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No.33133の一覧
[0] エムゼロEX 【エム×ゼロ ifアフター】[スウォン](2013/03/22 20:42)
[1] 第一話[スウォン](2012/05/14 18:35)
[2] 第二話[スウォン](2012/05/15 18:06)
[3] 第三話[スウォン](2012/05/16 18:38)
[5] 第四話[スウォン](2012/05/23 00:10)
[6] 第五話[スウォン](2012/06/05 03:14)
[7] 第六話[スウォン](2012/06/19 17:02)
[8] 第七話[スウォン](2012/06/21 16:11)
[9] 第八話[スウォン](2012/06/29 15:22)
[10] 第九話[スウォン](2012/07/01 15:41)
[11] 第十話[スウォン](2012/07/10 23:12)
[12] 第十一話[スウォン](2012/07/17 18:39)
[13] 第十二話[スウォン](2012/08/09 00:45)
[14] 第十三話[スウォン](2013/01/03 17:57)
[15] 第十四話[スウォン](2013/03/24 00:11)
[16] 第十五話[スウォン](2013/03/26 22:07)
[17] 第十六話[スウォン](2013/04/04 14:55)
[18] 第十七話[スウォン](2013/04/10 19:49)
[19] 第十八話[スウォン](2013/04/30 23:32)
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[33133] 第十四話
Name: スウォン◆63d0d705 ID:2d35a717 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/24 00:11
  第十四話 開会


ここは魔法空間内部に作られた聖凪杯特別会場。中心に位置する闘技場には大きな魔法陣が描かれている。それは外部からの干渉を防ぐと共に観客を守る結界を作るためのものだ。同時にその結界の中において通常より濃い魔法磁場を生むことで、後腐れのない全力の勝負を演出するための仕掛けでもあった。

「あっ、尚っち! ねえねえ尚っちも一緒に見ようよー!」

観客席をウロウロしていた愛花は、親友が一人で座っているのを発見し元気に声をかけた。もうすぐ始まるスペシャルイベントの開始に向け聖凪高校のほぼ全生徒が会場のあちこちに散っている。愛花は久美やミッチョンと共に九澄応援のための一番見やすい席を探していたところだった。

「あ……愛花」

こちらに気付いた観月だったが、その表情は冴えない。最近観月と顔を会わせていなかった愛花は首をかしげる。

「どーしたの尚っち、元気ないね」

「んーん、そんなことないよ、気にしないで。みんなで九澄の応援?」

「うん! ね、みんなで一緒に応援しよ?」

観月は微妙な笑顔を作り遠慮がちに頷いて同意を示した。愛花はその様子を見てやっぱり何かあると思ったが、すぐには突っ込まずニコニコしながら観月の隣に腰掛けた。 悩みがあるならじっくり聞いてあげればいいのだ。久美、ミッチョンも順番に腰を下ろす。開会式開始までもうあとほんのわずかだ。

聖凪高校の歴史は半世紀を超える。その長い歴史の中で過去に数度、ある好奇心が答えを得たことがある。「最強の魔法使いは誰なのか」――それは魔法に青春を捧げ魔法に情熱を費やした若者達にとって、ある意味では当然の疑問だ。その観点から見れば最強を決める大会が開かれること自体は何ら驚くべきことではない。ただし頭の硬い教師陣を説得し、ルールや安全対策を整え大会を実行に移すことは、社会経験の乏しい高校生にとって決して易しい事業ではなかった。故に過去何度も企画倒れに終わってきたというのが実情なのだ。

『じゃあなんで今回はこうすんなり実現したんでしょうか?』

マイク越しに利発そうな女子生徒が問いを投げかける。実況担当である彼女に答えるのは他ならぬ聖凪高校魔法主任、柊賢二郎。鋭い目がどっしりと構えていて何やら妙な迫力がある。

『それだけ皆が知りたがっているということだろう。稀代の天才と謳われる夏目琉や、怪物一年生と呼ばれる異色の新星九澄大賀……。あるいは他にも我こそは と思う者がいることだろう。22年前、俺や幾人かの生徒が"誰が一番強いのか"という話題の中心となってバトル大会による決着を必要としたように、今年も同じことが起こったのだ。それだけの人材が集まったということだろう』

