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No.33140の一覧
[0] 【試作】背教者の兄(歴史物・ローマ帝国)[カルロ・ゼン](2012/05/15 20:08)
[1] 第一話 ガルス、大地に立つ![カルロ・ゼン](2012/06/24 00:30)
[2] 第二話 巨星落つ![カルロ・ゼン](2012/11/03 13:07)
[3] 第三話 帝都、血に染まる![カルロ・ゼン](2013/01/19 06:33)
[4] 第四話 皇帝陛下の仕送り[カルロ・ゼン](2013/06/09 15:20)
[5] 第五話 ガルス、ニコメディア離宮に立つ![カルロ・ゼン](2013/06/23 22:54)
[6] 第六話 ガルス、犯罪を裁く!(冤罪)[カルロ・ゼン](2013/06/23 22:57)
[7] 第七話 イリニとガルス[カルロ・ゼン](2013/06/23 23:00)
[8] 第八話 ガルス、悩める若者になる![カルロ・ゼン](2013/08/01 17:49)
[9] 第九話 ガルス、バレル![カルロ・ゼン](2013/11/01 21:56)
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[33140] 第三話 帝都、血に染まる!
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/19 06:33
お久しぶり。


お元気ですか?
フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルスです。
プリーズ、コールミー、ガルス。


ああ、なんかぼんやりして埒の明かないことを思っています。
そこら辺に、ちょっと生まれた時代から大逆行された方はいらっしゃいませんか?
おられましたらば、その中に近代医学を修められたお医者様はいらっしゃらないでしょうか?

ええ聞いてください。見てください。

コンスタンティノープル、マジパネェんです。
いえ、私の父上とやらが陣頭指揮して建設されているコンスタンティノープル。
これは、素晴らしいクオリティといえばクオリティを持っていますね。
まさに、ミラクル。

上下水道整備の、完全なインフラをもつ計画都市!

中世やら中世レベルの文明圏に迷い込んだ転生者(笑)はだいたい大成功するのがテンプレ。

…とは言いますが、そもそも古代ローマは存在がチートというほかにないのです。

公衆衛生がばっちりの古代ローマ文明。
そんなローマにとって、感染症対策に関しては基本的には近代医学抜きで可能な措置は粗方講じてあると言いますか。
粗方予防できる病気は、公衆衛生の整備で解決済みなのです。

ローマ、万歳。
文明的な生活、永久にあれ!

綺麗な水に、恐るべき精密な水道施設を活用した大浴場まで整備されているのがローマン・クオリティ。
日本人だろうとも、満足できるクオリティの大浴場は一見の価値があるといえましょう。
ああ、永遠なれローマ人の温泉好き。
大事なので繰り返しますが、温泉好きよ、永遠なれ!

開発経済学の過激な連中だって、ローマの衛生基準と水には文句のつけようもないでしょう。
さすが、大帝からの信頼を御一身に集める皇弟殿下こと父上、お見事極まりない!
内政(笑)とか、正直笑うほかないほど複雑かつ稠密な整備されたローマよ、汝の敵に災いあれ!

ええ、公衆衛生に関してはなんら問題が無いんです。
ただちょっとまずい事に、近代医学の手配が無いだけでして。
だから、薬剤師さんか、お医者さまがいらっしゃればすぐにでも問題が解決できると思います。

そういう訳なので、もう一度だけ繰り返させてください。

誰か、近代医学について知悉されておられる方はいらっしゃいませんか?
僕は、フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルス。
感染症か何かでのたうちまわって死にかけている転生者(笑)です。

一応皇族らしいので、最高級の蜂蜜やら何やら滋養がある食べ物は、頂けています。
そこら辺はありがたいのですが、どなた様かお医者様を読んでください。
できれば、瀉血至上主義者以外を希望します。
もしくは、瀉血至上主義者をお断りします。


とか思っていると、また吐血至上主義者の群れが。

ああ、頭痛くてヒイヒイ吐き気を催す上に熱が酷く高くて譫言が口から洩れるときに血を抜きに来るアホ止め。

霞んだ視界の端に、きらりと光る刃物。
ああ、奴らは一度熱で魘されるときに瀉血されてみればいいんだ。
ガレノス医学に災いあれ!

