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No.33140の一覧
[0] 【試作】背教者の兄(歴史物・ローマ帝国)[カルロ・ゼン](2012/05/15 20:08)
[1] 第一話 ガルス、大地に立つ![カルロ・ゼン](2012/06/24 00:30)
[2] 第二話 巨星落つ![カルロ・ゼン](2012/11/03 13:07)
[3] 第三話 帝都、血に染まる![カルロ・ゼン](2013/01/19 06:33)
[4] 第四話 皇帝陛下の仕送り[カルロ・ゼン](2013/06/09 15:20)
[5] 第五話 ガルス、ニコメディア離宮に立つ![カルロ・ゼン](2013/06/23 22:54)
[6] 第六話 ガルス、犯罪を裁く!(冤罪)[カルロ・ゼン](2013/06/23 22:57)
[7] 第七話 イリニとガルス[カルロ・ゼン](2013/06/23 23:00)
[8] 第八話 ガルス、悩める若者になる![カルロ・ゼン](2013/08/01 17:49)
[9] 第九話 ガルス、バレル![カルロ・ゼン](2013/11/01 21:56)
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[33140] 第七話 イリニとガルス
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/23 23:00
学生のお仕事とは学校とか、塾でテキストを使ってお勉強すること。
そんなことを思っていた時期が私にもありました。
古代ローマ、教育方針はOJTなんですね、知りませんでした。

目の前にずらりと並んだ使用人や請願者や、山のように積み上げられた請願書を前に真っ青なんですがどうしましょう。
ついでに言うならば、自分用の傍付きが与えられるそうですがどう接していいのかさっぱり分かりません。

おお、神よ、僕はどうすればいいのでしょうか。
さっさと洗礼を浴び、財産抱えて教会の生臭坊主計画を希望したいです。
でも、洗礼式は厳格な信仰の規範を揺るぎなく確立しなきゃダメっしょとかエウセビス司教がおっしゃっているんですね、頑固者め。

まあ、真面目な聖職者が厳格な信仰の規範を『模範たるべき皇族』に期待しているらしいので無理強いできないのがつらい所。
これって、グータラライフを送って呑気にヴォルフ・ディートリ・フォン・ライテナウさんのようにリアルシムシティやれば満足なんですが。

何が悲しくて、こんなに真面目に勉強せねばいかんのですか?
これって、新人研修という名の雑用係じゃないのかなぁと思い始めました。
そんな僕の名前はフラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルスです。

プリーズコールミー、ガルス。



午前中、朝食を食べながら来訪客の請願やら何やらに対応するのは古代ローマ貴族の由緒正しい嗜みである。
それは家門の長にとってないがしろにできないパトローネスとしての義務だ。
引っ切り無しに訪れてくる人々の要望を聞き、力添えをすることで国家がカバーしない細々としたものを補う半分公的な仕事である。
補完性原理に従い、貴族らが自分たちの領域の問題を法に従いつつ解決することが小さな政府のローマを支えてきたといえよう。

が、そんなことはブドウを摘む間もなく引っ切り無しにやってくる依頼や嘆願や面会希望に精根尽き果てたガルスの知ったことではない。

「ルシウス、ルシウスを呼べ!」

事情を一番知っていそうな侍従を呼び出すガルスにしてみれば、自分は別にパトローネスとしての義務はないはずと他人事。
実際、ガルスにしてみれば田舎に引き籠っているガルスがパトローネスとしての義務を負うのは祖母の地所で働いている人々に対してだった。
そりゃ、自分ちで働いている小作人が病気になって今月誰か畑の手入れをする人を紹介してくれとか言われればガルスは手を喜んでかす。
必要なら、ちょっとお見舞いのお金と食べ物を送り、ひょういひょい出向いて手渡しても良いくらいだ。

が、ニコメディアの離宮でやれ軍役が~都市参事会が~などと言われてもガルスにしてみれば『それ、自分に関係あるの?』である。

「お呼びでしょうか、殿下。」

「何かが間違っている気がする!どうして、自分がこんなところでニコメディア離宮に集まる嘆願を処理しているのだ!」

胡散臭い笑顔を張り付け、参上した侍従の顔面にパンチの一つでもぶち込むべきではないかと唸りながら咆哮するガルス。
常日頃、怠けることしか考えていな怠惰な眼も、さぼるためとあれば怒りを携えて大いに鋭くとがるというものだ。

