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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-25    並立
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/01 20:59
 ジョゼフが取調室に来て数刻、ずっとシャルロットを見つめたまま黙っていたが、何の前触れもなく口を開いた。
 
「シャルロット、俺はゲルマニアに亡命しようかと考えている」
「……え?」

 唐突に喋りだしたジョゼフの発言の内容が内容なので、シャルロットもつい顔を上げて伯父の顔を見た。ジョゼフはシャルロットから目を逸らすように横向きに座り直し、顔を合わそうとはしなかった。

「シャルルが王命に背いて自領へと帰った。と言う事はこのままでは内乱になる。俺はシャルルを捕まえて修道院に放り込むのも、自分が捕まって放り込まれるのも御免だ。東方開拓団とやらにちょっと興味もあった事だしな、ゲルマニア帝室の娘を何人か妊ませてやる事を約束すれば、この俺でも受け入れてくれるだろう」
「え? え?」
「今は騒いでいる貴族共はどうするかな。まあ、ガリアにいなくなる俺には関係がない事だが」
「え、え? 伯父様がいなくなったら、次の王様には誰がなるの?」

 あまりに驚いて涙も止まる。手持ち無沙汰にペンをいじる伯父を見詰めて聞き返すが、何を言っているのかよくわからない。

「俺の知った事か。父上を殺すなり追放するなり、和解するなりしてシャルルがなるか、シャルルを捕まえてお前かイザベラのどちらかがなるか、好きにすればいいだろう」
「ダ、ダメー! 伯父様逃げちゃダメ、ちゃんと父さまと戦って!」
「ふざけるな! 何でお前にそんな事を言われなくちゃならん。俺はシャルルの考え通りに動くのなんて御免だ!」

 それまで横を向いていたジョゼフがシャルロットを睨み付ける。その気迫にシャルロットは身を竦ませるが、ここは引く訳には行かない。下唇を噛み締めながら、ジョゼフを睨み返した。

「シャルルが本当に王になりたいと言うのなら、なれば良い。そうでないのなら、知るか。勝手にしろ」
「ダメ、絶対。……父さまはずっと苦しんでいた。伯父様が逃げちゃったら可哀想」
「シャルルの何が可哀想なものか。俺の方がずっと可哀想だ」

 フンと鼻を鳴らしてまた横を向く。
 シャルルの人生がどのような人生か一言で現すとすれば恵まれていると言えるだろう。ガリアの王子として生まれ、才能に恵まれ人格に優れ、尊敬と人望を集めている。父王からは信頼され、その出自と能力に見合った地位を与えられて類い希な能力を存分に振るい、成果を上げている。聡明で美しい妻との仲は睦まじく、二人の愛の結晶である娘は父親思いで、この間はシャルルの騎士になると誓ってくれたそうだ。シャルル程恵まれている人間はいない。

 翻って我が身を顧みれば、同じくガリアという大国の王子に生まれながら、どんなに努力しても一握りの魔法の才すらなく、父に疎んじられ性格は歪んで家臣からは無能だの陰気だのと陰口を叩かれている。内務省に勤め北花壇騎士団の団長などもやっているが、表に出るような仕事は何もしていない。魔法の才が無いとわかってからは嫁の候補探しにも苦労する程で、ようやく縁があった嫁は病弱で娘を生むと程なくして死んだ。子供は女子が一人しかいないというのに、後添えの話も全く出ないというのはガリア程の大国の王子として普通では有り得ない事だ。その娘との仲だって、魔法を使えないことが遺伝していることが分かって以来、直視することの辛さからつい距離を取ってしまい、良好であるとはとても言い難い。
 そして何より、比べるのも馬鹿らしい程の差があるというのにそれでも嫉妬してしまう品性の下劣さ。決して手が届かないものに嫉妬している男の事を、ジョゼフは哀れだと思う。

