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No.32711の一覧
[0] 機動戦士ガンダム0086 StarDust Cradle ‐ Ver.arcadia ‐ 連載終了[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:06)
[1] Prologue[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:00)
[2] Brocade[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:01)
[3] Ephemera[廣瀬 雀吉](2012/05/06 06:23)
[4] Truth[廣瀬 雀吉](2012/05/09 14:24)
[5] Oakly[廣瀬 雀吉](2012/05/12 02:50)
[6] The Magnificent Seven[廣瀬 雀吉](2012/05/26 18:02)
[7] Unless a kernel of wheat is planted in the soil [廣瀬 雀吉](2012/06/09 07:02)
[8] Artificial or not[廣瀬 雀吉](2012/06/20 19:13)
[9] Astarte & Warlock[廣瀬 雀吉](2012/08/02 20:47)
[10] Reflection[廣瀬 雀吉](2012/08/04 16:39)
[11] Mother Goose[廣瀬 雀吉](2012/09/07 22:53)
[12] Torukia[廣瀬 雀吉](2012/10/06 21:31)
[13] Disk[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:30)
[14] Scars[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:32)
[15] Disclosure[廣瀬 雀吉](2012/11/24 23:08)
[16] Missing[廣瀬 雀吉](2013/01/27 11:57)
[17] Missing - linkⅠ[廣瀬 雀吉](2013/01/28 18:05)
[18] Missing - linkⅡ[廣瀬 雀吉](2013/02/20 23:50)
[19] Missing - linkⅢ[廣瀬 雀吉](2013/03/21 22:43)
[20] Realize[廣瀬 雀吉](2013/04/18 23:38)
[21] Missing you[廣瀬 雀吉](2013/05/03 00:34)
[22] The Stranger[廣瀬 雀吉](2013/05/18 18:21)
[23] Salinas[廣瀬 雀吉](2013/06/05 20:31)
[24] Nemesis[廣瀬 雀吉](2013/06/22 23:34)
[25] Expose[廣瀬 雀吉](2013/08/05 13:34)
[26] No way[廣瀬 雀吉](2013/08/25 23:16)
[27] Prodrome[廣瀬 雀吉](2013/10/24 22:37)
[28] friends[廣瀬 雀吉](2014/03/10 20:57)
[29] Versus[廣瀬 雀吉](2014/11/13 19:01)
[30] keep on, keepin' on[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:50)
[31] PAN PAN PAN[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:25)
[32] On your mark[廣瀬 雀吉](2015/08/11 22:03)
[33] Laplace's demon[廣瀬 雀吉](2016/01/25 05:38)
[34] Welcome[廣瀬 雀吉](2020/08/31 05:56)
[35] To the nightmare[廣瀬 雀吉](2020/09/15 20:32)
[36] Vigilante[廣瀬 雀吉](2020/09/27 20:09)
[37] Breakthrough[廣瀬 雀吉](2020/10/04 19:20)
[38] yes[廣瀬 雀吉](2020/10/17 22:19)
[39] Strength[廣瀬 雀吉](2020/10/22 19:16)
[40] Awakening[廣瀬 雀吉](2020/11/04 19:29)
[41] Encounter[廣瀬 雀吉](2020/11/28 19:43)
[42] Period[廣瀬 雀吉](2020/12/23 06:01)
[43] Clue[廣瀬 雀吉](2021/01/07 21:17)
[44] Boy meets Girl[廣瀬 雀吉](2021/02/01 16:24)
[45] get the regret over[廣瀬 雀吉](2021/02/22 22:58)
[46] Distance[廣瀬 雀吉](2021/03/01 21:24)
[47] ZERO GRAVITY[廣瀬 雀吉](2021/04/17 18:03)
[48] Lynx[廣瀬 雀吉](2021/05/04 20:07)
[49] Determination[廣瀬 雀吉](2021/06/16 05:54)
[50] Answer[廣瀬 雀吉](2021/06/30 21:35)
[51] Assemble[廣瀬 雀吉](2021/07/23 10:48)
[52] Nightglow[廣瀬 雀吉](2021/09/14 07:04)
[53] Moon Halo[廣瀬 雀吉](2021/10/08 21:52)
[54] Dance little Baby[廣瀬 雀吉](2022/02/15 17:07)
[55] Godspeed[廣瀬 雀吉](2022/04/16 21:09)
[56] Game Changers[廣瀬 雀吉](2022/06/19 23:44)
[57] Pay back[廣瀬 雀吉](2022/08/25 20:06)
[58] Trigger[廣瀬 雀吉](2022/10/07 00:09)
[59] fallin' down[廣瀬 雀吉](2022/10/25 23:39)
[60] last resort[廣瀬 雀吉](2022/11/11 00:02)
[61] a minute[廣瀬 雀吉](2023/01/16 00:00)
[62] one shot one kill[廣瀬 雀吉](2023/01/22 00:44)
[63] Reviver[廣瀬 雀吉](2023/02/18 12:57)
[64] Crushers[廣瀬 雀吉](2023/03/31 22:11)
[65] This is what I can do[廣瀬 雀吉](2023/05/01 16:09)
[66] Ark Song[廣瀬 雀吉](2023/05/14 21:53)
[67] Men of Destiny[廣瀬 雀吉](2023/06/11 01:10)
[68] Calling to the night[廣瀬 雀吉](2023/06/18 01:03)
[69] Broken Night[廣瀬 雀吉](2023/06/30 01:40)
[70] intermission[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:04)
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[32711] Pay back
Name: 廣瀬 雀吉◆b894648c ID:6649b3b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2022/08/25 20:06
 無念の表情で息絶えた敵の兵士の頭を蹴りつけながらブージャム1は前方へとひた走る兵士の背中に向かって委細構わず罵声を浴びせた。「おらぁっ、何をぐずぐずしてやがるっ! とっとと中に入って敵を皆殺しにしちまうんだよっ、バカみたいにこそこそ隠れてンじゃねえ! このグズがっ! 」
 今にも発砲しかねないほど高まる苛立ちは強烈なプレッシャーとなって配下の兵士へと襲いかかり、押し出された最前列が通路の終点にあるラウンジの扉を逃げ込むかのように蹴破って勢いよくなだれ込む。暗闇の中で沈黙を守っていた兵員食堂の巨大なラウンジはストレスが極限に達した兵士たちの手によって次々に椅子やテーブルがひっくり返されて、さながら無法者が暴れまくった西部劇の酒場へと姿を変えた。
「どうやらここには誰も ―― 」「ったりまえだっ! こんなとこで俺たち迎え討ったって返り討ちにあうだけだ、ボケがっ! そんなに脳みそ俺にぶちまけられたいかっ!? 」
 部下からの報告を食い気味に遮ったブージャム1が手にしたククリの切っ先でラウンジの奥にある金属の扉を指し示す。「奴らが俺たちをどうにかしようってンならこんなだだっ広い場所じゃなくて間違いなく調理場だ、侵入口は限定されるし中の構造は入ってみなきゃ分からねえ。俺たちが貰った見取り図にゃあそこまで書かれてねえからな」
「そこにキルゾーンが設定されてるって事ですか? 」自らを招き入れようとする虎口の存在にごくりと息をのむ兵士、だが得体のしれない恐怖が彼の臆病を刺激する前にククリの柄が頭に飛んで殴りつけた。「なに怖気づいてやがるっ! しょせんはど素人が作ったにわか作りの罠があるだけだ、とっとと中に押し入ってさっさと全部終わらすンだよ! 」

