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No.3303の一覧
[0] コードギアス 反逆のお家再興記[0](2010/01/26 23:47)
[1] お家再興記 2話[0](2008/07/07 16:04)
[2] お家再興記 3話[0](2008/07/07 16:04)
[3] お家再興記 4話[0](2010/01/26 23:48)
[4] お家再興記 番外編 [0](2008/07/07 16:07)
[5] お家再興記 5話[0](2008/07/07 16:07)
[6] お家再興記 6話[0](2008/07/07 16:18)
[7] お家再興記 7話[0](2008/07/10 17:57)
[8] お家再興記 8話[0](2008/07/28 07:22)
[9] お家再興記 9話[0](2011/07/12 23:36)
[10] お家再興記 10話[0](2008/08/08 03:36)
[11] お家再興記 11話[0](2008/08/12 10:02)
[12] お家再興記 12話[0](2008/09/06 21:44)
[13] お家再興記 13話[0](2008/09/06 22:26)
[14] お家再興記 番外編 2上[0](2008/09/28 23:34)
[15] お家再興記 番外編 2中[0](2008/09/28 23:34)
[16] お家再興記 番外編 2後[0](2010/01/23 21:25)
[17] お家再興記 番外編 2完結[0](2010/01/23 21:24)
[18] お家再興記 14話[0](2010/01/26 23:50)
[19] お家再興記 15話[0](2013/01/28 19:16)
[20] お家再興記 16話[0](2013/01/28 19:20)
[21] お家再興記 17話[0](2013/12/06 02:00)
[22] お知らせ[0](2015/12/25 02:52)
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[3303] お家再興記 番外編 
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/07/07 16:07
それは一人の少年の慟哭。

廃墟とかした街の前に膝を付き、壊れた人形の腕を手に持ちながら少年は涙を流している。

その少年が出すあまりの悲しみ、悲哀に見るもの全てが、心を動かされる。

まるで自分が突如映画の1シーンの中に迷い込んだような錯覚。

もし少年のことを、少しでも知っていたならば、直ぐに駆け寄り、抱きしめていただろう。

でも私は彼の事を知らない。唯の他人だ。私には泣きじゃくる彼を慰める術は無い。

私はその光景を唯見つめ続けていた。

見つめる事しかできなかった。










■アクア・アッシュフォード■












僕は今、生まれ育った国。
ブリタニア帝国から、遠く離れた、極東の地―――日本行きの飛行機に搭乗している所である。


ブリタニア士官学校での淫獣達との攻防にも大分慣れ、実家からの仕送りをコツコツと貯め、ようやく日本へと旅立てる程の貯金ができた僕は、士官学校の長期休みを利用して、日本へ旅立ったのだ。


日本―――今はエリア11と名を変えた、ブリタニアの植民地。

面積や人工は小規模ながらも、独自の確かな技術、そしてサクラダイトと呼ばれる、レアメタルを多く採掘されることから、小国ながらも、経済大国として世界に誇っていた国であった。
しかし、その自国を潤わしてくれるサクラダイトが仇になった。
古くから、サクラダイトを巡り日本とブリタニアには確執があり、このサクラダイトを確保するために、ブリタニアが日本へ侵略戦争をする要因の一つとなったのだ。

そう―――今でも忘れない。

皇暦2010年8月10日 ブリタニアが日本へと宣戦布告をした日を。



Bate/stay night  ブイバーオルタ 完成品フィギュア ブリッドシアター版8分の1サイズ、発売前日の日に宣戦布告しやがった事を!


あまりフィギアに興味が無い僕でも感銘を受けた、あのブイバータンオルタバージョンの余りの迫力!フィギアからかもし出る、狂気!そしてその中にある高貴!そして仮面を外せば、迎えてくれるのは物凄い目力!
燃えと萌えが絶妙にコラボした芸術品だったのにィィィ!わざわざ、ニブニブ市場で予約までしたのにィィィ!

それもこれも、ブリタニアが戦争を起こしてくれたお陰でパーだよ!もうお金払ってたのに!
返せ!僕のブイバータンオルタと、日本円で販売価格5772円と送料8500円!計14272円!海外発送は高いんだぞォォ!送料の方が高いんだぞォォォ!

