「あーどうすっかなー千冬姉になんて説明すっかなー殺されねーかなーラウラがやべえなー」
わたくし織斑一夏は、高校一年生にして異国人の婚約者が出来るウルトラCを決めてしまった。
これまでの人生も中々に破天荒な出来栄えでしたが、IS学園に入学してからハチャメチャが押し寄せて来ている気がします。
卒業するときには五体満足でしょうか。むしろ卒業できるのでしょうか。
不安でたまらないイッピーですおはようございます。
「っべーわマジべーわ。血を見る展開しか思い浮かばねーわ。……ラウラの」
口頭で婚約の約束をするってのは考えたんだけど、ねえ?
逃げも隠れもしますが嘘はつきたくない、そんな自分が大好きなイッピーですが自分の首を絞めまくってます。
口約束だけで逃げられる状況ではなかったけれど。
あの兎、カードキーだけでは飽き足らず印鑑も盗んで来やがったんですよ。
押しました。
録画までされました。
動画の中で「自分の意志で捺印した事」を再三確認されました入れ知恵しやがった奴誰だ出てこい!
いや、ラウラ・ボーデヴィッヒが嫌いな訳ではないんだ。
好ましい。むしろ好きだ。
恐らく、ラウラ・ボーデヴィッヒの最たる理解者は織斑一夏であり、織斑一夏の最たる理解者はラウラ・ボーデヴィッヒである。
俺と彼女は一度、ISのコアが形成する不可思議なネットワークにより深く繋がってしまった。
互いが互いの事を憎み、想い、知りたいと願った。
その結果、俺は彼女の過去を覗き、彼女の心を覗き、彼女自身と重なってしまった。
彼女もまた同じく、俺の人生を追体験したであろう。
不自然に思わなかったか?
織斑千冬を起点とした俺達の関係は、たかが半日で反転した。
俺の存在を否定するラウラと、自分の存在を姉の不純物としか認識してない女に腹を立てた俺。
そんな両者が、いっぺんガチでバトっただけでこうも仲良くなるものか?
「でもなー逆に考えてラウラでもなきゃチッピーと仲良くなんて出来ねーからいっそ都合がいい様にも思えてきたなー」
朝焼けの住宅街は車一台通らない。
こんな時間にIS学園のジャージを着てうろついているのを見つかったら、暇なご近所様に長話されてしまうのでこっそり移動する。
俺に彼女が出来て結婚を考えた末に親的存在なお姉様に紹介するシミュレーションをするが、なぜか紹介した彼女の上半身と下半身がオサラバした絵面しか浮かんでこない。
ラウラなら知らない仲でもないし、チッピーを心酔してるし、何より勝てるかは置いといて戦える。もし姉が不当な決断を押し付けようとしても、二人で抗えるってのは大きい。
今気づいてしまったんだけど、これラウラの一人勝ちじゃない?
希少価値の高い男をゲットし、敬愛する女性と血縁になってる?
「してやられたか? 流れ変わっちゃったか? バイブス下がるわー」
閑散とした裏路地は風すら吹かない。
ラウラ・ボーデヴィッヒ(+黒兎隊)の協力のもあり、なんとかIS学園を脱出した俺は、とあるヤボ用のため実家へ足を向けた。
山田先生の処罰については考えたくない。
学園のおえら様方にお叱りを受け泣いてるマヤちゃんの姿は浮かばない。
浮かばないったら浮かばない。
朝靄に紛れること一時間強。結局ISはパクッてこれず学園から追手が来ると即終了のお知らせなのでコソコソと行動している。
ご近所さんに見つからぬよう、裏手裏手を選んだ。
この辺一帯は非常に仲良しさんな地区なので、朝早いとはいえ世間話で時間を取られてしまう恐れがあるから会わないよう注意している。
あの赤いポストを右に曲がって、少し行ったらマイホームだ。
長居をするつもりはないけれど、疲れた体は休息を、安心を求めている。
呆けるつもりはないが、緊張をとかないと、たぶんもたない。
心なしか早足になるのを押さえず、俺は織斑亭の敷地前に辿り着いた。
そして、言葉に詰まる。
元、織斑亭と云うべきか。
織斑亭跡地と云うべきか。
言葉にするには簡単すぎて、言葉にしてしまうには呆気なさすぎて。
「―――っえ?」
そこには、俺の家が無かった。
産まれてこの方、離れたことなどない我が家。
あ、嘘ですIS学園入学からこっち数か月離れてました。
「なんの冗談だよ、おい」
異常な光景だった。
異様な光景だった。
まるで、家の敷地面積とピッタリな鉄の立方体を上から落として一切合財押し潰したみたいな感じになっていた。
家が、なかった。
瓦礫と木材とコンクリがペチャンコになって絨毯を形成している様は圧巻だった。
