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No.33133の一覧
[0] エムゼロEX 【エム×ゼロ ifアフター】[スウォン](2013/03/22 20:42)
[1] 第一話[スウォン](2012/05/14 18:35)
[2] 第二話[スウォン](2012/05/15 18:06)
[3] 第三話[スウォン](2012/05/16 18:38)
[5] 第四話[スウォン](2012/05/23 00:10)
[6] 第五話[スウォン](2012/06/05 03:14)
[7] 第六話[スウォン](2012/06/19 17:02)
[8] 第七話[スウォン](2012/06/21 16:11)
[9] 第八話[スウォン](2012/06/29 15:22)
[10] 第九話[スウォン](2012/07/01 15:41)
[11] 第十話[スウォン](2012/07/10 23:12)
[12] 第十一話[スウォン](2012/07/17 18:39)
[13] 第十二話[スウォン](2012/08/09 00:45)
[14] 第十三話[スウォン](2013/01/03 17:57)
[15] 第十四話[スウォン](2013/03/24 00:11)
[16] 第十五話[スウォン](2013/03/26 22:07)
[17] 第十六話[スウォン](2013/04/04 14:55)
[18] 第十七話[スウォン](2013/04/10 19:49)
[19] 第十八話[スウォン](2013/04/30 23:32)
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[33133] 第十八話
Name: スウォン◆63d0d705 ID:b51596ef 前を表示する
Date: 2013/04/30 23:32
  第十八話 仕組まれた告白


観月の前に痩せこけた男がのろのろと近づく。その目は瞳孔が開き、その肌はカサカサに荒れ果て、その足取りは今にも倒れそうなほど不確かだ。男は観月の目の前まで接近すると、その感情の読めない爬虫類のような不気味な目でジロジロと全身を観察する。観月の背筋に寒気が走る。背丈は観月と変わらないほど小柄な男――兜は眉をひそめ口を歪めた。

「なんでもするから棄権しろ? どういう意味だ?」

「そ、そのままの意味です。次の試合、九澄大賀とは戦わずに棄権してください」

観月は兜と目を合わせないように部屋の隅を見ながら返答する。その声は完全にこわばりひきつっていたが、なんとか最後までしゃべりきることができた。兜はその様子を見て腹から声をすすり出すように笑う。

「ヒ、ヒ、ヒ、えらく好かれてんだなああのガキは……。てめえあいつのオンナか?」

「そ、そんなんじゃありません! ただの友達です!」

「友達ぃぃい? そんなもんのためにそこまでするわけがねえだろうに……。健気だねぇ恋する乙女は」

観月の顔がかあっと熱くなる。認めたくない事実。それでももう自分の中で答えは出ていた。そのとおり、ただの友達ならここまでするはずがない。今や観月にとって、九澄の無事は自分の身より大事なのだった。

「だがてめえみてえな可愛いオンナを好きにできるってのは悪い条件じゃねえな……」

兜が目を細める。観月は唇を目一杯噛んで恐怖と動悸を抑えこむ。今にも呼吸が暴れ狂いそうだった。脚は震え、視界が定まりなくグラグラと揺れ始める。

「その辺にしておけ」

背後から男の声が聞こえたのは突然だった。兜は目を見開き顔を歪める。

「あぁ!?」

兜は明らかに観月の背後のその男を睨みつけていた。観月は脚の震えを抑えこみ、息を殺しながら後ろを振り向く。そこにいたのは観月にとって馴染みがあるとは言えない顔だった。

