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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-8    決意
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/06 20:56
「あなたの先祖がカトレアさんの病状について何か書き残していないかと思っただけですから」

 その言葉を受けたとき、カリーヌはウォルフを睨み返すだけで他に反応を返すことが出来なかった。その言葉はそれほどの衝撃を彼女に与えた。

 カリーヌの実家、ド・マイヤール家には一つの伝承が残っている。それは、昔、マイヤールの娘がエルフと恋に落ち、子をなしたというもの。ド・マイヤールはそのエルフの血を隠すため中央には出ず、貧乏貴族と蔑まれながらも田舎でひっそりと暮らしている、という信じる者などいないようなお伽噺だ。
 もちろん、祖母から聞かされたそんなお伽噺をカリーヌも信じたことは無いし、誰にも話したことはなかった。だというのに、この少年はカトレアを見た瞬間にエルフと呟き、まるでド・マイヤールの伝承を知っているかのように話している。
 超一流の風メイジであるカリーヌはカトレアの部屋にウォルフが入ったときに呟いた声を当然聞き取っていた。何故、この少年はカトレアを見ただけでそう思ったのか、得体の知れない不安がカリーヌを襲った。

「……わたくしの先祖がどうかいたしましたか? わたくしの知る限り、カトレアのような病気になった者はいませんが」
「ええ、あなたが知っている範囲ではそうなのでしょう。しかし、もっと昔だったら? 昔は先住魔法を使える人間もいたと聞きます。カトレアさんの病状について何か記して有るかも知れません」
「何故、その話を夫にはせず、わたくしにだけ聞くのですか? わたくしの実家はトリステインの隅にある貧乏貴族です。たいした文献は残っていません」
「それは、あなたに聞く必要があると思ったからです」
「……夫には聞く必要はないと?」
「ええ」
「……」

 さすがのウォルフもハルケギニアの貴族に面と向かってあなたの血にはエルフの血が混じっている、などと口にすることは出来ない。もしかしなくても決闘騒ぎになること間違い無しだ。このおばちゃん相当強そう、と言うのが対峙してみての感想なので、これでも気を遣っている。

「誤解していただきたくないのは、わたしがこのようなことを言っているのはカトレアさんの病気を治すため、だということです。他意はありません。何せ情報が少ないので僅かな手掛かりだろうと当たってみる価値はあると思っています」

 沈黙が流れる。しばらくの間二人は睨み合っていたが、やがてカリーヌから視線を外した。

「……分かりました。明日にでも実家に向かって調べてみます。カトレアみたいな病気にかかった先祖ですね?」
「ええ。他にも妙に勘の鋭い人とか動物にやたらと好かれた人、先住魔法を使えた人とか、耳が人より長かった人とかの記録を中心にあたってみて下さい」
「……昨日あなたがカトレアの部屋に入ったときに口走ったことについて、問い質そうと思っていましたが、やめておきます」
「あ、やっぱり聞こえてましたか」

 苦々しげにカリーヌは頷く。その先はアンタッチャブルだ。



 割とすぐに話が終わって、食堂へと戻る。食堂にはルイズ達の弟となるロランが連れてこられていて、周囲に愛嬌を振りまいていた。

「あら、ウォルフもうお話終わったの?」
「ああ、まあたいした話じゃなかったしね、この子がロラン君?」
「そうよ。ほらロラン、このお兄ちゃんはアルビオンって言う御飯の不味い国のメイジなのよー」
「だー」
「ちょっとそれどういう紹介の仕方だよ」

 ロランは父親譲りの金髪と少し目つきが鋭いが愛らしい顔立ちで、ルイズに抱っこされてご機嫌にしている。赤ちゃんがいるだけで場の雰囲気は和やかになる。カリーヌのこわばった表情も幾分ほぐれたようだ。
 ロランを中心にワイワイと話している子供達とは少し離れて公爵は妻の横に並んだ。