何が、古典的名著だ。
学術的価値だのしったこっちゃない。
斬られるか、斬られないかの瀬戸際にある患者にしてみれば知ったこっちゃないぞ。

チェザーレが高熱で魘されて判断能力が落ちて没落したのを笑ったのは正直すまなかった。
マラリアにキニーネない時代は、確かに熱は致命的。

ああ、確かに認めるとも。

熱が高くて、吐き気が酷くて寝台の上で魘されているときに冷静な思考力とか求められても困ると。

「…いったい、何の騒ぎだ?」

取りあえず、よく目が見えなくて申し訳ないけど誰が来たのだろうか?
侍従らにしては、音を立てすぎているので外部の人間だとは思うだが。

そう思いながら、ガルスは頑張って起きてみる努力をする。
わざわざ小礼拝堂の個室に運ばさせて冷たい石畳の上で熱を少しでも飛散させいるのだ。
本音でいれば、のた打ち回っていた所にやってくる医者なんてろくでもないのかもしれない。

特に、ギリシャ系で血を抜きましょうとか言ってくる宮廷医。
だれか、前線で軍団兵の治癒に実績のあったまともな臨床医を下さい。
もしくは、近代医学をおさめたお医者様。

「貴方は誰だ?」

「…礼拝堂に押入ってきた挙句に、死にかけの病人にいうことか?」

倦怠感で思考が乱れに乱れ、熱で判断能力と常識が低下しているガルス。
彼にとっては、単純に意味のない言葉で煩わされるだけで我慢の限界だった。
放っておいてほしいという正直な思いである。

まして、誰だと聞かれれば自分のところに来たわけではないらしいのだ。
常ならば、人違い程度笑ってやり過ごせるだろう。
だが、今は喋ることすら億劫な倦怠感と頭痛に苛まれるさなか。

ガルスとしてはそれ以上会話をしたくないほどである。

放っておいてもらえないか。

言葉にこそ出さないが、ガルスの態度は放っていてほしいと語っていた。
襲いかかってきた頭痛を紛らわすことしか念頭にはないのだ。
頭を抱えると横になると先ほど身を起こすときに除けていた、毛布も既にかぶり直し始めている。

「…離宮に、賊が侵入したための衛兵故にご容赦あれ。」

そのガルスではあるが、さすがに賊と聞いては無視する訳にもいかず億劫ながらも口を開く。

「賊?…よりにもよって、この離宮にか。」

だが、そこにあるのは単に事実を聞いての感想だ。
まあ、ガルスは単なる住人にすぎない。
指揮を執って対策を討つなり、剣を取って賊を追うなりするのとは無縁の身。

だから、ある意味他人事だった。

もちろん、住人としてのガルスにしてみれば不手際もよいところだと思うべきかもしれない。
だが、今のガルスにしてみれば静かにしてもらうことが一番重要。
頭痛でのた打ち回りたいところで、延々会話など拷問に等しい苦行。

「しかり。故に、御身はどなたか伺わせてもらう。」

故に、真面目に職務を遂行していると思しき連中の誰何も億劫でしかない。
そして、ガルスは清貧に甘んじ艱難辛苦を神の試練と考える精神構造とは対極の人間だ。

ダラダラと熱に魘され脂汗を流しながら、心中では盛大に神がいるならば救って見せよと喚き散らしている。
だが、彼の幸運は熱ですり減った体力が罵詈雑言を口から紡ぐだけの気力すらも削り取っていたことだろう。

「ガルスだ。…良ければ、少し寝かせて貰えないだろうか?」

「ガルス殿下におわすか?こんなところに?」

一瞬だけ、こわばる声色。

警戒していれば、そこに込められた困惑と同時に部分的に兵らが身構えることに気が付けただろう。
だが、今のガルスにしてみれば頭の痛みと体の寒気の方が全て。
寝かせてくれというので、精一杯であり半分意識が飛んでいる状態でもあった。

そんな彼にとって、こんなところにどうしているのかと聞かれても困る。

「礼拝堂なんだ、別に誰が寝ていてもいいだろう。」

強いて言えば、石造りの礼拝堂の方がヒンヤリとしていて布団を持ちこんで寝ると割合快適だという事くらいか。
場所が場所なので、一応清潔に保たれているうえに静謐さも確保できるという計算もなくはない。
だが、そもそも自分の住んでいる離宮の礼拝堂である。

だから、ガルスにしてみればもういいだろう?と言いたかった。
りーぶみーあろーん、と。

「殿下!?…ガルス殿下!? どちらにおわしますか!?」

そして、ガルスをどうするかと百人隊長が悩む間にガルスの危機は解決される。





帝都で騒乱が起きていることを悟り、エウセビス司教が案じたのは信徒たちの安全だった。
だが、帝都で決起した兵士たちが皇族らを探し回っていることを悟ったとき。
エウセビス司教は、咄嗟に大帝から教育を委ねられたガルスの身を案じて離宮に駆け込んでいた。

