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No.32471の一覧
[0] 魔法の世界の魔術し!(ネギま!×Fate)[泣き虫カエル](2012/03/28 09:21)
[1] 第2話  黄金の少女[泣き虫カエル](2012/03/31 09:21)
[2] 第3話  こんにちは異世界[泣き虫カエル](2012/03/31 09:25)
[3] 第4話  絡繰茶々丸[泣き虫カエル](2012/04/07 11:58)
[4] 第5話  仕事を探そう[泣き虫カエル](2012/04/07 11:59)
[5] 第6話  Shooting star[泣き虫カエル](2012/04/13 20:44)
[6] 第7話  ライラックの花言葉[泣き虫カエル](2012/04/18 06:32)
[7] 第8話  開店準備はドタバタで[泣き虫カエル](2012/04/24 22:22)
[8] 第9話  創作喫茶 『土蔵』[泣き虫カエル](2012/05/08 21:11)
[9] 第10話  桜咲刹那 ~その誓い~[泣き虫カエル](2012/05/11 22:24)
[10] 第11話  答え[泣き虫カエル](2012/05/16 09:13)
[11] 第12話  もう一つの仕事[泣き虫カエル](2012/05/19 15:20)
[12] 第13話  視線の先に見えるモノ[泣き虫カエル](2012/05/21 21:38)
[13] 第14話  友一人、妹二人[泣き虫カエル](2012/05/24 19:03)
[14] 第15話  帰るべき場所[泣き虫カエル](2012/05/28 18:15)
[15] 第16話  ネギま![泣き虫カエル](2013/06/13 21:43)
[16] 第17話  とあるお昼休みの出来事[泣き虫カエル](2013/06/13 21:47)
[17] 第18話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~前編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:50)
[18] 第19話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~後編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:51)
[19] 第20話  その身に秘めたるモノ[泣き虫カエル](2013/06/13 21:53)
[20] 第21話  決別の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:55)
[21] 第22話  停滞の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:57)
[22] 第23話  闇の福音[泣き虫カエル](2013/06/13 21:58)
[23] 第24話  狂気と変わらぬ誓い[泣き虫カエル](2013/06/13 21:59)
[24] 第25話  譲れぬ想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:01)
[25] 第26話  束の間の平和と新たな厄介事[泣き虫カエル](2013/06/13 22:04)
[26] 第27話  魔の都[泣き虫カエル](2013/06/13 22:06)
[27] 第28話  観光に行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:07)
[28] 第29話  Party time![泣き虫カエル](2013/06/13 22:11)
[29] 第30話  胎動[泣き虫カエル](2013/06/13 22:14)
[30] 第31話  君の心の在処[泣き虫カエル](2013/06/13 22:15)
[31] 第32話  暗雲[泣き虫カエル](2013/06/13 22:16)
[32] 第33話  奪還[泣き虫カエル](2013/06/13 22:17)
[33] 第34話  それぞれの想いと願い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:19)
[34] 第35話  試練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:21)
[36] 第36話  君の想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:22)
[37] 第37話  買いに行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:24)
[38] 第38話  紅茶は好きですか?[泣き虫カエル](2013/06/13 22:26)
[39] 第39話  紅い背中[泣き虫カエル](2013/06/13 22:28)
[40] 第40話  茶々丸の衛宮士郎観察日記[泣き虫カエル](2013/06/13 22:29)
[41] 第41話  修練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:31)
[42] 第42話  オモイオモイ[泣き虫カエル](2013/06/13 22:32)
[43] 第43話  君のカタチ[泣き虫カエル](2013/06/14 00:14)
[44] 第44話  You And I[泣き虫カエル](2013/06/13 22:44)
[45] 第45話  襲来[泣き虫カエル](2013/08/10 18:45)
[46] 第46話  止まない雨[泣き虫カエル](2013/08/10 18:46)
[47] 第47話  白い闇[泣き虫カエル](2013/08/10 18:48)
[48] 第48話  晴れの日[泣き虫カエル](2013/08/10 18:50)
[49] 第49話  世界樹[泣き虫カエル](2013/08/10 18:51)
[50] 第50話  日常に潜む陰[泣き虫カエル](2013/08/10 18:53)
[51] 第51話  Girls Talk & Walk[泣き虫カエル](2013/08/10 18:55)
[52] 第52話  『    』[泣き虫カエル](2013/08/11 20:34)
[53] 第53話  麻帆良祭 ①[泣き虫カエル](2013/09/02 22:08)
[54] 第54話  麻帆良祭 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:09)
[55] 第55話  麻帆良祭 ③[泣き虫カエル](2013/09/02 22:10)
[56] 第56話  光と影の分かれ道[泣き虫カエル](2013/09/02 22:12)
[57] 第57話  超鈴音[泣き虫カエル](2013/09/02 22:13)
[58] 第58話  超鈴音 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:14)
[59] 第59話  Fate[泣き虫カエル](2014/03/09 20:48)
[60] 第60話  告白[泣き虫カエル](2014/03/16 22:56)
[61] 第61話  the Red[泣き虫カエル](2014/06/03 21:38)
[62] 第62話  Pike and Shield[泣き虫カエル](2014/11/19 21:52)
[63] 第63話  Bad Communication [泣き虫カエル](2015/05/16 22:01)
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[32471] 第28話  観光に行こう!
Name: 泣き虫カエル◆92019ed0 ID:4af99eb6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/13 22:07

 
 さて。
 場所は所変わって『ホテル嵐山』のロビーである。
 俺の目の前にいるのは、帰りがけに回収した刹那と、アスナ、ネギ君、カモ。
 刹那はさっきの慌てようが恥ずかしいのか、何処か落ち着かない様子でモジモジしている。
 
「まず最初に――」
 
 と、アスナが最初に切り出した。
 そして俺にビシッと、指差しながら言う。
 ……どうでもいいことだけど、人を指差すなよ、アスナ。
 
「なんでいんの?」
 
 まあ、当然の疑問だろう。
 例えば、ここに突然エヴァでも来ようものなら俺だってびっくりするだろう。
 
「あー……それはアレだ。実を言うと学園長に頼まれてな、秘密裏にネギ君達のサポートして欲しいって」
「え? 秘密裏に……ですか?」
「ああ、親書の件は聞いている。それでも学園長はできるだけネギ君を主体にして欲しいって言っててな。まあ、これはネギ君に経験を積ませたいからだとは思うけど……だから俺も本当は出てくるつもりは無かったんだ。最初はそれこそ悪戯程度のモンだっただろ?
 だから俺もネギ君に任せるつもりだったんだ。――でも今回のは流石に見逃せない。あいつ等が何を企んでいるかは知らないけど、このかを誘拐するなんて手段に出てきたんだ。もう秘密裏とか言ってる場合じゃなくなった。学園長には悪いけど俺も出張らせてもらう」
 
