「行くわよ……スバルッ」
「うん!!」
『魔導師ランクB昇格試験、実技試験を行います。試験官は私、高町なのはと』
『リィンフォースツヴァイですぅ!』
『試験開始ッ!』
開始の合図と共にティアナはスバルの肩に乗り、スバルはローラーブーツに魔力を流した。
勢いよく助走をつけ、ビルの柵を踏み台にして空中へと踊り出る。
すかさずティアナがアンカーガンの機能、ワイヤー付きのアンカーを突破目標であるビルの最上部の壁へと撃つ。
そのままターザンよろしくスバルをビルの内側へ放り込み、ティアナはアンカーガンのリールを回して最上階を目指す。
その手際の良いコンビネーションにヘリの中でモニターを通じてそれを見ていたはやてとフェイトが感心する。
「中々斬新な突破方法だね」
「せやな。ブーツの速度を生かして、早急な突破。接近系オートスフィアが設置されている方へ前衛を送り込み、自分は外からフォロー。
良い司令塔タイプやね、あの子」
カートリッジを使わず、モニターの中のスバルは一つ一つ丁寧に潰して行った。
別モニターに映るティアナは屋上からスバルの進行方向に移動するスフィアを一発の魔法弾を誘導させて貫通、全てきっちり撃墜した。
「でもってナックルの子はあの狭い空間の中、きっちりとスフィアを潰し取る。文句無しのアタッカーや」
「ティアナって子も負けてないよ。一発の魔法弾で設置スフィアを全滅させてる。面白い発想だね」
「せやなー」
合流地点に先にスバルが到着し、彼女の肩へティアナがビルの空中通路を利用してアンカーを用いて華麗に彼女の肩へ着地。
そのままロスタイムも無しで、最短時間で次のポイントへ。お互いの利点を生かしたコンビネーションだった。
それは訓練校時代にツキとの模擬戦によって培った技術。そして、彼女達の最高のコンビネーションである。
「予定より早いね!」
「勿論!」
直線型のコースに代わり、彼女達の本当のコンビネーションが発揮される。
左肩に乗っていたティアナがスバルの邪魔にならないよう肩車の形に移動し、もう一つのアンカーガンを構える。
「二丁拳銃(トゥーハンド)や!」
「もしかして、このまま突破するつもり……?」
フェイトの予想通り、彼女達は役割を分担してコースに突っ込んだ。
機動型スフィアはティアナが、設置型スフィアをスバルが、きっちりと潰して行く。
隠れ出たスフィアが現れた時にはティアナが肩から飛び降り、空中で全方位の機動型スフィアを撃ち抜き、華麗に着地。
中型スフィアをスバルが突貫し、スフィアの中へ拳を突き入れ、回転するリボルバー部分の遠心力を持ってして中型スフィアを回転させ、ディバインバスターに乗せて次の中型スフィアへと叩き付け、大破させた。
「ひゅぅ……」
「あ、あははは……さすがツキのお友達。やることが凄いね……」
「せやな……」
スバルに追いついたティアナが再び左肩にドッキング。華麗に難関を突破した二人を見てなのはとツヴァイが苦笑い。
最後の難関大型スフィアの破壊の光景は凄かった。
スフィアの感知外である壁の側面から、スバルのウイングロードに乗って突貫。
ティアナの幻術魔法フェイクシルエットにより、別方向からの不意打ちをし、スフィアの砲身を向けさせ、本命である二人はオプティックハイドにより破壊した壁ごと姿を隠して後から不意打ち。
ティアナの魔力弾の乱射により防御壁を破壊し、スバルのディバインバスターによって完璧に打ち砕いた。
そのままゴール地点までの道を砕き、空中へ出てウイングロードで道を作り出し、最後のコースへ赴く。
「最後よスバル!」
「了解!」
最後のスフィアをティアナが撃ち抜き、オールコンプリート。最後の直線をスバルの全力速度で駆け抜ける。
そして、ゴールを切り、減速しながら試験官の立つ場所へ辿り着いた。
二人を迎えたなのはとツヴァイは「さすが主席だね」「ですぅ」とのほほんと褒めた。
「全オートスフィア撃墜、オールコンプリートです!」
「制限時間の残りも十分!」
「「きっちり殲滅しました!」」
ドッキングを解除してびしっと敬礼する二人を見て、四人は苦笑い。
何処をどう見ても彼女達はとある友人の影響をばっちり受けていることが丸わかりだったからだ。
ツキとの模擬戦を繰り返してきた二人はCランク魔導師とは思えない成長を見せていた。
そして、実戦の中で二人は培ったそれらを伸ばし、今の実力を身に着けたのだ。
資料では読み取れない部分を存分に見た四人は「一発合格」と言う単語が脳裏に浮かんでいた。
「お、大きくなったねスバル」
「はいっ!」
気持ちの良い返事を聞いて「まぁいっか」となのはがはにかみ、スバルがその顔をみてぽやぁと微笑んだ。
ティアナは目の前の有名人を見て緊張していたのだが、だんだんとその緊張感も相棒の雰囲気のせいで霧散していくのであった。