「うん? カリーヌ大丈夫か? ウォルフ君との話は何だったんだ?」
「ええ、大丈夫です。あなた、わたくし、明日から暫く実家へと帰りたいと思います。心苦しいのですが、その間ロランのことをよろしくお願いします」
「ななな何だと? 何でいきなり、そんな」

 若い男と二人きりにさせた直後に実家に帰りたいと申し出る妻。公爵は色めき立った。

「ド・マイヤールにカトレアの病状について何か情報があるかも知れないとミスタ・モルガンに指摘されたのです。あまり人手に任せたくないので、私が行くのが一番良いでしょう」
「なぜウォルフ君がそんな事を…行くというのはお前の判断なのか?」
「ええ、わたくしの先祖が情報を残した可能性があるのなら、当たってみるべきだと思ったのです」
「う、うむ、それなら仕方ないな。それにしても彼は何かまだ情報を持っているのか?」
「分かりません。分からないことだらけです」

 独り言のように呟く視線のその先ではウォルフが屈託無くロランを抱いてあやしている。確かにその様子はなんの下心も思惑もないように見える。しかし、カリーヌにはウォルフが普通にしていればいるほど、何か得体の知れない存在であるかのように感じられてしまっていた。

 そんなカリーヌの幾分怯えさえ感じられる視線にはまるで気付かないかのように、ウォルフは今度こそ挨拶をして帰って行った。ルイズの魔法は見てあげられなかったが、『ディテクトマジック』を使うときの注意点などを詳しく指摘して次に会うときまでに練習しておくように伝えておいた。



 ボルクリンゲンでの仕事も終えて、ウォルフは久しぶりに辺境の地へと帰ってきた。新型機のおかげで三時間程度で来られるので、以前より頻繁に行き来が出来るようになった。
 マイツェンには寄らず、直接開拓地へと向かう。マイツェンには輸出用木材の製材所と元の宿舎を利用した移民希望者の一時宿泊所があるが、最近は同じミルデンブルク伯爵領内の他の村から安全なマイツェンに移住する人が増えて普通の村のようになっている。
 ミルデンブルク伯爵の協力もあり、牧草地は次々に畑に姿を変えて村の規模も拡大し、もうかつての寒村の景色を思い出すのも難しい程だ。うっすらと雪の積もったそのマイツェンを眼下に見て五分も飛ばない内に開拓地に到着した。

 T字に交わっている川のそのT字の右下部分に相当する平地は既に半分以上は畑へと姿を変えている。切り倒した木を臨時の防壁として積み上げ、それ以外にも貯木場には大量の丸太が積み上がり、開拓の手は山地にも広がっている。山地と言っても日本のような急峻な山々ではなく、なだらかな丘が連なっているので斜面を畑にすることは可能だ。
 春から秋にかけては移民達は畑作業を主に働いていたが、冬になっては開拓地を拡げるため、雪景色の山では多くの移民達が忙しく働いていた。
 遠くに重機が動いているのを眺めて高度を下げる。川の合流点からはほど近い、川港からメイン道路をまっすぐに行った先に建てた中央庁舎と呼んでいる建物に着陸した。
 この建物はその名の通り開拓団全体を采配するためのもので、重要な意志決定は全てここで行われる。マイツェン等で受け付けた移民希望者を希望に添って割り振ったり、病院や学校なども併設してある総合庁舎なのだ。
 既に一番遠い村でここから四十リーグも離れているので学校はここの他に二カ所作ってある。まだまだ開拓地に子供は少ないが、今回養子縁組事業をスタートした事だし今後は増えていく予定だ。ウォルフとしては教育には手を抜けないので、教師の不足が頭の痛いところだ。
 飛行機から降りるウォルフをグレースやミレーヌ他中央庁舎に詰めている者達が出迎えた。

