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No.33140の一覧
[0] 【試作】背教者の兄(歴史物・ローマ帝国)[カルロ・ゼン](2012/05/15 20:08)
[1] 第一話 ガルス、大地に立つ![カルロ・ゼン](2012/06/24 00:30)
[2] 第二話 巨星落つ![カルロ・ゼン](2012/11/03 13:07)
[3] 第三話 帝都、血に染まる![カルロ・ゼン](2013/01/19 06:33)
[4] 第四話 皇帝陛下の仕送り[カルロ・ゼン](2013/06/09 15:20)
[5] 第五話 ガルス、ニコメディア離宮に立つ![カルロ・ゼン](2013/06/23 22:54)
[6] 第六話 ガルス、犯罪を裁く!(冤罪)[カルロ・ゼン](2013/06/23 22:57)
[7] 第七話 イリニとガルス[カルロ・ゼン](2013/06/23 23:00)
[8] 第八話 ガルス、悩める若者になる![カルロ・ゼン](2013/08/01 17:49)
[9] 第九話 ガルス、バレル![カルロ・ゼン](2013/11/01 21:56)
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[33140] 第六話 ガルス、犯罪を裁く!(冤罪)
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/23 22:57
ニコメディアは古い歴史を古代ローマの時点で誇る、文字通り歴史に名を遺す都市だ。
なのだが、ガルスの頭をよぎったのは動画サイト?という実に不謹慎なレベルにすぎない。
平均的な教科書レベルの知識で分かることには限界も多いということだ。

そして、その教科書が曲者である。
試に紐解けば、出来事が順序良くきっちりと並んでいるのが分かるだろう。
ああ、素晴らしきかな進歩史観!


お陰で、転生に気が付いたときはガルスも一時期血迷って技術チートでウハウハと考えたこともあった。
なにしろ中世どころか、古代だ。
よほど、技術的には未開なのだろうから現代人の知識パネェ!を信じて疑わなかったともいう。
小市民的なネット小説のノリでテンションをダダ上げするという黒歴史もあったりするのだ。

が、悲しいかな。教科書通りに物事が進む方が珍しいのである。

よろしい、缶詰だ、瓶詰だ、保存食でローマの食糧事情を…
De Re Rusticaが、だいたい書いてくれていますた…。
えーなになに、瓶に殺菌したものを詰めて密封してください。空気入れてはいけません?
・・・細菌学もしらないのに、何故こんなことを思いつくのか僕には理解できませんよ。

よろしい、ノーフォーク農法で、ですね…え?どんなのだっけそれ?

取りあえず輪作で…ナイル川って氾濫するに任せているんですか?ああ、ナイルの恵みってやつですかー休耕地?何それ?へー。

ええい、ならば産業革命に必要な蒸気機関だ、あれならお湯を沸かすだけだから自分でも・・・と考えたところ悲しいかな、ヘロンとかいうおじさんが蒸気機関まで開発してマスタ。

よし、じゃあ、暗算が得意な日本人の自慢の一品、算盤を…あ、アバカスっていうんですねコレ。
え?もっと便利なものに興味があるなら、機械で計算できるのもあるよって機械式アナログコンピューター?
な、なんぞそのおーぱーつ。

・・・そうだ、健康問題、健康問題だ。古代ローマは鉛中毒で滅亡したって読んだ気がするし、鉛毒について警告を発しよう!
鉛が健康に悪いとか、常識だろ常考、と偉い学者さんが散々書いてますた。
水道管、鉛だらけだから危なくね?と言ったら鼻で笑われて、「だから、水に接しないようにしてるんじゃないか」とか。
あら?誰だよ!?古代ローマが鉛中毒で滅亡したとかいうトンデモ説を唱えている間抜けは!?

殿下、本を読み見識を深めるのは結構ですが、同時に知識を現実と摺合せなくてはいけませんよって侍従らに笑われたぞちくしょー!!