「畏れながら、殿下。殿下はニコメディア離宮に滞在為されている方々の最高位であらせられます。」

「いや、違うだろう其れは。自分は官職についてないんだぞ?総督府の仕事であって、自分は此処に学究のために来ているんだ。」

ガルスにとって、官職とはつまり「仕事」だ。
血とは、一族、親戚、じーちゃん、ばーちゃんと親族の集合体を結びつけるものという認識に近い。
無論、血族に伴う責任やら立場というのは此処暫くニコメディアで教育されているので何となく察してはいる。

察してはいるのだが根本では、政教が一致し、ついでに権力機構と血族が結びつきつつあるローマ末期とずれているのだ。

そりゃ、皇族らしいし、責任がなんかあるのは分かる。
が、ガルスにとって皇族って、なんか手を振っている象徴的な存在という程度の認識はやはり大きいのだ。
ガルスの脳裏にある皇族としてのイメージは、日本での記憶が小さくない。

天皇陛下や皇族が行幸するとき、お話を聞いたり、何か配慮したりすることは知っている。
だから、自分もそれなりに迷惑をかけちゃいかんのだ、とは学んだ。
しかし、ガルスにとって地方の実務ってのは行き先の県知事とか、担当官庁の仕事じゃね?である。

「…さようでございましたらば、一度コンスタンティノープルの方にお伺いを立てさせましょうか?」

侍従にしてみれば、屁理屈をこねてさぼりたがっているようでもあり、道理でもあるようであり、と困るガルスの言い分。
もっとも、侍従らにしてみればガルスの緩やかな監視兼教育が仕事なのだから、ガルスがノンビリと引き籠る分には本来は問題がない。
まあ、皇族が軟禁されているとの世評が立つ方がコンスタンティウス2世などには差し障りがあるのだが…程度問題だろう。

「即刻そうしてくれ。僕は、塾の見学に行ってくるぞ!」

が、ルシウスが心中でどうしたものかと匙を投げかけているとはつゆ知らず。
外に出たい、というか折角なのだから街の観光の一つもやりたい、というガルスはこれ幸いと外出の準備を始める。
金貨と銀貨を財布に詰めて、用意しておいた適当な服を上から纏い、お出かけのお供の本を一つ手にするガルス。

「は?…殿下、その、お待ちください。お出かけになられると?」

「そうだ!そのために、ニコメディア離宮をお借りしているのだから、当然ではないか。」

「では、お供とお足をご用意いたしますので」

「いや、いいよそれは。皇族としてぞろぞろ引き連れて塾に行くとか、どう考えても迷惑じゃないか。」

そして、ちょっとホテルを出て街を観光してみよう程度というガルスの感覚はルシウスの頭痛を酷くするものだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・殿下?まさかとは思いますが。」

「ルシウス、私は此処で見聞を深めたいのだ。離宮で学ぶことがないとは言わないが、司教殿すらお越しにならず神学すら学べていない。」

「皇族と言ったところで、自分は無役の気軽な身だし、そこまで大げさにせずともだね。」

「しかしですね、殿下。」

「いろいろあるのは分かるけれども、離宮の中だけでは息も詰まる!若いうちに、様々な経験をしてみてもいいじゃないか。」






…ごめん、ルシウス。僕が悪かった、謝るからこれは勘弁してもらえないだろうか。



「あら、本当にいらっしゃったの?」

差し向かい、それも離宮の裏門近くの日当たりのよい長椅子から立ち上がった彼女の第一声はそれだった。

「ルシウスさん。こちらが、甥御さん?イリニです、初めまして。」

もうすぐ、正午を過ぎようかという時間のニコメディアの町はお昼を食べに行くには最適。
お忍びの街歩きを、という事ですし案内役を付けるので私の甥御という事で楽しんでくるのは如何でしょうか?

そんな侍従の悪巧みに乗った自分の愚かさを呪いつつもガルスは引きつりそうになる表情筋を懸命にほぐしながら名乗り返す。

「ええと、ガルスです。よろしく。」

「はい、こちらこそ。それにしても案内をわざわざ頼まれるなんて、変わっていらっしゃいますね。」

「いやぁ、兄夫婦が過保護で。親戚一同が引きはがしてニコメディアの私のところに送られてきたばかりなのですよ。」

まだ若造と呼ばれる年齢とは言え、青年の街歩きにわざわざ案内をつけてくれと頼まれる側の反応はごくごく常識的に訝しむもの。
冗談ではなく、どうやら本当に甥を引っ立ててきたらしいルシウスの姿を見た少女が困惑気に呟くのは道理だった。

