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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 7
Name: abtya◆0e058c75 ID:2d32621c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/21 09:59
教室のスピーカーが4時限目終了のチャイムを鳴らした。待ちに待ったお昼休みである。
息苦しい授業から解放された生徒達は午後からの授業を乗り切るべく、各々栄養補給に動き出す。
ある者は学食へ、ある者は購買へ。カバンからお弁当を取り出す者もいれば、ちょっと離れたラーメン屋に自転車を飛ばす猛者もいる。

一方、一時限目から眠りこけてしまった沙耶はと言えば、
襲い来る睡魔を撃退しつつ二限以降は無難に過ごし、無事昼休みを迎えていたものの、
今は蓄積した疲労からうんうんと唸りながら、ぐったりと机に身を預けていた。
幸いにして沙耶は弁当組。学食組や購買組のように、戦場に向かう必要はない。
昼休みを思う存分だらけることができるのだ。

そんな沙耶の姿を見て、クスクスと笑う少女が一人。
肩まで伸ばしたウェーブの茶髪と、頬のそばかすが印象的なその少女。
名を山岸友奈と言う。沙耶の友人である。

沙耶は背後で笑う友奈に気付くと、むっとした表情で彼女を見た。

「もう、笑わないでよ友奈」
「ごめんごめん」

ウェーブのかかった頭髪をゆらゆらと揺らしながら、友奈はいたずらっぽく謝ると、

「けど沙耶がそんなにぐったりしてるの珍しくてさ。なんかあったの?」

ぐっと顔を近づけて沙耶の目を覗き込む。
この好奇心旺盛で知りたがりな親友に、朝から起きたことを片っ端から説明しても良かったのだが、残念ながらもうそんな体力はない。
だから沙耶は机に身をうつぶせながら、ひらひらと手を振るった。

「まぁ、色々ね」

友奈はそんな沙耶の気だるげな返答に、今度は苦笑する。
そして沙耶の机に近くにあった他の机をくっつけると、その上に自分の弁当をドンと置き。
ヘタりきった友人の背をドンと叩いた。

「ははっ、よくわかんないけどお疲れ様!さ、お昼にしよっ。」
「んむぅー……そだね。じゃあとりあえず、拳剛にお弁当渡してくるよ」

そう言うと沙耶は自分の学生カバンをガサゴソとあさり、朝食前に作っておいた弁当を二つ取り出す。
一つは可愛らしい花柄のナプキンに包まれた、ごく一般的な大きさの弁当箱。
もう一つは唐草模様の風呂敷に包まれた、2段重ねの重箱である。
前者が沙耶用、後者は拳剛用だ。
実は朝ごはん同様、お昼ご飯も沙耶が拳剛の分を作っているのだった。その代わり拳剛は家の買出しと、東城家等々力家双方の掃除を一手に担っている。


お弁当を渡そうと沙耶が拳剛を探すと、拳剛は丁度転校生の太刀川 怜に話かけようとするところだった。
太刀川冷、朝の巨乳受身マスターである。

「転校生、ちょっといいか」

拳剛がいつに無く真面目な様子で尋ねる。
注目の転校生(巨乳)に拳剛が声をかけたことで、ざわついていた教室は一気に静まり返った。
クラスメート達の視線が一気に二人に注がれる。

