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No.32711の一覧
[0] 機動戦士ガンダム0086 StarDust Cradle ‐ Ver.arcadia ‐ 連載終了[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:06)
[1] Prologue[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:00)
[2] Brocade[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:01)
[3] Ephemera[廣瀬 雀吉](2012/05/06 06:23)
[4] Truth[廣瀬 雀吉](2012/05/09 14:24)
[5] Oakly[廣瀬 雀吉](2012/05/12 02:50)
[6] The Magnificent Seven[廣瀬 雀吉](2012/05/26 18:02)
[7] Unless a kernel of wheat is planted in the soil [廣瀬 雀吉](2012/06/09 07:02)
[8] Artificial or not[廣瀬 雀吉](2012/06/20 19:13)
[9] Astarte & Warlock[廣瀬 雀吉](2012/08/02 20:47)
[10] Reflection[廣瀬 雀吉](2012/08/04 16:39)
[11] Mother Goose[廣瀬 雀吉](2012/09/07 22:53)
[12] Torukia[廣瀬 雀吉](2012/10/06 21:31)
[13] Disk[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:30)
[14] Scars[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:32)
[15] Disclosure[廣瀬 雀吉](2012/11/24 23:08)
[16] Missing[廣瀬 雀吉](2013/01/27 11:57)
[17] Missing - linkⅠ[廣瀬 雀吉](2013/01/28 18:05)
[18] Missing - linkⅡ[廣瀬 雀吉](2013/02/20 23:50)
[19] Missing - linkⅢ[廣瀬 雀吉](2013/03/21 22:43)
[20] Realize[廣瀬 雀吉](2013/04/18 23:38)
[21] Missing you[廣瀬 雀吉](2013/05/03 00:34)
[22] The Stranger[廣瀬 雀吉](2013/05/18 18:21)
[23] Salinas[廣瀬 雀吉](2013/06/05 20:31)
[24] Nemesis[廣瀬 雀吉](2013/06/22 23:34)
[25] Expose[廣瀬 雀吉](2013/08/05 13:34)
[26] No way[廣瀬 雀吉](2013/08/25 23:16)
[27] Prodrome[廣瀬 雀吉](2013/10/24 22:37)
[28] friends[廣瀬 雀吉](2014/03/10 20:57)
[29] Versus[廣瀬 雀吉](2014/11/13 19:01)
[30] keep on, keepin' on[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:50)
[31] PAN PAN PAN[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:25)
[32] On your mark[廣瀬 雀吉](2015/08/11 22:03)
[33] Laplace's demon[廣瀬 雀吉](2016/01/25 05:38)
[34] Welcome[廣瀬 雀吉](2020/08/31 05:56)
[35] To the nightmare[廣瀬 雀吉](2020/09/15 20:32)
[36] Vigilante[廣瀬 雀吉](2020/09/27 20:09)
[37] Breakthrough[廣瀬 雀吉](2020/10/04 19:20)
[38] yes[廣瀬 雀吉](2020/10/17 22:19)
[39] Strength[廣瀬 雀吉](2020/10/22 19:16)
[40] Awakening[廣瀬 雀吉](2020/11/04 19:29)
[41] Encounter[廣瀬 雀吉](2020/11/28 19:43)
[42] Period[廣瀬 雀吉](2020/12/23 06:01)
[43] Clue[廣瀬 雀吉](2021/01/07 21:17)
[44] Boy meets Girl[廣瀬 雀吉](2021/02/01 16:24)
[45] get the regret over[廣瀬 雀吉](2021/02/22 22:58)
[46] Distance[廣瀬 雀吉](2021/03/01 21:24)
[47] ZERO GRAVITY[廣瀬 雀吉](2021/04/17 18:03)
[48] Lynx[廣瀬 雀吉](2021/05/04 20:07)
[49] Determination[廣瀬 雀吉](2021/06/16 05:54)
[50] Answer[廣瀬 雀吉](2021/06/30 21:35)
[51] Assemble[廣瀬 雀吉](2021/07/23 10:48)
[52] Nightglow[廣瀬 雀吉](2021/09/14 07:04)
[53] Moon Halo[廣瀬 雀吉](2021/10/08 21:52)
[54] Dance little Baby[廣瀬 雀吉](2022/02/15 17:07)
[55] Godspeed[廣瀬 雀吉](2022/04/16 21:09)
[56] Game Changers[廣瀬 雀吉](2022/06/19 23:44)
[57] Pay back[廣瀬 雀吉](2022/08/25 20:06)
[58] Trigger[廣瀬 雀吉](2022/10/07 00:09)
[59] fallin' down[廣瀬 雀吉](2022/10/25 23:39)
[60] last resort[廣瀬 雀吉](2022/11/11 00:02)
[61] a minute[廣瀬 雀吉](2023/01/16 00:00)
[62] one shot one kill[廣瀬 雀吉](2023/01/22 00:44)
[63] Reviver[廣瀬 雀吉](2023/02/18 12:57)
[64] Crushers[廣瀬 雀吉](2023/03/31 22:11)
[65] This is what I can do[廣瀬 雀吉](2023/05/01 16:09)
[66] Ark Song[廣瀬 雀吉](2023/05/14 21:53)
[67] Men of Destiny[廣瀬 雀吉](2023/06/11 01:10)
[68] Calling to the night[廣瀬 雀吉](2023/06/18 01:03)
[69] Broken Night[廣瀬 雀吉](2023/06/30 01:40)
[70] intermission[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:04)
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[32711] Awakening
Name: 廣瀬 雀吉◆b894648c ID:6649b3b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/11/04 19:29
 時間差で放たれた二個のキャニスターから軽やかに放出される何十個のも子弾、それ一つ一つの威力は小さくても人を殺傷し建物を破壊するだけの破壊力は有している。ドラムロールのような爆発音の連続とあっという間に煙の向こうへと姿を消すオークリーの建物を、登り始めた山の麓で歯ぎしりをしながら眺めるしかないマークス。
「畜生っ、 俺たちの家をよくもっ!」
 