憎い!我が祖国ながらブリタニアが憎い!

そもそも日本と戦争をするなんて許されることではないだろう!

日本と言えば、萌えの発祥の地であり、様々な文化を作り上げた、偉大なる先人たちが住まう地なのだぞ!?
職人と呼ばれる、様々な分野のエキスパートが存在し、二次元から三次元までの、未来には四次元の萌えを提供してくれる理想郷。Arcadiaだったんだぞ!?
特に、ぶろゆきと呼ばれる、神まで生息している国であったのに…。

そんな理想郷をブリタニアはサクラダイトの為に、蹂躙したのだ!

萌えは日本で始まり、日本で終わる…。

ブリタニアはこの言葉を理解できなかったんだよォォ!
なんて嘆かわしい!超絶ガッデム!
ブリタニアの未来は終わりだ!



ハァハァ。
いかんいかん。
つい興奮してしまった。
隣の席に座っている、お姉さんが怪訝そうな視線を向けてきているではないか。自重しなければ。
ちなみに興奮と言っても下関係で興奮ではない。勘違いはしないように。


今僕が何故、日本へと赴いているかと言うと、理由は唯一つ。


日本の中心に存在する場所。
僕が一度も行った事が無い場所。
されど、僕の聖地である場所。


秋葉原へと行くためだ。


僕は日本がブリタニアと戦争をしてから、秋葉原がどうなったかを知らないのだ。
その気になれば、ネットで情報収集し、秋葉原の状況など直ぐにわかる。
しかし、僕はそれができないでいた。僕は心のどこかで恐れていたのだ。秋葉原がどんな状況になっているのかを知ることが。
ブリタニアが日本へと侵略戦争をしたからには、秋葉原も唯ではすまないのは解かっている。
もしかしたら、秋葉原は壊滅しているかもしれない。
頭では解っている。
それでも、僕の心は否定するのだ。
秋葉原が無くなっている訳があるわけ無いと。僕の心は日本との開戦以来、ずっと心の中でわだかまりを持ち続けていたのだ。

そのわだかまりを無くす為に、僕は今日本へと向っている。

でも僕の心配は杞憂であるのかもしれない。
何せあのシブトイ住人達の事だ。
仮に秋葉原が廃墟となったところで、また皆力を合わせて、街を復活させているはずさ!

そんな事よりも僕が今するべきことは、アキバに行ったら、何をするかを考えるべきなのかもな。
先ずはやはり定番のメイド喫茶に行って。
それからBKB48のライブにも行きたいなぁ。そんでもってブフマップ!あとはブニメイト!
あとコスプレ集団と一緒に写真も撮らなくちゃな!

そして何と言ってもメインイベントはウッーウッーウマウマ(゚∀゚)だ!
アキバは街中でもウッーウッーウマウマ(゚∀゚)を道行く人々が踊っているというではないか!

僕はこの日のために、ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)の踊りを密かに練習していたのだ!
この士官学校で淫獣達と戦う為に鍛え抜かれた、僕の肉体で繰り広げるウッーウッーウマウマ(゚∀゚)は半端じゃないぜ?
腰の切れが、我ながら半端ない。
あまりの切れと練習のしすぎで、危うく腰がもう少しで逝っちゃう所だったよ。反省。

先ほどの怒りも何処へやら、僕の心は既に、まだ見ぬアキバへと思いを馳せていた。
このように怒りに満ち溢れた心を癒すとは。
やはりアキバは偉大だ。

いよーし!
テンション上がってきましたよ!今日は楽しくなりそうだぜ!



そしてやはりアキバは偉大だ。
この無表情を地でいくこの僕を、喜びの表情に出させるとは。
そして何故か隣のお姉さんが、そんな僕をみて息を荒げていた。
よくわからんが、これもアキバが成せる業なのか。
アキバ恐るべし。

まあ、いいや!それよりもアキバだ!
アキバ待ってろよー!今僕が行くぜー!





















