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No.33207の一覧
[0] その名はキラ・ヤマト[綾](2012/05/22 16:45)
[1] その名はキラ・ヤマト 第二話[綾](2012/05/22 16:46)
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[33207] その名はキラ・ヤマト
Name: 綾◆11cd5a39 ID:8b39f981 次を表示する
Date: 2012/05/22 16:45
人類が宇宙へ進出して十数年。コロニーと呼ばれる砂時計型の宇宙居住施設が建設され、人類はその人口の大半を宇宙へと移した。
コーディネイター。それが彼ら宇宙に進出した新たなる人類の名前である。
彼らは産まれながらにして、高い能力を約束された遺伝子強化型人類。だがそれ故に旧世代の人々は妬み、欲し、そして恨んだ。
血塗られた人類の歴史に、また一つ民族格差以上の垣根ができた瞬間だったのだ。

第一話 偽りの平和

カオシュンが落ちた。その情報は中立国オーブ故にまことしやかに流れた噂だった。
マスメディアという情報媒体は、確証がない故にザフトの侵攻の情報のみを語っていたが、地球に落とされた核を用済みとしたニュートロンジャマーの二次効果、対処不可能な電波妨害により地球連合軍の敗戦の色は濃厚だ。
「だが、情報は必要だ」
快適を約束されているコロニー内において、外装は非常に珍しい物だった。
だがその人物は漆黒のコートを纏い、同じく黒いタートルネックと同色のパンツを穿いていた。
だが通報はされない。無機質なコロニー内部に置いて、自然憩いの場となった自然公園には遊具の類は圧倒的に少なく、それ以上に生い茂った草木が処置を執らずともその身体を隠してくれるからだ。
携帯型ノートパソコンに一枚の記憶媒体を入れるとそれが起動したと同時に、キーボードを叩く。かすんで見えるほどのその速度は、荒い物では無く、むしろ第九の伴奏の様に優しく扱われていた。
ネットに接続し、ラボに架空のIDで侵入する。幾度となく繰り返されてきたその行為は、違法であるハッキング行為に他ならなかった。だが黒髪の少年は一切躊躇することなく、目的の情報を得る。
そしてそれに満足する事なく、更に情報の危険度を掘り下げていく。瞬間、逆ハックが開始され、少年は舌打ちをした。
誰もが退去するであろうその警告めいた逆流。少年はモニターの脇に所在なさげに記されていたアイコンをクリックした。瞬間、文字列が流れたと思うと、逆流は明後日の方向へ少年を見つけることなく過ぎ去った。
それを安堵する様子もなく少年は情報深度を提げていく。そうして得られたのは、五つの人型戦闘機の図面と情報。同時進行していた画面にも出された三つのどこか似た形の人型戦闘機。それらを吟味し、次なる情報へ侵攻した。
数分の時間をおくことなく出てきたのは、今までの宇宙艦あるいは大気圏内の戦闘艦ではあり得ない造形のそれ。流石にこればかりは少年にも判断が付かなかった。
地球連合所属のそれは、中立国オーブで作られている。そのこと自体はどうでも良かった。古今東西、完全なる中立国などありはしないのだから。おそらくは自国軍へのフィードバックが目的だろうと容易く察せられる。オーブという国家は資源、技術共に高レヴェルなのだが、島国故の勢力の弱さ、数の少なさが国防に置いて弱点となる国である。
いずれ地球連合か宇宙に進出したコーディネイターが組織したにわか軍隊ザフトのどちらかに付くのが世の常だ。だが、と少年は自国の首領を思い出す。
戦争を否定し、争う事の愚かさを説く。それは別に構わない。いくら人類の歴史が血塗られているとは言え、次なる戦いの準備期間といえる束の間の平和を保とうとする行為は安全を得ための人類に限らず生物として自然な行為であるからだ。だがその理念を押しつけるのはどうだろうか。
