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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444]
Name: abtya◆0e058c75 ID:0ed5d191 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/27 08:43




等々力拳剛。東城流先代の唯一の弟子にして、東城流最後の門弟。
彼は先代の死に際して、一つの品を師から預かった。

その品は、奇妙な文字の羅列が刻まれた、細長い布切れにくるまれていた。
どういうわけかそのボロ布は、強力無双の拳剛の腕力を以ってしても、ほどくことも、千切ることもできず。受け取った拳剛自身にすら、布切れの中身を見ることはかなわなかった。

師の言葉によれば、そのボロ布の中身は『鍵』であるそうだった。
東城の家の敷地に古くからある小さな蔵の。その扉にかけられた頑丈な錠前の鍵。
それが拳剛の受け取った品だった。

鍵を託す際、師は幾つかの言いつけを拳剛に残した。
一つ。鍵を欲するものが居れば、鍵の守る蔵の中身と共に、それをくれてやること
一つ。ただし、鍵は拳剛を真剣勝負にて破った者にのみ譲渡すること
一つ。鍵が拳剛の手の内にある限りは、決して、何人にも、どのようにも、その鍵の守る物を口外しないこと。

拳剛は、この師の最期の言葉を、愚直なまでに守り抜いた。
言いつけ通りに、鍵を欲した太刀川 怜とは真剣勝負にて仕合い、師の唯一人の肉親の沙耶にさえ鍵の仔細は話さなかった。

そして拳剛はその言伝と同時に、蔵に収められている物についても聞かされた。
先代は蔵に眠るそれらを、「自らの業」と称した。
それは、ほとんどの人間にとっては無価値で、だが極一部の者達にとっては命にも代え難い品。


すなわち、拳剛の受け継いだ『鍵』が守る物とは。
東城源五郎が打ち破った、無数の道場の看板達である。


拳剛自身、源五郎の死の際まで知らなかったのだが、師は道場破り紛いのことをしていた時期があったらしい。
もっとも師本人は他流派の看板を奪うつもりなど毛頭無く、仕合はあくまで東城流の技を高めることのみが目的だったそうだ。
ならば自らの道場で鍛錬を積めば良いとも思えるが、師の場合はそうは行かなかった。
ろくに弟子も取らなかった彼には、対等に戦うことのできる相手が一門には居なかったのだ。
故に、あえて他流試合に臨んだのである。

師は看板を賭けたつもりは無かった。
だが源五郎に敗北した一門の者達にしてみれば、他流に挑まれ、その上真剣勝負で負けたとあっては、もはや看板を掲げることなどできはしない。
そのようなことは武の道を歩む者としての誇りが許さない。
看板を差し出すほか無かった。

そうして拳剛の師が手に入れた無数の看板達は。
燃やされることなく、砕かれることなく、東城の家の蔵に収められることとなる。


東城源五郎の死に際し、拳剛は師の遺志を、師の業を継いだ。
すなわち、看板を奪われた武術家達が最後の東城流を打倒し、その誇りを取り戻すまで、その鍵を守り続ける。
それが師が踏みにじった武術家たちへの礼儀であり、そして師に対する恩返しであると、拳剛はそう考えたのだ。



*************************




「目的は、鍵か。」

太刀川の話で、拳剛もおぼろげながら事の次第が見えてきた。
沙耶や、拳剛の友人達を狙っているという輩達の目的は、東城の蔵にある看板に違いない。鍵の守護者である拳剛に対し人質を取り、看板を手に入れようとしているのだ。
恐らく、かつて師に看板を奪われた一門の者達が取り戻しに来たのだろう。
太刀川の話に嘘が無ければ、の話であるが。
拳剛の言葉に太刀川は頷く。

「そうだ。奴らの目的は私と同じ、お前が東城流先代から受け継いだ鍵だ。」
「わからんな、鍵が欲しければ直接俺を狙えばいい。」

尋常な立会いの下、源五郎の手に渡った品である。取り戻したくば正面から拳剛に挑むのが筋と言う物だろう。
少なくとも、関係のない人間を巻き込むやり方は間違っている。

「ああ、そうだな。だが、」

太刀川も同じ意見だったようだが、しかし彼女は首を振る。

「だがお前を直接狙うより、人質を取って鍵を奪ったほうが簡単で確実だ。」
「……全く正論だな、反吐が出るが。」

少なくとも武を志した者のすることではない。
武道家にとって、看板とは誇りだ。
下種な手段で取り戻した誇りなど最早何の価値も無いということが、その輩達には分からないのだろうか。
拳剛は小さくため息をつく。