廃墟でした。


日本に辿り着き、真っ先に向った秋葉原で僕を待ち受けていたのはゴーストタウンと言っても過言ではない廃墟でした。
どっからどうみても廃墟でした。本当にありがとうございました。じゃ無い!

え?嘘でしょ?此処アキバじゃないよね?

あまりの光景に僕の頭が理解することを拒んでいる。

ボロボロになっているビルに住所が書いていたので、読んで見る。
日本語の難しい字。
漢字で書いていたので、全ての住所を理解は出来なかったが、とりあえず秋葉原という文字は確認できた。
如何に外国の言語と言えど、僕がこの秋葉原という文字を間違えるわけが無い。

僕の頭がその現実を受け入れた時、立ちくらみがした。
本能の赴くままに、僕はorzのポーズを取る。


おぉ…う………………マジ………か…よ。


今の僕は絶望の演技だけならば、ブカデミー賞を取れる程の絶望っぷりだ。


メイド喫茶が。


ブニメイトが。


ブフマップが。


BKB48が。


コスプレ集団が。


ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)が。


執事喫茶…………は別にいいや。


何てこった…何てこったィ!
二回言っちゃう位、何てこった!三回言ってるよ僕!

僕の聖地が…エルサレムが!
もう日本は終わりだ!ブリタニアが日本という国を終わらせてしまったんだ!

くぉぉぉぉ…憧れの聖地に足を踏み入れたと言うのに、この絶望は何だ!?
僕は…こんな気持ちを味わうために日本へときたと言うのか!?

何か…。
何か無いのか!?希望は!?
何か残っていないのか!?

まるで夢遊病者のようにフラフラと、危なげに立ち上がり、僕はそこ等を徘徊する。
此処が廃墟で、誰もいない為に、何事も無く徘徊できたが、人通りがあるブリタニアの街でやったなら間違い無く、警官に通報されていただろう。
だが今の僕はそんな事も気にならないほど、何かを探していた。
希望という何かを。

そして僕は見つけた。

しかしそれは希望ではなかった。

其れは壊れた人形の腕。

これだけでは元がどんな人形だったのかは解らない。
しかし僕には解る。
これはブイバーオルタ 完成品フィギュア ブリッドシアター版8分の1サイズの腕だ!

間違いない!僕が惚れこんだ職人が作り上げた芸術品の腕だ!
何てこったい!何てこったいィィ!
嗚呼…あのブクスカリバーを持っていた、威厳と気品が混じった芸術品の腕が!

こんな…こんな姿になっているなんて!?

僕の喉から知らず知らずに嗚咽が出始める。

気が付くと、自分でも知らずに、僕は涙を流していた。
それを自分が自覚した時には既に遅い。
僕は溢れる涙と、喉から絞られた嗚咽を止められずにひたすら泣きじゃくっていた。







■紅月カレン■


私がその少年を見かけたのは全くの偶然だ。


お兄ちゃんが行っているレジスタンス活動に参加しようと、詰め掛けたのはいいが、お兄ちゃんに追い返されてしまったのだ。
お兄ちゃんは私がレジスタンス活動をすることに断固反対しているのだ。
私だってもう戦えるのに!