非戦。戦時中に貫くその信念は、自国の防衛が十分にできる強国にしか許されない戯れ言だ。もとから戯れ言でしかないそれが何の冗談かオーブという中程度の強さしかない島国が語る。それは子供のわがままにも及ばない。それを反戦集団が語っているのならば、放置していても問題はない。代案があるわけでもないにもかかわらずただ否定し、その結果どうなるかも解っていない愚か者の集団でしかないからだ。真にそれを貫きたいのならばデモでも何でもやればいい。その実行力もましてや考えすら浮かばないものは単なる愚か者ではなく、人間に産まれてきた事自体が間違いな、ハエの様にただ五月蠅いだけのゴミどもだ。
実際問題中立を唱えていた国々は、戦争が進むにつれどちらかの軍勢に飲み込まれた。時には徹底抗戦し領土を地図上から抹消された国さえある。
だからこそ、膠着状態ではあるものの、どちらかといえば優勢を保っているザフトが使用するニュートロンジャマーがある限り優位を確立し続けるだろう人型自在戦闘機、通称モビルスーツの技術を欲したのも無理はない。
宇宙に浮かぶ一つのコロニーでしかないへリオポリスでは、いかにオーブ所属とは言え本国のコンピューターに繋ぐ事ができないのだが、中立国所属コロニーで地球連合軍がのさばっている以上に、秘密裏とはいえ堂々と兵器開発に協力しているとなれば、開発自体は初めてではなかったのだろうことはコンピューターに潜り込くまでもなく容易に想像できる。そして本国には地球連合と共同で開発した技術をフィードバックさせる下地はできているのだろう事は誰でも予想が付く事だ。
そこで少年は一歩踏み込み思考した。開発が始まっているにもかかわらず、危険度の高い連合との共同開発に踏み切ったのは何故かと。簡単だ。開発が行き詰まった。ただそれだけと思うだろうが、数で押せない以上、兵器に質を求めざるをえないオーブは、技術がなければただ海に浮かぶ島でしかない。旧時代の産物を駆使して戦う事もできるだろう。オーブという国は技術大国として知られ、それ故に古いとは言ってもそれら兵器の質は連合に参加した国々のそれを凌駕する。故に簡単には攻めてこないのだが、そこにモビルスーツというファクターが加われば状況は一変する。
開戦初期に容易いと考えていたザフトとの戦闘は、連合にとって従来の戦闘機が役に立たなくなった事を意味していた。それはつまりモビルスーツを凌駕する兵器を開発するか、連合独自のモビルスーツを開発するしかない事を意味していた。
そのどちらの道を取られてもオーブは易々と組み敷くことのできる弱小国に転落する。それを阻止するには最低限ザフト次期主力のモビルスーツと同性能のそれがなければ国を守る事はできない。尤も同性能であれば守れるのかと問われれば不可能だと答えるしかないのだが。
だから連合と結託しモビルスーツの研究開発を行った事は、戦時中の国家として当たり前の行為だった。それが中立という立場を危なくさせる物だとしても。
更に深度を深めもう一つのモビルスーツの存在を確かめる。全ての問題をクリアし、製造完了した事を見て取ると、痕跡を残さず撤退した。
その動作をしながら、少年にはどうしても解らない二つの事を考える。
一つは新型戦艦。新技術から産まれた熱を拡散させる事で被害を少なくする甲層を持ったそれは、速い足を持ち、陽電子砲を搭載した戦艦であり、モビルアーマーと呼ばれる従来の飛行機にも似た戦闘機はおろか、机上の空論でしかなかった時、既にモビルスーツの搭載を可能な設計図を引きその末完成した空母でもある。それにもかかわらず大きさ自体は従来の宇宙艦と比べ圧倒的に小さい。だが従来の物と比べただけであり、相当大きな物である事には変わりがない。だからこそそれをコロニー内で作っている事が理解できない。
中立である国家のコロニーは当然中立である。本国ですら領海に近づいた武装艦に警告を発し、従わない場合は撃沈も許可されている。コロニーに置いてもそれは変わらず、事実幾度かザフトの艦が警告を受けた事があったことを、ハッキングの末知っていた。だからこそ、完成した戦艦をどうやって地球に、ひいては宇宙空間に運び出すのかが解らなかった。
中立国ではあるが、ザフト、連合ともに潜在的な敵国である事は変わらず、当然スパイも入ってきている。確認こそできていないが居ないという事はあり得ない。それが国という集団なのだから。まして今は世界を二分する戦争の真っ只中だ。一つの国が旗色を変える事の重大さを知らぬはずがない。