恐るべし古代ローマ。
ガルスにとって、実に不思議な世界である。
ぶっちゃけ、なんで滅んだんだろうと本気で疑問に思うほどに。

そりゃ、古代に戻れなんていうルネッサンスやるはずだわ、と思うぐらいにローマは半端ない。

だが、素直に感心しつつも戸惑いはどうしても付きまとう。
ガルスにしてみれば、『パラダイム』があまりにも違いすぎるのである。
彼は、キリスト教とはクリスマスでキリストのお誕生日を祝う程度の見方しかキリスト教に抱いていなかった。
だからこそ彼は、古代ローマにおける常識的な考え方を理解しかねている。

まして、彼は皇族という身分を理解できていないのだ。
その立場に伴うふさわしい振る舞い、ということも全く分かっていない。

もちろんガルスが小市民的に人に迷惑を及ぼすまいと心がける上に、基本的にあまり面倒な我儘も口にすることはなかった。
本人の主観としては兎も角、客観的に見ればガルスは物事の道理をわきまえて身を慎んでいる、と判断されてしまう。
皇族が、我儘を言わないのは誰にとっても迷惑ではないからだ。

だから悪意なく普通の振る舞いだとしても、時には他者にとって自分の言動が恐るべき脅威なのだとガルスには理解できていない。
うっかり口にした一言が、どれほど思い権威と権力で裏打ちされているかなど実感したことが一度もなかったのだ。

それ故に、ガルスは二日酔いの際に少しだけ機嫌を損ねたことをすっかり眼が覚めてからは忘れていた。
記憶に残っているのは、なんかそういえば一昨日少し騒がしかったなぁ程度のあやふやなもの。
個人的には、新橋の酔っ払いどもに感じたうるさいぞーという程度の感覚だ。
一々記憶に残るものでもなく、ルシウスに『黙らせろ』と命じたことをガルスは失念してしまっている。
ガルスの中では「だまれー」と酔っ払いに酔っ払いが叫んだ程度の出来事なのだから無理もない。



象と蟻は仲良くできない。
仲良くしたいと思うのは簡単だ。
だが、歩み寄るのは不可能である。

何故ならば、蟻の一歩と象の一歩は歩幅が違いすぎるから。
象に歩み寄られた蟻の運命は、それこそ父なる神のみぞしりたもうというわけだ。
おお、主よ、我らが善良なる蟻と象の友情を祝福したもうことなかれ、という事だろう。

皇族と、宮中の使用人もまた象と蟻に近い。
少なくとも、不快気な表情一つで皇族は使用人を恐怖に突き落せるのだ。



二日酔いから解放され、気分よく朝の柔らかな陽光で目を覚ましたガルス。
馬車の移動も堪えたという事があって、丸一日を寝て過ごしてしまったガルスの脳裏を占めるのはお腹の空腹である。
それはそれは盛大にお腹が空いているのだ。

宴会でフォアグラになるかと思うほど詰め込まれたとはいえ、それはもう一昨日のこと。
人間、食べねばくたばるのだから否応も言えるはずもない。
そして、善きキリスト教徒としては些か宜しからぬことにガルスは自分の空腹感を我慢するという根性は微塵も持ち合わせてはいなかった。

お金があるのに清貧に耐える、というのはマゾだろう、というのが本人の本音である。
それでも相対的にみればガルスの生活ぶりは皇族や貴族に比して『清貧』なのだが。
そういう訳で、果物でもつまむかと寝巻のまま起き上がったガルスは侍従になんか持ってきてくれと頼むつもりだった。

が、気が付けばガルスの目の前には物々しい雰囲気の一団が重々しく控えている。

その場の中心に居るというか、包囲されてひれ伏したのが使用人と思しき老婆。
御婆さん、御年なんだからせめて椅子ぐらい用意してあげなよ、と口をはさむにはさめない程シリアスムード。
不穏さ漂う展開にガルスは後ずさりしかける。