その他に要因があるとすれば、教頭をはじめ普段はこうしたイベントにいい顔をしない教師達がなぜか賛成に回ったことだ。しかし柊父はどう説明したらいいのかわからなかったので言及しなかった。

『なるほど……。確かに今大会のレベルは過去のどの時代においても実現し得なかったかもしれないという声もありますしね』

『それが正しいかどうかは今日明らかになるだろう。まあそうは言っても俺より強い奴はいないだろうがな』

実況の女子は「アンタ教師だろ」というツッコミをグッと飲み込んで前を向き直した。

『……さあっ! 時間がやって参りました! みなさん盛大な拍手でお迎えください!!』

会場のボルテージが一気に上がる。中央に描かれた魔法陣、そこに7つの黒い穴が空いた。

 

 
    『全選手入場!!!!!!』

 

 
穴の一つ一つから次々と人間が現れる。魔法大会ならではの演出である。

『一年生にして黄金のプレート!! 先輩共よ俺にひれ伏せ!! 怪物一年生、九澄大賀!!!』

一番手に入場した九澄の拳は固く握られ、その内側からは汗がじんわりとにじんでいる。九澄は周囲の観客たちを軽く見渡しつばを飲み込んだ。三年生からの反応は静かなものだったが一年生からの声援は絶大だ。

『肩書きは生徒会長、そして今日は聖凪のジャンヌ・ダルクだ!! 二年生代表望月悠理!!!』

実質的な主催者の1人でもある彼女に緊張の色は一切感じられない。涼しい顔で手を振ってオーディエンスにアピールしている。

『執行部のプライドは絶対譲らん!! 誇り高き捕獲人〈スナッチャー〉滑塚亘!!!』

腕を組んで仁王立ちする滑塚の風格はかなりのものだ。毎朝磨いているという噂もある自慢のデコがキラリと光る。

『ダークホースとは呼ばせない!! エリートどもの仮面を剥いでみせよう兜天元!!!』

女子ほどの小柄な体格に健康が心配になるほどの痩せ身の男。およそ闘争には似つかわしくない非体育会系の容姿ながら眼光はギラギラと輝いている。

『ウィザードの首は俺が獲る!! 誰にも邪魔はさせない!! 鉄腕の新宮一真!!!』

素手の格闘なら間違いなく絶対的本命になる男。ただ立っているだけで闘志と闘力の充実ぶりが客席にまで伝わる。

『マジックワングランプリ優勝者が二冠を狙う!! 完全王者は我の手に!! 幻影〈ファントム〉・浅沼耀司!!!』

にこやかに振る舞い自然体で立つ。全参加者中最もリラックスしているようにも見受けられる長身の青年の自信の礎はいかばかりか。

『さあいよいよ登場です!! 生ける伝説の力量がついにベールを脱ぐ!! 執行部部長・大魔術師〈ウィザード〉・夏目琉!!!』

三年生から上る一際大きな歓声に両手を上げて答える"稀代の天才"。その伝説の浸透ぶりは尋常では無いのだ。もちろん同じ校舎で一年間を共にした二年生にも彼の名声は轟いている。

『並び立ちました聖凪最高の7人! この7人が今日ここで最強の座をかけて争います! 皆様どうかその目でこの一大カーニバルを目撃してください!』

再び大きな歓声が巻き起こった。

「なあ、なんでトーナメントなのに7人なんだ? 普通8人にするだろ?」

観客席では伊勢兄が永井に疑問を投げかけていた。

「夏目部長はシード選手なんだ。あの人は一回戦を戦わない」

「なるほどな……。まあ確かにそれ相応のレベルではあるけどよ」

伊勢の脳裏に、かつて夏目によってあっさりとねじ伏せられた屈辱が蘇る。執行部に入ったばかりの頃に調子に乗って勝負を挑んだ時の話だ。それまでに上級生との魔法バトルに勝った経験があることもあって己の力量を過信していた伊勢は、あの時初めて完全なる敗北の味というものを知ったのだ。

