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No.32805の一覧
[0] ガイアが俺に地球を守れと囁いている(オリジナル・コメディ)[ウサギとくま](2012/04/16 15:27)
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[32805] ガイアが俺に地球を守れと囁いている(オリジナル・コメディ)
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:07f2e670
Date: 2012/04/16 15:27
「緑高ーッ! ファイオッ! ファイオッ!」
「オラ一年っ! 声が小せえんだよ! もっと声張れや!」
「緑高ォォォッ! ファイオゥッ! ファイオォォォ!!!!」
「だから小せえって言ってんだろうがっ! 3km追加だオラ!」
「ハイッ!!!」

今日の朝、天気予報を見たが今日はこの夏、一番の暑さになるそうだ。
ただでさえ糞暑いのに、狭い通学路を一人一人が太陽レベルの熱気を発しながら集団で駆け抜けていく丸刈りのムサイ男たち。
アイツら知ってる。ウチの高校の野球部だ。
よく見ればウチのクラスの奴も集団の中にいる。

俺は通学路の壁際に張り付きながら、汗塗れガチムチ特急が過ぎ去るのを見て思った。
一体何が楽しいのだろうかって。
だってさ、今って夏休みなんだぜ?
夏休みってさ、授業に拘束されないフリーな一日を存分に堪能できる神の休みなんだぜ?
それをまあ、糞うるせえ坊主の先輩にオラオラ言われながら、ヒーヒー言いつつ町内走り回るとか……正気の沙汰とは思えん。
もっとさ、やることあるじゃん? 俺みたいにさ。
深夜アニメ見てイカちゃんペロペロしたりさ、キルミーベイベーを一気に3周見るとかさ……色々あるわけじゃん。
ほんと、信じられんね。
青春の無駄遣いし過ぎ。青春終わった後に愕然としても、世の中青春借してくれる闇金とかないんだぜ?
青春って今だけ! 今しかないから青春って言うの。
俺はコイツらに言ってやりたいね。

――お前らそれで満足かい?

ってな。俺だったら嫌だね。
ペロペロできない人生なんて楽しくもなんともないじゃん。

で、何で俺がそんな糞暑い中、用もないのに通学路に突っ立っているかだって?
まあ、ね。
俺さ、気づいたんだよ。夏休みの半分を家ん中でアニメ見たりゲームしたりフィギュア下から眺めたりして過ごしててさ……ふと気づいちまったわけ。
確かに自分のフィールド、自分の部屋は敵がいないし心安らかで心底楽しいし落ち着く。
誰からも敵意なんて向けられねえし、面倒くさい人間関係に煩わされることもない。
でも、ある時気づいた。

――ここに居ても何も変わらない。

って。敵がいない場所での穏やかに過ごすのもいいけどさ……味方もいないわけ。
自分しかいないわけだわ。自分で楽しんで、自分で笑う、自分で感動する――自分自身としか価値を共有できない……完全に自己完結。
このままじゃいけない。
このままだと俺の青春灰色だって。
俺だって本当は知ってる。
部屋の中で一人で遊んでても得る物より、クソ暑い中仲間たちと部活に打ち込んで得る物の方が何十倍も大切な宝物なんだって。
誰かと価値を共有してこそ、真の価値を見いだせるんだって
何かに情熱を注ぎ込むことが本当の青春なんだって。

だから俺は家を出た。
外に出ればきっと何かが……何かがある、そう思って。
家の中には存在しない何かがあって、俺の人生観は変わり、俺の人生のレールは分岐する。はず!

そしてこうやって何の目的も無く町内をうろついてるわけだが……。

「こりゃミスったかね」

拭いても拭いても溢れ出る汗を見ながら呟く。
家で部活物のアニメを見てたら、何とも言えない焦燥感に襲われて家を出たけど……何も無いな。
さっきみたいに部活の連中がランニングしてたり、公園でガキが携帯ゲームしてたり……いつも通りだ。
そりゃそうだ。自分を変える何かなんて、そうそうあるはずもない。
みんな長い人生の中で見つけたり、見つけたけど見失ったり、やっぱり見つからなかったりと切磋琢磨するんだ。
スタートの号砲すら聞かなかった俺に資格があるはずない。先にスタートした連中の背中は見えない。

だから俺はスタート地点で座り込んだ。今までもそうだったし、これからもそうだ。

ああくっそ。時間無駄にしちまった。この時間あればキルミーベイベーもう一周いけたのに。
いや、今からでも遅くねえ、帰ってキルミるか?

