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No.32851の一覧
[0] IS Inside/Saddo[真下屋](2012/10/30 23:14)
[1] RED HOT[真下屋](2012/05/31 23:39)
[2] Adrenaline[真下屋](2013/05/05 00:27)
[3] 裏切りの夕焼け/コンプリケイション[真下屋](2016/01/25 20:55)
[4] BLOOD on FIRE[真下屋](2012/04/22 13:59)
[6] チェックメイト[真下屋](2012/05/02 02:17)
[8] ポリリズム[真下屋](2012/05/06 13:24)
[10] Hollow[真下屋](2012/05/06 13:24)
[13] (前)LOST AND FOUND[真下屋](2012/05/08 23:38)
[14] (後)アンサイズニア[真下屋](2015/05/31 21:16)
[15] Groovin’s Magic[真下屋](2012/05/15 01:31)
[16] Butterfly Swimmer[真下屋](2012/06/07 07:59)
[17] アダルトスーツ[真下屋](2013/05/05 00:28)
[18] スクールバス/瞳[真下屋](2012/06/21 00:41)
[19] 恋ノアイボウ心ノクピド[真下屋](2012/07/07 23:37)
[20] 遠雷[真下屋](2015/05/31 21:10)
[21] Re;make[真下屋](2012/08/23 20:55)
[22] Holidays of seventeen # Sanfrancisco Blues[真下屋](2016/04/13 00:43)
[24] Holidays of seventeen # Tell Me How You Feel[真下屋](2012/09/23 17:54)
[25] Holidays of seventeen # You & Me[真下屋](2015/05/31 21:12)
[26] OutLine:君の街まで[真下屋](2012/06/21 00:41)
[27] OutLine:believe me[真下屋](2012/08/13 23:29)
[28] OutLine:Cross Illusion[真下屋](2012/08/28 00:57)
[29] (前)存在証明[真下屋](2012/11/07 19:33)
[30] (中)Killer Likes Candy[真下屋](2013/10/25 01:29)
[31] (後)メアリーと遊園地[真下屋](2012/11/15 21:49)
[32] WINDOW開ける[真下屋](2012/11/15 21:47)
[33] 名前のない怪物[真下屋](2012/12/19 00:55)
[34] [筆休め、中書] [真下屋](2013/10/25 01:29)
[35] SideLine:(前) Paper-craft[真下屋](2013/01/19 13:13)
[36] SideLine:(中) とある竜の恋の歌[真下屋](2013/03/24 23:44)
[37] SideLine:(後) The Kids Aren't Alright[真下屋](2013/04/14 08:22)
[38] SideLine:(終) All I Want In This World[真下屋](2013/06/01 21:21)
[41] HofS:箱庭ロックショー[真下屋](2015/05/31 21:19)
[42] My Happy Ending[真下屋](2013/10/25 01:01)
[43] (前)100%[真下屋](2014/08/14 23:34)
[44] (中)The Hell Song[真下屋](2014/08/14 23:33)
[45] (後)Sick of it[真下屋](2014/08/15 00:33)
[46] Fight For Liberty[真下屋](2014/08/24 17:59)
[47] OutLine:Sheep[真下屋](2015/01/17 23:44)
[48] distance[真下屋](2015/05/31 21:30)
[49] OutLine:拝啓、ツラツストラ[真下屋](2015/11/30 23:35)
[50] House of Wolves[真下屋](2016/03/27 20:28)
[51] OutLine-SSBS:空っぽの空に潰される[真下屋](2016/04/13 00:18)
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[32851] Fight For Liberty
Name: 真下屋◆8b7c8ad0 ID:50ed17ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/24 17:59



 世界的重要人物である織斑一夏は、仏国から日本に対し恩を売る形で秘密裏に渡された。
 お宅の学生さんやんちゃですねえオーストラリア海域で遊泳を楽しんでましたよハハハ男の子にはたまにはあることでしょう心配せずとも国連には黙っておきますよええお気になさらず、みたいなやり取りがあったらしい。
 デュノア社長はあっさりと俺をIS学園へ引き渡し帰って行った。
 色々と相談したいこととか、お願いごとがあったが一蹴どころか説教までされ、丁重にポイ捨てされたのだ。
 『イッピー・26の秘密』その10、『媚び媚びイッピー』まで出したが通用しなかった。
 いえ、アラフォーのおっさんに通じるとは始めから思ってませんでしたけどね。

