「ユイト。今日からあんたの護衛だ」
青年は少女にそう告げた。
少女の年齢は見た目から高校生だ。綺麗な金髪で澄んだ青い眼差し。それは外国人系の美しさといえば早いのだろう。そして、それの魅力を引き寄せるかのようにキチッと着込んでいる黒いスーツ。
もしかしたら、こっちのほうがボディガードに見えるんじゃないか。
と、彼女の契約者であるユイトは思った。
「マキ。今日から世話になるわ」
少女は青年にそうつげた。
青年の年齢は見た目から大学生だ。微妙にパーマがかかって髪が跳ね上がっている。眉毛がつり上がっているせいなのか、タレ目でも目力がつよく、多分普通にしていても睨まれていると勘違いされそうな眼差し。服装は私と同じ真っ黒のスーツだ。
今の時代、こんな犯罪者の・・・いや人殺しのような目をする人はいるのかな?
と、彼の契約者であるマキは思った。
「俺はあんたの護衛であって執事じゃねぇんだ。自分のことは自分でやりな」
自己紹介が終わったあとのユイトの第一声がこれだった。
とても護衛が言うセリフじゃない。
もちろん、ユイトは守ることはちゃんとやるつもりだろう。だが、それ以外のことはやらないつもりだ。そういうのは護衛がする仕事じゃないからだ。
「契約者を守るのが俺の仕事だ。世話をするのが仕事じゃない。ただ、契約した以上、命をかけて契約者(アンタ)を守る」
それが、塚本ユイトが提唱するボディガードの存在意義というやつだ。
ユイトはそれをマキに理解させるために言ったのだ。
だが・・・
「当然よ。私は護衛を雇ったの。無駄に執事みたいなことされると帰って邪魔でクビにするわ」
彼女は、静かにそう吐き捨てた。そして、振り向きざまに不敵な笑いをユイトにみせてキッチンへ向かう。
ユイトにとって意外な返答だった。
前の雇い主が、ユイトを散々執事みたいにこきつかったあげく、飽きたといって別の護衛を雇って彼をクビにした。
そういうのを避けたいから、彼女に忠告したのだ。
ユイトもそれについて行き、誂う様な楽しげな口調で彼女に話しかける。
「ありゃ、意外だな。俺はてっきりお嬢様なんだからもっと我侭なのかとおもってたけど」
「あんた漫画の読みすぎ。お嬢様だからって世間一般の常識や礼儀はわかっているつもりよ。それに私は執事なんて雇ったことないし、メイドなんていないわよ」
「そっか」
ユイトも納得したのかそこにあった黒いソファに腰掛けた。
彼女の部屋は至って普通。シャンデリアもなければ、貴族が持っているような鬱陶しいほど煌びやかな食器などない。高価なヒョウ柄の絨毯もなく。一般的な家具が多かった。
黒い家具が多くて、白い色が好みのユイトには気味が悪くなった。いや、好みの問題じゃない。部屋に入った瞬間、真っ黒い光景が見えると誰もが気味が悪くなる。白くないと言えば木材でできた床とキッチンのステンレスの部分だけだ。あとは、ほとんどが黒だ。
でも、それだけ彼女の金髪がさらにきらびやかにみえる。
そうユイトは感じた。