そして、ニコヤカな笑顔でさらりと虚実を混ぜた言葉を吐き出すルシウスも侍従としては大した奴である。

「あら貴方、箱入り?」

「ええと、はい、たぶんそうです。」

が、ガルスにしてみれば酔っぱらって見惚れていた少女が目の前で首を傾げているのである。
ついでに言えば、自分が冤罪に追いやりかけた相手でもある。
苦手意識というか、罪悪感なしに笑顔を直視できない相手を持ってくるルシウスに恨み言の一つも言いたくなる程だ。

正直に言って、ガルスが箱入りだろうと、箱入りでなかろうとここで朗らかに平然と対応できるはずがない。
離宮の裏庭で果物を摘みながら、のんべんだらりと昼寝したいなぁ…と心ここに在らずとガルスは早くも現実逃避を始めたかった。

「別にいいけれど、なにか見たいものとかは?まさか、何もしらないことは…、なんてね。」

「ええと、何があるのでしょうか?」

「…ルシウスさんが、心配なさるわけだわ!あなた、今までどうしてたの?」

腰に手を当て、器用にも呆れたわと天を仰いでみせる少女。
ニヤニヤと笑っているであろう侍従をいつか泣かしてやると心に誓いつつも、ガルスは取りあえず眼前の問題に対応する。
彼は、ひるまない。彼は、媚びない。
そう、ガルスは、勇者なのだ、

「失敬な。本を読んで、偶に使用人と畑を見てと晴耕雨読に努めつつ、弟と…」

いわれなき誹謗中傷に対するガルスの胸を張っての自信満々の返事。
どうだ、と言わんばかりに答えるガルスは自分の生活に誇りすら抱いているのだ。
これがいわゆる高等遊民だ、と。

誰に迷惑をかけるでもなく、強いて言うならば皇帝陛下兼ATMの使用限度額もほどほどに。
一応畑が地元にあるので、生活の資本もばっちりである。
ルシウスの甥っ子、というのは気に入らないにしても、甥っ子としてみれば中々だと自負する生活。

勉学に努め、生活を自分で賄えるというのは自立の証。
心配されるいわれはないのだぞ、と目の前で余計なおせっかいを焼いているであろう少女にガルスは断言してみせる。

「呆れた!あなた知らないの?若いうちは、いろいろな人の話を聞いて、様々な経験をしておくものよ。」

「そんなものなんでしょうか。」

「そうよ。」

が、どうもガルスの返事はイリニの琴線には感銘を与えるどころか真逆の効果を及ぼすらしい。
今一つ、苦手意識が拭えない相手におずおずと、それは違うんじゃないだろうか、と言うにも言えず。

「まあ、イリニ。そういう訳で、うちの親戚やら知己やらも偉く心配しているんだよ。すまんが、少し世間を教えてやってくれ。」

「そうですね。ちょっと、世間知らずにも度合いがありますし、お引き受けします。」



こうして引きずり回される羽目になったガルスだが、実際のところ案内役としてのイリニは実に親切で適任である。
なにしろ年頃の好奇心が強い女の子が、上役の許可を得て街をうろつけるのだ。
本人の行きたいところ、興味のあるところというのはかなりの広範囲である上に、離宮勤めということもありイリニ自身の顔もそれなりに広い。

あちこちで物珍しげに突っ立っているガルスに、それとなく説明を入れられるのはイリニの知見の広さ故にだ。
最も、ガルスにしてみればそんなことはさておき、初めて見る市井の生活に驚きと好奇心を隠せずきょろきょろとしっぱなし。
完全な御のぼりさん状態のガルスであるが、イリニもそれと無く気を付けているのでそれほど悪所に寄らずに済んでいるため大事には至っていない。

大通りや、イリニのよく知る商業区画を案内されるガルスとしてはふーん、と感心してばかりである。
ついでに言うならば、こっそりルシウスが付けた護衛兼監視の面々はガルスの呑気さにやや気を揉んでいるがそれはイリニの知ったことではない。
だから、彼女はちょっと抜けているガルスを引き連れてあちこち見せてやろうと面倒見の良さ故で注意すべき場所を教えてやるのだ。

そんな場所の一つに、キリスト教の教会がある。

別段、イリニ自身がキリスト教徒に含むところが強いわけではないのだが、如何せん、彼らは余り評判がよくないのだ。

「で、ほら、あの人たちには少し注意が必要よ。もちろん、話が通じない人たちじゃないのだけど、自分たちの信仰を特に大切にする人たちだから。」

少し、変わっているのよ。
そう続けようとしたイリニが口を噤むのは、連れてきたガルスの様子が極端に変化したからだ。
目の前で騒いでいるキリスト教徒らの一団を目の当たりにし、凍り付いているガルス。

