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No.32851の一覧
[0] IS Inside/Saddo[真下屋](2012/10/30 23:14)
[1] RED HOT[真下屋](2012/05/31 23:39)
[2] Adrenaline[真下屋](2013/05/05 00:27)
[3] 裏切りの夕焼け/コンプリケイション[真下屋](2016/01/25 20:55)
[4] BLOOD on FIRE[真下屋](2012/04/22 13:59)
[6] チェックメイト[真下屋](2012/05/02 02:17)
[8] ポリリズム[真下屋](2012/05/06 13:24)
[10] Hollow[真下屋](2012/05/06 13:24)
[13] (前)LOST AND FOUND[真下屋](2012/05/08 23:38)
[14] (後)アンサイズニア[真下屋](2015/05/31 21:16)
[15] Groovin’s Magic[真下屋](2012/05/15 01:31)
[16] Butterfly Swimmer[真下屋](2012/06/07 07:59)
[17] アダルトスーツ[真下屋](2013/05/05 00:28)
[18] スクールバス/瞳[真下屋](2012/06/21 00:41)
[19] 恋ノアイボウ心ノクピド[真下屋](2012/07/07 23:37)
[20] 遠雷[真下屋](2015/05/31 21:10)
[21] Re;make[真下屋](2012/08/23 20:55)
[22] Holidays of seventeen # Sanfrancisco Blues[真下屋](2016/04/13 00:43)
[24] Holidays of seventeen # Tell Me How You Feel[真下屋](2012/09/23 17:54)
[25] Holidays of seventeen # You & Me[真下屋](2015/05/31 21:12)
[26] OutLine:君の街まで[真下屋](2012/06/21 00:41)
[27] OutLine:believe me[真下屋](2012/08/13 23:29)
[28] OutLine:Cross Illusion[真下屋](2012/08/28 00:57)
[29] (前)存在証明[真下屋](2012/11/07 19:33)
[30] (中)Killer Likes Candy[真下屋](2013/10/25 01:29)
[31] (後)メアリーと遊園地[真下屋](2012/11/15 21:49)
[32] WINDOW開ける[真下屋](2012/11/15 21:47)
[33] 名前のない怪物[真下屋](2012/12/19 00:55)
[34] [筆休め、中書] [真下屋](2013/10/25 01:29)
[35] SideLine:(前) Paper-craft[真下屋](2013/01/19 13:13)
[36] SideLine:(中) とある竜の恋の歌[真下屋](2013/03/24 23:44)
[37] SideLine:(後) The Kids Aren't Alright[真下屋](2013/04/14 08:22)
[38] SideLine:(終) All I Want In This World[真下屋](2013/06/01 21:21)
[41] HofS:箱庭ロックショー[真下屋](2015/05/31 21:19)
[42] My Happy Ending[真下屋](2013/10/25 01:01)
[43] (前)100%[真下屋](2014/08/14 23:34)
[44] (中)The Hell Song[真下屋](2014/08/14 23:33)
[45] (後)Sick of it[真下屋](2014/08/15 00:33)
[46] Fight For Liberty[真下屋](2014/08/24 17:59)
[47] OutLine:Sheep[真下屋](2015/01/17 23:44)
[48] distance[真下屋](2015/05/31 21:30)
[49] OutLine:拝啓、ツラツストラ[真下屋](2015/11/30 23:35)
[50] House of Wolves[真下屋](2016/03/27 20:28)
[51] OutLine-SSBS:空っぽの空に潰される[真下屋](2016/04/13 00:18)
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[32851] アダルトスーツ
Name: 真下屋◆8b7c8ad0 ID:981535a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/05 00:28
姉に連れられて、お使いです。
どうも機密の書類? 物品? らしく手渡ししなければならないとのこと。
強奪される可能性とかあるのか?
郵送じゃ危ないんかね?
手渡しであれば襲撃されるレベル?
だからこそ織斑千冬に任せた?
たしかに、生身とはいえこの姉から盗みを働いて成功する人間は早々いないと思うが。

……え? ってことは結構デンジャー?
そんなことに巻き込まれてる、俺?
図ったなチッピー!