が、自分の寝室の前でずっと待っていたであろう彼らを放置して二度寝できるほど神経が太いわけでもない。
なにより、物々しい武装をした衛士達が老婆を取り囲んで自分の部屋の前に侍っているとなれば鈍感な無視できないだろう。
すわ、何事ぞ?と説明してくれそうなルシウスが平然としていることにガルスは大いに戸惑う事となる。

そして、御起床早々に騒がしてしまうことを丁重に詫びつつも刑の御裁可を願いたいとルシウスから言われて思考が止まる。
刑罰って、なんぞ、とガルスはそれこそ理解しかねていたともいう。
え、なにその普通の仕事してます的な顔と口上は?と人目がなければ訪ねてしまったかもしれない。

「・・・・・・は?」

だが、兎も角口からは疑問がこぼれてしまうのは仕方ないだろう。

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、ルシウス。」

「如何されましたか、殿下?」

お前こそ、どうして僕が変なことを言ったような顔で訝しげに問い返すのだ?
ルシウスよ、君は僕を裁判官とでも考えているのかとガルスは心底から問いたかった。

「なんで、刑罰の裁可を求められる話になっているんだ?」

「殿下がご注意なさった、例の職分を疎かにしていた者どもの咎についてでが。」

まさか、覚えていないという訳にもいかず少しばかり話が見えないということでガルスはやや戸惑いつつも思考をまとめる。
誰かを自分が注意した、ということは多分記憶にないが一言いった事が大げさにとられたのではないか、と。
だとすれば、大げさなことだと呆れつつガルスは騒ぎ立てないでよいとばかりに手を振って否定する。

「よしんば、咎があるとしてもだ、譴責程度で良いのではないのか?」

「寛容のお心は素晴らしいことと存じますが、信賞必罰は絶対です。」

が、にこやかながらも断固たる侍従の言葉でガルスはようやく洒落にならない事態の匂いを嗅ぎつけた。
そもそも、皇帝陛下に使える侍従らが自分に派遣されてきているのは皇帝陛下その人の御意志だ。
そして、彼らは一応自分に忠実に仕えてくれているとしても忠誠を捧げるのはローマ皇帝その人に他ならない。

そう、法律のすべてを意のままに制定したもうインペラトールその人なのだ。

「あえて言うが私はあの使用人らの主ではない。陛下の使用人なのだぞ。」

だからこそ、ガルスは一先ず責任転嫁をATM兼裁判官の皇帝に図ってみた。
皇帝の前での平等とかいっとけば自分が裁くのは越権だと面倒事から逃げられるだろうと。
ガルスにしてみれば、とりあえずこう言っておけば問題ないだろうという何時もの逃げ口上でもある。

皇帝陛下が~、越権が~、管轄が~と。

「殿下の慎みはご立派なものかと存じ上げますが、皇帝陛下に置かれましてはニコメディア離宮の御裁可をガルス殿下にお預けになられておられます。」

「何?ルシウス、私には初耳だぞ、それは。」

「畏れながら、殿下が酔いつぶれておられましたので皇帝代理から託された委任状だけですがこちらに。」

ひったくるように、しかし一応恭しく所謂勅令を受け賜るという態を同時に為す小器用な小技を発揮したガルスが目にしたのは侍従の言葉を裏付けるもの。
延々続いている美辞麗句を省けばシンプルな内容である。
ずばり、『おまえ、ニコメディアの俺んちのボスにするから、そこで好きに学問やってよいぜ。でも、皇族として皇統が侮られるような真似はすんなよ。』だろうか。

寝起きの空腹感も、怠惰な感情も吹っ飛んで大真面目に何度読み直しても、そこに書いてあるのは厳然たる事実として揺るがない。

「…つまり、私は陛下から裁くことを信託されたという事になるのか。」

「御意。殿下の御裁可を。」

侍従にしてみれば、つまり皇帝の意を汲んでガルスに立派な皇族ぶりを発揮させたいという事だろうか。
しかし、ルシウスのことを全部理解しているとまでは言わないが此処まで教条的だったとは思わなかった。

