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No.33206の一覧
[0] 星の精霊 [綾](2012/05/22 14:34)
[1] 星の精霊 第二夜[綾](2012/05/22 14:35)
[2] 星の精霊 第三夜[綾](2012/05/22 14:37)
[3] 星の精霊 第四夜[綾](2012/05/22 14:38)
[4] 星の精霊 第五夜[綾](2012/05/22 14:39)
[5] 星の精霊 第六夜[綾](2012/05/22 14:40)
[6] 星の精霊 第七夜[綾](2012/05/22 14:40)
[7] 星の精霊 第八夜[綾](2012/05/22 14:42)
[8] 星の精霊 第九夜[綾](2012/05/22 14:43)
[9] 星の精霊 第十夜[綾](2012/05/22 14:44)
[10] 星の精霊 第十一夜[綾](2012/05/22 14:45)
[11] 星の精霊 第十二夜[綾](2012/05/22 14:46)
[12] 星の精霊 第十三夜[綾](2012/05/22 14:47)
[13] 星の精霊 第十四夜[綾](2012/05/22 14:47)
[14] 星の精霊 第十五夜[綾](2012/05/22 14:48)
[15] 星の精霊 第十六夜[綾](2012/05/22 14:49)
[16] 星の精霊 第十七夜[綾](2012/05/22 14:50)
[18] 星の精霊 第十八夜[綾](2012/05/22 14:51)
[19] 星の精霊 第十九夜[綾](2012/05/22 14:52)
[20] 星の精霊 第二十夜[綾](2012/05/22 14:53)
[21] 星の精霊 第二十一夜[綾](2012/05/22 14:54)
[22] 星の精霊 第二十二夜[綾](2012/05/22 14:55)
[23] 星の精霊 第二十三夜[綾](2012/05/22 14:56)
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[33206] 星の精霊 第十四夜
Name: 綾◆11cd5a39 ID:8b39f981 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/22 14:47
梅雨前線が北上し始めたその頃、地上では笹の葉に短冊をつける七夕が日本全土で見られた。
それは浮気性な織姫が叶えた小さな願いだったのかもしれない。
「此処が日本か」
金色の髪をたなびかせ、時代錯誤なそのマントを違和感一つなく着こなしサングラスをした少女が、千葉の国際空港に到着した。
「待っていろ」
サングラスを左手ではずすその瞳は、澄み渡った泉のようなスカイブルー。
「忠夫」
それを一瞬真紅に変えると、うっそりと笑った。

第十四夜 その名はエヴァンジェリン

朝、カップの取っ手が取れ熱いコーヒーがぶちまけられた。近辺の神社仏閣は倒壊し、唐巣は栄養失調で入院が決まった。応援に駆けつけた姉弟子、令子は名前が売れ始めた事に味を占め、よりいっそう知名度を得ようと主なき教会で、幅を利かす。当然回ってくる仕事があるはずも無く、関東地方行脚の旅で見つけた霊脈の集合地点で生成する為の軍資金が得られないということにつながり、とある自衛隊の高官を説得しようとしたところその高官は異動させられた後だった。
不吉だ。その事を誰に言われるまでも無く察していた横島は、せめて琥珀だけでもと最悪の事態を教えておく。
ケースワン。ミスブルー。またの名を人間ミサイルランチャー、蒼崎青子の襲来。破壊の霊能力を極めた女傑。かの宝石翁をもってして破壊活動を抑えられないという人間の限界をとっくに超えた、それだけで一つの神秘を生み出した蒼崎家の天才にして鬼才。逃げ道は無い。
ケースツー。王冠。教会機関に就職した異端児。遊び仲間のメレム・ソロモンの襲来。被害多数にして実害絶大。それでも憎めないのはきっと似たり寄ったりの思考パターンゆえだろう。自分の被害は何時もやっていることの二倍。ただそれだけだがそれ以外が酷いその襲来。まず教会が消えることは確定事項だろう。さしたる問題は無い。
ケーススリー。これが尤も警戒しなければならない事態であり、避けられない運命。カレイドスコープの異名をとる宝石翁、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの襲来。明日は無い。
自分の勘は唐巣が帰ってくるまでの間だと告げている。だからこそ逃げるのは今しかない。それが避けられないことだとしても。
幸い武器弾薬その他もろもろの物資は紛争地帯に滞在し参加しても尚余裕で生きていけるだけの量と種類が、腕時計の文字盤に使われている精霊石の蔵に保存されている。
琥珀を伴い扉を開こうとしたとき、
「忠夫よ。そこにいるのならばいると言え」
突然開かれたドアに頭をぶつけた。
「エ、エヴァ」
誰が見たとしても美少女であることを認めるだろうその少女は、横島より一つ年下の吸血鬼。そして、
「それだけか? 見目麗しい少女が尋ねてきたんだ。それなりの言葉があっても言いと思うがな。それが婚約者だったのならなおさら」
ん? と悪戯気に笑うその少女こそ、ヨーロッパの名家、マクダウェル公爵家に生まれた二人目の子供。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに他ならなかった。

横島家の歴史は長い。歴史を振り返ればその足跡がいたるところに見受けられることだろう。だが吸血鬼としての歴史はさほど古くは無く、寧ろ新しいといってもいい家柄だった。
それに対しマクダウェル家の歴史は吸血鬼の中でも最古と呼べるほど古い。その始まりは伝説であるブリテンの王、アーサーの時代から歴史に足跡を残していた。
そんなマクダウェル家が、何故一介の吸血鬼でしかない横島に目をつけたのか。それはただ二人が遊び仲間だったという他愛もない理由にすらならないことからだった。
「あの頃は可愛かったのにな…」
「何か言ったか忠夫?」
呟かれた言葉はこれ以上無いと思われる微笑に迎撃され戯言以下の呟きへと変化した。にっこりと擬音が付くほどの笑顔は、されど心に空っ風を吹かす。その笑顔は付き合いが長いが故に何を意味しているのかを正確に読みとり、横島はHAHAHAとアメリカンな笑いでその場を乗り切るしかなかった。
エヴァンジェリン。福音を意味するその名はされど横島にとって闇のという言葉を追加してこそ正しく機能した。