何もなく倉持技研にやって参りました。
なんだったんださっきの前フリ。
姉は中に入っていく。
俺は待ちぼうけ、とはいかんぜよ。

俺、専用機を開発してもらっておいてここの技術者の人になんもお礼言ってないから、
そのお礼を言いに来ました、ってことで入れてもらった。












通された先には、技術者が数名。
男もいれば女もいる。比較的若い人の集まりだった。

「織斑一夏です。白式の件、ありがとうございます。突然のことでスケジュールの調整も苦労されたことと思います。
 にも関わらずこれ程の機体を仕上げてくださった皆様には感謝の念が絶えません」

深く頭を下げる。
白式もなんか言えよ、産みの親だろ?

[…………]

なんか言えよ! 無視かよ!
あんだよ、形式上の親なんか知らねぇってか!

「ホントにキミが織斑一夏くんですか? 私の開発したグレネード持ってって、ISでロケットパンチした、千冬さんの弟の一夏くん?」

スーツ着たちびっこい女の子が、その大きくて可愛らしい目を俺に向けてくる。
あんだこのお子様は。

「そうだよあんだよ文句あんのか? 俺が織斑一夏です。んでお嬢ちゃんはお父さんの職場見学か?」

「失礼な! 私はこれでもれっきとした大人です!」

あーはいはいそうですねー。立派なレディですねー。
俺ってけっこう父性に溢れるタイプなのか、小さい女の子を見ると可愛がりたくなんだよねー。
おいロリコンっつったやつ誰だ。若干俺も心配だ。
頭なでなで。

「なんですかその『そうだね~偉いね~』って瞳は! 馬鹿にしてるんですか!」

「いやいや、女の子を子供扱いなんて失礼な事をした。きっと将来美人さんになるお嬢ちゃんのご機嫌はとっとかないと」

「だから私は! 貴方より年上で社会人ですって!」

「ほーら高い高い~」

「きゃー視界が高い~! 遠くまで見渡せます! ってなにするんですか完璧に子供だと勘違いしてるでしょ!」

女の子を抱き上げて持ち上げてみた。理由はない。大人ぶりたい女の子はこうすると喜ぶかなと思って。
こんな幼い成人女性がいるかよ、学園都市じゃあるまいし。
だが、周囲を見渡すと焦燥っぽい雰囲気。アレ?
お嬢ちゃんのスーツを見る。間違っても子供が着るもんじゃねぇ、作りが安くない。これオーダーメイドだろ? それなり金かかってる?
違和感を感じたので、目を閉じ意識を集中させる。
俺の手の中にある存在をイメージ化。先入観をとっぱらって、ハイ!

塔、城、でっかい何か。
白の『ルーク』
なんでこのスクール水着が似合いそうなお人からそんなイメージが伝わる?
ルークにくっついてるのは物は。太くて、硬い? 俺のチ(検閲)ンコじゃあるまいし。
マグナム? 違う。もっとでかい、砲。
バズーカ。炸薬。炸裂。グレネーダー。
なぜか重量二脚に武器腕と両肩にグレネード積んだACを今思い浮かべた。
さっきの研究員達の反応といい、きっとこれは。この人は。


触れちゃいけない人だ。


俺は抱えていた人を地面に降ろし、消沈した声色で謝罪を口にする。

「申し訳ありません。ご無礼をお許しください」

「突然何故そんな「サラリーマンが発注時に桁一つ間違えてたことに気付いて今にも死にそうな顔」なんて浮かべているのか
 甚だ疑問ですが、分かればよいのです」

「寛大な処置、心より感謝いたします。では私はこれで」

「待ちなさい」

スタコラサッサしようとした瞬間、服を掴まれた。
やっべぇコレ、なんかやべぇ。嫌な予感しかしない。
すまないマイ危機感知センサー。お前の働きを無駄にしてしまった。こんなにも、火薬の臭いがすると言うのに。
実は打鉄弐式の件とか突っ込もうとかしてたけどそれどこじゃないみたいだぜ?

「本当に悪いと思っているのですか?」

「はい。誠心誠意謝罪させて頂きます」

だから離して。今すぐ帰らせて。助けて姉さん! ヘルプミーチッピー!