「しかし、ルシウス。知っての通り私は書生で法のことなど素人も同然だ。やはり、専門家にゆだねるべきではないのか。」

「お言葉ですが殿下、事は単純です。殿下の使用人が殿下に無礼を働いたのですから、殿下の胸先一つで如何様にでも。」

しぶとく自分で決する羽目になることの回避を図ろうとするガルスだが、ルシウスの追求は徹底している。
公の場の、公的な議論ではなく、単純に使用人に対する主人の義務を説かれてはガルスとしても煙に巻くにまききれない。

「…じゃあ、ルシウス。君の意見を参考に聞きたいのだが。」

だから、ガルスが判断を人に丸投げしてしまうのは責任を負いたくないという心理が大きい。
まあ、そもそも適切な判決の下し方を知らないというのも大きいのだが。

ガルスから無責任に近い問いかけを受けた侍従だが、それでも彼は少し眉をひそめつつも一先ず助け船を出してくれる。

「では、僭越ながら殿下。使用人の責任者がそこに居りますので弁解の一つでも聞いてやり、しかる後に判じられては如何でしょうか。」

ああ、なるほどその御婆さんはつまり弁護側証人という事ね。
其れにしたって、ずいぶんと厳重でなんか哀れさを催す感じで連行されてきているんだけどどういう事よそれ。
とかガルスが内心で部下の冷たさに呆れつつも、今さらながらに顔を出した罪悪感がちょっとだけ心に響く。

ばーちゃんみたいな老婆を這いつくばらせる自分?
明日から、気まずくてご飯も喉を通らないに違いない。

物々しい雰囲気を醸し出す周囲に飲まれて、口にできなかったけどさすがにこの状態で話をさせるのはヘビーなものが現代人のガルスにはあるのだ。

自分が八つ当たりした挙句、ばあちゃんのような年齢の老婆を這いつくばらせて言い訳してみろと上から目線で問える現代人はあんまりいない。
居るとすれば、まあお友達になりたい人格の持ち主かどうか。個人的には遠慮したいだろう。というか、ガルス的にはドン引きである。

そういう訳で美味しいご飯が喉を通らないのは不味いし、仕方ないよね、と。
ガルスは自分を励まし場の緊迫感に頑張って鈍感さを装いながら口を開く。

「分かった。おい、誰か椅子でも進めて。話ぐらい落ち着いて聞かせてもらいたい。」

そして、対面で向き合い『さあ、話すがよい』と些か尊大な口調の侍従に促された老婆が紡ぐのは懺悔の言葉だった。

「殿下、どうか、どうかお許しを。あの子らは、殿下が離宮に滞在していることすら存じておりませんでした。」

振るえる声と、しわがれた手。
そのどちらもが、彼女が怯えながらも懸命に弁明を行おうとしていることをガルスに感じさせてしまう。
口さがなく言えば、謝罪と恐怖の対象に自分がなっているのだ。

居た堪れないことこの上ない。

「どなた様か、貴人がいらしているのではないかとそれでも察しておくべき立場の者どもではありませんか?」

そして、自分の侍従は若干サディストなのではないかというくらいに穏やかながらもキツイ一言を投げかけているのだ。
なんというか、ガルスに主君としての自覚がなくとも申し訳なさを感じられる程度には気まずい。

「ルシウス殿のお言葉、ご尤もではございます。ですが、ニコメディアの離宮には官吏の皆様の出入りや職務に関連しての宴もすくのうございませぬ」

恐懼した表情の老婆が、それでも口から紡ぐ言葉。

「見習いや、使用人の子供らがそれと知らずに御前で騒ぎ立てたご無礼、平にご容赦ください。」

ほおっておけば地面にひれ伏し、頭を地面に擦り付けて身を震わせながら懇願していたに違いない。
それほどまでに、自分が恐れられていることに若干顔をひきつらせつつもガルスの頭に浮かぶのはどう収拾をつければよいんだ此れ、という事である。

まさか、そこで斧をもって立っている衛士に『古式ゆかしい斬首刑ね』などと気軽にいう訳にもいかんのだ。
そんなことを命じる羽目になった日には、罪悪感できっとつぶれてしまう。

