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No.32831の一覧
[0] 無関心は悪意に似て【SF】(完結済)[プルルナス](2012/06/14 20:57)
[1] 私と友人の休日[プルルナス](2012/04/18 20:50)
[2] 知らない権利[プルルナス](2012/05/17 22:13)
[3] 敵は何処に[プルルナス](2012/04/30 19:41)
[4] 焦燥と憂鬱[プルルナス](2012/05/07 22:48)
[5] 進化の一歩[プルルナス](2012/05/21 20:12)
[6] 沈む夕日と腐る世界[プルルナス](2012/05/30 19:44)
[7] 責任の行方[プルルナス](2012/06/11 19:18)
[8] 26世紀より愛をこめて[プルルナス](2012/06/14 20:56)
[9] あとがき[プルルナス](2012/06/14 22:15)
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[32831] 焦燥と憂鬱
Name: プルルナス◆22547b37 ID:ec2c350f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/07 22:48
○焦燥と憂鬱



「真に残念だ。」

そう言って私が合図を送ると、通信員が指定ブロックへの通信スイッチを切る。

通信員は泣きそうな顔をしていたが、私は見ない振りをした。
通信員だけでなく、ここに詰めているものは口数少なく業務に没頭しようとしている。
恐らく私も血色が悪い顔色をしているのだろうが、赤い非常灯で隠せていると思いたい。

汚染ブロック切り離し成功
消毒処理開始信号を受信
致死性ガス濃度、規定値まで上昇
生体反応消失
ブロック構造体解体開始
連鎖式空間消去弾頭ロック解除、発射
弾着今、弾頭効果発現を確認
居住構造体解体終了まで15sec.

次々に上がってくる報告の声も、心なしか震えている様に感じる。
これで今月の封殺処分は4例目になるが、誰だってこんなこと慣れるはずが無い。
この命令ひとつだけで1万余名もの人間が死ぬ。
徴兵という名目で保護している人達が、だ。
私は処理が終わると監視員を残して休むように指示し、部屋に戻った。

私室に戻り硬いベッドに横になる。
しかし、徹夜後なのに全く眠る気にならない。
なぜ、こんな事になったのだろうか?

私は5年前に閑職である最外縁部警備隊司令を拝命して、辺境警備の任についていた。
この職は10数年前、電波探索により地球外に起源を発する他の知的生命体から発せられた、
ある種の電波を受信し、その存在確認して以来創設された。
件の生命体との交流開始に向けてとりあえず作ったような任地だった。
暇こそが最大の敵と呼ばれるこの任地で、私は3年間何も無い日々を過ごすはずだった。
しかし、着任から1年過ぎたあたりを境に本部からおかしな報告が入り始めたのだ。

初めは、一部の市民の社会活動レベルが低下しているといったものだった。
次には、都市規模での機能不全とそれに伴う事故、社会レベルの低下。
最後には、余剰食糧があるにも拘らず餓死者が多発しているといった狂った報告。
周囲に興味をなくし自分の世界に篭り、
最後には食べることすら飽いて死亡するそれは、無気力症と呼ばれた。

学者やらなんやらが調査した結果分かったことがある。
伝染性であること
治癒方法が無いこと
ゆっくりと、しかし感染すれば確実に死に至ること

当初、医学者が調査したが、原因は見つからなかった。
その理由は簡単。最高レベルの防護策で挑んだ医療関係者が皆感染し、無気力化していたのだ。
軍や政府はパニックを恐れ、情報を操作し封じ込めに動いた。
皮肉にも、真実を見てきた現場周辺住民の殆どがこの無気力症に罹患しており、
外への興味を無くした結果、情報操作は驚くほど上手くいった。
しかし、他地域で多発的に発病が確認され、封じ込めが失敗したことが明らかになる。
この原因のわからない無気力病はすでに人類に蔓延しつつあった。

ここに来て政府はある決断をする。
人類そのものの隔離政策だ。
罹病者のいる危険区と、その近隣の準危険区、
そして清浄区に分けられ、物理的な交流が制限された。
ちなみに私の部隊は無気力症の発生前に完全隔離されているので無菌区として扱われた。
潜伏期間が分からないが、この危機が去るまでこの体制でいくこととなった。
残念ながら、政府や軍の中枢が存在する地域の殆どは危険区に指定され、
かつての中枢人員にもかなりの被害を出した。

私は最外縁部警備という物理的に隔離された無菌区の責任者となり、
政府に対し我々がここに留まることを進言し、物理的交流を絶った。
幸い、最外縁部には小規模ながら数個の医学、軍事などのラボがあったし、
私の部隊を養うには十分な生産プラントもある。
対応策が見つかるまで我々はノアの箱舟状態で待機することとなった。


当初、私は任期が1年延びるくらいだろうかと考えていたが、
すぐにそれが甘い考えであることを実感させられた。
どんな名医、研究者をかき集めた研究班も全く原因物質が分からない。
それどころか研究者がまず先に病気に掛かる。

私は部隊を無菌区として保全に勤める傍ら、
清浄区にいる人員を徴兵し、事情を伏せ小分けに編成して隔離部隊の管理もしている。
その徴兵部隊で罹患者が発見された場合は速やかに封殺処分を取っている。
もちろん、無菌区と清浄区の人員の物理的交流は無い。あっても一方通行だ。
清浄区を確保するのは最悪の事態が起こった場合、次世代へヒトという種を残すためだ。
無菌区はその殆どが軍人で構成されており、男女比や年齢が偏っている。
だから、汚染されていない清浄区が必要なのだ。

私は無気力症対策について強大な権限を持つが、
今、私ができるのは、腐った蜜柑を見つけて箱ごと弾く作業だけだ。
消極策しか打てない自分に苛立ちを感じることもあるが、恐怖心がそれを上回っていた。

死んでいった同僚たちは、辺境警備に回されるような私より何倍も優秀であったが、
優秀であるがゆえに本部参謀に留め置かれたり、無気力症封鎖の最前線に送り出され死亡した。
特に死亡直前の同期からの動画通信は衝撃的だった。
快活であった彼は、覇気は見えず、やせ衰え、ただ話すことさえダルそうにしていた。
その通信の数日後友人は「呼吸をすること」をやめた。
あの正体の分からない病原体に自分が感染することを思うと、叫びたいほどの恐怖を感じる。

私が天井の明かりを見ながら物思いに耽っていると、
Cツールから電子音が聞こえてきた。
直接聴覚神経に届けられる通信の呼び出し音だ。
発信は汚染を免れた軍事研究所の研究主任からである。

「私だ。」
『司令。選択分解性細菌様兵器が完成しました。』
「……わかった。」

私は寝転がって着崩れたシャツを最低限直して、
顔色が戻ったのを鏡で確認した後、部屋を出た。


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