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No.33110の一覧
[0] fate/zero 短編[syuhu](2012/05/12 15:28)
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[33110] fate/zero 短編
Name: syuhu◆2758cb4d ID:78c3beef
Date: 2012/05/12 15:28

昔某所で公開していた駄文です。
少しでも救いがあれば、と願って書いた自己満足の代物ですが、楽しんでいただければ幸いです。













ナタリア・カミンスキーは今、フリーランスの封印指定執行者として過ごしてきた生涯で、最悪の危機に直面していた。
ジャンボジェット旅客機のコックピット内。本来ならこの巨大な銀翼を操っているはずの機長と副操縦士は、機内を埋め尽くす屍食鬼たちに襲われ肉塊と化し、後方の床で重なるようにして転がっている。


まともに生きているのは彼女唯一人。搭乗していた乗客およそ300名は残らず屍食鬼と成り変わり、コックピットの頑強な扉を一枚隔てた向こうで、互いが互いを食らい合う地獄絵図を演出している。


(…これは流石に、参った)


長年魔術師狩りを続けてきたナタリアも、今回ばかりは煩悶せざるをえなかった。






―――『魔蜂使い』の異名を持つ魔術師、オッド・ボルザーグの暗殺任務。
顔と身分を偽り、一般人に成りすましていたこの魔術師を、ナタリアは機内で容易く仕留めた。彼は人間の死徒化を研究していた魔術師だ。


巧妙に逃げ果せていたことには感服するが、身柄の確信さえ持てれば手こずるような相手では無い。半妖の血筋を持ち、卓越した運動能力と暗殺の技術を持つナタリアは、
当人にすら気付かせることなく速やかに頚椎を砕いて生命活動を停止させ、蘇生することの無いよう念入りに肉体を破壊した。
そこまでは当初の計画通り。後はこの遺体を協会へ運び込み、成功報酬を受け取るだけ。そのはずだった。


(まさか、『死徒蜂』をわざわざ持ち込んでいるとは。クソ忌々しい)


人を死徒化させる毒を持った、魔術師オッド・ボルザーグの使い魔である『死徒蜂』。
トランクの中に数十匹程詰め込まれていた魔蜂たちは、主であるボルザーグが殺された途端申し合わせたように飛び立ち、一帯の乗客たちへ次々と襲い掛かっていったのだ。


無論、ナタリアも死徒蜂を殲滅するべく迎撃に尽力したが、瞬く間に被害は全客席に広がり、機内は生ける死人となった屍食鬼で埋め尽くされた。
襲い来る屍食鬼たちを振り切り、このコックピットまで辿り付けたこと自体、ナタリアにとって奇跡のようなものだった。



(不幸中の幸運ってやつかな。…いや、存外そうとも言えない、か)



操縦桿を握り締めている今でさえ、扉の向こう側から聞こえる屍食鬼たちの呻く声と、扉を打ち破ろうと叩き続ける音が止む事は無い。
今更恐怖心こそ感じることは無いにせよ、逃げ場を塞がれた圧迫感は、たしかにナタリアを追い詰めていた。


管制塔への連絡は、先程つけた。相手の航空管制官は初め、性質の悪い悪ふざけかとナタリアを疑ってかかったが、
機長と副操縦士がトラブルによって無事にフライトできる状態に無いといった旨を伝えると、戸惑いながらもランディングまでの手順を事細かに説明してくれるとの応答があった。
セスナの操縦しか心得の無いナタリアにとっては、何よりも大きい助力である。


「さて、と」


恐らく今頃は、地上で情報を収集し奔走していたはずの相棒が自分からの連絡を待って寝ずにいるのだろう。
苦笑しながら、傍らに置かれていた無線機に手を伸ばす。―――が、触れる直前で腕は意識を無視して停止し、無線を取ることを拒んだ。
まるで彼との連絡を、ナタリア自身が無意識的に拒否しているかのように。


「…ちっ、長い間掲げてきた信条だからな。おいそれと曲げさせちゃくれないってことか」


ナタリアが抱き、切嗣に言い聞かせ続けてきた『何があろうと手段を選ばず生き残る』という大原則。
その信条は長年をかけてナタリアの意識に深く浸透し、今や本能レベルにまで根付いている。


―――そう。彼女はすでに、気付いている。
もし本当に手段を選ばず生き残るのであれば、切嗣に自身の生存と機内の現状を伝えてはならない、ということに。


大量の屍食鬼を乗せたまま無事に着陸すれば、まず間違いなく更に被害は拡大する。
密室に閉じ込められ飢えた死人たちは、扉が開いた途端に外へと殺到し、空港の人々を食らうべく四散するだろう。
そうなった場合、犠牲になる一般人の数は現状の比ではない。
それだけは何としても忌避しなければならない事態だと、地上にいる切嗣は考えるはずだ。


