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No.32851の一覧
[0] IS Inside/Saddo[真下屋](2012/10/30 23:14)
[1] RED HOT[真下屋](2012/05/31 23:39)
[2] Adrenaline[真下屋](2013/05/05 00:27)
[3] 裏切りの夕焼け/コンプリケイション[真下屋](2016/01/25 20:55)
[4] BLOOD on FIRE[真下屋](2012/04/22 13:59)
[6] チェックメイト[真下屋](2012/05/02 02:17)
[8] ポリリズム[真下屋](2012/05/06 13:24)
[10] Hollow[真下屋](2012/05/06 13:24)
[13] (前)LOST AND FOUND[真下屋](2012/05/08 23:38)
[14] (後)アンサイズニア[真下屋](2015/05/31 21:16)
[15] Groovin’s Magic[真下屋](2012/05/15 01:31)
[16] Butterfly Swimmer[真下屋](2012/06/07 07:59)
[17] アダルトスーツ[真下屋](2013/05/05 00:28)
[18] スクールバス/瞳[真下屋](2012/06/21 00:41)
[19] 恋ノアイボウ心ノクピド[真下屋](2012/07/07 23:37)
[20] 遠雷[真下屋](2015/05/31 21:10)
[21] Re;make[真下屋](2012/08/23 20:55)
[22] Holidays of seventeen # Sanfrancisco Blues[真下屋](2016/04/13 00:43)
[24] Holidays of seventeen # Tell Me How You Feel[真下屋](2012/09/23 17:54)
[25] Holidays of seventeen # You & Me[真下屋](2015/05/31 21:12)
[26] OutLine:君の街まで[真下屋](2012/06/21 00:41)
[27] OutLine:believe me[真下屋](2012/08/13 23:29)
[28] OutLine:Cross Illusion[真下屋](2012/08/28 00:57)
[29] (前)存在証明[真下屋](2012/11/07 19:33)
[30] (中)Killer Likes Candy[真下屋](2013/10/25 01:29)
[31] (後)メアリーと遊園地[真下屋](2012/11/15 21:49)
[32] WINDOW開ける[真下屋](2012/11/15 21:47)
[33] 名前のない怪物[真下屋](2012/12/19 00:55)
[34] [筆休め、中書] [真下屋](2013/10/25 01:29)
[35] SideLine:(前) Paper-craft[真下屋](2013/01/19 13:13)
[36] SideLine:(中) とある竜の恋の歌[真下屋](2013/03/24 23:44)
[37] SideLine:(後) The Kids Aren't Alright[真下屋](2013/04/14 08:22)
[38] SideLine:(終) All I Want In This World[真下屋](2013/06/01 21:21)
[41] HofS:箱庭ロックショー[真下屋](2015/05/31 21:19)
[42] My Happy Ending[真下屋](2013/10/25 01:01)
[43] (前)100%[真下屋](2014/08/14 23:34)
[44] (中)The Hell Song[真下屋](2014/08/14 23:33)
[45] (後)Sick of it[真下屋](2014/08/15 00:33)
[46] Fight For Liberty[真下屋](2014/08/24 17:59)
[47] OutLine:Sheep[真下屋](2015/01/17 23:44)
[48] distance[真下屋](2015/05/31 21:30)
[49] OutLine:拝啓、ツラツストラ[真下屋](2015/11/30 23:35)
[50] House of Wolves[真下屋](2016/03/27 20:28)
[51] OutLine-SSBS:空っぽの空に潰される[真下屋](2016/04/13 00:18)
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[32851] Hollow
Name: 真下屋◆8b7c8ad0 ID:981535a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/06 13:24
「えーっと、今日も嬉しいお知らせがあります。また一人、クラスにお友達が増えました。ドイツから来た転校生のラウラ・ボーディヴィッヒさんです」

「えーっと、さすがにおかしくない」
「二日連続転校生って……」

エンピツをカッターナイフで削る。
以前山田先生に注意されたが、文房具の整備だと押し切ったため突っ込まれなくなった。
実際つかっているのはシャーペンなんだけど、たまにエンピツが使いたくなるんだよなぁ。
あとエンピツを削るのが楽しい。つい夢中になってしまう。