「いいかシャルロット、お前にも言っておく。イザベラは可哀想に俺の娘に生まれてしまったから魔法の才は無いんだ。『イザベラ姉様は何で魔法が出来ないの?』とか『魔法が出来ない理由をわたしも一緒に考えるよ!』とか言うな。お前達が完全な善意で言っている事だって分かっててもこっちは言われる度に傷つくんだ」
「わ、わたしそんな事言った事無い」
「どうせ似たような事は言っているだろ。あの娘はまだ自分の才能を受け入れられていないからな、懸命に杖を振っている姿は哀れで哀れで見ておれん。……いや、そうだな、イザベラもゲルマニアに連れて行こう。こんな所に一人残すのは可哀想だ」
「ダメ……」
「ゲルマニアでの待遇は領地無しの宮中伯くらいかな。始祖の血が欲しいあの国ならば公爵位くらいはくれるかも知れんが、領地は自分で切り拓くというのも楽しそうだ。ガンダーラ商会の開拓地には是非一度行ってみよう……」

 楽しそうに亡命後の計画を話す伯父をシャルロットは呆然として見ていた。シャルルが王に謀反を起こした今、ジョゼフが亡命してしまうなど一体どうなってしまうのかわからない事態だ。
 王位継承権一位がジョゼフで以下シャルル、イザベラ、シャルロットと続くが、ジョゼフとイザベラが亡命したら継承権の四位までがいなくなるか資格を失う事になる。第五位となるとパンティエーヴル公がいるが、既に老齢だし彼にガリアを率いていく程のカリスマは無い。結局シャルルが簒奪するか継承権を回復して王位に就く事になるのかも知れないが、兄に王位を譲られた格好になるシャルルがどんな思いを抱くかを想像し、シャルロットは身を震わせた。

 娘とはいえシャルルの思いを全て理解している訳ではない。だが、今回の事件が起きて納得できたところもある。シャルロットには王位を譲られた父が喜ばない事だけは確信できた。

「伯父様、父さまには勝てないから逃げるの?」
「……あ゛?」

 それまで楽しそうだったジョゼフが殺意すら感じさせる瞳でシャルロットを睨む。その無言の圧力を押し返し、シャルロットは懸命に唇を嘲笑の形にゆがめて続ける。

「だって、そうでしょう? 父さまを逮捕に行って取り逃がし、父さまが挙兵準備を始めたら亡命するなんて、父さまの事を怖がっているとしか思えないわ」
「……」
「伯父様にはお爺様の信任もガリア王家に忠誠を誓う軍隊もある。それなのに寄せ集めの諸侯軍を率いる父さまには勝てないのね」
「……おそらくシャルルに同調する貴族は七十六から九十二の間の数になるだろう。多くの貴族は様子見に走るものと思われる。いかにシャルルと言えど、その程度の数ではガリア正規軍を破る事は出来ない」
「随分詳細に予測しているのね。その数の中にラ・クルス伯爵は入っているの? あの方の影響力は結構大きいと聞いていたのだけれど」
「確かに彼がシャルルに付けば更に多くの貴族が反乱軍に参加するだろうし、地勢的にもド・オルレアンから直接サン・マロンを抑えられるのでグッと優位になるだろう。しかし伯爵が王家に反旗を翻すのは有り得ない事だ。大体もう王は今回の件も相談済みだそうだ」

 その表情から既に怒りは消え、冷静な戦略家として自分の見立てを話す。ジョゼフが大臣を務める内務省には国内の情報が全て集まってくるので、貴族の動静を予測するなどはお手の物だ。

「サン・マロンが確保できない場合、オルレアン軍の圧倒的な弱みは航空戦力の貧弱さだ。現代の戦いにおいて制空権を制した方が戦いを制する。いかにシャルルが優秀なメイジや幻獣部隊を揃えたとて、上空から雨あられと降り注ぐ砲弾には抗しきれないだろう」