そして、行動を起こした兵士たちがキリスト教徒であったことがエウセビスとガルスに幸いする。
彼らの多くは、エウセビス司教が大帝の信を受ける敬虔な聖職者であることを知っているのだ。
その老司教を敢えて剣でもって押し留めようとする兵士は居なかった。

「………エウセビス司教?何故こちらに!」

「ガリスウ百人隊長!?一体、貴方は何をされているのです!?」

故に、エウセビス司教は礼拝堂で熱にうなされて病臥しているガルスと剣を手に立ち尽くしている知己の百人隊長の姿を目の当たりにすることとなる。

…信心深い老司教にとっては看過なしえない光景であった。


信仰の人とって、信仰の持つ意味は無神論者には理解しえない次元の意味を有する。

例えば、ガルスにとって礼拝堂は単なる物質的存在だ。
涼しくて静謐なので、熱にうなされているときに横になるにはまあ、悪くないか?
罰当たりも甚だしい感覚である。
だが一応、皇族でもあるのだ。
こういう背景で、ガルスは図々しくも離宮の礼拝堂を占有している。

一方で、エウセビス司教にしてみれば礼拝堂とは象徴である。

彼は、キリスト教が禁じられ迫害された時代から信仰を守り抜いてきた信心深い聖職者。
そんなエウセビスにしていれば、礼拝堂とは単なる物質的存在に留まらない存在だ。
籠められた祈りの場としての、礼拝堂という位置づけは神聖なものですらある。

敬虔な信心を持つ人間にとって、侵すべからざる神聖な地として礼拝堂は地上にあるのだ。

祈りの場に対するキリスト教徒の思い入れ。
それは、寺院に対して観光やら年始の参拝程度の認識しか有していないガルスには想像もつかない次元の話として存在する。

ガルスにしてみれば、便が良いからという理由で療養所にしている礼拝堂だ。
しかし、信心深いエウセビス司教にしてみればそこは神聖な信仰の場なのである。

弾圧され続けた信者たちがようやく安寧と共に得られた祈りの場。

だからこそ。

だからこそ、礼拝堂に武器を手に押入ってくる輩というのはエウセビス司教にしてみれば看過しえなかった。

「ここは、大帝が喜捨されたもうた礼拝堂。ここに、武器を手に押し入るとは!」

老司教にしてみれば、その光景は悪夢だ。
キリストの教えを奉じる礼拝堂に、癒しを求めて籠る若者。
その礼拝堂に、同じ教えを奉じる戦士たちが武器でもって押し入り血を流す?

それは、エウセビス司教とて政治を知らないわけではない。
だが、それが彼の信ずる教えを決定的にダメにするという信心は確かに持っていた。
贄とされかねないのが才走り敬虔さとは無縁の皇族であろうとも神学を学んでいる若者であったとしても、である。

「司教猊下、我々は大義に基づいて…」

故に、意識が熱で朦朧としているガルスは運に恵まれていたというべきだろう。

兵士たちが気乗りしないながらも受けていた命令は、離宮に滞在している『ユリアヌス』を何としても仕留めよというもの。
元より、気分の良い任務でないことと、ガルスは直接命令されていた標的でないということが彼らの殺意を削いでいた。

「剣をもって、礼拝堂に押入るのが、信仰と正義に叶うと!?」

なにより、そんなところに礼拝堂で老司教に糾弾されれば剣でもってガルスの命を頂戴しようという使命感は芽生えようがない。
無論、襲撃する論理からすれば『目標の一族』であるガルスとて殺すべき対象の一つであり殺したところで咎められることもないだろう。
しかしながら、元々未来ある若者を殺して来いと命じられたのはローマの兵士たちである。

血に飢えた蛮族ならばいざ知らず、彼らはプロ意識に従ってやむを得ず命令に従っているに過ぎない立場だった。
これが、ローマを蛮族から守るための戦いならば百人隊長も臨機応変な措置を講じるにやぶさかでもなかっただろう。
だが、気乗りしない宮中の陰謀劇のために信仰と良心に悖る行為を喜んでなすだろうか?

