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No.33206の一覧
[0] 星の精霊 [綾](2012/05/22 14:34)
[1] 星の精霊 第二夜[綾](2012/05/22 14:35)
[2] 星の精霊 第三夜[綾](2012/05/22 14:37)
[3] 星の精霊 第四夜[綾](2012/05/22 14:38)
[4] 星の精霊 第五夜[綾](2012/05/22 14:39)
[5] 星の精霊 第六夜[綾](2012/05/22 14:40)
[6] 星の精霊 第七夜[綾](2012/05/22 14:40)
[7] 星の精霊 第八夜[綾](2012/05/22 14:42)
[8] 星の精霊 第九夜[綾](2012/05/22 14:43)
[9] 星の精霊 第十夜[綾](2012/05/22 14:44)
[10] 星の精霊 第十一夜[綾](2012/05/22 14:45)
[11] 星の精霊 第十二夜[綾](2012/05/22 14:46)
[12] 星の精霊 第十三夜[綾](2012/05/22 14:47)
[13] 星の精霊 第十四夜[綾](2012/05/22 14:47)
[14] 星の精霊 第十五夜[綾](2012/05/22 14:48)
[15] 星の精霊 第十六夜[綾](2012/05/22 14:49)
[16] 星の精霊 第十七夜[綾](2012/05/22 14:50)
[18] 星の精霊 第十八夜[綾](2012/05/22 14:51)
[19] 星の精霊 第十九夜[綾](2012/05/22 14:52)
[20] 星の精霊 第二十夜[綾](2012/05/22 14:53)
[21] 星の精霊 第二十一夜[綾](2012/05/22 14:54)
[22] 星の精霊 第二十二夜[綾](2012/05/22 14:55)
[23] 星の精霊 第二十三夜[綾](2012/05/22 14:56)
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[33206] 星の精霊 第十六夜
Name: 綾◆11cd5a39 ID:8b39f981 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/22 14:49
木々が生い茂る森の中。そこだけが木々の侵入を遮っているかの様な泉の脇で横島は結界は引き終わった。
そして泉のすぐ側を走る霊脈に五つの穴を穿ち、緊張気味に息をのむ。
立ち上るのは正常なはずの霊力。だがその濃度は異常なまでに高められ、酸素濃度が高すぎたとき人は死んでしまう様に、死を具現化した瘴気にも似た害ある物に変化してしまっていた。
「忠夫、さん…」
事実琥珀は息苦しそうに喉を押さえる。それに横島も漸く周りの状況を理解し、琥珀をそっと結界外へ運んだ。
その事は琥珀にとって苦痛を伴う物だったが、これ以上側にいる事は事実上不可能だと理性が判断していた。
最上級の使い魔。だがそれが一体なんだというのだろうか。琥珀は自身の存在意義に打ちのめされる。
そんな落ち込んだ琥珀に慈愛のこもった目を細め、傷つけることを恐れる様に、横島はそっと頬にキスを落とした。