そして普通の港口から出したのであれば、厳重すぎるモニターのいくらかに捕らえられ、記録に残る。それはどう考えてもオーブという国家にとって都合が悪い。万が一それを第三者、あるいはザフトに知られれば最悪準備の整わないまま戦火に飲まれる。
モビルスーツも同様ではないか。それはしかし違うのだ。モビルスーツは戦艦に比べ当然小型であり、戦闘で破壊される事を前提にスペアパーツが存在する。つまりバラし安くできているのだ。そうしてただの荷物として送り出せば何ら問題はない。幾らスパイとはいえ、何百もの物資の中からそれを探し当てる事はまず不可能だ。拾えるのは計画の全貌と、電子上に残った設計図くらいの物だ。
もう一つは、この計画がオーブ国家の総意なのかと言う事だ。仮にもオーブ国民であるからには、このような愚策を演じる事が総意であるはずがないと信じたかったが、時に現実は非情である事を少年は知っていた。
今現代の戦争に置いて、尤も必要な物が大義名分だった。十字軍の様にやりたい放題できる時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。徹底的に中立を保っていたオーブだが、この問題一つでどの陣営に旗を変えるか、それが求められる事になる。なりかねないのではない。
少年は首領であるウズミ・ナラ・アスハが退陣するだろうと判断していた。代わりに誰を置くかという事までは解らなかったが、アスハ家との縁が深い者を選ぶだろう。何故ならオーブは五つの氏族が派遣を争う国なのだから。そしてウズミは当代一の切れ者である。裏から操る事は誰にでも想像できた。
当然そんな事はザフトも連合も予想している事であり、連合との合同研究はザフトの怒りをかい、連合に傾く。一度崩壊し始めた砂の城は連鎖的に崩壊し、それを食い止めようと抵抗するが故に完全に連合に吸収される事もなく、焦れた連合が脅しを駆ける事は請け合いだ。そうなれば世論も黙っては居ない。オーブは旧時代の人類であるナチュラルと呼ばれる遺伝子操作を受けていない者達は当然だが、コーディネイターも受け入れている国だ。だがナチュラルがコーディネイターに向ける視線は冷たい物で、中には隠して生活を送っている者とて存在する。それがコーディネイター廃絶論を語る連合に傾くのだから、少なくないコーディネイターがプラントへ昇る事は確実ではないが一つの可能性として十分予想できる。
切れ者であるウズミがその危険性を察しないはずはなく、何処か頭の足りない者が行動したのだろうと予想できたが、連合という組織と繋ぎを取れたのだからそれなりの大物の筈で、しかるべき教育が施されているはずなのだ。国防を急ぐ気持ちはわからない事はなかったがこれは幾らなんでもあんまりだと、何故この様な行動を取ったのかが皆目見当が付かない。ここでは無くオーブから人員を出す事にはなるが、月でやればいいわけは付いたはずだからだ。
盗んだデータから、ソフト面の問題を洗い出す。なかなかに立派なOSだと、皮肉り、修正を加えようとしてゼミの時間だった事を思いだした。
地面に横たえた刀を手に取り、腰にさす。時代の流れは何処に行き付こうとしているのか。乱世に産まれた事を嘆けばよいのか、それとも、
「詮無い事だ」
思考を切って捨て、車を拾うべく人工公園から無機質なコンクリートと、アスファルトで形作られた冷たい空間へと歩み出した。

キラ・ヤマト。そう銘打たれた保険証には誕生日と血液型が記されている。キラ、キラ、キラ…。何時から呼ばれ出したのかすら覚えていないそれは、少年、キラ・ヤマトにとってただの記号だった。
記憶を遡れば初めて耳にした言葉も、景色も、大気の感触でさえ思い出せる。そこは冷たく、暗く、そして幾千もの嘆きと、怨嗟の声であふれかえっていた。
何があったのか、何をしてのか…。一体どれほどの殺人と、虐殺を繰り返せばこうなるのか、それほどクライ場所だった。
辿らなくとも容易く思い出せる日々は、経験した事のない日常という血も、泥も無い平和な世界だった。
母が居て、父が居る。巫山戯てみれば時に笑われ、時に叱られた。向けられる瞳は暖かさに満ちあふれていて、初めて無償の愛を知った。