 調理場の出入り口は目の前にある大きなアルミ製のスイングドアと食器返却口のある直通式のステンレスカウンターの二か所のみ。内部の様子を探る為に先行した二人がカウンターへと駆け寄って観測用のファイバースコープをするすると引き延ばした。
 あたかも小さな蛇が鎌首をもたげてゆっくりとステンレスの上を這いまわり、先端にある極小のCCDやセンサーが捉えた映像やデータは全て手元にあるカメラへと反映される。「室内は間接的に青白い光で照らされています …… 室温、40度? 」
「暗視スコープ対策か。青白い光の正体は? 」状況を見守る分隊指揮を任された男が尋ねると探査モードを変えた観察兵がギョッとして答えた「! 99%紫外線。長い時間見つめれば裸眼でも障害が出ます」
「光学機能はアウト、赤外線モードも使えない …… 1にゃあ悪いがただの素人じゃねえぞ、こいつら」
「どうします、正面は諦めて裏手から攻めますか? 業者搬入用のヤードが使えれば ―― 」だが傍らにいた兵士が進言した時それは起こった。突然ドンと言う炸裂音とともに水柱が上がってモニターが白煙を噴きながら吹き飛び、今まで索敵を続けていた兵士が呆気に取られながら呟く。
「バカな、シンクにほんのちょっと浸かっただけなのに」
「つまりそこも侵入口としては使えないってことだ …… シンクに貼られた水の中には多分高圧電流が流れてる、しかもブレーカーを外して電源を直結 ―― 仕掛けは全部終わってるってか」
 こういう場合本来ならば敵が想像もつかない場所にC-4を仕掛けて開けた壁面からの突入が最も有効なのだがそれは先に全滅した先発隊がすべて持っていってしまっている。残る選択肢は ―― 。
「ここまで周到に準備してる連中が後方のヤードを無防備にしているはずがない、多少気味は悪いがここは普通の侵入手順で正面から内部へと侵攻する。Aの四人はポイントで先行、俺たちは後から時間差で突入。うまく入り込めたらすぐにツーマンセルで真横に展開、相互援護で前周警戒しながらラインで押し上げて敵の反撃に各個で対処 …… くれぐれもブービートラップには注意しろ」

