「機動六課課長、そして、この本部隊舎の総部隊長の八神はやてです」
機動六課が正式に設立したこの日、六課のエントランスではやてによる意思表明と、機動六課設立の宣言が行われていた。
エントランスには様々な方面から集められたスタッフとメカニック、そして、つい先日スカウトされたスバルとティアナ、端っこに合流を果たしたエリオとキャロがはやての前で整列をしていた。
幹部となるなのはやフェイトははやての右側に、左側にはやての副官として任命されたグリフィス。
台の下には八神ファミリーときちんと制服を着たツキが居た。
スバルとティアナは親友がこちら側では無く、そちら側に居るのに疑問を浮かべながらもはやての言葉に耳を向けている。
「……と、まぁ、長い挨拶は嫌われるんでここで終わり。機動六課課長八神はやてでした」
拍手が起こり、しばらくしてから手で制したはやてから部隊の説明がされた。
「機動六課の隊長陣の紹介や。ロングアーチの総指揮を取る私、八神はやて二等陸佐。補佐はグリフィス准陸尉。
続いてスターズ分隊隊長、高町なのは一等空尉。スターズ分隊副隊長兼戦闘教官、ヴィータ三等空尉。
次にライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウン執務官。ライトニング分隊副隊長、シグナム二等空尉。
最後に、ブレイズ分隊隊長、ツキフィリア・シュナイデン少佐。ブレイズ分隊副隊長、ザフィーラ」
((え!?))
ザッと前に出た隊長格のメンバーの中に、親友の名が挙がっていることにティアナとスバルは驚きが隠せなかった。
ツキは時空管理本局、軍司令部直属特殊部隊STF副部隊長として出向しているのでスバル達と同じ身分では指揮できない。
それに、彼女は別に構わないと言ったのだが、彼女の所属する軍司令部と地上本部は毛嫌いし合う仲であるので、軍司令部のお偉いさんが「それではメンツが立たない」と無理矢理彼女の位を上げ、隊長格として指揮させるようはやてに詰め寄ったのである。
はやてとしても軍司令部にコネクションができるのは嬉しいことなので、きちんとメンツを立たせる方針で進んだ。
……その分時空管理局地上本部からの圧力もあったが、何とか形にすることができたのは、はやての手腕である。
本来作るつもりもなかった分隊なので、ロングアーチでちょうど暇をしていたザフィーラを副隊長にあてがった、と言うことである。
エピソードsts 力の大きさ
「それでは、各自持ち場についてお仕事しちゃってください。
スターズメンバーとライトニングメンバーはこれから色々とあるからなのはちゃんに従ってなー」
「じゃ、解散」と、えらく軽いノリではやてが解散を指示し、先月から彼女の下で働いていた局員達はあっさりとそれに従って持ち場へ赴く。
スバルとティアナ、エリオとキャロは台上から降りたなのはの下へ集り、指示を仰ぐ。
「それじゃ、これから皆の実力を測るために訓練を開始するから、こちらの準備が終わるまで分隊待機室で時間まで仲を深めてて。
あ、ツキちゃーん、この子達の引率任せられるかなー?」
名指しされたツキに四人の視線が向かい、すたすたと歩いてくるツキは楽しそうに言った。
「ええ。私の準備はこの身一つで事足りるから、構いませんよ」
「あはは♪ そうだったね。三十分くらいで準備は終わるから、よろしくね」
ヴィータと一緒に去って行ったなのはを見送ってから、ツキはニヤリと笑みを浮かべて言う。
「それじゃ、私のことはツキさんでもツキちゃんでもツキ少佐とでもどうとでも呼んでくれ。
歳が近いし、私が隊長格になったのはお偉いのじっちゃんのプライドのせいだしな。私にゃ関係ねぇ」
「……まぁ、確かに元ルームメイト相手に威厳もあったもんじゃないわよね」
「そういうこった」
けらけらと笑うツキはキャロに視線を向けて「へぇ……」と何か察したようだったが、何も言わずに「それじゃ、こっち」と四人を誘導した。