「太刀川、お前の言いたいことは分かった。お前の話が嘘か真かは分からんが、在り得ないことでもない。周囲には気を配ることにしよう。」

だが、と拳剛は続ける。

「肝心なことをまだ聞いていないぞ。お前は一体何者だ。何を企んでこの学校にやってきた。」

友人達が狙われているという話のインパクトに流されかけていたが、これを訊くのがそもそもの目的だった。
確かに、拳剛の周りの人間が狙われているのは看過できない。
だが『鍵』を賭けて真剣勝負をしたその次の日に、転入生としてやってきたこの女も相当なものだ。
自分の頭がよろしくないと自覚している拳剛にも、これが異常だということは分かる。見過ごすことはできない。
しばらくの沈黙の後、太刀川が口を開いた。

「私は護国衛士だ。」

ごこくえじ。
聞いたことのない名だった。
恐らくは流派の名称なのであろうが、少なくとも拳剛の記憶にはない。
だが昨晩仕合ったために、太刀川の実力が相当のものであることは拳剛も重々理解している。
もしかすると東城流同様、実力はあるがマイナーな一門なのかもしれない。
太刀川は続ける。

「そしてこの学校へ来たのは。
等々力拳剛、お前とお前の周囲の人間の警護のためだ。」
「?どういう事だ。いや、そもそも何故お前がそんなことをする必要がある。
俺達を助ける義理も理由もあるまいに」

その言葉に拳剛は眉を顰めた。
彼女の目的は『鍵』、正確には鍵の守る蔵にある看板のはずだ。拳剛やその周りの人間を手助けする理由は思いつかない。
だが太刀川は、拳剛の言葉に首を振った。

「それがそうでもなくてな。こちらには、お前を守る義理も理由もあるのだ」

思わせぶりな太刀川の言葉に、拳剛は首を傾げる。
巌のような大男がふくろうの様に首を傾げるのを見て、太刀川は小さく笑みを浮かべた。

「まず理由だが、これは単純だ。お前が人質など取られて『鍵』を奪われてしまっては、私たちも困るのだ」
「ああ、なるほど」

成程、もっともな理由だった。思わずポンと手を叩く。

「ならば義理のほうは何なのだ?」

再び疑問がわき、拳剛はまた首を傾げた。
護国衛士とかいう名も知らぬ流派に、少なくとも拳剛は借りを作った記憶はない。
そもそもつい先ほどまではその名すら知らなかったのだ。関わりすらない。
となれば、師・源五郎がなにかやったのだろうか。
拳剛の問いに太刀川は少しだけ口ごもり、そして言った。

「……これは言いにくいのだが。そもそもお前の周りの人間が狙われることになったのは、私達、護国衛士に原因があるのだ」
「?どういうことだ」
「東城源五郎がお前に託した『鍵』は、元を辿れば我々が彼に預けた物だ」

それは初耳だった。拳剛は『鍵』そのものを直接見たことはないが(肉眼では布切れが巻かれていて見られない)、東城の家の蔵にかかった錠前のほうなら見たことがある。確か、重厚な立派な錠前だったはずだ。
それを源五郎に貸し出したということは、護国衛士という流派にはさぞかし腕利きの鍛冶屋さんがいたのだろう。
拳剛のそんな内心をよそに、太刀川は説明を続ける。

「だから、『鍵』の在処を知るのは本来我々だけなのだが、昨晩の決闘でそれが他の組織にも知られてしまった。奴らは『鍵』の在処を知る護国衛士の動向を探っていたんだ。
それで、『鍵』が東城流・等々力拳剛の元にあるとバレてしまった」
「成程、それで俺の友人が狙われることになったというわけか」
「ああ」