 恥を惜しむ暇もなく帰ってまいりましたIS学園。
 到着したのが夜中だったので、安否確認のみされて有無を言わさず自室に突っ込まれました。
 フランシィ教諭、事務口調でしか会話してくれなかったのが悲しかったです。
 
 真夜中アリーナinIS学園、寄宿舎に関する説明を開始する。
 各国の国家発展を担う若者が寝泊まりするこの建物だが、少々特殊なセキュリティがなされている。
 年頃の乙女とのこともあって、プライバシーを尊重した作りだ。
 出入り口、廊下、窓、食堂、倉庫に監視カメラがあり、監視カメラのチェックは機械、誰かさんが暇潰しに組んだなんとか要人防護システムが行っている。
 破砕音や大声、悲鳴、不審な行動に対してアラートを鳴らし、それを寮長が実際に確認する流れだった。
 寮長、織斑先生が。
 
 ここで重要なのが、織斑先生は不在だ。
 もしかしたら代理が立っているかも知れないけれど、それは織斑先生ではない。
 なら、今からする賭けの勝率は非常に高い。

 時刻は深夜、二時前に差し掛かる。
 明日になれば俺は、教師陣に査問にかけられることだろう。
 事態を認識したIS学園は俺と箒ちゃんの行動を重く受け止め、何らかの処罰を与える可能性が高い。
 そしたらもうゲームセットだ。全ての決着が着くまで、俺は行動を制限される。
 
 今しか無い。
 きっと俺が自由に動ける時間ってのは、今しか無いのだ。
 なら、やっちまおう。

 最低限の荷物に持ち、ISスーツの上に黒のスウェットを身に着ける。
 部屋の照明は二十四時からずっと落としており、窓は開け放ったままだ。
 さて、動くと決めたら後は時間との勝負。
 いっちょやってやりましょう!

 高所避難用の縄梯子を窓から放り投げ、俺はサッシに手をかける。
 窓の外へと飛んだ俺は中空で体を反転させ、縄梯子をスライドしながら地面へ落下する。
 地面付近でブレーキをかけ、花壇へ着地した。 
 およそ十秒の早業だった。 
 
 そのまま校舎へとスニーキングをスタートする。
 いやスニーキングとかしてる場合じゃねえたぶんアラート鳴ってるからさっさと行かなきゃ。
 踏み潰してしまった花にだけ、走りながら心の中で謝った。


                                    

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 いつもと雰囲気の違う校舎を走り抜け、目標地点へ到達した。
 玄関から教室を通過し渡り廊下を抜け更衣室からアリーナの間にある―――格納庫へと。
 見回りの先生に捕まるかと思ったが、上手くいったみたいだ。
 
 打鉄、ラファール、テンペスタ、整然と並べられた機体。
 お目当ては部屋の手前にはない。
 それは訓練機ではないから、邪魔にならない隅っこの個人スペースに鎮座している。
 永らく未完成だった第三世代機。
 先日の大会で一部機能が完成してないながらも、準決勝まで勝ち上った有力株。
 未完成って話も、夜な夜な完成に向けてあの子が頑張ってるって話も聞いてたからあると思ったぜ?
 倉持技研の隠し球、傑作機『打鉄』の発展型、―――打鉄弐式。

 ガレージに直立する姿を見詰めるが、イイ機体だ。
 装甲に触れる。
 初期化(フィッティング)と最適化(パーソナライズ)されているのでちょっと癖がありそうだが、それでも俺なら纏える。
 再初期化(フォーマット)をする時間はないので、このまま持っていってどっかで済ませよう。
 目玉武装である山嵐はやっぱり未完成で、物自体は出来てるが俺には扱えないだろう。
 それでも近接用兵装「夢現」と射撃武装「春雷」は載っているので、弐式の機体性能も踏まえて考えると、そこいらの訓練機に比べれば破格ではある。
 
 謝る。
 4組の代表、更科簪さんに、謝る。
 全部終わったらちゃんと謝罪に伺います。
 更科さんもだけど、これから迷惑をかける人に、謝ります。
 悪いと思ってる
 だけど、我を通します。
 ごめんなさい。

