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No.33206の一覧
[0] 星の精霊 [綾](2012/05/22 14:34)
[1] 星の精霊 第二夜[綾](2012/05/22 14:35)
[2] 星の精霊 第三夜[綾](2012/05/22 14:37)
[3] 星の精霊 第四夜[綾](2012/05/22 14:38)
[4] 星の精霊 第五夜[綾](2012/05/22 14:39)
[5] 星の精霊 第六夜[綾](2012/05/22 14:40)
[6] 星の精霊 第七夜[綾](2012/05/22 14:40)
[7] 星の精霊 第八夜[綾](2012/05/22 14:42)
[8] 星の精霊 第九夜[綾](2012/05/22 14:43)
[9] 星の精霊 第十夜[綾](2012/05/22 14:44)
[10] 星の精霊 第十一夜[綾](2012/05/22 14:45)
[11] 星の精霊 第十二夜[綾](2012/05/22 14:46)
[12] 星の精霊 第十三夜[綾](2012/05/22 14:47)
[13] 星の精霊 第十四夜[綾](2012/05/22 14:47)
[14] 星の精霊 第十五夜[綾](2012/05/22 14:48)
[15] 星の精霊 第十六夜[綾](2012/05/22 14:49)
[16] 星の精霊 第十七夜[綾](2012/05/22 14:50)
[18] 星の精霊 第十八夜[綾](2012/05/22 14:51)
[19] 星の精霊 第十九夜[綾](2012/05/22 14:52)
[20] 星の精霊 第二十夜[綾](2012/05/22 14:53)
[21] 星の精霊 第二十一夜[綾](2012/05/22 14:54)
[22] 星の精霊 第二十二夜[綾](2012/05/22 14:55)
[23] 星の精霊 第二十三夜[綾](2012/05/22 14:56)
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[33206] 星の精霊 第十七夜
Name: 綾◆11cd5a39 ID:8b39f981 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/22 14:50
霊脈が乱された。その存在はそれを感知し、そして乱された霊脈が自らのところへ届いているのを感じると急ぎ溢れんばかりの力を吸収し始めた。
それに理性はなく、また同様に本能も無い。ただ力がなくなった本体が眠っている以上、本体を起こすに足る、あるいは本体が嘗ての力を取り戻すに足る力を得ることこそが存在意義だった。
だからその存在は近くに存在する星の眷属を察知できない。本体が蘇ったとき、警告を発することが出来ない。
それは善なるものであり、そして巨大な悪でもあった。
ドクリとそれが脈打つ。復活のときが訪れる……



第十七夜 二人の人外、そして契約



横島は唸っていた。多大な代償を払ったが、それは完成した。
未だ嘗て成功した者、否基礎理論はともかく、材料を手に入れられた者が皆無だった故に成功させた者は居ない。それゆえに名前の付いていないそれは、力が強すぎ、寧ろこのまま言霊と言う力を持たせないほうがよいのではないかと、思う。
唸りに唸り、さんざん悩んだ結果横島は命名を避けることに決めた。