「ウォルフ様、お帰りなさい。おめでとうございます」
「ああ、ただいま。新年おめでとう。何か変わったことはない?」
「有りません。降臨祭のお祭りも二度目ですので順調にいきましたし。あ、今回ロマリアから来て下さった神官がすっごいハンサムで女の人はみんなウットリしてました」
「あれ? ドルスキの下っ端神官が来るって言ってなかったっけ」
「たまたま今回辺境の地を巡っていたとのことで、お若いのにとても位の高い神官様が来て下さったのですよ。ドルスキの司祭様なんて自分の教会ほっぽり出してきてペコペコしてました」
「へー、そうなんだ。それが変わったことか」

 美貌の神官。どこかの報告書で読んだような単語が聞こえてきて、帰って来るなりいい気はしないが、ロマリアに目を付けられているのは今更なのでスルーした。
 ハルケギニアにおいて教会は不可欠な存在だ。宗教は人々の心に平安をもたらし、社会を安定させる作用がある。ウォルフも開拓地には祈りの場としての教会を建て、虚無の曜日にはドルスキから神官が通ってきている。
 しかし宗教が人々の為ではなく宗教組織そのものの為に存在するようになり、組織の発展を第一にするようになると、社会に害悪をまき散らす。現在のブリミル教もこのような組織になりつつあり、エウスタキオ枢機卿などはその最たる者だ。領内の教会が暴走することを予防するために、ウォルフは開拓地における事業者には全て帳簿を付けることを義務づけ、教会にも例外を認めず寄付金や必要経費の詳細を明瞭にすることを求めた。ドルスキの教会からは相当苦情がきたもので、そのせいか開拓から一年が経過し、移民も二千人を超えて立派な教会も建っているというのに未だに常駐する神官は決まらない。普通は住民が五百人も超えたら神官が住み着くというのに。
 ロマリアからも苦情が来たみたいだが、教会だけ特別扱いするのは良くないし、教会経営の苦しい内幕を公開して寄付金を集めやすくするためという理屈で押し通している。

「ロマリアからこんな所まで来るなんて大変だね。他には何かある?」
「あ、一度まもるくんの防空網を風竜に突破されました。風竜が二十頭くらい塊になって凄い勢いで飛んできて、ほとんどは開拓地に入ることはなかったのですが、二頭程が畑に墜落しました。すぐに警備隊が駆除しましたので畑以外には被害は有りませんでしたけど」
「……それは問題だな。警備隊の報告はある?」
「はい、机の上に他の報告と一緒に。ちょうど神官様がいらっしゃるときだったのですが、警備隊を含めて開拓地の様子をとても感心していて褒めて下さいました。ウォルフ様にも会いたがっていましたよ?」
「まあ、会えなくて残念だったね。警備体制は要再検討だな」

 他にも細々としたことをグレースから報告を受けながら移動する。神官のお付きの少年が月目のものすごい美少年だったなどということは、ウォルフとしてはどうでも良いことなのだが。

「ああ、ウォルフ様、やっと帰ってきました…」
「よう、随分とやつれてるな、大丈夫か?」

 庁舎内にはいると、げっそりとやつれたマルセルが出迎えた。彼はウォルフのいない間の代官に任命しているのだが、ちょっとウォルフの仕事は量が多すぎるらしい。

「はあ、ウォルフ様が帰ってきたことだし、ようやく休めそうです……」
「まあゆっくり休め。なにか報告有る?」
「留守中のことは毎日の細かい報告と週毎の纏めたものを提出してありますのでそちらをご確認下さい。風竜の事はお聞きになりましたか?」
「ああ今聞いた。後で報告書を読んでみる」
「お願いします。他には特段、報告するようなことは無かったです」

