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No.33126の一覧
[0] アドリア黙示録 (ストライクウィッチーズ二次創作)[隣](2012/05/13 18:23)
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[33126] アドリア黙示録 (ストライクウィッチーズ二次創作)
Name: 隣◆535ef5a9 ID:303f0091
Date: 2012/05/13 18:23
 この世界に世界宗教は存在しない。
 この世界に異端審問は存在しない。
 この世界に共産主義は存在しない。
 この世界に秘密警察は存在しない。
 この世界に全体主義は存在しない。
 この世界に民族浄化は存在しない。
 しかし、この世界には依然として残酷は存在する。

 一番初めの人間は、魔女だった。
 一番初めの人間であり、つがいを持たない彼女は、生まれながらにして、その種の繁栄のために、猿に犯されることを宿命づけられていた。
 一番初めの人間である彼女は、一番初めの処女であった。
 一番初めの人間である彼女は、自らの貞操を守るためにシールドを生み出した。
 それは、空間的には絶対的とも言える防壁だった。しかし、他方時間的には、彼女が本当に若い間、十代の間しか持ち得ないものだった。
 種の繁栄のために、辱められるために、いずれは自ら破らなくてはいけないシールドだった。
 彼女は、自らの子孫を残すために、獣に辱められた。
 彼女は、自らの子孫を恨んだ。
 彼女は、その恨みを遺伝子に託した。


「ミトコンドリアイブ……って、なんですか?」
 宮藤芳佳は首をかしげた。
 ロマーニャ半島にある基地の談話室。
 ネウロイの出撃予測もなく、穏やかな昼下がり。
 地中海性気候特有の、カラッとした気持ちのいい太陽が照っていた。
 多種の雑誌が並ぶ中、宮藤芳佳彼女は珍しく科学雑誌を手にとっていたのだ。それは単に、どうしようもないくらい暇だったからであって、彼女自身が特段科学に興味をもっているわけではない。
 彼女の無知な質問に、たまたま居合わせたゲルトルート・バルクホルンが得意げに答える。
「人類の共通の祖先だと想定される女性のことだ。細胞内にミトコンドリアという小器官がある。全人類のミトコンドリアは総て、そのたった一人の女性に由来しているらしい」
「はあー。ものしりなんですね、バルクホルンさん! ──あれ。そういえば、なんでイブなんですか? ミトコンドリアはわかりましたけど」
「……む、そういえば、なんなんだろうな。おそらくは古い女性名だとは思うが」
「ふうん、イブさん。人類皆兄弟、ってことですね!」
「ああ、そうだ」
 宮藤がいかにも嬉しそうに笑うのを見て、バルクホルンもつられて微笑んだ。


 ロマーニャ公国のマリア公女に異変が起きてから、一か月がたった。そして、それによってその異変は、異変だと完全に認識された。
 異変と言っても、体調の不良ではない。それどころか、祝福されるべきこと。いや、やっぱり許されざるべきこと。
 ――彼女は懐妊していた。
 それは公室を騒がせるに限らず、その限定的な秘密であったはずの情報が流飛し、ゴシップとして国内に、あるいは諸外国のタブロイド紙にも扱われた。
 しかし、彼女にはまったく、それに至る心当たりがないという。
 仮に手の早いロマーニャ男(=一般的なロマーニャ男)がいようとも、彼女はSPに護衛されているので、接触はないはず。そのSPにたいする執拗な尋問も行われたが、まるで身に覚えがないという。
 ある医者は、その症状は婦人病の一種だと言い張る。しかし、その医者は熱烈な公室崇拝者であるため、公平性に欠けるとして大衆は誰も耳を貸さなかった。
 ことに、ロマーニャ公国はマリア公女彼女を中心とした、混乱に巻き込まれていくこととなる。それは、ロマーニャに基地を置く501統合戦闘航空団も例外ではなかった。