 そこまで言って気が付く。
 もしかして、連中はこのかの力に目を付けてるんじゃないのだろうか。
 前に学園長もそんな感じのことを言っていた筈だ。確か、このかの潜在魔力量は桁外れなんだとか。
 
「――そうだったんだ。確かにシロ兄がいれば安心だけど……学園長も意地悪よね。どうせなら最初から教えてくれれば、私達だってもっと気楽にできたのに」
 
 アスナが少しむくれながら愚痴っている。
 両手を胸の前で組んで、いかにも御冠状態って感じだ。
 
「そう言ってくれるな。学園長の考えは分からなくも無いんだ、何事も経験だからな」
 
 それに苦笑しながら答えた。
 まあ、大事な友達が危険な目にあったんだ、アスナがむくれるのも無理は無い。
 
「――ふん、まあ良いけど。後は……そうだ、桜咲さんと仲良さそうなのはなんで?」
 
 アスナにそう言われて、刹那と目を合わせる。
 ――いや、なんでって言われても……なあ?
 
「それは、まあ……士郎さんは私の師に当たる御方ですから……」
 
 刹那がそう言うとへーっ、といった感じで二人と一匹は感心している。
 むう……未だにその”師”って言い方に慣れないんだが……。
 
「ちょっと驚きましたが……衛宮さんなら納得できますね。とっても強いですし」
「……ネギ先生は士郎さんのお力をご存知で?」
「え? あ、はい。つい先日の話ですけど、エヴァンジェリンさんとちょっとあって……その時に色々と」
「エ、エヴァンジェリンさんと……ですか?」
 
 刹那が驚いて俺を見る。
 そう言えばあの出来事を刹那に話したことは無かったか……まあ、話すタイミングもなくここに来たしな。
 
「一体何があったのですか? 士郎さんとエヴァンジェリンさんが仲違いするとは、とても思えないのですが……」
「ん、まあ……ちょっとした喧嘩みたいなもんだ。今はもう仲直りしたから」
 
 俺がそう言うと、刹那は「はあ……喧嘩ですか」とだけ答えた。
 だけどそのやり取りを見ていたアスナがネギ君と何やらこそこそ話している。
 
「……あれが喧嘩ってレベルなのかしら……」
「……そうですよね……僕、死んじゃうんじゃないかって普通に思いましたけど……」
「……オレッチが思うに、アレでも二人してまだ余力残してたッぽいぜ?」
「……カモ君、それ本当?」
「……とんでもないわね、シロ兄もエヴァちゃんも」
 
 ……聞こえたそれは無視する。
 とりあえず人を化け物みたいに言わないで貰いたい。
 
「――とりあえずだ!」
 
 おほん、と咳払いして横に逸れた場を仕切り直す。
 このままでは話が進まない。
 
「これからは俺も協力するからよろしく頼む」
 
 そう言ってとりあえず場を締める。
 はてさて……これからどうなっていくことやら。
 
 
 
◆◇――――◇◆
 
 
 
 次の日の朝。
 俺は、ロビーに設置されたソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
 こういった、いつもと違う雰囲気の中でコーヒーを楽しむのもたまにはいいもんだ。
 惜しむらくは見慣れたいつもの面々が傍らにいない事ぐらいか。
 
『――それでは麻帆良中の皆さん、――いただきます』 
『いただきまーす』
 
 何処からか、マイク越しのネギ君の声と、それに習った大合唱が聞こえた。
 
「はい、召し上がれ」
 
 別に俺が作ったわけじゃないが、何となく言ってみる。
 いやはや……なんとも微笑ましい事だ。
 俺がこうして堂々とのんびりしているのは、最早隠れる必要が無くなったからである。
 秘密にしておくべき対象であったネギ君の前に出てしまったのだから、こうして目立つ所でコーヒーを飲んでいても問題は無いわけだ。
 ――ちなみに眼鏡はしていません。
 
「でもまあ、これくらいの役得はいいよな」
 
 一人呟いて、もう一口コーヒーを啜る。
 うん、平和な朝だ。天気も良いし。
 
『ごちそさまー!』
 
 と、一人でのほほんと和んでいると、双子らしい少女が二人揃って走っていく。
 どうやら朝食が済んだらしい。
 と、そこに。
 
「あ、衛宮さん。おはようございます」
「ああ、ネギ君。おはよう」
 
 爽やかに挨拶をするネギ君。その後ろにはパタパタと手を振るアスナがいた。
 ネギ君はいつものスーツ姿、アスナはお馴染みの学園指定の制服だ。
 
「今日はどういう予定なんだ?」
 
 アスナに手を振り返しながらネギ君に訪ねる。
 とりあえずソレを聞いておかないと今日の俺の行動も決められない。
 
「えっと……今日は奈良で班別の自由行動です」
「自由行動か……厄介だな」
 
 こういう場合は、出来るだけ纏まって行動してくれた方がこっちとしてもやりやすいんだが……。
 しかし、そこは彼女達の修学旅行のためだ、こちらの都合で動いてくれなどとは言えないだろう。
 
「やっぱり衛宮さんもそう思いますか。でも、そうなると……どうしましょう? 皆さんの予定を変更していただく訳にはいきませんし……かと言って僕達だけじゃクラスの方々、全部の班を守るのも無理ですし」
 
 うーん、と顎に手をやって考え込んでしまうネギ君。
 それは俺も同感だが。
 
「……そうだな、とりあえず昨日の今日でいきなり仕掛けてくる程向こうもバカじゃないだろ。むしろそんな策も何も無い連中だったらこっちとしても楽ってもんだ。だから大丈夫だとは思う。とりあえずこのかの身辺さえ固めておければ問題ないんじゃないか?」
「あ、それだったら刹那さんと同じ5班だから大丈夫だと思いますよ」
「刹那が?」
 
 そうか、昨日の敵方の実力を見た限りだったら刹那がいれば十二分に対処できるだろう。
 
「そっか、だったら安心だな。だとしたら俺はどうするかな……」
 
 危険が少ないとは言え流石に遊んでなどいられないだろう。
 かと言って全部の班を守る事も出来ないし……。
 
「あ、衛宮さん。それだったら僕と一緒に――」

 と、ネギ君がそこまで言った時、それは起こった。
 
 
「――ネッギくーーーーーーん!!」
 
 
 何処からとも無く現れた人影によって、ネギ君の身体が真横にぶっ飛ばされた。
 
「――って、敵襲ーー!?」
 
 なんだ、俺は何も敵意とか感じなかったぞ!? くっそ、俺もまだまだ未熟――! ネギ君傷は浅いぞーー!!
 