 ふん、と鼻を鳴らすとまた椅子に深く腰掛け、横を向いた。

「城に籠もる事になるのだろうが、いかに強固な城と言っても籠城など援軍がある場合にのみ有効な戦略だ。三ヶ月以内に反乱が制圧されシャルルも逮捕もしくは亡命を余儀なくされる事は確実だ。つまり、俺がオルレアン軍を恐れる理由など何もない」
「……父さまは素晴らしい人格だって多くの人から尊敬されてたわ。それでも、そんな数しか父さまを支持しないの?」
「貴族というものは勝つ方に乗るものだ。自家の存続という大問題の前には人格の善し悪しなど大した問題ではない」
「ガリア王家始まって以来の魔法の天才という評価を受けているわ。それでも戦列艦相手には何も出来ないの?」
「魔法は永遠に撃ち続けられるものではない。一時局面を打開する事は出来るかも知れないが、大局としては変わらないだろう」
「……父さまは何も出来ないの?」
「後は暗殺だな。俺と父上とイザベラを暗殺すればそれでシャルルの勝ちだが、あのシャルルがそんな手段を執るはずもないし、ガリアの宮中は警備の厳しさではハルケギニア一だ。難しいだろう」
「何も出来ないなら、何でみんな父さまが王に相応しいなんて言ってたのよ……」
「……」

 ぽつりと呟くように言うシャルロットにジョゼフが答えられる訳もない。 

「わたしは認めないわ、ジョゼフ・デ・ブオナパルテ。わたしはあなたの言う事など一つも認めない。シャルル・ド・オルレアンは地上で最もガリアの王たるに相応しい存在。あなたを倒しガリアの王になる」

 体を震わせながらシャルロットはジョゼフを睨み付ける。ジョゼフは何故この姪がここまで言うのか理解できない。
 そもそもジョゼフは亡命すると言っているのだ、戦闘が起こらない可能性だってあるというのに。

「もうよせ、シャルロット。それ以上言うとお前も反乱罪に問われる事になる。それは父上の本意では無い」
「かまわない。わたしも杖を取って父さまと共に戦う。あなたを倒すべく」
「シャルルもお前を反乱者などにするつもりは無い。どうせ全部芝居なんだ、幕が下りるまではここで大人しくしていろ」
「芝居なんかじゃない! 父さまは本気であなたを倒そうと――」

 立ち上がって叫ぶシャルロットの口を、やはり同じように立ち上がったジョゼフが掌で塞いで黙らせる。シャルロットの細い顎を握り、顔を近づけて睨み付ける。

「いい加減にしておけよ。こう見えても俺は苛ついているんだぞ」
「……」
「いいか、俺が亡命する理由を教えてやろう。……シャルルを殺さないためだ。俺はシャルルを殺したくない、俺はガリアにいない方が良いんだ」
「ぐっ!」

 そのまま腕を突き出してシャルロットを椅子に叩き付ける。シャルロットは肺を打ったようで暫く咽せていたが目だけは変わらずジョゼフを睨み続けた。 

 ジョゼフはシャルルの一連の行動が自分を王位に就けるための工作なのではないか、という疑惑を抱いてしまっていた。自身の失脚を覚悟の上で腐敗貴族を道連れにして一掃し、ガリアをジョゼフの下で一つにまとめ上げる。内乱が激しくなる前に恭順を示し、その後は魔法技術開発などに専念してガリアを陰から支えるつもり、といったところだろうか。弟の事を聖人視するあまりたどり着いた誤った推測だが、ジョゼフがそんな事を受け入れる事はとうてい出来なかった。
 もし、反乱を制圧してシャルルを逮捕した時に、あのいつもの爽やかな笑顔で「やっぱり兄さんには敵わないね。ガリアの王に相応しいのは兄さんだよ!」などと言われたら、おそらく自分は殺意を覚えてしまうのではないかと危惧しているのだ。

「と、父さまは、ずっと、あなたに勝つために努力してきた。逃げるな、戦え、ジョゼフ!」
「……俺は、シャルルを捕まえたら殺すと言っているんだぞ? シャルロット。抵抗しなかったからと言って罪を減じる事もないし、王族だからと死罪を回避するつもりもない。お前の大好きな父さまが卑しい伯父に殺されても良いと言うのか?」
 