 ゴムのクッションで目張りされたスイングドアをほんの少し押しあけただけでも中の熱気が肌へと伝わり、先発を任された四人は暗視ゴーグルを額にあげてできるだけ姿勢を低くして素早く内部へと押し入った。青白い間接照明に照らされた調理場とかすかに響く機械音、洗浄機の電源コードがシンクの中へと引き込まれているのを横目で確認しながら四人は唯一異質な明かりがともる通路にテーブルをはさんで二手に別れた。すぐ後から同じように侵入を果たした指揮官とハンドサインで合図をしながら各導線の入り口に陣取った彼らはほんの少し顔を上げて周囲の観察を始める。
「 …… 室温が高いのはあれのせいか」 
 紫外線灯とは違う黄色い光が壁に置かれた巨大な機械の内部から外へ漏れ出ている。人一人がすっぽり入れそうなそれは一度に大量の調理を可能にしたスチームコンベクションオーブン、敵は扉を開けはなったまま全力運転を行使しているのだ。
 合図を無言で受け取った二人の兵士がすぐに移動してオーブンの前にたどり着くと後方の兵士が銃を肩づけにして周囲を窺い、もう一人は傍らの台に銃を置いて巨大な取っ手に手をかけた。無理な体勢から閉じる分厚い扉はなかなか言う事を聞かず、閉じ切るだけでも額に汗がにじむ。それでも何とかその重労働を終え、ラッチがわりのハンドルを引き下げた時に噴き出していた熱気と庫内灯は息を潜めた。
「 …… やれやれ、これで赤外線モードだけでも」
 額の汗をぬぐいながら援護していた兵士に合図をして、台の上に預けてあった銃へと手を伸ばす ―― しかしグリップを掴もうとしたその手が猛烈な熱で焼かれた事に驚いたその兵士が向けた視線の先で、弾倉が真っ赤に焼けている。

 バンッ! という強烈な爆発音とともに吹き飛ぶ兵士の右手と顔面、事切れた肉体が床へと投げ出されるより早く生きている全員が手榴弾のピンを口にくわえて身構えた。「A2,状況っ!? 」
「 “ わかりませんっ! A1の火器のマガジンが突然破裂してA1死亡、敵の攻撃では ―― ” 」そこまで報告を聞いた途端に突然全員の視界が闇に包まれる。紫外線灯に晒された目がしばらく回復しない事を悟った分隊の指揮官はそこでやっと敵の意図を理解し、できるだけ小声で無線機に向かってまくしたてた。
「やられた、全員その場で待機したまま全周警戒維持っ! どんな気配も音も聞き逃すな、敵の罠にまんまとはまった! 」
 肝心の視力が低下してしまえば暗視ゴーグルの性能や機能など二の次、裸眼戦闘ならばそれを画策していた方に分がある ―― そして地の利も奴らのもの。
 だが、なぜだ!?
 どうして何もない所でマガジンの中の弾が暴発したりしたんだ!?

「全開の業務用IHヒーターの上に金物置きゃあすぐにそうなる。ま、表示板はガムテープで隠してあっから点いてるかどうかなんて剥がしてみなきゃわかんないけどな」置物のように動きを止めた敵を作業台の陰に隠れたグエンが気の毒そうに笑った。「と言う事で今まで経験した事のない罠に引っかかっちまったってわけだ。何不自由なく敵を血祭りにあげてきたあんた達にゃあ子供だましに見えるかもしれないが ―― 」
 そう言うと彼は握った二本のロープで先に繋がった鉄製のコックを一気に引き切る。「台所おさんどん預かってる人を怒らせるとおっかないってのは古今東西どこでもおんなじだぞ? 」

 パイプからほとばしった大量の液体が潜んでいた二人の兵士に襲いかかり、暗闇を引き裂くような断末魔の悲鳴が響き渡る。フライヤーに設定された最高温度 ―― 発火限界300度にまで熱せられた食用油はあっという間に二人の兵士の全身を侵食して筋肉の奥深くまでを完全に焼き焦がし、痙攣収縮を始めた指が本人の意思とが関係なく引き金を引いた。吐き出された銃弾はうつ伏せに倒れ込んだ彼らの体の下で跳ね返り防弾チョッキごと体を蹂躙する。
「! な、なんだっ!? 」「敵の罠ですっ! A3と4が行動不能っ! 」
 わずかに離れた場所で始まるデスゲームであっという間に3人、しかもどういうトラップが発動したのかさえもわからない。前に出る事も後ろへと下がることもできない彼らはただじっと息を潜めて視力が回復するのを待つしかない。だがそれを黙って見逃す奴らでもないっ ! 
「全員天井に向かって一斉射っ! 紫外線灯を全部破壊して室内を荒らせっ、立て直す時間を稼ぐんだ! 」
 号令一過無傷の五人から一斉に撃ち込まれる9ミリが天井をズタズタに引き裂いてそこにある照明を軒並み破壊し、先端につけられたサイレンサーから洩れるくぐもった銃声と小さな火が吐き出される度に降り注ぐ構造物は整理整頓の行き届いた調理場を無残な姿へと塗り替える。だがその瞬間に音もなく闇を走る閃光がスチームコンベクションの陰で発砲を続けていた兵士の胸へと到達した。
「 ―― ? 」
 体の奥にまで届く衝撃と冷たさに思わず視線を落とした先にある異物、まるで体から生え出たように見える金属を目にした瞬間に兵士の体から力が抜けてグニャリと床に横たわる。突然に始まる死の痙攣を閉じる意識で感じながらそれでも彼は自分に何が起こったのかを知ることもできなかった。