「なにか御用ですか」

対する太刀川は、身長2m、体重120kgの巨漢にいきなり話しかけられても動じることなく、凛とした身がまえを崩さない。
拳剛は他に漏れぬようそっと耳打ちする。

「『昨日』のことで、話がある」
「!?…………わかりました」

その言葉に、平静を保っていた太刀川の表情が一瞬揺らいだ。
二人のやり取りに、沈黙していた教室が打って変わって沸き立つ。

「乳大明神が動いたぞ!」
「拳剛てめえ、東城というものがありながら!」
「出遅れたッ!様子見していたのが仇になったか畜生!?」

「はっはっは、悪いな皆。早い者勝ちだ」

血の涙を流しながら吠える男子達に、拳剛は笑いながら手を振る。
だが沙耶だけは、拳剛の目がまったく笑っていないことに気づいていた。

「拳剛?」
「大丈夫、すぐ戻る」

心配そうに尋ねる沙耶に、拳剛はただ一言、そう言う。
言外に、これ以上訊くなと言っていた。

「………うん。」

故に沙耶は頷くほかない。
そして拳剛は、太刀川と共に教室を出ていった。

「お弁当、渡しそびれちゃったな」

机の上に乗っかった重箱を見て、沙耶はポツリと呟いた。



************************



場面は屋上へと移る。
太刀川と拳剛、対峙する二人。
両者の間にはただならぬ雰囲気が流れている。
少しばかりの沈黙の後、先に口を開いたのは拳剛だった。

「さて、腹を割って話し合いと行こうか。なぁ道場破りの武者殿よ」
「………いつから気づいていた。昨晩は甲冑で顔は見えなかったはずだが」

太刀川の口調が変わる。
その口調、そしてよくよく聞けばその声色も、昨日拳剛が戦った道場破りのそれと同じものだ。
刺すような視線で睨む太刀川に、拳剛は何でもないように言った。

「まぁ実を言えば、登校のときにぶつかった時点で疑ってはいた。あのような身のこなしの者など、そうそう居る筈はないからな。
だから朝の挨拶で確認させてもらったぞ。案の情、昨日の武者殿とお前のはぴったり合致したよ。」
「確認?合致した……まさか貴様」

太刀川の額に冷や汗が垂れる。
拳剛は、二本指で太刀川の胸をビシッと指した。

「乳の形状と、右乳の三つ並びの黒子だな。
あと専門家として言わせて貰えば、おっぱいに無駄な圧力をかけるのはよくない。さらしでなく、サイズの合ったブラジャーを使うことをお勧めするぞ。」
「ままっ、また覗いたのか!?このっ変態が!!」
「この世で沙耶の乳以外に、俺が覗けぬ乳はない。」

重苦しい空気は一気に霧散した。
拳剛は、ニコリと笑ってサムズアップ。一方太刀川は、その巨乳を拳剛から隠すように咄嗟に両手で胸部をガードする。
残念ながら、拳剛の眼力(インサイト)の前では全くの無意味であるが。
その端正な顔を真っ赤に染めながら、太刀川は拳剛を怒鳴りつける。

「胸を張るな親指立てるな!」

が、太刀川渾身の突っ込みスルーし、拳剛うんうんと唸った。

「沙耶の乳は『気』が強すぎるのか、眩しくてよく見えなくてな。ぱっと見は普通なんだが。
一番気になる乳が視れないとは、いや、なんともやり切れんことだ」
「いや別にそんなことはまったくもって聞いていない。」
「うむ?そうか、ならば本題と行こうか」

拳剛は太刀川に向き直る。

「お前をここに呼んだのは他でもない。
道場破りの武者殿が何故この学校に転校してきたのかを聞くためだ」

鋭い眼光が太刀川を射抜く。

「何故お前はここに来た。鍵が欲しいのならば改めて決着を着ければいいはず。
もし沙耶を、俺の友人達を巻き込むつもりならば。その時は容赦せんぞ。」

拳剛は拳をゴキリと鳴らす。

「さあ話せ、お前は一体何者だ。何を企んでいる」

再び空気が張り詰める。
僅かな静寂の後、太刀川は口を開いた。

「それを話す前に、一つお前に伝えねばならないことがある――――――」




*******************




拳剛と太刀川が去った教室は、再び元の落ち着きを取り戻していた。
教室に残ったクラスメート達は食事を再開する。
その中の好奇心旺盛な何人かは、ヘタレ臭漂うイケメン・薄井 エイジと、ツルペタ欧風美少女・風見 クレアに話しかけて色々訊いていた。
ちなみに、髭こと黒瀧黒典はハブられている。怖いもの知らずの高校生達も、流石に推定四十路のオッサンには絡みづらいらしい。