つまり護国衛士という連中は、拳剛の周りの無関係な人間を巻き込んでしまったことに責任を感じ、それで警護を申し出たということらしい。
中々律儀な連中である。

と、そこまで考えて。
拳剛は、ちょっとだけ引っかかった。
太刀川の言った、『鍵が東城拳剛の元にあるとバレてしまったんだ』、のくだりである。
そもそも、そのバレた相手というのは、東城流先代・源五郎が奪った看板を取り戻しに来た連中のはずである。
ならば師が逝去した現在、その看板は最後の東城流である拳剛が所有していると考えるのが普通だろう。
だが太刀川の話によれば、その者達はどういうわけか、拳剛が『鍵』を持つことを、すなわち看板を守っていることを知らなかったらしい。
これは妙である。

拳剛は内視力を発動し、太刀川の胸部を注視する。おっぱいは、脈拍、鼓動共に変化がない。
太刀川は嘘を言っているわけではないようだ。
虚言ではない。だが何かが食い違う。
一体これはどういうことなのだろうか。

拳剛の混乱をよそに、太刀川は続ける。

「とりあえず、我々は他勢力の排除に専念する。時間も無いが、鍵を奪われてしまっては元も子もないからな。
再戦は、『龍脈の鍵』をかけた戦いは、その時まで持ち越しだ」


妙な単語が、聞こえた。


「太刀川よ、今何と言った?」

神妙な面持ちで聞き返す拳剛に、太刀川は怪訝な様子で返す。

「?護国衛士は他勢力の排除に専念すると……」
「いや、その次だ」
「戦いは持ち越しだと」
「……『何』をかけた戦い?」
「?まったく、今更何を言っている」

再び聞き返す拳剛に太刀川は、今度は呆れた顔で答えた。

「『龍脈の鍵』に決まっているだろう。それ自体が膨大な気の力の塊の、龍脈を呼び出すための依り代。
かつて護国衛士が門外協力員である東城源五郎に預け、守護を任せた鍵だ。」





「………えっ?」
「えっ?」
「あ、い、いや、なんでもないぞ!」


何を阿呆言っているか。
口から出掛かったその言葉を、拳剛は咄嗟に押し留めた。
龍脈の鍵。確かに今、太刀川はそう言った。
龍脈のことならば拳剛も師から聞いたことがあるので知っている。
人間の『気』などとは比較にならないほど強大な力を持つ、巨大な大地の気脈のことだ。
太刀川は、その龍脈の鍵を欲していると言う。

だが拳剛が先生から託された鍵は違う。東城の家の蔵の鍵だ。
先生が奪った看板を守る鍵だ。

拳剛の持つ鍵と、太刀川の持つ鍵は、『全く別の物だ』。

だが拳剛に、それを伝えることはできない。
鍵を託す際に、先生が遺した言葉。
『鍵が拳剛の手の内にある限りは、『決して』、『何人にも』、『どのようにも』、その鍵の守る物を口外しないこと。』
この言いつけが、拳剛に口を開くことを許さない。
これは先生の奪った看板を守る鍵ですよ、などと直接的に説明するわけにはいかないし、
同様にして、これは龍脈の鍵ではありませんよ、などと間接的に鍵の詳細を示すわけにもいかないのだ。


何故先生はこのような言いつけを遺したのか。
護国衛士たちが東城流先代の死後、拳剛に『龍脈の鍵』が渡ったと考えるのは当然のことだろう。
なにせ拳剛は東城源五郎唯一の弟子である。誰が考えたって、実力的にも師弟関係的にも『龍脈の鍵』とやらの守護を引き継がせるのは拳剛が適任だ。
そして実際、拳剛は師より『鍵』を託されている。
ただしそれは龍脈の鍵ではない。東城の家の蔵の鍵だ。
護国衛士たちが思い違いするのも当然だが、しかし拳剛にはその誤解を解くことができない。


先生の考えがわからない。
これではまるで、最初から拳剛が『龍脈の鍵』を持つと思わせることが目的のような――――――


そこまで考えて、拳剛はふと気付く。
拳剛の持つ鍵は、師の手に入れた看板を守る鍵だ。龍脈の鍵ではない。
ならば、師が預かったという龍脈の鍵は。


――――――――― 一体どこに行ったのか?




