上条刀夜(かみじょうとうや)は、昔も今も変わらず海外に関わる事が普通の人と比べて多くあった。
普通の人と比べてというのはそれほど大した事でもなく、同級生に海外の土産話を
話せば「お前はよく海外へ行っているな」といわれる程度のものである。
時は今より約二十年ほど前に遡る――。
アメリカ新南部のとある町の教会の納骨堂に、彼は誤って入り込んでしまった。
別に興味があったわけでもなんでもなく、日光が眩しかったので少し暗いところに
行けないものかと奥へ奥へ進んでいったら外の明るさとその廊下の暗さの対比で
立ち入り禁止の文字に気づかず、入り込んでしまっただけなのだ。
そして上条刀夜は出会うことになる。
自分の運命を変え、世界の命運さえ握り、自分の息子の を変えてしまうその男に。
「君は『引力』を信じるか?」
この物語はある右手が存在しない――Ifの物語である。
第一話:微かな追憶と現在
学園都市という場所が日本には存在する。
東京都の約三分の一を占めるその都市には超能力開発という極めて奇怪な
研究機関があり、二百三十万の内八割を占める学生は、その超能力開発を受ける
…悪く言うならば実験動物(モルモット)という訳だ。
何もない空間から炎や電撃や風を生み、空間を渡り物を浮かばせるその学生達は
一般人からは科学を通り越したメルヘンな存在に移ることだろう。
その辺のメカニズムは、この物語では割合させていただく。
学園都市のとある路地裏、髪の毛がウニの様に尖っている事を除けば特に何の
特別な身体的特徴を持たない少年は一人たたずんでいた。
「はぁ…まったく持って不幸だ、運動なんてのは間に合ってるつーの」
はぁ、と軽く息を吐く少年の視線の先――路地裏の地面には、複数の体格のいい
少年達がうめき声をあげながら蹲っていた。
路地裏のそこらかしこの壁には焦げ目や鋭い切り傷があり、近くのポリバケツは
きれいにひっくり返って中身をぶちまけていた。
生ごみを軽く蹴って路地裏から出て行く少年はそんな事とは対照的に、傷一つない。
「帰って何すっかなー、確か夏休みの為にと貯めておいたゲームが…あー
そういや冷蔵庫空っぽじゃねぇか」
少年の名は上条当麻。
学園都市二百三十万人のトップに立つレベル5の七人の内、第六位に当たる少年である。