 以前にも数度、ローマ上空にネウロイの侵攻があった。
 その殆どが大きな規模でなかったのと、一度大型が現れたときもたまたま居合わせた第501統合戦闘航空団のフランチェスカ・ルッキーニ少尉の活躍によって撃退されていたため、直接的な被害はなかったが。
 しかし、マリア公女のスキャンダル以来、どういうわけだかその襲来の頻度が増していた。
 ブリタニア軍の協力によって創設されたレーダー網によって、ベネチア上空のからだけでなく、大陸や他の地中海地域からも、ローマを目指すネウロイが現れたことが判明した。
 それらの多くは編隊をつくらず、単体でのネウロイだった。
 はぐれネウロイ、と呼ぶには数が多過ぎた。
まるで、それぞれの個体が我先にローマにある何かに向かって競争をしているかのようだった。
 それを受けて、ロマーニャ公国は地中海方面統合軍総司令部に支援を要請。
ちょうどロマーニャに基地を構えていた第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズからも、臨時の分隊を首都防空のために捻出することが決定した。
「──という訳で、シャーリーさんと、ルッキー二さん、それに宮藤さんには来週からローマに行ってもらいます」
 隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは少しだけ硬い口調でそう言った。
「了解―」
「了解しました!」
「……了解」
 シャーロットと宮藤がそれぞれ返事をする中、フランチェスカ・ルッキーニは、どこか不安げな表情をしていた。
「それにしても、けしからん話だ!」
 一通りの話が終わったあと、ゲルトルート・バルクホルンは憤慨したように声を上げた。
「どこの誰とも知らん男と密通に気がつかないだなんて!」
 一通りの話というのは、件のマリア公女のスキャンダルも含めての話だった。
 その話がでたとき、年長組はみな気まずそうな表情をし、年少組はことの意味がよくつかめていないように首をひねった。
 しかし、明らかにバルクホルンが責めるようなことを言ったからにして、マリア公女と面識のあるルッキーニは、それが許されないことなんだとうっすらと理解した。
 バルクホルン彼女は、どちらかと言えば警備の不備や公女に手を出す不届きものに対することを言ったつもりだったが、いまいちその意味が分かっていないルッキーニは、その不明瞭故に不安を煽られるばかりだった。
 それを知ってか知らずか、エーリカ・ハルトマンはバルクホルンをなだめるようにした。
「トゥルーデ落ち着いて。興奮しすぎだってば」
「ん? ……あ、ああ。そうだな」
 バルクホルンも、ルッキー二の沈んだ表情を見て、気まずそうに口を濁した。
「……ねえ、シャーリー。マリア、大丈夫なの?」
 たまらなくなったルッキーニは、シャーロットの袖を掴んだ。
「う、うーん。そうだな。大丈夫だろう。ほら、そんな心配そうな顔するなって」
 シャーロットは、困ったように笑った。


「ほら、宮藤。あれがコロッセオだぞ。……ところで、『コロッセオ』って、『殺せよ』って聞こえないか?」
 運転席のシャーロットの指差す方を、助手席の宮藤は釣られて見る。
 過ぎ去りゆく景色の無効には、石造りの円形闘技場。
 宮藤は、どう反応したらいいか、分からないような表情をした。
「あ、そうですか」
「いやいや、あながちただのダジャレでもないんだ。コロッセオでは、昔実際に殺し合いが競技として行われていたんだ。なかにはライオンと人が戦ったりしたこともあるみたいだな」
「ライオンとですか! 昔はすごい人もいたんですね。あっ、でもバルクホルンさんならライオンにも勝てそうかも」
「アハハ、あの堅物か、そりゃあいい。いや、実際は強い奴が、っていうより、処刑代わりにそういうことをやらされたみたいだけどな。例えばキリスト教徒とかが」
「キリスト教、ですか?」
「ああ。二千年くらい前の宗教でなあ。十字架を拝むんだ」
「十字架?」
「教祖様が十字架に磔刑にされたとかなんとか、まあよくわからないけどな」
「へえ。偉い人を殺した道具を拝むなんて、変な人たちだったんですね」
「うんにゃ。そいつらがその磔刑にされた男こそが唯一の神の子だっつってローマの神々を否定したんだな。だからライオンと戦わされた」
「……それは、ひどい話だと思います」
「ま、歴史なんて綺麗なもんじゃあないからなあ……ようし、到着だ」
「ここが、れのなるのだび……なんでしたっけ?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチ空港基地! ま、民間の空港を徴発しただけはあて、私たちの基地ほどではないにしてもなかなか良いところだな」
 シャーロットは鼻を鳴らした。