その時だった。ピリリという電子音が屋上に響いた。


「電話か?」
「俺のだな。む、沙耶からのようだ」

いぶかしげな視線でこちらを見る太刀川に、拳剛は頷く。
ポケットから取り出した携帯のディスプレイには、『沙耶』の二文字が光っていた。どうやら沙耶の携帯からのようだ。
何か用事ができたのかも知れない。拳剛はすぐさま電話に出る。

「もしもし沙耶か、一体どうした……」
『――――――やぁ、こんにちは等々力拳剛』
「!?」

だが携帯の向こう側から聞こえた声は沙耶のものではなく、聞きなれない男の声だった。
着信は確かに沙耶の携帯から。だが出たのは沙耶ではなく、何者かも分からぬ男だ。
ならば、沙耶はどうしているのか。
強く握り締められた拳剛の携帯が、ミシリと音を立てる。

「……お前は誰だ。これは東城沙耶の携帯のはずだが」

獣の唸り声にも似た重低音。
電話越しにでも感じるであろう、限りなく極限に近い拳剛の怒気を気にもせず、男は淡々と応えた。

『俺達は憂国隠衆。手短に用件だけ言おう。―――――東城沙耶は預かった。』
「!!?」
『彼女はお前の持つ鍵と交換だ。警察に連絡しようなどとは考えるな、人質の命が惜しいのならね。
―――――青南町の工場跡地で待つ。』
「待……!」

拳剛が制止の怒声を発するよりも早く。通話は切られた。
拳剛はすぐさまリダイヤルするが、今度は繋がらない。どうやら携帯の電源を切られたようだった。

「くそっ!」

怒りのままに携帯を床に叩きつける。象に踏まれても大丈夫がキャッチコピーだった拳剛の携帯は、見事に粉々に砕け散った。
様子を見ていた太刀川が、怪訝な様子で声をかける。

「何があった」
「沙耶が攫われた」

拳剛の言葉に、太刀川が目を見開いた。

「相手は?」
「分からん、『ゆうこくいんしゅう』とか名乗っていた」
「憂国隠衆!?馬鹿な、奴らもう動いたのか!」

敵の名前を聞いた太刀川が、あからさまに動揺する。

「早すぎる!くそっ、牽制のつもりでココに来たのが仇になったか……!」
「済まんが話は後だ。沙耶が危ない」

どうやら太刀川は敵の名に心当たりがあるようだった。
だが拳剛とって今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、沙耶の身の安全だ。
相手は白昼堂堂人攫いなぞする輩達である。沙耶が大事な人質であるとはいえ、一体何をされるか分からない。急いで手を打たねばならなかった。
意を決した拳剛の表情を見て、太刀川が言う。

「鍵を渡すつもりか」
「……奴等が正面から挑んで来たのならば、それも良かったがな。人質を取ってコソコソ脅すような奴らに、先生から受け継いだこの鍵は渡せん。」

正直に言えば、確実に沙耶の安全が確保されるならば、拳剛は鍵を渡してもいいと思っていた。
だが今の状況では、相手の目的が蔵の鍵なのか龍脈の鍵なのか分からない。
仮に後者だった場合には相手の目的とは違う物を渡すことになってしまい、かえって人質である沙耶の身が危険にさらされることになる。
故に交渉には応じるわけにはいかなかった。

「策はある。まずは沙耶を助け出して、その後に奴らを叩き潰す。」

人質をとる上で敵は失敗を犯した。それは攫う相手に沙耶を選んだことだ。
あるいは他の人間を誘拐していれば、拳剛の策は使えなかっただろう。

「ならば私も連れて行け」

太刀川が申し出る。
彼女の力量は拳剛も身を以って知っている。敵地に乗り込むなら、数は多いほうがよかった。
しかしその言葉を素直に受け取ることは、今の拳剛にはできない。

「俺はまだお前が信用できん。妙な真似をすれば敵もろとも、地の果てまで殴り飛ばすぞ。」

岩石の様な拳をゴキリと鳴らしつつ、拳剛は言う。
確かに彼女の申し出はありがたいが、だが太刀川が誘拐犯の仲間ではないという保証はどこにもない。
彼女の性格上人質をとるような真似は好まないだろうが、彼女の仲間もそうとは限らないのだ。
騒動に生じて拳剛の持つ鍵を狙う可能性もある。油断はできない。
だが太刀川自身、そんな拳剛の心中は重々承知のようだった。

「ああ、そうしてくれ」

故に、太刀川は躊躇無く頷く。暫しの沈黙の後、拳剛が口を開いた。

「……敵が指定したのは青南町の工場跡地だ。急ぐぞ」
「ああ!」

淡い光の粒を纏い、二つの影が屋上を飛び出した。



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