「動かないでください」

 背後から掛けられた声の主を、俺は知っている。
 その声色は、初めての物で戸惑ってしまったけれど。

「ISから手を離し、ゆっくりこちらを向いてください」

 いつも穏やかで生徒に好かれている副担任の姿はなかった。
 代わりに、無常で張り詰めた顔をしている熟練ランナー、元代表候補性「山田真耶」の姿があった。

「従わなければ、力尽くで確保します」

 ラファール・リバイブを装着しアサルトライフルを俺に照準している。
 どれだけ卓越した技能があれば、無音でISを運用し俺の背後を取れるのか。
 校舎のような狭い環境で運用するのは難しいのだ。まして何処にも接触せず、物音ひとつ立てずに移動するなんて、トップランナーも真っ青な腕をしてやがる。
 あと気配に敏感な俺の設定どこいった。そんなに集中してたのかよ気付けよ馬鹿。
 
「山田先生、見逃してくれません?」

「出来ません」

 向き直るも打鉄弐式から手は離さない。
 とっくに俺とコイツのリンクは繋がっている。
 触れてさえいれば、一秒とかからず纏うことが可能だ。

「教師が生徒に銃を向けるってのは、中々センセーションな事件だと思うんですけど」

「止む無し、です。今の私は山田真耶個人として動いてます。教師失格と罵られても甘んじて受けましょう」

「先生、どうしても譲れないですよ。やらなきゃいけない事があるんです。
 他の誰でもない、俺じゃないといけない事があるんです。
 行かせてください。お願いします」 

「行かせません。教師としての私は、貴方の意思を尊重したいと思います。
 織斑君は優しい子です。人を思い遣れる子です。そんな子がそこまで言っているんです。
 それでも私は、私の意思を通します」

 だって、約束しましたから。
 そう、山田真耶は呟いた。
 
 もし自分に何かあったら、一夏は飛び出すだろう。
 絶対に無理をするから、止めて欲しいんだ。
 きっとアイツが本気になったら、そう簡単に止められない。
 だから、山田くんに頼みたい。

 約束したんです。織斑先輩と。

「恋する乙女かっつーの。そんなんだから彼氏できなんですよ真耶ちゃん」

「それはお互い様じゃないですか? あんな素敵なお姉さんがいたら彼女なんてできないでしょう?」 

「アッハイ、ソウデスネー」

「え、いるんですか彼女! 不純異性交遊はダメですからね!」

 想像したのか、ちょっと顔を赤くする真耶ちゃん。
 かわいいなあおい。反応が初々しいんだけど、まさかハタチ超えて処女ってのはねーよなさすがに。
 
「さて、交渉決裂だ」

「ええ、そうなると思ってましたけど」

 クスリと笑う。
 俺はそっちが折れてくれるのを期待してたんだよ。
 
「なあ、本番に弱いアンタが、この追い詰められた俺の状況、正しく土壇場な俺を止められるのか?
 おい、手が震えてるぜ? そりゃ手も震えるか。生徒に銃向けてるんだもんな。
 殺すかも知れないもんな。命がかかってるもんな。俺も、アンタも」

「止めます。無傷で止めてみせます。私、先生ですから」

 入学したての頃、彼女が云ってくれた言葉を思い出す。
「なんでも訊いてくださいね? 私、先生ですから」
 この女も本物かよ。ブレねえなあ。
 立派に先生してるじゃん、この人。

 ああ、良かった。
 俺、この学校きて良かったわ。


「通してもらうぜ。成すべきことがあって、叶えるべき夢があって、通すべき意地があって、
 ―――止めなきゃならない人が居る。引っ込んでろ、アンタじゃ役不足だ」

「私の独断で、貴方を全てが解決まで拘束します。全部解決した後には、警察に行くなり訴えるなり好きにしてください」

 んなこと言われたら訴えるなんてできるわきゃないじゃん。
 だから其処、通るぜ。
 止めれるもんなら、止めてみろや! 