「でしたら、ひとつ『お願い』があるのですが」

ヤダ、聞きたくねぇ。ろくでもねぇのは間違いねぇ。
俺のアラートがビービー鳴りっ放しだもん。
いつもだったらこんな可愛らしいお姉さんの期待を込められた目に抗えない俺ですが、今日は違います!
ノーと云える日本人、織斑イッピーとは俺のことです。

「それはまた次の機会に。わたくし急用を思い出したので失礼させてください」

「お願いしたい事の内容ですが、『模擬戦』です。ぜひとも戦って欲しい相手が―――」

「なんだ。居たのか、ワカ?」

「ご無沙汰してます、千冬さん」

イチカ は かこまれている!
イチカ は にげられない!

「私はこの前のアレの報告書を届けにきたのだが、お前は?」

「倉持が速射型グレネードなんて無粋な物を製作しまして、それのテストに呼ばれました」

「餅は餅屋、か。たしかに私が開発者でも、お前を呼―――ばないな。あまり参考になる意見が聞けそうにない。
 何にしたって『火力が足りない』『爆発が弱い』『パワーが貧弱』と文句をつけるに決まっている」

「兄弟揃って失礼ですよ、千冬さん」

「なんだ? ウチの自慢の弟が粗相をやらかしたのか? 文句言ってるのはどいつだ? ワビいれてやるから連れて来い」

「明らかにヤキ入れる満々じゃないですか! 謝る気配なんてこれっぽっちも感じませんよ!」

あれ、けっこう仲良し?
イッピー蚊帳の外。
このまま研究所から抜け出せないかな。
くそ、ダンボールさえあればなんとかなるのに。

「それで、私に打鉄を渡して何をさせる気だ?」

フラグ……圧倒的フラグ……死神の足音……!
粛々とはいよる絶対死……!
俺は自分の顔がぐにょりと曲がるのを幻視した。

YES YES YES OH MY GOD

「倉持の方の希望ですが、私も実はかなり興味があるのでお願いしたいです。
 『織斑千冬と織斑一夏の模擬戦』を。千冬さんの機体は量産機になりますけど、いいハンデでしょう?」

「……ふむ」

腕を組み顎に手をあてて考え込む。
ちょいちょいお姉さん。タイツの眩しいお姉さん。考え込むとこじゃねえから!
現役退いてじゃん。学校でもIS使わない様にしてたじゃん。実技山田先生に任せっぱなしじゃん。
どうしたじゃん!

「一夏、―――やろう」

ヤらねーよ馬鹿野郎!
と言えたら良かったのですけど。
そんな願うように、縋るように、言われたら断れねーよ。
卑怯だろ。捨てられた子犬だってそんな顔しねえだろうに。
ノーと云えない日本人、織斑一夏とは俺のことです。



























あれよあれよと云う間にアリーナですよ。
狭い。とても狭い。
学校のアリーナの1/4ぐらいか?
端から端まで使ってギリ中距離戦ができるぐらい。
まあ街中ですもんね。
その分バリアの強度がダンチだとか。
雪片で切り裂いて「ざまあああああああぁぁ!!」とかいってやりたい衝動に駆られるが、我慢。
今回ばっかしは、相手が悪いぜ。
冷や汗が止まらねぇ。

「準備はいいか?」
「よくないっつったら待ってくれんのか?」

あーもうなんなんだよもうー。俺争いとか嫌いなタイプなんだってガチに。
キラさんじゃないけど静かに暮らしたい派なんですマジです。
なんで女子高に一人男が入学なんて九分九厘ハーレムラノベな状況でこうなっちまったのか。
おかしいですよ、カテジナさん。

「待ってやるともさ。可愛い弟の頼みだ。私の我慢が続く限り待ってやろう」

「ちなみに何分待ってくれんの?」

「弟が可愛すぎてあと5秒かな」

うっぜえええええええええええええええええええええええええええええええええ!
この女うっぜええぇぇぇ!
あーいいぜやってやんよ畜生が!

「HEAVEN or HELL―――」

「織斑千冬、打鉄、狙い斬る」

「―――LET'S ROCK!」

開幕にダッシュしてくる打鉄と、開幕にバックダッシュする白式。
刀剣型ブレード・百弐拾七式『八錆』を構え鉄面皮で追ってくる姉。
おっかねぇ。
しかし、ことスピードにおいてはカタログスペックではこちらが上。
まず距離を取りたい。このまま引き離し、

「逃げるなよ、一夏」

瞬時、加速。
この狭い空間で、イグニッションブースト使いやがった!
例えるならそう、立体駐車場で80km出すようなものだろうか。
腕に自信があろうが、一般常識で考えたらありえないような行動。
それをなんなくやってのけるのが、織斑千冬。

「なろっ」

壁を背にギリギリを飛翔するが、難なくぶつかることなく追走される。
ドッグファイトも満足にこなせない空間で、どうしろってんだ。
加速した勢いのまま、打鉄はその手の剣を、

「右に避けろ」

投げつけた。
あっぶねえええええ。
間一髪でそれをかわした所で、先回りしていた打鉄が。
鬼ごっこすらさせてくんねえってのか!