「みなさんお静かに、まだ自己紹介が終わってませんから」

「挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」

エンピツ削りで削ると楽だけど、味がないよね?
やっぱり自分で削ってこそだと思うんだよエンピツは。
そういや今時の小学生って学校によってはシャーペン使っていいらしいよ。
昔は字が上手くならないから全面的に禁止にしている学校ばかりだったけど。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

「…………………………………………………………………………あのお、以上ですか」

「以上だ。―――貴様か」

やっぱ利便性ばかりに走るのはよくないと思うんだ。
確かに便利だけどさ、便利さと一緒に、これまで面倒の中に含まれていた大切な部分も省かれているようで。
だから、俺はエンピツを削る。
決して削るのが楽しくてやめられないとまらないカッパえび○ん状態ではない。

「私は認めない、貴様が教官の―――ッッ!」

俺に向かって振るわれる手。
小柄な少女のビンタ。
そういうプレイだったら受け止めてもいいけど、俺、マゾじゃないから。

「おいおい、こっちで良かったな。鉛筆だったらその可愛いおててに穴が開いてたぜ?」

いきなり振るわれた手の甲に、カッターナイフを宛がった。
止めようとした手は止まりきらず、刃に触れ肌に赤い筋を残した。

「貴様ぁッ!」
「ハッ!」

机を蹴り飛ばし、その勢いのまま距離をとる。
体は半身、右手にナイフ。準備完了。

「男児が頬を張ろうってんだ、手首ごと落とされても文句はねえよな、女」
「貴様の様な狂犬が教官の弟である等と、認められない。認められる訳がない。
 ―――貴様は、此処で潰えろ」

「いい加減にしろよテメエ。俺は織斑千冬の弟、なんて名前じゃねえ。織斑一夏だ。
 んなことも理解出来てねえとは、テメエの教官はよっぽどオツムの残念な奴なんだろうな」

「ラウラ、止めろ。織斑も席に着け、授業が始められんだろう」
「教官! しかし、」
「私に楯突くのか?」
「いいえ、失礼しました」

ISを展開しかけたラウラを静止し、織斑千冬は場を収める。
え、この空気の中で普通に授業すんの? マジで?
まやちゃんの胃に穴でも空ける気かあんた。


























鈴だ鈴だー。
鈴だ鈴だ鈴だーああ。
鈴だ鈴だー。

珍しく一人で歩く帰り道。


「答えてください教官! なぜこんなところで!」
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
「こんな極東の地で何の役目があると言うのですか! お願いです教官、我がドイツで再びご指導を!
 ここでは貴方の能力は半分もいかされません!」
「ほう」

鈴だ鈴だー。
鈴だ鈴だ鈴だーああ。
鈴だ鈴だー。
決して負けたりしない強い力な何かを、ぼくは一つだけうんたらー。

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに値しません。危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。
 そのような者達に教官が時間を裂かれるなど!」
「そこまでにしておけよ小娘。少し見ない内に随分と偉くなったな。
 15歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は!」
「寮に戻れ、私は忙しい」
「うぁ、くっ!」

鈴だ鈴だー。
鈴だ鈴だー。
愛っぽいじゃなくても恋っぽいじゃなくてもうんたらかんたらー。

「そこの男子、盗み聞きか? 異常性癖は感心しない、ってコラ一夏」

「リンダリンダー♪ …はい出席番号11番、織斑一夏元気です」

「お前はもうちょっと空気を読め。間違っても通り過ぎる場面じゃなかっただろ。
 それと朝の、オツムが足りないはこの姉に対してあんまりな発言ではないか」

そうは言われましても。
どうでもいいですし。
面倒な事は人任せ。

俺はいつも思うのだ。
人がやる事なんて2種類だけでいい。
そいつがやりたい事と、そいつがやらなきゃならない事。
後は人任せで、それなりに上手く世界は回っていくのだ。
ようするに「てめーの元教え子くらい、しっかり締めとけよ」と俺は言いたいのだ。
もう云ったけどね! すぐ思ったことを口にする、悪い癖だ。
イッピー知ってるよ。それのせいでビンタもらった回数が片手で足りないって。