 現在開拓地内にはこの庁舎のある中央の都市に五百人程貸与された開拓団員を中心に居住し、周辺の森を切り開いた平地に千五百人程が村落を作って暮らしている。
 一つの村は五十家族ほどを目安に移民を割り振っていて、今のところそれぞれ百人から二百人位の人口になっている。それぞれ飲用の井戸、風石発電所、共同の冷蔵倉庫、トラクター二台、除草・害虫駆除用ガーゴイル一台、集会所兼用の教会などをウォルフ側の責任として整備しており、その村がすでに十以上出来ている。
 各家庭のエネルギーとして将来的には発電所の電気をメインにするつもりだが、現在は開拓地で伐採した木々の枝や掘り起こした根を薪にして村々に供給している。前世では鋸を痛めるため利用方法がなかった木の根もハルケギニアでは余すところ無く利用できる。
 それらの差配や必要資材の手配、設備のメンテナンス等ウォルフがいない間にも仕事が減ることは無い上に、降臨祭の準備や手配などでマルセルは寝る間を削って仕事をこなしていた。
 自分の机に向かってその報告書を手に取り確認するが、書類として完璧過ぎることがウォルフには逆に気に掛かった。

「ん、良く纏まっているみたいだが、もう少し人を使うことを覚えてくれ。そんなに消耗するまで仕事をしていたら、長くは続けられない」
「はい。どうも、細かいところが気になってしまいまして、中々ウォルフ様のようには…」

 ウォルフは大体大雑把なところで指示を出して後は他の人に任せてしまっているが、マルセルは生真面目な質なのか自分で最後まで確認しないと気が済まないようだ。
 今、多少上手く行かなくても良いとウォルフなら思えても、仕事を任されたマルセルとしてはそういう気分には中々なれないものだった。
 上のものが全部仕事をコントロールすれば短期的には仕事の効率は上がるのだろうが、長期的に見ると人が育たないしデメリットが多い。

「開拓団が上手くいっているときは、上の者は適当に手を抜くくらいが丁度良い。今日から一週間休んで良いぞ」
「はあ…」

 マルセルに続けて各部署の責任者から報告を受け、それぞれに指示を出す。特に警備隊長とは入念に打ち合わせをして、二度と防衛線が突破されることのないように対策を練った。
 今の警備隊長は元ロマリア密偵のセルジョだ。もともとメイジとしての腕は確かだし、ツェルプストーの刑期が終わってもこちらで働きたいと申し出ていることもあり抜擢したが、今のところよく働いてくれている。
 そのセルジョによる竜の群れの襲撃事件に関する詳しい報告にはウォルフも顔をしかめた。

「成る程、これが本当なら確かに誰かに操られていたんじゃないかって思っちゃうな」
「はい。とにかく、妙に統制の取れた群れでした。かなり上空から急降下してきまして、一度追い払っても繰り返し襲撃してくるというしつこさで。群れのリーダーらしい一番大きな個体を討ち取ったらもう来ませんでしたけど」
「ふーん、レーザー銃は使った?」
「いいえ。竜が落ちた場所は中央市の降臨祭会場からは二十リーグ程離れていましたので、わたしが駆け付けた時はもう討ち取っていました」
「それはよかった。あれはちょっとまだ外部には知られたくないから」

 ウォルフが警備隊長であるセルジョのみに配備しているレーザー銃はサブマシンガン程の大きさながら鉄を溶かす程のレーザー光線を発することの出来る兵器だ。
 風石をエネルギーとして魔力子に変換し、それをさらに完全なコヒーレント光として銃の先から照射する。エルラドと同様にメイジによる魔法を起動トリガーにしており、こちらの場合の魔法は『ライト』だ。この銃は光束を調整して二十メイルくらいの射程を持っているが、それ以上遠いと光が回折により拡散してしまうので威力は弱くなる。
 同じく『ライト』を使用したレーダーによってレーザーが反射されそうな時は照射できなくなる安全装置を搭載しているし、魔力による認証も行って警備隊長にしか扱えないようになっている。十分に訓練して危険性を認知させるなど安全には配慮しているが、なにぶん強力な兵器なのであまり外部には知られたくない物だ。
 万が一に備えてセルジョには持たせているが、警備隊にも外部の密偵が入り込んでいる現状では使用にはかなり気を使う。