「ガリスウ百人隊長!貴方の信ずる神が、これを欲したもうのか!?」

答えは、単純に否、否なのだ。

「…失礼しました、司教猊下。他所を当たりましょう。どうぞ、お気を安らかに。」

乗り気でない任務、想定外の目標。
そして、礼拝堂で殺人をするかという信心との葛藤。

ガリスウ百人隊長は、ローマに忠誠を誓った職業軍人だ。
その彼にしてみれば、それはローマに対する忠誠の義務をはるかに超える事態としか言いようがない。

退くには十分すぎる理由だった。

かくして。

まったく本人は気が付くことのない間に。

ガルスは、人生最大の危機を一つ乗り越えることに成功する。




だが、ガルスの周りの人間はガルス程の悪運には恵まれなかった。

帝国を支え、属州の静謐を保っていた多くの皇族ら。
大帝の葬儀と、それに伴う帝位継承の式典に参列するべく彼らは帝都に集っていた。

彼らにしてみれば、あくまでも一時的に帝都に集い次代の統治へ移行するという手続きの一環。
コンスタンティウス2世と、その兄弟らによる共同統治。
コンスタンティヌス大帝の命により、各地に配属された親族らが属州を防衛するという体制の再確認。

だが、皇帝の親族というのはとかく危険な存在なのだ。
まして先帝に選抜され、地方を委託されるほどに有力ともなれば新皇帝にとっては看過できないほど。
それが、軍権を持ち地方の防衛を担うという事態は猜疑心の強い新帝にとってあまりにも危険だった。

致命的なことに、彼らの多くはいまだローマ古来の異教を奉じているのだ。
そして、彼らの多くは内心で大帝のキリスト教信仰を物狂いとして苦々しく見つめていた。
彼らにしてみれば、ローマ帝国伝統の信仰こそが危機にあって帝国の紐帯を保ち得る唯一の術。

皇帝の神聖化と信仰によって帝国の再編を欲した大帝と、その路線を踏襲したいコンスタンティウス2世。
その新帝にとって、反発する親族という存在とは、即ち相入れようのない存在である。

大帝はその自身の権威によって弟らからなる親族の忠誠を信じられた。
だが、新帝にはあまりに有力かつ、異なる信条の皇族らである。
なまじ、彼らの多くが辺境防衛に張り付けられていたがために誼を通じていないことも大きいだろう。

血脈こそ、近しい彼ら。
だが、疎遠な彼らほど新帝にとって危険な存在もない。
そして、それらが良く横のつながりを保つことを帝都でまざまざと目の当たりにするのだ。
猜疑心と恐怖心、そして大帝の跡を継ぐという責任感からくる重圧。

それらは、新帝に一つの粗暴かつ単純ながらも、ある意味効果的な解決策を選ばせることとなる。

かくして。

葬儀と、新帝即位の式典の余韻が漂う最中。
先帝の崩御は、キリスト教狂いと大帝を罵っていた皇族らの凶手によるものという風評が漂い始める。
その火種は大帝の下で従軍した兵士らと、キリスト教徒らの激発を招く。

こうして先帝の崩御と風評によって動揺し『暴走した』帝都の兵士たちの兇刃に皇族らは悉く倒れるに至る。
ごく僅かな例外として生き残ったのは、ガルスとユリアヌスの兄弟のみ。
そして、その事実は計画を建てたコンスタンティウスですら予期しえない事態であった。

「御位を脅かしかねない脅威は、ほぼ解決いたしました。」

「ほぼ?」

故に、はじめその報をもたらされたとき。

コンスタンティウスは、わずかに眉を顰め誰を仕留め損ねたのかと宦官に視線で問いかけた。
只でさえ、危険の大きな博打だったのだ。
それを首尾よくやり遂げかけているときに、手落ちの報告である。

「ガルスとユリアヌス…二名ほど生き延びておりますが。いかがされますか?」

だが、その愁眉も読み上げられる報告によって開かれることとなる。

「不幸中の幸い、というやつだろうな。」

「…と、申されますと。」

「奴らのことは、少し知っている。」

コンスタンティウスにとって、馴染みのない大半の親族と異なり帝都で暮らしていた従兄弟らだ。
多少の付き合いはあり、その人柄を多少なりとも把握しているだけに事は単純だった。

他の親族とは違い、ガルス・ユリアヌスの両者は政治・軍事の経験が一切ない。
それどころか、唯一年長で微妙な年頃のガルスですらそれらに興味を見せていないことを彼は知っている。
わざわざ、父コンスタンティヌス大帝が、司教を呼んで神学について学ばせてやっていることも、だ。