「これで四人目」
 調理台の陰にぶら下げられた包丁ケースからスラリと次の獲物を抜き出しながら浅黒い顔をした男が呟いた。彼らの装備している防弾チョッキが軽量強度に特化したアラミド繊維でできているのは陸戦隊からの報告で推測できる。確かに小火器程度の衝撃や防刃には優れた効果を示すのだが、唯一貫通力にだけは弱点を露呈する。
「俺たちの使ってる防刃手袋も同じ素材だからな。切り傷は防げるがなんかのはずみで刺しちまうと痛いのなんの ―― それにしても」そう言うと男は手にした刃渡り30センチもあろうかという牛刀の先端をウェスで摘みながらしげしげと眺めた。
「さっすがゾーリンゲン、バランスも切れ味も申し分なし」

「A隊が …… 全滅」
 その報告は分隊指揮をしている男にとっては悪夢だ。突入してわずか5分足らずで半数が敵の手にかかり、しかも状況は何の活路も見いだせない。次々と斃されていく恐怖に心臓を掴まれながらそれでもこのまま何もせずにやられる事だけはできない、死と隣り合わせの訓練や実戦をかいくぐって今まで生き延びてきた意地と実績は分隊指揮を任された能力の一端を垣間見せた。「やむをえん、A隊は放棄。残りはこっちの端の通路に集まって一列縦隊で一気に向こう側まで突破を図る、正面火力の差で圧倒する」
 幸いな事に少しづつ視力は戻りつつあり後方には無傷の1の部隊が控えている。警戒するのはニ方向だけで済むはずだ。「頭は絶対に台の上を越えるな、ここからは速度を優先する。1が来るまでにこの戦況をひっくり返すぞ ―― 」
 単純かつ明快な方針と強い声音で息を吹き返すB隊の面々がお互いの顔を見合わせて小さくうなづき、すぐに配置について吶喊の体勢を整える。だがその決意をグエンの書いたシナリオは許さなかった。油を吐き出し続けるフライヤーの中程でいまだに加熱するヒーターが周囲にへばりついた油を発火させ、それは小さな爆発を伴って閉じていたステンレスの蓋をボン、と噴き飛ばす。
「今度はなんだっ!? 」耳障りな金属の落下音と暗闇に生まれた小さな明かりに思わず視線を向けた先で立ち上がる火は一瞬で柱へと変化して調理場の隅々まで光と熱をまき散らし、そのおかげで取り戻した視力がはるか向こうにある調理台の陰で動く人影を捉えた。
「! 敵視認っ! 12時一人10時に二人っ! 」訓練で備わった脅威の条件反射が四人の体を射撃体勢へと導く、しかし銃に取り付けられたダットサイトが敵の影を捉えた瞬間に今まで経験した事のない異常事態が始まった。

 世界中の大規模な給食施設には必ず設置する事を義務付けられている自動消火装置 ―― 天蓋ダクトの奥に仕込まれた鉛が熱によって溶ける事で発動するそれはタンクに仕込まれた化学火災専用の粉末を調理設備の上にある小さな吐出口から一気に火元へ向けて噴射する。一瞬でフライヤーの火を消し止めた消火粉末は役目を終えたにもかかわらずなおも余力の続く限りありったけの中身を調理場内へとまき散らし、黄色い霧が景色を隠して1メートルも視界がない状況に凍りついた4人。そこに目がけて前方から何かが滑り込んで来た。
 はっと気づいて狙いを音のする方向へと銃口を向けるが明かりのなくなった調理場は再び漆黒の闇に変わっている、その先頭に立つ兵士の足にぶつかったそれは派手に金属音を鳴らしてツン、とくる異臭を周囲にばらまいた。「! 状況、ガスっ!? 」
 反射的に袖で口と鼻を押さえて事態の把握に努めようとするがそんな暇は与えないとばかりに次の手鍋が床を走ってまたしても4人の周囲に液体をばらまき、今度は自分達の軍用ブーツのソールが床に張り付いたまま動かなくなる。