エピソードsts それぞれのハジマリ ~新暦75年4月某日~
【古代遺物管理部機動六課・エントランス】
「……と、言うわけや」
スバルとティアナは昇格試験の後、そのままはやてがなのはに連れてくるように指示し、スカウトの話を当人に打ち明けた。
それを聞いたスバルとティアナは突然のそれに驚くばかりであった。
なぜなら、二人の目標とも言える人物が所属しているのだ。
スバルは自分を助けてくれた白い女神、なのは。ティアナは執務官に憧れを持ち、最たる目標として掲げた人物、フェイト。
二人としてもこのスカウトを蹴る理由が無かった。
「部隊名は時空管理局本局、遺失物管理部機動六課ですっ!」
「登録は陸士部隊、フォワード陣は陸戦魔導師が主体で特定遺失物の捜査と保守管理が主な任務や」
「……ロストロギアですね?」
「そう、でも広域捜査は一課から五課までが担当するからうちは対策専門だね」
そうそう、とはやてが言葉を続けた。
「ツキも居るよ」
「「ええッ!?」」
がたんっと身を乗り出し、スバルとティアナは驚愕した。まさか、こんな形で再会を果たすとは思っていなかったからだ。
卒業式から結局、お互いの休日の日にちが合わなくて会えなかったのだ。
スバルはティアナを抱きしめて、ティアナも口元が綻ばせて、喜んだ。
そんな二人を見てはやてとリインが苦笑する。「こんなに仲の良い友人がツキに……」とフェイトは感動すらしていた。
「ええと、取り込み中かな?」
「「なのはさん!?」」
ひょこっとノートパソコンと資料を抱えたなのはが顔を出し、スバルとティアナが声をあげた。
「お邪魔しまーす」とフェイトとはやての間に入り、なのはは持っていたノートパソコンを開いて少し操作した後、顔を上げた。
「試験結果だけど……、全機撃墜、制限時間厳守。そして、レベルの高いコンビネーション。ばっちりです。合格だよ」
「ティア!」
「ええ」
よりぎゅっとスバルがティアナを抱きしめて嬉しそうに笑顔を作った。
「へぇ、受かったんだ。良かったね、スバル、ティア」
「うん! ……って、え!?」
「久しぶりだな」と声をかけたのは、黒いタンクトップにジーンズと言う超私服モードのツキだった。
久しぶりに会った親友にスバルとティアナは、予想しない出会いに酸素不足の金魚のようにぱくぱくと口を開く。
そして、フェイトは「もう!」と駄目な娘を見られたお母さんのように恥ずかしそうに声を漏らす。
「ちょっと、ツキ! 制服はどうしたの!? さっき渡したでしょう!?」
「あー……、着ようと思ったけど止めた。私に制服は合わねぇや」
「あ、あははは……ツキちゃんらしいね」
「せやな。でも、ツキぃ、お仕事ん時は着て貰わんと困るでー?」
「あー……、まぁ、さすがに出向期間になったら着るよ、うん」
ぽりぽりと頬を掻いたツキはバツが悪そうにそっぽを向いた。
スバルとティアナは有名人三人にしれっと話す親友を見て「えぇ……?」と、親友の肝の太さに若干引いた。
ツキはSTFの隊長と肉体言語で語り合った後、見事スカウトの件を隊長に通し、仕事以外の日は機動六課の方に顔を出していたのだ。
まるで自分の家のように機動六課で過ごすツキに保護者のフェイトは説教し、しれっと説教内容を忘れて過ごすツキを見て局員達が笑う。
そのような循環があって機動六課に笑顔は絶えない職場と成り始めていた。
ツキはこれと言って問題を起こしているわけでもなく、むしろ仕事の手伝いをして褒められている立場だ。
憎めない機動六課のマスコットとなってしまったツキを見て、フェイトは今日も胃薬を飲むのであった。
……ちなみに、マスコットになれなかったリインはちょっと悔しいらしい。
「フェイトさん、これから古巣の方行ってきます。ああ、そうそう。大抵の仕事は終わらせておきましたから」
「え、あ、うん。ありがと……」
「それじゃ、スバルとティア。またねー」
颯爽と現れてしれっと去って行くツキに、通りかかった局員達が「おつかれー」「頑張ってねー」と声をかけていく様を見て、親友の凄さを垣間見たスバルとティアナは、緊張も忘れて呆れていた。
「……ツキっていつもあんな感じなんですか?」
「うん、そうだね。STFの仕事が無い時はこっちでお仕事手伝ってくれて、仕事がある日も空いた時間はここで過ごしてるね」
「んで、説教するフェイトちゃんの横から不意打ち気味に仕事を掻っ攫って、ちゃっかり親孝行しとるんや。ええ子やでー」
「もうっ! 私だって助かってるけどやっぱりツキにはきちんとした教養を……」
わいわいがやがやと談笑し始めたエース達を見てスバルとティアナは悟った。