「忠夫、さん…」

腕が豊富な何かに埋められ、反射的にその人物を抱きしめた。
紅い髪を短く切り、抱きしめれば折れてしまうのではないかと思わせる今は毛布で見えないくびれの付いた体。昨晩まで琥珀はその全てを使って、最も効率のいい力を高める粘液交換を休むことなく続け、使い魔という通常とは体力の桁が違うそれを全て使い切り今朝方漸く眠った。
そのおかげか、腕一つ動かすにしても神経を集中させなければ出来なかった力は、自由に動かせるようになり、通常の三分の一まで回復した。
霊力中枢も全力稼動は未だ無理であったが、供給と消費のバランスを供給に傾かせ霊力を生み出している。
バックアップからの供給は回路が未だ傷ついていることから意味を成さない。
吸血鬼は強い。それは世界の真実だ。だがその力を使い切ることは稀で、一度使い切れば重油タンクのように内包する力が大きいので、そうそう通常値まで上げることは出来ない。
一人の王と、二人の姫君であれば存在の次元自体が違うので、枯渇したとしてもバックアップの影響から一秒と断たないうちに回復するだろう。それは霊力中枢や回路が傷ついていたとしても同じことだ。それらの損傷も瞬くうちに治ってしまう。
だからこそ、吸血鬼とはいえ爵位などの位を貰っていない一般の家系である横島は、枯渇した状況から三日と言う時間で此処まで回復させた琥珀に感謝しているのだ。
いい使い魔を持ったな。そう紅い髪をなでながら思う。結婚し、子をなす相手は決まっている。別段その者が嫌いと言うわけでも、縁談に不服があるというわけでもない。横島は、寧ろその相手、エヴァンジェリンを好いていた。
だがそれは異性に抱くものではなく、友人のそれだと気付いていた。そしてエヴァンジェリンはそうは思っていないことも察していた。
嫌々ではないが、望んだわけでもない。一方的に好かれ、話が出来上がっただけ。そう冷たく突き放すこともできる。吸血鬼社会は大方婚約者が決まってからその人柄を知り番になるのだが、その中には勿論そりが合わない場合もある。だが横島はそこまでできなかった。
マクダウェルという古くから続く家柄や、公爵という王家の血筋だからではない。エヴァンジェリンを傷付けたくないからだ。
焦らずに好きになっていけばいいのだと分かっていた。体を重ね情を通じさせる。順序が逆でもかまわないではないかと。
事実エヴァンジェリンは美しい。今はまだ可愛らしさが前面に出ているが、後数年。最低でも十七になればそれは美しいと言う賛辞に変わるだろう事は誰にでも予測できた。
横島も男だ。情がなくとも姿かたちだけでひと時の快楽を味わおうとエヴァンジェリンに迫る可能性が十分にあることを自分で知っていた。堕ちない限りは、非常に出来のいい吸血鬼の理性すら容易く引き千切るだろうその美貌。だからと言って愛せると断言できるわけではないが、横島は自分が大切にしているものに永遠に情を持たないことなどありえないということを客観的に見ていた。
吸血鬼の一生は星の一生と同義。その永遠ともいえる年月の中で炎のように情熱的ではないが、そのかわり永遠に燃え、街路を照らし続ける街灯のような、闇を切り裂き安らげる光を灯そうと決めていた。
だがそれでも不安があった。万が一愛せなかったらと言う不安だ。
容姿は勿論だが、エヴァンジェリンの大よその体形から、その性格まで旅立つ翌年まで交流があり、さらには先日会った事から知っており、異性への愛情を持てるという核心があったが、それでももしもと、愛せないときのことを考えてしまうのだ。
同じときを多く過ごした故に分かってしまう。愛せなかったときエヴァンジェリンが堕ちることを。
彼女もこの修行で様々なことを経験していくのだろうと、横島は分かっていたが、堕ちてしまうことが予想できてしまうのだ。それは友人として非常に悲しい。笑って人の殺せるような者になってほしくはなかった。
その点琥珀はどうだろうか。体を重ねていることはただ効率が良いからではない。心を奪われたのだ。創造して初めて名を授けたときの笑顔に。その何時も明るい性格に。
誰にも渡したくない。そんな想いを持ったのは初めてだった。だから思い悩んでしまう。琥珀とエヴァンジェリン。どちらかを選べと突きつけられたらと。
エヴァンジェリンの家は、マクダウェル公爵家なのだ。権力を乱用するような吸血鬼は堕ちない限りいないが、たかが使い魔と比べたときの怒りは相当なものになるだろう。それくらいは横島にもわかる。幾ら理知的な吸血鬼であっても、感情がないということはないのだ。
いつか来るだろう選択の時を思って横島は溜息を吐いた。
だが流石の横島も知らない。エヴァンジェリンが既に琥珀との関係を知っていることを。それを容認していることを。全く知らなかった。
ドクリ。その岩は周囲の霊気を鼓動させ、木々に止まった鳥たちを羽ばたかせた。岩に刻まれた文字が発光し、まるで爆弾の閃光のように辺り一帯からの干渉を不可能にさせたあと、そこにいたのは金色の尾をたなびかせる一匹の狐が四肢で立っていた。
森の中は弱肉強食だ。それが真実の世界。人がはるか昔に忘れ去ってしまった真理。
そんな法則にのっとれば狐とはさほど強い力を持ってはいない。だがその狐にしてみれば、人間をも凌駕する絶対者の素質が存在した。そう、