 とうとう始まったか、と心の中でつぶやくキースにはこの後の展開が予想できる、この後に同じような飽和攻撃が続いて敵の火力が沈黙したところで本格的なモビルスーツの侵攻が始まるだろう。敵の心理にまで迫ったマルコの立てた戦略は現時点の戦力を考えると最適解だと思う、しかしそれは俺が重砲を仕留めるまで敵が動かなかったらという前提。
 何かのきっかけや手違いで万が一動き出してしまったら?
「マークス」キースはすぐ後ろに続いて山を登ろうとする緑色のザクに手を伸ばした。
「ここからは俺が一人で行く、お前はアデリアと一緒にマルコが予想した敵の配置地点へと向かえ」
 命令を受けて一瞬驚いたマークスだったがその意図はすぐに分かった。このどさくさにまぎれて敵が動き始めればこちらの守備隊はマルコとアンドレアの二機しかいない。いくら欺瞞を精いっぱい施したとはいえ交戦すればいずれその計略はばれてしまう、そうなる前に先手をとる。
「  ―― 敵の本体に横槍をいれて、できれば数を減らせってことですか」
「そうだ。ただし絶対に無理はするな、ダメージが10パーセントを超えたら交戦を避けてハンガーへ侵攻する敵に陽動をかけろ。それまでにお前たちが動きやすいように俺が重砲を仕留める」
「 “ どうやらそれが一番やりがいありそうですしね ” 」 マークスの背中に手を当てたアデリアが冷静な声で答えた。バスケスを失ったショックからどうやら立ち直った ―― いや違う。悲しみを埋め尽くしてもあまりある怒りが今の彼女の原動力だ。そしてこうなった時のアデリアは、手強い。
「 “ 重砲は隊長にお任せします。兵曹長の仇を ―― お願いします ” 」託す彼女の声が、震えた。