 底冷えのするような瞳でシャルロットを見詰める。口角は吊り上がり、どこか狂人のような表情を浮かべていた。

「王族だから、始祖の血統だから死罪にはならない、などとお前達が思っているのなら大間違いだ。俺は、この世界で最も始祖の血を呪っている男なのかも知れないのだから」

 目を見開きブリミル教徒としてあるまじき事を口にするジョゼフに、シャルロットは震え出す体を叱咤して答えを返した。

「あなたが、父さまと本気で戦ってくれるのなら、構わない。あなたが逃げてしまったら、父さまは父さまじゃいられなくなる」
「何を……?」

 ジョゼフは全ての言葉を本気で言っている。その本気はシャルロットにも伝わっているはずだ。それなのにあまりに頑なな姪の様子を不審に思い、ジョゼフは首をかしげた。

 シャルロットが思い出しているのは遠い過去、ラグドリアン湖の畔の屋敷。その日ウォルフを迎えたパーティーが散開した後のシャルルの叫びだ。
 昔の記憶ゆえ明確ではないが、あの日シャルロットはシャルルが別の存在になってしまったと感じていた。その幼き日の記憶がシャルロットに二度とあんな状態にシャルルをしない、シャルルを守ると騎士の誓いをさせている。

 また睨み合う伯父と姪だったが、取調室に駆け込んできた秘書官によってその睨み合いは中断させられた。

「ジョゼフ様! 大変です、オルレアニスト達にお屋敷が襲われイザベラ様が拐かされたそうです! すぐにお戻り下さい」
「何? ……ちっ、貴族共の暴走だな。シャルルがそんな事を指示する訳はない」
「あっ、伯父様待って! わたしをイザベラ姉様と交換するよう交渉して、お願い!」

 叫ぶシャルロットを無視して、ジョゼフは入ってきた係官と一緒に外へ出た。シャルロットを部屋に残したまま取調室の扉は閉められる。ジョゼフは急いで情報が集まる大臣室へと向かった。


  
「ああ、ジョゼフ様大変な事になりました。イザベラ様が……」
「今聞いた。向こうから何か連絡は取ってきたか?」

 大臣室では秘書官が出迎え、周囲では官僚たちが情報収集に忙しく働いていた。

「いいえ、襲撃が起きる前にシャルル様による檄文が確認されておりますが、イザベラ様についてはまだ何も……」
「そうか。屋敷の被害はないのだな?」
「あ、いえ、メイド長を含め十五名の使用人が殺害されております」
「馬鹿な! フォワは父上の忠節な臣下であり俺やシャルルの乳母だぞ、実行犯は誰だかわかっているのか?」
「モンフォール伯爵の姿が確認されておりますが、今のところ確認が取れたのはそれだけです」
「あのシャルル馬鹿か。くそっ、どうしてくれよう……」

 このメイド長は先代のフォワ伯爵夫人で、二人の王子の乳母を務めていたものが、ジョゼフの事が心配だという理由から屋敷を持つ時に押しかけてきてそのままメイド長に収まったという人物だ。
 ジョゼフにとっては実の母以上に密接な時を共に過ごしてきた相手で、殺されたと言う事が受け入れられない。苛つきながらここ数日のオルレアン派貴族達の動静を提出するように指示を出す。

「フォワ伯爵には連絡を出しておきました。葬儀はどうなされますか?」
「とりあえず伯爵に頼んで密葬で済まして貰ってくれ。この件が片付いたら俺の母として国葬を執り行う」
「畏まりました」

 苛つきながら早速用意された資料に目を通す。今日にでも亡命してしまおうかと考えていたが、そういう訳にもいかなくなってしまった。愚か者共を血祭りに上げ、フォワの葬儀を済ませるまではこの国を離れられない。
  