「てめえには関係ねえだろ、夏目……!」

夏目と呼ばれた男が余裕の笑みを浮かべる。

「関係無くはない。お前と九澄の勝者が決勝で俺と戦うんだからな。それにここは俺の控え室のすぐ隣だ。気付かないわけがないだろう?」

魔法執行部部長夏目琉。兜とは全てにおいて対照的な、長身で堂々たる体躯と精悍な容姿を持つ好青年がそこにいた。

「俺の首が欲しいんだろう? だったら余計なお遊びは止めておけ。第一、執行部長の立場としても聖凪の敷地を三文ポルノの舞台にされてもらっては困るな」

「ち……! 教師どものイヌが調子づきやがって……!」

兜の顔が醜悪に歪む。あからさまな憎しみと殺意を隠そうともしていない。だが対峙する夏目はあくまで冷静だった。

「調子づいているのはどちらだろうね。滑塚に勝ったぐらいで執行部に勝ったなどと思わないことだ。そう、この俺に勝つまではな」

「ククク……! いいぜ、九澄を血祭りにあげたら次はてめえの番だ……!! 滑塚みてえに優しく扱ってもらうと思うなよ……!」

醜く笑う兜と余裕のたたずまいの夏目。二人の会話は完全に観月をスルーして進んでいた。観月は居ても立ってもいられず夏目に詰め寄る。

「あ……あの……!」

「さあ君もこんな場所はとっとと立ち去るんだ。こんな腐った奴と同じ空間にいたら君のような美人まで腐ってしまうからね」

「きゃ……!」

突然夏目は観月の手首を掴み強引に引っ張った。そしてそのまま観月を連れて控え室を去ってしまう。跡には苦々しく立ち尽くす兜だけが残された。

「あ、あの、離してください!」

通路をずいぶん進んだ後で観月は夏目の手を強引に振り払った。そして足を止め夏目を睨み上げる。

「どうして邪魔をするんですか……!?」

「邪魔? 俺は君を助けたんだよ?」

夏目が肩をすくめる。

「だけどあたしが……あたしがああしなかったら九澄は……」

「なるほど……彼も随分と愛されたものだな。つまるところ君は彼が奴に勝てないと思っているわけだ。しかし君は知っているのかい? 彼の本当の実力を」

「あ、あなたは知っているんですか!?」

九澄は魔法を使えない。少なくとも自由には使えない。それが観月の結論だ。あるいは執行部長ともなればその事実を知っているのだろうか。それとも自分の知らないもっと大きな秘密が九澄にはあって、それを知っているということなのだろうか。
だが夏目の答えはあまりに意外なものだった。

「知らないね。彼のことなど俺は何も知らない」

「え……?」

観月は呆気にとられる。

「彼がどんな魔法を使いどれほどの力量を持っているか……俺は何も調べていないし、調べようとも思わない。彼が兜に勝てるのかどうかなんて全く予想する気はないよ」

「そんな……同じ執行部なのに……」

「俺が知っているのは彼が怪物一年生と呼ばれているということと、前にうちの滑塚に勝ったということぐらいだ。だがそれだけわかっていれば相応のやり手だと理解するには充分だろう? 本当の実力は俺自身が確かめるさ。もし彼が決勝まで上がってこれたらね」

夏目は観月に顔を近づけ、その艶やかな茶髪をそっとかき分ける。観月は夏目の突然の行動に驚いてしまい何の抵抗もできない。

「だから余計な邪魔をしてくれちゃ困るんだ……。彼と兜、どっちが勝つかなんて俺は知らない。だがこれだけは言える。強いほうが勝つ、勝ったほうが強い。どちらも同じ事だ。勝ったほうが最強の挑戦者として俺に挑む。俺を、楽しませてくれる」

さらりとそう言ってのける夏目の冷たい目。瞬間、観月はビクリと全身をこわばらせる。

「楽しま……? まさか、それだけのために……?」

「他に何がある? 彼が兜を倒した時、初めて彼は俺に挑むにふさわしい資格を得るんだ。なのに不戦勝なんかじゃつまらないじゃないか」

その時観月には、この彫刻じみた端正な顔立ちの執行部長があの不気味な男と変わらないぐらい――あるいはそれ以上に得体の知れない存在に思えた。

「で、でも九澄は……」

観月が言い終わるより先に夏目が観月の頭を両手でそっと挟む。まるで口づけの準備をするかのように。そして薄く微笑む夏目の目がかすかに紅く光ったことに観月は気付かなかった。