 

                        
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 まことしやかな噂話だ。
 IS学園の地下には、独房がある。
 それは重要人物を保護したり、危険人物を監禁したりすることが目的とされている。
 もし事実だった場合、ちょっと生意気で自分勝手な一般学生をガチ拘束する為の設備では決してないと声を大にして言いたい。
 イッピー知ってるよ。親指用の手錠があって外そうと無理すると指めっちゃ痛くて抵抗の意欲が減衰する。イッピー知りたくなかったよ!
 なんだよ高校生で手錠されるってどんな人生だよ。
 あ、そういや中学時代もあったわ。

 にしても、上手かった。
 強いのは当然として、才能(センス)ではなく技能(スキル)で手も足もでないレベルに圧倒された。
 以前、入学したての俺はPICを手動で操作するメリットを山田先生に質問した。
 今日、その回答を目の当たりにしたぜ。
 ラピッドスイッチ、という技術がある。
 格納と展開を高速で行うことで、瞬時に武装を切り替えるってやつだ。
 山田先生は、PICでショットガンの反動を消しながら弾倉のみを交換していた。
 銃器を変えたら、照準し直す必要がある。格納し、展開し、構え、照準し、やっと射撃に移れる。
 ならば、武器を変えなければ?
 リロードの隙はなく、弾の種類によって最適化した距離を選択し、鉄風雷火のガンパレードで攻めてくるのだ。
 いやいや、ボロ負けしたよ。 

 山田先生にコテンパンにされて、学園地下に連行され精神病患者が入れられるっぽい部屋に入りました。
 手錠がベッド頭部側のずれ落ち防止用のパイプを跨いでおり、一切の自由がない状態です。
 俺の尊厳の為、トイレはどうすればと質問した所、

「責任持って先生がキレイにしますから……」

 とか頬染めて言いやがった。
 みんな大好き山田先生は、異常性職者だったのだ。
 やべぇ、やべえよ……。
 年下の男の子を監禁・拘束し下の世話したがるなんてどんだけモテなかったんだよ山田先生。
 完璧に幼女監禁しそうな犯罪者と同じ嗜好だよ山田先生。

 山田先生は夜も遅かったので、部屋に戻って行った。
 ぶっちゃけ朝までこの牢屋に一緒に居るつもりなのかと戦々恐々していた。
 寝不足と戦闘による高揚、特殊環境下におけるストレス。
 どんなプレイを強要されるのかと、俺は冷や汗が止まらなかったのだ。

 もぞもぞと、小まめに体勢を変える。
 ベッドにバンザイした状態で固定されているので、寝返りもまともにうてない。
 手錠して、ましてそれをベッドのパイプを通して自由を奪うなんて、やり過ぎにも程があんだろ。
 このまま寝て起きたら体バッキバキですよ絶対。
 全然、眠くはないんだけどさ。

 俺は、負けた。
 学園が襲われたとき負けて、箒ちゃんと一緒だったのに負けて、山田先生に負けて。
 負けて負けて負けっぱなし。
 敗北に次ぐ敗北。
 こんなんで、何を為すってんだ。
 こんなんで、何が為せるってんだ。

「たすけて」

 知らず、声が出ていた。
 その言葉の意味を、俺は理解できなかった。

 何をすればいい。
 どうすればいい。
 分からない。分からない。分からないのだ。
 人は、なんでもはできない。
 出来ることを、やるだけだ。

 だけど、出来ることじゃどうしようもなかった時、どうすればいい?

「たすけて」

 考えて、自分に取れる最善を執行する。
 そうしたつもりだ。
 足りないものは、なんだ?
 俺には何が、足りてない?

「だれか」
 
 考えがまとまらないのは何故だ。
 誰の所為だ。
 何が原因だ。
 アタマん中がぐっちゃぐちゃになりながら、自問する。

「たすけて」

 勝手に零れる自分の泣き言だけは、聞こえていないフリをした。


 

                        
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 精神的に疲れていのだろう。
 夢うつつなまま次に目を開けた時、それはいつぞやの砂浜だった。

 高い空、抜けるような青。
 押し返さない波と、灘の海。
 半球状の地平線、沈まない太陽。
 存在し得ない、空想世界。

 その中心に、彼女は居た。

 白の彼女は全身に包帯を巻き、血を滲ませている。
 なんでなんて、問いかけるだけ無駄だろう。 
 その姿を見て、俺は。

「勝手しやがって、馬鹿野郎、間抜け、格好つけ、―――ありがとう」

 言いたいことだけ、口にした。 
 そしたら彼女は、にへらと笑顔になった。

 彼女に返せる物は、なんなのか。そういや、彼女の名前はなんなのさ?