「おいしそうな匂い…」

金色の尾が九つあるその存在は、アジア圏で知らない者がいないと言い切ってもよいほどの大妖。

「人かしら」

そう、かの九尾の狐だった。



カタリ、と琥珀の手が止まった。手に持たれたフランスパンを握りつぶし、ハムが滑り落ちる。
目を寄せるのは主横島が眠るテント。取られるべきアクションは、されど何も起こしていない。
それが取るに足らないことなのか、出来ないのか。だがとにかくと琥珀は剣を手に取った。
ガサリと近くの茂みが揺れた。琥珀の顔が固い。それはその者の力を把握しているが故に。
それがなんなのかは知らない。だが感じる霊圧から尋常ならざる伝説級の妖怪だということが分かった。
勝てないかもしれない。額に汗が浮かぶのをとめられない。琥珀の基本スペックは高い。最高の使い魔である琥珀は、同時に最大戦力でもあるのだ。さらにはその力は製作過程や主の力量に比例すると言うのだから使い魔という従うものであれば、最高峰の能力を持っていることが伺える。
だが、今回は横島の消耗を回復させる為にその力を大きく削った。
茂みから現れたのは、一匹の狐だった。その瞬間琥珀の脳裏に二つの可能性が浮かび上がる。
神に程近い天狐か、妖狐か。天狐は狐という種族にしては珍しいことに群れで活動する。その事から天狐の確率は低い。一秒にも満たない時間で琥珀は妖狐だと判断した。
腰を落し柄を握る。琥珀としては不意を付き一撃で仕留めたかったが、妖怪のいざこざはそういった偏見から来ていることも知っていたのでそれは出来なかった。主に似たのか琥珀も出来れば戦いたくはないのだ。
そうして出て来た妖狐を見て目を見張る。
「九つ。まさかッ」
妖狐は力が増すにつれて尻尾の数が増えていく。歴代最高本数は九つ。そしてそこに至ったのはただ一人。
その妖怪は人の世で悪だと断じられていた。だが同じ妖怪は知っているのだ。その美貌を惜しんだ人間たちこそが諸悪の根源だと。

「どうしましたか?」

だから琥珀は戦闘態勢を解いた。妖怪ならば琥珀のことを人間だとは思わない。すぐさま正体を見破るはずだと知っていたからだ。
人間に散々な目に合わされてきたその妖怪は、相手が人間ならば警戒するだろうが、それ以外、そう琥珀や横島には怯えることなどない事を分かっていた。
「…お腹すいた」
だからその言葉にも笑顔で頷いた。



「忠夫さん」
そう言って琥珀がテントに入ってきたのは夕暮れも間近な夕食の時間帯だった。
吸血鬼である横島は食事が絶対に必要というわけではない。栄養をとらなければならないが、それは霊的エネルギーの摂取という注意書きが付く。魂の宿っていない人工物の食料は摂取しても意味はない。直接口にする以外に消化器官を使わずに霊的エネルギーを吸収する方法があるが、その際僅かばかりの霊能力を使うので緊急時以外は食事を取った方が効率的だった。
だが、今はその食べる力がない。正確に言うならば食べる量と、消費エネルギーが等号で結ばれる。故に横島は回復に必要なエネルギーを吸血か、粘液接触、あるいは粘液交換で互いを高めあう尤も効率の良い方法で取っている。
だから夕食は琥珀の夕食なのだ。使い魔であっても魂を持った生き物なのだからそれは当然の事だった。