「なんの冗談だよ、ド畜生」
何をやったのかは見当も付かないけれど、誰がやったのかは検討する余地すらない。
そんなに。そんなに。そんなに。
そんなに、煩わしかったのかよ。
そんなに、重荷だったのかよ。
アンタに取っては、ガラクタにしてしまいた程、憎いものだったのかよ。
分かるよ。
これは、この家は呪縛だった。
アンタの生き方を余儀なくする、呪いだったさ。
たかが血縁なだけのクソガキを一匹、育てなければならないって呪いだったさ。
それでも、それでもさ。
アンタは選んでくれたんじゃなかったのかよ。
嫌だったかも知れない。嫌いだったかも知れない。
それでも。
アンタは、俺と生きることを選んでくれたんじゃなかったのかよ。
瓦礫と共に崩れたのは、思い出だ。
この家に住んでた、俺と彼女の思い出だ。
それを、こんなにも簡単に、壊しやがった。
俺との思い出なんて、俺の存在なんて要らないって。
コレは、そういう表明だ。
敷地の真ん中まで歩く。
まばらに除く、生活の残滓。
カーテンだったり、家電だったり。
たまに見えてしまうそれらは、どれ一つ俺の記憶から欠けてはいない。
それは有って当然の、俺と彼女の生活の一部だったのだから。
泣きはしない。喚きもしない。
悲しいだけだ。辛いだけだ。それだけだ。
重い重い石みたいなしこりが、俺の心にずんと残った。
それだけだ。
誰かが死んだ訳じゃない。たかが物が壊れただけだ。それだけだ。
なのになぜ、こんなに胸が苦しいのだろう。
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篠ノ之家の宝刀。
それは篠ノ之流を継ぐ篠ノ之箒に託された刀であり、もし箒が浮かんで消える憎いアンチクショウの顔を捌いて捌いて捌こうとするならば、まず間違いなく持参するであろう武器だ。
だから持ってきた。きっと恐らく、キーになるだろうと思って。
織斑家の敷地、その中央にて。
コンクリートと金属と、ガラクタの上。そっから見える隙間を狙い。
刀を抜いて、地面に突き刺した。
世界中の誰よりずっと熱い夢、じゃなくて。
世界中の誰よりずっと有名で、世界中から探されている女性が居る。
その女性は各国が行方を追っているにも関わらず『何故』か見つからない。
見つからないのだ。
俺が思うに、見つからないのは『誰も探さない場所に居る』からだ。
誰も探さない場所ってのは案外たくさんあって。
首相官邸だったり。
秘匿な軍部だったり。
IS学園だったり。
探す必要がない、もしくは自由に探せない。そういう思考の落とし穴に人を嵌め、意地悪く笑う女性の笑みを、俺は容易に想像できる。
そう、例えば『警護する必要のない重要人物』だったり『その女性と旧知の中でマークされて当然』だったり『実は監視するには政治的社会的に扱いが難しい立場』だったり『機嫌を損ねると大事になってしまう人種』だったりする人のご自宅なんか、まさにそうだと思いますよ。
証拠はないけど、確信はある。
イベントごとの出現があまりにタイムリーなんだよ。
此処じゃないなんて、いっそありえねーだろ。
あとは、どう開くか。
正直、分からん。
分からないけど、この刀が今ここに有る事実を感知させればいいのだ。
そうすれば、歓迎される。
あの人は心底、妹様の到着を心待ちにしてるのだから。
「いい加減気付けよKYラビット通報されたらどうすんだ、ああ! ……ぁあ?」
パカリと細かすぎて伝わらないモ○マネっぽく地面に穴が開き、足場がなくなる。
一秒にも満たない無重力の後、俺は手に持ってた刀を投げ捨てた。
慌てるあまり全力でどっか投げたが、近くには誰もいなかったので大丈夫だろう。
それよりも、自分の心配だ。
暗い暗い底の見えない奈落の穴に、吸い込まれて―――
「いてぇ!」
案外3メートルもない高さにビビり満足に設置することに失敗した。
ケツまでぶつけたぞどうしてくれる。
全国ウン万人の俺の尻のファンになんと詫び、いやファンとかいません。むしろいりません。ホモは滅びろ。
材質が分からないやけにツヤツヤした物質で四角柱に構成された通路だ。
広さはISがやっとこさ通れる程度だろうか。前後に道があり、どちらも20メートル進んだ時点で折れている。
どちらに進むか、いっそ進まないか。
特に案内もなければ、判断材料になりそうな音もない。
きっと箒にだけ解かる目印か何かがあるんだろう。