 山の麓から下る二人の背中を見送ったキースは少し登って見晴らしのいい稜線へと辿り着いた。そこで彼はライフルの銃身に備え付けられた単脚を下して ―― いかにも実戦的だ。三脚トライポッドでも二脚バイポッドでもなく単脚モノポッド。どういう体勢からでも銃身を固定させる事が可能だ ―― 静かに基地の方へとスコープを向ける。
 思ったよりもひどい有様だ、たった二発でここまで荒らされるとは。
 耐爆仕様のハンガーが無傷なのは当たり前だがその他の建物への被害は甚大だった。至る所が崩れ落ちて滑走路や正門前の道路は使用不可能な状態が遠目に見て取れるほどの大穴があいている。ガスに引火して炎を上げる士官宿舎を見つめながら、本当にこれで陸戦隊は持ちこたえられるのか? と嫌な疑問が頭をよぎった。その疑問の先にはもちろんニナの安否が最優先に存在する。
 やがて予想通りに彼の頭上を飛び去る砲弾の音が再び聞こえた。何のためらいもなくオークリーの敷地内へと向かったそれは上空でポスンという間抜けな音を発して半壊した建物へと落下する。その後を追って零れ落ちた子弾は散布された範囲にある一切合財をまとめてガラクタに変えてしまう、中央電算室のある建物と管理棟を繋ぐ空中回廊などは直撃を食らって大きく折れ曲がってしまったほどだ。
「くそっ! いったいどうすれば」
 自分がこんな立場でなければバスケスの役目は自分が買って出た。一目散にニナの下へ向かって安全を確保するべきなのにそれすらもできない、しかしここで戦列を離れてしまえばそれこそ本末転倒だ。オークリーは敵の手に落ちてしまってニナどころかモウラの命まで危うくなる。
 優先順位のつけられない二択を迫られてどうしようもなく焦りばかりがつのる。まんじりともせずただ自分の基地が壊れていく様を見つめていたキースはその時、突然この場面にそぐわない間抜けな音を耳にした。

 自分の胸ポケットから流れるとある行進曲、子供に大人気のアニメの主題歌なのだがこの緊迫した場面では怒りを逆なでされたように思える。
「誰だこの取り込み中にっ!? 」
 空気の読めない発信者にいら立ちながら、とり出した携帯を耳にかけてホログラムを展開するとそこにはアラート勤務の時に見た番号と同じ数字が並んでいる。どこの業者だと心底怒りながらせめて罵声の一つも浴びせてこのもやもやした気分を晴らしたいと思ったキースは発信ボタンを押して開口一番声を荒げた。
「どこのどいつだこんな真夜中にかけてくるバカはっ!? 」
 あまりの勢いに気圧されたのか電話の主は何も言わない、いよいよ頭にきたキースは次の一言でそのまま電話を切ろうと大きく息を吸い込んだ。
「 ―― キースか? 」
 絶対に忘れようのない遠慮がちのその声に彼はそのまま呼吸を喉に詰めてせき込んだ。

                    *                    *                    *

 足元全体で弾ける無数の花火が放つ衝撃波はニナが踏み込んだ空中回廊の床が大きく揺らし、一度は走る決心を固めた彼女だったが二十メートル上空にあるトラス構造の頑丈な造りがきしむほどその爆発は激しかった。床のうねりに足をとられて思わず手をついたその背中にトンプソンの催促が大きな声で叩きつけられる。「早くっ! すぐに次が来る、今のうちに向こう側にっ! 」
 思わず振り返ったニナの目に丁度被弾したトンプソンの背中があった。ジャムを起こしてリリースボルトを引いた彼の肩から血しぶきが舞い、わずかな隙も命取りになるその状況で彼はそれでも苦痛の声一つ上げずに再び引き金を引く。それでも彼がわずかに怯んだその間に全力射撃を試みた敵の銃弾はバリケードを乗り越えてニナのいる通路へと殺到した。壁を削って弾道を変えた弾がニナを掠めて次の建物の壁にいくつもの穴を穿つ。
「きゃあっ!」
「叫ぶ前に前を見ろっ! 這ってでもいいから先に進め、一歩でもっ! 」マガジンを二個掴んで敵の頭を何とか抑えたトンプソンから檄が飛び、決意したニナがトンプソンの背中から視線をそらせて再び前を向く。しかし彼女の決意をあざ笑うかのように、その音は再び二人の真上から始まった。
「早く行けっ! ニナ・パープルトンっ! 」
 甲高い音は銃撃の音を次第に凌駕してニナの耳を埋め尽くしていく。降り注がれる恐怖と闘いながら彼女は必死で回廊の床を蹴った。