「シャルルに連絡しろ。フォワが殺された事とこの実行犯共の引き渡し、それにイザベラの解放を通告するんだ」
「犯人の引き渡しには応じないのでは? イザベラ様も捕虜交換という形になると思いますが、シャルロット様をと言う事でよろしいですか?」
「んん? フォワの殺害犯だぞ、シャルルが許すとは思えん。マルグリットやシャルロットを反乱軍に招くというのもシャルルは望みはしないだろう」
「失礼ながら、ジョゼフ様はシャルル様という方の評価を誤っておられるかと存じます。これをお読み下さい、先ほどガリア中にばらまかれた檄文にございます」
「これは……」

 秘書官が手渡した檄文はラ・クルス産の紙にオルレアンご自慢の新型印刷機で印刷された物で、これは現在ガリア各地でモーグラからばらまかれている。
 その内容に目を通したジョゼフはその激しさに目を疑った。
  
『全ガリア貴族、及び民衆に告ぐ

 奸佞なるガリア王子ジョゼフ・デ・ブオナパルテ、ガリア王位を簒奪せんと企て陛下不予に乗じて王軍の指揮権を奪取せり
 彼の者、始祖ブリミル様の恩寵を受けずに生まれ、王に認められず貴族の信任を得ておらず
 もし彼の者が王となればこの国を亡国へと導くのは必定である
 我、ガリア王子シャルル・ド・オルレアンはこの愚挙を看過する事は出来ない
 ガリアの大統を守るため、兵を挙げ、軍を率いてかの逆賊を討たんと欲す

 国を憂うものよ、杖を取りて馳せ参じよ
 未来を望むものよ、剣を取りて集え
 
 全てのガリア臣民の力を結集せし時、卑劣なる君側の奸は必ずや取り除く事が出来るであろう』

「これを、シャルルが出したのか?」
「これはリュティス上空から撒かれた物ですが、その時に使われたモーグラはオルレアン所有のものでした。シャルル様の指示で出された文だという事は間違いございますまい」
「むう……」
 
 ブリミルの恩寵を受けず王に認められず貴族の信任を得ておらぬ卑劣で奸佞な逆賊。およそシャルルが自分に向かって言わなそうな言葉の羅列を前に、つい呆然としてしまう。いや、シャルルに言われるとジョゼフでさえその通りだという気がしてきてしまう。確かに自分はブリミルの恩寵を受けていないし、その他もその通りなのだろうと思う。だが、それをシャルルが言うのか、と言う点がジョゼフには腑に落ちない。
 民衆というのは声の大きい方を信じる傾向がある。このビラはジョゼフのイメージ悪化に一定以上の成果があるだろう。もしこのままジョゼフが王位についても簒奪者としてのイメージはついて回る事になってしまった。

「シャルル様とも有ろう方がここまで宣言するとなると、様子見を決め込んでいる貴族も相当数がシャルル様の陣営に参加する事が見込まれます」
「……確かにな。王が不予で王命も全て簒奪者が出しているに過ぎないのならば、ガリア貴族はそんな命令に従う必要は無いな」
「人事のように仰らないで下さい。西部と南部を中心に王が秘薬を使われてジョゼフ様の傀儡となっているとの噂が流されています。このままでは反乱に参加する貴族はもっと増えるものと思われます」
「まだ一日も経っていないのに、そこまで手を打っているのか。シャルル、やるなあ……」

 もう夜は大分更けてきたが、まだシャルルが逐電してから半日も経っていない。噂が流されたのは夕刻以前だろうから、シャルルはオルレアンに戻る前にそれらの手を打っているものと思われる。
 唐突に無能な長男を後継者に指名し、有能で後継者の本命と見られていた次男に討伐令を出すなど王が狂ったと感じても何も不思議はない。シャルルはその不自然さを指摘する事で自身の正統性を主張してきた。
 これで亡命する目が消えた事にジョゼフは乾いた笑いをこぼした。王に薬を盛って王位を簒奪しようとした大逆罪の犯人を受け入れてくれる国はないだろう。ゲルマニアがそれをやるとシャルルとの全面戦争に突入する事になるだろうが、そこまでの覚悟はあの国には無い。

