十五話 ダンジョン第1階層をクリアすること[天賦玲斗](2012/08/03 13:46)
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[33230] プロローグ 三俣拓也、異世界旅行ツアーに申し込むこと
Name: 天賦玲斗◆e4e5d826 ID:700ef7ac 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/26 12:46

 携帯の呼びだし音が鳴った。

 杏里(あんり)が会社から預かっている仕事用の携帯電話だ。初めての営業に、通話ボタンを押す手が震える。

――初契約、成立しますように。

 呼吸を整えて、明るく、はきはきと。
「はい、マルチ・ユニバース、お客様係り、西垣(にしがき)杏里(あんり)と申します」
「あ、あの。ネットで、申し込んで、メールもらった三俣ですけど。この番号でよかったですか」
 自信なさげな、若い男性の声が携帯から流れた。
「はい、三俣(みつまた)様ですね。間違いありません。我武子(あぶこ)駅西口でお待ちしています」
 携帯を切った杏里は、肩にさげた大きな緑の合皮鞄を撫でた。
 研修でなんども練習させられた、厳選ツールの説明を頭のなかで復唱する。

 五分後。
 杏里の初めての客、三俣拓也・二十二歳が、目印のミス・ドーナッツ一ダース入りの箱を抱えて視界に入ってきた。
 杏里は顔いっぱいに笑みを広げる。
 不安げな表情、しばらく散髪してないさえない髪形、洗い伸びしたTシャツ、着古したジーンズという青年は、戸惑いを隠せずに杏里を見つめた。
「はじめまして、三俣様。お問い合わせ、ありがとうございます」
 契約成立の秘訣は、まずは信用してもらうこと。そのためには、さわやかな第一印象が重要なのだ。

 杏里はとびぬけた美人ではないが、男性なら八割方好ましく思うであろう『可愛らしい』タイプだ。くるくるとした小鳥のような目は少しさがり気味で、笑うと色気もないが邪気もない。思わず微笑み返したくなるような愛嬌にあふれていた。
 三俣拓也も、つい口元がゆるみ、さえない表情のまま会釈を返した。
「あの、異世界って、具体的に……」
 三俣は杏里の抱えた荷物に目を丸くしつつ、もじもじしながらここまで抱えていたのであろう質問をする。
「あ、説明はしかるべき場所でさせていただきますね。ここではなんですから」
 明るく、はきはきと、杏里は三俣を近くのネットカフェまで案内した。
 ビデオルームを借りる。

 見知らぬ男性とふたりきりで密室にこもるのを、杏里は警戒するようすもない。靴を脱いであがり、ソファに腰かけ、コーヒーテーブルの上に鞄の中身を並べ始めた。
 三俣のほうが「しかるべき場所」の意外性に、緊張を隠せない。目線をうろうろさせながら、ぎぐしゃくと杏里の差し向かいに座った。

 杏里は、三俣の申し込みフォームをプリントしたものを読みあげる。
「ご希望は、文明レベル3、地球の歴史で言えば、中世にあたりますが、ドラゴンも魔法使いも実在する世界でもあります。本当にこのレベルでよろしいのですか」
「え、いけませんか」
「ええ、いろいろ物騒ですし、文明度はつまるところ中世なので、体力、知力がけっこういりますよ。もちろん、当社としましても、万全のバックアップはさせていただきます。こちらが、当社が総力を挙げて開発した『異世界トリップデフォパック』初心者用です」
 杏里は鞄の中から、小型のケースを取り出して開け、中身を並べ始める。
「こちらが、界外通信携帯電話になります。777が三俣様担当の私に直通、888がカスタマーサポート。111は緊急救出コールになります」
 三俣は胡乱な目つきで、手渡された薄型のスマ◎ォもどきを眺める。
「わが社が、携帯電話会社DOKODEMOと提携して開発した機種です。コミュニケーションデバイスを移送座標に固定することで、異界との通信を可能にしました」
「ドコデモ?」
「はい、『ドコデモ』は異界コミュニケーションシステムでは老舗の電話会社です。ただ、バッテリーが平均で五日が限界ですので、充電を忘れないでください」
「って、そこには電気があるの? 文明度が中世で?」
「指定された街の支店には、当社が配給している発電装置がありますので、そちらで身分証を提示していただければ充電ができます。消費電気代と、通信費のお支払いは自動的にお客様のクレジット口座に請求させていただきます」
「はあ」