第十六夜 劇薬は劇場で

それは生き物だ。そう横島は思う。
最低限の慰めを施し、結界の中に入った横島は嘗て中世の錬金術師達が工房においていたかの様なガラス管でひしめき合ったその空間で、薄紅色の液体を一滴ずつ抽出していた。
そして侵略者のようだと横島は笑った。
抽出され管を通る薄紅色の液体は、霊脈に穴を穿ったこの瘴気の如き霊力の中、その力を受け通常以上の清からさを放つ浄化の炎に熱せられ、その色を鮮血のような色へと変え、高い霊力を宿しあり方すらも変えた。それだけで死を呼び寄せるそれは、摂取したが最後、全身を回り霊力中枢を侵すだろう。その速さと強靭さはウィルスを超えた、まさに先住民を蹂躙したスペインのような傍若無人にして傲慢不遜な侵略者。
だがそれは同時に革命でもあるのだと、今から行う事に手が微かに震え、横島は慎重に管に流し込む量を調整する。
同じような過程で取り出された液体が三本の管を経て融合する。その瞬間は光に包まれ一切見ることが出来ない。川がひとつになっていくかのように、一つの管に終結したそれは、赤紫色をしていた。
「告げる」
管の先端。永遠の終わりから一滴ずつ地に落ちる最初のそれを見て取った瞬間、横島は言霊を放った。
音が空洞で反響するように、一度放たれたその言霊は、その場を満たしている瘴気の如き霊気で世界中の何処よりもその性質を強化された。
「左手に命を、右手に知恵を」
何も考えない。心の中を空にし、ただ呪文を唱える。ぽつりとまた一滴魔法陣の中央に赤紫色の液体が落ちた。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」
瞬間、その空間が鼓動した。空気は揺れ、大地は嘆き、霊気が荒れ狂う。
「繰り返す事つど五度。ただ、満たされる刻を破却する」
それを気にせず流れ出るように口にするそれは、されどその場に目に見える皹を入れた。
何も無い空間、そこに皹ができ、それはまるでひよこが殻を破るかの様に蜘蛛の巣状に大きくさせていく。
それを確認しながら鼓動が早まるのを横島は感じた。
「我は常世総ての光を欲し、総べての闇を求める」
ばり、と木の板を割るかのような音が響き、空間の割れ目から土色のがりがりにやせ細った腕が、勢い良く百を超える数で飛び出した。
「三界の門は閉じ、ただ王国までの道をさまよい出でる」
連続して鳴るその音に、気が付けば四方を、上空までも完全に囲まれ覆われていた。何かを探すかのように、ただ触覚だけを頼りにさまようその腕は、まるで地獄から這い出ようとする亡者。容易く人の嫌悪感を呼び起こさせた。
「一は全に至り、全は一へと変わる。開け。開け。開け。開け。開け」
ポツリとまた一つ落ちた液体が、まるで周りの状況を知っているかのように凍結した。
その異常な光景を認め、横島は呪文と同時に自らの中に意識を侵入させた。
「我は再度の実行を求める。原始から終焉へ。至った三叉路を満たし、永久へと変える」
瞬間世界が反転した。亡者の如き腕は元の空間に戻ることも許されず霧と化し、穴が復元される。凍結した液体だけがその中で確かな光を放ち、霧を渦巻かせた。
「満たされ、至り、そして落ちたものよ。もうひとたびの時を得よ。器を正しきものへとかえん業を背負え」
渦が霧を凍結した液体に収縮される。我知らず両の手を強く握った横島は最後の言葉をつむいだ。
「来たれガイアの一端よ。星の括りを破りしものよ!!」
最後の霧が飲み込まれた。それと同時に終わった詠唱に静寂が訪れる。
静まり返った空間は先ほどまでの尋常ならざる雰囲気は欠片もなく、瘴気の如き霊力が何かに吸い出されたかのようになくなっていた。
ゆっくりと管から最後の一滴が落ちる。横島はそれを見て微笑んだ。
凍った液体にぶつかったそれは、しかし何事も無かったかのように凍った液体に飲み込まれた。
「ッ」
瞬間鼓動が響いた。一度大きく響いたそれは、だんだんと間隔が短くなっていく。
ガチガチと音を立て、内部に引き寄せられるかのように潰れていく凍った液体。目に見える大きさから、マクロへ。そして言い表す言葉がないほど縮まったそれは、最後に大きくなった鼓動とともに光り輝いた。
その光は結界を押し切ろうとガラスを平手で叩く、背筋が凍るような音を立て結界を揺らした。
「グッ!」
それに横島は此処が正念場だと、ほぼゼロに近い霊力を新たに生み出すため霊力中枢をフル回転させた。そして生み出す端から結界の維持へ回す。
結界が壊れれば全てが水泡と化す。そう思い、知っていた横島は何が何でも結界を維持しなければならなかった。
平手で叩いていた音は、次第に拳へ、そしてハンマーへと音の質を変え、最後に大きく鼓膜が潰れるほどの大きさで音が鳴り響き、結界に最大の衝撃が走った。
まるで隕石の衝突のようだと横島は思い、それ以上の抵抗がない事を悟ると、限界を超えた体から意識が闇に落ちた。
その時、一錠の固形の薬品が落ちていることを見たような気がした。