自分が日常を、平和な日常をおくっても良いのかと、本当に許されるのかと悩んだ事もあった。キラ・ヤマト。その記号が名前となり、発せられる音が、呼ぶ声となった。
だが何の因果だろう。産まれた場所は死が日常茶飯事のクライ底。時代は日に日に戦争という炎が拡大する乱世。育った場所は、理想こそすばらしいものの、様々な思惑が重なった末にかろうじて転落を免れている様な小国。
逃げる事は簡単だった。愛を貰った母を、厳しさをくれた父を、二人を捨ててただ一人殺伐とした命の奪い合いを是とする法のない、力こそが全てという世界に逃げれば愛情以外は何不自由しない世界が待っている事を知っていた。迫り来る戦火はいずれ国を焼く。だができなかった。こんな自分に愛情を教えてくれた、人として生きる事を教えてくれた両親を捨てる事などできはしなかった。
自律システムが組み込まれたエレカカーに乗り込み、大学が招いた教授のラボを指定する。行き先はモルゲンレーテ。最先端技術を多く扱う様々な分野に枝分かれしたコンピューターで制御する自立ロボット、とパワードスーツに代表される補佐型ロボットなどを製造し、更なる発展の為プログラミングとハードの改良、研究を行っている企業。
オープンカーにも似た車は、コロニー特有の雨がない事から天井は勿論、窓すらない。ダークブラウンの髪を揺らしそこに雨を幻視した。
雨の日に生まれ、雨に打たれながら死んだ。その人生に悔いはない。そう言い切れたはずだった。だがそれは愛という与えられるものを知ってしまったが故に、満足できなかった。
罪深いものだと口をつり上げ自嘲する。どれだけ裏切り、殺していった? 慈悲も、命乞いも、ただの一度も与えず許さず切って捨てたのは何処のどいつだ? そう心が呼びかける。けれど捨てる事はできない。何故ならそれを知り、そして自らも与えたいと思ってしまったから。
モルゲンレーテの入り口で通行許可カードをスロットに通す。まるで要塞の如き鉄の入り口が口を開き、車が発進する。それが地獄の入り口の様だと今更ながらに笑ってしまう。
真実許される事はないのだろう。愛を知り、またそれを返したいが為に行った所業は、救われる者がいるにもかかわらず真実救われる者はいない。それに関わる全ての者が、本当の意味で救われるはずがない。
だがそれで良いのだろう。エデンから追放された人は皆、産まれながらにして罪を負う。知恵を得て、道具を使い野を開く。喰われていく緑と動物にはまさしく死の象徴。当たり前の様に食事をするその裏側にどれほど血が流れ、どれだけの生命が消えたのかを知り、それでも尚人は止まる事はない。あるいは止まる術を知らぬだけなのかも知れないが、それらが知恵を持ったが故の罪ならば、神は知恵の結果を知っていたのかも知れない。転がり落ちた石を止める術はなく、しかし流れに乗り方向を変える事だけはできるだろう。それを偽りの救いで満たし、独りよがりな許しとしよう。
だからこそ力が必要だ。車を降り、ラボに向かう足は迷うという事を知らない。ブーツを高鳴らせ、偽りの平和を謳歌する。そう、
「平和とは戦いの準備期間なのだから」

友人とは何だろうか。その問の答えは様々だろう。キラ・ヤマトにとってもそれは同じだった。
コーディネイターという新たな人類は、旧人類といわれるナチュラルを馬鹿にする事が多い。そしてナチュラルは選りすぐれた人類であるコーディネイターを妬み、恨む。
それはまだ大きな子供で居られる学校内でも同じ事だった。幼いコーディネイターが年を重ねたナチュラルに混じり講義を受ける事は珍しくもない。だがそれは妬みを一心に受ける肝が座っていなければそうできる事ではなく、それ故にコーディネイターはそれなりの年齢になると、コーディネイターが集まったプラントへ向かう。そうしてプラントはできあがっていったと言っても過言ではない。
キラにおいてもそれは変わらず幼い頃から妬みの感情とは近しい友人であった。だが忘れては居ないだろうか、コーディネイターを生み出したのはナチュラルであるという大前提を。同じ者達の中でも秀でている者は当然存在する。コーディネイターは秀でているが故に恨まれた。では彼らは? 