 ネットで広告を見て、冷やかし半分で問い合わせてみた三俣だった。しかし、気がつくと杏里の自信たっぷりの流れるような営業トークに引き込まれている。
「ただ、ブランド名は『ドコデモ』ではございますが、圏外に出られると通信ができませんので、通信範囲からはみ出た地方へや地域へは足を踏み入れないでくださいね。こちらもバックアップができませんから」
「って、行動範囲に制限があるわけ」
 海外ツアー旅行のガイドを相手にしているように、普通にたずねている三俣。
「お客様が現地の事情に詳しくなられて、二十四時間万全サポートが必要でなくなれば、ご自分の判断で行動されてかまいません。ただ、サポート圏外での事故や損害については、当社では補償ができませんので、そこのところはご了承ください」
 三俣はちょっと引いた。異世界の旅とか、海外旅行よりも危険かもしれないと思い始める。というより、異世界とやらに普通にトリップできることを、マジ顔で前提としているのはどういうわけか、自分に突っ込むべきではある。

「転移先異世界言語翻訳機、度量衡・為替レート自動変換機能は携帯に標準装備されていますが、言語辞書は現地の公用語ひとつしか内蔵していません。行動範囲を広げたくなった場合、地方の言語辞書ダウンロードはできますが、オプションになりますので有料です」
「はあ」
 いろいろ突っ込みたい三俣だったが、杏里の滑らかな解説にはどこにも不自然なところはない。ただ、旅の行き先が、現実には存在しないはずのファンタジーな異世界であるということ以外は。
「あちらで、必要言語の辞書がダウンロードできますので、メールでも通話でもご連絡ください。あっ」
 杏里が少し慌てた口調としぐさで、キットの中から小さなケースを出した。
「このピアスが受信機で、自動的に日本語に変換してくれます。話すほうは、携帯に一度音声入力していただく必要がありますが」

 三俣の前には、うら若く、愛嬌にあふれた女性の満面の笑み。
 うっかりと、ものすごく大事なことを伝え忘れそうになったことなど、感じさせない。
 この営業トークに、なにひとつ不自然なことはないという気がしてくる。三年前、留学案内斡旋業者で、ビザの取得から航空券の購入、現地の空港お出迎えまで、手取り足取り指導してくれたのも、たしかこんな懇切丁寧な笑顔のお姉さんだったと、三俣はぼんやり思い出す。

「じゃあ、こちらが契約書になりますので、ここに署名と印鑑をお願いします」
 三枚綴りの契約書をぱらぱらとめくり、三俣はそれぞれのページに記入していった。杏里は契約書を確認すると、携帯のスキャナ機能で取り込む。それから三俣に渡したドコデモ携帯に画像を転送した。契約書をファイルに閉じる。
 杏里は、ほっとしたように柔らかな笑顔を三俣に向けた。
「契約書は、うっかりデリートしないでください。あちらでも必要になるかもしれませんから。当社特製『異世界の歩き方ガイドブック』も、携帯に内臓されてますから、参考にしてください」
 営業スマイルをたたえたまま、杏里は携帯の通話ボタンを押した。
「宮部主任ですか。三俣様との契約成立しました。BL3・メディーヴァル・第三階層門への座標を開いてください」

 なんとも、ものものしい演出をするものだと三俣はあきれた。どんな世界に連れて行ってくれるのかわからないが、三俣はそのときですら、これから行くのが隣のビルディングの風俗店とか、ちょっと高めのヴァーチャルな娯楽施設くらいしか想像できていなかった。

 杏里はすっくと立ちあがった。ビデオルームの扉まで行き、ノブに手をかける。三俣も急いで立ちあがり、自分の荷物と渡されたキットを持ってついてゆく。
「それでは、どうぞ。ご案内します」
 そこそこ好みの若い女性にうやうやしく促されて、三俣は開かれたドアを通り抜けた。

 突然、強い日差しと砂埃、好ましくない臭いと喧騒に、肌と嗅覚を攻撃された。
 入ってきたときは、たしかにネットカフェのロビーだった静かな空間は消え去っていた。

 そこは、明らかに日本のどこでもない場所だった。

 赤茶けた石畳に露店の並ぶ、ひどく時代がかったどっか遠くの国の大通りが、スポーツバッグを右肩にさげ、左の脇には異世界トリップデフォパックをはさみこみ、両手には三頭身ライオンの絵の描かれた、ドーナツの箱を抱えた三俣拓也の目前に広がっていた。 



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