「すまんな。お前にはいつも迷惑をかける。この姉の不徳と致すところだ」

「気にすんなよ。姉は弟に迷惑をかけてなんぼだし、弟は姉に世話を焼かせてなんぼだろ」

立ち止まることなく歩く。
今日はそんな気分なのだ。
鈴だ鈴だー。



























訓練のためにアリーナに来たわたくしは、中国代表候補生の小さな背中を見かけた。

「早いわね」
「てっきりわたくしが一番乗りだと思っていましたのに」

何気ない態度で気付かされるのは、この人は他人が居ようが居まいがあまり関係のない人であること。
他人の目を気にしない人であること。
わたくしとは違う。わたくしは何かと他人からの視線や評価を気にしてしまう。
それが悪い事とはいわないが、それによってわたくしが意識を割いてしまっていてはマイナスだ。

「あたしはこれから、学年別個人トーナメントに向けて特訓するところなんだけど」
「わたくしも全く同じですわ」

訓練に対する意識の高さも含め、彼女は代表候補生なのだろう。
わたくし達専用機持ちは、機体の使用申請が必要ない。
それを差し引いても、一般の生徒達ではまだ申請すら済ませていない子もいるのだ。
アリーナに着いた時間差はたぶん1分程度。
そんなタイムの差を気にする自分の小ささに嫌気がさす。

「あんたも聞いてるんでしょ? 「優勝者は一夏と付き合える」って」

「ええ、本人には関与していないみたいですけどね」

「それでも、気に入らないわ。元よりそのつもりだけど、優勝を目指す」

とある女生徒が、一夏さんに話を持ちかけたらしい。
「優勝したら付き合って」と。
それがどうも話がねじれて伝わり、優勝したら一夏さんと付き合える、となったらしいですわ。
わたくしの情報網から事の顛末を聞かされたときは、呆れてしまいました。

「その件も含めて、全く同じですわ」

「そう、じゃあお互い離れて練習しましょう。手の内を晒すつもりはないでしょ、あんたも?
 一度勝ったから次も勝てると驕る気はないし、あんたがあたしに対する策を持ってないとは思えない」

あらあら、思ったよりも評価されているみたいですわね。
わたくしをその辺の弱キャラとして扱っていたら、なんとしてでも倒すつもりでしたが。
ええ、これなら、まあ、及第点ですわ。

「その件ですが、提案があります。凰鈴音さん、わたくしセシリア・オルコットと訓練してくださらない?」

「自分より弱い相手と訓練するメリットがないわ」

「バッサリ言いますのね。確かに、相手にならない程の差があれば練習にすらならないでしょうけど。
 貴方との戦いを経て対策を練ったわたくしであれば、充分に相手になると思いましてよ」

「へえ、やけに自信があるじゃない。それだけ自信があれば、本番にぶっつけでやっても問題があるんじゃない。
 手の内を晒してでもあたしと組むメリットがあるか、はたまた手を晒してでも問題がないのか」

「どちらも、ですわ」

猪に見えて、実は知性派ですわよね、貴方。
筆頭殿もそうですが、テンションに流される様に見えて、何気に考えてらっしゃいますし。

違いますわね。
テンションに流されて考えなしに決断をするけれど、その決断をより良く変えていく手段を綿密に考える。
そういったタイプですわ。
貴方も、彼も。

「たしかに相手には困っているし、手の内知られるなら有利な相手の方が都合はいいか。
 こっから更に特典とかついたりする? もう一声で乗っかってあげなくもないわよ」

「存外にしたたかですわよね、貴方も。でしたら『情報』を。
 校内、校外問わずそれなりのネットワークをわたくしは所有しております」

「この辺が落とし所ね。いいわ、それで手を打ちましょう。ちなみに情報の信憑性は?」

「校内の情報に関しては女生徒の噂話もありますので、あまり保証できませんが、
 校外の情報に関してはオルコット家の名において保証しますわ」

わたくしはチェルシーの仕事に関して、全幅の信頼を寄せている。
彼女の有能さは折り紙つきだ。

「あんたには悪いけれど、あたしはあんたの家なんか知らないわ。たいそう立派な家系らしいけど、あたしにはなんの価値もない。
 覚えておきなさいセシリア・オルコット。あんたが最後に賭けるのはあんた自身よ。
 そのあんたが自分の名に賭けられないのなら、あんたはその程度の存在だし、あたしはあんたを信用できない」