そんな状況からか、目の前の集団とは比較的うまくつきあえていると言っても過言ではない。スキップをした者達との境遇は似ている。
画面を見つめ集計を取っているサイ・アーガイル。パワースーツを着たカズイ・バスカーク。カズイを茶化し外部からパワードスーツを操作しているトール・ケーニヒ。それを止めようとするミリアリア・ハウ。皆低年齢で、幾度かスキップし大学に入学した才ある者達だ。
この空間が心地よくないと言えば嘘になる。微笑みながらそれを見守っていたキラは視線を壁により掛かった人物へと向けた。
土色のコートにベレー帽にも似たかぶり物。金色の髪は短く発せられるそれは鋭く感じられ、男だと誰もが思うだろう。けれどキラはその性別を正しく女だと判別し、その正体をも読みとった。
カガリ・ユラ・アスハ。オーブを頭の娘である。簡単すぎる変装は、それ故に誰にも看破されない。カガリが表舞台に出るときは決まってドレス姿だったからだ。
何故こんな所にと思わない事もないが、おそらくは独断専行だろうとオーブの守りを不審に思った。あるいはどうでもいいのだろうかということが脳裏に過ぎったが確率は低い。
VIPが訪れる事は珍しくない。だがそれを出迎えるのは決まってお偉い方であり、招かれたとは言え一介の教授ではない。だとすれば目的は自然に読めてくる。
データを取る振りをして、先程手に入れたOSの改造を開始した。基礎理論は解っている。後はOSを完全無欠に消去して、一から作り直す。何も問題はない。発想をファイルに置いてきたのは自分なのだから。だがそれでできあがった基礎も時がたった今では過去の遺物でしかない。元々何処まで使えるか試すためのとっかかりでしかなかったのだ。それを発展させてもそうそう光るモノはできはしない。
最後の一文を終え、保存した瞬間、付属のライトが点灯した。
それは小さな物故に誰も気が付く事はなかったが、キラの顔を見れば慌てる事だろう。自分でも解るくらいに血の気が引いている。
マズイマズイマズイマズイ。慌てて以前通りのパスワードを埋め、直接アクセスした。
「冗談じゃない!!」
思わずもれた怒鳴り声は、同時になった爆音にかき消された。

どうしようもない。それが素直な感想だった。何事かと困惑する友人に、モニターに映ったモビルスーツを見せ、シェルターへ避難させた。そこまでは良い。人の良い友人達も、困惑の次にザフトという軍としては規律が曖昧なそれの尤も有名な兵器、ジンと呼称が付いたモビルスーツを見れば、隣の者を気にしつつも一度避難へと流れた雰囲気を修正する事は不可能だ。
「お父様の裏切り者ぉー」
だから今はこの馬鹿をどうにかしなければならない。言葉を出すよりも少女を強引に立たせ走らせた。背に感じるその視線は鋭く瞬間爆発音と共に銃弾が飛び、手すりに跳ねた。
「走れ! 殺されたくなかったら!」
泣いている少女の手を強引に引き、そこへ向かう。
バカだバカだと思っていたが、此処までバカだとは。自国に罵声を浴びせ辿り着いたエレベーターにも似たシェルターの呼び出しボタンを叩く。
「まだ人がいたとは…」
「一人乗っけて下さい。呼び出しますよ、呼び出しますからね!」
戸惑う応答に一時の時間も無駄にするなと言わんばかりに言葉を放つ。その間に端末を繋いでおいたパソコンから本来内部からしか操作できない昇降機を呼び出す。
「お、おい、お前なに」
「見て解らないのか? 君を入れるんだよ!!」
その鬼気迫る勢いに押されたのか、強気だった少女が言葉に詰まった。それに半ば八つ当たり気味に返し、エンターキーを押す。
「でも、お前」
「お前、お前って、初対面なのにそれ!? いいから早く乗って!!」
僅かな時間差を置き開いた昇降機に、強引に少女を押し込む。
「お前! どうするんだよ! おい、おま」
それでも抗議する声は自分はおろか天も五月蠅く感じたのだろうと、漸く閉じた扉を見つめる。
全く持って冗談じゃなかった。一瞬だったが、銃弾の飛び交う戦場の舞台は、確かに三機の巨大な物が置かれていた。
「モルゲンレーテの」
瞬間怒号が響く。まさに魂の叫びといえるそれは、戦場にも届き、偶然にも一人の若き軍人の命を助けた。
「…バカ野郎」
モルゲンレーテでそれが製造される情報は連合との共同作業という考えもしなかった情報と共に知っていた。それ故に本来存在しないはずのもう一機を、プロジェクトが決定され、本国から情報の受け渡しと、それを責任者が確認する僅かな間にもう潜り込ましたのだ。ご丁寧にも最高機密事項と銘打って。