 前傾姿勢を保ちながら必死で向こうの建物へとひた走るニナ。がら空きになった背中を守る為にトンプソンは手にした二個のマガジンをそのまま間髪いれずに撃ち切った。残弾は ―― 。
 その瞬間紙に穴でも開けるような音と気楽さで一個の子弾が通路へと飛び込んだ。左手で床に立てたマガジンを探しながら彼は背後で放たれる閃光と衝撃を予感しながら心の中でつぶやく。
 “ ちっ、ドアぐらい閉めときゃあよかったぜ ” 

 床に設置したと同時に炸裂した子弾は内部に仕込まれた鋼鉄製のカッターを四方八方へと吐き出して周囲の物を全てずたずたに切り刻み、回廊の基部を構成する鉄骨が切断されて小さな炎が外部へと噴き出した。爆風で背中を押されたニナが無数の破片と共に重力に逆らって向こうの建物まで吹き飛ばされ、その勢いは廊下を滑ってつきあたりの部屋のドアを背中でつき破るまで止まらない。
 すぐさま起き上がって残った痛みに思わず顔をしかめる。自分の状態を注意深く調べてみると体のあちこちから血が出ていたが、対人クラスターの及ぼす想定被害から考えればそれは奇跡に近い怪我だ。再び痛めつけられた背中を抑えながら立ちあがって部屋の外へと歩み出すと周囲の壁には無数の破片が深々と突き刺さっている。どうやら廊下へと滑りこんだ事で襲いかかる二次被害を最小限に抑えられたようだ。
 でも。

「 …… 通路が」
 自分が駆け抜けてきた回廊はすでに通路としては成り立たなかった。構造を切断された通路は鉄骨の重みでくの字に折れ曲がり、彼女の目の前にはボロボロに壊れた天井が視界を遮っている。「曹長っ! 」
 斜め下に向かって伸びる通路へと身を乗り出して叫ぶニナの声に返事はない。彼女はもう一度トンプソンに向かって叫んだ。
「曹長っ! 無事なら返事をしてっ! トンプソンっ! 」
「 …… どうやら主任も無事だったみたいだな、怪我は? 」とぼけたように帰って来たトンプソンの声にニナは安堵の笑みを浮かべた。「あたしは無事っ! 曹長、あなたも早くっ! 」
 まるでニナの叫びに反応するかのようにぐらぐらと揺れる、つり橋と化した回廊。折れた端で丁度向こう側の景色が遮られてよく見えない。だがその時明るい月明かりに照らされた向こう側の坂の上からつつっと流れてくる黒い筋がニナの視界に侵入した。悲鳴を上げそうになって思わず両手で口を押さえる彼女に向かってトンプソンの声が届く。
「さ、あんたは早くハンガーに向かってくれ。俺はどうやらここが終点だ」

 背中を血だらけにしたトンプソンは爆風と着弾の衝撃でベットに上体を預けたまま動けなかった。だが手にした最後の予備弾倉だけは手放さなかった、俺はツイてる。
「バカなこと言わないでっ! 今からあたしがそっちへ行って ―― 」おいおい、主任。それじゃあ ―― 
「バカはあんただ、そんなコトしたら俺はここでムダ死にじゃねえか。それにこの怪我じゃあもう俺は動けねえ、かまわねえから置いてってくれ」

 押し寄せる悲しみと噛みしめる無力さ。打ちひしがれるニナの両目から零れ落ちていく涙が目の前の床にしみを作った。助ける事も出来ない、助けも呼べない。ただ逃げることしかできない自分が関わる者を死へと追いやる厄災のように思えてならない。小さな嗚咽が回廊に流れ、それを打ち消すように再び銃撃戦が始まった。
「実を言うとな、最初から俺はここに残るつもりだったんだ、うそじゃねえ」
 トンプソンの告白にニナはうるんだ瞳を見えない向こう岸へと向けた。