そりゃあ箒ちゃんと束姉の関係だ。俺にゃ関係ないし、解からんさ。
けれど、目を閉じて深呼吸すれば。
「……こっちだ」
ずきりと、小さな頭痛がした。
俺は行きたくない方に足を動かす。
視界が少しだけ眩むけど、行かなきゃならんのだよ。
後ろに40歩、右手に折れ曲がる。
さっきの倍はありそうな長さの通路の先で、突っ立ってる女がいる。
瞑想し、集中している。
―――否、頭痛を我慢している。
ずきりと、一際頭痛が増した。
確信が認識に変わり、歩数を重ねるたびに痛みは増していく。
奴と目が合う。頭痛が増した。
奴が腕を解いた。頭痛が増した。
奴が歩き出した。頭痛が増した。
「どれだけ」
「どれだけ貴様が、あの人からの幸福に甘えていたか」
聲。
気に入らない、聲
「愚鈍な貴様でも、失えば享受していた物の大きさに気が付けたか」
貌。
気に入らない、貌
「居場所を無くし、家族を失い、女を奪われた」
気に入らない。
存在すべてが気に入らない。
「実によろしい。傑作だ。役者が良い至高と信ずる」
生理的に駄目な訳ではない。
至極個人的に、奴の生存を許せないだけだ。
「誰もが。世界までもが、貴様の絶望を祝福している」
どっかで聞いたことがある語彙の少なそうな言葉だが、言わずには居られないのだろう。
我慢が出来ないのはお互い様だ。
俺も今は、お前が殴りたくて仕方がない。
長い長い通路の先で、目を閉じ腕を組みながら壁に寄りかかって俺を待っていた女。
そうだな。
ちょうどイイぜ、お前。
「日の届かぬこの地下で、最後に醜く這いずり回って死ね。なあに心配いらんよ。貴様が苦しみ悶え死に絶える姿は私が看取ってやろう」
肩慣らしには。
前哨戦には。
準備運動には。
憂さ晴らしには。
お前程度が、調度良い。
「敗北をくれてやる。終焉をくれてやる。貴様を終わらせてやろう」
飛んできたのは手袋だ。
黒い手袋は俺にあたり、地面に落ちた。
それは、決闘の作法。
ハッ!
お行儀よく、お高く止まってんじゃねえ。
決闘? バッカじゃねえの。
温いんだよ、クソガキ。
「―――名乗れよ」
なに眉根を寄せてやがる。
戦の作法も知らねえか?
「前口上が煩えんだよクソが。御託くっちゃべって悦浸ってんじゃねえよオナニスト。
テメーを障害だと認めてやる。テメーを俺の『倒すべき敵』だと認識してやる。だから、」
ジャージの肩口についている校章を引き千切り、地面に落ちている手袋に叩きつけた。
「名乗れよ、テメーの『誇り(プライド)』を」
その上から踵で憎々しさを込め踏みつけ苛立ちのままに踏み躙る。
「賭けろよ、テメーの渇望を」
見据えた女は、はじめて、笑った。
嘲笑ではなく、失笑でもなく。
俺を前に、笑った。
「元亡国機業、オリムラ マドカ。私の全てを取り戻す為、貴様を殺す」
マドカ。
マドカねえ。
円夏。
繰り返される夏。巡り来る夏。
千の冬に、円(まわ)る夏。
永遠の冬に寄り添う、対の存在。
いい名だ。
イカす名前じゃねえか。
あの人と並び立つに相応しい、とびっきりの名前。
だけど。
けれども。
それでも。
並び立つだけじゃダメなんだ。
並び立ったって、一人が二人になるだけだ。
孤立したままなんだ。
それは冬のままなんだ。
ずっと続く冬は、悲し過ぎるだろ。
永遠の冬なんて、寂し過ぎるだろ。
ただ強いだけで、世界最強を強いられる女なんて、辛過ぎんだろ。
「IS学園、一年一組筆頭、『織斑 一夏』。
―――テメーが気に入らねえから、ぶっ飛ばす!」
夏とは閃光であり、灼熱であり、生命のなんたるかを焼きつかせる『瞬間』だ。
回ってどうすんだよ。突き抜けてこその夏だろうがよ。
そう、云うなれば。
『千の冬をも破却する、一度だけの夏』
なんだよ、やっぱり俺の名前って―――最高じゃん。
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リハビリがてらに。
あまりに間を置いているせいか煽られるので
取りあえずキリの良い所で更新を。
ぶったぎった関係で短い分次回は早めに
いけるとは思いますです。
感想とか書いてモチベ上げやがれください。
もしくはモチベ上がる作品を誰か書きやがれ
ください。
それでは遅くなりましたが、よろしければ
新年度も皆様息災に人生お楽しみください。
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