「はやく逃げねえとガスにやられて気ィ失うぜ? 」手にしたトイレ用洗剤と漂白剤を手鍋にドボドボと注ぎこみながら男が呟く。混合する事で発生する塩素ガスは強烈な毒性を持ち長時間吸い続ければ相手を死に至らしめる。加えて2発目に敵に放った鍋には油汚れ専用の強アルカリ性洗剤がたっぷりと入っていた、ゴム製のソールなどあっという間に溶かして足を床に張り付けるのだ。
「状況が状況だ、半数をやられて本当なら撤退して仕切り直しってのが妥当なんだが ―― さぁどうする? 」うそぶきながら男が渾身の力で三つ目の鍋を床へと滑らせた。

「前二人は前方の敵に吶喊っ! 急げっ、早くしないとここで全滅だ! 」三個目の鍋が足元に当たってひっくり返った時に指揮を執る男は慌てて作戦を変更した。「後ろは回り込んで隣の通路から前を目指す、部屋の向こう側で合流した後に一気に連中を殲滅するっ! 」
 一刻も早くこの地域から離脱しなければ明らかに有害なガスに囲まれ、しかも靴の裏は劇薬とおぼしき液体で床に張り付きつつある。このままジリ貧に追い込まれるならば一か八かまだ動けるうちに何とかしなければならない。
 小さくうなづいた四人が溶けたソールで張り付いたブーツを引き剥がして一斉に二手に分かれて走った。前方の二人は互いの銃で前方上下の空間を油断なく狙い、後方はそのまま全力で回りこんで隣の通路を同じ体勢で突き進む。途中フライヤーの横で倒れたままの二人の兵士の息がある事を確認して再び前方へと視線を上げた時、消火剤が落ち着いて元の景色を取り戻しつつある部屋の向こうで確かな銃撃音が響いた。

「後退はしない、と …… やっぱ砲雷長の予想通りか ―― 敵の分断に成功、フェイズ2」鍋を滑らせていた男がそう告げると勢いよく立ちあがって踵を返すとそのまま一目散に駆け出した。「二人は俺が誘い込む、後は頼むぜグエン」
「 “ 了解だ、間違っても敵のうろたえ弾になんか当たンじゃねえぞ ” 」
 笑いながら答えようとする男の背中へと追いすがる殺意をひしひしと感じながら、彼は敵より優位に立った機動力を生かして目的地に向かってひた走った。

 べたつくソールに足を取られながらもなんとか前方で霧の中へと溶け込みそうになる敵の足元に向かって幾度も威嚇の引き金を引くがなかなか狙いが定まらず、それでも二匹の猟犬は全力で影に向かって足を速める。やがて底が一皮むけて普通の歩調を取り戻した二人が相手との差を詰めようと速度を上げたその時、不意に前を走る敵の影が右側へと回って大きく開いた扉に中へと駆け込んだ。
「バカが、そんなとこに逃げ込んでも無駄だっ! 」逃げる事に窮した獲物はえてしてそういう暗がりや狭い通路へと逃げ込む習性がある、それは生き物である限り逃れられないDNAに刻みこまれた太古からの業と言ってもいい。事実今まで行った作戦においても必ずそのケースは幾度も発生していたのだ。
 手慣れた手つきでバックアップにサインを送った兵士はすぐに扉の傍へと身を隠し、すぐ後ろでもう一人が肩に手を置いて合図を待つ。一瞬の間を置いて胸元に取り付けられた小さな缶をむしり取るとピンを抜きざまに扉の向こうにある暗がりへと放り投げた。幾秒かの沈黙の後に突然眩いばかりの閃光と壁が震えるほどの大音声が轟いて扉から吐き出される。
 スタングレネード。非殺傷兵器ではあるが破裂と同時に放出される光と音は対象の身体機能を一時的に麻痺させ、それは狭い場所であればあるほど効果を発揮する。「いくぞっ! 」後ろの兵士が肩を叩くと同時にグレネードを放った兵士が光の収まった暗がりへと即座に飛び込んだ。

 銃の先端に取り付けられたライトの光が二筋、暗闇のあちこちを照らして目的の物を探し求める。だが絶対にそこにあるはずの敵の姿 ―― 痙攣して横たわっている ―― を見つける事ができない。「どこだ、絶対にここに逃げ込んだはず ―― 」
 いない焦りで手が震えて光が揺れ、その瞬間まるでその動揺を見透かしたように闇の向こうで何かが軋んで閉じられる音が聞こえた。思わず振りあげる銃口の先でカチンと響くラッチ音とともに巨大な扉が閉じられ、頭の上で重低音を鳴らしながらモーターが回り始める。
「な、なにが ―― 」「ここはヤバいっ!早く戻らねえと ―― 」
 怯えた口調で告げる兵士の勘は正しかったが間にあわなかった。踵を返した彼らの目の前で今しがた潜った巨大な扉が勢い良く閉じられてさっきと同じラッチ音が聞こえる。閉じ込められた事に気づくと同時に扉へと体当たりを喰らわせ、それでもびくともしないと悟った彼らは扉の一角に向けてありったけの弾を撃ち込んだ。