「ネギ君、今日ウチの班と見学しよーー!!」
 
 ……ナンデスト?
 俺が事態を把握できずに目の前の状況を確認すると、段々と飲み込めてきた。
 どうやら今の敵襲もどきは、どっかで見た事のある女の子仕業だった。
 えっと……たしか、リボン使いの子だったか?
 
「――ちょっ……まき絵さん! ネギ先生はウチの3班と見学を!」
 
 おっと、今度は雪広さんだ。
 雪広さんはネギ君に抱きついたままの女の子を引き剥がしながら、二人の間に割って入った。
 
「あ、何よー! 私が先に誘ったのにーーっ!」
「――ずるーい! だったら僕の班もーー」
「――――――あの、」
 
 と、まあ出るわ出るわ。ワラワラと沸いて来るかのごとく、あっと言う間にネギ君を取り囲む女の子達。
 いやー、ネギ君もてるなぁ……。
 アスナに視線をやると、それに気が付いて呆れたように肩を竦めて返してくる。
 なるほど、いつもの事ってか。
 
「ネギ先生ぜひ3班に!」
「――――あの」
「ネギ君、4班! 4班!」
「――あ、あのー」
「1班!」
「何々? またネギ君争奪戦?」
 
 また増えたし……。
 って、さっきから押しの弱い娘が一人いるな。
 何回も呼びかけているのに、周りの勢いに飲み込まれてしまっている。そんなのじゃ、この元気が有り余っているような女の子達からネギ君を勝ち取るのは難しいだろうに……。
 と、思った瞬間。
 
「あ……あの、ネギ先生!!」
 
 その押しの弱い娘が、意を決したように声を張り上げた。
 
「よ、よろしければ今日の自由行動……私達と一緒に回りませんか――!?」
 
 先程までの押しの弱さから分かるように、その子は普段からおとなしい娘なのだろう。
 いきなりの変わり様に、今まで騒いでいた女の子達が呆気に取られている。
 
「え、えーと……あの……」
 
 ネギ君は何かを考えた後、俺に何かを確認するように視線を向けた。
 どうやら、着いていってもいいか確認をとっているようだ。
 俺はそれに苦笑して頷き返す。
 ネギ君はソレを見て頷くと大人しい女の子へと向き直った。
 
「わかりました宮崎さん! 今日は僕、宮崎さんの5班と回ることにします!」
「え……」
 
 ネギ君がそう言うと、宮崎と呼ばれた女の子の顔が見る見る嬉しそうにほころんだ。
 ソレに対して周りの子達も「おお~~」とか「本屋が勝った!」とか言って持て囃していた。
 ネギ君はそれに苦笑いを返しながらその場を後にする。
 
「いやー……青春だなあー……」
 
 目の前で起こっている微笑ましい光景にそう呟いてコーヒーを啜る。
 気分的には縁側でお茶でも啜りたい気分である。ジジくさいとかは言いっこ無しだ。
 さて……そうなると俺はどうするか。
 
「な、なかなかやりますわね……宮崎さん……」
「うー……ネギ君取られちゃった……」
 
 5班ってことはこのかと一緒の班なんだから、ネギ君達の後をつけていってもいいけど、刹那がいればそんなに心配する必要も無いだろう。
 だからって遊んでるわけにもいかないしな。
 
「――あら? そこのお方……もしや衛宮さんですか?」
 
 と、今まで気が付かなかったのに、雪広さんがいきなり俺に気付いた。
 って、目の前にいるんだから当たり前か。
 それにコーヒーを啜りながら「よっ」と手を上げて答える。
 
「やはりそうでしたか……どうしたんですの? こんな所で会うなんて奇遇ですわね」
「ん、そうだな。俺も驚いた」
「ご旅行ですか? お店はどうしたんですの?」
「店はお休み。ほら、この時期はあんまりお客さん来ないしちょうど良いと思って」
「なるほど……確かに今の時期ですと、修学旅行で学園も人が少なくなりますからね。お休みを取るには良いかもしれません」
 
 納得、といった感じで雪広さんは頷いた。
 今の会話だけでそこまで推測をつけることができるとは……ううむ、相変わらず頭の回転の速い子だ。
 と、そこまで話を横で聞いていた女の子が、小首をかしげながら聞いてきた。
 
「ねえねえいいんちょ……その人誰だっけ? なんかどっかで見た事あるんだけど……」
 
 聞いてきたのはリボン使いの子。
 考えてみればこの子とは話をした事は無かった筈だから、顔を知られていないのも無理はない。
 それを聞いた雪広さんが「佐々木さん……アナタ」と呆れたように溜息をついた。
 
「以前にお会いした事があるでしょう? 学園広域指導員と喫茶店の店長さんをされている衛宮士郎さんです」
 
 そう言って俺を紹介する。
 雪広さんは聖ウルスラの子達とのいざこざがあった後あたりから、俺の店を気に入ってくれたのか結構な頻度でやって来ては紅茶やお菓子を食べていく事が多くなった。まあ、そのつながりでこうやって結構気さくに話しかけてくれるのは嬉しい事だ。
 
「……あ、ああ、ああ! そう言えばそんな感じの名前の人だった気がするー! …………ん? あれ? でも、どっか違うとこで誰かが何度も言ってたような……」
 
 あれ? と、何かを思い出すように考えてしまうまき絵と呼ばれた子。
 それは良いんだけど……なんで今度は俺を囲むように人が集まってきているんだろうか。
 予想外の事態に思わず逃げ腰になってしまう。
 周りからは「誰ー?」「テンチョーだってー」「テンチョーとイインチョーって響きが似てるアルね~」「んー」とか結構適当な声が飛び交っている。
 俺以外は全て女の子。その全てが俺を物珍しそうに眺めている。
 正直、物凄く居心地が悪いというか、妙なプレッシャーがあるんだが……。
 と、
 
「――……え、衛宮さん?」
 
 そんな喧騒の中でもハッキリと通る声が聞こえた。
 声が聞こえた方を見ると、そこにいたのは、スラリとした長身にそれに見合った長い手足、長い黒髪をポニーテールに纏めた、凛とした雰囲気の女の子、大河内さんが呆然とした様子で立っていた。
 
「ああ、大河内さんか。おはよう」
 
 俺がそう答えると、大河内さんは頭を振ったり手の甲でコシコシと目をこすっていたりする。
 あー……そんな事すると眼球に傷がついて充血するぞ?
 
