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No.32627の一覧
[0] 【チラシの裏より移転】無限の蒼穹、正義の仮面(IS×仮面ライダー+α)[無銘](2013/09/14 16:43)
[1] 第一話 俺の名は(マイ・ネーム・イズ)[無銘](2013/09/14 16:57)
[2] 第二話 二度目の再会(セカンド・リユニオン)[無銘](2013/09/14 16:59)
[3] 第三話 天地人が呼ぶ者[無銘](2013/09/14 17:00)
[4] 第四話 蒼海の銀騎士(オーシャンズ・カイゾーグ)[無銘](2013/09/14 17:01)
[5] 第五話 父の想いは波の中[無銘](2013/09/14 17:02)
[6] 第六話 鈴と案内人と天才科学者(ガール・ミーツ・ボーイズ)[無銘](2013/09/14 17:03)
[7] 第七話 強くてマダラで優しい野獣[無銘](2013/09/14 17:04)
[8] 第八話 遭難者は筑波洋(スカイライダー)[無銘](2013/09/14 17:05)
[9] 第九話 この空に誓って[無銘](2013/09/14 17:06)
[10] 第十話 黒兎と紅影(ブラック・ラビット/レッド・シャドウ)[無銘](2013/09/14 17:07)
[11] 第十一話 忘れ得ぬ記憶[無銘](2013/09/14 17:09)
[12] 第十二話 マグロになった更識姉妹(シスターズ)[無銘](2013/09/14 17:11)
[13] 第十三話 誰かが君を[無銘](2013/09/14 17:12)
[14] 第十四話 宿命という名の仮面(マスク・オブ・フェイト)[無銘](2013/09/14 17:12)
[16] 第十五話 己が正義にかけて[無銘](2013/09/14 17:14)
[17] 第十六話 剣拳激突(ソード・バーサス・フィスト)[無銘](2013/09/14 17:15)
[18] 第十七話 銀の腕、白の鎧(前篇)[無銘](2013/09/14 17:15)
[19] 第十八話 銀の腕、白の鎧(後篇)[無銘](2013/09/14 17:16)
[20] 第十九話 魔眼の三姉妹(ゴルゴーン)[無銘](2013/09/14 17:18)
[21] 第二十話 今は一人でも[無銘](2013/09/14 17:19)
[22] 第二十一話 十年後(テン・イヤーズ・アフター)[無銘](2013/09/14 17:19)
[23] 第二十二話 別離[無銘](2013/09/14 17:21)
[24] 第二十三話 見学者は全員男[無銘](2013/09/14 17:22)
[25] 第二十四話 静かならざる日[無銘](2013/09/14 17:24)
[26] 第二十五話 爪牙[無銘](2013/09/14 17:25)
[28] 第二十六話 操人形の夜(マリオネット・ナイト)[無銘](2013/09/14 17:26)
[29] 第二十七話 十六人の大幹部[無銘](2013/09/14 17:27)
[30] 第二十八話 その名は大首領[無銘](2013/09/14 17:28)
[31] 第二十九話 魂再び(スピリッツ・リターン)[無銘](2013/09/14 17:29)
[33] 第三十話 開戦[無銘](2013/09/14 17:30)
[34] 第三十一話 罠[無銘](2013/09/14 17:30)
[35] 第三十二話 敗北[無銘](2013/09/14 17:31)
[37] 第三十三話 回天[無銘](2013/09/14 17:31)
[38] 第三十四話 勝利者達(ウィーナーズ)[無銘](2013/09/14 17:32)
[39] 第三十五話 魔窟[無銘](2013/09/14 17:33)
[40] 第三十六話 分断[無銘](2013/09/14 17:33)
[41] 第三十七話 呪われし遺産(ショッカーライダー)[無銘](2013/09/14 17:34)
[42] 第三十八話 傷心[無銘](2013/09/14 17:35)
[43] 第三十九話 力と技と[無銘](2013/09/14 17:35)
[44] 第四十話 死線(デッドライン)[無銘](2013/09/14 17:36)
[45] 第四十一話 潜入[無銘](2013/09/14 17:37)
[46] 第四十二話 わたしの先生(ライダーマン)[無銘](2013/09/14 17:37)
[47] 第四十三話 代償[無銘](2013/09/14 17:38)
[48] 第四十四話 この者不死身につき(ダイ・ハード)[無銘](2013/09/14 17:39)
[49] 第四十五話 海魔[無銘](2013/09/14 17:39)
[50] 第四十六話 暗躍[無銘](2013/09/14 17:40)
[51] 第四十七話 巨人(キングダーク)[無銘](2013/09/14 17:41)
[52] 第四十八話 虜囚[無銘](2013/09/14 17:41)
[53] 第四十九話 形見[無銘](2013/09/14 17:42)
[54] 第五十話 獣(ビースト)[無銘](2013/09/14 17:43)
[55] 第五十一話 土竜[無銘](2013/09/14 17:43)
[56] 第五十二話 真情[無銘](2013/09/14 17:44)
[57] 第五十三話 禍神(ユム・キミル)[無銘](2013/09/14 17:44)
[58] 第五十四話 守人(ガーディアン)[無銘](2013/09/14 17:45)
[59] 第五十五話 因縁[無銘](2013/09/14 17:46)
[60] 第五十六話 群狼(ウルブズ)[無銘](2014/07/17 07:59)
[61] 第五十七話 魔人(デルザー)[無銘](2014/07/17 07:59)
[62] 第五十八話 戦友(パートナー)[無銘](2014/07/17 08:00)
[63] 第五十九話 タッチダウン(前篇)[無銘](2014/07/17 08:02)
[64] 第六十話 タッチダウン(後篇)[無銘](2014/07/17 08:02)
[65] 第六十一話 空戦[無銘](2016/12/03 22:53)
[66] 第六十二話 疑心[無銘](2016/12/03 22:52)
[67] 機体設定[無銘](2012/12/15 23:15)
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[32627] 第五十一話 土竜
Name: 無銘◆e18ca1f5 ID:5027a9c0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/14 17:43
 『デストロン』が跋扈していた四国が謎の黒雲に覆われた翌日の朝。SPIRITS第6分隊が間借りしている伊丹駐屯地。その一室ではビクトルが空間投影式ディスプレイを展開してキーボードを操作している。
 SPIRITS隊長の滝和也が四国で篠ノ之束の身柄を確保し、束をSPIRITSに参加させたいと言ってきた時は耳を疑った。どういう風の吹きまわしか予想も付かなかったからだ。しかし束が心から反省して罪を償おうとしていること、デストロン鎮圧に大きな功績を上げたこと、本人が悪の組織と戦っていく決意を固めているということを聞いたため、ビクトルはそれ以上反対しなかった。その後SPIRITS第6分隊全体に話は届いたのだが、渋ったビクトルとは対照的にあっさり分隊全体で賛成することが決定した。
 理由は他でもないアマゾンだ。SPIRITS第6分隊は旧SPIRITS第6分隊のメンバーが分隊長のキャプショーを筆頭に何人かいたし、他の隊員も人懐っこく、時折食べ物などを差し入れる天真爛漫なアマゾンの人柄を理解するようになった。それだけに束の一件を聞いたアマゾンが幼馴染みの織斑千冬との関係が改善する可能性も出てきたことを心から喜んでいる姿を見て、誰も反対する気にはなれなかったそうだ。
 ビクトルは国際IS委員会向けの答申書をメールで送付し、今はIS操縦者の選別方法についての論文を執筆している最中だ。と言っても、織斑一夏が発見されてからは上手くいっていないが。一応僅かな時間を見つけて執筆していたが、はかどりそうにない。ビクトルが椅子から立ち上がって伸びをすると、背後からコーヒーカップを持ったマサヒコがやってきてビクトルにコーヒーを渡す。