なんか、なんか、良い材料はないのか。
折角の弁護側証人らしいし、ここから何か引き出さんと、本当に自分で処罰の命令を出す羽目になりそうだとかなり真剣になったガルス。

「ところで、なぜ、わざわざあそこで?」

彼の頭をよぎるのは、『動機は?』という推理物のお約束だった。
ぶっちゃけ、『動機』なんぞ罪状の前ではだいたい意味がないという先例主義を彼が知らなかったのは幸いだっただろう。
小市民にとって、縋れるのは『情状酌量』というお情け頂戴的なノリしか思いつかなかったのだから。

「ニコメディア流行の踊りを踊ってみたいと、手の空いた者らが朝餉の後に普段使われていない区画で踊っていたとのことです。」

「つまり…私が此処にいると知らずに誰にも迷惑をかけないだろうと思って遊んだわけか。」

「御意。」

そして、取りあえずという程度ではあるがガルスはなんか同情できそうなポイントを掘り出せたことで安堵できた。
悪意はなかったのだろうし、そもそも機嫌が悪かった自分が当たり散らしたことが大げさになったのだとガルスも察しているのだ。
ぶっちゃけ、自分のやつあたりで人を処罰するとかそんな精神衛生が最悪になりそうで、ついでに言うと暴君的なことはやりたくない。

まあ、そんなものius privatumは気にしないのだが。
なにしろ、私法がカバーするのは公益以外のすべてで、ガルスはこの場における家長的存在なのだ。
その気になれば、死刑や追放刑、あるいは動物刑すら下しうるのである。
知らないとはいえ、ガルスは公的には『帝国の皇族』であり、現皇帝の数少ない血の近い親戚なのだ。
まして、ガルスが本質的に皇位を望んでは居ないだろうと理解している皇帝にしてみれば困窮させるよりはある程度の権威づけを図りたいところ。

だから、まあ、ガルスにとってはいつか直面しないといけないことではあるのだ。

この世界は、古代ローマは、現代人にとっては『平等で公正な世界』ではないのだ、と。
彼は、幸運にも権利と身分を保証される側であり、同時に体制側の一員として畏怖されると同時に恐怖される対象なのだ、と。

目の前でひれ伏す老婆から、学ばざるを得ないのだ。

「ふーむ、如何いたしましょうか殿下。」

「子供のいたずらだろう?汝の隣人を愛せよ、だ。強く咎めたてるのは陛下のご芳情にかなわないであろうし、因果を含んで譴責しておけばよいのではないか。」

取りあえず、厳罰とかじゃなくて軽く叱っておけば?程度と口にするガルス。
だがその時、ガルスの知恵を司る守護天使は珍しく勤勉にもガルスの脳裏に警告を発してくれる。

…皇族から、不興を買って『公式に譴責』された使用人の末路ってどんなものだろうか、と。
ヒトラーとか、スターリンの激怒を浴びた人間が、とりあえず死刑になってないけど、君ならどうするか、と。
そこまで思い付いたとき、ガルスはようやく自分の置かれている『立場』の重みを自覚する。

引き籠って、ATMからお金を金貨で貰って、のんべんだらりとユリアヌスとジャレながら田舎でまったり生活していてなお、地位と血は彼に付きまとうのだ。

「いや、まて。そう、そうだ、あの踊りは見事だった。」

ひらりと、ひらりと。
軽やかに舞っている姿は、見事だった。
心奪われた、と言ってよい。

「多少、そう、多少だ。気分を損ねたとはいえ、あの踊りは見事だ。できれば、機会があるときにでも披露させてみようじゃないか。」

放逐されないような口実。
それを咄嗟に探し当てるためだけに口にしたこと。
だが、それはこの場における『正解』である。

「結構なことでございますな、殿下。もし、お気に召されましたば、傍仕えとして身の回りの世話をさせる者どもとして取り立てるというのは。」

「そうだな、いや、それもそうだ。よし、そうしよう。ルシウス。」

皇族から譴責されたとはいえ、傍仕えというのは大抜擢だ。
ガルスの罪悪感もほどほどに癒され、ついでにこの場も切り抜けられるという一事はガルスにしてみれば望ましい解決策でもある。