「おー、衛宮さんじゃん! 何々? 旅行ですか?」
「うわ、ほんまに衛宮さんやん! ビックリー……」
 
 と、人ごみを掻き分けて新たに出てきたのは明石さんと和泉さんの二人。
 俺を見ると驚きながらも笑って寄って来る。
 
「あれ? 皆して知り合いなの? んー……私も名前だけはどっかで聞いたような気がするんだけどなぁ……」
「あー……それはあれよ。ほら……あれ」
 
 明石さんと佐々木さんは隠れるようにチョイチョイ、と大河内さんを指して何やら小声で話をした。
 
「………………ああーーっ! そっか、衛宮さんってアキラの言ってた――」
 
 と、なにやら俺を見ながら佐々木さんは驚いてしまう。
 ――え……何だってんだ?
 と、俺がそう思った瞬間。
 
「――っ! まき絵っ!」
 
 大河内さんが素早い動きでその口を塞いでしまった。
 佐々木さんはモゴモゴともがいているが、体格の差なのか、その束縛から逃れる事はかなわない。
 でも――何やってんだろう?
 
「えっと……大河内さん?」
「……い、いえ。全然なんでもないので気にしないで下さい」
 
 佐々木さんから手を放さず、顔だけを俺に向けて首を振る。
 ソレを見ていた明石さんや和泉さんは、「あちゃー……」って感じで顔を手で覆い、俺と同じく現状を飲み込めない雪広さんは互いに小首をかしげてるだけだった。
 
 
 
◆◇――――◇◆
 
 私は瞼の裏に光を感じ、薄ボンヤリとした意識のまま眼を開けた。
 
「――……ん」
 
 それはとある朝のことだった。
 いつもとは違った朝の空気を感じながら目覚め、それで私は修学旅行に来ていた事を思い出す。
 布団から上半身だけを起こして辺りを見回してみても、同じ班の他の皆はまだ気持ちよく眠っているようだった。
 
「――あれ?」
 
 と、そこでふと疑問に感じた。
 ……私、いつの間に布団に寝たんだろ?
 
「……えっと」
 
 寝起きの頭で昨日の最後の記憶を思い出して見る。
 ……たしか音羽の滝で水を飲んだんだっけ?
 ……うん、そうだ。少し気恥ずかしくも思ったけど流れ落ちる滝の三つのうちの一つを飲んだんだ。
 ――その……誰の事を考えながら飲んだかまで思い出すと、今すぐにでも赤面しそうだけど。
 とりあえずそこまでは覚えている。
 で、その後は――、
 
「……あれ?」
 
 思い出せない。
 そこから先の記憶がぷっつりと途切れている。
 ――確か水を飲んだ後、急に身体が熱くなって、頭もクラクラしたような気がしないでもない。
 ……はて?
 
「……私、どうしたんだろ」
 
 まさか、水を飲みながら考えた人物の事で頭がオーバーヒートしたとでも言うのだろうか……。
 
「――っ!」
 
 って、いけないいけない!
 思わず顔に手をやると、熱が集中しているのが分かった。
 さっきそうならないように思考を中断させたのにこれでは意味が無いじゃないかっ。
 
「……と、とりあえず、皆を起こして朝ごはんを食べに行かなきゃっ」
 
 私は頭を左右に軽く振り、未だに幸せそうに夢を見ているであろう友人達を起こす事に決めた。
 ……今、思い出した人の顔は出来るだけ考えないようにしようと思う。
 そうじゃないと、朝から顔を真っ赤にしたままクラスの皆と顔を合わせるハメになってしまうんだから。
 
 
「……え?」
 
 
 ――だと言うのに。
 この状況はどう言うコトなのだろうか?
 朝食を終えた私達は奈良観光へと繰り出すべく、ロビーで集合し、すぐに出発する事にした。
 ……そこで、いる筈の無い人物を目にする。
 委員長やまき絵を中心にその人物をクラスの皆が囲んでいた。そこにいたのは――、
 
 
「――……え、衛宮さん?」
 
 
 朝一番で思い浮かべた人物、衛宮士郎さんが何食わぬ顔でソファーに座ってコーヒーなんか飲んでいた。
 
 
「ああ、大河内さんか。おはよう」
 
 
 ――え? あれ? もしかして私まだ寝てたりする?
 夢かと思い、頭を振ったり、目をこすってもう一度確認して見てもその人はそこにいた。
 ――ほ……ほほほ…………本、物ッ!?
 
「おー、衛宮さんじゃん! 何々? 旅行ですか?」
「うわ、ほんまに衛宮さんやん! ビックリー……」
 
 と、私が突然の衛宮さん登場に混乱していると、ゆーなと亜子が衛宮さんに話しかけていた。
 二人も私と同じく面識がある衛宮さんの登場に多少驚いた物の、さして気にした風も無くにこやかに会話をしている。
 そんな様子にまき絵が不思議そうに首をかしげながらゆーなに話しかけた。
 
「あれ? 皆して知り合いなの? んー……私も名前だけはどっかで聞いた気がするんだけどなぁ……」
 
 ああ、そうか。考えてみれば衛宮さんと偶然出会う時とかはまき絵がいない事がほとんどだった。恐らく会話らしい会話もした事は無いのだろう。名前などは聞き覚えがあっても、それが当人だと分からないのかもしれない。
 ゆーなもその考えに至ったのか、納得したような顔をしながら、まき絵の耳に口を寄せて小声でなにやら囁いた。
 
「あー……それはあれよ。ほら……あれ」
 
 ボソボソ、と言う音としては聞こえるが、内容が会話として聞き取れないくらいの声量でまき絵に話を聞かせていると、そのまき絵の顔がみるみる内に驚愕の表情へと変わっていく。
 そして衛宮さんを見やると、
 
「………………ああーーっ! そっか、衛宮さんってアキラの言ってた――」
 
 ナニカトンデモナイコトを言い出そうとした!
 
「――っ! まき絵っ!」
 
 その言葉の続きを言うより速く、私はまき絵の口を塞ぐ。
 ――な、何を言うつもりだったか分かりたくも無いのに何となく予想がついてしまった……!
 それは、少し過去の自分の行動を思い返してみればすぐに見当がつく。
 考えてみれば少し前にもゆーなに、「アキラって最近、衛宮さんのことよく話すよねー」とニヤニヤ笑いながら指摘されたばかりだったのだから。
 だからまき絵の言いたいことは――ほぼ間違いないだろう。
 
「えっと……大河内さん?」
「……い、いえ。なんでもないので気にしないで下さい」
 
 私の行動に疑問顔で問いかけてくる衛宮さんに曖昧な返事で濁して答える。
 ……ど、どうしよう……今、この手を放したらまき絵が何を言い出すかは分かりきっているし……かと言って、衛宮さんの前でそれを説明するなんて、それこそありえないしっ。
 
「――ねねね、皆ちょっと集まって」
 
 と、私が考え込んでいるとゆーなが班の皆を集めて、円陣を組むように肩を組んで密集する。
 私、ゆーな、亜子、まき絵、龍宮。
 そしてゆーなが声を潜めて話すように、口元に人差し指を当てて「しーっ」と言う仕草をした。
 
「……一体何事なんだ?」
 
 一切事情を知らない龍宮がいの一番に口を開く。
 確かに彼女からしてみれば私達の行動は訳が分からないのだろう。
 
「んー、ちょっとねぇー。――ところで、私から一つ提案があるんだけど」
 
 ビシッ、と人差し指を立てて皆の顔を見回すと、
 
「…………ふっ」
 
 私の顔を見て、なんとなくイヤ~な感じで笑った。
 …………え? な、なに? 何で私を見て笑うの?
 