「何でシャルルはこんなに好戦的なんだ?」

 ポツリとこぼす。先ほどはシャルロットに状況を解説したが、一番重要なシャルルの動機という物をジョゼフはまだ解析できていない。

「少し考えをまとめる。元帥と大臣達を招集して陛下の御前で会議を開くから、連絡を頼む」
「陛下はご病気でございますが……」
「やむを得まい。国の一大事だ、寝室に集まれば問題はないだろう。あとシャルルにイザベラを…いや、これはいいな、暫く時間をくれ」
「は……」




 情報収集にばたついている部屋を後にし、地下へと降りる。向かった先はオルレアン公爵夫人マルグリットのいる取調室。ここで、ジョゼフは確認を取らなくてはならなかった。

「どうなさいましたか? ジョゼフ様。そんなに息を荒げて」
「マルグリット、お前に聞きたい。……シャルルは何故、そんなに俺と戦いたいのだ?」
「……何の事でしょうか?」

 椅子に座ったまま背筋を伸ばした美しい姿勢を崩さずマルグリットは問い返した。ジョゼフは机に近付き、持ってきたシャルルの檄文を広げて見せた。

「これを見ろ。シャルルが全国にばらまいた檄文だ。俺はゲルマニアに亡命しようかと思っていたというのに、こんな事をされては出来なくなった。こんな大事になる前に穏便にシャルルを王に出来る方策だって有ったのに、シャルルは拒否した。何故だ?」
「……あの人の望みはただ一つです。ジョゼフ・デ・ブオナパルテとシャルル・ド・オルレアンの二人の内、どちらが王に相応しいのかはっきりさせる事。それだけです」
「そんなの、ずっと分かりきっていた事じゃないか。シャルルが次王に相応しいとは皆が思っていた事だ」
「……かつてのあの人はその判断を王や貴族達に委ねようとしていました。王子として立派に見えるように気を配り、品行方正、非の打ち所がない人間として振る舞って――」
「待て、振る舞ったとは何事だ。シャルルはその通りの人間だ」
「あなたはっ!」

 唐突にマルグリットが声を張り上げてジョゼフを睨み付ける。穏やかだと思っていた義妹の、憎悪とも取れる視線を受け、ジョゼフはたじろいだ。

「……あなたはいつも卑怯でした。魔法が使えない事を言い訳にして決して表には出ようとしなかった。いつも殆ど全てを自分で完成させて、最後の部分だけをシャルルに譲る。それでシャルルが皆に褒められたとて、あの人が喜ぶと思いますか?」
「いや、俺はシャルルが困っている時にちょっと手伝った事があるだけ――」
「ハサミ川の築堤工事の時、シャルルが資材の発注量を間違っていたのをこっそりと正しい量で届けさせたのはあなたですよね?」
「そんな昔の事を……あれは大雨が近かったから工事を遅れさせる訳には行かなかったんだ。シャルルだって初めての大きな仕事で舞い上がっていたから」
「シャルルは落ち込んでいましたよ。発注ミスにより多くの人命を危険に曝すところだった。それなのに誰が助けてくれたのか分からないから感謝することも出来ない、と」
「ちょっとミスをフォローしただけだ。いちいち名乗るほどのことでもないだろう」
「シャントワーニュ紛争の時、双方の貴族の情報を詳しく調べ上げたレポートを提出してシャルルの仲裁が上手く行くようにし向けたのもあなたですよね?」
「あれはたまたま俺がそういう情報を手に入れられるセクションに就いていたからだ」
「だったらあなたが仲裁すれば良かったでしょう。シャルルは言っていました。あのレポートを読んだ後なら誰にでも出来るような仲裁だったと。それなのにガリア始まって以来の公正な裁き、などと貴族達に褒めそやされるあの人の気持ちを考えた事がありますか?」
「……」
「言い出したらきりがありません。あなたが陰から手を出す度にシャルルは深く傷ついていたのです」
「……」