ツキを先頭に分隊待機室へ向かい、途中で会ったシグナムとフェイトにツキ以外の四人が度肝を抜かれる。
「お、シグナムさんとフェイトさん。同じ分隊ですってねー」
「ああ、ちょうどその話をしていてな。まぁ、お前にはザフィーラが居るから問題あるまい」
「ふふっ、いつも乗ってたもんね。ザフィーラに」
「まぁね。ロングアーチって現場でのフォロー少ないらしいから……ザフィーラが燻ってたんで、こっちに貰ったんだ。
現場でのフォローが私の分隊のお仕事だからさ」
そう談笑するツキの姿を見て、スバルとティアナは「友人かよ」と心の中でツッコミ、エリオとキャロは上官とタメ口で話すツキの姿を見て「凄いなぁ姉さん」「凄い人なんだろうなぁ……」と尊敬の念を送っていた。
「そんじゃ、そろそろ行った方が良いんじゃないか? ヴァイスさん辺りはめ外してるかもしれんし」
「む、それもそうだな。ではな、きちんと引率しておけよ」
「よろしくね」
「はいはい、子ども扱いすんなっての」
しっしっとシグナムとフェイトを見送ったツキは「よりによってこいつらの前で……」と拗ねた。
しかし、さらっと流したツキは再び誘導を続ける。実を言えば四人中三人が身内なので羞恥も少なかったのだ。
分隊準備室に入り、ツキは四人に設備を軽く説明し、訓練服を手渡した。
「あー、各自これに着替えて訓練を受けてね。恐らく後……十分後くらいだろうから、しばらく雑談したら着替えてくれ」
「くれって……、あんたは着替えないの?」
「ん、私はスターズとライトニングの現場フォロー。私のコンビネーションはティア達に必要無いんだ。
私は裏で追撃をするのと、最前線で皆の突破口を開くのがお仕事。もっぱらワンマンアーミーだよ。
と言うか、私の分隊は私とザフィーラの二人だけだしな。前衛が私で、殿がザフィーラ。そういう分隊だからね」
「そっか……」
「ああ、でも。私が訓練に参加する時もあるかもしれないし、と言うかもっぱらお手本として駆り出される気がする」
「へ? ツキちゃんがお手本?」
「……私じゃ不服ってかぁ? STFの副隊長、銀狼のツキフィリアとは私のことだぞ?」
「「「「副隊長!?」」」」
スバルとティアナは彼女がSTFの隊員になったとまでしか聞いておらず、エリオとキャロはツキがSTF隊員であることすらも知らなかった。
STFは学校の教科書に乗る程の有名な部隊で、管理局本局屈指のエリート陸戦魔導師部隊と記されているほどだ。
なので、「凄い部隊の名前だ」と言うことしか知らなかったエリオとキャロが一番驚いた。
「う、嘘でしょ? あんたは確かに尋常に強いけど……私の二つ下よね?」
「年齢は関係ないよティア。単に、私の努力が実ったということさ。それに、」
――ティア達もよっぽどじゃん? とツキは椅子にどかっと座って言った。
「災害担当課屈指のフォワードペア、なのはさん達もべた褒めしてたよ。今まで見てきた魔導師の中で一番コンビネーション力があるって」
「え! ほんとう!? なのはさんが?」
「……へぇ」
スバルは憧れのなのはに褒められていることに大喜びし、ティアナは素振りを見せないが内心有頂天である。
敢えてツキはエリオとキャロのことは触れずに、話題を切った。
「で、皆コールサインやら技能やらは確認し合った?」
「当たり前よ。すでに終わってるわ」
「そっか。なら、そろそろ時間だから着替えてね。あっちに更衣室があるから」
くいっと親指でドアを示した後、ツキは立ち上がった。
「それじゃ、私はそろそろお暇させてもらうよ。あっちで準備に加わんなきゃならんし」
「ばいびー」と手をひらひら振って分隊待機室から出て行ったツキを見送った。
四人はそれぞれ訓練服を持って更衣室へ入り着替えた。ちょうど着替えている時になのはからの呼び出しがあった。
ティアナを先頭に四人は指定されたエリア、本部隊舎近くの訓練スペースへ向かった。
海の匂いと近くに見える海の光景に感動しつつ、なのはとツキと合流を果たす。