「さあ、『君はここに来たことなど忘れるんだ』そして『心置きなく九澄大賀を激励してやりなさい』それから……そうだな、こうしよう。『彼に君の想いを伝えてあげなさい』きっと彼も喜んでくれるだろう」

一つ一つの言葉が急速に観月の心に広がっていく。まるで言霊が精神を塗り替えていくかのように。

「九澄に……あたしの気持ちを……」

観月の瞳からは光が失われ、ただ夏目の瞳の紅い光だけをぼんやり映す。

「そう、いい子だ……」

観月はその場にずっと立ち尽くしていた。目も口も半端に開かれたまま全身ピクリとも動かない、抜け殻のような少女がそこにいた。どれほどそうしていただろう。暗くも明るくもない曖昧な光の世界の中から、不意に観月は我に返った。

(あ、あれ……? あたしこんな所で何してるんだろう……?)

そこは控え室がある会場通路の真ん中。周囲には誰も居ない。観月は頭を振って両手で頬を叩くが、意識ははっきりとしているのに頭の中はひどく乱雑になっている。

(ええっと確か九澄の控え室を飛び出して……それからどうしたんだっけ……?)

九澄、その単語を思い出した途端に頬が熱くなる。胸の鼓動が加速していく。

(そうだ……あたしはあいつを激励してあげるんだ……。そして……そして、告白するんだ、あたしの本当の気持ちを)

目の前で両の拳を握る。もう迷わない。

(あたしは、九澄が、好き)


####


「九澄選手、時間ですよ」

係員の二年生に呼び出され、九澄はスッと立ち上がった。そして自分を取り囲んでいた友人たちに目配せする。

「ぶちかましてやれよ九澄ーー!」

「負けたら承知しないかんねー!」

(ったく、みんな人の気苦労も知らねーで勝手ばっか言いやがってよ)

九澄は心のなかで悪態をつきながら頬を緩める。

(悪くねーよな、こういうのも)

一歩一歩足を進める。心拍が否応なしに高まっていく。
これは恐怖か? もちろんそうだ。
それとも高揚か? それも正しい。
戦うこと自体は好きではない。中学時代はケンカ屋などと呼ばれたが、しょせん身に降る火の粉を払っていただけだ。自分から殴り合いがしたくて仕掛けていったことなど一度もない。だが自分は今、己の力を試そうとしている。それも失敗すれば大怪我は免れない状況で。明らかに昔の自分とはどこか変わってしまっている。
だけどそんな自分を無邪気に応援する級友達の声を聞いていると、自分が今もまだ自分のままだと実感できる。九澄はこの曖昧な心境に不思議な心地よさを感じつつあった。

(それに、柊だって応援してくれてるんだからな)

想い人が自分のそばについているというだけで、なんだって出来そうな気がしてくる。結局男という生き物はそういうものなのかもしれない。
通路の先に闘技場の風景が広がる。もう少しで戦いの地に入る。その時九澄の目に、通路の出口前で逆光に照らされている人影が写った。

「観月?」

九澄にとって馴染み深い少女がそこにいた。近づいてみれば彼女は何やら頬を赤く染め、こちらをチラチラと見ながらもじもじと胸元で指を動かしている。何か言いたいことがあるけど言いづらい、そんな雰囲気だ。九澄はそれを見て無意識に微笑む。