「提案……とは?」
 
 龍宮がそれに合いの手を打って話を続けるように促した。それを確認したゆーなはソレに頷き返すと、
 
「――今日、衛宮さんも一緒に行かないか誘ってみない?」
 
 なんて、トンデモナイコトを言い出した!
 
「え……ちょ、ちょっと、ゆーな。何を……」
 
 思わずゆーなの両肩を掴み、ガクガクと揺さぶってしまう。
 ……な、何を言い出すんだゆーなは!
 そんな事をしても衛宮さんに迷惑だろうし、私はどうしたらいいか分からないし、そもそも衛宮さんには桜咲が……!
 
「まー、まー。落ち着きなよアキラ。――いい? これはきっとチャンスだよ。ビックリドキドキムフフなサプライズイベントが大好きな神様がくれたおぼし召しに違いない!」
 
 と、ゆーなが今度は私を逆にガクガクと揺すり返しながら言う。
 ……正直、そんなピンポイント過ぎる神様は信用ならない。
 そんな微妙すぎる神様よりも、私としては衛宮さんに迷惑をかけたくないんだけど。
 が。
 そんな風に私が考えていると、ゆーなが私に顔を思いっきり寄せながら言った。
 
「なんでここに衛宮さんがいるかは分かんないけど……これを利用しない手はないよ!」
 
 ぐぐぐっ、と握り拳を作ってゆーなは力説する。瞳には炎でも宿っていそうな気迫だ。
 その迫力に思わず出掛かっていた言葉を飲み込んでしまう。
 
「……でも皆だって、いきなり部外者の衛宮さんが入るのはイヤなんじゃ……」
 
 それでも何とか言葉を搾り出してみる。
 考えてみれば、私と亜子とゆーなはいいかもしれないが、まき絵や龍宮はほとんど面識が無いのだ。
 普通ならそういうのをイヤがるもの、しかも衛宮さんは男性なのだから尚更だ。
 ……だと言うのに。
 
「私は全然構わないけど……皆は?」
「ウチも構へんよ? 衛宮さんやったら信頼できるしな」
「んー……私も別にいいかな? ネギ君は行っちゃったし、人数は多いほうが楽しいよねー」
「……私はどちらでも構わんが」
「――――」
 
 否定の言葉が一つとして出てこなかった。
 ソレを聞いたゆーなが「どうよ?」みたいな顔で私に笑いかける。
 
「……で、でも、衛宮さんにだって予定があるし」
 
 それでも尚、私は食い下がる。
 だってこのままでは何か大変な事になってしまう気がするから! 主に私が!
 
「もー……アキラも強情だなぁ……。ま、そんなモン、聞いちゃえば一発だけどねー」
「――え」
「おーい、衛宮さ~ん!」
 
 言うが早いか。
 私が止める暇も無く、ゆーなは衛宮さんの座るソファーの隣に勢いよく座ると、衛宮さんに詰め寄った。
 その突然のゆーなの行動に驚いた衛宮さんは引き攣った笑みを浮かべている。
 ――って、ゆ、ゆーな、待って! 私、まだ心の準備が――!?
 
「え、えっと、何……? 何か用があるのか?」
 
 と、衛宮さんが言いながらゆーなから距離を置くべく腰を浮かせて少し離れる。
 
「うんうん、ちょーっと聞きたいんですけど……」
 
 が、ゆーなはその距離を詰めるべく更にグイグイ近づいて行く。
 その様子はハンターとソレに追い詰められていくウサギのようだ。もちろんハンターはゆーなで、ウサギは衛宮さん。
 普通は逆なんじゃないかと思うけど。
 で、何となくウサギの耳をつけた衛宮さんを想像してしまう。
 
「――――」
 
 …………意外と可愛いかも?
 
「衛宮さんってこの後どこか行く場所決めてたりします?」
「や……そんな事は無いんだけど……」
「おー、じゃあちょうどいいじゃん♪ ねね、ものは相談なんですけど……良かったらウチらと一緒に回らないですか?」
 
 って!
 そんな事考えてる場合じゃなかった!
 私が変な想像をしている間にハンターゆーなが、ウサ耳衛宮さんを……じゃなかった、衛宮さんをソファーの隅っこまで追い詰めていた。
 
「え――君達……と?」
「そそ。まー、無理にとは言わないけど、どうです?」
「……や、誘ってくれるのはありがたいけど、せっかくの修学旅行に俺なんかが混じったら他の子の迷惑だろ」
「いえいえ! 衛宮さんが相手ならむしろ歓迎しますよっ。あ、ちなみに班のメンバーの了解もきちんと取ってますよー」
 
 ……私は頷いた覚えが無いんだけど……。
 
「どうです? 今なら若い女の子、五人によるハーレムができますよ~♪」
 
 ゆ、ゆーな! そういう言い方はどうかと思うけど――!
 衛宮さんもゆーなの言い方に表情を硬くしたが、顎に手をやり何かを考えるかのように物思いに耽ってしまう。
 すると、考えが纏まったのか私達を見て頷く。
 そして。

「――わかった。じゃあ今日は君らに同行させてもらってもいいか?」
 
 と言った。
 その答えに私は茫然自失。ゆーなは喜色満面。
 
「もっちろんですよ~♪ いやー、良かった良かった、これで楽しい修学旅行になりそうだ」
 
 ね? と私を見てウィンクをするゆーな。
 えっと……私にどうしろと?
 