「はい、せいれーつ! これから訓練を始めます。取り敢えずランニングコースを二周走ってアップをしてね」
「「「「はい!」」」」
なのはの指示通り、四人がコースへ走って行ったのを確認したツキはくるっと踵を返して海の方を見やる。
目の前には、海の上に浮かんだメタリックなパネルが並んでいた。
「これが仮想シミュレーターを組み合わせた訓練スペースか……」
「うん。メカニック班の技術の結晶だよ。シャーリー!」
「はい、フォワード陣のデバイスに記録チップ埋め終わってます。いつでも問題ありません」
「あ、シャーリーさん。私のデバイスはどうなってます?」
「良い感じに進んでるよ。スネークは勿論、ベルナードの次機、ベルヴェリアも。チューニングが楽しみです」
「ありがとうシャーリーさん、助かります」
「いえいえ。これが私のお仕事ですから。きちんとご要望通りのモノが出来上がってますよ」
楽しそうな顔でシャーリーが眼鏡を輝かせた。それからしばらくして、二周してほどよく体を温めたフォワード陣が帰ってきた。
スバルとティアナは息切れも無い、エリオはともかくキャロは少し辛そうだった。
「それじゃ、これから訓練を監督する高町なのはです。お手本役としてツキちゃん。皆のデバイスの改良や調整をするメカニックのシャーリー。
この三人で基礎訓練を始めます。皆の実力を測るのが今日の訓練のメインなので、全力で当たってください」
「「「「はい!」」」」
「シャーリー! お願い」
「はい!」
たくさんのウィンドウを開き、シャーリーが訓練スペースの本来の形を作り出す。
疑似魔力物質の構築によりビル群がメタリックなパネルの上に展開されていく光景は圧巻だった。
「うわぁ……」
「これが訓練用エミュレータースペースの本当の姿なんだ。今から中央部で実戦訓練に行うよ」
なのはの後に続いてツキとシャーリー、フォワード陣は訓練用スペースに近づきながら感嘆の声を漏らしながら歩いて行く。
徐々に近づいていくビル群のリアルさに驚きつつも、ティアナ達は指定された場所へと移動する。
なのはとツキとシャーリーはビル群の中心の屋上に移動。
『皆聞こえるかな?』
『はい!』
『じゃあ、早速ターゲットを出していくね。まずは軽く八体から』
なのはがシャーリーに目配せして、ターゲットを出現させる。
「動作レベルⅠ、攻撃レベルGってとこですかね」
「うん、それくらいでいいかな」
『私達の仕事は捜索しているロストロギアの保守管理、その目的のために私達が戦うことになる相手は……これ』
ティアナ達の前に青色の魔法陣が八つ生まれ、そこからオートスフィアとは違った俵型の機械が出現した。
『自立行動型の魔導機械。これは近づくと攻撃してくるタイプだね。攻撃は結構鋭いから注意してね』
ごくり、とフォワード陣が生唾を飲み、目の前のターゲットを見つめる。
『では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走するターゲット八機の破壊又は捕獲、十五分以内。ミッションスタート!』
掛け声と共に魔導機械達がくるっと回転して逃走し始めた。その速度の速さにエリオとキャロが度肝を抜かれる。
「速い!」
しかし、対照的にティアナとスバルは「ふーん」と言った冷めた反応だった。
それもそのはず。訓練校時代に模擬戦で追いかけたツキの方がよっぽど速かったからだ。
そのためガジェットの速度が速いと感じられなかった。
「……遅いねぇ」
「……そうね。行くわよスバル! キャロはエリオをブーストして、運んで貰って!」
「はい! ……はい!?」
ティアナがスバルの左肩にひょいっとドッキング。
魔力をローラーブーツへ送り込み、訓練校時代とは比べ物にならないくらいの速さでスバルが飛び出した。
その様子を「わぁ……」とエリオとキャロは見送り、ツキは「相変わらずだな」と苦笑した。
さすがにこれは駄目だろ、と考えたツキはエリオとキャロになのはの目を盗んで小声でアドバイスをする。