「拳剛君行っちゃったし、お弁当食べちゃおっか」
「あ、うん。そうだね」

拳剛が出て行った後しばらく固まっていた沙耶も、再起動し友奈の提案に頷いた。
あの様子だと、しばらくは帰ってこないだろう。先に食べちゃって問題ないはずである。

「じゃあ私もご一緒させてもらってもいいかしら、東城さん」
「え”っ」

いつの間にかクラスメートの質問攻めから抜け出した欧風美少女クレアが、二人の間に割って入る。
沙耶は一瞬言葉に詰まるが、友奈はその申し出を快諾した。

「いいんじゃない?あたしも転校生の話聞きたいしさ。
あ、あたしの名前は山岸 友奈ね。名前で呼んでくれると嬉しいかな」
「ありがとう、友奈さん。よろしくね」

クレアは二人にお礼を言うと、沙耶たちのところに机をドッキングする。
三人のやり取りを見て、隣にいた残りの転校生組・エイジと黒典も乱入する。

「なら私も仲間に入れてもらおうか、東城沙耶よ」
「俺も頼むよ。えっと、東城さんと友奈ちゃんだっけ?」
「おっしゃー、ドンと来―い!」
「え!?いや、ちょ、待っ……」


沙耶が止める間もなく。
友奈の許可を得たエイジと黒典は、そそくさと自分達の机をくっつけた。
そこで何か気に触ったのか髭面は、イケメンをじろりと一瞥する

「……私に便乗するとはいい度胸じゃないか」
「ひっ!?」

ぼそりと呟く黒典に凄みのある表情で睨まれ、エイジが震え上がる。
髭面は、自分も便乗犯というのは棚上げである。

「そうですよ。私と東城さんの、同志の語らいに水を差すとは、無粋ではないかしら」
「ひいっ!!?」

エイジが今度はクレアの視線にビビる。
どうやらこのイケメンは、雰囲気の通りにヘタレ、というかビビリであるようだった。多少過剰なくらいに。
沙耶にしてみれば、奇人変人であるよりもよっぽどありがたいが。

ちなみに、沙耶はクレアの同志になった覚えは全くない。

震え上がるその姿に溜飲を下げたのか、貧乳はエイジから視線をはずした。
そして自分のお弁当を学生鞄から取り出しながら、今度は沙耶の机の上を見やる。

「沙耶さんもお弁当なのね。あら、でも2つ?」
「見た目によらず大食漢なのかね?」
「ああ、違う違う。こっちのはさっき教室を出て行った大きい奴、等々力拳剛の分だよ」

沙耶は机の上に乗った重箱を指差しながら、クレアと黒典の言葉に頭を振るう。
ごく一般的な女子高生の胃袋しか持たない沙耶には、流石にこの30㎝四方二段重ねの重箱を完食する自信はない。
とっとと本来の持ち主のところに持っていってやらねばならないだろう。
なにやら巨乳ちゃんと内密の話をするようだし、拳剛にこの重箱を渡すのはもう少し後のことになりそうだが。
沙耶の言葉にイケメンが感心する。

「へぇあの巨漢君の分の昼食まで作ってあげてるのか、それだけの量を作るのは大変だろうに。」
「ううん、別にそうでもないよ」

拳剛の弁当は量こそ多いが、中身の八割は米。炊くだけなので、一人分作るのも十人分作るのも大差はない。
それに沙耶が炊事洗濯をする代わりに、拳剛には家の掃除と買い物関係をやってもらっているのでとんとんだ。

「俺なんか自分では作れないし、作ってくれる人もいないからね。昼はこの通り、パン食だ。
――――――誰か作ってくれたりしないかな」

そう言ってコンビニ袋を指差すと、エイジはやれやれと首をすくめ、沙耶と友奈を流し目で見る。

「学食行ったら?」
「え?あ、ああ、そうだね………」

だが友奈の一言に撃沈した。
クレアは不思議そうに首を傾げる

「あの大きな人、等々力君って言うのね。
確か朝、東城さんと一緒に登校していたわよね。二人はいったいどういう関係なの?」
「家が隣の幼馴染だよ。」
「そして内縁の夫婦なんだよね」
「いや、違うから。」