「なあ、お前の名前は?」

「ない!」
 
 胸を張って言い切ることじゃねーよ。なんだそりゃ。
 名前が無いってのは、辛い。
 自分を立たせる骨が無いってことだ。
 俺は、その辛さを知っている。

 だから、名前をあげる。

 染まらぬ純白。
 揺るがぬ純銀。
 究極の一にして、至高の白。
 ただ唯一の、最も貴き祖。
 雪のような彼女に、送る名は。

「唯貴」

 キョトンとしている彼女を置いといて、勝手に納得する。
 うん、いい名前じゃないでしょうか。

「唯貴って呼ぶよ、お前のこと。ありがとう、唯貴」

 まだ固まったままの彼女を放置して、俺は本チャンの用事へ構える。
 さて、居るかな?
 おっ、浮いてる浮いてる。居るじゃん。
 波打ち際に漂う、「織斑一夏」と相対する。

 ピクリとも動きもしないソイツの近くに寄った。
 真横に立って、軽く蹴っ飛ばしてみる。固いんだけどなにこれ蝋人形?
 
「なあ。今さ、困ってんだよ。鈴が怪我して、箒と千冬姉が攫われて。
 友達もさ、いっぱい傷付いて。もうなんなんだよ、って感じだ。
 しかも放っておけば、俺の姉は戦闘を繰り返して、きっと誰かを殺しちまう」

 たぶん、織斑千冬は誰にも止められない。
 アンタも、そう思うだろ。

「嫌なんだよ。耐えられないんだよ。見過ごせないんだよ。認められないんだよ。
 なあ、教えてくれよ。お前なら、なんとか出来るんだろ」

 英雄のお前なら
 主人公のお前なら
 主役のお前なら
 皆を、救えるんだろ?
 
 理由もなくISが操縦できて。
 理由もなく代表候補性と互角の戦いができて。
 理由もなく誰からも愛されて。
 理由もなく、織斑千冬にも勝てるんだろ?

 織斑一夏(かのうせい)の、お前ならさ。

「消えたくない。死にたくない。だけど、それ以上にヤな事があるんだ。
 アンタに取っても、大事な人ばかりだろ? 救いたくて救いたくて、仕方がないだろう?
 だから、くれてやるよ」

 『織斑いっぴー(オレ)』は、『織斑一夏(カノウセイ)』にこの存在をくれてやる。
 もう、八方塞だから。
 負けて、奪われて、壊されて、捕えられて、ドン底だから。
 どうにも出来ないんだ。
 だけど、お前なら理由もなく何とか出来るんだろう。
 詰みかけのこんなシチュエーションだけど、何とかなるんだろ。
 だったら、いいや。
 

 アンタが俺に代わって、この世界に風穴を―――


 風穴が開いたのは、織斑一夏の胸だった。
 
「唯貴、さん?」

 そこには純白の少女が、俺と同じ顔した男にぐっさりと雪片弐型を突き刺しておりました。
 アレ、なんだか胸が痛いよママン。
 残像だ……。
 イッピー知ってるよ! 実体だよ! イッピー知ってるよ!

「織斑一夏なんか、いらない」

 ぐっさり深々と刺さったソード雪片さんがグリグリされて穴を広げていく。
 辞めて辞めて辞め辞め辞め痛い痛いイタイイタイ
 ざっくりがっつり貫通してらっしゃるなにこれスプラッター。

「イチカがいるから、いっぴーがいるから、いらない。千冬も、こいつも、いらない」

 いらないからって殺すなよ意味わかんねーよ犯人はヤス。
 サラサラと光の粒子となって消えていく織斑一夏(カノウセイ)。
 ああ、俺の可能性が! この人でなしっ!

「いっぴー、名前くれたもん。だから、他には―――何もいらない」

 いや、要るのはアンタじゃねえよ、俺だよ!
 なんでキメ顔してんだよ。
 ああ、消えていく、消えていく、俺のポッシビリティー。
 敵うと決めつけ背を向けた俺だけの無限のポッシビリティーは無限ポップする雑魚みたいなエフェクトで消失した。

「もうわたしは道具なんかじゃない。舞台措置(アイテム)なんかじゃない。
 わたしは、『唯貴』だ。だからもう、いらない」

 気に入ったのなら、それは嬉しいんだけどさ。
 嬉しいんだけどね。
 なんばしよんねんアンタ……。

 「イチカ、今度は一緒に死んであげるから、私の『 』を取りに行こう!」
 
 手を引っ張る彼女は、希望いっぱいに輝いていた。
 待ってやだよ死にたくないんだけど。
 え、つまりはどういうことだってばよ―――



                        
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 人の気配を感じた。
 山田先生が来たのか?
 妙にフラフラする頭をふり、覚醒を促す。
 起きろよ、そろそろ膀胱がやばいんだろ漏らす前にお願いしないと凌辱ルート入るぞ。