ストレートの金髪を背中まで伸ばし、漆黒のワンピースを着たエヴァはマントを脱ぎそっと息を吐いた。
変わっていない。そのことがどれほど嬉しかったか。思わず思い出し暖かな笑みを浮かべた。
エヴァと横島の婚約。吸血鬼の社会において成人年齢に達していないにもかかわらず許婚を決めることはさして珍しくない。故に横島はエヴァとの婚約もそういった伝統の一つなのだろうと思っていた。だがそれは違った。婚約はエヴァが言い始めたことだったのだ。
ベッドに横になり野暮用で留守にするといった横島の匂いを堪能した。横島が琥珀と呼ばれる使い魔と男女の関係にある事は一目見て分かった。正直嫉妬もしたが、さすが横島だと認識を新たにした。それは寵愛を受ける日までそう無いだろうことは明らかで、それ故に少しは分けてやろうという自覚していない器の大きさがあったからだ。
普通、使い魔と交わる事は出来ない。それは術式が高度になっていくにつれ、創られる使い魔の自我が強くなるからだ。一つの生物として格が高くなっていく使い魔は、人型になれる、あるいは人型だった場合人と何ら変わらない意志があることから、どれだけ高位の術者であっても隷属させることは出来ず、寧ろ裏切られる場合のほうが多い。そんな自我の強烈な最高位の使い魔と情を交わせるのは横島だからとしか言いようが無いだろう。
エヴァと横島の出会いは日本からはるか遠く、イギリスは亜空間に存在するキャメロット。第一印象はいやな奴だった。
マクダウェル家はイギリスにおいて絶大な権力を持っている。それはかの姫君と同等かあるいは少し低いくらいという異常なまでの影響力。だからこそエヴァは蝶よ花よと育てられ、知らず知らずのうちに井の中の蛙になっていた。
姫君に会いにきた横島一家に同年代の少年がいるということを知り、戯れにキャメロットに招いた。その頃の趣味といえば旅をした爵位を持っていない吸血鬼の旅の話を聞くことだった。過保護な親の下城外に出ることはできず、ただ外を想像するだけだった。
今なら愚かなことだと嘲笑するだろうそれは、悪意無い笑いに破壊された。横島は様々なことを知っていた。それは人の身で出来損ないの神となった者から得た知識が大多数を占めているという事だったが、それでもその量と質が尋常ではなかった。
それをさも愉快そうに話す姿に苛立ち、わざとやっているのではないかと疑った。だがそれをどう思ったのだろうか、横島は着いて来いと亜空間を飛び越え、本当の意味で籠から開放された世界に連れ出してくれた。
通用しない権力に、異なるコイン。見た事も無い建築物に、初めて触った子猫の感触は一生忘れないことだろう。
楽しい一日だった。だが帰った場所は地獄だった。父と母に心配をかけ、怒られると思った。だがそれは横島が肩代わりをして何事もなく過ぎ去った。何も変わりない日常の影で横島が説教されていることを知ったのはずいぶん後のことだった。
それからたびたび訪れるようになった横島一家。それは楽しい日々の連続だった。他愛も無い事で笑い、泣き、そして喧嘩をした。一緒に術式を学んだこともあった。そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、学校が始まった。
会えるのは夏の僅かな時間だけ。翌年から自らも入学した学校はさほど面白いわけでもなく、かといって退屈でもなかったが、気が付けば何時も夏が来るのを待っていた。
そうやって遊びながら、横島が五年生になった頃。自分たち二人は同じではなく、男と女という種族の違いよりも身近な垣根が存在することをエヴァは自覚した。
離れたくない。それが思ったことだった。一度気が付けばその先を予想することは容易かった。横島はいずれ誰かに恋し、愛し愛され、家庭を築く。そこに自分の影は無い。それがどうしようもなく嫌だった。その夏に限り帰らないでくれと泣いて止めた。
泣いて泣いて泣いてそして気付いた。ならば離れなくすればいいのではないかと。いきなり婚約というのは性急過ぎると思わないことも無かったが、昔から十歳を超えれば一度は出てくる話題で、決まってしまう事柄だった。実際問題自分にもその話は来ているということを知り、いっそう焦った。幸いだったのは兄がマクダウェル家を継ぐことが決まっていたことだ。だから自分は自由に出来る。
そうして婚約を結んで数年。十四歳の修行の旅にでたことを知り、何時まで会えないのだろうと心が痛くなった。だが追いかけて見せると資金を集め、一年遅れで修行の旅に出た。さすがにいの一番というわけにはいかなかったが、それなりに早い段階で会えたのだろうと枕に顔をうずめる。
恋に恋するという言葉があるが、横島に対する思いがそれだとエヴァは思っていなかった。吸血鬼でさえ陥るそれは、されどエヴァにとってその段階は既に過ぎ去ったのだから。恋に恋していると気が付いたのは恋だと気が付いた僅か数ヶ月のこと。横島にではなく、胸の鼓動に対して一喜一憂しあろう事か胸の鼓動だけを判断基準に横島を推し量っていた。その愚かしさに横島を好きになる資格があるのだろうかと思い悩んだほどだった。だがそれでも諦められなかった。それがエヴァにとっての横島という存在。
「待っていろ横島」
ふふ、と笑うとエヴァは呟いた。絶対虜にしてやる、と。


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