「ほら、ビクトル」
「ありがとう、マサヒコ」
「けど、何やってるんだよ? ゲドンやガランダーがいつ出るか分からない時に」
「少し時間が出来たからね。なぜISは女性にしか扱えないのかってテーマで論文を執筆してたところさ」
「こんな時に論文って、無理しすぎんなよ?」
「これくらいでへたってたら、国際IS委員会は務まらないさ」
「どんだけ大変なんだよ、国際IS委員会って。けどビクトル、ISに女性しか乗れない理由って、お前や国際IS委員会でも分からないのか?」
「ああ。『ISコア』については篠ノ之束博士が自己進化を除いて情報を開示していないし、貴重なものだから迂闊に分解する訳にも行かなかったからね」
「けどISが出てきて10年経ったんだから、仮説の一つや二つくらい出ても良かったんじゃないか?」
「いや、仮説はこの10年で様々なアプローチから沢山出てきたよ。遺伝子工学、生化学、心理学、機械工学、運動生理学、量子力学。ありとあらゆる学問分野から、時に複数の学問分野にわたって研究されてきたんだけど、どれもまだ実証されていない仮説止まりさ。既に否定された仮説や眉唾物を含めれば百近い仮説が提唱され、議論されてきたんだ。議論にすら上がらないようなものを含めれば、もう千は行ってるんじゃないかな。それでもここ数年は僕が提唱していた『MBG受容因子』説が最有力だったんだけど……」
「MBG受容因子?」
「簡単に言えば人間を『変身』させる遺伝子で、MBG受容因子はそれを受け入れるのに必要な因子さ」
「そのMBG受容因子って言うのと、ISに女性しか乗れないことが何の関係があるんだよ?」
「MBG受容因子を発現させるのに必要な二種類の遺伝子はいわゆる『伴性遺伝』ってやつでね。性染色体の中でもX染色体を通じて遺伝されるんだ。この遺伝子は3種類に分類されて、MBG受容因子を発現させるには必要な遺伝子Aを持ったX染色体と、必要な遺伝子Bを持ったX染色体が揃う必要がある。ただ、X染色体が二つ揃っていてもY染色体にはMBG受容因子発現を阻害する優性遺伝子があるらしくて、X染色体が二つ揃ってもY染色体がある人間、つまり男性にMBG受容因子は発現しない。それでIS操縦者とMBG受容因子について調べていたら、面白い事が分かってね。調査したIS操縦者は皆、MBG受容因子を保有していたんだよ。しかも興味深いことにIS適性が高い操縦者ほどMBG受容因子が強く発現している傾向にあったんだ。IS適性値って言うのはISと接続した際の応答性の高低を数値化したもの、と思われていたんだけど、MBG受容因子の発言度合いと同期していた。だから後はもっと実験を重ねて、証拠を固めるつもりだったんだけどね」
「何か問題があったのか?」
「ああ。MBG受容因子説を根本から否定するケースが見つかったのさ」
「それって織斑一夏君のことか?」
「その通り。MBG受容因子説に拠れば男性がISを操縦出来ることはあり得ないのに、織斑一夏はISを操縦してみせた。一応彼の遺伝子地図(ジーンマップ)をこっちに送って貰って解析してみたけど、彼にはMBG受容因子を発現している形跡がなかった。勿論織斑一夏が何らかの例外である可能性はあるけど、遺伝子地図を見た限りでは絶望的だね。なんにせよ織斑一夏という存在のお陰で根拠を否定されたも同然のMBG受容因子説は廃れて、今は遺伝子がIS操縦に関わっている可能性に疑問を呈されているくらいだ。お陰で僕も一から研究のやり直しだよ。今度篠ノ之束に会ったら、データ貰うついでに文句を言ってやりたいよ」

 ビクトルは言葉を切ると一度溜息をつく。コーヒーに口をつけて喉を潤すと逆にビクトルがマサヒコに尋ねる。

「それはそうと、鈴さんの様子はどうだい? カウンセリングでは今のところ大丈夫なんだけど、マサヒコの目から見た意見も聞きたいからさ」
「俺の見た限りでは元気そうだよ。アマゾンにも気取らせないくらい気丈に振る舞ってはいる」
「そっか。きっと普段から、両親について考えないようにしてるんだよ」

 続けてビクトルは鈴について言及する。あの日以来鈴は元気を取り戻しているかのように振る舞っている。専門家のビクトルや、恋愛以外の感情の機微に恐ろしく敏感なアマゾンにも悟らせないくらいだ。鈴の性格が竹を割ったようにさっぱりとした面があることから、あの時は一瞬ナーバスになってしまっただけなのだろう。しかし問題の本質的な解決には至っていない。マサヒコも同じ考えらしく、それとなく鈴に気を配っている。しばらく思案していたビクトルとマサヒコだが、分隊長のキャプショーが入ってくると中断して一礼する。

「御苦労さまです、ハーリン博士」
「いいえ。キャプショー分隊長、僕に何か用ですか?」
「ええ。実はゲドンとガランダー帝国の今後の動きについてですが、人質にされた市民の救出が半分まで完了しました。しかしインターポール本部から、ゲドン及びガランダーは神戸市を襲撃する可能性があると分析結果が送られてきました」
「確かにここ二、三日、神戸から目を逸らそうとしている動きばかりでしたからね。アマゾンにはこちらから伝えておきます」
「ありがとうございます。こちらもすぐに出撃を……」
「報告します! 神戸市にゲドン及びガランダー帝国の獣人が出現したとの報告が入りました!」
「何!? 直ちに出撃だ!」

 キャプショーは駆け込んできた隊員の報告を聞くとすぐに指示を出して部屋を飛び出していく。ビクトルとマサヒコも部屋を飛び出して後を追う。同じくヘリに乗り込もうとした鈴と合流するとビクトルは尋ねる。

「鈴さん、アマゾンは!?」
「すぐに飛び出していきました!」
「こういう時は判断も行動も素早くて頼りになるよ。我々も急ぎましょう! 連中、また人間狩りをする気だ!」

 安心したビクトルとマサヒコを乗せたヘリは間もなく離陸し、一路神戸市へと向かうのであった。

**********

 少し時間を遡る。
 兵庫県神戸市郊外にある避難所の一角は市民でごった返している。避難所ではホテルやレストランに勤務する料理人たちが合同で炊き出しを行っていた。無論彼らも避難者なのだが、避難所で温かい料理を食べられない人が少なからずいるのを見て、スーパーなどの協力で食材を入手すると国防軍や警察の許可を得て、この一帯の避難所で炊き出しを開始したのだ。発起人の一人でホテルレストランでシェフをしている中島吾郎と、中華料理店で料理人として腕を振るっている凰飛虎(ファン・フェイフー)も例外ではない。
 飛虎が神戸に住むようになったのは、離婚して自らの店を閉めた後であった。当初は故郷に戻ることも考えた飛虎であったが、若い頃に知り合った『華僑』の友人から誘われてその友人が経営する中華料理店で料理人として働くことになった。当初は高級志向の料理店で働くのは気が進まなかったが、高齢と病気で引退を決意した先代の総料理長が飛虎とも知り合いで、その推薦を受けたと聞いてからは総料理長として厨房を取り仕切っている。当初は他の料理人から先代の総料理長と比較されて苦労したが今は腕を以て信頼されている。その料理店もゲドン及びガランダー帝国の出現前に休業となっており、飛虎を含む店の料理人も避難している。
 燻っていた飛虎を炊き出しに誘ったのが若い頃に日本で知り合った吾郎だ。今は飛虎も吾郎を手伝って大鍋で大量のカレーを煮込んでいる。本当ならば出来たての中華料理を振る舞いたいが、状況が状況なので材料や調味料が手に入らない。カレーは必要な材料が簡単に手に入るし、調理も簡単だ。飛虎も若い時分には賄い感覚でたまに作っていた経験もある。吾郎が鍋を回っては味見をし、頷いてみせると調理は終わりだ。続けて他の料理人や協力を申し出た住民と一緒にカレーを振る舞い始める。皆にカレーが行き渡り始めた頃、飛虎は吾郎に尋ねる。

「中島さん、ずいぶんと手慣れてますね。前にも炊き出しをされたことが?」
「修行してた時から炊き出しはよくやってたましたし、駈け出しの頃にクライシス帝国が暴れてた時には炊き出しっぽいこともしてたんですよ」

 飛虎の質問に吾郎は照れ臭そうに笑い、手を休めずにカレーを目の前の男性に渡す。
 吾郎はホテルレストランのシェフになる前までは世界各地を巡って料理修業をしていた。駈け出しの頃は小さな航空会社の食堂で働いていたらしいが、社長夫妻がクライシス帝国の総攻撃に巻き込まれて亡くなった。自然と会社が畳まれてからは一念発起してあらゆる料理を美味しく作れる料理人になろうと決め、20年以上各地を巡ってその土地の料理を学んで咀嚼することを繰り返したという。飛虎と知り合ったのもその頃だ。何度かホテルやレストランの総料理長にならないかという話もあったが、未熟だからという理由で全て蹴っていたそうだ。だが調理師学校時代の同期に熱心に口説かれて根負けした結果、同期が総料理長をしているホテルレストランのシェフとして、総料理長の片腕的地位になったという。

「けど凰さんの娘さんはIS学園に通ってるんでしょ? 凰さんは心配じゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。娘は中国の代表候補生になったそうですから。今ごろは本国に戻っていますよ。中島さんこそご家族は? 怪人が出ては不安でしょう?」
「親父もお袋も亡くなりましたから。怪人は慣れっこですし、日本には仮面ライダーがいますからね」
「仮面ライダー、ですか……」
「凰さんは仮面ライダーを都市伝説だ思ってるクチですか?」
「いえ、そんなことは。バダンやゴルゴムの時に仮面ライダーが戦っていた、という話は聞いていましたから」
「凰さんこそ中国に戻らないんですか? こんな非常時なんだ、故郷に戻ったって誰も文句は言いはしませんよ」
「日本に一度腰を据えると決めた以上、墓に行くまで日本で生きていく覚悟は出来ていますよ。それに私以外にも帰らない者がいるのを放ってはおけませんし、私も少々向こうには戻りにくい事情がありまして」
「そう言えば凰さんは実家から……悪い事聞いてしまいましたね」
「いえ、気にしないで下さい。私は気にしていませんし、自業自得と言ったところですから」