そうやって物思いに耽っていたのが悪かったのだろうか。
住宅街を歩いていた俺の足は、地面を踏むことに失敗した。
急激にバランスが崩れる。
慌てて足元を見ると、アスファルトにぽっかりと、人一人がすっぽり落ちるくらいの穴が空いていた。
すぐ真下の穴は黒くどこまでも底が見えない。
しまった!と気づいてからは遅すぎた。
俺の体はその黒い穴の中へストンと落ちた。

黒い闇の中に落ちる寸前、俺の脳は「こんな所にマンホールなんて無かったはず……」と疑問を抱いたが、落下の衝撃で意識と共にその疑問も吹き飛んでいった。



■■■



最初に感じたのは懐かしい匂いだった。
子供の頃を思い出すこの匂い……そうだ、これ田舎の婆ちゃん家で嗅いだ匂いだ。
婆ちゃん家の……畳の匂い! 青臭いけど何か癖になるこの匂い、間違いない!

俺は目を開いた。
目の前には想像通り、畳の目がある。
どうやら俺は、畳の上にで俯せになっていたらしい。

周囲を見渡す。
狭い部屋だ。床には俺が寝ている大きさの畳が他に5枚。
俺のすぐ側、6畳分の畳の中心にはこれまた懐かしさを感じる、若干色が剥げた茶色い丸テーブルが。
四方は補修跡の見られる壁で囲まれている。
本棚の壁、押入れの壁、台所の壁、そして玄関の壁。

どこからどう見ても、ちょっと古ぼけたアパートの一室だった。

「……ここは一体」

俺って確かマンホール……に落ちたはずだよな?
マンホールを抜けるとそこはアパートの一室でした……ってアホか。
多分俺が落ちる所を見た誰かが、俺を助けて自分の部屋に連れていってくれた……とか。
いや、それでもおかしいな。
俺途中で意識失ったぽいけど、体は完全に穴の中に落ちてたし。
マンホールの下の下水に落ちたなら、服が汚れてないのもおかしい。

「……」

ここで俺の脳内にある一つの答えが提示された。

――俺はマンホールに落ちて死んだ。んでここはあの世。

ば~っかじゃねぇの? 
俺は自分で出した答えを即座に放棄した。
死んだとか、お前……んなわけねーよ。
だ、大体あの世がこんなアパートの一室とか、ありえないにもほどがあるって。

馬鹿馬鹿しいアンサーを投げ捨て、部屋の様子を探っていると、ガチャリと音を立てて部屋のドアが開いた。
開いたドアからは少女が一人スッと音も立てず入ってきた。

あ、ここあの世かも。

俺は彼女を見てそう思った。
だってカワイイ……この世の者とは思えないほどカワイイ。
髪は黒いのに何かキラキラ光を反射して、自分の頭に生えている物と同じなんて思えない。
顔は小さくて鼻とか口とか、なんて言うんだろう……美を司る系の神様が徹夜してピンセット使って作った様な……俺の語彙じゃ表せねえ!
目がちょっと眠そうに半眼気味なのもギャップがあっていい!
服は白いワンピースに地球がプリントされてて……あれは無いわ。ダセエ。

そんな天使系ガールが俺の目の前に現れたから、やっぱここあの世かもしれん。
天使ちゃんは畳の上で寝転んでいる俺を見て、小さな口を開いた。

「おはようございます。目覚めの方はどうですか?」

決して大きな声じゃない。でも耳の中にスッと入ってくる涼しげな声だった。
俺は即座に姿勢を正し、正座の体勢をとった。

「は、はいっ。と、とてもいい目覚めでした!」
「そうですか、それはよかったです」

少女は半眼のまま、特にこれといって表情を変えず、テーブルを挟んで俺の正面に座った。
そのままペコリと頭を下げる。

「初めまして。私の名前はガイアです。気軽にガイアちゃん、とでも呼んでください」
「え、あ……ガ、ガイア?」
「はいガイアです。何か私の名前に問題でも?」
「あ、いや! そ、その……素敵な……お名前です、ね」

正直かなりクレイジーな名前だと思った。
多分親が最近流行りのキラキラネームをつけちゃったんだろう。
まったく、子供は親のおもちゃじゃねーんだぞ! 大人になった時のこと考えろよもう!