他の機体は関係ない、と言えば嘘になるが、その機体の情報は本国には送られなかった。連絡先を最高機密事項故にという大義名分で本国とは何も関係ないサーバーのボックスに送らせたからだ。
その存在を知っているのはヘリオポリスの最高責任者とサーバーの管理者、そして自分だけだ。最高責任者と自分はともかく、サーバー管理者がその意味をわかるはずがない。暗号ファイルだからと言う理由もあるが、それ以上に個人情報保護法に則って見るわけにはいかず、そして何万とあるボックスをいちいち確認する事が事実上不可能だからだ。
にもかかわらず三機、先程の場所にあった事は、その中に目的の物が含まれている可能性が高いと言う事。秘密区画はオーブが極秘開発したモビルスーツの墓場にほど近く、墓場は連合の区画に近い。現場担当者ならばそれの特異さに気が付くだろう。破棄命令を出しては居なかったが、それ故責任者は壊すべきかどうかを悩み、先に完成したモビルスーツの運搬を実行した事は想像に難くない。そしてその班が爆破の衝撃で壊滅した事はいの一番に確認した。
そんな放っておくにはもったいなさ過ぎるそれを、ザフト襲撃というどさくさに紛れて持ち出そうと連合が考えるのも無理はなかった。
ついでである以上、一番最後に運び出されるのだろうが、事は急を要する。何処からもれたのかすらどうでもいい。ザフトが連合軍のモビルスーツを奪おうが破壊しようがどうでもいい。むしろその方が戦局はややザフトよりから、それなりにザフトよりになるだけで、本国の誰かが歩み寄った連合軍の旗色が悪くなり、本国が動ける時間ができる。
キラはどちらが勝とうがどうでもいいと思っていた。ザフトが勝てば大々的にコーディネイターの数を増やそうとする事は確実。それによるナチュラルへの差別は広がるだろうが、両親にそれを許すほどぬるま湯に浸りきっていない。両親はナチュラルだ。だがそれ以上に両親は親なのだ。世間には子供をないがしろにするどころか虐待する者もいるが両親はそんな邪悪な存在ではない。ナチュラル、コーディネイターに関わらず危害を加える者に容赦する必要性を感じることはない。
地球連合が勝てば、今度は大西洋連邦とユーラシア連邦、東アジア共和国で割れるだろう。それだけでなかなかに平和な次期が続くだろう。あるいは勝ち馬に乗る可能性がない事もないが、ウズミが居る限り敗退はない。最終的にはコーディネイター憎しの社会になるのだろうが、両親はナチュラルだ。自分一人消えればいい。親孝行を十分にできない事は心残りになるだろうが、両親さえ無事ならばそれで良いのだ。
オーブは決定的に間違った。連合とモビルスーツを作り上げた事は中立という看板に泥どころか灯油をぶちまけて火をつけた様なものだ。今までの信用が地に落ちる事は請け合いで、いずれどちらかの陣営に与しなければならない事になる。今回ザフトはるばるヘリオポリスまで出張ったのだ。更に既に外に出た三機の機体は既にザフトの手に落ちているだろう。証拠を押させられれば言い逃れはできない。山狩りは大人数で太鼓を鳴らしながら獲物をそれがない安全だと思う所に追い込み囲って仕留める。囲いこそしないもののザフトのやり方はまさにそれだ。
情報でしか知らないものの、モビルスーツに施されたフェイズシフトなる甲層は物理ダメージが効かない。それは電気を通す事でなしえている者でありエネルギー消費が激しいが、量より質を求めなければならないザフトには程から手が出るほど欲しいものであり、連合に渡れば困るものだろう。それほどの価値がある。だが言ってしまえばそれだけなのだ。戦局を大いに左右するものではない。
だが、滑り込ませ開発させた機体はそうはいかない。武装にも寄るが凡そ百機あればオーブくらいはどうとでもなる。攻める事は当然、守り通す事も。尤も守る場合は最低でもジンクラスのモビルスーツが雑兵として必要ではあるが。
さらにそれは個人の資質、あるいは技量が秀でていればいるほど戦力が増加する。そんなものはコーディネイターで組織されているザフトは勿論、連合ですら恐くて渡せない。何が起こるか予想できないのだ。ザフトがそれを使いどういった装備で何処を攻めるか、連合が数にものを言わせどう脅迫するか。全く予想が付かない。どちらか一方の軍に渡った瞬間、モビルスーツというロボットの概念が崩れ去る。
廊下を走り、目に映ったのは手すりから狙撃しようとしているザフトの緑。
「ええい、くそったれッ」
左手を脇に入れ狙うまでもなく感覚で撃つ。軽い爆発音と共に衝撃が手に響く。三連射したそれは、外れることなく脇と胸に当たり僅かな血飛沫とともに倒れ伏した。