「っくぞおらあッ!」
「来い」

余裕こいてんじゃ、ねえ!
雪片弐型を抜く俺。
新しい八錆を展開する千冬。
剣戟、衝突。
斬り抜ける。

明らかに俺のが合当理吹かしてただろ。
なのになぜ、運動量チカラで押し負ける。
しれたこと。
それだけ、振りが早いんだ。
人が棒切れを振り回す技術。
それを『術』に、それを『道』にしてその高みへ至る。
俺には至れん境地。
至った者。

「―――軽いな。女かと思ったぞ」

言ってくれんじゃねえか、テメエ。
たしかにアンタは強い。強いだろうさ。
だからって。

「見下してんじゃねーよ」

スラスター、チャージ。
構えは上段。
ワンオフアビリティー、準備完了

「Get Set READY?」
[ATTACK!]

避けない。
織斑千冬は避けない。
織斑千冬はわざと挑発して、直接攻撃を踏み切らせた。
それは、俺の実力を測るため。

だから。
見下してんじゃ、ねえええええええええ!

[Ignition]
「切れぬものなど、あんまりない!」

瞬時加速の特攻から、零落百夜を発動させ斬りかかる。
上段から振り下ろす雪片弐型は、その加速を乗せてもなんなく受け止められた。
が、んなもん読んでるよ。
力と、技の!

「V3キック!」

がら空きの股下から、全力で掬い上げる蹴りを繰り出す。
バリア発動、難なく受け止められる。
だよねー。

それでも、無駄じゃない。
びっくりしただろ?
蹴りつけ、その勢いで距離を取った。

さあて、そいでは続いて、










「一夏。―――もういい。もう、終わりにしよう」


織斑千冬は動かない。動かず、そう言った。
やる気のない声で、覇気の無い声で。
―――落胆した声で。
俺にそう告げた。











……そっか。

俺は。

織斑一夏は。

織斑千冬に『敵』として見てすら貰えない程度の力量しかなかったってか。



例え白式が如何に速かろうとも。
―――目で追えないスピードで飛べる訳ではない。
例え白式が如何に優れていようとも。
―――仕手の力量差がありすぎて勝負にならない。
例え零落百夜がどれだけ強力だろうとも。
―――バリア無効化攻撃なんて、直撃させなければ意味が無い。


それでも。
それでも、やらないと。
俺の尊敬する人は言ったのだ。


なんでそう在れるのか、と自分の存在を問われた時。
『人は、配られたカードで勝負するしかないのさ』と。
(By SNO○PY)


















「アンタ犬じゃねーかあああああッ!」

再度、衝突する。
振りかぶり、剣を合わせる。
但し、刃を寝かせて。

ガギン、と金属を絶った鋭い音が響き、雪片弐型が折れた。
ごめんな、雪片。
俺じゃ、お前を使いこなせない。
でも、この距離、この間合い、この長さなら。
イケる。

振り切った雪片をその勢いのまま切り返す。
長さが半分となった雪片は、1.5倍(当社比)のスピードで駆ける。
これで、なんとか速さは五分。
重さはボロ負け。威力は零落百夜でカヴァー。
馬鹿にしやがって! 上から見下しやがって!
とりあえず、貰っとけよ!