どこか引きつったような表情に浮かんでいるのは、動揺と困惑。

「あら、ずいぶんと深刻そうにあの人たちを見るのね。」

「…彼らは、キリスト教徒ではないのかい?」

「ええ、そうよ、そう呼ばれる人たちよ。」

キリスト教徒が内外の人々と教義や信仰をめぐって小競り合いを起こすことは良く知られたことだ。
信者同士でなぐり合うという事も、珍しくないためにそれとなく注意が必要でもある。
よく理解していないと思しきガルスに、それとなく注意を促しておこうという彼女の配慮。

イリニは、単に喧嘩やトラブルに巻き込まれないように注意しなさいね、程度の気持ちでガルスを案内したに過ぎない。

「では、彼らは何故…その、なぐり合っているのかな?」

あら、貴方、本当に知らないの?と言わんばかりのため息。
実際に、イリニは困ったものね、と呆れつつも心配する気持ちを覚えるのだ。
田舎の方では、キリスト教徒はまだ珍しいと聞いているのだけど、これほどとは、と。

ガルスをまじまじと見つめ、ドギマギとさせた後でイリニは声を潜めてそっと呟く。

「こう言ってしまうと、簡略化しすぎなのかもしれないけれど、彼らは何時もあんなものよ。」

「は?…博愛、慈愛、寛容が彼らの教義ではないのか?」

「ガルス、貴方ねぇ…。本の読み過ぎよ、世の中、書いてある通りに進む方が珍しいんだわ。」

大丈夫かしら、この人?親戚が集って、心配する訳だわ、これは。
などと他所の苦労を案じながら、イリニはゆっくりと言い含める様にしてガルスに説いておく。

「彼らは、優しいかもしれないわね。でも、彼らは『正しい』人にしか優しくないのよ。」

「イリニ、それはつまり、彼らが博愛の精神を持っていない、ということかな。」

「ガルス、いいかしら。あのね、彼らは、彼らなりに寛容なの。だから、違いが許せないのよ。」

「…どういうことなのか、わからないのだけど。」

良く分かっていないという表情のガルス。まあ、実際この解説は感覚的なものだからちょっと説明が難しい。
だからこそ、イリニにしてみればこのどこか抜けたガルスには念入りに説明しておいたほうが良いだろうと少し考えてから口を開く。

「何と言えばいいのかしら。ほら、私たち離宮にお勤めしている人間って、ちょっとしたルールが中であるのよ。」

「そうだね、いろいろとあるみたいだ。」

「そう。で、私たちは同じ職場で働いているけど、時たま変な人や不向きな人がいるのよ。そういう人はどうするべきかしら?」

「やめてもらえばいいじゃないか。」

何を言っているんだろうか、という表情のガルス。
実際、田舎で人を使っている立場の人間が言うのは簡単だ。
馴染めないようならば、別の仕事に就いてもらえばいいじゃないか、と。

仕事ならば、それで正解。

「ガルスの言うとおりよ、やめてもらえばよいの。でも、キリスト教徒にしてみれば『間違っている人は改めなければいけない』と考えるのよ。」

「うん?」

そう、やめてもらえばいい。
仕事ならば、別にやめてもらったところで首になった人間以外は気に病むこともないのだ。
が、キリスト教徒の世界では『間違い』は『矯正』の対象である。

「信じなきゃいけないのだから、間違ったことを信じている人は、間違いを正さす必要があるの。」

「変な話じゃないか。だから、なぐり合うなんて。」

「それには、賛成。でも、正しい教えを知らない人々、まあ私みたいな人々は兎も角ね。正しい教えを知って、誤る人は許せないんだって。」

そう、イリニにしても別にそんな信仰の違いでお互いを罵り合う必要があるのだろうかというガルスの疑問は分かる。
分かるのだが、もう幾度となくニコメディアではそのキリスト教がらみの小競り合いが起きているのだ。
匙を投げた人々が、キリスト教徒の争いに疲れて放置し始めるようなっているのは別段無理のあることではない。

「そんなことをせずとも、平和に話し合って、お互いどちらが道理か考えればいいではないか。」

「あのね、ガルス。言いたくはないけどあの人たちはそういう教育を受けた人々ではないのよ。」

呑気な意見。
そう、それはガルスやルシウスといった日々の生活に余裕があり議論を楽しめる人々の意見だ。
イリニ自身、祖母から教わった程度の知識にすぎないとしても、弁論術というのは一つの知識だと知っている。