『エリオはストラーダをブースターモードに、キャロはブーストの速度を補助しろ。二人でストラーダを持って、飛ぶイメージだ。できるな?』
「あ、そういうことか……。ルシエさん!」
「うん! モンディアル君!」
ツキの助言通りエリオの槍型のアームドデバイス、ストラーダを二人で掴み、空中へ飛び出した。
キャロが掴みながらブーストし、速度を上げさせる。まるで流星のように先へ進んだスバル達へと飛んで行った。
「……やれやれ、先が思いやられる」
ツキが呆れながらぼやく。ティアナは頭の回転が速いのだが、如何せん言葉が足りない。端折るのだ。
そのため訓練校時代に、スバルは幾度もティアナに怒られ、ツキが言葉を足してスバルに助言する、と言う負の循環があったのだ。
ツキが「相変わらずだ」と言ったのはこの事である。後で言っておくか、とツキは追撃し始めたティアナを見て思う。
「様子見で放った魔力弾が消された? シールド……、いや、AMF!?」
『ご名答。ガジェットドローンには厄介な物が詰まれている。ティアが言ったAMFだ。魔力結合を切り離すフィールドを作り出すもんだ。
対処方法は分かっているな?』
「勿論、あんたに耳が腐るほど講義されたから、ね!」
ティアナは通常の魔力弾を密度の高い魔力膜で覆った。それを見てシャーリーが驚きの声をあげた。
「あれってAAクラスの多重弾殻射撃ですよね?」
「うん……そう、なんだけど……」
「私が教えた。ティアは元々幻術と射撃に優れていたから、あらゆる状況を想定して訓練校時代に血反吐吐くまでさせたんだ」
――実戦の中で。ツキはそう付け加えてニヤリと笑みを浮かべた。「うわぁ」となのはとシャーリーはその光景が目に浮かび苦笑する。
「シュートッ!」
ティアナのオレンジ色の多重弾殻魔力弾がAMFを突破し、見事ガジェットを一機潰した。そのまま勢いが死ぬまで二つほどガジェットを撃墜。
残る五機は散るようにばらばらのルートで逃げ始めた。
『エリオ、キャロ。そろそろ潰さんと二人に全部持ってかれるぞ』
「分かってます! でもふわふわ避けられて……」
『頭を使えエリオ。私のこれまでお前に学ばせたそれらを組み合わせろ。できないことがあればキャロを頼れ』
――お前らはもう仲間なんだから。ツキのその一言は、キャロをドキッとさせた。
ツキは念話をプライベート用に変えてキャロだけに語りかける。
『キャロ、飛竜は出さんのか?』
「え……?」
『なんでそれを、って言う顔だな。隊長格の私がお前らのプロフィールくらい見ていないとでも思ったか。
これまでのお前への扱いがどうだったかは知らん。だがな、ここに居る連中はお前が考えているほど』
――弱い連中では無い。ツキはそう、仲間達のことを、断言した。
『一人ぼっちは寂しかったな、なーんて言って貰えるとでも思ったか? 残念ながら私はお前程度の過去に同情するような甘い輩じゃねぇ。
キャロ、お前はまだ若い。だからな、いちいち周りの顔見て行動しなくていいんだよ。自分の限界で行動をしろ。
どん引きされるくらい、やってみせろ。例え、ここの全員がお前の限界にどん引きしても、私だけが認めてやる。お前の努力を認めてやる。
だから、見せて見ろ』
――本当のお前の力を見せてみろ。ツキはそう発破をかけて、笑って見せた。
キャロはそのとんでもない言葉に、言葉を無くして唖然とするばかりだった。
(……私の本当の力を……)
ぎゅっとキャロはストラーダを握る力を強めて、瞳を閉じてこれまでのことを思い出して見る。
一族から追放されたこと、化け物だと罵られて腫物扱いにされたこと、盥回しにされて転々と歩き回ったこと。
強大な召喚士としての力を見せて恐れられたことを、全てを思い出して、噛み締めて、もう一度ツキの言葉を繰り返した。
(私を……認めてくれる人が――いるッ!)
「モンディアル君! 一度止まって!」
「! 分かった!」
ブーストを止め、地上に降りたキャロは胸の前に手を重ねて呼ぶ。自分の相棒を呼び出す。
(来て、フリードッ!)