「ヌルい」

あっさりと受け止められ、そのままクロスレンジでの斬り合いへ移項。
一歩も引けない。
一歩引いたら、獲物の差で俺の不利だ。
けれど、ここまで距離詰めてやっとこさ五分かよ。
しかし、五部なのは速さだけ。
重さに、負ける。
剣戟の重さで、白式の動きが半テンポずつ遅れていく。
一発、一線、一撃。
削られていく。
装甲ではなく、俺の時間が。
ヒット時の硬直。
次戟に移るタイミングが遅れていく。

ガードが、間に合わない。




白式。

お前だって、悔しいだろう。

このままじゃ、終われないだろう。

一太刀も浴びせられないまま。

這い蹲る虫の如く。

絶えるなんて、耐えられないだろう。

俺は、嫌だ。

あの人に落胆されたまま終わるなんて、嫌だ。

「―――、が、欲しい」

力が、欲しい。
あと一歩、もう一歩踏み出せるだけの力が。
届かない刃を届かせる、そんな力が。

半端な踏み込みと、雑念交じりの俺の剣は、俺の体は。
一刀のもとフェンスバリアまで弾き飛ばされ、停止した。










































































「少年、もっと加速したく―――」

「おい辞めようぜホントそういうの辞めようただでさえロクでもないネタに走ってるんだから
 ちょっとは自重を覚えよう真剣に考えてもらえますそういうタイムリーなネタとか持ってこられると
 ミーハーだと思われるじゃん守るべきモラルとか方向性とかあるでしょ人としてのさあ」

「―――なにそれ怖い」

高い空、抜けるような青。
押し返さない波と、灘の海。
半球状の地平線、沈まない太陽。
存在し得ない、空想世界。

世界の中心には、純白の少女。
白いワンピース、白い髪、白い肌。白、一式。

「なんだよう、ノリ悪いなあ」

リスのように頬を膨らませる。
寄りかかっていた枯れ木から立ち上がる少女。

「どうして、力を求めるの?」

俺の瞳を覗き込むように、少女は問う。
『俺』の真意を探る、その視線が疎ましい。

「昔の話だからな?」

お、水面に漂う織斑一夏を発見。
寝てんのかな? つついてみる。

「昔、小さい頃。俺は寝るときお漏らしをする子供だった。その上、俺は一人で寝れない子供だった。
 必然的に、俺に添い寝した相手も尿にまみれることになる。
 俺には姉がいる。その姉は何回俺の寝小便に汚されても怒らなかったし、叱らなかった。いやな顔ひとつしなかった。
 むしろ優しい声色で俺に云うのだ。『怖い夢でも見たのか? 此処には私が居るぞ』と」

イッピー固くなってんじゃんナニコレ。どうしたおい。海に漂ってんなよ楽しそうじゃねえか。
つんつんとひっきりなしに突っついてみる。

「毎回、毎度。俺が漏らす度に姉は俺を抱き締めるんだ。自分が汚れるのも厭わずに。
 そりゃあシスコンにもなるでしょうさ。で、優秀な弟である事疑いない俺は思う訳よ。
 この人を幸せにしなければならない、ってね。与えた恩は忘れるが、受けた恩は忘れられん」

シスコンは大体「僕が姉(と結婚して)を幸せにする!」と息巻くが、なってねえ。それお前が幸せになりたいだじゃん。
この織斑一夏をそんじゅそこらのシスコンと一緒くたにしてもらっては困る。
この特別な女を、ただの女に落とす。
現役を退いて数年、今なお世界最強のランナーと名高いこの女を、ただの普通の女にしてやる。
それが、俺が受けた恩に報いる一番の形だと、俺は疑わない。
この人が本来得られる筈だった、恋人とか恋愛とか青春とか、その辺の選択肢を返してやるのだ。

「だから、力が欲しい。お前がくれるってんなら、遠慮なくもらう。
 空を飛ぶための、空を越える為のお前に求めるのは、おかしな話なんだけど」

それでも、求めざるを得ない。
力なんて、個人的にはいらないんですけどね。
もし織斑千冬が世界で一番弱かったら、俺は二番目でいい。
これはそういう物語だ。

「イチカは、楽しそうだね?」

「ああ、楽しいよ。でも、もっとだ。
 俺は現状に納得して、現状に満足しない。
 もっともっと、もっと楽しく、幸せになってやんよ」

ふふっと目尻を細める白の少女。
回答はお気に召したようだ。
俺に手を伸ばす少女。俺はその手を握り、受け取る。

「力が欲しいか。力が欲しいなら―――くれてやる」

オイコラ自重しろっつってんだろ小娘。
渡された「何か」が俺に響き、世界が割れた。

[Awaken]



































第二次移行。
白式がより洗練された外装となり、スラスターが大幅強化された。そして。
雪羅。
白式が用意してくれた、俺の、俺の為だけの武器。
ずっと俺が欲していた、俺のツルギ。
これで俺は、また闘える。俺の闘いを。

「セカンド・シフト……? この土壇場で? ッデータ取らなきゃ! 両名、試合は中止です!」

眼鏡の研究員さんがなんか騒いでいるが、それどころではない。
目の前のご婦人が、俺を待っていらっしゃる。
DANSYAKUじゃねーけど、レディを待たせるのは、紳士のやることじゃねえよなぁ!