「そんな豆鉄砲で冷凍庫チャンバーの壁が抜けるもんか」扉に手を当ててレバーの穴に砥ぎ棒を差し込んだグエンはほくそ笑んだ。「枝肉を冷凍保管するために特別にあつらえた代物だ、あっという間に庫内はマイナス40度まで下がる。おまけにあんたらの叫び声も通話も外には聞こえない ―― よかったじゃねえか、死ぬまでゆっくり眠れるぜ」
 中からの体当たりでドアのレバーがガチャガチャと鳴り続けるがグエンはお構いなしにゆっくりとドアの前を離れると壁際の暗がりへとひっそりと体を沈めた。
「 …… さて、あと二人」

 突然途絶えた銃口と二人の気配に思わず無線を使って安否を尋ねる男だがすでに雑音ばかりで応えはない、代わりに背後のドアが開いて強烈なプレッシャーとともに背筋も凍る怒声があたりかまわず轟いた。「おらあっ! てめえらなにをもたもたしてやがる、このクズどもがっ! 」
「不用心ですブージャム1! 敵のトラップがまだあります、11時の方向に敵がいる ―― 」
「撃て」
 舌打ち混じりで苦々しげに告げられる命令と同時に最後尾の兵が抱える対戦車砲が火を吹いて、室内で使うにはあまりにも威力がありすぎるそれは偶然にも二人の兵士を閉じ込めたばかりの冷凍庫の扉に命中して炸裂した。部屋中の什器を根こそぎなぎ倒す衝撃波と爆風と砕けた中身が調理場中に飛散する。「けっ、これで敵もビビって動けねえだろう。虎の子の一発使わせやがって」
 ブージャム1が愚痴りながらつかつかと歩いてあっという間にフライヤーの前に倒れたままの二人に向かって引き金を引いて止めを刺した。「これ以上手間取らすんじゃねえ、さっさと行けっ! もしできなかったら次は次はてめえらがこうなる番だからなっ! 」

「短気で残忍 …… まあ戦場じゃあ頼りになるタイプの指揮官だが」そう呟くとグレゴリーは携帯のチャットを開いた。「グエン、無事か? 」
「 “ まあ予想はしてたんで。 しかしむちゃくちゃしますねぇ、自分で味方の数減らしてどうすんだ? おかげで手間は省けましたが ” 」
「最後のフェイズに移る。前衛の二人を始末したらこの場から撤退して後方に下がれ、あとはこっちの仕事だ」
「 “ 了解 ” 」

 完全に破壊された冷凍庫の残骸を横目に見ながらブージャム1に脅された二人はさらなる暗がりへと足を速め、背後に揺らめく残火のおかげで自分達が進もうとしている場所が長い廊下だと知ることができた。そしてその先のつきあたりで一人の男が佇んでいることも。
「いたぞっ! 」
 声と同時に構えるマシンガンの狙いは決して外さない、一秒の半分以下で発砲にまでいたるその過程は過酷な訓練と実践を積んだ者にしか与えられない技術だ。だがその人差し指が引き金を落とす寸前に男の影がふらりと動いて残り少ない闇の波間へとかき消え、逃すまいと追う二人が角を曲がって耳を澄ませると暗闇の向こうでキイ、と言う音がした。
 反射的に発砲する事で生まれる火花が周囲の状況を教え、放たれた弾丸が連打する残響が鉄のドアの存在を知らせる。間違いなく敵が逃げ込んだそこへと駆け寄った先頭の男は扉をわずかに開くなりピンを抜いた破片手榴弾を投げ込んでドアに肩を押しつけた。「これでも喰らえッ! 」
 バン、と言う鈍い音と激しい衝撃が彼の肩越しに伝わる、だが勝ちを確信した彼は中の様子を確認するまでもなく扉を引いていきなり中へと押し入った。

 真っ暗なその空間全体に響き渡る重低音に飛び込んだ兵士は眉をひそめ、細い明かりで周囲の状況を探り始めた。幾重にも立ち並ぶ金属のパイプと手榴弾の破片で穴が開いたままぼんやりと灯る配電盤、何よりも音の発生源である巨大なポンプがこれだけ被害を受けた基地施設の中でいまだに動き続けている事への違和感が拭えない。
「な、なんだここは? 」思わず呟いた男の鼻腔を異臭がつついた。手榴弾の硝煙が収まると同時に入れ替わって漂うある種の、匂い ―― 腐臭。思わず口を押さえて再びあたりを捜索しようとする男の頭上で突然何かが ―― ギィ。
「うわっ ! 」
 背中を突き飛ばされて反射的に受け身を取る男の足元の床が、なかった。