「やっぱ本命はあの人か、永井」

「揺るがないな。望月が何を企んでいたとしても一対一ではどうにもならないだろうし、他の三年生だって部長と比べるのは可哀想だ。あえて言うなら……やはり九澄が鍵だろう」

「やれやれ、あの小僧も高く買われたもんだ。俺は奴とのケリが付いたとは思ってねーがな」

あの時、あの九澄とのバトルの時は気分が萎えたこともあって自分から勝負を放棄したが、以来伊勢は打倒九澄を常に頭の隅に置いてきた。絶対に勝てない相手だとは思っていない。九澄はもはや上積みのないゴールドプレート。対して自分にはまだまだレベルアップの余地があるはずだ。

「フ……その負けん気の強さは尊敬するよ」

永井が嬉しそうに頬を緩めた。

「ねえねえ、あの二人えらく打ち解けてんじゃない?」

並んで立つ伊勢と永井の様子を見て、執行部副支部長の宇和井玲が部員の沼田ハルカに耳打ちした。春の一件以来伊勢と永井の対立そのものは終わっているが、昔のように友人に戻ったわけではないことを知っている彼らからするとちょっと驚くべき光景だ。あの雰囲気じゃ学校帰りに二人でハンバーガーショップに寄っていてもおかしくないんじゃないかという風に見える。

「きっと色々あったんだよ」

ハルカは目を細めながら二年生最強コンビを眺める。宇和井の目にはその表情が心なしか恍惚としているかのように映った。

「美少年同士の対立と和解……いいわぁ……」

宇和井は親友の危ない目つきにちょっと引いた。


####


九澄の出番はいきなりやってくる。一回戦第一試合。ただしその前に会場では前座として軽音部のバンド演奏(魔法によるロックフェスばりの演出付き)が行われていた。

「本当に大丈夫なんだろうな、九澄」

試合直前の控え室で柔軟体操をする九澄に対し柊父が疑問の声を投げかける。柊父にしてみれば九澄の優勝など望むべくもない。それよりいかに惜しい戦いを演出してさっさと敗退するか、それが重要だった。ちなみに今この部屋には彼ら二人を除いて人間は誰もいない。(マンドレイクならいるが)

「たとえ無様に破れても、俺が解説者として舌を尽くしてお前の株がなるべく下がらんようにはする。だがそれも負け方次第だ。なんとか言い訳の通用する程度の散りっぷりを見せてもらいたいもんだな」

「大賀は負けないもん!」

「ったく、相変わらず信用ねーな、俺」

九澄が背筋をストレッチしながらぼやく。その表情から奇妙な余裕と自信が感じられて柊父は戸惑う。先日もそうだった。いったいこの男は何を考えているのだろう?

「ま、なるようになるってこった」

九澄は歯を見せて笑う。控え室のドアがノックされる。時間が来た。

「行こうぜ、ルーシー」

「うん!」

ルーシーが九澄の方に乗り、姿を消す。これで九澄以外の人間には誰も彼女を視認できなくなる。試合においてある意味きわめて有用な魔法アイテムとして機能することだろう。ただし彼女の助力がある程度で勝てるものなのか、はなはだ疑わしいというのが柊父の見立てではあったが。

 

####


『さあそれではいよいよ試合が始まります! 西より入場者九澄大賀!』

九澄が会場に姿を現す。観客席の一年生の集まる一帯からひときわ大きな歓声が上がる。

「九澄ーーー!! ぶっとばせーーー!!!」

「九澄君頑張ってねーーー!!」

九澄は彼らの方には振り向かず拳を固く握りながら歩みを進める。間近で観察しているルーシーには九澄の動きの違和感がはっきりと感じられた。

「ねえ大賀……ひょっとして緊張してる?」

「あー……ま、一応な。相手だって得体が知れねーしな……」

九澄はまっすぐ正面を見据える。相手の顔からは一切の緊張は感じとれない。まさに余裕のたたずまいだ。

「お手柔らかにね。九澄大賀君」

彼女が握手を求め、九澄はそれに応じた。

(女子の手ってつくづくちっせーし細いし柔らかいよなー)とどうでもいいことが九澄の頭に浮かぶ。しかし一切の油断は出来ない。ある意味ではこれほど動きの読めない相手は他にいないのだから。彼女が三年生でないことなど、そもそも魔法を使えない九澄にとってなんの慰めになろうか?