 なおもマルグリットに睨まれてジョゼフは絶句する。この義妹が自分に対してこんなにも激しい感情を抱いているなど想像した事もなかった。
 シャルルの事にしてもそうだ。正直に言えば、まだ仕事に慣れていないシャルルの先回りをしてこっそりと手伝ってやるのはジョゼフの自尊心を満たす行為だった。そのままずるずると続けていたが、それがそんなにシャルルの心を傷つけるなどと思った事はなかった。

「シャルルはある時を境に自由に生きるようになりました。王の目や貴族の目を気にする事無く、自分自身の望みに向かって行動するように。シャルル・ド・オルレアンこそがガリア王に相応しい、その事を自分自身に証明する、その為に生きるようになったのです」
「証明する……その結果がこのざまか」
「ええ、シャルルなりに最善と思った事をしてきた結果でしょう。あるいは能力が足りなかったのかも知れません。それでもシャルルは決して後悔する事はないでしょう。王や貴族の評価がどうあれ、彼の道が閉ざされたわけではないのですから」

 マルグリットは椅子に座って立っているジョゼフを見上げている。しかし、ジョゼフが見下ろされていると感じる程マルグリットは堂々としていた。

「……俺の、せいなのだな?」
「思い上がらないでいただきたい。なるべくしてなったのです。私はシャルルがあなたを撃ち破ると信じています」

 シャルルが自分自身に証明するために行動しているというマルグリットの言葉は、何故だかジョゼフの胸にすとんと落ちてきた。思えば子供の頃から頑固なところのある弟だった。どんな事でも、誰がどう言おうとも、自分が納得するまでは認めなかった。
 シャルルは王になる事を目的に行動しているのではなかった。優れた王になろうとしていたのだ。おそらく戴冠後はシャルルの言った通り不正貴族を粛清する大嵐がガリアを吹き荒らす事になるのだろう。自分が支持した王に粛正される貴族達の反発は大きな物になるだろうが、それでも腐敗を取り除き、膿を全て出し尽くしその上に自分の王国を築き上げるつもりだったはずだ。
 ガリアを繁栄させハルケギニアに冠たる地位を確固たるものにした後にこう言うのだろう。ホラ兄さん、僕の方が王様に相応しかっただろう、と。
 想像の中のその姿は少年の頃のままで、初めてシャルルが狐を狩った時の誇らしげな笑顔を思い出し、つい、横を向いて笑い出してしまった。

「は、ははは、はははははは、そうか、シャルル、お前の方が王に相応しいか」

 晴れやかな笑顔となったジョゼフはマルグリットに向き直る。今度はマルグリットが圧倒される番だった。

「良いだろう。ならば、戦争だ。俺とシャルルのどちらが王に相応しいか、決めようじゃないか。俺達二人だけで」

 シャルルが納得するまで付き合ってやろうと、なんの気負いも無く、そう思えた。もうそれしか二人には道がない事を聡明なこの王子は理解していた。ジョゼフが王位を譲ったとて、シャルルが満足するはずもない。
 自分が勝つ事になろうと、シャルルが勝つ事になろうと構わない。内乱が激しくなろうと、人々が死にガリアの国力が落ちようと構わない。これまで鬱屈し続けたその全てをぶつけられるような予感にジョゼフは身を震わせた。

「まあ、後世の歴史家には二人とも王に相応しくなかった、と書かれる事になるかも知れんがな。そんな事は俺達の知った事じゃあないだろう。なあ、シャルル」

 身を翻し部屋を出て行く。来た時とは違いその顔は本当に楽しそうなものになっていた。



 この後御前会議を経てド・オルレアン討伐軍が編成され、ジョゼフは元帥としてこれを統率する事になった。
 諸侯軍の到着を待たず、シャルルの逐電から三日目には五千人の陸戦部隊が先発としてリュティスを出発、ド・オルレアンへと向かう。

 ここに後の世で後継戦争と呼ばれる事になるガリアの内乱が始まった。


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