「とにかく、あんな上空を飛んでいた竜が襲ってくるなど、これまで想定しませんでしたから警備体制は見直す必要がありますね」
「ったく、何でわざわざそんな上空に上がってから突っ込んでくるんだよ」 

 滅多に無いことなのだろうが、また無いとも言い切れないので対策を取ることは必要だ。仕方なく、上空にまもるくんを装備した自動グライダーを常時飛行させ、警備させることにした。これまでは一定以下の高度を飛ぶ竜について追い払っていたのが上空を飛ぶこと自体を許さない方針に変更したのだ。

「では、手配を願います。万が一ということが無いとも言えませんし」
「手配ってオレが作るしかないんだけどね。それでまだ不安があるようなら各村に長射程レーザー兵器を配置するしかないな」
「えっ、レーザーってそんなに射程を伸ばせるのですか?」
「実験では五リーグくらいまでは攻撃範囲にすることが出来た。ちょっと光学系が大きくなっちゃったから携帯するのは難しそうだけど」
「……あれの射程が五リーグまでになるとすると、本当に恐ろしい兵器になりますね」
「試作機の内一機はここの屋上に設置してあるよ。鏡で反射されたらそのまま返ってくるから、あんまり戦争には使いたくないけどね」

 もし戦争に使うならば、戦車の装甲を撃ち抜くような使い方は出来ないが、竜騎士は容易に撃ち落とせるし、木造のフネは炎上させてしまえる。ウォルフは鏡で反射できるようなことをわざと言っているが、文字通り光速で攻撃できる兵器なので躱す事なんて出来ない。撃つ方が鏡を撃たなければ良いだけなのだから。
 明らかにハルケギニアのパワーバランスを崩してしまう程の兵器だ。

「売り出せばものすごい額で売れますでしょうに」
「興味ないね。まあ、確かに最近金欠気味だけどさ」

 移民達の家はウォルフが用意しているし、トラクターなど開拓用の機材の購入費、資材、食料など、お金はいくらあってもどんどん出て行く。
 移民からは収入が一定程度以上になるまで税が取れないので、現在開拓地の収入源は限られている。切り出した原木、採取した希少な植物など秘薬の原料、討伐した幻獣の素材、マイツェンの製材所で製材した木材、マイツェンからすぐそばの岩山で採掘している珪岩、開拓地で採掘を始めたマンガン鉱などだ。このうちマイツェンの物はミルデンブルク伯爵領なので税を支払っている。
 切り出した原木が大量なので、それなりに収入はあるが、出ていくお金の方が多い。なんとか産業をと、あちこちで声を掛けているが今のところ工場建設までこぎ着けたものはまだあまりない。

 セルジョとの話を切り上げて、ウォルフはこの庁舎での仕事を終えて開拓地の視察に出かけた。下から上がってくる報告に対応すること、現場で生の意見を聞いて対策すること、どちらも開拓団をスムースに運営するためには必要不可欠な事だ。