「キュクルー!」
目の前に出現した召喚陣から白い若い飛龍が現れる。それに驚いたエリオは、そちらを見るのに夢中でガジェットのことを忘れ去っていた。
「フリード……、今度こそ、制御してみせる。だから――ッ」
「キュクルーッ!!」
≪Drive ignition≫
キャロの両手を覆うブーストデバイス、ケリュケイオンが両手の甲に桃色の線を引いていく。
「竜魂召喚ッ!」
桃色の球体に包まれたフリードが本来の姿となっていく。白銀の巨大な飛竜、それこそがフリード、フリードリヒの本来の姿。
フリードの前で拝むように手を重ねたキャロが言葉を続ける。
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」
エリオの目の前に翼長十メートルはある巨大な竜が現れ、その大きさに感嘆の言葉が漏れる。
「凄い……!」
キャロは真の姿を取り戻したフリードの背に乗り、恐る恐るツキの方を見た。
視線を向けられたツキはとてつもなく良い笑顔であり、その真紅眼が熱く燃えるように輝いていた。
「……最高じゃねぇか。予想の斜め上って言うか天井突き抜けて星になったぞ。
てめぇ、そんなにカッコイイ相棒をどうして今まで放って置いたんだよ! 最高じゃねぇか! 非の打ちどころがねぇぞ、おい!」
凄まじく嬉しそうに叫ぶツキの声に、キャロは嬉しく思った。
自分の相棒を最高だと言ってくれた初めての人が、自分に言ってくれた最高の言葉だったからだ。
だが、胸にぐっさりと刺さるキーワードもあった。"今まで放って置いた"と言う部分である。
「……今までごめんねフリード。私が貴方を信じてあげられてなかった」
「グルルルゥ」
巨竜となったフリードはぺろりと舌で器用にキャロの頬を撫でた。まるで「気にするな」と言っているようにエリオは感じた。
「征くよフリード!」
「グォオオオォオォオオオオッ!!!」
空高く舞い上がったフリードに乗ったキャロは訓練スペースの端の方で停止しているガジェットを見つけ、接近を指示した。
「フリード! ブラストレイッ!!」
コォォォッ! とフリードの口元に高密度に集められた魔力の球体が生み出され、キャロのケリュケイオンの恩恵を受けて増大した。
「ファイアッ!!」
キャロの指示に従い、噴出された燃え盛る炎がガジェットを襲う。
AMFを発動しようにも、フォワード陣のデバイスに細工をして疑似的にAMFが作動していると見せかけているだけなので、無関係のフリードのブラストレイによって一瞬で燃え尽くされた。
なのははツキのしでかした事に驚きながらも、ツキの「人を動かす才能」に関心を抱いていた。
言いたいことをずばずばと言い、相手のことをきちんと把握したうえで一撃で仕留められるような言葉の弾丸を放つ。
それがツキの美点である、そうなのははツキを見て思ったことだった。
「僕も……負けてられないッ!! ストラーダッ!」
≪Let's Rock≫
フェイトから教わったソニックムーブ、そして、それの効率を最大限まで引き上げるツキの指導。
それらを思い出して、エリオはスバル達と反対方向――つまり、エリオの後ろ側に逃走したガジェットを目標に、飛んだ。
初速の最高値を叩き出すために地面を踏み込んだ際にソニックムーブにより加速、凄まじい速度で空中へ踊り出た後もすかさずソニックムーブで加速、止めにストラーダのブースターによる加速、三段階の加速を用いて飛んだのだ。
エリオは文字通り流星と成り、彼の邪魔をするビルを貫通することで最短距離を突っ走る。
そして、肉薄したガジェットに向かって突っ込む。逃げようとするガジェットの逃走方向へ向かってソニックムーブで最後の加速を生み出す。
一度曲がってしまったために、急には方向を変えれずにガジェットはストラーダにより串刺しとなり、粉砕された。
「よしっ!」
減速するために道路の方へ進路を向けて、そのまま勢いよく上空へと踊り出たエリオは訓練スペースを見下ろした。
二手に分かれたスバルとティアナが二つを撃墜し、残りの一体をキャロが乗ったフリードが燃やすのを見て、笑った。
確かに自分が役に立ったことを自分で認め、嬉しくて、嬉しすぎて笑った。
その様子を肉眼で見届けたツキは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「さすが私の弟、きちんとこなしたな」
「え、えっと……今の何? 一瞬エリオが消えたんだけど……」
なのはでさえ、超加速したエリオを見逃すほどの速度が出ていたと言うことだ。
だが、この戦法には致命的な弱点があったりする。そう、この戦法は開けた場所でしか通用しないのだ。主に撃墜した後に、だ。
減速するための距離を確保しなければぶつかって即死なんて言うことが在り得たりする危険な方法でもあるのだ。
しかし、ツキはそれを知っていて敢えて教えた。きちんとそのリスクまで教えて、教え抜いて、それでもエリオはそれを使ったのだ。
だからこそ、ツキは心底嬉しかった。自分の教えたそれをきちんと使いこなして見せたからだ。
『ぜ、全機撃墜。一度ミーティングをするから戻って来て』
『はい!』
元気な声が返って来て嬉しいことは嬉しいのだが、なのはの心境は複雑だった。
予想以上に癖があり過ぎて教えることが多くなってしまったことに頭痛がしていて、今にも部屋に帰って寝てしまいたい気分である。
その張本人とも呼べるツキはニッコニッコと不気味なほどに嬉しそうに笑みを浮かべている。
シャーリーは予想以上のデバイスのデータが取れて嬉々とした様子で手を動かしている。
(ふぇ、フェイトちゃんに胃薬わけて貰おうかな……)
指導者として苦悩するなのはの周りに味方は居なかった。