「一夏、時間も無い。後一合が限度だろう」

「ああ。そしてアンタに取っちゃ、充分だろう?」

恍惚の瞳、欲情の声。
織斑千冬は、高ぶっている。
俺のレベルアップを、愉しんでやがる。
このバトルジャンキーが。
イッピー知ってるよ。このチッピー戦闘で股濡らす変態だって、イッピー知ってるよ。
そんだけヤりたきゃ、現役続けろよ。

「全力で往く。このブリュンヒルデの一撃を胸に刻み、敗北を学べ」

「おっかねえこって。―――但しその頃には、アンタは八つ裂きになっているだろうがな」

ブリュンヒルデ(笑)。
ブリュンヒルデ、ねぇ。

500円玉素手で握り潰そうが。
垂直跳びで自分の身長跳びこそうが。
靴の方が皮ズレする頑強な肉体をしていようが。
アンタはブリュンヒルデなんかじゃない。
アンタは俺の姉で、結構弟に甘々で、才色兼備で、家事がちょっと苦手な、ただの、普通の、女だろうが!


迎え討つ。
打鉄のトップスピードに乗って、打鉄のトップスピードを越える斬戟を携えて、織斑千冬が接近する。
思考を加速。知覚を加速。
衝突の一瞬で全てが決まる。

「せーのっ!」

覚悟完了。当方に迎撃の準備有り。
もう瞬時加速に回すエネルギーが無い。
無いので、バリアフェンスをぶち壊す勢いで蹴りぬきその反動で加速。
キックの反動で三割り増しは、常識だろう?
衝突の一瞬を前倒しにする。
相手のリズムを崩せ、相手の意表を突け。
此処にきて真っ向正面から? 甘えるな。
いつだって、勝つ為の努力は惜しまない。
小細工、ハッタリ、小技に手管。どれでも選べ、全てを選べ。

されでも相手は世界最強。
ちょっとやそっとタイミングをずらそうが、その流麗な太刀筋に狂いはなく。
ピッタシカンカン、タイミングドンピシャで交差の刹那を抑えてきやがる。

速度を携えた一撃。
雪羅じゃ押し負ける。雪片じゃ振り負ける。
然らば、ならずんば。

雪片じゃ、長すぎた。
雪片じゃ、彼女の速さに追い着かない。
でも、雪羅なら。
このナイフなら。
白式が俺の為に用意してくれたこの剣なら。
ついていける。

零落百夜、発動。
俺がアンタに重ねた斬戟ごと、俺を斬り伏せるおつもりでしょうがそうはいかんざき。
刻めよ、俺の『衝撃』を!

姉は言った。
二つも三つも攻撃手段を持つ必要は無い、と。
ただ一つを、鍛え上げてこそ必殺となる、と。
その言は実を伴い、ただ「刀を振り上げて」→「降ろす」といった単一動作を剣爛舞踏(ブレイドアーツ)へ昇華させた。
その業は、今、俺を屠らんと牙を剥く。

怖い。
本心、めっちゃ怖い。
ヤンキーにナイフ持たせるなんて目じゃない位怖い。
けれど、此処で逃げたら駄目だ。
怖くても、前へ。
怖いからこそ、一歩前へ。
後ろに逃げて、掴めるモンなんて一つもねぇ。
ビビって逃げたら癖になっちまう。
後で後悔なんてしたくねえだろ。
死地に踏み入る。
付き合えよ、白式。

「―――絶刀」

迫り来る斬戟を。
刀ごと、相手の防御ごと絶つその剣技を。
俺は無視した。

「ラァイッ!」

千冬姉より速く、雪羅をその装甲に突き立て絶対防御を発動させる。
後一歩、もう一歩踏み込めれば、刀のミートポイントから外れる。
そしたら、俺の距離だ。相手を刻むだけの簡単なお仕事だ。
けれど、剣戟は一瞬も鈍らない。
眼前に俺の必殺を押し付けられようと、その業は乱れない。
強ぇなぁ、この女。
ほんの少し、ちょっとだけでも鈍れば。
あと一歩、たった一歩踏み込むだけでいいのに。
ゼロレンジでのインファイトなら、獲物の優越で俺の勝ちだったろうに。