 まず向かったのは、川港のそばにある家具工場だ。ここはウォルフが誘致し、出資もして建てたもので、広葉樹の木材を使って平民向けの組み立て式の家具を製造輸出している。
 ここの経営者はチッペンダールというもとはアルビオンで駆け出しの家具職人だった男だが、ガンダーラ商会にセールスに来た縁でここに工場を構えることになった。
 ハルケギニアでの家具販売と言えば、家具工房に注文して、家の間取りに合わせて製作するというものだ。それなのに商会にセールスに来たチッペンダールは家具のカタログという物を作って、自分がどんな家具を作れるのか示し、顧客がイメージを掴みやすいようにして契約を取ろうとしていた。
 その、時代を先取りしているとも言える商才を見込んでウォルフが勧誘したのだが、最初は首を縦に振らなかった。しかし、ウォルフが製作した木工機械の数々や、ネジと金具を利用した組み立て式家具の見本を見せられて、アルビオンの工房を閉めて開拓地に工場を造ることを決意した。
 今ではボルクリンゲンに大型の倉庫兼用の店舗を出店し、開拓地で生産した安価な家具を販売し始めている。工員の技量が習熟して工場の生産ラインが安定してきたらもっと大量に生産し、他の大都市にも店舗を展開する予定だ。
 新商品開発もウォルフと共同で行っている。ウォルフはステンレストップのシステムキッチンを作りたいとかねてから思っていたのだが、流しは左官の仕事だと思っているチッペンダールは中々了承しなかった。今回ボルクリンゲンから船で送ったステンレストップとIHヒーターコンロ・換気扇に冷蔵庫を工場に持ち込み、将来的にはキッチンはこの形になると説得するとその機能性に納得したチッペンダールが遂に折れて、システムキッチンの試作を作ることを了承した。

 ちなみにこの時ウォルフが持ち込んだ機械類は、冷蔵庫はコンプレッサーを使用した純電化製品、換気扇は風石を直接利用した純魔法具だ。換気扇は風石を使った方が羽根が無いために掃除の手間が省けて便利だ。冷蔵庫やIHコンロなどの電化製品は価格が高くなるし、そもそも開拓地でないと電気の供給が無いので売れないが、コンロを従来型の薪の物に替えたシステムキッチンそのものは最近増えてきた裕福な平民層に受け入れられるのではないかと思っている。
 電化製品については家庭用発電機を売ればいいのかも知れないが、メンテナンスのことなどを考えると現在ウォルフにそこまで手を伸ばす余裕はない。将来に期待しつつ販売を見送っている。

 チッペンダールと打ち合わせを済ませて翌日は川港とその隣に建てた開拓地向け製材所、その翌日は村々、次の日は鉱山、と毎日現地視察を続け、合間に開拓の最前線に出て木を切り倒したり幻獣を倒したり忙しく働く。当然研究や開発も平行して行っている。
 そんな開拓地でのウォルフの日常は、程なくして中断することになる。それは、マイツェンを経由して開拓地の川港に着いたフェリーに乗ってやってきた移民希望者達を出迎えたときだった。

「何やってんすか、カトレアさん」
「ああ、ウォルフさん、やっと会えました。開拓地ってとても遠いんですねえ」

 それは移民希望者達の中で一際目を引くピンクブロンドの髪を持つ美女、このたび叙爵してラ・フォンティーヌを名乗ることになったカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌだ。
 ノンビリとしているカトレアの手を取り、事情を聞くために別室へと連れて行った。

「グレース、グレース」
「はい、あの、そちらの方は?」
「あー、トリステインのラ・ヴァリエール公爵のご息女。ちょっとこの人と話があるから、移民希望者達への説明代わってくれ」
「は、はい、かしこまりました! えーと、ごゆっくり?」

 最後が変だったが後はグレースに任せ、移民希望者達に開拓団長として軽く挨拶だけするとカトレアと二人で港湾事務室を借り切って引っ込んだ。
 とりあえずカトレアの体調を確認する。ウォルフが『ディテクトマジック』で体を精査する間、カトレアは大人しく黙っていた。

「んー、少し澱みがありますね。でも、こんな所まで来た割には綺麗なもんだ。大分、抑えられるようになりました?」
「はい。ウォルフさんの仰った通り、知りたいと思ったときはちゃんと相手に尋ねることにしています。旅をしていると興味を惹かれるものが多くて、そうできない事もありますけど」
「うん。普通の人はみんなそうしているからね。……やっぱり自我の漏出が病気の原因だったっぽいな」
「ゲルマニアを旅してきて思ったんですけど、川に鉄橋が架かっているのが多いですねえ。トリステインでは鉄橋なんて大貴族が権威を示すために架けるようなものだって聞いていましたけど、普通の所にかかっているので驚きました。さすがは鉄のゲルマニアですね」
「あ、うん。鉄橋が増えたのは最近なんだけどね」