「ああ、それが宜しゅうございますな。私どもといたしましても、胸が痛まずに済みます。」

だが、そこでちょっとだけほっとした表情で衛士たちに老婆を連れて帰ってよしと指示していたルシウスの呟きにガルスはようやく気が付く。
そういえば、こいつなんだか自分を誘導するような発言が多くなかったかな?と。

思い出してみれば、判決を下すのはガルスじゃなきゃダメだ、とか。
の割には、厳罰を求めているようで、弁護人をよんでみせたり、とか。
法の厳格さとか、皇族の威厳とか言う割には、あんまり細かいことには口を突っ込んでいないし、と。
それでいて、お情け頂戴のバランスを整えた結論出させてくれたんじゃね?と。

「・・・なあ、ルシウス。」

「はい、なんでしょうか。」

すまし顔で答える侍従の表情。
…ああ、これは、間違いない。

「気が付くのが遅い自分が悪いのだろうけど、君、陛下やおばあ様からとか何か言づけられていないか。」

「と、申しますと?」

「ガルスに皇族の在り方を教えておけ、とか、使用人に使い方ぐらい覚えさせておけ、とか。」

使用人との関係を学んで来いと送り出したのが祖母だ。
そして、わざわざニコメディアの離宮を皇帝陛下が滞在先として手配してくれたことの意味合いを察するにそんな匂い。

「御名答です。殿下。陛下は殿下の生活を御否定為さるおつもりはございませんが、作法は覚えさせるべきだ、と。」

してやったり、という表情のルシウスは侍従としては実に有能な補佐役兼教育係なのだろう。
作法、というか皇族の在り方教育を皇帝陛下はガルスにも施してくれる気らしい。

…田舎にほっといてくださいと言えないのは、ガルスの気が弱いからだろうか。

「殿下のおばあ様からはどうも使用人の使い方に変な躊躇があるので矯正を、とのことでございます。」

まあ、田舎は田舎で地所の人間関係に気を使う羽目になるのだろうが。

「まあ、いいさ、勉強にはなったし反省もしている。もう少し、注意することにするよ。」

「大変宜しいことかと存じ上げます。」

では、後程。
御付の者どもをご紹介させますので、少しばかり使い方に慣れてください。
そう言い残し、いそいそと退室していくルシウスの姿を見遣るガルスの心中に渦巻くのは嵌められたことへのもどかしい感覚だ。

…迂闊なことを口にした自分が悪いのだろうが。

自分とは、結局のところフラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルスとは『皇族』が全てなのだろうか。と。





あとがき
Q:ラブコメとか、イリニの予定は?
A:古代ローマ世界の技術水準・身分・内政チート・ご友人獲得の困難さを説明するための緊急導入的な補足説明により延期されました。

Q:なんで、そんな説明が?
A:古代ローマへの溢れる愛が普遍的なものかと盲信してましたorz

Q:まあ、解説あるのは良いとしよう。なに、この更新スパン?
A:平均値を大幅に上回る更新速度ですが何か?

Q:市民カルロ・ゼン、デグさんのラフ画みて、テンションあがって更新すると誓った誓約を忘れたのですか?余暇に何をしていたか言ってみなさい。
A:継承法・王朝内人間関係・蛮族とかの在り方を勉強するために、『The Old Gods』で猛勉強していました!愛してます、パラド!おお、パラドよ、パラド、お前はどうしてパラドなのか?どうして、スウェーデンの会社なのだろうか。

こんな具合で、愛しいパラドにお布施をしてました。スランプ?カルロ・ゼンに甘酸っぱい恋愛ものを書けるとでも?

→取りあえず、今月中に後二回は更新しようと思いますorz

でも、誤字がたくさんですorz


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