                    *                    *                    *

 おい茂った森の斜面の中からその黒塗りのクゥエルはその先の稜線で匍匐したままの機体を静かに眺めていた。武装はデータベースにもない長距離対物ライフル、機種はセカンドロットのジム。遠距離タイプではないがどうやらパイロットはそのスキルに長けているようだ。
 ステルスモードで移動を続けているラース1がそのジムに背後から忍び寄って仕留めるのは至極簡単なように思える。ましてやそれがハンプティを撃破するために移動しているというのならなおさらここで見過ごすわけにはいかない。
 しかし彼はそのまま動かない。暗闇の中でじっと獲物の姿を眺めていた彼はやがて何かを思いついたようにそっとその場から離れて再び木々の間を静かに下り始めた。

                    *                    *                    *

「こ、コウっ!? 」自分の上げた素っ頓狂な声に自分が驚いた。そんなのここ最近した事がない。「ど、どうしたんだよこんな夜中に」
「 “ ニナは ―― 無事か? ” 」コウの言葉に二度驚くキース。どこにいるかも ―― いや、だいたいの場所はモウラから聞いて知っている ―― 分からないお前が何で電話でそんな事を俺に尋ねる?
「どうしたんだよ、一体? ニナさんなら今頃もう自分の部屋でぐっすり ―― 」
「 “ 嘘は言わなくていい、もうそっちの音が聞こえるところまで来ている。 …… ニナは無事なのか? ” 」
 来ている? こっちに向かってるってことか? なんで? 「おい、コウ。おまえ ―― 」
「 “ ―― 詳しく説明している暇はないからよく聞いてくれ。敵の狙いはニナを殺す事だ ” 」
 キースの口からもう何の声も上がらなかった、むしろ湧き上がってくる疑問。
 こいつ、本当にコウなのか?

                    *                    *                    *

 トンプソンとの会話と状況が次々にニナの脳裏によみがえる。彼がしんがりだったという事、爆薬を持っていたという事。この状況から逃げ出す算段をすでにしていたという事。
 あたしが銃であの鍵を壊さなくても彼は自分でできたはずだ。でもそうせずに敵をここで迎え撃ったということは ―― 。
「頭のいい主任ならなんとなくわかンだろ? そんなのが何人か手分けして時間稼ぎに回ってる。大分数は減っちまったが俺達ァ腐っても陸戦隊なんでね、ただ殴られっぱなしっつーのは性に合わねえ」
「だからってそんな ―― 」
「足止めに回った連中の仇は残った連中が必ずとってくれる、ンでもって。」カチャンと床に落ちる金属の音。
「あんたも、そうしてくれんだろ? 俺なんかのために」
 もちろんだ、というその一言が今のニナには言えない。励ますことすらできない自分にぎゅっと唇をかみしめる。「曹長、あたし ―― 」
 その声をかき消すように再び銃声が鳴り響き、緊迫した声のトンプソンが見えない向こう岸で叫んだ。
「さあもう時間切れだ、どうやら俺の弾が少ない事に敵が感づきやがった。主任は早くハンガーに行くんだ、間違ってもそこにいるんじゃねえっ! 」
「曹長っ! 」
「行くんだ、ニナパープルトンっ! 」名前で呼ばれたニナがビクッと身震いした。
「俺はあんたを死んでも一緒に連れてかねえ、それでもあんたはここで俺と心中したいってのか? そんな最期があんたの望みか!? 」
 トンプソンの叫びにラップトップをギュッと握りしめて彼女は精一杯の声を張り上げた。
「 ―― ありがとう、曹長っ! あなたの事は最後まで忘れないっ!! 」