その射撃音に整備兵らしき髪の長い連合の軍人が振り返るが敵意を感じないので無視をした。撃ったザフト軍人は雑兵だが見過ごすわけにはいかない。奪うのか破壊するのかは知らないが、中枢のデータは一つも奪われるわけにはいかないのだ。
ザッと五メートル。手すりから地上への距離を読みとり一瞬の停滞もなく手すりに片手を着き飛び降りた。
「ハマナ!」
先程助ける形になった連合兵はどうやら女性だったらしく仲間が地に伏した事に悲鳴にも似た叫びを上げた。
「最悪だ」
そう最悪。それは連合兵が次第に駆逐されていって居る事ではない。女性のいる位置こそ目的の機体のコクピット付近なのだ。それだけならば左手の銃で撃ち抜けばいいのだが、その女性兵にザフトの兵がものすごい勢いで近寄っている。それもエリートの証である赤服だ。
状況認識。瞬間足に力を込めた。
リミッター解除、総合五十パーセント解放。まるでクランチスタートのように姿勢が低くなった。
エンター? 口の端をつり上げ言葉を口にした。レリーズ、と。
解放された肉体は、風に舞う僅かな粉塵を残しその場から消えた。

「ふぇ」
間抜けな声がもれたがそんな事はどうでも良かった。それは女性兵にとって未知の体験だった。何もない空間に突如風と共に黒ずくめの少年が現れたのだから。
「どけ」
瞬間、背筋に悪寒が走る。逆らってはいけないと。それは人類という種が忘れ去った本能という名の警鐘。自然体が下がる。そこに機密保持などといった人間社会での規律は残っていない。見れば走ってきていたザフトの兵士まで固まって居るではないか。
冗談じゃない。それが嘘偽りのない思いだった。ザフトの急襲? 打ち合いでの命の危機? 確かに焦るべき状況であり、事実焦り恐怖も感じた。死ぬ覚悟ができていたとは言わないがその可能性は考慮に入れ軍に入り戦場にも行った。だが、これはない。これほど怯え、恐怖した事はない。
例え横にいた同僚が頭をザクロの様に飛び散らし、脳漿と血の臭いを円満させ、あげくに顔にべったりと液体が付いたとしても、此処まで濃厚な死の気配は感じないだろう。
「どうした、さっさと失せろ」
低い声が聞こえる。まだ幼さを残したそれの筈なのに、現在君臨する王よりも、身近ではなくとも貫禄を出していた提督よりも尚力の強いこの世のものではない神を幻視した。それが黄泉を支配する地獄の魔神なのか、槌を持ち戦場を駆ける戦神なのかは解らなかったが、逆らえば明日はない事だけは明白だった。
「キ…ラ」
その声に黒衣の少年はザフト兵に向き直った。本来ならこの瞬間を逃さずに銃を向けるのだろうが、そんな事はすぐさま却下した。武術は整備兵故に簡単なそれしか習っていないが、それだけでも仕掛けた瞬間映像が止まるのが解ったからだ。それはシュミュレート不可能ということなのか、それとも…。
「その声、アスランか」
訝しげな声を黒衣の少年は出した。この瞬間だと、反撃ではなく逃亡する事を体が選択した。幸いコクピット口は空いている。当たりは既に火の手が上がり、生存者も此処にいるものだけ。それはザフトとの応戦、その撤退を先程まで行い確認した事なのだから正しいはずだ。
救える者もいるかも知れない。それは先程まで思考の片隅にこびりついていたが、黒衣の少年の登場と共に頑丈な独房のなかに厳重に封印された。
「キラ…何故ッ! 何故こんな所に!!」
さっと少年の横を通り過ぎ、コクピットに体当たりをした。心臓が暴走したかの様に脈を打つ。そっと左肩を触った。生唾を飲む音がやけに響き、思考がまとまらない。
そう、彼は触れたのだ。奇を付いた成功するはずの完璧なタイミング。もう一度やれと言われてもおそらくは不可能だろうそれは、完全に反応され、
「……見逃してくれた?」
触れられた。そう、触れられただけだったのだ。少年はコーディネイターだ。それくらいは解る。だからと言うわけではないが触るのでなく、鳩尾を殴るなりして無力化する事も可能なはずだった。それを触れただけで終わらす。
女性整備兵、マリュー・ラミアスはモビルスーツという殻に閉じこもる事ができるというにもかかわらずそれをしなかった。いや、できなかったと言うべきだろう。機動ボタンを押そうとした瞬間、今度こそリアルに想像できたのだ。第三者の視点から首のない見た事もない血飛沫を切断面から吹き上げる自分の姿を。

それはおかしな問いだった。その瞬間に女性兵がコクピットに逃げ込んだ事は悟っていたが、まあ良いだろうと見逃した。これをチャンスと捕らえるのは勝手だが、それを許すつもりはない。動力が回った瞬間が彼女の死は決定される。それほど近くにコクピットの入り口はあった。