 
 
◆◇――――◇◆
 
 
 と、言うわけで、俺は明石さんの班にくっついて奈良を回ることにした。
 理由としてはそんなに難しいコトではなく、いざ何かがあった時に学生の皆の前に現れても不審に思われないようにするためだ。
 イキナリ現れた俺を不審者と間違えて逃げられたら、それこそ身も蓋も無い話なのである。
 なのでこうやって身近にいることが可能なのは願っても無い事。こうやって近くにいれば色々と対処しやすいし、他の班が大体の感覚でどういうコースを回るのかを把握できるし。
 そんな考えの下、俺はグループで歩く明石さん達から邪魔にならないように三歩ほど下がって歩いていた。
 
「さてさて、皆ー? 目指すは奈良公園! 行くよ~!」
 
 「お~~!!」と元気良く答える同じ班の子達。
 先頭を歩く明石さんが振り向きながらグループの子に話しかけている。
 それに対してワイワイと行き先を楽しそうに話し合う女の子達。
 そんな中、俺はある一人の人物に気を取られていた。
 
「…………」
 
 視線の先には一人の女の子。
 大河内さんだってかなり背が高いのに、ソレよりさらに背の高い子がいる。名前は確か……龍宮さん、だっけ?
 その子は180cmを超えてると思われる長身に、浅黒い肌、ストレートに降ろした長い黒髪、そして何より印象的なのはその鋭い視線。
 ――そう、新幹線に乗ったときに感じた、只者でない雰囲気の子の一人だった。
 最初は向こうも俺のほうを少し警戒していたようだが、今は特に気にした風も無く、クラスの子と談笑している。
 とりあえず危害はないと判断してくれたのだろう。
 
「――ふう」
 
 何となく空を見上げる。それは少しばかりの気がかりがあるからの行動だった。
 
(しっかし……今頃刹那の奴は大丈夫かな?)
 
 考えるのは刹那の事。
 ホテルを出る時にすれ違った、俺を見るすがる様な目が印象的だった。
 大方、このかと顔を合わせ難いとか、何を話したら良いか分からないとかそんな感じだとは思うけど……。まあ、仲直りする為だ、それ位乗り越えてもらわなければ。
 
「……あ、あの衛宮さん」
 
 と、気が付けば大河内さんがいつの間にか前を歩く班から抜け、俺の隣に来ていた。
 さっきから様子が変だったから気にかかってはいたんだけど……何か避けられているようだったんで、また俺が何かしでかしてしまったかと思って不安だったんだが……。
 
「なあ、大河内さん。ちょっと聞いていいか?」
「……え? あ……な、何ですか?」
「俺、なんかしちまったかな?」
「……な、何でですか?」
「いや、さっきから避けられていたように感じたから。気が付かないウチにもし大河内さんに迷惑かけていたりしたら謝らなきゃいけないと思って……」
「……い、いえ! そんな事はありませんっ! ……そ、その、衛宮さんは何も悪い事なんて無くて……どちらかと言えば悪いのは私の方で――その…………」
 
 ごにょごにょ、と言葉を濁してしまう大河内さん。
 俯いては指をクルクルと回す仕草が妙に子供っぽい。
 
「えっと……とりあえず俺が何かしたから避けられてたって訳じゃないんだよな?」
「……避けるだなんてそんな。衛宮さんには何かと助けて貰ってるのに……」
「そっか、良かった。折角知り合ったんだ、どうせなら仲良くしたいよな」
「――っ。そ、そうですね」
 
 大河内さんはそう言うと顔を真っ赤にして、前を歩く集団にチラチラと視線を投げかける。
 はて? 何してんだろう? と思いその視線を追いかけると、そこには――、
 
「……おっしゃ! アキラ、いい感じだよ~、そのまま押し込んじゃえ!」
「え、ええ~!? こんな所で言うてしまうん!?」
「きゃーっ、アキラってば大~胆っ!」
 
 何て騒いでいる三人と、
 
「――ふう……」
 
 と、ため息をついてソレを見守っている龍宮さんが見えた。
 
 ――えっと……ナンデスカコノ状況。
 とりあえず落ち着いて現状を把握してみよう。
 大河内さんは騒ぐ三人を見て更に顔を真っ赤にして俯いてるし、その赤くなった大河内さんを見て三人組は更に盛り上がってるし、龍宮さんは付き合ってられん、とばかりに大きなため息をついては近くにあった自動販売機からコーヒーを買って完璧に傍観モードに突入している。
 
 ――さて、落ち着いてみてもサッパリワカリマセンヨ?
 
「えっと……大河内さん達っていつもこんな感じなのか?」
「……ゆーな、そんなの無理だって……――って! な、何か言いましたか!?」
「……や、君達っていつもこんな感じなのかなーって聞いたんだけど……」
「……い、いえ、流石にいつもと言うわけでは……」

 ――ってことは、やっぱり俺みたいな異物がいるからか……。
 考えてみれば当然の事だけど。
 
「……うーん、失敗したかな……こんな事なら一人で回った方が良かったか」
「――え……な、何でですか?」
「いや、なんか俺がいるせいで皆いつも通りに振舞えないんだろ? 俺が一緒にいるから楽しむ事が出来ないとかだったら流石に大河内さん達に悪い。折角の修学旅行なんだしさ、楽しまないと損だろうし」
 
 明石さんはきっと一人だった俺を見て気を使って誘ってくれたんだろうけど、そのせいで楽しめないんじゃ折角の修学旅行が勿体無い。
 そりゃ、護衛って言う観点から言えば、このまま一緒に行った方がいいし、わざわざ気を使ってくれた心遣いも嬉しくは思うけど……それで彼女達の楽しみを潰してしまうのは心苦しい。
 
「――うん、俺やっぱり一人で回るよ。その方が気兼ねしないからいいだろうし」
「――え、いや……あの、その……」
「や、悪かったな迷惑かけて……俺、鈍いからそう言うコトにまで気が回らなかった。俺はここら辺で消えるから、後は友達同士仲良く回るといい」
 
 じゃ、と手を上げて踵を返す。
 いやー、危ない危ない……危うくこの子達の修学旅行を台無しにしてしまう所だった。
 やっぱこういうのは見知った仲間同士でするほうが気兼ねもしないし、気楽ってもんだろう。
 さてさて、俺はどうするかな――。
 
「――――あ、あのっ!」
 
 と。
 数歩歩いた所で、思いもよらない大きな声に驚き、足を止め振り返る。
 見ると大河内さんが胸の前で両手をぎゅっと強く握り、どこか悲痛な面持ちで俺を見ていた。
 
「……――じゃありません」
「え?」
 
 大河内さんが小さな声で呟くように何かを言う。
 
「……迷惑なんかじゃありません」
「えっ……と?」
 
 強い思いが込められているかのような視線に思わず言い淀む。
 すると大河内さんは、自分の行動に驚いたかのようにハッ、とすると、それまで勢いをなくして俯いた。
 
「……あの、衛宮さんがいて迷惑だ何てそんなこと……ありません」
 
 だが、俯きながらも大河内さんは言う。
 俺は邪魔ではないと。
 
「……でも」
「……あ……も、勿論、衛宮さんが居心地が悪いって言うなら……その、無理強いとかはできませんけど……。で、でも! 私としては……一緒に回ってくれると……その……嬉しい…………です」
 
 消え入りそうな声。
 それでもそれはしっかりと俺の耳に届いた。
 俺は大河内さんの豹変振りに驚いて、その奥にいる明石さんたちに視線を送った。
 すると明石さん達も大河内さんの変わり様に多少驚いていたようだが、俺の視線に気が付くと満面の笑顔でウィンクをするかのように片目を瞑り、グッと親指を前に突き出して笑って見せる。
 その仕草が表す意味は言葉にせずとも伝わった。
 俺はそれに苦笑で返すと、大河内さんに再び視線を合わせる。
 