心の中に苛立ちを持ちながら、家に戻ろうと、ゲットーを通りすぎようとした時。

一人の少年を見つけた。

その身なりや容貌はブリタニア人の者に思われる少年。
白に青みが掛かった綺麗な髪。少女のように整った顔つき。

でも今はその整った顔つきをくしゃくしゃにして、少年は嗚咽を洩らしながら、蹲っている。

それは一人の少年の慟哭。

廃墟とかした街の前に膝を付き、壊れた人形の腕を手に持ちながら少年は涙を流している。

その少年が出すあまりの悲しみ、悲哀に見るもの全てが、心を動かされる。

まるで自分が突如映画の1シーンの中に迷い込んだような錯覚。

もし少年のことを、少しでも知っていたならば、直ぐに駆け寄り、抱きしめていただろう。

でも私は彼の事を知らない。唯の他人だ。私には泣きじゃくる彼を慰める術は無い。

私はその光景を唯見つめ続けていた。

見つめる事しかできなかった。





■アクア・アッシュフォード■



あまりの現実に暫し己を見失っていたが、気が付くと僕の近くに一人の女の子がいることに気が付いた。

お、おっといけねえ。
女の子の前では男の子は涙を見せちゃいけない。
ミレイ姉さんに怒られちまうぜ。

慌てて立ち上がり、顔を袖口で拭う。
相当、泣いていたのか、袖口はビチョビチョになった。
ハンカチ持って来るんだった。

「ねえ待って!」

このまま此処に居たのではあまりに恥ずかしいので、足早に立ち去ろうとする僕に、近くにいた少女が僕に声を掛けてくる。
そのまま無視して立ち去ってもよかったのだが、少女の声が僕の萌えセンサーに引っ掛かる声だったので、ピタリと立ち止まり、少女の方を向く。
少女は赤い髪をした、僕と同い年位の少女であった。
そしてやはり僕の萌えセンサーは大した物だ。
少女は特一級の萌え美少女であった。
勝気そうな釣り上がった瞳や、整った顔つき。スラリとした体型。
将来が物凄く期待できそうな萌え少女だ。

………日本万歳!

「ねえ…少し訊いていい?」

「………何をだい?」

少女の萌えっぷりに、心の中で少女を育んだ日本を賛歌してたら、当の少女に尋ね事をされた。
少女に萌えていて、返答が遅れたのは僕だけの秘密だ。

「どうして…どうして泣いていたの?」

僕の返答を聞いてから、少女は暫し躊躇う様な素振りを見せたが、思い切ってといった感じで僕に尋ねてきた。

しかし、何故泣いていたか。

何とも答え難い質問だ。
まさか、アキバが廃墟となっていた事に加えて、僕のずっと欲しがっていたフィギアのあんまりな姿に涙を流しました。
なんて恥ずかしすぎて言えない。
此処は少し、オブラートに包んだ、大人の答えを返そう。

「大切な…大切な物が、そして大切な人達が此処に居たんだ
でも僕の大切な存在が瓦礫の中へと消えて行った。
だから悲しくて、泣いてしまったんだ」

うん。
僕は嘘を付いていない。

「大切な人達…?
貴方はブリタニア人でしょ!?」

僕の言葉に少女は激昂したように言葉を返してきた。
その問いに頷きを持って、返答する。

僕の頷きを見た、少女は何かを堪えるように俯き、沈黙してしまった。

はてな?何かまずかっただろうか?

何故か少女が、激動を必死に抑えている様に感じる。
例えるならば、嵐の前の静けさといったやつであろうか。

僕の第六感がエマージェンシーを発している。

「ブリタニアが…ブリタニアが奪い去っていったのに!
ブリタニア人の貴方が、日本人の死を悼んだっていうの!?
貴方一体何様のつもりよ!貴方たちが!貴方たちが全てを奪っていったのに!」

俯いていた顔を上げた少女は、更に激昂したように興奮し、唾を飛ばす勢いで僕に生の感情をぶつけて来た。

僕の第六感は大した物だ。
でも今回は当たって欲しくなかった。

こんな事言われても、僕にどないせっちゅーねん!

しかしこの少女は今、僕にとって無視できない言葉を言ったよ。

「日本人だとかブリタニア人なんて関係ない」

うん。我ながら良い台詞。

「そんなことは関係ない。人種なんて彼らや僕達の間には何の問題も無かったんだよ。
僕たちは仲間…いや、家族とすら言っていい繋がりを持っていたんだから」

そう。
萌えに人種なんて関係ない!
そして萌えで繋がった僕たちは皆家族だ!
人類皆兄弟!すばらしい言葉だぜ!


僕の言葉に少女は暫し呆然とした表情を晒していた。
何だろうか?
僕の言葉に感動したのかい?
だったら僕もう帰っていいかな?
今日はいろいろと精神的ダメージが多かったから、とっとと家に帰って、自棄ジュースしたい。
炭酸一杯のコーラが僕を待っているんだよ。


「……ねえ?
貴方、ブリタニアが憎くない?
貴方の大切な家族を奪ったブリタニアが…」

ぽつりと少女が呟いた。

憎い?
ブリタニアが?
そりゃ憎いさ!