「何故? 何故か。それはお前こそ問われるべき存在だ」
だからちょっとした余興を楽しんでも構わないと判断した。そして何より情報が決定的に欠けている。ザフトの狙いがモビルスーツの強奪なのか、破壊なのか。それだけでも知っておきたかった。
「レノア・ザラ。お前の母の名だ。居たんだろう? 彼女があそこに」
レノア・ザラには世話になったと脳裏に何時も微笑みをたたえていた女性を思い出す。両親がナチュラルだというにもかかわらず月で親切にしてくれた唯一のコーディネイター。ナチュラルもコーディネイターも同じ人類だと、ちょっと違うだけだと蔓延しつつあった差別意識を全く持たなかったまるで天使の様な女性だった事を覚えている。
「そうだ。君も知っているだろうナチュラルどもはあそこに、ユニウスセブンに核を打ち込んだ! プラントの自作自演だと謝罪一つ無かったッ! 俺は、俺はそんなナチュラルどもが、もうあんな事を起こさせない為に軍に入った!! だけどキラは、何故君は地球軍なんてッ」
ナイフを持つ手に力が入るのも、歯を食いしばるのも、そして怨敵を前にしたかの様にきつく睨む暗い炎が混ざった瞳も全て受け止め、それでも尚キラは笑った。それはお前らザフトも同じだと。
「アスラン、お前は忘れていないか? 此処が何処かと言う事を。中立国オーブに所属しているという事」
「戯れ言を」
「聞け」
否定の声だろうそれを言いかけたアスランを押しとどめ、静かに目を伏せ、開いた。
「中立国を襲う。そんな事はどうでもいい」
「何を言って」
「どうでもいいんだよ。だが襲うお前達が絶対に忘れてはいけない事がある。機体を壊しに来たのか」
青みがかった透き通った紫色の瞳に絶対零度の、存在しないはずの凍てついた炎を燃やしアスランを見据える。そこには一切の虚偽を許さない統べる者の風格が存在した。
「…奪取だ。だがッ」
「モビルスーツを開発し運用するナチュラルどもにあの悲劇を繰り返させないため。そう言いたいのだろうが、既にその悲劇は形を変えこの地を襲っている」
「何を、俺たちは」
「アスラン」
その声はさして大きくはなかったが、耳ではなく体全体で聞き、脳に直接響いているかの様に鮮明に伝えられた。
「ヘリオポリスで死者はどれくらい出るのかな?」
死者、そうアスランは漏らした。
「気付いているかモビルスーツをそれように設定された場所でない住宅も存在する地で暴れさせた意味を。此処に転がっている輩は元々死ぬ事を是とし、危害を、殺す意思と行動を自ら選んだ者達だ。お前が悔いる必要はない。だが普通に暮らしていた者達はどう思うだろうな? ザフトご自慢のジンはさぞ恐ろしく映ったことだろう。魂をあの世まで導く死神の様に温情があるそれではない、ただ破壊を振りまく圧倒的な死の象徴として映った事だろう」
その言葉にアスランは口を開いて、その顔を驚愕に歪めた。まるで出るはずの声が出なくなったかの様に。
「何も言えまい。お前達は何かとユニウスセブンを持ち出すが、自らがそれを行った野蛮と蔑むナチュラルと同じ行為をしている事に気が付いていない。お前の母が言っていただろう? コーディネイターはナチュラルよりも少しだけ丈夫にできているだけだと。考え方、思想が変わった訳じゃないのだと。その意味がわかっているのか、アスラン」
「俺は…」
俯いたアスランだったが、そっと呟く様に声を絞り出した。
「だったら、だったら何故君がそこに居るんだ」
「居るのは当たり前だ。俺のモビルスーツまで持って行かれたら困るからな」
片目をすがめるキラに、アスランは勢いを取り戻した。
「やっぱり君は地球軍に」
「それは違う。と言っても聞きはしないのだろう? ならば確かめればいい。すぐ横にまだ余っているだろう? モビルスーツは。乗っていけ」
目をそらし側に横たえられたモビルスーツをさす。そして頭を傾げた瞬間、発砲音が鳴った。
「ラスティー!」
「アスラン今だ!」
促す同じ赤を纏った人物が手で招く。その顔は青白く、死んでいると言われても納得がいくほどだった。
「キラ…本当だな」
「良い友人を持ったな、アスラン」
あえて質問には答えず笑みを浮かべ銃をしまった。それを合図に下がっていくアスランを見て、漸く自らの機体として金以外の全てを与え作らせた専用機とも言えるそれに乗り込んだ。


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