言い換えれば、ガルスはある種の学問狂いであって政治にはさしたる関心も見せていない存在。
そして、その弟であるユリアヌスとて年端もいかない餓鬼である。
ガルスが、弟に学問を手引きする姿を父がエウセビス司教から聞く場に居合わせたこともあった。

「どちらも、皇位に興味を抱きようもない連中だ。学問でもやらせてやれば、それで満足することだろう。」

はっきりといえば、排除できるに越したことはないだろう。
だが、生かして残しておいても脅威たりえるかと言われれば微妙だった。
血は兎も角として、本人たちの気質からして皇位へ挑んでくるかと言われれば無いだろうとコンスタンティウスは断言できる。

「宜しいのですか?」

「これ以上、しいて流血を欲するのは世間を騒がしすぎる。…弟たちも騒ぎ出しかねない。」

これが、有力で兵をあげかねない親族ならば別だった。
だが、急ぎ首を刎ねねば帝位を脅かすならばともかく。
偶発的な事故で、親族を失った皇帝という建前を崩してまでガルス・ユリアヌスを排除すべきか?

コンスタンティウスにしてみれば、そこまでの脅威は彼らに認めていない。

猜疑心が強いコンスタンティウスだからこそ、宮中と関わり合いにならず学問にうちこみたいというガルスの心情をある程度理解できていた。
早い話が、興味がないことを徹底的にガルスが示し政治から距離を置いていることの意味を理解しえるのだ。
アレは、政治に興味がない以上、自分にとって競合相手たりえない、と。

「余計なことを申し上げました。」

「よい。」

故に、ガルス・ユリアヌスの処遇を確認しにきた宦官に対しコンスタンティウスは手出し無用と指示を出す。
既に流血は収束すべき段階に来ていることを、英邁な大帝の血を引く彼とて悟っているのだ。
余りにも、血塗られた登極は彼にとっても望ましくない。

長期的なリスクと、当面の評判を勘案したコンスタンティウスにとってガルス・ユリアヌスの脅威は微々たるものなのだ。

「では、離宮にて?」

「いや、分けて地方にやれ。」

そして同時に、コンスタンティウスは従兄弟らの意図ではなく血の持つ意味も理解している。
故に、離宮での飼い殺しという選択肢ではなくより明確に封じ込める意図から地方へ移すことを命ず。

「ガルスは、アテネかクレタにでも送ってやれ。」

ガルスは本人の好きなことをやらせつつ、権力から遠ざければよい。
一応、唯一の成人した親族として彼らの後見人として学問を命ずる権利が新帝にはあるのだ。
そして、ガルスがそれとなく上伸していた学問のための転居も渡りに船である。

本人が行きたいというのであれば、政治的にはさして重要でもないアテネかクレタで学問に明け暮れさせてやればよかった。
何ならば、書籍や研究のための雑費を宮廷費から支給してやっても良いくらいである。
学問に専念し、実務から遠ざかってくれるというならば幾らでも学問に専念させてやってよいほどだ。

「…ユリアヌスは、確か祖母が地方にいたな。」

「御意。ビテュニアに、所領がございます。」

そして、その弟はまだ幼い。
学問を指せるというよりは、単純に幽閉して飼い殺しにすれば問題は生じないだろう。
幸い、物の道理をわきまえた祖母がまだ存命だ。

そう、『まだ』である。
確か彼女は、相当の年だった。
そういう人物であれば、後腐れの不安も乏しい。

地方で、中央の政治から切り離して扶育させれば特に問題も起きないだろう。
庇護者となる人間が祖母ということならば、ユリアヌスが長じる頃には寿命も期待できる。
彼の後ろ盾となりうる扶育者が年老いていることは、彼が成人するころには健康を害しても不思議ではないのだ。

故に、ユリアヌスに親しく庇護を与え後援する親族と化す不安は左程もいらないだろうとコンスタンティウスは安心できる。

「結構だ。ならば、そのもとで扶育させよ。監視は怠るな?」

「かしこまりました。ただちに、万事整えましてございます。」



あとがき

随分とご無沙汰ながらも、ガルス復活。

そして、また当分ご無沙汰すると思いますorz

だが、敢えて言いましょう。ガルスがエタ-することはないだろう、と。

(´・ω・`)トラストミー

こんなご時世だからこそ、宗教と人間って意義深いテーマだから頑張って書こうかなぁと。

がんばるお。


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