「あ、そ、それでガイアさんここは――」
「ガイアちゃん」
「え?」
「ガイアちゃん、そう呼んで下さいと言いました」

マジかよ……。
ただでさえ『ガイア』って名前呼ぶの恥ずかしいのに、その上初対面の相手をちゃん付けしろとか……これ何の拷問だよ……。
やっぱここあの世なんじゃね? 俺もうあの世にいて罰受け始めてるんじゃね?

「じゃ、じゃあガイア……ちゃん」
「はい」
「ここって、ガイアちゃんの家?」
「はい、そうです。私の家です」

ああ、やっぱそうだよな。
ガイアちゃんの歩き方、完全に自分の家を歩くそれだったし。

「という事は……俺を助けてくれたのって、ガイアちゃん?」
「助けた、とは?」

こてりと首を傾げるガイアちゃん。

「いや、だから……マンホールに落ちた俺を……助けて家に連れて帰った……とか」
「……?」

自分で言っててねーわ。こんな非力な女の子が俺を下水から引っ張り上げて家まで連れて帰るとか不可能の極みだろ。
だとすると何だ? 俺が落ちたのを目撃したガイアちゃんが、誰か助けを呼んで引っ張り上げた? いや、それでも何でガイアちゃんの家にいるのかが分からん……。

「何か勘違いしているようですが……」

困惑する俺の表情を見たガイアちゃんは言った。

「ここにあなたがいるのは、あなたがマンホールに落ちたからでも、私があなたを助けたからでもありません」
「え?」
「私が私の意思で、あなたをこの場に呼び寄せたのです」

俺の頭に疑問符が大量に浮かんだ。
え? なにそれ? 謎かけ? 屏風から虎を出して交尾してみせよとかそういう系?
俺駄目だわー。そういう頭使う系の駄目だわー。
もー降参! 俺高一だけど降参! さっさと答えを教えてくれよ!

「ですから、私がある目的の為にあなたをここへ呼び寄せました」
「呼び寄せたって……」
「あなたが落ちた穴、あれは私が作り出したもので、ここへ繋がっていました」

むむ、何だかきな臭い話になってきたぞ……。
ガイアちゃんは相変わらず表情を変えず、ジッとこちらを見つめたままだ。


「作り出したって……んな、魔法使いとか神様みたいな……え? 笑うところ? ギャグ?」
「ギャグではありません。……そうですね。私はあなた達が言うところの神、それに限りなく近いものだと思ってもらって結構です」
「神……」

あ、あー、はい。そういうことね。あるある。
そっちが神だったら俺なんてあれだよ? 前世で勇者に負けて別の世界の人間に転生、操を捨てることで魔王としての力を取り戻す――って設定持ってるよ? 現在進行形で。詳しく語ると2時間はかかるからまたの機会に、な。
神、神か。神ねー。いや分かる! ガイアちゃんそういう年頃だろ? 何歳かは分からないけど、明らか俺より年下だろうし。中学生くらい?
そーいう時期って得体の知れない万能感とかもっちゃうよね。俺だってそうだった。全裸になって体中黒く塗って夜中に、ステルス迷彩ごっことか言って徘徊したりした。だから分かる!