 同時に飛び込むべきだったのかもしれない、と指揮を執る男は扉の向こうで聞こえた仲間の短い叫びに後悔しながら彼とは対照的な行動を取らざるを得なかった。そっとドアノブを掴んで音を立てないようにゆっくりと回して ―― 素早く中へと滑り込むと生臭い匂いと液体を派手にかきまわす音と男の叫び声が仄暗い空間に充満している。「おいっ、どこだっ!? 」
「こ、こっち …… た、たすけて ―― 」
 情けない声を頼りに明かりを向けると通路の全面に広がる大きな穴があり、縁に駆け寄った男が見たのは水面で必死に手を伸ばす仲間の姿だった。それもずいぶんと深い。
「くそっ、こんな子供だましに引っかかりやがって ―― ちょっと待ってろっ! 」床面よりもずいぶんと下に位置する男へ向けて彼は銃のセフティをかけるとサイレンサー側を握って銃床を差し出した。
「いいか、しっかりと掴め。一気に引っ張り上げるぞ」かけた声にうなづいた男の手が銃を掴んでホッと安堵のため息を漏らしかけたその刹那、彼は愚かにも失念していた事柄に驚き恐怖におののいた。

 追っていた奴は ―― どこだ?

 振り返った瞬間に視界に飛び込む男の影。憐れむように笑うその表情を目にした途端に彼の体はバランスを崩し、仲間と繋がった命綱もろとも深い穴へと落下した。

「味方に気ィ取られて俺の事忘れちゃダメでしょ? 」ため息交じりに穴の縁から汚水の表面に浮かぶ二人を見下ろすと同時に水面から持ち上がった銃口が胸元を狙うが、グエンはすっとしゃがみこんで人差し指を振った。「あーダメダメ、もうあんたらの銃器は使えないよ? どっぷりと水ン中に浸かっちゃったからバレルん中に油が入りこんでる、引き金なんか引いたらそれこそミスファイアか暴発か」
「油 …… だと? 」男が水面の表面を掬うとそこには一塊になった浮遊物が残った。「そ、油。サラダ油やらラードやら牛脂なんかの油と洗剤の混合物 ―― ちなみにあんたらが落ちてるのはうちの調理場から出る汚水の一次濾過装置、いわゆる『グリストラップ』 っていう設備さ。生ゴミと油と水分はここで比重ごとに分けられて送水管の詰まりを防ぐために一時的に貯留される ―― この基地の水質維持システムへ送る為の第一段階」
 グエンの説明を聞いた二人がはっとして壁へと手を伸ばす。もしここに浮かんでいるのが全て油だというのなら ―― トラップの壁面を触れた二人の顔色が瞬時に変わった。「あんたらの浮かんでる水面から底までは約3メーター、ずいぶん深いだろ? そして壁は油をできるだけ弾くためにつるつるのステンレスで覆われている、落ちた人間が自力で脱出する事はほぼ不可能」
「俺たちをどうするつもりだっ!? 」
「? 面白い事を聞くねぇ、それが最期の言葉でいいのかい? 」グエンはそういうと二人から視線を外して配電盤に埋め込まれた赤いデジタルへと目を向けた。それは常に正確な時を示す時計で表示は午前三時を示そうとしている。
「じゃあこれからあんた達に起こる事を教えとこう ―― この基地は砂漠のど真ん中にあって供給される資源は限られてる、その中でも最も深刻なのは水だ。で、この基地では水の節約のために戦艦と同じ浄水プラントが設置されてる」
「回りくどい事をっ、さっさと教えろっ! 」吠える男に向かって二ィ、とグエンは嗤った。「汚水は一か所に集められて分離、濾過、殺菌の行程を経て今度は飲み水や風呂の水以外の様々な所へと供給される。たとえば基地の冷房システムとか便所とか ―― その前に」
 突然二人の足の下からボコリ、と大きな気胞が上がって眼前で弾けた。「一次濾過装置としていろんな所に置かれてるタンクは一日に一度深夜にある作業を開始する ―― それはタンク内に溜まった不純物を水分と混ぜてプラントへと送りやすくする為の撹拌工程だ」
 次々に弾ける泡は表面の油の層を破壊して怒りに歪む二人の顔をぬらぬらと舐めまわす、しかし二人の怒りを恐怖に変えたのは直後に起こった体の変化の方だ。
「! な、なんだっ!? 体が沈むっ!? 」
 彼らが身につけているタクティカルベストは万が一に備えてわずかな浮力が付与できるように小さなフロートがついている、事実この会話の間にもほんの少し足を動かすだけで水面へと浮かんでいた上半身が泡の増大とともにズルリ、と水の中へと引き込まれていく。
「気胞が発生すると浮力がなくなる。浮力のなくなった不純物は全部混ざり合って汚水に溶け込んで新しい水と入れ替わるんだ ―― この『ばっ気』作業の後に吸い込まれた『ゴミ』はプラント内で全部細かく粉砕されて沈殿槽に送られる」
「や、やめろッ! こんな死に方 ―― 」なんとか水面の泡をかき分けて必死にもがく男の顔を憐れむようにグエンが眺める。
「あんたらが今晩殺した …… いや今まで殺したみんながきっとそう思っていたさ。あんたは自分だけは死に方が選べる ―― そんなバカな事を本当に信じていたのかい? 」