 カレーを配り終えて吾郎と話していた飛虎だが、吾郎が飛虎が実家から飛び出して久しいことを思い出して謝罪する。飛虎は笑って首を振りつつカレーを食べ始める。
 飛虎の実家は代々宮廷料理人を輩出してきた、料理人にとって名門と言える家柄であった。父親も中国では5本の指に入ると謳われて伝説とまで言われたほどの料理人だ。長兄もまた超一流の料理人として高級ホテルやレストランの総料理長を歴任し、次兄も政府高官御用達のレストランで総料理長を長年務めている。そんな料理人一家の三男として飛虎も育ってきた。しかし優秀な父や二人の兄にコンプレックスを持っていたことや、料理に関して高級志向で権威主義的な部分が見られる実家の料理に反発し、16歳で家を飛び出してからは各地を転々とした。時に軍のコックとして働いて糊口をしのぎながら、料理人としての修業をほぼ独学で続けていた。
 腕を見込んだ父や兄から実家に戻ってくるように言われ、働き口を斡旋してくれたこともあったが、家を飛び出した手前合わせる顔もなく、連絡こそ取っているものの直接顔を合わせる機会はない。だが中国に帰れない理由はもう一つある。

(あいつや娘に会ってしまいそうで怖い、とは言えないな……)

 飛虎にとって中国に帰れない最大の理由は帰国した元妻と娘の存在だ。離婚してからは娘の親権は元妻の方にあり、どのみち会うことは出来ないのだがやはり抵抗がある。愛情が冷え切った末に離婚したわけではないので尚更だ。なにより離婚と言う形で家族を離散させてしまったことで娘に合わせる顔が無い。そんな理由で日本に留まり続けていたのだ。娘が中国の国家代表候補生になったと人伝手に聞いた時も手紙や電話の一つもやれなかった。そんな自分に父親面をする権利などないだろう。
 物思いに耽りながらカレーを食べ終えた飛虎は後片付けを開始する。吾郎はそれ以上何も言わずに後片付けを手伝う。鍋を洗い終えて作業が一段落すると、炊き出しを手伝っていた料理人の一人が飛虎と吾郎の下に飛び込んでくる。

「大変だ! 街の方にゲドンとガランダー帝国が出たらしいぞ!」
「本当ですか!?」
「避難所を警備してる国防軍や警察がそう言ってるんだ、間違いないよ!」
「落ち着いて! すぐに仮面ライダーやSPIRITSが来てくれる! そうすれば怪人なんかあっと言う間に……!」
「落ち着いてなんていられないって! 怪人達は真っ直ぐ避難所に向かってるらしいんだよ!」
「何だって!?」

 冷静に対応するように窘める吾郎だが、続く言葉には流石の吾郎も驚愕する。直後に爆発音が響き渡る。近くで国防軍や警察が交戦を開始したようだ。続けて絹を引き裂くような悲鳴が避難所内から聞こえてくると、飛虎と吾郎は反射的に水道を離れて避難所へと向かう。

「誰か助けて!」
「は、離してくれ!」
「黙れ! 貴様らは生贄として連れて行く! インカの祭壇完成の暁に、大首領様へ捧げられるのだ! ありがたく思え!」
「そんな!? どうやって怪人が!?」

 避難所では獣人や赤ジューシャ、黒ジューシャが市民を捕えては大穴に市民を放り込んでいる。あの大穴を使って侵入してきたらしい。街のゲドンやガランダー帝国は囮だろう。吾郎と飛虎は呆然と立ち尽くしていたが、黒ジューシャが飛びかかえい、二人を無理矢理穴へと放り込む。そこでクモの糸に絡め取られた飛虎と吾郎は地面へ激突することだけは避ける。網から降ろされた二人は他の市民と共に獣人やレイピアに似た剣を持った赤ジューシャ、黒ジューシャに取り囲まれる。代表して赤ジューシャの一人が声を張り上げる。

「我々と一緒に来て貰う。抵抗しないのであれば命は保証してやろう。だがあくまで抵抗するのであれば、獣人の餌にしてくれる!」
「アホなこと言うんも大概にせい! 誰がお前らみたいな連中の好きにされるか!」

 赤ジューシャに反発した血気盛んな数名が吐き捨てるように言い、赤ジューシャに飛びかかって揉み合いの末に剣を奪う。その瞬間にゲドンのヘビ獣人やガランダー帝国のフクロウ獣人が男たちの前に立ち塞がる。

「抵抗するか、なら丁度いい。見せしめも兼ねて貴様ら全員食い殺してくれるわ!」
「やれるもんならやってみいや! 獣の出来損ないが!」

 先頭の男が果敢にもヘビ獣人に剣で突きかかるが、ヘビ獣人は長い尾を横に振るって剣を弾き飛ばす。そして男が怯んだ隙に口を開いて頭から丸呑みにする。男は必死にもがいて逃れようとするが、ヘビ獣人は嘲笑うように身体を締め上げる。やがて何かが砕ける音と断末魔の悲鳴がヘビ獣人の口の中から聞こえ、ヘビ獣人は抵抗しなくなった男を胃袋へと送り込む。続けてフクロウ獣人が別の男に飛びかかり、嘴で頭をめった刺しにした後に胴体を食いちぎっては飲み込む。他の獣人たちも男たちに次々と飛びかかり、肉片や血しぶきを飛ばしながら捕食していく。市民の間に悲鳴が流れ、気絶したり嘔吐したりする者がいるのを確認した赤ジューシャは声を張り上げる。

「これで分かっただろう。無駄な抵抗すれば貴様たちもこの愚か者同様、生きたまま獣人に貪り食われるのだ。分かったなら大人しく歩け! 従わなければ餌にするぞ!」

 誰一人として抵抗する気力などある筈もなかった。獣人たちが僅かな骨を残して男たちの捕食を完了したのを見届け、赤ジューシャが指示を出すと市民たちは大穴を歩かされるのであった。

**********

 鈴やアマゾンが神戸市に到着した時には一歩遅く、ゲドンやガランダー帝国は撤収を完了した後であった。国防軍や警察の話では瞬く間に撤退してしまったという話だ。不審に思った鈴とアマゾンだが、避難所の方に出向いていたビクトルとマサヒコ、SPIRITS第6分隊から連絡が入る。鈴とアマゾンは『ジャングラー』に乗って避難所へ向かう。
 避難所に到着すると敷地内には大きな穴が開いており、周辺をSPIRITS第6分隊が警戒している。鈴もアマゾンも避難所にいる筈の民間人が見当たらないことに気付く。アマゾンが穴の中に飛び込み、鈴が近くにいた隊員に質問しようとした時に避難所の建物内から出てきたビクトルとマサヒコ、キャプショーが鈴に声をかける。

「鈴さん、街の方は?」
「ゲドンもガランダー帝国も撤退しちゃったみたいです。それより、避難してきた人は?」
「それが、誰一人としていないんですよ。国防軍や警察からも話を聞いたんですが、ゲドンやガランダーが襲撃してくる直前までは人がいたらしいんです。調べてみた限りでは炊き出しが終わった少し後のようですし、荷物は残ってますので勝手に避難所から移動した可能性は低いでしょう。他の避難所にも照会してみましたが、こちらの避難所から移って来た人はいないと」
「まさか、ゲドンとガランダー帝国が!?」
「可能性は高いと思います。街に出現したゲドンやガランダー帝国のジューシャ達は囮で、本命は国防軍や警察の注意が囮に向いている隙に市民を拉致した、といったところでしょうね。穴はその為に掘り進めていたんでしょう。ところでアマゾンは?」
「それが、いきなり穴の中に飛び込んじゃって」

 鈴は深さ10メートルはあろう縦穴を覗きこむ。下は薄暗く底がどうなっているかは分からない。敵はいないらしい。鈴は一度『甲龍』を装着するとPICを使って降下を開始し、ハイパーセンサーに意識を集中させつつ穴の底に到達する。鈴の前に長い横穴が続いている。敵の反応は見当たらない。鈴が通信を入れて安全が確保されたことを教えると、キャプショーを始め数人の隊員がロープを使って穴の底まで降下し、ライトを照らして視界を確保する。鈴は『甲龍』の展開を解除するとしゃがみ込んで何かを見ているアマゾンへと歩み寄る。

「アマゾン、何してるの?」
「骨、見てた。これ全部、人間の骨」
「人間の骨って……!?」

 アマゾンの一言で、鈴は目の前に散乱している白いモノが人間の骨であると悟る。人間の頭がい骨らしき骨まである。鈴は恐る恐る骨を一本拾ってみる。何か鋭い牙でも突き立てられたかのような穴が空いている。