「ええ、貴方には何の価値もありませんね。社会的にはこの方が重要性が高いのですが、『凰鈴音』には不要でした。
 セシリア・オルコットの名において、保証いたしますわ」

「乗ったわ、その提案。それじゃ、とっとと始めましょうか」

「せっかちさんですわね。でも、嫌いじゃないですわ」

凰鈴音は、セシリア・オルコットと根本的に違う人種だ。
家を大事にしない、家を大事にする。
家族を愛していない、家族を愛している。
人の目を気にしない、人の目を気にする。
格闘適正、射撃適正。
感情傾向、理論傾向。
料理ができる、料理ができない。
挙げればキリがない程、わたくしとは違う人種だ。

それでも、わたくしは彼女を好ましく思うし、彼女もきっと、わたくしを好ましく思ってくれているだろう。
ああ、それと。

男の趣味は、同じですわね。

































あたしとセシリアの間に、砲弾が割り込んだ。
その明確な悪意に、あたしは反応する。

「ドイツの第三世代機、シュヴァルツェア・レーゲン」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

ああ、アイツが。
アイツが。
『織斑一夏』を『織斑千冬の弟』としてしか見ていないアイツが。
アイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツがアイツが―――。
織斑一夏を、傷つけたのか。

「初めましてにしては随分な挨拶じゃない? いきなりぶっ放してくるなんていい度胸してるわね」

「……中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

安い挑発ね。安い挑発は、買う様にしている。

「ドイツくんだりから女を追っかけてやってくるレズ女とは会話が噛み合わないわね。セシリア、ちょっと通訳してよ」
「いやですわ鈴さん。わたくしが幾ら博学才穎としましても、ジャガイモと会話する言語は持ち合わせておりませんわ」

この女、けっこう言うわね。
仮にもドイツの代表候補生をジャガイモ呼ばわりとは。

「貴様達の様な者が、私と同じ第三世代機の専用機持ちとはな。
 数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はよほど人材不足だと見える」

「あーヤダヤダ。構ってちゃんのウサギちゃんは人様に砲弾をぶっ放して、
 人様の祖国を馬鹿にしてでも相手してもらいたいだなんて。」

「鈴さん。御友達になってあげてはいかがかしら? ほら、身長も近いですし」

あんたさり気なくあたしの事も馬鹿にしてるわね。
訓練が始まったら地獄をみせてやるわ。

「ふん、下らぬ種馬を取り合うメスが代表候補生とは、お国が知れるな?」

「この場にいない人間の侮辱までするなんて。その軽口、二度と叩けぬようにしてさしあげましょう」

アイツ、とことん一夏が嫌いみたいね。
ってことは、反面。

「その種馬の姉を追って国を渡ってきたレズ女は、姉に可愛がられてる種馬に嫉妬ジェラシーって訳ね。
 あんのブラコンストーカー女、女性関係はきちんと清算してから帰ってきなさいよ」

「おい貴様、教官を愚弄する気か……?」

「愚弄も何も、馬鹿にしてんのよ。散々弟には女性関係には気を使えと言っておきながら、本人はこの始末だもの。
 最近、遊びに来いって催促も増えてきたし。ホントにうざったくてくだらない女だわ」

「もういい、―――貴様は此処で死ねッ!」

沸点が低いわね、あんた。
だけどね、こっちはとっくにキレてんのよ。
それでも、保険だけはかけといた。








































代表候補生3人が模擬戦しているという噂のアリーナにやってまいりました。
はしゃいでんなぁ、あいつ等。

「酷い、あれじゃシールドエネルギーが持たないよ」
「もしダメージが蓄積し、ISが解除されれば、二人の命に関わるぞ!」

ワイヤーで引きずられ、一方的に暴行を加えられる鈴とセシリア。

「愛しの教官からSMプレイも習ったの? 性教育には熱心なのねあの人」
「鈴さん、この前部屋にお呼ばれしてませんでした? 貞操はきちんと守ったのでしょうね」
「減らず口を」