「神か。へー、すげえな。神なんだー、すごいなー憧れちゃうなー」
「信じる気が微塵もありませんね」
「いやいや信じる。信じるって」

心無しかムッとした表情を浮かべた(気がする)ガイアちゃんを見て、何だか微笑ましい温かさが心に灯った。
俺も進行形なんだけど。

ガイアちゃんは無表情のまま溜息をついた。

「……分かりました。証拠を見せましょう。――3月14日 晴れ 今日はとてもいい日だった。満員電車ですぐ後ろに巨乳の大学生らしき女性が立ち、電車が揺れる度に彼女のダブルパイナップルが俺の後頭部にドッグファイトを仕掛けてきたのだ。俺の後頭部も懸命に攻撃を受け止めるも結果18勝0敗。もー俺の完パイ! で、次の対戦はいつにしますか? 次は海戦にしましょう! 俺の不チン艦見せてやるぜ!」
「……ん? 何それ? どっかで……」
「4月13日 曇 今日ファミレスで昼食を食べていると、ドジっ子っぽいウェイトレスが俺のズボンに水をぶちまけた。猛烈な勢いで謝りながらおしぼりでズボンを拭かれる。おい! もっと上だ上! ちっ、いくら払えばいいんだおい! 食欲満たしにきて他の欲刺激されるとは思わなんだ! 店長を呼べ! 美人店長を!」
「おまっ! ちょっ、待って――」

それ俺がつけてる日記じゃん! 半分以上が妄想の! つーか俺の脳内だけにある日記なんですけど! 未出版なんですけど! なに? 俺の脳ハックされちゃったの!? 流出!?

「5月15日 やっべえ彼女マジで欲しい。もうラ○プラスじゃ我慢できねえんだよ! DSが涎でベトベトンなんだよ! つーかちょっと溶けてきてる! ……え? 何で溶けちゃうの?」
「分かった! もう分かった! だからやめてくれ!」
「12月24日 今日はクリスマス。優しいサンタさんである俺は町で仲良く愛を育んでるカップルに……バットでホームランをプレゼントするのさ! 目指せ打率10割! ……と覆面をして家を出たところで、彼氏と歩く幼馴染を見つけた。……俺、何やってるんだろ。しかも通報されるし……本当に、俺、何やってんの……ウゥ」
「ウオオオオオオオ! ヤメロオオオオーーーン! 今のは俺の心があげてる悲鳴だ! 可哀想だろうが!」

心の悲鳴はダイレクトに俺の感情を揺さぶり、俺の瞳からは大粒の涙がボロボロと流れてきた。
ああ、そうかい。分かったよ。ガイアちゃん、あんた確かに神様だよ。

「この邪神!」
「……信じないあなたが悪いのでは?」
「この涙を見てもそう言えるのか!?」

俺の瞳から流れた涙はさながら滝の様だ。多分涙たちは知らないんだ『止まる』ってことを。止まることを知らない涙達はどうなるんだ? このままここに湖でも作っちゃう? んで哀れな男の涙から生まれた湖なんて逸話を付けちゃう? 無論著作権は俺にあるぞ。

「……分かりました。謝ります。少々心の傷を刺激しすぎたようですね。反省します」

ガイアちゃんはペコリと謝った。でも表情は全然申し訳なさそうじゃねえ。
まあ、こういう子なんだろう。そう思って納得することにした。

「で、ガイアちゃんマジで神様なのか……」
「神とはまた違うのですが……限りなく神に近いものと思って下さい」
「近いもの?」
「……ええ。私はホシです」
「ホシ?」

ホシ……犯人? ヤス? ガイアちゃん=ヤス? 

「ホシ――地球です。正確に言うならば、地球意思という存在になります」

地球、意思? 地球……って青い? 僕らの地球? いわゆる宇宙船地球号? へー、宇宙船地球号のパイロットってこんな可愛らしい女の子だったんだ。
俺これからもっと地球に優しくしよーっと。でも野良ションの頻度は増えちゃうかも。大地=ガイアちゃんのお肌って考えるとそれだけでもう……!

暴走しつつある俺の妄想をよそにガイアちゃんの話は続いた。

「あなたをここに呼んだ目的、それはあなたにお願いがあるからです。今、私――地球は狙われています。しかし私にはどうすることもできない……あなたの力が必要なんです」

ガイアちゃんの顔からは、嘘の要素なんて微塵も感じ取ることができなかった。
地球が狙われてる? それで俺に助けろって? こんな一般高校生の俺に?
一生懸命な人間を眺めるだけで、同じレーンに立とうとすらしなかった俺に?





高校一年の夏、当たり前の日常を変えたいと思っていた俺の前に、彼女は現れた。
ガイアちゃん――地球の意思はこう言った。




「お願いします。――ガイアの守護者として、地球(わたし)を助けてください」




どこかでスタートの号砲が聞こえた気がした。


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