「憎いさ。
ブリタニアは僕の大切な物を奪っていったんだから」

改めて考えても、憎悪が沸いて来る。
アキバという至高の文化を破壊し、その文化を伝える住人たちを根絶やしにしたブリタニアが憎いと言わずに何と言うか!

「取り戻したいと思わない?
貴方の大切な何かを?
力があれば、貴方の大切な何かを取り戻せるのよ!
私達と一緒に…」

「………いや、思わないよ」

「な、なぜ!?」

少女は僕の言葉を聞くと、さらに言葉を紡いできた。
その表情は紅顔としてきて、その目は怖いくらいに真剣だ。
なんだか怖くなってきた。
しかも何か私達と一緒にとかって言ってきたよ!この子!
あれか?もしかして宗教か!?宗教の誘いか!?
だとしたらやばい!宗教は本当に怖い!断っておこう!

「一度無くした物は、二度と戻ってこない。
例え、戻ってきたとしても、それは無くした物と似た物であるだけで、無くした物ではないんだ。
確かに力は欲しいよ。でも僕はその力で、無くした物を取り戻すのではなく、僕はその力で僕が持っている大切な何かを守りたい」

うーん。
僕良い事言うなぁ。
勢いで言った台詞だが、中々に心に染みる台詞だ。

そうだ。
無くしたブイバータンは帰ってこない。
それよりも僕の今ある大切な何かの為に僕は生きなければ!

先ずは実家の僕の部屋にあるパソコンだ!
色々とお宝データ満載の僕のパソコンを回収しなければ!
他にも、部屋の至る所に隠している、僕の秘密のちょめちょめも家族に見つかる前に、回収しなければいけないな!
もし見つかったら切腹もんだ!
その為には、さっさと軍人になって、力を付けて功績を取って、とっとと退役しよう!

「……そう。
それが、貴方の道なのね」

少女の問いかけに頷きを持って返答を返す。

すまない。名も知らぬ萌えっ子よ。
僕は君のはまっている宗教には入らないよ。
ノルマが在るのかもしれないけど、別の人を勧誘してくれ。
なーに。君のその萌えっぷりなら、いろんな男が君の萌えにホイホイつられて入団してくれるさ!
僕も危うく入りそうになったしね!

「それじゃ、僕はもう行くよ」

「ま、待って!」

再び立ち去ろうとする僕を引き止める声。
しかし今度は立ち止まらない。
これ以上、宗教に漬かるのはごめんだ。

「貴方の…貴方の名前を教えて!」

歩みを止めない僕の背中に浴びせられる声。
それは懇願が混じった、萌え声であった。
その萌えっぷりに思わず歩みを止めてしまう僕。
僕の意思弱ッ!弱すぎ!

しかし名前かぁ…。
宗教団体にはまっている少女に教えてもいいものだろうか?
なんか教えてしまったら、まずい事に巻き込まれてしまうような…。

少女に背中を向けながら、首だけ少女の方を向く。
視線の先の少女は、瞳にうっすらと涙を滲ませながら、僕の事を意思の篭もった強い視線で見つめていた。
なんか萌えました。

「…アクア」

「え?」

「アクア・アッシュフォード。
それが僕の名前さ」

負けだよ。
僕の負けだよ。君の萌えっぷりには完敗さ。
君の勝利を称えて僕の名前を教えてあげるよ。
でも、悪いことには使わないでね!お願いだから!

「私の名前は、カレン。
紅月カレン。
また何時か会いましょう。アクア」


「…お互いが、気兼ね無く会える立場であったならね」


萌えっ子の名前は紅月カレンだと判明した。
何時か会おう、か。
君が宗教から抜け出されたら、喜んで会いたいものだ。
だから、宗教抜け出せてたら会おう。
そんな意味合いをカッコ良さげに告げる。
今日の僕は役者だ。
大根だけど。