「アマゾン、この骨って、まさか……?」
「多分、ゲドンとガランダーの獣人に食べられた。この骨の噛み痕、ワニ獣人の牙で噛まれて出来た」
「じゃ、じゃあ捕まった人たちは、みんな食べられちゃったの!?」
「違う。食べられたのは少しだけ。残りはみんな連れて行かれた。ジューシャに獣人、それ以外の匂い、向こうからしてくる。それとリン、無理はするな。気持ち悪いなら休め」
「私は、まだ大丈夫。キャプショー分隊長、後はお願いできませんか?」
「分かりました。遺骨はこちらで回収しておきます」
「それじゃアマゾン、行こ? 早く捕まった人たちを助けないと。キャプショー分隊長、私とアマゾンで先に進んでみます。2人だけなら見つからないと思いますから」
「分かりました。アジト等が見つかったのならば『個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)』で連絡して下さい。こちらも用意しておきます」

 獣人が人間を捕食したことを考え、鈴もあまりの凄惨さに気分が悪くなる。同時にゲドンやガランダー帝国の残虐さに改めて怒りを燃やして持ち直す。アマゾンは静かに骨を見ているが、表情や雰囲気はゲドンやガランダー帝国への怒りで満ちている。そこで鈴はアマゾンを促して穴をたどることを決める。ジャングラーや『甲龍』を使えば目立つので、徒歩でいくしかない。鈴はキャプショーにその場を任せてアマゾンと共に慎重に進んでいく。時折アマゾンは匂いを嗅ぎ、地面に耳を押し当てて物音を聞いて巡回や待ち伏せがないか確かめているが、遭遇する気配はない。
 ふと鈴はアマゾンに気になったことを尋ねてみる。

「そう言えばアマゾン、アマゾンって本当は山本大介って名前の日本人なんでしょ? どうしてアマゾン河流域のジャングルで、バゴーって人の手で育てられたの?」
「オレの家族、オレが小さい頃、飛行機が落ちて死んだって聞いた。オレ、そこでバゴーに拾われた。バゴー、オレを育ててくれた。だから山本大介って名前、分からなかった」
「そうなんだ、育ての親だけじゃなくて、産みの親ももういないんだ……」
「大丈夫。バゴー、ギギの腕輪の中にいる。それにオレにはトモダチがいる。だからオレ、寂しくない」
「もう一つ気になっていたんだけど、バゴーって人がギギの腕輪にいるってどういうことなの?」
「バダンの時、インカの光封印したらバゴーが光から出てきた。それでバゴー、オレを一人にしないって言って、腕輪の中に入った。だからバゴー、いつでもオレと一緒」
「なんか全然シチュエーションが想像出来ないと言うか、意味がよく分からないんだけど……」
「分からなくていい。オレもあんまり良く分からない。けど、それでいい。大事なのは、バゴー、オレと一緒にいるって言ってくれたこと」

 アマゾンの説明を聞いてもちんぷんかんぷんな鈴だが、アマゾンも感覚的に理解しているだけらしく、鈴もこれ以上聞く気になれない。鈴はもう一つだけ質問する。

「アマゾン、やっぱりゲドンもガランダーも許せない?」
「ゲドン、バゴーだけじゃなくて、マサヒコとリツコの家族殺した。ガランダー、モグラ殺した。ゲドンもガランダーも沢山殺して、奪ってきた。だから、何回復活してきても、もうゲドンには殺させない。ガランダーには奪わせない」

 アマゾンは静かに、しかしいつもの能天気さを感じさせず鈴に答えてみせる。普段は呑気と言うかマイペースなアマゾンであるが、悪の組織を相手にするときは一切感じさせない。特にゲドンやガランダー帝国と戦っている時はそれが顕著だ。たまに怖いと思う鈴だが、ゲドンは育ての親の仇であり、ガランダー帝国は友の仇である。いつも通りに振る舞えと言われても無理だろう。だがいきなりアマゾンは鈴を抱えて飛び上がり、『コンドラー』からロープを射出して天井に突き刺して壁に張り付くようにぶら下がる。

「アマゾン、ちょっと……むぐっ!?」
「リン、静かにする。ジューシャが来る」

 アマゾンが鈴の口を右手で塞いで息を殺す。しばらくすると2人の黒ジューシャが奥の方から歩いて下を通り過ぎる。アマゾンは黒ジューシャが遠ざかったことを確認すると、地面に降り立って鈴を離した後にコンドラーを戻す。

「やっぱりアジトがあるみたいね。もう少し進んで、どんなアジトか確かめましょ?」

 鈴はアジトがあると確信すると慎重に進んでいく。30分ほど歩き進んでいくと広い空間が広がっている。咄嗟に物陰に隠れて様子を窺うと、多数の赤ジューシャと黒ジューシャが内部を巡回している。ゲドンとガランダー帝国のアジトらしい。鈴はプライベート・チャネルでキャプショーらSPIRITS第6分隊に通信を入れ、アジトの特徴を伝える。

「捕まった人たちがどこにいるか分からないわね。アマゾン、どうする?」
「ならオレ、囮になる。リンがその隙に捕まったヤツ探す」
「分かったわ。ならお願いね?」

 簡単な打ち合わせを済ませるとアマゾンは手近な黒ジューシャに猿のような動きで飛びかかり、地面に頭を打ち付ける。

「侵入者だ!」
「おのれアマゾン! ここを嗅ぎつけてきたか!」

 最初は何が起きているのか理解していなかったジューシャたちだが、侵入者がアマゾンと確認すると至る所から赤ジューシャや黒ジューシャが飛び出し、アマゾンを倒そうと挑みかかっていく。アマゾンは片っ端から蹴散らしながら赤ジューシャや黒ジューシャの注意を自らに引き寄せる。

「囮にしても、少し派手にやりすぎじゃない? あのジューシャ、まさか人質の所に?」

 アマゾンの陽動を見て溜息をつく鈴だが、一目散に走っていく赤ジューシャを見つけると追いかけるように走り出す。赤ジューシャは鈴に比べると速度は遅く、鈴は追い付くなり飛び蹴りを入れて赤ジューシャを蹴り飛ばす。奥から足音が複数聞こえてくると鈴は一計を案じ、IS学園制服を脱いでISスーツ姿になる。続けて赤ジューシャの服を奪って上に着込み、制服は量子化させて待機形態の『甲龍』に格納させる。赤ジューシャをダストシュートに入れた鈴は、奥からやってきた複数の黒ジューシャに何食わぬ顔で敬礼する。すると黒ジューシャが口を開く。

「侵入者は!?」
「向こうで暴れている! 気をつけろ、相手はアマゾンだ! 私は人質の様子を見てくるように命令された! 後は頼む!」
「分かった!」
「いや、待て!」

 黒ジューシャは鈴の言うことを鵜呑みにし、アマゾン迎撃に出ようとするが別の黒ジューシャがそれを止める。

「お前、本当にゲドンのジューシャなのか? その割には背も胸も小さいではないか」

 黒ジューシャが鈴が一番気にしている胸の小ささについて言及するとカチン、とくる。

「いや、胸が小さいジューシャがいてもおかしくないだろう」
「しかしこいつの胸は貧相過ぎるし、体格も小さ過ぎる」

 胸を貧相過ぎるとまで言われ、怒りのボルテージがどんどん上がっていく。

「そんなことより、アマゾンライダーの迎撃が先だ!」
「だから待て! こいつ、もしかするとアマゾンライダーの協力者かも知れないぞ。先遣隊の報告ではアマゾンライダーに協力しているのは、チビで胸が薄いガキだと聞いているからな」

 二度ならず三度までも言われたことで、鈴の堪忍袋の緒が切れる。鈴はニコニコと笑顔を浮かべながら拳を握る。

「誰が……」

 黒ジューシャが不審に思った瞬間、鈴の表情が一転して阿修羅の如き憤怒のそれになり、黒ジューシャが反応する間もなく腕を部分展開して殴りかかる。

「貧乳で! 貧相で! チビですって!?」

 鈴は怒りのままに黒ジューシャを殴り飛ばして沈黙させ、制服を着直すと怒りが収まらぬまま先へと進んでいく。しばらく進んで牢獄が見えてくると大急ぎで駆け込んで中を覗く。

「やられた!?」

 牢獄の中はもぬけの殻だ。壁に大きな横穴が空いている。ゲドンとガランダー帝国は市民を別の場所に移送したか、最悪獣人に食わせてしまったのかも知れない。焦りを覚える鈴だが、いきなり飛んできた毒針を床に転がって回避する。