余裕っぽそうだなぁ。
あんな圧倒的負け試合でも憎まれ口を叩けるんだから、女の子は強いなあ。
俺なら泣いて許しを。
あ、装甲がくだけた。
ラウラがこっち見て笑いやがった。
誘われてんのか、仕方ねぇ。

けっしてセシリアと鈴を助けに行く訳ではない。訳ではないのだ。
誘われているから行くだけだからね。本当だからね。
「瞬着」
[OpenCombat]

あソーレ。
一振りでアリーナのバリアを切り裂く。
よっこらせっと。
一息でアリーナへ降り立つ。
距離にして50m
一秒かからんな。
よっとぉ。
一瞬でスラスターを全開に。

「その手を離せええええええええええ!!」

全力で抜き手を放つ。
案の定AICに捕まり、身動きが取れない。
鈴とか俺とか、最悪の相性だなこりゃ。
べ、別に負けてねーよ。相性が悪いだけだっつーの。

「感情的で直線的。絵に描いた様な愚か者だな。やはり敵ではないな。
 この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、象無象の一つでしかない。
 ―――消えろ」

「―――ぇない」

セシリアと鈴のISが解除された。
真剣に危ない所だったらしい。
あーやだやだ。これだから野蛮人共は。
俺みたいなインテリ派みたく、平和に穏便に生きれないもんなのかねぇ。

「なんだ、命乞いか?」
「俺が愚か者なら、テメエは救えねえ馬鹿者だっつったんだよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

頭使おうぜ、頭。
ほら、とりあえず頭上でも仰げよ。
刺さるぞ?

「クッ!」

空から降ってきた雪片弐型を、ほうほうの体で避けるラウラ。
さっきダッシュする前に仕込んどいたのだ。ほらインテリ派でしょ?
ラウラは無理矢理回避した所為で死に体。AICも解除されている。

「出会い頭の一発の礼だ。とっとけ」

喰らってないけど、返しとくぜ?
拳は強く強く握りこむ。
その所為で拳が遅くなったって構わない。
俺はダメージを与えるために殴るのではない。
殴りたいから、殴るのだ!

「カハッ」

みえみえのテレフォンパンチがラウラの頭部にジャストミート。
そのまま前蹴りでラウラをふっとばし、セシリアと鈴へ向かう。
距離さえ離せば、ほら。

「一夏、離れて!」

ラファール・リヴァイブカスタムによる援護射撃。
今回はAICを展開する暇もなかったのかたまらず下がっていく。
しめしめ。

「チッ、雑魚が」

「失礼するぜ、御嬢様方」

有無を言わさず脇に抱え、跳ぶ。
PICのコントロールを白式に譲渡。二人への衝撃を最小限に抑える。
アリーナ脇にある、緊急避難用退避場所へ一直線だ。

「おいおい正気かテメエ。頭沸いてンのか?」

ラウラ・ボーデヴィッヒが照準を合わせていることが、白式のアラートで分かってしまった。
こっちは生身の人間を抱えているというのに。
もし当たれば、簡単にミンチが出来てしまうというのに。
たかだか数センチ指を引いただけで、命が奪われてしまう。


なあ、アンタはどう思うよ。
人の命ってのは、そんなに軽いのか?

アンタ等はその圧倒的な強さを以って、これまでの兵器を鉄屑に変えた。
今度はその圧倒的な威力を以って、人の体を挽肉に変えるのか?