「おめーも応援しに来てくれたのか? マジサンキューな」

「バ、バカ! 別にお礼なんて言ってくれなくていいわよ! す、す、好きでやってることだし」

観月はいかにも彼女らしい剣幕でまくし立てソッポを向く。そんないつも通りの仕草を見て九澄の緊張がすうっと緩んだ。

「なんか俺って、観月のそ~いう照れてるとこ見るの結構好きだな」

「なななななななな何言ってるのよ! べべべべべべ別にそんなこと言われたって嬉しくなんか……」

そこまで言ったところで観月が言葉に詰まる。そして顔をプイとそらして小さくつぶやいた。

「う、嬉しいわよ、バカ」

今や観月の顔はトマトもかくやとばかりに赤く染まりきっていた。九澄はクスリと笑って「ありがとな」とささやいた。

「じゃあ俺……」

九澄は軽く手を振って観月の前を横切る。
その時だった。背後から何かがドシンとぶつかり、九澄の胸をぎゅっと抱きしめてきたのだ。その力は万力のように強く、それでいてその感触はマシュマロのように柔らかい。

「み、観月!?」

九澄の声は裏返っていた。観月はますます力を強めて九澄に一歩も進ませない。首を曲げてなんとか後ろを向くと、観月は九澄の背中に顔をうずめていて、その赤茶色の艶やかな髪だけが見えていた。その光景を理解するとやおら背中に感じる二つの柔らかい膨らみの感触をリアルに意識してしまう。

「どどど、どうしたんだよ観月」

観月は震えるようなか細い声で答える。

「勝たなくてもいい……負けてもいい……だから無茶はしないで……無事に帰ってきて……」

「観月……」

「あたしは……あたしはあんたのことが、好きだから」

「へっ!?」

観月がばっと九澄から離れる。九澄は思わず体ごと後ろを向き、半身で目を逸らしている観月と向き合う。観月は九澄をチラリと見るなりズカズカ接近して九澄の背中を突き押した。

「返事は後で聞かせなさいよね!! ほら、さっさと行く!」

「お、おう!?」

その勢いで通路の外に出てしまう九澄。歓声が一気に膨れ上がり、一年C組の集まる一角からは鳴り物まで響き出す。

「み、観月……俺……」

九澄が後ろを向いた時、もう観月は背を向けて走り去っていた。小さくなっていく観月の背中を見つめながら九澄は心臓が今まで以上にバクバクに脈打っていることに気づく。

(おいおいおいおいおいおいマジで!? 観月が!? そんなそぶり全然なかったじゃねーかよ!?)

呆然としている九澄を見て、さっきからずっと黙って成り行きを見ていたルーシーがはあ~っと溜め息をつく。

「大賀ってばドンカンすぎー。尚っちがかわいそー」

「ええええお前知ってたのかよ!!??」

「ほらほら今はあたしとイチャイチャしている場合じゃないでしょ! アイツをなんとかしないと!」

ルーシーは九澄の背後を指差す。そちらを向けばそこには小柄で不気味な雰囲気の男、兜天元が立っていた。

「お、おう……観月のことはとりあえず後だな……」
(いやいやいやいやそんなこと言ってる場合か!? どうすんの俺!? どうすんの!!??)


####


観月は通路の隅にいた愛花に目を留めた。どうやら先程の一部始終を見られてしまっていたようだ。口を半端に開けたまま呆然と立ち尽くしている。観月は愛花の目前に近づいて笑顔を作る。

「応援……してくれるよね」

「う……、うん」

ああ、あたしはなんてずるいんだろう。愛花の気持ちを知っていて、しかも本人がそれをはっきり自覚していないことまで知っていてこんな卑怯なことを聞いている。きっと友達思いで優しい愛花ならうんと答えてくれると思ったから。そして一度そう答えてしまえばその言葉が彼女の枷になるから。

(あたし……本当に卑怯者だ……)

それでもいい。誰かが言った、恋と戦争ではどんな手段も許されると。観月はそうすると決めた。


####


愛花は自分がなぜこんなに動揺しているのかわからなった。男嫌いだったはずの親友が恋をするのは素敵なことだ。ましてその相手が信頼出来る人なら尚更だ。きっと九澄くんなら尚っちを幸せにしてくれるし、九澄くんだって尚っちみたいな素敵な女の子が彼女なら嬉しいはずだ。それはとても素晴らしいことだし、応援すべきことのはずだ。

ならばなぜ、自分はこんなにもショックを受けているのだろう?


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