「見つかった!?」
「隠れてきたつもりでも俺には通用せんぞ、チビガキが!」

 針を飛ばしてきたのはガランダー帝国のハチ獣人だ。鈴は咄嗟に『甲龍』を緊急展開するが、ハチ獣人は急降下して両手の針を突き出す。鈴は緊急展開が完了すると『双天牙月』を呼び出し、辛うじてハチ獣人の針を防いで鍔競り合いになる。すハチ獣人は口の針を突き刺そうとするが、鈴は首を振って針を回避し、肩の『龍咆』を展開して発射しようとする。ハチ獣人はギリギリで飛翔して距離を取り、尾部の針を飛ばしてくると鈴は龍咆で針を弾き飛ばす。ハチ獣人本体への追撃に入る。双天牙月を振るってハチ獣人とやり合いながら鈴は声を張り上げる。

「言いなさい! 捕まえた人たちはどこへ連れて行ったのよ!?」
「何をふざけたことを! 生贄を逃がしておいて何を言う!」
「そっちこそふざけんじゃないわよ! あんたらが捕まえた人たちをどっかに……!」
「そこのチビガキ! これを受けろ!」

 鈴がハチ獣人に反駁している途中、背後からゲドンのヤマアラシ獣人が身体を丸めて弾丸のように突っ込んでくる。鈴はスラスターを噴射して上昇に転じ、ヤマアラシ獣人の攻撃を回避する。続けて鈴は龍咆を展開してヤマアラシ獣人を砲撃するが、ヤマアラシ獣人は身体を丸めたまま再び体当たりを仕掛け、壁をバウンドするように鈴めがけて突進してくる。龍咆で撃ち落とすヤマアラシ獣人は身体を元に戻すが、その隙にハチ獣人が鈴に体当たりを仕掛ける。鈴を組み伏せて馬乗りになると両手の針で突いてくる。咄嗟に両手で掴み止めて防ぐ鈴だが、ハチ獣人が力を込めてくると徐々に針が胴体に近付いていく。鈴の額に汗が浮かび始めると、ハチ獣人は勝利を確信したのか鈴を嘲るように話し始める。

「フン、クソガキが。人間の分際で調子に乗りおって。だがどれだけ粋がっても貴様の命はここまでだ! アマゾンも助けにはこない。俺が口の針を使えば貴様は死ぬ。万事休すだな!」
「くっ、まだまだ……!」
「無駄だ! そんなへなちょこで俺の針は防げんぞ! それと死ぬ前に一ついいことを教えてやろう。貴様が浴びた俺の返り血には俺以外には感知できない特殊なフェロモンが含まれているのだ。だから貴様が侵入してきたことなど、俺には最初からお見通しだったということだ。では、あの時の借りを返してやる! 死ね!」

 ハチ獣人は口の針で鈴を突き刺そうと首を後ろに曲げる。

「チュチューン!」

 しかしネズミのような鳴き声が聞こえてくると、何かがハチ獣人に体当たりを仕掛けてハチ獣人を弾き飛ばす。乱入者は続鈴を助け起こして獣人の前に立つ。

「大丈夫か? 走れるならさっさと逃げろ!」
「あ、ありがとう……!?」

 ピンチを救ってくれた乱入者に思わず礼を述べる鈴だが、その姿を驚愕のあまり硬直する。
 鈴を助けてくれたのは人型ではあったが、人間の姿をしていなかった。一言で言えばゲドンやガランダー帝国と同じ獣人だ。モグラを思わせる外見につぶらな瞳、鼻の先端はまるで何かの花弁のように開いていて、他の獣人に比べて愛嬌がある。むしろ可愛いとも言える。その獣人を見たヤマアラシ獣人は全身の針を怒りで逆立てながら吠えたぎる。

「やはり裏切りおったか! 一度ならず二度死んで、またアマゾンライダーに与するか!」
「当たり前だ! 甦らせた後に散々痛めつけて。こき使うゲドンやガランダーに誰が味方するかってんだ! それに俺も一端の獣人、本当の仲間を裏切る程落ちぶれちゃいない! そういう訳だからお嬢さん、俺はこいつらと敵同士なんだ。ここは俺が引き受けるから、早くあの穴を通って逃げるんだ。あの穴はちゃんと地上に通じてるから安心していい」
「黙れモグラ獣人! ならばゲドンの裏切り者から始末してくれるわ!」
「モグラ……獣人!?」

 鈴は目の前に立っている愛嬌がある獣人こそ、かつてアマゾンに協力していたモグラ獣人であると知り、思わずその顔を凝視するのであった。

**********

 時間を巻き戻す。
 獣人たちがアジトに戻って来た少し後。穴を掘らされていたモグラ獣人は見張りの赤ジューシャに追い立てられ、最深部にある牢獄に入れられる。

「やいやいやい! ここから出せ! 折角言う通りに働いてやったのに、どうして俺が牢屋行きなんだ!?」
「黙れ! 汚らわしい裏切り者が! 貴様には牢屋で十分だ! 本来ならば八つ裂きにしても足らぬ罪を犯した貴様を、十面鬼様が特別な温情で生かしてやったのだ。無事に生きているだけ有り難いと思え!」
「何が温情だ! 目が覚めるなり火責めの拷問に掛けておいて、感謝しろってのか!?」
「やかましい! 大人しくしていないとまた問にかけるぞ! 次に働く時がくるまで大人しくしていろ!」

 赤ジューシャがそれだけ吐き捨て、文句を言い続けるモグラ獣人を無視して歩き去っていく。赤ジューシャに一しきり文句と罵倒を浴びせたモグラ獣人であったが、溜息をつく。

「くそう、せめてアマゾンやマサヒコに会えたらなあ……」

 モグラ獣人はかつての盟友二人を思い浮かべる。
 モグラ獣人もゲドンに生み出された獣人だ。当初は十面鬼ゴルゴスの命令を受けてギギの腕輪を奪うべくマサヒコを人質にし、アマゾンに挑むものの敵わずに逃げ帰ることを余儀なくされた。配下の失敗を許さない十面鬼ゴルゴスは激怒してモグラ獣人を処刑すべく、モグラ獣人を日干しにしようした。しかし通りかかったアマゾンにより助けられ、傷の手当てまでされてしまった。結局不本意ながらアマゾンに協力してしまったことからなし崩し的にアマゾンの協力者となってしまった。当初はゲドンに帰ることも考えたが、アマゾンやマサヒコと交流を深めていく内に友情に目覚め、本心からアマゾンに協力するようになった。
 だからガランダー帝国のキノコ獣人に猛毒のカビを植え付けられ、自らが死ぬと悟った時も後悔など微塵も感じなかった。怖くなかったと言えば嘘になるが、マサヒコやアマゾン、大勢の人を助けられると考えれば、自らの命など惜しくはなかった。それだけに目が覚めた時、十面鬼ゴルゴスと赤ジューシャ、獣人がいたのを見た時には何事かと思ったものだ。
 モグラ獣人は『大首領』という存在によって復活したこと、大首領の力によりモグラ獣人や獣人ヘビトンボも再生させられたことを聞かされた。当然、モグラ獣人を許す気など十面鬼ゴルゴスにはなく、モグラ獣人もゲドンに忠誠を誓う気はなかった。モグラ獣人は火責めの拷問に掛けられ、獣人ヘビトンボも裏切った時の成虫に成長させられた上で制裁を受け、制裁後も出撃を許されないという有様であった。
 モグラ獣人は苛烈な拷問にも屈せずに頑張っていたが、ゼロ大帝がある作戦に協力するなら自由の身にしてやる、と持ちかけてきた。当初は断固として拒否していたモグラ獣人だが、ゼロ大帝があまりにしつこく要請してきたことから裏で何かを企んでいると本能的に理解した。そこでゼロ大帝の思惑を突き止めた上でアマゾンに伝えようと決意して最終的には要請を呑んだ。それからというもの、モグラ獣人は毎日目隠しされた状態で移送され、指示された方角にトンネルを掘らされ続けた。しばらく掘り進めてトンネルの拡張が終わると別のアジトへという作業を繰り返していた。
 今回は避難所の真下に通じるトンネルを掘らされていたらしく、拡張工事がいつもより長引いた。焦るモグラ獣人だが、すぐに思い直す。

「ゲドンめ、俺がモグラの獣人だってのを忘れてるのか? たとえ分厚い岩盤だって、俺の手にかかれば……!」

 モグラ獣人は周囲に監視の目が無いことを確認すると、地面に爪を突き立てて穴を掘り始める。地面に穴があいて瞬く間に地面の下に身体が隠れるほどの深さになる。元々モグラを素体としている上、改造手術により能力は強化されている。モグラ獣人本人には覚えのない記憶だが、『阿蘇山』を噴火させるために分厚い岩盤をぶち抜いたこともある。アジトの地面を掘るなどモグラ獣人には朝飯前だ。一度深く下にもぐったモグラ獣人は、続けて横穴をある程度掘った後に一度場所を確認すべく上に向かって掘り始める。地表に近付くと息を殺して耳を澄ませる。
 視力はあまり良くないが聴覚や触覚、嗅覚は抜群だ。赤ジューシャや黒ジューシャが付近にいないことも、多数の人間が真上に閉じ込められていることも、啜り泣いている者がいることもモグラ獣人にはよく分かった。最初は脱出路確保を優先しようとしたモグラ獣人だが、泣き声が収まる気配がないと放ってはおけず、意を決して掘り進めて地面から顔を出す。
 モグラ獣人が穴を開けて顔を出すと、避難所から連行されてきた市民が牢獄に押し込められていた。中には女性や子供も少なからずおり、泣いているのは子供が大半だ。モグラ獣人の胸が痛む。こうなったのも自分のせいだ。同時になんとしても助けようと決意して身体を穴から出す。案の定人間たちは悲鳴を上げ、男たちが前に出て女子供だけでも守ろうとする。無駄かも知れないと頭では理解しつつ、モグラ獣人はまず落ち着かせようとする。