「えっと……さ。俺、実を言うと奈良って詳しくない上に、パンフレットとか持ってきてないんだ」
「……え? は、はぁ……」
 
 大河内さんは俺の言葉の意味が分からずきょとん、と小首を傾げた。
 その仕草が思ったより幼く見えて、思わず笑みが深まったのが自分でも分かる。
 
「だから、このまま俺が一人で動いたら迷うと思うんだ。だから……一人で行動するなんて言った手前、恥ずかしいんだけど……やっぱり一緒に行っていいか?」
 
 大河内さんはパチクリと数回瞬きをして俺の言葉を考えるような仕草をする。
 だが、意味が分かった瞬間、今までの感情が裏返ったかのようにパッ、と表情を綻ばせ、
 
「……は、はい! 勿論ですっ!」
 
 と言って微笑んだ。
 いつものような大人びた雰囲気ではなく、年相応の少女のように柔らかく微笑む、その笑顔で。
  
 その後、奈良公園、東大寺、春日大社など主要な所をあらかた回りつくし、きりの良い所で休憩として甘味処へと入った。
 軒先に椅子が据え付けられており、今日のように天気の良い日だったら外でお茶も楽しめる場所で、趣のある感じがここの空気物凄くマッチしている。
 無論、俺達も折角天気が良いのだから外でお茶を飲もうと言う話になり、店員の人に団子とお茶を注文して横長の椅子に腰掛けた。
 大して待つことも無く、店員の人がお茶を持ってきてくれたので早速それを一口啜る。

「……ふう」
 
 それでようやく一息つく。
 一応の警戒として気を張っていたが、昨日のような気配は全く感じられなかった。
 杞憂に終わったのならそれ以上の事は無いが、流石に少し疲れたというのが本音だ。
 それは気を張りすぎて疲れた……なんて事ではなく、明石さん達のテンションがひたすらに高くて凄くて――ようするにバテてしまったのだ。明石さん、和泉さん、佐々木さんの三人はあっちへこっちへと元気に走り回り、それになかなか着いていけない俺や大河内さん、更に龍宮さんは正に引っ張られる形で奈良を所狭しと駆けずり回った。
 それでも、流石にクラスメイトである大河内さんや龍宮さんは慣れているのか、少し困ったような顔をしながらも余裕で着いて行った。
 しかし、俺はそう言う訳にも行かず、周囲を警戒していた事も重なって想像以上に想定外のことで疲労してしまったのだ。
 
「……疲れましたか?」
 
 と、隣に座った大河内さんが気遣ってくれる。
 む、いかんいかん。男として情けない所を見せるのは沽券に関わる。
 
「大丈夫大丈夫。これでも体力はある方だからこれぐらいなんとも無い」
 
 むん、と力こぶを作るフリをすると大河内さんはクスクスと笑う。
 しかし、まあ……一応は仕事なのに、こんなにノンビリとしてても良いものだろうか?
 これでは普通の観光旅行とあんまり変わらない気がする。
 天気は良いし、お茶は美味いし。
 
「……ふう」
 
 お茶を一もう口啜りほう、と一心地着く。
 あー……落ち着く。
 
「……あの、本当に良かったんですか?」
「え?」
 
 かかる声で我に返ると、大河内さんがお茶を両手で包み込むように握り、ソレを見眺めていた。
 
「良かったって……なにが?」
「……あ、私から誘っておいて、こう言うのも変なんですけど……。衛宮さん……もしかして私が誘ったから無理して一緒に回ってくれてるんじゃないのかな、って……」
 
 手に持ったお茶を弄ぶようにクルクル回しながら言う。
 はて、なんでそんな風に思うんだろうか?
 俺は全然そんな事ないし、誘ってくれたのは純粋にありがたかった。俺は無理なんていうのはこれっぽっちもしてないし、むしろ一人の俺なんかをわざわざ誘って、一緒に回ってくれている大河内さん達の方が無理してるんじゃないかと思うんだが……。
 
「……衛宮さん、本当は誰かと一緒に回る約束とかしてたんじゃないんですか?」
「――へ?」
 
 これは奇妙な事を言う。
 約束って……そんなものした覚えはないし、回るヤツだっていない。
 そりゃ、エヴァと茶々丸がここにいれば一緒に動いてたかもしれないけど、生憎と二人ともここにはいない訳だし。
 何を思ってそんな事を言うのだろうか?
 
「誰かって……誰と?」
「…………そ、その……――さ、桜咲とか……」
「桜咲って……刹那のことか?」
 
 コクン、と小さく頷く。
 何故ここで刹那のヤツが出てくるんだろうか?
 刹那は今頃、このかの護衛についている筈だし、クラスを守ると言う観点から言っても、刹那とは別行動で動いた方が効率が良い。まあ、大河内さんが言っているのはそう言うコトでは無いのだろうけど。
 まあ、結局の所、大河内さんの発言の意味は良く分からないままだ。
 
「や、そんな約束はしてないけど……なんでさ?」
「……――あ、あの!」
 
 突然、俯いていた視線を急に上げ、バッ、と大河内さんが俺を見る。
 
「……は、はい?」
 
 その真剣な表情はどこか思いつめているようで、なんとも言えない迫力に思わずたじろぐ俺。。
 一体何が彼女をそうさせているのだろう。
 
「……桜咲とはどういう関係ですか?」
「か、関係って……」
「…………その……つ、付き合って……るんですか?」
「――――――――」
 
 
 ――あー……今日も天気が良いなぁー、絶好の散策日和だー。……あ、鳥がいる。
 
 
「――――えっと、あの、その、」
「………………………………って、なんでさッ!?」
 
 い、いかん! 今、一瞬意識が飛び出しかけたぞ!?
 って、え……刹那? え? え、え~~~っ!?
 つーか、何故そんな考えに至りやがりますかっ!
 そりゃ刹那は綺麗な子だとは思うけど……じゃなかった!
 