 手が自由でないので、肩に顔をこすりつけ拭う。
 すると、ドイツ軍人様が鎮座していらしました。


「おい嫁、見舞いにこないからこちらから来てやったぞ?」

「……ええ、忘れておりませんでしたとも。全くもって忘れておりませんでしたとも」


 学園襲撃の際に愛機レーゲンを大破するも、命からがらなんとか逃げ切った職業軍人様がそこにはいらしたのでした。
 大怪我はないと聞いていたが、元気そうでなによりだ。

「この部屋、かなりセキュリティレベル高い筈だけど」

「ピッキングは得意でな」

「カードキータイプだよバカちん」

「冗談だ。どこでも一緒だが、こういった重要施設へのアクセスと言うのは、管理の都合上おのおのに厳しく制限が設けられる。
 此処でいうなれば教員用のカードキーだ。このカードキーにて入室は制限されるし、ログが残る仕組みだ。
 ただし、だからこそ事故が多い。ヒューマンエラーによって起こり得る事故により、な」

 指に挟んだカードをこれ見よがしにみせつける。
 独房まで入れる高い権限を持つキー。
 ヒューマンエラー、運用上のミス。

「ごちゃごちゃ言ってるけど、教員からキーをギッてきたのね、お前」

「これも、嫁に会いたい一心で」

「その盗まれた先生って、大丈夫なの?」

 生徒にキー盗まれるとか大問題だと思うんだけど。
 下手すると退職だろやばくね?

「教官のキーだ。だから大丈夫だろ」

 あ、なーるほど。
 だからヒューマンエラーね。
 本来、キーを使えなくしておく必要があったけどしてないのか。

「ってオイ大丈夫じゃねえよ! テメー俺の姉になんか恨みでもあんのかコラ!」

「感謝しかないが?」

 そうかい。
 まあ居ない人間に責任はないだろうし、結局管理の責任者が問われるだけだからいいか。
 いやよくねーけど。一先ず置いておこう。
 
「とりま、いいから手錠外してくれよ」

「拘束されている嫁も、中々にそそるな……」

「おいギラギラした目でみてんなよ。強姦、ダメ絶対。手をワキワキさせるなホント辞めてちょ来るな来るな来るなっつってんだろ!
 それ以上近寄るなマジなんなのキミ」

「怯えつつも強がる嫁が可愛いぞ共白髪まで添い遂げようではないかフフフ」

「誰か警察を! もしくは黄色い救急車を至急! 直ちにお願いします!」

 十六歳の女の子にオモチャにされ半泣きで公的機関に助けを求める男子高校生の姿が、そこにはあった。
 というか、俺だった。
 イッピー知ってるよ。人は体の自由が効かない状態に置かれると、恐怖心が倍増するって、嘘ですイッピー今知ったよ!

「まじめに人呼ぶぞ?」

「呼んでみろ。私は問答無用で捕まるだろうが、お前はもう絶対に解決まで逃げ出すことは出来なくなる」

「…………」

 なにコイツ。
 なんで状況理解してんの?

「助けてと云っただろう? だから、私が助けに来た」

「…………」

 聞こえる筈がない。
 伝わる筈がない。
 だけど、繋がっている。
 俺と彼女は、繋がっている。

 俺は「膨らんでいても男の子だからと誰もが目を逸らすポイント」に隠したISコアを睨んだ。
 おいお前また勝手になんかやったろ。

「なあに、条件がある。条件がふたつだけある。たったの二つを約束すれば、お前を今すぐ逃がしてやるさ」

「悪魔の契約っぽいなあオイ」

 でも受けるしかねーんだよな。
 恐らく、ボーナスタイムでラストチャンスだ。
 コレを逃せば、俺は本当に逃げる術を失う。 

「まずひとつ。必ず、無事に戻れ」

「お、おう……」

 あれ、優しい。天使かな?
 誰だよこんな天使に怯えてたのは。女見る目ねーよアンタ。俺だよ。

「そしてもうひとつ。戻ったら、私を娶れ」

「―――は?」

「男とは、女を娶って初めて一人前の男になるらしい。私がお前を一人前にしてやる」

 ラウラは胸元から記入済みの結婚届を取り出し、印鑑とボールペンを俺の足元へ投げた。
 おいその印鑑も姉の部屋からパクッて来たろ。ナチュラルに犯罪行為だよ。
 眼帯を外し、ベッドに上り、俺に伸し掛かる。
 吐息がかかる程顔を近づけ、ラウラと目を合わす。