そして今度こそ少女の前から立ち去る。

今日はもう疲れた。アキバもこんな状況だし、暫く日本に滞在する気で居たが、もう帰国しよう。
そして自棄コーラだ。
あの炭酸が僕の心を癒してくれるさ。

ゲットーを照らす夕日が僕の心を癒しくれるように優しく辺りを照らしていた。

夕日乙。







■紅月カレン■


暫し少年は泣きじゃくっていたが、近くにいた私に気付いたようだ。
少年は慌てて立ち上がり、立ち去ろうとしている。

「ねえ待って!」

私はそんな少年を何故か呼び止めていた。
私の言葉に少年は歩み始めた足を止め、私の方を向いてくる。
何処までも透き通った青い瞳が私の事を見つめている。

「ねえ…少し訊いていい?」

「………何をだい?」

何もかも見通すかのように思える瞳に、戸惑いながらの私の言葉に少年は、少し間を開かせてから言葉を返してくれた。
少年も私と話すことに戸惑いがあるのだろうか。
そう考えると、お互いが戸惑っている状況が可笑しかったが、その考えが私の気持ちを少し楽にさせてくれる。
一つ深呼吸とまでは行かないが、大きく息を吸ってから、この言葉を言った。


「どうして…どうして泣いていたの?」












「大切な…大切な物が、そして大切な人達が此処に居たんだ
でも僕の大切な存在が瓦礫の中へと消えて行った。
だから悲しくて、泣いてしまったんだ」


この言葉を聞いたとき、私の心の何かの導火線に火が走ったのを感じた。


「大切な人達…?
貴方はブリタニア人でしょ!?」

私の詰問に少年は頷きで肯定する。
その返答に私は顔を俯いた。
導火線が一気に短くなるのを感じる。


「ブリタニアが…ブリタニアが奪い去っていったのに!
ブリタニア人の貴方が、日本人の死を悼んだっていうの!?
貴方一体何様のつもりよ!貴方たちが!貴方たちが全てを奪っていったのに!」

導火線がゼロになった時、私は自分の心の生の感情を吐き出すのを堪えることができなかった。

私にとってブリタニアは全てを奪って行った悪の国。
そしてブリタニア人はその悪の国に住まう悪人だ。

そのブリタニアの悪人が、この廃墟と化したこの街の住人の死を悲しむ資格など無い!
私は自分の心から溢れ出る醜い感情を抑えることが出来なかった。



「日本人だとかブリタニア人なんて関係ない」

だがその少年は、私の醜い思いを吹き飛ばしてくれる言葉を紡いできた。


「そんなことは関係ない。人種なんて彼らや僕達の間には何の問題も無かったんだよ。
僕たちは仲間…いや、家族とすら言っていい繋がりを持っていたんだから」

そう告げる少年は宛ら、愛を唱える宣教師。
もしくは全ての争いに意を唱える聖者の様に思えた。

そしてこの少年と一緒に行動をしたい。
この穢れ無き聖人のような少年と一緒に居たい。
私の心はその思いで一杯になっていた。

「……ねえ?
貴方、ブリタニアが憎くない?
貴方の大切な家族を奪ったブリタニアが…」


「憎いさ。
ブリタニアは僕の大切な物を奪っていったんだから」

私の言葉に少年は顔を顰めながら言葉を紡ぎ出す。
その言葉に心が喜びに満ち溢れていくのを感じる。
この少年も私と思いは一緒だ!


「取り戻したいと思わない?
貴方の大切な何かを?
力があれば、貴方の大切な何かを取り戻せるのよ!
私達と一緒に…」

「………いや、思わないよ」

私の心はその言葉に、希望が怒りに変わっていくのを感じた。

「な、なぜ!?」

私達と同じ心を持っているのに、何故少年は奪われたものを取り戻そうとしないの!?
やはりこの少年も所詮は私の思い描く、ブリタニア人と一緒ということか!