 ゲルマニアで鉄橋が増えているのはガンダーラ商会が格安で売り出しているからだ。転炉により大量に精錬される鉄を使い、サイズごとに規格化されたものを工場で造っている。完成した橋を風石を使って輸送して、橋脚の上に据え付けるだけなので工期も短く、鉄橋と言えど木や石の橋よりも耐久期間も考えたトータルでは随分と安くなっている。
 最近ゲルマニアではガンダーラ商会の鉄橋と言えば、安い! 早い! 長持ち! と有名になっているのだが、カトレアは知らないようだ。

「そうなんですか。他にもやっぱり色々とラ・ヴァリエールとは景色が違いましたので楽しかったです」
「…それで、カトレアさん、こちらへはどんな用件で?」

 カトレアが携行していた秘薬を使って澱みを取り除きながら尋ねる。病状が悪化するリスクを冒しながらこんな所まで来たのだ、ただの物見遊山の筈はない。

「えと、その前にウォルフさん、キュルケ・フレデリカさんという方はお知り合いとのことですが、ご存知でしょうか?」
「ええ、確かに知り合いですが……彼女が何か?」
「ああ良かった。とても親切にしていただいたのに、ろくにお礼も言えずに別れてしまったものですから。後で連絡先を教えて頂きたいです」
「はあ、構いませんけど…」

 カトレアが言うには家を飛び出してきて、ボルクリンゲンに着いたまでは良かったのだが、広い町で道を聞いてもガンダーラ商会の商館にたどり着けずに困っていたとのこと。ボルクリンゲンの商館はそうとう目立つ場所に建っているので普通は見つけられないということは無いと思うのだが、箱入りのお嬢様というのはそう言うものなのだろうか。
 あげくたちの悪いのに絡まれて往生していたのだが、たまたま通りかかったキュルケに助けて貰い、その上商館まで連れて行ってくれたそうだ。
 それどころか開拓地行きのフネが出たばっかりで、暫くは便がないと聞くと自分のモーグラにカトレアを乗せてフネまで追いかけて乗せてくれたという。
 ちなみに、カトレアに絡んでいたゴロツキどもは全員キュルケ一人に叩きのめされてしまったそうだ。

「随分と男前だな、キュルケ」
「ねえ。殿方でしたら恋に落ちてしまったかも知れませんわ」
「いや、それはまずいな。カトレアさんラ・ヴァリエールだって名乗りました?」

 おそらくキュルケはまた山賊討伐のための捜査をしていたのだろうが、ラ・ヴァリエールとツェルプストーが一緒にいて喧嘩にならないのか聞いてみた。

「いいえ? 家出中ですし、家名は名乗っていません。それが、何か?」
「彼女、ツェルプストーだからさ。ラ・ヴァリエールとは犬猿の仲だって聞いたけど」
「まあ! フォン・ツェルプストーのお嬢さんでしたか。彼女となら仲良く出来そうですね」

 カトレアはキュルケがツェルプストーと聞いても気にすることもなく微笑んだ。累代の敵と言ってもあまり実感は湧かないのかも知れない。

「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね、このたび子爵位を頂戴いたしまして、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと名乗ることになりました。ウォルフさん、今後ともよしなに」
「ああ、結局貰ったんだ、子爵位」

 前回会ったときは自分のような半病人が子爵位などを貰って良いものかと悩んでいたが、結局貰うことにしたようだ。

「はい。もう一人前の貴族ですから、自分の判断で行動することが出来ます。だから、家を出てこちらまで来ました。父には話していません」
「いや、子爵位をお父さんから貰ったんだからそういう訳にもいかないと思うのだけど……」
「いくのです。ここに来た用件ですが、ウォルフさんにお願いがあります。私を、アルクィーク族の村まで連れて行って下さい」