『一回戦第一試合、九澄大賀vs望月悠理、始めっ!!!』

九澄は合図と同時に腰を落とし臨戦態勢に入った。その鋭い凶悪な眼光(ガンタレとも言う)は並のヤンキー程度なら即座に臆してしまうだろう。もっとも、目の前の相手がこれでビビるとは微塵も思っていなかったが。

「ふーん、すぐに飛びかかってくると思ったけどそうでもないんだね。それじゃああたしから行こうかな」

望月がゆっくりと右手を九澄に向ける。女子高生らしくよくケアされた手の平がピンと広げられ、本人の目が怪しく光る。その時だった。九澄が無造作に腕を振ったのは。

ステン。

まさにそうとしか形容の出来ない「コケ」。望月は肩口から地面にぶつかり目を白黒させた。九澄はただ数メートル前方で腕を振っただけ。一見すると何の魔法も発動したようには見えない。だが望月は間違いなく何かに「足を取られた」。観客はまだ静かだ。九澄が何をやったのか気づいている者はいない。というか九澄にとってはそんなやつがいてくれては大問題なのだが。

望月が九澄の動きを監視しながらゆっくりと立ち上がる。汚れのついた肩を払い「ふむ」と口を真一文字に結ぶ。先ほどまでの笑顔はない。

ストン。

またしてもだった。望月は全く無抵抗のままその場で転んだ。今度は尻が地面とキスをする。観客席のそこかしこからクスクスと笑いが漏れるが、皆もう気付いていた。九澄は確実に「何か」をやっている。

「おめー、降参するなら今のうちだぜ」

九澄が望月を見下ろす。あえて言うなら、そう、ゴミを見るような目で。九澄大賀はサディストではない。しかしハッタリを効かせるためにはそのように振る舞わねばならない時があることを彼はよく知っている。相手の手の内が全くわからない時、ダメージを受けずとも何度も転ばされたりすれば必ずいくばくかの恐怖心が芽生える。そこに重苦しいプレッシャーをかければ少なくとも平静ではいられないはずだ。相手のメンタルを乱すこと、それは九澄にとって勝利の第一方程式である。

(さっすが大賀、演技力抜群ね!)

マンドレイクの美少女が望月のかたわらでほくそ笑む。懸命なる読者諸氏はもうお気付きだろう。彼女ルーシーこそが望月を転倒させた犯人である。着せ替え人形ぐらいのサイズしかないルーシーとはいえ、普通に突っ立っているだけの細身の女子高生を転ばせることなど雑作もない。何せ相手はこちらのことなど全く見えていないのだから。うまくいけばこのままコロコロ転がしまくっているだけで勝手に戦意喪失してギブアップしてくれるのではないか。そんな風にルーシーは楽観していた。

「ふー、やっぱり簡単にはいかないか」

望月は地面にペタンと座り込んだまま自重気味に笑う。九澄は微塵も警戒を解いていない。先日のことだ。支部長の永井から彼女には気を付けろと入念に忠告された。魔法力はそれほどでもないはずだが、どんな手を隠しているかは一切わからないと。それを聞いている以上この程度の優勢では少しも気を緩められるはずがない。

「ま、あたしとしても本番で遊んでられるとは思ってなかったけどさ。でも……失敗したよ、九澄君。あたしの仕掛けに気付いてなかったでしょ」

「仕掛け……?」

九澄が眉をひそめる。

「うん、足元」

途端九澄の足元で何かが膨れ上がる。それは九澄が反応するより早く足をとらえ一瞬にして両脚に巻き付き、更に胴体と腕までもを封じた。

「……! こいつは……!」

緑色のツタのような植物。それが九澄を何重にも縛り動きを完璧に封じてみせる。観客席からオオーッという声が上がる一方でルーシーが顔色を失う。望月は余裕たっぷりに立ち上がり、尻のホコリを払った。