「な、なんで!? なんでそう言うコトになる!?」
「――え、……ち、違うんですか……?」
「や、むしろ何でそんな発言が飛び出して来るのかが俺には全くの未知数なのですがッ!?」
「……だ、だって、仲良さそうだったし、名前で呼び合ってたし……」
「……………………そ、それだけ? 理由」
「……え、ええ、まあ……」
 
 ………………はあ。
 ビックリした……一体全体、どういった経緯でその考えに至ったかのかは分からないけど、それは誤解もいい所だ。
 
「そりゃ大河内さんの誤解だ。刹那と仲が良いのは確かかも知れないけど、それは剣道の練習をいつも一緒にしてるからだ」
「……そうなんですか?」
「そうだよ。大体、何処をどう曲解したらそうなっちまうのか分からないけど……そんな事言ってたら刹那が可愛そうだ」
 
 刹那だって年頃の女の子なんだから、そういう勘違いをクラスメイトから受けてたら良い気はしないだろうに。しかも、その相手が俺なんていうのだから尚更だ。
 
「……そう、ですか……そう……だったんですか」
 
 大河内さんはまるで噛み締めように何度も「そっか」と呟く。
 俺はそれを横目にお茶をすする。
 あー……変に焦ったから微妙に冷めたお茶が丁度良い。
 
「――アキラ、アキラっ」
 
 声のした方を向くと、離れた席に座っていた明石さん達がこっちに向かって……と言うより大河内さんに向かって手でこっちに来い、とパタパタ振っていた。
 最初に思ったがなんで彼女達はあんな離れた席に座ったんだろ?
 
「……あ……す、すいません衛宮さん。私ちょっと行って来ます」
「ああ」
 
 大河内さんは小走りに明石さん達の所に向かう。
 すると、それと入れ替わるかのように一人の女の子が向かって歩いてくる。
 そして、
 
「――隣、構わないかい?」
 
 と言った。
 
「ん、別にいいぞ」
 
 俺はそれに短く答える。
 その女の子は龍宮さんだった。
 龍宮さんは俺の返事にフッ、とニヒルな笑みを見せると、音も無く俺の隣に腰掛ける。
 
(……うわ、やっぱり凄いぞこの子)
 
 別に何もしていないのに、周囲の温度が少し下がったように感じる。敵意、と言うわけではないが、こっちを探ろうとしているだけでこれだ。実力も結構なものがあるに違いない。
 推測で言うなら刹那と同格クラス。……いや、それよりは劣るか。それでも十ニ分に驚嘆に値するのは間違いないんだが……。
 ほんと、こっちの世界の女子中学生ってのはどうなってんだか……。
 
「衛宮……士郎さんだったかな?」
「そうだよ。そう言う君は龍宮さんだっけ?」
「うむ。龍宮真名だ。覚えていて貰えれば嬉しい」
「……で、どうかしたか? 明石さん達と一緒にいなくて良いのか?」
「ふっ……なに、あの件に関しては私は力にもなれ無さそうなんでね。それならば一緒にいても意味が無いのでこうして貴方の事を知っておいた方が有益だと判断したまでだ。――お噂は常々刹那から。お会いできて光栄です」
「刹那から?」
「刹那とはルームメイトでね。それに”仕事”も手伝う事もある仲なもので、貴方の事も何度か刹那の口から聞き及んでいる」
「……ふーん」
 
 ”仕事”……ね。
 ま、大方魔法関係の仕事なんだろうけど、刹那もそういう事してたのか。
 
「……驚かないのだな?」
「何が?」
「私がそういう仕事をしている事を……だよ」
「なんだそんな事か。そりゃ、そんな目をしていれば分かる奴には分かるもんだろ? まあ、そんな年でそこまでの実力……ってのは信じがたいけどな」
 
 俺がそう言うと龍宮さんは驚くような表情をする。
 俺、そんなに変な事言ったか?
 けど龍宮さんはすぐ可笑しそうにその表情を崩して笑みを浮かべた。
 
「ふっ……なるほど。流石にあの刹那が頼りにしているだけある。どうやら”本物”らしい」
「本物? それってどういう意味だ?」
「なに、そんなに大した物ではない。漠然としたイメージの話だよ。そうだな……言うなれば、高畑先生や私に近い存在とでも言うのかな? ま、実力は私からかけ離れている位置にあるようだが……」
 
 遠くを見る目をしながらそんな事を言う。
 それで分かってしまった。
 この子は……その年で既に”あの”タカミチさんと同種の経験をしてきたのだと。
 
「……龍宮さん、君は……」
「――おっと、余計な話が過ぎたようだ。大河内が帰って来た」
 
 龍宮さんは俺の言葉を遮るように立ち上がると、背を向けて立ち去る。
 その寸前で、何かを思い出したかのように立ち止まった。
 
「ああそうだ、衛宮さん。貴方も何か人手が必要な時は私に言うと良い。報酬次第だが力になろう」
「……傭兵みたいな物か? 出来る事ならそんなことが必要ないことを願うけどな」
「ふっ……違いない。――もっとも、場合によっては貴方の敵になる可能性も否定はできないがね」
「…………それは報酬次第で”何でも”すると言う事か。君と敵対しなければいけない、そんな状況になるかもしれないと言う事か」
「――さあ、どうかな」
 
 龍宮さんが俺を挑発するように俺の言葉を鼻で笑う。
 
「――――」
「――――」
 
 しばしの無言。
 お互いに視線を逸らすことなく、言葉の真意を探リ合う。
 ジリジリとした感覚が時間の感覚を曖昧にさせ、麻痺させる。
 が。
 
「――はは」
「――ふっ」
 
 それは同時に笑うことで一瞬にして打ち消えた。
 まあ、今のはちょっと過激な挨拶と言った所だろう。俺も龍宮さんも最初から本気で言っているわけではないのだ。
 
「まあ冗談はさて置き……ふっ、出来る事ならそれは遠慮願いたいものだな。貴方と相対するのは幾ら報酬を貰った所で割りに合わない」
「……その言葉は龍宮さんなりの褒め言葉として受け取っておくよ。俺だって君と戦いたくなんて無いしな」
「ふふ……では」
 
 再び歩き出す背中を見送る。
 いやまいった。アレで本当に中学生かよ。
 物腰といい、考え方といい。
 それに加えあの洗練された容姿だから、年上だって言われても違和感がまるで無いぞ。
 
「――衛宮さん、お待たせしました。そろそろ集合時間なので帰りますけど……」
 
 小走りに駆け寄ってきた大河内さんが言う。
 そうか、もうそんな時間か。
 思っていたよりもずっと早く時は過ぎていたらしい。
 
「……衛宮さんはどうしますか?」
「そうだな、じゃあ俺も一緒に帰るか。そろそろ飯の時間だし」
 
 大河内さんと二人連れ立って、明石さん達の元へと向かう。
 まあ、今日一日は何事も起こらなくて良かった。
 それに、この子達のことを少しでも分かったのは少なくない収穫だろう。こうやって一緒に回ったのは決して無駄なんかじゃなかった。
 少なくとも隣を歩く大河内さんは何か知らないけど上機嫌っぽいし、俺達を待つ他のメンバーの表情も明るい。
 出来る事なら明日以降もこの笑顔が曇る事無ければいいんだけどな……いや、曇らせる事が無いように俺が頑張るだけ――か。
 
 
 
 


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