「日々の生活に追われるあの人たちにとって、キリスト教とは唯一縋れる正しきものじゃなきゃいけないの。」

だから、不純物が許せない。

「…私には、わからない。信仰は心の救いであって、他者との争いの道具ではないはずだ。」

「そう考えられる人々ばかりじゃないのよ。貧乏になってしまえば、だれでもそう。」

理解しかねるという表情のガルスは、理屈では正しいのだとイリニは認めないでもない。
でも、イリニは少しだけガルスが理解できていないであろうところを知っているのだ。

「ガルス、貴方は生活に苦しんでいる人の考え方を理解すべきだわ。あの人たち、何時も怯えているのよ。」

「まあ、生活苦は不憫かもしれないけども、怯えている、というのはどういうことだろうか。」

「何時、自分の生活が崩れるのか分からないのよ。景気もよくないし、なにより病気でもしたら大変よ。」

それに、イリニの立場上口にできないことではあるのだが、税金も決して安くはない。
農民たちの生活も楽ではないし、何より都市の労働者や浮浪者というのは行き場がどこにもないのだ。
彼らが漠然とした未来図しか描けないのをイリニは、何度となく見てきた。

仲の良かった一家が、破産して夜逃げしたり財産を差し押さえられるのも嫌になるほど見ている。
そして、ニコメディアはともかく各地から色々と穏やかではない話を耳にしているのだ。
どこそこに盗賊が出始めた、とか、蛮族が入り込んでいるとか、ペルシャが攻めてくるとか。

「あの人たち、どこか怯えているのよ。だから、救いを求める人たちはその救いを揺らがす人が許せない、そんなとこかしら。」

「…イリニ、君は聡明なんだね。」

「あのねぇ、貴方がどっちかといえば呑気過ぎるに違いないわ。少しは、世間の人が悩んでいることも考えてみたら?」

少し、苛立たしげにつぶやいてしまうイリニの心情も無理はない。
誰もがどこかしら、悩んでいる時代に合ってガルスは実に能天気な態度で他人事と言わんばかりに眺めているのだ。
もちろん、ガルスの故郷は田舎にあるのだろう。

「単なる田舎の地主の仕事じゃないよ。そういう事は、偉い人たちの仕事だ。」

だから、他人事で偉い人に任せてしまっている彼の態度は無理があるものではない。
ガルスにしてみれば、別段、本業をおろそかにしなければよいのだろう、と。

「そうかもしれないわね。でも、そういうことに怯えなくてよいあなたがぼーっしているのは、ちょっと不謹慎じゃないかな?」

それでも、イリニは少しだけ腹を立てるのだ。
自分が心配しなくてよいからといって、知らんぷりするのは変だ、と。

「権利と義務の話ならば、十分だよ。」

「まあ、貴方にいっても仕方ないのは確かね。でも、少しは世間の関心も知っておくのも悪くないんじゃない?」

「それについては、君に感謝していますとも。」

勿論、ガルスに説教したように物事というのは道理で済む話じゃないとイリニだってよく理解している。
でもだからこそ、書物に書かれた綺麗事を口にするガルスが他人ごとみたいに言うのはちょっとシャクに触るのだ。

「大変結構。じゃあ、その深刻そうな表情はひっこめてドライフルーツでも奢って貰いたいわね。」



彼女は知らない。
ガルスにとって、彼女の投げかけた言葉の意味を。
重さを。


あとがき
ぱ、ぱ、ぱらど、がすてぃー○で、せーるしてたからって、更新をさぼるような真似をするわけがないじゃないかー。

と、鋼の精神でもって更新。なお次回の更新予定は未定となっておりますがあしからず。

なお、某スレで本作のテーマが不明瞭というご突っ込みを拝見したのでニマニマしたりしてます。

本作は『転生ものとはいえ、普通の人が明確な目的持って行動するとかおかしくね?』という実にシンプルなスタート地点から始まった作品です。色々な凡人なりの葛藤とか。

同時に『宗教・常識・人間関係・内政』などなどの捻じれに現代人がのた打ち回りながら、その世界で生きていくことを目的とした実にカルロ・ゼンの趣味的作品です。

ぶっちゃけ、ローマ好きなのが大きいのですが、ローマ世界に放り込んだ現代人が、滅びゆくローマ世界でどういう風に自分の立ち位置を見つけてのたうちまわるか生きてゆくかを描いていきたいと考えている作品なのでまあ、ちょっとゲテモノとまでは言いませんが、お口にあう、あわない、がある作品かなぁとは自覚しております。

いいじゃない、偶には凡人の異世界転生もので内政チートするでもなく、うじうじと翻弄されたって。

でも、誤字が多いのはご容赦をorz


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