そんなの、人の死に方なんかじゃない。

違うだろ。そうじゃないだろう。

お前達は、一人の天才から産み出された機械かも知れない。

ただの兵器で、人殺しの道具かも知れない。

だけど、それだけがアンタ等の価値なんかじゃない。

人の英知が産み出した物なら、人を救ってみせろ。

肩部装甲、リアクターパージ。
フィールドバリア、全開。
肩部装甲、ウイングスラスター、PIC固定。
ラウラに背中を向ける。

「ちょっと揺れるぜ? 我慢してくれよ」

揺れるのはセシリアのおっぱ
ガツンと強い衝撃。
バリアが抜かれるかと思ったが、なんとか持った。
持たしてくれた。

二人を避難スペースに投げ込むと、ラファールリヴァイブカスタムが、
シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤークローに捕まっているのが見えた。
じりじりと引き寄せられる中、それでもシャルロットは銃弾を撃ちこむ。

「面白い。世代差と云う物を魅せつけてやろう。―――往くぞ」

なんで俺は、銃を持っていない。
なんで俺は、遠距離兵装を持っていない。
例えこの身が届かなくても、殺意を届けられる何かを、俺は持っていない。

持ってない。
持ってないから、―――どうだと云うのだ?
持ってないから、持っていない事を嘆くのか?
持ってないから、諦めるのか?
そんな負け犬は、織斑一夏じゃねえ。

「白式。フライトユニット・アンロック、右腕部部分解除、再展開、フライトユニットに結合」
[Order to Providence]

ISのブースターってのは、何百キログラムという重量を音速の世界まで加速させる性能がある。
もし、それがブースターだけの質量だけで全力稼動したらどうなるか。

スラスターに右腕をくっつけて準備完了。
さあて、本日初御披露目!
受けろよ、男のロマン。
大声で叫ぶのは、お約束な?

「ロケットォ! パンチッ!」

そりゃあもう凄いスピードで迫ってくる拳を、ラウラは驚きつつもAICで止めた。
ですよねー。
くそ、叫ばなければいけたかもしれん。でも、男の本能が囁くのだ。
ガッカリウルフとか、嫌いだろ?

だが、目的は達した。
俺は、ただ一瞬のスキを作るだけでよかったのだ。
あとは、あいつの仕事。

一瞬で懐にもぐり込んだシャルロットが、その右腕を突きたてる。
はっきりとは見えなかったが、何かしらの武装を物質化させたようだ。
あの距離では、もう遅いだろう。

「天国まで、ブッ飛びなよ?」

押し当てて、トリガーを引く寸前。


「其処までにしておけよ、餓鬼共」


割って入ったのは、我等がブリュンヒルデ、織斑千冬だった。
生身で接近、ISの近接ブレードによる攻撃でシャルロットの武器だけ破壊した。
人間か、あの女。






「模擬戦をやるのは構わん。だが、アリーナのバリアーまで破壊する事態ともなれば、教師として黙認は出来ん。
 この戦いの決着は、学年別トーナメントでつけてもらう」

「教官が、そう仰るのであれば」

ラウラがISを待機状態に戻す。
あっさりだな。何この従順な娘。

「おいおい一介の教師がそんなに怖いかドイツ軍人様よう! まだ終わっちゃいねえだろうが!
 芋引いて逃げんのか糞ったれが! 粋がるだけのガキかテメエは!」

「煽るな、織斑」

ふぅ、まあいっか。
IS解除。
ヅカヅカと歩く。
拳は強く強く握り締める。
殴る。絶対殴る。

「織斑、デュノアも、それでい―――」
「いいわきゃねえだろう、無能」

ガンと、感情のままに、織斑千冬の胸をぶん殴った。
顔を殴らなかったのは、最後の良心だ。

「貴様、教師に手を挙げ―――」
「その教師様は何を見ていたよ。お前の生徒は、生身の人間相手にISで射撃を行ったんだぞ?
 何を教えてるんだよ。おいこらテメエ、答えやがれ。お前は何を教育したんだよ!」

俺がこの貧弱な腕力で殴ろうともビクともしねえだろうさ、この人は。
それでも、止められない。ネクタイを掴んで引っ張り上げた。
自然と首が絞まる。それでも、なんともないんだろうさこの人は。
なら、苦しそうな顔をするのはなぜだろう。