私の心が身勝手な怒りで一色に染まっていくのを感じる。

私の失望と怒りを混じった視線を向けられた、少年は一度躊躇う様な素振りが見えたが、次の瞬間には決意溢れる視線を私に向けてきた。

「一度無くした物は、二度と戻ってこない。
例え、戻ってきたとしても、それは無くした物と似た物であるだけで、無くした物ではないんだ。
確かに力は欲しいよ。でも僕はその力で、無くした物を取り戻すのではなく、僕はその力で僕が持っている大切な何かを守りたい」

それが少年の出した答え。

大切なものを取り戻したい。
大切なものを守りたい。

たったそれだけの違い。
でもとても大きな違い。


「……そう。
それが、貴方の道なのね」

私の問いに少年は頷きをもって肯定する。


私はこの時、二つの予感を感じた。

その一つは、この少年と同じ道を行く事は無いだろうと云う予感。

唯の予感であったが、不思議とそれは私の中で事実のように心の中に根付いた。

「それじゃ、僕はもう行くよ」

「ま、待って!」

立ち去ろうとする少年を再び呼び止める。
だが、今度は少年は止まらない。

「貴方の…貴方の名前を教えて!」

今まで自分が生きてきた短い人生の中で、このような必死な思いで問いかけた事があっただろうか?
その私の思いを感じてくれたのかわからないが、少年は立ち止まり、首から上だけをこちらの方に向いてくれた。


「…アクア」

「え?」

唐突に告げられた言葉に、私が戸惑いの声を上げる。
そんな私を見て、少年―――アクアは改めて自らの名前を名乗ってくれた。

「アクア・アッシュフォード。
それが僕の名前さ」

アクア・アッシュフォード。
それが彼の名前。

「私の名前は、カレン。
紅月カレン。
また何時か会いましょう。アクア」


「…お互いが、気兼ね無く会える立場であったならね」

私との出会いに、彼も何か思うことが在ったのだろうか。
アクアは意味深な言葉を告げると、今度こそ振り返らずに私の前から立ち去っていった。

夕日が私たちの出会いを祝福するように、そして哀れむように淡く辺りを照らし出す。

私はアクアに感じた予感。
二つの予感が、一つは外れて欲しいと思い、もう一つは当たって欲しい。

そんな相反した思いを浮かべながら、自分の家へと帰っていった。

私の帰る場所へ。







それから何年か経ち、私の名前が戸籍上、紅月カレンからカレン・シュタットフェルトになって暫く経った時、ある一つのニュースがブリタニア全土を賑わせた。

それは皇帝直属の最強の騎士団に、新たな騎士が三人も。
それも三人ともまだ十代という少年少女達が加わると云うニュースだ。

新たに栄光あるナイトオブラウンズとなった者の名前は。

ジノ・ヴァインベルグ。

アーニャ・アールストレイム。

そして―――アクア・アッシュフォード。

テレビでは三人の叙勲式の生放送が流れている。

そのテレビにはあの時、ゲットーで出会った少年が成長した姿を見せていた。

少年は力を手に入れたのだ。

大切な何かを守るための力を。

私の予感の一つ。
少年と同じ道を行く事は無いだろうという予感は当たったのだ。

少年は大切な何かを守るための力を手に入れた。
私はまだ、大切な何かを取り戻す力を手に入れていない。

アクアと私の距離は果てしなく遠かった。




それからまた一年という月日が流れて、私は今アッシュフォード学園という学校に居る。

アクアの家族が理事を勤める学園。

私は其処で病弱なおしとやかなご令嬢の演技を勤めながら、通っていた。

私はゼロという、強力な指導者の元、彼が率いる黒の騎士団と云うレジスタンスに入ることになった。

彼のカリスマや行動力は凄まじいもので、皇族たるクロヴィスすらも倒し、私達黒の騎士団は日本を代表する、レジスタンスとなった。

私は力を手に入れたのだ。

大切な何かを取り戻す為の力を手に入れたのだ。



そして今アッシュフォードの教室で、自分の席に座っている私の視線の先には、一人の転入生が居る。

白に少し青みが掛かった髪。
綺麗な空色の瞳。
女性のように整った顔つき。

戴冠式で見た姿からまた成長した一人の少年の姿があった。

「アクア・アッシュフォードです。
宜しくお願いします」

私の二つの予感。

一つは少年と同じ道を行く事は無いという予感。

そしてもう一つの予感。

いつか私と少年の道は交差するという予感。

今二つの予感が証明されたことを私は心の中で感じた。


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