「レオナルド・ダ・ヴィンチ空港基地へようこそ」
 竹井淳子はそう言って微笑んだ。
「お久しぶりです竹井さん!」
「ええ、お久しぶり。宮藤さんに、シャーリーさん。……あっ、そういえば紹介がまだだったわね。こちらは、ヒスパニア出身のアンジェラさんよ」
 竹井の後ろに隠れるようにしていたポニーテールのウィッチが、気恥しそうに会釈した。
「……よろしく」
「ん? アンジェラだって。たしかあんた、先の作戦で大怪我したんじゃあ」
 シャーロットが顔をのぞき込もうとするが、シャイなのかアンジェラは再び竹井の後ろに隠れるようにした。
 竹井は困ったように、笑って、かわりに答えた。
「どういうわけかケガが早く回復してね。まるで『奇跡』みたいに」
「ふーん、それは良かったな。私はシャーロット・イェーガー。よろしくな」
「……はい」
「あっはっは。随分とシャイだなあ。ヒスパニア人ってのはみんなそうなのか?」
「アンジェラさんはいいところのお嬢様だから──さて、501から臨時に配属されたはシャーリーさん、宮藤さんに……あら?」
 竹井は不思議そうに辺を見渡した。
「いや、ルッキーニもなんだ。あんたと会うのを楽しみにしていたようなんだけど──ちょっと、ロマーニャ政府に呼び出されてな」
 シャーロットは気まずそうに説明した。


「だから、わたしはしらないっていってるでしょ!」
 ルッキーニはさっきからずっとそう主張しているのに、だれもその言い分を聞いてくれなかった。
 強気な彼女も、大の大人に囲まれて責め立てられて、目に涙を浮かべていた。
「その口のきき方はなんだ! ウィッチだからって調子に乗るなよ!」
「ちょ、ちょうしにのってるのはそっちじゃん! 憲兵だからって偉そうに!」
「ふん! 状況から考えてお前が悪いんとしか考えられないのだフランチェスカ・ルッキーニ少尉! 貴様があの時マリア公女をたぶらかしてつれさったとき!」
「だからなにを言っているのかわからないよお! ……どうして? なんでわたしをいじめるの……」
 執拗な取り調べは長時間にわたったが、結局なんら憲兵の望むことを言わなかったルッキーニは帰宅を許され、取り調べは後日またあらためて行われることとなった。


「……ただいま」
 明らかに普通ではない様子のルッキーニがレオナルド・ダ・ヴィンチ空港に帰ってきたのは、もう夜も遅くなってからだった。
「おい、ルッキーニ! 大丈夫か!」
 いの一番にルッキーニに駆け寄ったのは、シャーロット。
 彼女は夕食が終わったあとも、部屋には戻らずにロビーでルッキーにを待ち構えていたのだった。
 ルッキーニはシャーロットの胸に顔をうずめ、糸が切れたように大声で泣き始めた。
 ルッキーニの頭をなでる優しい手つきとは裏腹に、シャーロットは激高していた。
「クソやろう……ルッキーニに何しやがる!」
「──シャーリー、私、もうあそこに行きたくないよお」
「いいんだ、いかなくたって! やっていい事と悪いことがある! こんな、小さな女の子に……」
 

 竹井醇子は、自室で難しい表情をした。
 おそらくは高価であろうデザインデスクの上を、その調度品としての価値なんて興味がない、と言わんばかりに書類で埋め尽くしている。
 彼女が見ているのは、最近のロマーニャ公国の動向をまとめた資料。
 ――明らかに、不穏だった。
 そしてその不穏の発端となったのは、やはり公女マリアその人。
(……けれど、私にはどうすることもできない)
 彼女は、つらそうな表情をした。


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