「まあ落ち着けって。そんなに騒いだんじゃジューシャ共が騒ぎを聞きつけて集まってきちまうよ」
「黙れ化け物! いきなり出てきて、約束を反故にして俺たちを食う気で来たんだろ!?」
「いや、そうじゃない。実は俺もゲドンに捕まって酷い目に遭わされてて、逃げようとしてたところなんだよ」
「そんな嘘に騙されるか! 早く俺たちをここから出せ!」
「そうだそうだ! 俺たちが一体何をしたってんだ!?」
「殺すならひと思いに殺せ! あんな風に生きたまま食い殺されるくらいなら、一発で楽になった方がマシだ!」
「いや、だからあんたらを出そうと思って顔を出してきたんだよ。せめて声は落としてくれないと……」
「アホなこと言うな! そんなんに誰が騙されるか!」
「いや待て! みんな、こいつ滅茶苦茶弱いんじゃないか? ほら、じょうろみたいで間抜けそうな顔してるし、本当は馬鹿みたいにヘボいから、騙し打ちでしか人間を食えないんじゃ……」
「ちょっと待った! 俺が弱そうだと!? アマゾンライダーと一緒にゲドンやガランダーと戦ってきた俺が弱そうとは、大した度胸じゃないか! 痩せても枯れても俺だって獣人だ! 見くびって貰っちゃ困る!」

 流石に我慢できずキレたモグラ獣人は猛然と反駁し始める。すると男の一人が前に出て、モグラ獣人の前に立つ。

「ちょっと待ってくれ、みんな。お前、アマゾンライダーと一緒に戦ってきたって言ってたよな? まさかお前、仮面ライダーアマゾンを知ってるのか?」
「知ってるも何も、俺のトモダチだよ。お前さんこそアマゾンを知ってるのか?」
「ああ。だから一つ聞きたい事がある。このサインが何を意味しているか知ってるか?」

 男は両手の指を組み合わせてサインを作って見せる。モグラ獣人にとっては懐かしく、そして大切なサインだ。モグラ獣人もまた両手の指を組み合わせ、サインを作って答える。

「どんだけ生まれ変わっても忘れはしないさ。こいつは俺とアマゾン、マサヒコにとって大事な『トモダチ』のサインなんだから。もしかしてあんた、アマゾンの友達なのか? だったらなおさらここから出さなくちゃなあ。頼むよ、あんたがアマゾンのトモダチ、いや知り合いでもいい。ここはアマゾンを信じるつもりで、俺も信じてくれないか? それが無理なら、せめて俺を信じてるアマゾンを信じてくれ。頼むよ、俺はどんだけ疑われてもいい。けどアマゾンとマサヒコだけは……」

 モグラ獣人が最早哀願するような口調で頼むと男はしばし考え込んだ後、口を開く。

「……分かった。今はお前を信じるよ」
「中島さん!?」
「いいから聞いてくれ、みんな。この怪人は経緯は知らないけど、仮面ライダーの味方だった怪人なんだ。だから俺は一回くらい信じてみたい。どの道生贄にされるか怪人に食い殺される運命なんだ、せめて仮面ライダーの友達を信じて死んでやりたいんだ」
「で、でも……!」
「このままだと俺たちは確実に死ぬ。だから僅かな可能性にでも賭けなきゃなんない。まず俺一人でこいつが嘘をついているかどうか確かめてくる。戻ってこなかったらこいつの言ったことは嘘だと思ってくれ。じゃあ、頼むよ」
「ちょっと待ってろよ。少し穴を作るから」

 中島という男が自分を信じると決めるや、モグラ獣人は再び穴に潜って今度は地上を目指して掘り進む。しばらく掘って地表に出てジューシャや獣人がいないことを確認する。出たのは街中の公園のようだ。続けてモグラ獣人は元来た道を戻り、今度は穴を拡張しつつも人間でも登れるように極力緩やかな勾配の穴を掘っていく。行きよりずっと時間がかかり、コースも途中でズレてくるが最終的に牢獄の土壁を大きくぶち抜いて到達する。モグラ獣人は中島を連れて地表へと向かう。中島はモグラ獣人の誘導を受けながら慎重に穴を進んで地表まで出る。中島はしばらく周囲を見渡して待ち伏せがないか確かめる。

「お前が言っていたことは本当らしいな。じゃあ、戻ろう」

 中島は約束通りモグラ獣人とともに牢獄へ戻る。それから中島とモグラ獣人の誘導で残る市民の避難が開始される。途中で渋る市民もいたが中島や賛同する者の説得を受けて地表へ出ていく。最後に中島とモグラ獣人が出てくると市民に安堵の表情が広がる。

「あんたらは早く逃げるんだ。俺はちょっと落とし前をつけてくるよ」

 モグラ獣人は再び牢獄へと戻る。すると鈴がハチ獣人とヤマアラシ獣人に襲われているのを発見する。モグラ獣人が咄嗟に助けに入って現在に至る。

「この裏切り者が! 小娘の前で格好をつけても無駄だ! ここで小娘共々始末してくれる!」
「舐めるなよ! 俺だって獣人の端くれだ! 簡単には負けてやるものか!」

 ヤマアラシ獣人は鈴を無視してモグラ獣人を始末しようと飛びかかるが、モグラ獣人はあっさり横に回避する。続けて残像が出来るほどの高速移動でヤマアラシ獣人の周囲を回り始め、スピードについていけないヤマアラシ獣人を翻弄する。ヤマアラシ獣人が痺れを切らせて身体を丸め、体当たりを仕掛けてくるがモグラ獣人には当たらない。逆に運悪く軌道上にいたハチ獣人と衝突してまとめて地面に転がる。その隙にモグラ獣人は踏み込み、爪の一撃をヤマアラシ獣人とハチ獣人に浴びせる。二体が反撃しようとすると再び高速移動で離脱して縦横無尽に走り回る。ヒットアンドアウェイを繰り返し、体力を削ろうというのがモグラ獣人の考えだ。
 しかしモグラ獣人の爪は殺傷用に出来ていないためか大したダメージは与えられていない。ハチ獣人が尾部の針を飛ばしてモグラ獣人を追尾させると回避に集中せざるを得ず、攻撃出来なくなる。その隙にヤマアラシ獣人は身体を丸め、ハチ獣人は両手の針を構えてモグラ獣人めがけて突進する。

「死ね! 裏切り者め!」
「やらせる訳にはいかないのよ!」

 だが鈴が肩部龍咆でまずヤマアラシ獣人を吹き飛ばし、続けて双天牙月を連結させてハチ獣人に投げつける。ハチ獣人の動きを止めるとスラスターを最大出力で噴射して突撃し、ハチ獣人にショルダーチャージをかけて地面に叩き落とす。最後に鈴はブーメランのように手元に戻ってきた双天牙月を分解して両手に持ち直し、モグラ獣人の前に立つ。

「お嬢さん、なんか知らないが強いなあ。そのヘンテコな鎧のお陰かい?」
「ヘンテコって……まあ、それでいいわ。あんたには色々聞きたいことがあるんだけど、話は後よ。まずはこいつらを片付けるわよ!」
「貧相なチビガキが! 返り討ちにしてくれる!」
「誰が貧乳よ! タダで済むと思わないでよ!」

 相変わらず気にしていることを言われてキレる鈴だが、ヤマアラシ獣人が丸のように突っ込んでくる。冷静に横にスライドするように回避する鈴であったが、ヤマアラシ獣人が壁で跳ね返る前に右腕を前に突き出す。