「テメエは俺に教えてくれただろうが! 武器の重さを! 人殺しの道具がいかに重いかって事を!
 それをなんで教え子が知らねえんだよ。そんな半端な教育しか出来ないのなら―――教師なんか、辞めちまえ!」

はき捨てて、突き飛ばして、アリーナを後にする。
その場にいる全員を無視して。俺は歩きながら考える。
ラウラ・ボーデヴィッヒ、セシリア・オルコット、凰鈴音、織斑千冬。
なんだってんだテメエ等は好き勝手やりやがって。
好き勝手やるのはそりゃあ勝手だけど、人に迷惑をかけるのは違うだろうが。

面白くねえ。全然面白くねえぞ。
のほほん仲良く手を繋げとは云わねえが、弾みで殺人が起きる人間関係なんかあっちゃ駄目だろうが。
ルールを守れとは云わない。どっちかというと俺は破る側の人間だから。
だけど、道徳や倫理観を捨て去って戦うのであれば、それは獣と同じだろうが。
なあ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
そんなもんは強さじゃねえ。
そんなものじゃ、誰も守れない。何も守れない。
いつかきっと、失って初めて、自分が以下に弱いか思いしるぜ。
だから。
失う前に、取り返しがつかなくなる前に。
お前は、此処で折れろ。






















「とりあえず、二人とも無事でよかった」

保健室にて、治療が終わったタイミングで現れた一夏と篠ノ之箒、シャルル・デュノア。
一夏はさも安心した、とばかりに顔をほころばせる。
セシリアは「不様な姿を晒してしまい、羞恥の極み、ですわ」等といっている。
本当に不様だったわよ、あんた。
私はともかく、あんたは単品でドイツ娘に勝てた可能性があるっていうのに、気がついてないのね。
あの銀髪を調子に乗らせたまんまなのも癪だし、これからあんたを鍛えてやるわ。

千冬さんはなんか今にも自殺しそうな顔で謝罪してくるし。
ラウラは噛み殺さんばかりの表情でこっちを睨んでくるし。
なんともまあ、ねえ。

「ちょっと鈴と話があるから、全員邪魔しないでね」

セシリアと会話してた一夏が、突然笑顔でそういった。
あれよあれよという間にカーテンをひき、二人きりの密閉空間を作り出す。
え、一夏まさかこんなところで!
駄目、みんなに聞こえちゃう!

「鈴」

「格好悪い姿を見せちゃったわね。にゃは、にゃははは」

誤魔化すように笑う。
だけども、一夏は笑わない。

「鈴」

「にゃは、ははは、はぁ」

観念したようにため息をつく。
だけども、一夏の態度は変わらない。

「鈴」

「心配かけてごめんなさい。怒ってるわよね?」

「ああ、怒ってる。怒ってるに決まっているだろう」

ああもういやだなー一夏本気で怒ってるよでも私から手を出した訳じゃないんだよあっちから出したしそれにギブアップすら出来ない状況だったんだもんだから許してよ一夏ごめんなさい謝るからさー。
一夏が不機嫌な顔のまま、ベッドに座る。
一夏は私の体を触っていく。傷の具合を見るように。

「一夏、痛いよ」
「煩え、黙れ、動くな」

肩を、脇を、二の腕を、腹を、腰を。
余すことなく、触っていく。
私に痛みを反芻させる。
躾、だ。

危ない事をやったんだから、心配かけさせたんだから、その罰。
痛い。痛いけど―――甘い。
一夏の愛で傷付けられていくように感じて、甘い。

処置されていなかった手の指先、一夏はそれを見つけ。
舐めた。

「あっ」
「喋るな」

口の中に指を入れられ、顎を固定される。
一夏の親指は、私の舌を押したり、撫ぜたり、突いたり、擦ったり、思うさまに弄くっている。
私の指は、一夏に舐められ、しゃぶられ、嬲られている。

ああ、キレてるんだ。一夏。
命に別状があったかも知れなかった。
あれはスポーツなんかじゃなかった。
こんな指先の傷が気にならない位、傷を負ってしまった。
痕が残らないのは不幸中の幸いだ。