 いい返事だ、と心の中でつぶやいたトンプソンは撃ち切ったライフルを放り投げて愛用の銃を握った。手に伝わるわずかなぬくもりに小さく微笑む。
 そういやさっき主任が使ったんだっけ、道理で。
 最後に会ったのがあんたでよかった …… 本当はあんたに謝りたかったんだけどどうも俺はそういう間が昔からいっつも悪くてなぁ。あの時せめて伍長を引きとめて最後にあんたに会わせてあげればもっと違った未来があったのかも知れないって今の今まで後悔してた。
 心残りだが今となってはあんたにできる罪滅ぼしといったらこんなことしか無え、だから必ず生きて。
 ―― 伍長にもう一度会いなよ、ニナ・パープルトン。
  
 45口径の生み出す強烈な反動ブローバックに血を失った体が大きくきしむ。しかしトンプソンはそれでもとりつかれたように引き金を引き続けた。油断して前に出てきた何人かは体をくの字に折り曲げてその場にうずくまったまま動きを止める。
 当たり前だ。
 いくら防弾チョッキ着てたってこの銃の前でそんなペラペラが役に立つものか。そういう事のために大昔に開発された銃なんだからな。
 何人もの道連れを生み出す守護天使の心強さに自然と笑みがこぼれる、それは全弾打ち切った事を教えるスライドロックが掛かってからも彼の表情を支配していた。鉄の塊と化したそれをベッドの縁に預けたままにやりと笑ったトンプソンは呟いた。
「 …… さあカンバンだ、お客さん」

 その声が届いたのかとたんに激しくなる銃撃は今までのうっ憤を晴らすかのように彼の下へと殺到して、その先鋒は力を失くした彼の手から年代物の銃を弾き飛ばして後ろのドアへと叩きつけた。はずみで外れたスライドがコロコロと音を立てて斜めになった回廊の床を転がり落ちていく。続けざまに突き刺さる何発もの銃弾はその衝撃で彼を仰向けに廊下の床へと押し倒した。
 今にも撓んでいきそうな意識を必死でつなぎとめたトンプソンはやっとの思いで背後に隠したC-4に雷管を差し込み、痙攣する手をそっとポケットの中に差し込んだ。あとは ―― 。
「この野郎、よくも手こずらせてくれやがったな」
 機関銃を構えて足元に立った兵士の姿へと視線を向けたトンプソンは、まだ何も知らない彼に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「 …… 残業、ご苦労さん。粗末なモンで悪いが、さしいれ、だ」

 閉じられた非常ハッチのすぐそばにあるアクセス端末にソケットを差し込んだ瞬間にそれは起こった。通路じゅうを照らし出すまばゆい光と衝撃、ニナの体を吹き飛ばさんばかりの爆風。体がよろけてドスンと非常ハッチへもたれかかるニナの目から大粒の涙がこぼれた。自分のそばで誰かが殺されるたびに湧き上がる感情、悔しさや憎しみや怒りが全てごちゃ混ぜになって絶望を上書きしていくその感覚は今までに味わった事のない痛みを彼女の細胞の隅々にまでいきわたらせる。
 細胞組織の賦活化が彼女の体温を上げて血流の勢いが変わる、そしてそれは心臓から脳へと到達した瞬間にトリガーとなって彼女が生まれてから今まで封印され続けてきたある因子を神経細胞全体へと伝達した。
 生物の進化とは決して喜びや楽しみから生み出されるものではない。
 そのすべては苦痛から始まるのだ。