「このボルテック・チェーンなら!」

 すると右腕部衝撃砲が量子化され、代わりに先端に鉤爪のついたチェーンが射出されてヤマアラシ獣人に巻き付いて絡め取る。直後にチェーンから高圧電流が流し込まれると、ヤマアラシ獣人も耐えかねて身体を元に戻す。専用機持ちタッグマッチの際に要求していた高電圧縛鎖『ボルテック・チェーン』だ。腕部衝撃砲から換装することで使用可能となった新たな武装だ。鈴はヤマアラシ獣人を絡め取ったまま、何度も地面に叩きつけてヤマアラシ獣人を弱らせる。ボルテック・チェーンを格納すると双天牙月を手に持って瞬時加速を発動させて突撃し、すれ違い様にヤマアラシ獣人の首へ斬撃を浴びせる。ヤマアラシ獣人の首から大量の血が噴出するのを見た鈴は、トドメとばかりに肩部龍咆を叩き込んでヤマアラシ獣人に直撃させる。限界を迎えたヤマアラシ獣人は斃れて死体が液化する。
 続けて鈴はハチ獣人に左腕部衝撃砲を叩き込んで怯ませ、連結させた双天牙月を毒針に投げつけて叩き落とす。駄目押しとばかりに手元に戻ってきた双天牙月を針に振り下ろして叩き折る。ハチ獣人は標的を鈴に変えて襲いかかってくるが、鈴は慌てずに龍咆を発射してハチ獣人を返り討ちにし、今度は左腕をボルテック・チェーンに換装してハチ獣人めがけて射出する。すると先端の鉤爪がハチ獣人の腹を貫いて高圧電流が流し込まれる。ハチ獣人は内側からの電気責めに悶絶していたが、鈴は高圧電流を流し込みながらボルテック・チェーンを引き寄せる。そして手の届く距離まで接近するとボルテック・チェーンを格納し、左腕部衝撃砲を押し当てる。

「あんたたちに食い殺された人たちは、これよりずっと苦しかった筈よ」

 鈴はハチ獣人に冷たく言い放った直後に左腕部衝撃砲を躊躇いなく発射する。放たれた衝撃波が大きな穴をハチ獣人の胴体に開け、ハチ獣人は地面に叩き落とされた後で煙のように消え去る。鈴は静かに地面に降り立つとモグラ獣人の前に立ち、『甲龍』を待機形態に戻す。

「助けてくれてありがとう。それといくつか質問があるんだけど、あんたはゲドンのモグラ獣人で合ってる?」
「もうゲドンじゃないけど、俺は確かにモグラ獣人だ。けどなんで俺のことを知ってるんだ?」
「それは追々説明するわ。次に、このサイン、分かる?」

 鈴は指を組み合わせ、アマゾンから教わった『トモダチ』のサインを作って見せる。するとモグラ獣人の様子が変わり、かぶりつくように鈴に顔を近付ける。

「もしかして、お嬢さんもアマゾンのトモダチなのか!? アマゾンは今どこで、何をしているんだ!? ゲドンやガランダーと戦いに来てるんだろう!? マサヒコとりつ子は!? 二人は元気なのか!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! こっちが話せないわよ。順番に答えるけど。私もあんたやマサヒコさんと同じで、アマゾンの『トモダチ』で凰鈴音よ。話はアマゾンやマサヒコさんから聞いてるわ。今はアマゾンと一緒にゲドンやガランダー帝国と戦ってるの。アマゾンならもうこのアジトに侵入してるわ。りつ子さんって人は分からないけど、マサヒコさんも一緒よ」
「そうか、良かった……なら鈴音、アマゾンを助けに行こう。一人じゃ大変だ」
「勿論そのつもりよ。ついてきて!」

 鈴はモグラ獣人と共にアマゾンの救援に向かう。
 その頃、縦横無尽にアジトを駆け回って暴れていたアマゾンは黒ジューシャと赤ジューシャを全滅させ、獣人の相手をしていた。ワニ獣人が噛み砕こうとすればアマゾンが首筋に噛みつき、ヘビ獣人が尾を振るえばアマゾンが跳躍して尾を回避する。空中から襲いかかろうとするフクロウ獣人を捕まえ、地面に落して掌底の連打を浴びせる。ガマ獣人が舌を伸ばしてアマゾンの首を締め上げて攻撃を中断させるとフクロウ獣人はその場を離脱する。アマゾンはもがいてガマ獣人の舌を掴むと思い切り噛みつき、ガマ獣人を悶絶させて拘束から逃れる。入れ替わるようにフクロウ獣人が爪で挑みかかり、ワニ獣人が噛みついてくるとアマゾンは地面を転がって回避する。そして起き上がろうとするのに合わせ、ヘビ獣人がアマゾンを丸呑みにしようと口を開ける。

「ここで食い殺してやる! 死ね!」

 ヘビ獣人は躍りかかってアマゾンを飲み込もうとするが、何者かに尾を引っ張られたことで床に叩きつけられ、その隙にアマゾンは離脱する。続けて部分展開した鈴がガマ獣人を殴り飛ばしてアマゾンの横に立つ。

「アマゾン、こっちは済ませてきたわ。後はこいつらを片付けるだけ」
「リン、ありがとう」
「お礼なら私じゃなくてこっちに言いなさい。結局私は何も出来なかったから」

 鈴は乱入者を示す。するとアマゾンはその乱入者の下へと一目散に駈け出して口を開く。

「お前、モグラか!? オレのこと、分かるか!?」
「当たり前だろ、アマゾン。お前やマサヒコ、りつ子のことはよく覚えてるさ。だって俺たち、トモダチだろ?」

 乱入者ことモグラ獣人が『トモダチ』のサインを作って見せると、アマゾンは嬉しさのあまりモグラ獣人に飛びつく。そんな天真爛漫なアマゾンの姿を鈴は微笑ましく思いながら見ていたが、空気を読まずに怒りの声を上げる獣人たちを見て舌打ちする。

「アマゾン、喜ぶのは後で! まずはこいつらを!」
「俺も助太刀するぞ! 死なない範囲で」
「ああ! リン、守るぞ!」

 さり気なく弱気な発言をするモグラ獣人に内心少し呆れる鈴だが、短いながらも決意の籠ったアマゾンの一言を聞くと改めて闘志を燃やす。鈴が右手の腕輪に手を掛けるとアマゾンもまた腕をもがくように動かして咆哮する。

「行くわよ、『甲龍』!」
「アァァマァァゾォォン!」

 鈴の身体を装甲が包み込んで『甲龍』の装着が完了し、アマゾンの身体を光が包み込んで変身が完了する。ワニ獣人が牙を剥ぎ出しにして襲いかかるが、鈴は双天牙月を両手に持つ。仮面ライダーアマゾンは両手の『アームカッター』に力を込めてワニ獣人に斬撃を浴びせる。仮面ライダーアマゾンが水平チョップや回し蹴りを連続して叩き込み、貫手で胴体を数回突いてワニ獣人を怯ませる。最後に上段回し蹴りを数回連続で顎に叩き込んでワニ獣人をグロッキーにすると、鈴が肩部龍咆を発射してワニ獣人を吹き飛ばす。仮面ライダーアマゾンは力強く大地を蹴ってワニ獣人へと突進し、鈴は双天牙月を連結させて右手に持つ。双天牙月をバトンのように振り回しながら瞬時加速を使ってワニ獣人へと向かっていく。

「ダブル大切断ッ!」

 仮面ライダーアマゾンは右手のアームカッターで、鈴は連結させた双天牙月で渾身の斬撃を放つ。するとワニ獣人は首を斬り落とされた挙げ句に胴体も両断される。続けて仮面ライダーアマゾンはガマ獣人に、鈴はフクロウ獣人へとそれぞれ挑みかかる。
 仮面ライダーアマゾンはガマ獣人が伸ばしてくる舌を回避し、毒ガスを吐いてくるや地面を蹴って跳躍する。そのままアジトの壁を蹴って飛び回り、ガマ獣人の毒ガスを回避し続ける。痺れを切らしたガマ獣人は頭を取り外し、仮面ライダーアマゾンめがけて飛ばす。本体も跳躍して仮面ライダーアマゾンに追いすがろうとする。仮面ライダーアマゾンはガマ獣人の舌にノコギリに変形させたコンドラーを突き立てて怯ませる。
 続けてコンドラーをロープに変形させ、ガマ獣人の頭をロープで絡め取って本体めがけて叩きつける。コンドラーを元に戻すと咆哮を上げながらガマ獣人へ飛びかかって馬乗りになり、噛みつき攻撃『ジャガーショック』と引っ掻き攻撃『モンキーアタック』を繰り返す。その苛烈な攻撃によってガマ獣人の身体の至る所に噛み傷と引っかき傷が出来て血だらけになる。諦めずに毒ガスを吐くガマ獣人であったが、仮面ライダーアマゾンは一度跳躍して毒ガスを避ける。即座に天井を蹴って反転するとガマ獣人に足を向けて飛び蹴りを放つ。

「アマゾンキック!」

 仮面ライダーアマゾンの渾身の飛び蹴りがガマ獣人の胴体に突き刺さる。ガマ獣人は大量の血反吐を吐きだした後に動かなくなり、やがて身体が液化して跡形もなく消滅する。
 フクロウ獣人と対峙していた鈴は、フクロウ獣人が振るってくる両手の爪を双天牙月で防ぐ。時に爪や嘴を受け流して体勢を崩し、斬撃を浴びせるなど積極的に反撃してフクロウ獣人に主導権を渡さない。