となれば、彼にうてる最も有効で安全な策は―――飛行機を無事に着陸させない、ただその一点に尽きる。
対空ミサイルか、それとも着陸した瞬間起動するよう滑走路に爆薬でも仕込んであるのか。方法こそ定かでは無いが、必ずや切嗣は万全の準備をしてくるはず。
誰であろう自分自身が、切嗣をそう育てたのだ。予測はすでに確信にも近しい。
しかし、だからこそ尚―――ナタリアは無線で切嗣と通信をしなければならなかった。


「本当に、ヤキが廻ったのかもしれないねぇ…」


右手を首筋に当てる。自分では視認することの出来ない後ろの部分に、先ほど屍食鬼に噛み付かれた痣が、くっきりと残っていた。
周辺の皮膚は黒く変色し、さながら徐々に身体を侵食しているかのよう。
放っておけば―――いや、仮にどんな大魔術を行使したとしても、咬まれてしまった以上彼らと同じ屍食鬼になる以外の未来は、ナタリアに残されていない。


致命的な失態。恐らく、アリマゴ島で切嗣と出会う以前のナタリアであったならば、このようなミスは決して犯さなかった。
協会に所属こそしていないフリーの魔術師狩りではあるが、培った経験と技術、それに伴う実力は本物の封印指定執行者と比較しても何ら遜色は無い。
そして何よりも、ハンターとして容赦の無い冷酷さが、彼女を一流足らしめていた。


しかし、現在はどうだろうか。
少年と過ごした、まるで家族ごっこのような日々は微弱ながらもナタリアの冷酷さを氷解させ、完璧だった執行者としての形態を、僅かに崩していた。
他人には認識できないその極小なまでの差異が、今回の仕事でとうとう顕著に表れてしまったのだ。


今は魔力を痣の周囲に収束させて進行を停滞させているが、それも時間の問題だ。
彼女の魔力が全て尽きたとき―――魔術師ナタリア・カミンスキーは、自らの狩っていた死徒へと成り下がる。


「死徒、か。人間辞めてまで、生き残りたくはないからね」


ナタリアは今まで歩んできた人生に矜持を持っている。
確かに、その生は血と硝煙とに塗れた泥臭いものであっただろう。
一般人に災厄を齎す怖れのある外れた魔術師を、金銭目的で狩り協会に売り渡すフリーの魔術師ハンターという名目は、決して褒められたものではない。


数え切れないほどの魔術師、死徒を殺し。
手にした報奨金は貯めるでもなくすぐさま使い果たして、新たな獲物を求め駆り出す。一部の例外こそあったものの、大半はその連鎖、毎日が終局のような人生だった。


激動の最中に身を置いた日々に、しかし彼女は後悔することは無い。自らの意思で、自らが選択した結果生まれた今日を、どうして悔いることなど出来ようか。
ならばここで死徒化を享受することは、その生を否定し愚弄する行いにほかならず。コックピットにたどり着いた時からナタリアは既に、生との決別を覚悟していた。


「最後を坊やに任せるってのが、我ながら嫌らしいっちゃ嫌らしいけど。
 …ま、それくらいは許してもらわないとね」


封印指定の魔術師―――衛宮矩賢の研究が漏れ出たことによって発生した、アリマゴ島での災厄。
その主犯格であり実父でもある矩賢を、切嗣は容易く、まるで感情がないが如く殺してのけた。
迷いと葛藤、躊躇いと恐怖の入り混じる内心とは裏腹に、彼の身体は為すべきことを当然のように為す。そういう殺しの才能を、切嗣は生まれながらに持っている。


ならば今回もまた、彼は感情によって選択を誤まることは無いだろう。
身を刻む慟哭に心をすり減らしながら、確実にするべきことを為してくれるはずだ。
そして、そうすればきっと―――切嗣は生涯、ナタリアを忘れることをしない。


胸に抱いた微かな恋慕。
幾度と無く欲情を誘うような、倫理的に相応しくない行いをしておきながら、決して彼の精を食らう真似をしなかったのは、単に―――。


「…着陸まで後、1時間弱ってところか。
 そうさね、残った時間は気晴らしついでに昔話でもして、走馬灯とするか」


そしてナタリアは無線に手を伸ばし、人生最後の会話を、静かに始めた。


「……聞こえてるかい? 坊や……寝ちまっちゃいないだろうね?」


















『感度良好だよ、ナタリア。お互い徹夜明けの辛い朝だね』



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