                    *                    *                    *

「そういやお前、よく俺の携帯覚えてたな?」電話の主の真偽を計る為にキースの選んだ質問がそれだった。できるだけ普通を装って、しかし耳は相手の動揺のかけらも見逃さないように注意深く。
「 “ 当たり前だ。ナイメーヘンで無理やりお前が買わせただろ? 合コンの連絡に必要だからって ” 」間違いない、コウ本人だ。
「 ―― 疑って悪い。本当にお前から掛かってくるとはね。 …… で、なんでお前はそんな事を知ってる? 」
「 “ さっき俺のところへ匿名の電話がかかって来た。その相手が言うには今オークリーを襲ってるティターンズの特殊部隊の目的はニナの殺害だって言って ―― ” 」
「はあ? お、お前今何て言った? 」驚いたキースが思わずシートから立ち上がって天井のパネルに頭をぶつけた。「痛った。 …… ティターンズが、何? 」
「 “ 今オークリーを襲撃してるのはジオンの残党なんかじゃない、この前MPIのドイツ研究所で起こったテロ事件を鎮圧したティターンズの特殊部隊だ ” 」
「ちょ。ちょっと待て」 いきなりの展開にキースの頭が追いつかない。短い間に交わしたコウとの会話を思い返してみても何が何だか。
「コウ、お前大丈夫か? 言ってる事が全然わっかんねえしどう考えてもおかしい事だらけだぞ。だいたいなんでティターンズが何で俺たちを襲ってニナさんまで殺そうとするんだ ―― 」
 そこまで話してキースははっと思い当った。そうか、あの紛争の中核にいる関係者をジオンのせいにして抹殺するつもりなのか?
「 “ 今は言えない、でも多分今お前が考えてる事じゃない。もしそうなら奴らは真っ先に殺しやすい俺を狙ってきてる ” 」
 正確な状況分析と未来予測が奴の持ち味だ、とキースは電話の相手の正体により一層の確信を深める。と同時にその語り口が以前に会った彼とは全然違っている事に気がついた。かつてデラーズ紛争において自分が盾となる価値を見出したアルビオンの元エースパイロット。
 今のコウはあの時に戻っているようじゃないか。
「理由は、どうしても? 」困ったような、嬉しそうな微笑みがキースの顔に戻ってくる。今まで彼の代りに大きすぎる服を着続けたその見返りとしては十分すぎるほどだった。
「 “ すまない。もしこの戦いを生き延びる事が出来たら必ずモウラやニナの前で一部始終を話す。 …… 状況は? ” 」 
「予備役には話さなきゃな。マルコの分析だと敵は正門側と山側の両方向から敷地内に侵攻中、モビルスーツと地上部隊の両方だ。西の高台に多分タンクが陣取ってこちらを狙ってる ―― こちらの損失はゲルググが一機、バスケスが ―― 」
 言い終わる前に敷地内から大きな音が轟いた。キースのモニターに激しく損壊する情報処理棟と崩落する空中回廊が見える。
「 ―― 中央電算室が爆発した、どうやらあそこまで敵に入り込まれてるようだ」
「 “ ハンガーまであと建物四つ、か。ニナはどこにいるか想像できるか? ” 」
「多分ニナさんは避難トンネルを使ってハンガーを目指しているはずだ。それに陸戦隊もどうやら反撃に出ているらしい、もしそこに合流できれば彼女の身は安全だと思う」
「 “ そこに行ってみなけりゃ何も分かんない、ってことか ” 」

 推測や憶測でしか答える事が出来ないその状況が今のオークリーの窮地を物語っている。コウは不安定なガレ場の上を何度も飛び跳ねながら必死でキースの声を追っていた。湧き上がる不安と焦りがアクセルコントロールを徐々に荒くさせていき、その度に崩れそうなバランスを何とかギリギリのところで立て直す。
「わかった、キースはモビルスーツの方を抑えてくれ、ニナは俺がなんとかする」
「 “ 何とかするって、一体どうするんだコウ? ” 」
 尋ねられたところで具体的な、そして現実的なものは何もない。ただコウにはなぜかその確信だけが残っていた。根拠も理由もそれら一切を飛び越えて彼の心の中から生まれ出る、祈りに似た願い。
「俺が助ける …… 必ず、助けてみせる」