「おのれ! これならどうだ! フクロウの術!」
「何!?」

 フクロウ獣人は自らの羽根を周囲一帯にばら撒いて鈴を幻惑し、一種の催眠により鈴の目が見えなくなる暗示をかける。鈴は突如として視界を失くして混乱し、攻撃を中断せざるを得なくなる。フクロウ獣人は音もなく鈴に接近し、爪の一撃を入れる。対応出来ずに鈴が双天牙月を闇雲に振り回すのを嘲笑うようにフクロウ獣人は飛び回り、爪の一撃を入れて鈴のシールドエネルギーを削っていく。ヘビ獣人と戦っていた仮面ライダーアマゾンは、鈴がフクロウの術にかかっていると直感的に理解して声を張り上げる。

「リン! 目に頼るな! 見えないなら、目じゃないとこ使え!」
「目じゃない……そうか!」

 最初は仮面ライダーアマゾンが何を言わんとしているか理解できなかった鈴だが、目を閉じて意識をハイパーセンサーに集中させる。

「馬鹿め! そんなことをしてどうにかなる術ではないぞ!」
「そうとも限らないわよ!」

 フクロウ獣人は嘲笑しながら鈴の背後から迫ってくる。しかし鈴は最初から見えているかのように最低限の動きで回避し、皮一枚のところでフクロウ獣人の爪は虚しく空を切る。続けて鈴は双天牙月でフクロウ獣人の身体に斬撃を見舞ってその身体に傷をつける。フクロウ獣人は怒り狂って嘴で突こうとするが顔面に正拳突きが入って殴り飛ばされる。

(なるほどね。ハイパーセンサーを使えば目を使わなくても、相手を『見る』ことは出来る。多分アマゾンが言いたかったのは違うんだろうけど)

 アドバイスがある意味適切であったことに感心しつつ、鈴は目を閉じたままハイパーセンサーでフクロウ獣人を捉えて攻撃の手を休めずに攻め立てる。フクロウ獣人がまた鈴を催眠にかけようとするが、ハイパーセンサーというワンクッションがあっては暗示がかけられないのか鈴がフクロウ獣人を見失う気配はない。逆に鈴は肩部龍咆を展開してフクロウ獣人に最大出力の龍咆を放って壁に叩きつけ、グロッキーになったフクロウ獣人に突撃する。渾身の力で連結させた双天牙月を頭に振り下ろすと、フクロウ獣人は頭から血を噴き出して斃れて間もなく死体が液化する。
 残るヘビ獣人は仮面ライダーアマゾンの連続チョップに左右の掌底の連打、上下段の回し蹴りのコンビネーションを受けて押し込まれる。それでも口を大きく開けて仮面ライダーアマゾンに噛みつこうとする。しかしモグラ獣人が横から体当たりしてくると、怒り狂ったヘビ獣人は長い身体を巻きつけてモグラ獣人を絞め殺そうとする。

「そんなこと、させないんだから!」

 しかし鈴が双天牙月を構えてヘビ獣人めがけて急降下し、双天牙月を振り下ろしてヘビ獣人の尾を断ち切る。ヘビ獣人が悶絶している隙にモグラ獣人は拘束から逃れ、仮面ライダーアマゾンが入れ替わるように踏み込む。間合いに入ると回し蹴りを放ちながら右足の『レッグカッター』でヘビ獣人の首へと斬撃を放つ。

「大切断ッ!」

 レッグカッターが回し蹴りの勢いを乗せて振り抜かれると、ヘビ獣人の首が見事に斬り飛ばされて地面に落ちる。死体が溶けて消えるのを確認した仮面ライダーアマゾンと鈴だが、直後に爆発音と重い衝撃がアジト内で響き渡る。アジトを自爆させて放棄する肚積もりのようだ。

「まずいぞ! アマゾン、鈴音、ついてきてくれ!」

 モグラ獣人は仮面ライダーアマゾンと鈴を誘導して穴へと駈け出し、先頭に立って走り始める。仮面ライダーアマゾンが最後に横穴を通っている最中、一際大きな爆発が起こる。一歩遅ければ巻き込まれていたであろう。鈴も仮面ライダーアマゾンも足を止めずに走り抜け、地上の光が見えてくる。やがてモグラ獣人を先頭に鈴と仮面ライダーアマゾンも無事に地上に出る。地上では連絡を受けたSPIRITS第6分隊が市民からの通報を受けて市民の保護や手当をしつつ周囲を警戒していた。仮面ライダーアマゾンと鈴が穴から出てきてSPIRITS第6分隊と合流すると、マサヒコとビクトルが顔を出す。

「良かった、二人とも無事で」
「アマゾンが一緒でしたから。それより……」
「マサヒコ! ビクトル! 一緒に来る!」
「え? ちょっと! アマゾン!?」

 変身を解除したアマゾンと『甲龍』を待機形態に戻した鈴をねぎらうマサヒコだが、鈴が何かを言う前にアマゾンがマサヒコとビクトルの手を掴んで歩き出す。訳が分からないとでもいいたげなマサヒコとビクトルであったが、アマゾンに連れられた先にいた『何か』を見るとマサヒコとビクトルの身体が硬直する。しばらく黙って何かと対峙していたマサヒコだが、やがて恐る恐る口を開く。

「なあ、もしかしてお前、モグラなのか……?」
「それ以外の何だってんだよ、マサヒコ。それにしても大きくなったなあ。あの時はこんなに小さかったのによ」
「じゃ、じゃあお前は、本当に俺が知ってるモグラなのか!?」
「だからそうだって。俺もアマゾンもマサヒコも『トモダチ』だろ?」

 モグラ獣人が『トモダチ』のサインを作って見せると、マサヒコはモグラ獣人に飛びつく。

「本当に……本当にモグラなんだな……」
「マサヒコ、せめて泣くなら泣く、笑うなら笑うでどっちかにしてくれよ。俺もどうしたらいいか困っちまうよ」

 嬉しさのあまり泣き笑いの表情をするマサヒコに、モグラ獣人は困ったような顔をする。

「驚いたな……今度の個体はバダンの時と違って、生前の記憶があるのか。となると、僕のことを覚えている訳ないか」
「なあ、お前、もしかしてビクトル・ハーリンって名前じゃないか?」
「どうして僕の名前を!?」
「いやよ、身に覚えはないんだけど、お前ともトモダチになった記憶があるんだよ。もしかして違うか?」
「奇跡だ……バダンによる再生時の記憶すらあるなんて。いや、君の記憶で合ってるよ。僕はバダンによって再生された君とトモダチになったんだ」
「なんか今一よく分からないけど、一度トモダチになったんなら、何回生まれ変わってもトモダチだ。これからもよろしくな?」
「まあ、そう簡単には行かないだろうけどね、君の場合」
「ビクトル、いきなり何を言い出すんだよ!?」
「マサヒコ、考えてもみてくれ。僕や君、それにアマゾンはモグラのことはよく知っている。だからモグラが味方だって疑う余地はないけど、他の人たちはそうじゃない。鈴さんはともかく、SPIRITSや一般市民からしたらゲドンやガランダー帝国の獣人と何ら変わらないんだから」
「でもそれは……!」
「いいんだ、マサヒコ。俺も獣人なんだ。それくらい、とっくに覚悟してるさ」
「それにオレ、モグラとトモダチ。だから、モグラと一緒にいる。それだけでいい」
「あとビクトルさん、案外大丈夫かも知れませんよ? 捕まった人達を助けてくれたお陰でだいぶ印象が変わったみたいですし」

 ビクトルが懸念を口にするとアマゾンと鈴がそれを打ち消すように答える。マサヒコが周囲を見渡すとモグラ獣人を敵視する視線は見当たらない。それどころか救助された市民を代表して中島吾郎がモグラ獣人の前にやってくる。

「あ、いたいた。お前にどうしてもお礼を言いたくてさ。ありがとう、俺たちを助けてくれて。見た目だけで疑ったりして悪かったな」
「なに、気にしちゃいないさ。そうだ、聞きそびれちまったんだが、アマゾンとは一体どんな関係だったんだ?」
「クライシス帝国との戦いに巻き込まれた時に知り合ったんだ。アマゾンライダー、茂君とひとみちゃんは元気かい?」
「うん、シゲルもヒトミも、今はコウタロウと一緒に、ゴルゴムとクライシスと戦ってる」
「そうかい、あの二人がそんなアグレッシブに育つとはなあ」
「中島さん、丁度良かった。少し話があるんです」
「えっ!?」

 吾郎がアマゾンの話を感慨深げに聞いていると、背後から別の男が声をかけてくる。無意識の内に視線を向ける鈴だが男の顔を見ると驚愕のあまり絶句する。男も鈴の顔を見ると驚愕してその場に立ち尽くす。アマゾンと吾郎がそれぞれ尋ねる。

「リン、知り合いか?」
「凰さん、知り合いですか?」
「凰って……鈴さん、まさかこの人は!?」
「……はい。父さん、です」
「鈴音、どうしてお前がここに……?」

 マサヒコが男と鈴の関係を悟ると、鈴は男が父親の凰飛虎であると認めるのであった。


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