これは訓練校時代よりも楽しくて、とんでもない職場にスカウトされてしまったんじゃないか、と楽しみ半分怖さ半分で苦笑するのだった。
【同時刻・ミッドチルダ北部線・ホーム】
「んー……、何かあったのかな……?」
右手につけた時計型待機状態の相棒ストラーダで時間を確認した私服のエリオは案内役を買って出てくれたシグナムを待っていた。
ツキの英才教育の下、見事陸戦魔導師ランクBの試験をクリアしたエリオは見事管理局員の試験に合格を果たした。
そして、はやてのお節介により、フェイトの居る機動六課へ推薦状を貰い、今日合流を果たす予定だった。
しかし、八神ファミリーよりフェイトの養子と言うことでシグナムが赴く予定だったのだが、時間を過ぎている。
「何かあったんじゃないか」と心配しながらちらちらと時計を確認して六分後、上りのエスカレーターから桃髪ポニーの女性が現れた。
「あ! お疲れ様です! 私服で失礼します、エリオ・モンディアル三等陸士です!」
「ああ、君が……。遅れてすまない。遺失物管理部機動六課のシグナム二等空尉だ。長旅ご苦労だったな」
「いえ。……あ、キャロ・ル・ルシエ三等陸士はまだ来ていません。地方から出てくると言うことでしたので、迷っているかもしれません」
「む……、そうか」
シグナムは自分が尋ねようとした件を察したエリオの言葉に少し、驚いた。
彼の姉であるツキとは違い「素直な子だな」と心の片隅で思う。
(まぁ……、あいつもある意味自分に素直なのかもしれんが……)
「自分が探しに行ってもよろしいでしょうか?」
その言葉に少し考えたシグナムだったが、歳の近いエリオを行かせてやった方が良いだろうと考え、それを許可した。
荷物をシグナムが預かり、たたたっと心配そうな顔で走り去ったエリオの顔を見送ってシグナムは「似ていない姉弟だな」と呟いた。
この場にツキが居たのなら、恐らく彼女はシグナムにこう言うだろう。
「じゃ、探してくるからここで待ってて」と。
こちらの意見を最初から通すつもりも無い台詞を吐いてしれっと走って行くに違いない。
「ルシエさーん? 管理局機動六課新隊員のルシエさーん?」
大声を張り上げながら地方からの魔導列車が来る場所を虱潰しに探すエリオの声に「はい!」と可愛らしい返事が返ってきた。
ちょうど下りのエスカレーターから慌てて走ってくる白いフードを被った小柄の子を見つけ、エリオはほっとした。
「すみませーん! 遅くなりましたー!」
「あ、ルシエさんですね。僕は――」
「あっ!」
自分の名前を名乗ろうとした瞬間、足を踏み外したのを見てしまったエリオは即急にストラーダに指令を下す。
≪Sonic move≫
高速でエスカレーターの内側の側面を蹴り上げ、今にも転び落ちそうな彼女を抱えて上の広間へと飛び出る。
しかし、勢い余って着地に失敗し、転びそうになり「彼女だけは」と身を捻って自分を下敷きにして、さらに受け身を取った。
「きゃっ!」
「うわぁ!」
エリオを下にしてキャロが跨いで乗っかる形になり、彼は背中の痛みを堪えながらキャロの心配をした。
「あ痛たた……、大丈夫ですか?」
「いえ、助かりました。……あ」
起き上がったキャロは自分の胸に置かれたエリオの手を見て「?」と首を傾げ、それに気づいたエリオは慌てて手を離した。
「す、すいません! わざとじゃ……」
「あ、すいません。今退きますねー」
慌てるエリオと正反対のぽけーとしたキャロの言葉。エリオは「え?」と首を捻り、キャロは「ありがとうございました」と笑顔で礼を言った。
どうやら彼女は胸を触られたことを一切気にしておらず、にっこりと笑顔。
気にしていたのは自分だけと悟ったエリオは何とも言えない気まずさで立ち上がり、キャロに手を貸した。
「ありがとう」とにこにこしながらキャロはその手を握り、立ち上がる。
エリオが横に転がっていた彼女のバッグを拾おうとした瞬間、
「――ッ」
キャロは凄い速度でバッグを拾い上げ、抱きしめた。
「へ?」
「あ、えと、その……。あ、時間遅れてますよね! 急ぎましょう!」
ぎこちない様子でそそくさとエスカレーターへ歩き出した彼女を追って、エリオも続く。
キャロには短くて、エリオには長い時間でエスカレーターを下り、沈黙のままシグナムの下へ。
「初日からすみません。キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります」
「構わん。地方出のレールはルーズだと聞いている。気にするな」
「はい」
エリオは先ほどと同じくにこにこと微笑むキャロの顔を見て、違和感を覚えた。
(……さっきのルシエさん、何かに怯えたような顔だったなぁ……)
心配しながらエリオはシグナムに連れられて最愛の姉とフェイトの居る機動六課へ、神妙な面持ちで向かうのだった。