                    *                    *                     *

 重い体を非常ハッチから引きはがしたニナはトンプソンの最後の言葉を何度も何度も頭の中で繰り返しながら目の前の壁にある端末へと指を這わせた。命をかけて救ってくれた彼のためにも自分はここで死ぬわけにはいかない、必ずハンガーに辿り着いてみんなの仇を ―― 。
 そこまで考えた時、急に頭の中で何かが弾けた。まるで脳の中で血が渦を巻くようにぐるぐると回っているような、そしてそこから枝分かれした火花のようなものが彼女を研ぎ澄ましていくような感覚。
「 “ なに、これ? ” 」
 そんな経験は生まれてこのかたした事がない。言ってみれば頭の中全体に電気の網がいきなり被せられたような感じだ。不愉快ではないがどことなく薄気味が悪い。脳震盪でも起こしたのかと小さくかぶりを振って何とか元の感覚を取り戻そうと試みるニナだったが一向に収まる気配すら見せない。
 これだけ人が死んでるのに今自分の心配をしてどうする、とあきらめた彼女は仕方なくもやもやした感じをそのままにして繋ぎっ放しのラップトップのキーを叩こうとした。
「 …… きゃっ! 」

 小さく悲鳴を上げたニナが開いている片手で頭を押さえた。スパークする思考が脳全体に広がって今にも零れそうなイメージ、頭の中のどこかがついに切れたんじゃないかと思うくらいの痛みが突然彼女に襲いかかった。ジーンとする痺れとくらくらする目の奥が異様に熱い、どこか深い所にあった何かが一斉に動き出して続けざまに繋がっていくのがはっきりとわかる。
「なに? …… あたし、どうしちゃったの? 」突然の変化に思わずつぶやいたニナの瞳孔が小刻みに震えている、このまま意識を失くして ―― いや、どうもそうじゃない。なぜなら。
 頭の中の全てが、クリアだ。

 宇宙空間のようにぽっかりと空いた隙間の中に突如として具現化した小さな球は超高速で回転して全ての情報を一元管理している。彼女の意思によって自由自在に動くその得体の知れないものは、彼女の自由意思でいつでもそこにある全ての答えをすぐに提示する事ができる。
 ここまではっきりとはしていないが彼女は以前にもこれと似たような事を体感した事がある。かつて自分が所属していたアナハイムのクラブ・ワークス。
 次世代機の構想概要とそれに付随する運用理論の構築、プログラミングの具象化と作成。GPシリーズ全機のOSの基本骨子となる基礎コマンドを一人で立ち上げた時にそれは起こった。ほんの一瞬だけではあったが彼女はアナハイムという巨大企業が誇るスーパーコンピューターの三分の一の処理能力をはるかに凌駕して瞬く間にとてつもない量の膨大な言語を書きあげている。追検算、デバッグも追いつかないその狂気はまだ若い彼女を一躍次期主力機動兵器の主任プログラマーへと押し上げる契機となった。
「始まりの言葉」として語り継がれるその事件を当の本人は何も覚えてはいない、ただそれが巷で言われる「ゾーン」という精神状態とは全く別物であるという認識はあった。時間も空間も意識すらもあいまいになってただ頭の中に浮かんだ言葉をそのまま書き連ねているだけの行為が結果的に完璧なものとして出来上がっていたにすぎないからだ。驚愕の目でその功績をたたえるオサリバンを前にしてもニナはうれしいとも何とも思わなかった。
 ただ不思議な体験をした、という子供並の感想しか思い浮かばなかったから。

 ずきんずきんとする小さな痛みを頭の芯に覚えながらニナはもう一度ラップトップのエンターキーへと手を伸ばす。一叩きすればこの中に仕込んだ暗証解析プログラムが動き出してあっという間にこの扉をこじ開ける魔法のワードを液晶に表示するはずだ。
 しかし彼女の頭の中では奇妙な事が起こっていた。一足先に小さな球から吐き出される何かが彼女の脳裏に文字を並べてこれ見よがしに提示している。数字とアルファベットの大文字と小文字が混在する6ケタ、それはいかにもこの扉を開くキーであると自分に教えているようだ。
「なに? なんでこんな事が ―― 」
 そう言いながらキーを叩くニナの前に、数秒の空白ののちに液晶へと表示された暗証コードは脳内に浮かんだ文字列と寸分違わずに一致した。

『コード認証確認、扉が開きます』
 無機質な合成ボイスと共に上へとせりあがっていくハッチの扉、呆然とそれを見送るニナが管理棟Cの廊下に姿を現した。


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