 ウォルフを真っ直ぐに見つめて懇願した。その目に浮かぶのは生きる意志。最初に彼女の部屋で会ったときに感じた、儚げな、どこか生きることを諦めたような雰囲気は全く感じなかった。

「行っても何も分からず、無駄になるかも知れませんよ?」
「ハルケギニアでじっとしていても何も変わらないのですから、足掻くだけ足掻いてみたいと思います」
「もしかしたら長期の治療になるかも知れません。それは大丈夫ですか?」
「大丈夫です。どうせ病人ですし、子爵と言っても爵位だけみたいなものですから」
「精霊魔法――ハルケギニアで先住魔法と呼ばれている魔法と関わりを持つことになります。ブリミル教において、異端と呼ばれる可能性が有りますが、それでも?」
「構いません。私が私として生きることは、私が生まれ持った権利です。たとえブリミル様でもそれを侵すことは出来ません、ってウォルフさんが言ってくれたのですよ?」
「そんな事言いましたっけ。良いでしょう、オレも精霊魔法に興味はありますし」

 ウォルフはルーに精霊魔法を習った事があるが、全く出来るようになる気配はなかった。ルー曰く、精霊魔法というのは本来生物であればどのようなものでも使えるようになるはずなので、アルクィークで教えを受けながら二、三ヶ月程杖無しで暮らせば、程度は分からないが使えるようになるだろうとの事だ。
 この超忙しいウォルフが現状でそれ程の長期にわたって杖無しで暮らす事など想定できない。もしかしたら魔法学院に行く頃には時間が取れるようになっているかも知れないが、今のところウォルフにとって精霊魔法は老後の楽しみという位置づけだ。それだけに、この精霊魔法に適性の有りそうなカトレアが精霊魔法を見てどのように感じるのか興味があった。

「ありがとうございます、このお礼は必ずさせていただきます」
「ちょっと、今すぐって訳にはいかないので、仕事のキリが良くなるまで開拓地を見学でもしていて下さい」
「あ、じゃあさっきの人達と一緒にいます。ここに来る道中で結構仲良くなったのですよ」

 カトレアを待たせて仕事に戻る。特に急いでいる仕事はないので二三日なら空けても大丈夫なはずだ。
 自室に戻って書類を確認すると案の定ラ・ヴァリエール公爵からカトレア捜索の手紙が届いていた。いなくなったので見つけたら連絡して欲しいというものだ。
 少し悩んだが、返信だけしてカトレアはアルクィークに連れて行ってしまうことにした。

 さっさと仕事を片付けて東へ行く準備を始める。カトレアが来たのは午前中だったが仕事をしている内に夕方になってしまった。
 今日は東の温泉キャンプに泊まればいいだろうから、急いで支度をする。今夜と明日の食料にウォルフが経営しているボーンスープショップからスープを一鍋貰って飛行機にパンと一緒に積み込んだ。このボーンスープは用途が無く捨てられていた幻獣の大腿骨などを強火で煮込んだスープだ。丁度前世の豚骨スープのような味だが、カロリーがとにかく高いので体を使う開拓団員達には好評だ。ウォルフはよく細身のパスタを湯がいて入れて食べている。
 アルクィークにいくのは三ヶ月ぶりくらいだ。久々に向かう東の地を楽しみに思い浮かべて準備を進める。食糧の他折角東に行くのだから動植物や鉱物の採集キットも用意し、最後にアルクィーク族との交易品をトランクに入れて完了だ。このトランクは機体下部に取り付ける機外トランクで、これのおかげで荷物の搭載量は飛躍的に上がった。

 見学から戻ったカトレアを乗せ、ウォルフの飛行機は夕陽に向かって飛び立つ。東の山脈にある温泉までは三時間程、あっという間の空の旅だ。ここで一夜を過ごし翌日アルクィーク族の村へ向かう。



 数日後、開拓地に戻ったその飛行機にカトレアの姿は無かった。



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