んっ、と口の中を良く知る蹂躙されている感覚で横島は目を開いた。
ぼやけた視界には琥珀の顔が至近距離で映っていた。蜂蜜色の瞳には涙がたまり、その時になって漸く口の中に吸血鬼の主食たる血液の味がすることに気が付いた。
「ッ!」
口を離して状況を聞こうとした横島の試みは、琥珀が強く、そう常人ならば背が折れることは受けあいの力を持って抱きしめたことで失敗に終わった。
蜂蜜色の目を優しく細め、その端からぽろぽろと透明な雫を流す。
ああ、心配をかけたのだな、と脱力しきり地面に横たわっていた腕を力が入らない状態に無理を押して動かし、横島は力なく抱きしめ返した。
その事にますます強く抱きしめる琥珀。三界が新月を迎える今日を選んだつけなのか、上手くいったのか、いかなかったのかもわからないままただ空に浮かぶ星々を見上げた。

「死、死んじゃうかと、ほんとに、ヒック、死んじゃうかと思ったんです、ッ、からぁ」
泉のほとりにテントを張り、ライトをつけた琥珀は、いまだ力が入らず横になったままの横島に泣きついた。
その姿に改めて想われているのだと、血の気の失せた横島の顔から微笑が漏れた。
だが実際相当危なかったのだろう。精を放たない粘液接触。それによる魔力、霊力の譲渡と、相乗効果による保有魔力、霊力の倍増または上昇。
血液まで混じったそれを必要とするほどに弱っていた自分。同じ者が見たら驚きで倒れるだろうその状態は、霊能力者でなくとも命を刈り取れる可能性がある危険状態。
バックアップされる霊力と魔力だが、それでも吸血鬼と言う体を満たすことは出来ず、更には霊力中枢が電磁パルス攻撃を受けた精密機器のように軒並み狂い、力の発電は出来なかった。同時に回路も支障が生じているようで、普段行っている外部からの吸収も不可能。琥珀の助けがなければ数週間は目を覚まさなかっただろう。
「ンんッ…」
ダメだ、と言う声と、本能が斬り結び、命の危機に本能が勝ってしまった事を、その吸血衝動からとり、琥珀の白い首筋に歯をつきたててしまった事に、残った理性で謝った。
琥珀は使い魔という人工生命体だが、それでも一つの独立した生命だ。吸血によってその血に溢れる力を吸血鬼という独自の生命システムで、霊力中枢を正常に戻していく。それは一種の肉体改造と同意義であったが、それこそが吸血鬼と言う種族なのだ。
だがそれでも一日二日で治るような消耗度合いではない。
「琥珀…」
暴走した体は、荒々しく琥珀の着物を引き千切った。ダメだと横島は思った。いつもの様に愛のあるそれではなく、ただ行為が同じに見えるだけの衝動に任せる事は、琥珀への裏切り行為だと。
「あっ、忠夫さん」
そう思っていて求められなかったそれは、しかし途中で止まった。琥珀が自ら飛び込んできたからだ。
「はしたないですけど」
息を呑む音がぼんやりと伝わってくる。琥珀は軽く破られた上着を脱ぎ捨て、着物の帯を解いた。
「…こんなに、なって…私」
そっと着物を開いた琥珀は顔を真っ赤にして伏せた。その姿を見て横島は漸く状況を理解した。そして僅かに戻ってきた理性で軽く微笑む。
「はしたなくないよ。俺もこんなに、琥珀を求めてるんだから」
つんとしたそれを琥珀の腹に当て、暴走しそうな体を戒める。
「だから頂戴。琥珀の全部を」
抱きしめたその言葉に、琥珀はそれを身に受け入れることで答えた。
その中横島は思った。自分はずいぶんと幸せ者だと。
そんな二人を短い試験管に入れられた白い錠剤のような結晶が見つめていた。


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