「なんてことはない、ただの魔力の影響で強化されたツタなんだけどね。その種をこっそり君の足元に飛ばしておいたんだ。ほら最初に右手を君に向けたでしょ? あの時左手でこう、指を弾いて飛ばしたの。ま、初歩的な手品だよね」

この手の魔法植物の種子は聖凪高校の敷地内ならさほど苦労なく手に入る。それを九澄の足元に飛ばしたのもごく単純なトリックだ。九澄は自分がやるべきことを逆にやられたという事実に驚くしかなかった。ただしその種子を開花させるには多少なりとも魔法力が必要である以上、九澄には使えない戦術ではあったのだが。

「さて……あたしとしては無駄な魔法力は一ミリも使いたくないからさ。すぐに始めさせてもらうよ、あたしの切り札……」

「ぐ……!」

九澄は全身に力を込めるが、ツタは地面にしっかりと根を張りピクリとも動かない。ある実験によれば大型トラックを釣り上げることも出来ると言われている魔法植物だ。人間の力でどうこうできるはずもない。もちろんルーシーの助力程度ではどうしようもないことはわかりきっていた。

(どどど、どーしよう? 大賀がやられちゃう!)

パニクるルーシーの横で望月は懐からペンと分厚いノートを取り出した。一見すると魔法アイテムのたぐいには全く見えないそれらの道具は、実は本当に単なる筆記用具である。駅前のタジマ文具で購入、計420円。だがそれらは明らかに望月の魔力を帯びていた。

「この魔法はやたらめったら条件が厳しくてさ……。発動中に相手に動かれたらダメだとか、魔法の効果をちゃんと相手に説明しないといけないとか、面倒な制約が多いんだよね。その上魔法力の消費量もあたしの手には余るほど大きい……。だからあたしは考えたの。こういう大会を開いて、普通より強力な魔法磁場の中で試合を行うことにすれば魔法力の問題は一気に解決するんじゃないかなあ……って」

(な……何言ってんだこいつ……?)

それはまるでこの大会自体が「この瞬間」のために仕組まれたかのような発言だった。教師達と交渉し出場メンバーを集めあらゆる面倒事を引き受けたのは、生徒会長にして大会主催者である目の前の彼女。その目的がつまるところたった一つ、強い魔法磁場のもとで九澄と正対し何らかの魔法を仕掛けることだというのか。

『ええっと、どうやら両選手何事かしゃべっているようですが、いかんせん結界の内側、もう少し大きな声で話してくれないとよく聞こえませんね。それにしても望月選手、あのペンとノートで何をするつもりなんでしょうか?』

実況担当を含め観戦者は皆戸惑っていた。その困惑は解説席の柊父にとっても同様だ。あの魔法がなんなのか、喉まで出かかっているのに思い出せない。

「じゃあいくよ……。といってもちっとも痛くないから心配しないでね」

ペンとノートを包んでいたオーラが更に巨大化しきらめく。その魔法を知っている者は観客席の生徒達には皆無だった。決して生徒に教えるような代物ではないタチの悪い魔法。柊父はようやくその正体に思い当たり青ざめる。

(冗談じゃない……! ボロボロに負けるほうがまだマシだ。こいつは正真正銘最悪の魔法じゃないか!!)

ペンを包んでいるのと同じ色のオーラが九澄を覆い、望月の唇が妖しく動く。

「対象者の記憶、経歴、黒歴史、その他あらゆる個人情報を本人が忘れていることまで含め一切合切ノートに書き記す!!! それがこの魔法 "完全なる人物百科〈ペルソナルペディア〉"!!!」

「な……なんだってーーー!!??」

九澄は両目が飛び出さんばかりに驚愕した。


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