「何か問題でもあったか?」

横島は自らを呼ぶ声にうかがうかの様な響きを感じ、静かに問うた。

「その…お客様が」

客? と声を漏らし訝しんだ横島は身を起こした。師であり、保護者代役の唐巣には何日か帰らない事を知らせている。場所も知らせており、何をするのかまでは明かしていないが理解を示してくれた。邪魔はないだろう。だが急な徐霊が入ったのならばその限りではない。

「すまんが先生には」
「いいえ違うんです」

今の弱った体でできる事はないと、横島は否定の声を上げたが琥珀は一つ断ると入り口から横にどき、誰かを招き入れた。
一つに縛った長い黄金の髪。鋭利な顎のラインに桜色の唇が色をのせ、その上に整った鼻梁が欧米人の様に高く、されど油っぽさから真逆の白い肌を持ち、それらを統括するように配置された目筋は鋭く、きつい印象を受けたが、全体像が整っている事からむしろ一つの美として完成していた。

「…貴方がタイプ・」
「そうだ、吸血鬼だよ。東洋の魔女」

尤も今はこんなのだがね。言葉を遮る様に横島は言い放ち、その瞬間明らかにそれと解る様に絶対的な自信をあふれさせた吸血鬼として存在した。
それに中学高学年、高く見ても高校二年生が限界だろう少女は僅かばかり片目を細める。

「それで私に何のようかな、玉藻御前?」
「その名は死んだわ。できるなら、タマモ、そうタマモって呼んでくれるかしら」
「ではタマモ。何を求めにやってきたのかな?」

横島は目の前の少女が嘗て東南アジアに恐慌を招いたとされる大妖怪である事は解っていた。そしてその力がほぼ完璧に戻っている事も。

「…単刀直入に言うわ。保護してくれないかしら」

その言葉に横島はタマモの傍らで苦笑している琥珀にそう言う事かと納得した。
昔と今では霊能力者の質が落ちている。それは歴然たる事実だ。だがその代わり使用道具のレヴェルが上がっているのだ。そう霊能力者でなくとも霊や妖怪をそれと解り、尚かつ少しだけでも霊能力があれば常人であっても最下級の連中を祓える程に。
妖狐の変化は完璧である。だが万が一と言う事を考えたのだろう。元々妖狐は保身に長けている。それは力が弱い事を表しているのではない。むしろその逆で、力が強いからこそ人間界にとけ込もうとするのだ。
それは人の暮らしが野生よりも比較的安定しており、尚かついざというときは力で圧倒してしまえるからだ。それは妖怪というなわばり意識の強い者達なのかで緊張の連続の中に過ごすよりもずっと平穏である。
当然人間界にも闇があるが、単純な力の脅威と言う面だけでは人間界は過ごしやすいのだ。
それは知能があり、尚かつ人間と外見がそう変わらない、あるいは変化出来る妖怪ならば当たり前の事で、事実狸の一族は年々人間に混じる数を増やしている。
力の弱い妖怪ならば、力という防御手段がない故に、危ない橋を渡る事にも繋がる。その代わり違和感を感じさせにくい。だが、大妖怪となるとその妖力の強さ故に、人の第六感を刺激してしまうのだ。それはばれやすいという事と同義であった。だからこそ万が一のためを思ったのだろう、と横島は判断した。

「別に良いが、働いて貰うぞ」
「もとからそのつもりよ」

それらを考えて横島は、これも一つの試練だと受け入れる事にした。その中に少なからず唐巣の性格を考慮に入れていたが。

「では早速仕事だ。琥珀と食べるものを食べろ」

その後は寝ろ。驚くタマモに、横島は用は済んだとばかりに横になった。
何の事はない。ちょろいもんだ。そう思ったタマモはその夜後悔する事になった。すぐ隣で行われる事。その意味を正確に理解していたが、真っ赤になった顔は隠せなかった。


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