 泡の中へと引きずり込まれた手を確認したグエンがゆっくりと立ち上がって計器盤のボタンを押すと、処理槽のシャッターがするすると吐き出されてぽっかりと空いた床の穴を元どおりに塞ぐ。「砲雷長、グエンです ―― フェイズ2完了、全員始末しました。残りお願いします」
 ホログラムを閉じて再び訪れた静寂と小さな明かりの中で彼はシャッターへと視線を落としながらポツリと呟いた。「死に方なんざ誰も選べねえ …… かわいそうだけどごく一部の人間を除いてはな」

                    *                    *                    *

 退避壕へと取って返した整備班の面々の前に広げられた連邦軍初の量産型モビルスーツ・ジムの設計図がモウラの握った赤いサインペンで次々に赤く染まる。書き込まれているのは彼の機体が被った損害の状況、しかし30%を超えれば大破認定されるその指針を凌駕するそれはとうに完全撃破というレベルだ。通話を終えてホログラムをしまったモウラや他の面々の前に残った図面は何枚もない。
「さあ、これで全部だ。ここからあのジムを動かす電力を絞り出すんだ。時間がない、各々の得意な分野でアプローチにかかれっ! 」
 モウラの檄とともに一斉に図面を取り囲んで喧々囂々の議論が始まった。ある者は残った油圧を人力で動かそうとする手段を模索し、その一方で電気系統に詳しい連中が残った部品のコンデンサや無傷で残っているいくつかの内蔵バッテリーの配線を組み替えて機器を動かそうと考える。
 だが双方とも同じ問題に突き当たってそれ以上の答えが見いだせないでいる。苛立ちと苦悶の悲鳴が異口同音の言葉で退避壕を埋め尽くす ―― 『無い』。
 物理手段を行使するには道具が「ない」。
 アビオニクスは動かせても巨大な肘のモーターを動かす電力が確保でき「ない」。
「あきらめんじゃないっ! なんか手があるはずだっ、わかんないならもう一度一から考え直せっ! 絶対に答えはあるっ! 」
 諦観と弱気が蔓延し始める空気を振り払うようにモウラが叱咤し、それに応えるかのように血走った眼で図面を眺める整備班の面々。考えつく限りのありとあらゆる可能性に言及し、床へと打ち捨てられた図面を拾い上げては裏側に手書きの作業工程を殴り書く、だがやはり結果は変わらない。
「だめだっ! どうしても、どう考えても肘と指を動かすだけの電力が足りねえっ! あとバッテリー四個分で事足りるのにっ! 」
「機体の周りのどっかに落っこってないのかっ!? 麓に転がってる下半身のそばとか ―― 」
「バカ野郎っ! 融合炉がむき出しになってるかも知ンねえんだぞっ!? そんなとこに生身の人間を行かせられるかっ! 」
「ちくしょうっ! 」出口の見えない堂々巡りに男が思いっきりテーブルを叩いて再び元の白けた空気を取り戻す、だがモウラはそれでも必死であるべき答えを探し続けた。

 コウとニナがあの機体を動かせたんだ、あたしにだってできない事じゃないっ!
 今までにこんな事は経験した事がない、でもきっと似たようなケースは絶対どこかにあったはずだ! 考えろ、考えろっ! どんな小さなことでもいい、あたしの機械いじりの記憶と経験を全部ひっくり返してなんとしてでも ―― !

「バッテリー …… 四個分でいいんですか? 」
 おずおずとそう尋ねる声に全員が振り返ると肩身が狭そうに最後尾で進捗を見守るラドウィックが遠慮がちに右手を上げていた。切迫した議論に水を差された男は苛立ちを隠そうともせず彼に罵声を叩きつける。「ああそうだよっ! だからなんだってンだ、いくらお前の持ち場が無傷だからって肝心の指が動かなきゃどうにも出来ねえ! 専門外はそこでおとなしく ―― 」
「あ、ご、ごめんなさい。でもそれ ―― 」
 その時振り向いたモウラとラドウィックの視線が交錯した。彼の瞳の中に宿る確信とそれを求める彼女の脳裏に奔る閃光。同時に言葉となって吐き出された回答に一同は目を見張った。
「 ―― ありますよ、多分バンパイアシステムかっ!? 」


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