「んっ」

一夏の指が私の唾液でびちゃびちゃになって、伝って垂れていく。
私の指は、一本一本丁寧に舐められ、拭われていく。
それはまるで、凰鈴音と織斑一夏の関係みたいで。

「ウチの娘を傷物にしてくれた礼はたっぷりしねえとな……」

ボソリと呟く一夏。
だからあたしとアンタは同い年だし子じゃないし傷物ってなんか意味が違うし、
とそんな文句が頭の片隅に出るが。
私は、その、愛されている実感に胸が暖かくなってしまうのでした。
わっほっほーい。

……アタシって、ホント馬鹿。































セシリアさんと凰さんの見舞いを済ませ、一夏と部屋に戻った。
今日は大変だったなぁ。
それにしても、まさかブリュンヒルデを殴るなんて。
一夏は無鉄砲にも程があるよ。

「シャルロット」

「なあに、一夏」

なんだか弱気な声。
きっとあの件だ。

「学年別ツーマンセルトーナメント。俺と、組んでくれないか? 負けられない、理由が出来た」

「そうだねぇ、ぼくもちょっと、流石に頭にキてるよ」

ほらやっぱり。誘ってくれると思ったよ。
一夏はぼくの有用性に気付いてる。ぼくの鷹の目にも気付いてる。
ぼくの専用機はカスタムしているとはいっても、所詮第二世代機。
第三世代機にはスペックでは劣ってしまっているし、何より決め手に欠ける。
第三世代機とは単一仕様能力を用いずに、イメージインターフェイスを活用した特殊兵装を詰んだ機体だ。
未だ実験段階を超えていないが、それでもラウラのAICの様に圧倒的な性能を誇る物が少なくはない。
正直、一対一でまともにやってしまうと、第三世代IS乗りでぼくが勝てるのは一夏くらいのものだろう。
けれども、ぼくのラファールは、強い。
不安定な第三世代機とは違う堅実性、応答性。その圧倒的な操作性能の良さとフェードバックの鋭さ、カスタム性。
武装の種類の多さもあいまり、多人数の戦闘におけるバックアップとしては、ラファールは未だに世界トップの座に位置する。
その上にぼくの状況判断能力、高速切替も加われば、鬼に金棒だ。

部屋に戻るまでに御互いかなりの数の誘いがあったけど、申し合わせも無く蹴り続けたのは、そういうことだろう。

「でも一夏なら、わざわざぼくと組まなくてもいいんじゃない? 誰を誘っても組んでくれると思うけど」

だからこれは、ちょっとした意地悪だ。
女の子は誘われるとき、抑えていて欲しいポイントが二つある。

「シャルロットじゃないと、駄目だ。俺はシャルロット・デュノアの力が欲しい。
 ただ勝つだけじゃ駄目なんだ。ラウラ・ボーデヴィッヒを負かすだけじゃ、彼女は変わらない。
 彼女が憧れる『織斑千冬』が持たない力で倒さないと、彼女は学ばない、認めない」

和衷協同で事に当たる、と。
その相手としてぼくが選ばれるのは、ぼくじゃないと駄目だと言われるのは、嬉しい。有頂天外になっちゃいそうだ。
ポイントの一つ目は手堅く押さえてきました織斑選手。

「だから、俺に力を貸して欲しい」
「一夏」

なんだかんだ、一夏は弱気だ。
人の気持ちを、決め付けたりしない人だ。
だけど、そうじゃないでしょ男の子。

「淑女に物を頼む時は、手にキスをして『お願いしますプリーズ』が基本だけど。
 漢が女に頼むときは、違うでしょ?」

一夏は一瞬ぽかんとして、弱気な顔はどこにいったのやら、転じてケモノ染みた笑みを浮かべた。
そうやって強気な方が格好良いよ。ただでさえ一夏は草食系の顔立ちだから、ギャップで中々に、魅力的だ。

「黙って俺について来い、シャルロット・デュノア!」

「これでぼく等は一蓮托生だ。一夏、―――絶対に勝つよ」

仏国女は気が強いって有名なんだから、きちんと手綱を握ってくれないと、ね。


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