まあ、いいや。

足掻いて、足掻いて、もがいて、抗う。
人生の実は、ただ活きることの中に。
その結果がたとえ届かなかったとしても、その経過は、無駄なんかじゃないんだから。

打鉄の斬戟は、白式のバリアをブチ抜き絶対防御を発生させ残エネルギーを0にした。
そして俺は、バスターホームランの上もう動かない状態のまま再度フェンスバリア叩きつけられ気絶した。

残念無念、また来週。






























タクシーの中で、目を覚ました。
持たれかかる肩の先には、いつも通りの姉の顔がある。
ありゃありゃまあまあ、ご迷惑をおかけしております。
姉に吹っ飛ばされ、姉に看病され、姉に移送される。
なにこのマッチポンプ。

「気にするな」

上げようとした頭を押さえられ、肩に戻される。
これじゃ甘えてんのか、甘えさせられてんのか分かんねえな。
ま、どっちも一緒か。外からみりゃ、どっちも仲良し姉弟に変わりはない。

負けちまったか。
始めっから勝てる勝負だとは思ってないが、勝ちに行ってただけに悔しいなぁ。
まだまだ、全然届かない。

「今日は楽しかったか、一夏?」

「楽しかった。楽しかったけど、悔しいよ」

そうか、と姉は頷いて、頭を撫でてくる。
あいつ等に比べればまだまだ短い時間だけど、俺は真剣にISの訓練に取り組んでいる。
専用機も貰い、色んな人に教えを請い、練習に励んでいる。
そこに遊びはあっても手抜きは無い。
だから、悔しい。

「いいんだ、一夏。それでいいんだ。その悔しさがお前を強くする。
 大怪我さえ負わなければ、幾らでも負けていいんだ。
 そうやって思えるお前は、いつか、誰よりも強くなってる筈だから」

「でも、いつかじゃ駄目なんだ。今じゃなきゃ駄目な場面がきっとこれからある。
 負けられない場面、勝たなきゃならない場面が、いつか俺にもくる」

なんだ、そんな事か。姉は簡単に言ってくれる。
寄りかかった俺を胸元に抱き寄せる。
あー安らぐ。おっぱいは癒し。

「その時は、私を召べ。私がお前の剣になろう。
 力でなんとかしなきゃならない場面くらい、私がなんとかしてやるさ」

そのアンタをなんとかしてやりたいんだよ! と言う俺の心の声は、終ぞ口から出ることはなかった。
決して胸の感触に酔いしれていた訳ではありません。ホントだよ!





























午前三時。
重い体と、酒で胡乱な頭を引き摺り部屋に戻ってきた。
一夏ではないが、今日は楽しかった。
一夏とデートして、一夏と剣を交え、真耶と呑みに出た。
充実した一日だった。
服を脱ぎ、メイクを落しながら反芻する。
私を落とさんとする、一夏の顔。
私を見つめるその普段との表情のギャップがクる。
一夏の、衝撃。
私を倒す可能性を秘めた、その一撃に私はほぼイ―――。

一夏の刃は、いずれ私に迫るだろう。
この高みに昇ってくるだろう。
それが嬉しい。
一夏はこんな所でも、私を独りにしない。

崩れるようにベッドに倒れこんだ。
横目で、ベッドサイドにあるサボテンをつつく。

「なあ、お前はどう思う?」

こんなにも姉思いの弟が居て、私は幸せ者じゃあないか?
サボテンの棘が指に刺さる、その刺激が心地よい。

私は、織斑一夏の姉だ。
いつか、織斑一夏が卒業し、就職し、結婚し、子を成し、老いても、あいつの姉だ。
あいつの成長を、あいつの人生を傍で見守る権利がある。
例え、あいつの隣が私の知らない人間で埋まっていようとも、あいつの拠り所ぐらいにはなれるだろう。
男は家を出て、自分の家庭を持つものだ。
いつまでも、私の庇護下に居る訳ではない。

それでも。
それでも、時間に許される限り。
私をお前の唯一の家族で居させてくれ。


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