「私を、お前の嫁にしろ」

 ラウラ・ボーデヴィッヒの造形は芸術品である。
 赤みがかった瞳と、宝石みたいな瑠璃色の瞳。
 整いすぎたシンメトリーを壊す、美しすぎる眼球。
 病的を通り越して、魔的なまでに美しいのだ。
 人が作り上げた緻密な美貌を、人が大胆に壊した。 
 哲学すらも語れそうな、正直引いてしまう程美麗な少女に迫られる。

「なに、そう長い期間でもない。ほんの十年程度だ。
 お前のこれからを、少しだけ私にくれないか」

 ラウラ・ボーデヴィッヒはデザイナーズチャイルドだ。
 生まれる前から遺伝子を弄られ、生まれてからは投薬され、メスを入れられ、調整されている。
 俺は知っている。俺は彼女を知っている。
 真っ当な生誕でない彼女は、まともな寿命すら有していないことを。
 兵器として調整された彼女は、命の蝋燭を太く短いものに変えられていることを。

 吸い込まれそうな瞳に吸い込まれそうになっていると唇が吸い込まれた。
 私じゃ、ダメか?
 そんな不安そうな表情を誤魔化すようにキスをする。
 整然とした美しさが歪み、人の熱を――――恋に懊悩する女性に陥ちた。
 俺は、人形が人間になる瞬間をみた。

 嘘でも頷くしかない俺の、なんと情けないことか。
 女に跨られて、女に結婚を願われて、女に接吻されて、ただ上っ面で頷くだけか?
 情けねえ、死にたくなるだろ。ならどうするって? 
 決まってんだろ、クソッタレ!

「ん? ンーッッ!!」

 荒々しく唇を奪う。
 隙間を割って侵入した舌先をベロの根本まで這わす。
 俺の舌を噛まない様にラウラが意識した所で、蟹ばさみの要領でラウラの腰をロックした。
 舌を数回出し入れし、本丸である上顎を攻める。
 反射的に逃げようとしたラウラの腰を押さえつけ、強引に舌先でつつき続ける。
 少し慣れてきたことを見越し、今度は上顎を舌でなぞりあげた。 
 ゾクリとした刺激にラウラが嬌声をあげるが、それでも逃さない。
 こぼれそうな唾液を露骨に啜り、歯茎を磨くように一本一本責めていく。
 呼吸すらできず喘ぐラウラの下唇へトドメとばかりに吸いつき甘噛みし、解放した。

 蟹ばさみを解くと後ろへ跳ね、ペタンと座り込んだ。
 うるんだ目で、紅潮した顔で、荒い息のままこちらを睨んでくるラウラ・ボーデヴィッヒ。

「いいぜ、結婚してやる。だけど、勘違いすんなよ?
 俺はラウラに惚れた訳じゃない。だから結婚しても好き勝手やる。
 それが嫌なら、俺の心を捕まえてみやがれ」

 ラウラはパチクリと目を瞬かせ、意味を理解すると、笑った。

「お前を私の虜にする。決定事項だ、異論は認めん」

「嫁になってから虜にすんのかよ。順番がアベコベじゃねーか。いいけどさ。
 なら、俺から伝えるのはこれだけだ。『やれるもんなら、やってみろ』」
  
 イッピー知ってるよ。16歳にして婚約者ゲット国際結婚までカウントダウン開始。イッピー知ってるよ。
 例えすべてが上手くいき無事に帰ってきたとして、姉が確実に爆発する核弾頭をこさえてしまった事実に、もういっそ世界滅びたがマシじゃね?などと思った。








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 俺がセカン党と思ったか! 残念、実は黒兎党でした。
 更新が来月だと思ったか! 以外、それは今月。

 プロローグは終わり、オープニングです。
 やっとこさ主役となったイッピーに、フロント張らせます。
 エンドまでつっぱしんぜー。
 
 あ、感想もらえると凄い嬉しくてモチベ上がります。
 モチベ上がるとペース上がります。
 早く続きを読みたい方はよろしくどーぞ。
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