ニヤニヤと沙耶の言葉に付け足す友奈に、ビシリと突っ込む。
沙耶はぽりぽり頭かいて、小さくため息をついた。

「まぁ付き合いが長いのは認めるけどね。生まれたときからお隣さんだったし。」

物心付く前から一緒にいたのであるから、確かに長いことは長い。
だがこんな田舎町では友達は大抵小学校から高校までずっと一緒だ。程度の差こそあれ、付き合いが長いのは普通である。
今一緒に食事している山岸 友奈だって小学校の頃からの友人であるし、長い付き合いはなにも拳剛に限った事でもないのである。
沙耶の言葉に黒典は、ふむ、とその顎鬚を撫でる。

「だが君くらいの年頃の少女ならば、異性の幼馴染などは嫌になるものだと思うが。
なにせ自分のことを一から十まで全てわかっているような相手だ、疎ましくはならないのかね?」
「おお、黒瀧君オトナな意見」

推定年齢四十台。含蓄ある年長者の言葉に、友奈は感心し、沙耶は唸った。

「うー、まあ普通はそうなんだろうけど。―――――私達の場合、色々特殊だから。」

沙耶の拳剛に対する感情は、友人や恋人に対する類の物ではなく、どちらかと言えば家族に対するそれに近い。沙耶自身はそう考えていた
昔から拳剛の両親は出張で家を空けがちだったため、沙耶の祖父がまとめて沙耶と拳剛の面倒を見ることが多かったのだ。
だから普通の友人などより、一緒に過ごした時間がはるかに長い。
あるいは、沙耶の物心つくころには両親が他界しており、血の繋がった家族が祖父だけであったというのも、拳剛を家族と見なした理由の一つかもしれない。

とにかくそれ故に、沙耶は拳剛に対してだけは、恥も衒いも遠慮も無い。
そばにいるのが「当たり前」なのだ。

深く訊かれるのも困るので、そこまでは口に出さないが。

「そういえば黒瀧さんって、私のお爺ちゃんのこと知ってるんだっけ?」

そこでふと、髭面が朝、沙耶の祖父を知っているようなことを言っていたのを思い出した。
沙耶の問いに、黒典は頷く。

「東城源五郎のことか。ああ、彼は一部では有名だからね。知りたいのかい」
「あ、沙耶のおじいちゃんの話なら私聞きたい!沙耶も聞きたいよね」
「え?あ、うん、そうだね」

友奈の勢いに思わず頷く。だがこれはこれでいいかもしれない。
よく考えると、沙耶は祖父のことを直接的には知っているが、祖父が周りからはどのように思われていたのかはよく知らないのだ。
門下生が拳剛一人というところから、沙耶は祖父のことを潰れかけの一門の無名の主と勝手に思っていた。
だが「一部で有名」とか言っていた髭の口ぶりからすると、どうやら違うようだ。
そこら辺のところを知るためにも、第三者に聞けるいいチャンスだった。
相手がこの四十路学ラン男というのが不満だが。

とりあえず、一番気になっていることを尋ねる。

「そもそもおじいちゃんが有名って、一体どんな風に有名なの?」

やっぱり乳狂いとしてだろうか。
黒典は考え込むように顎を撫でる。

「ふむ、そうだな。東城流の先代はその実力もさることながら、おだやかで品行方正な人格者として知られていた。」
「まぁ、素敵なおじいさまね」
「誰だそれは」

沙耶は呆然とつぶやく。
品行方正とか、少なくとも沙耶の知る祖父を形容するのに使うべき言葉ではない。
彼には、煩悩の塊とか乳狂いとか、そういう類の言葉があっている。

「弟子らしい弟子もほとんど取らず、最低限流派の技さえ残ればそれでいいと、そういう考えだったらしい。
だがある時から、彼はまるで人が変わったかの様になってしまったそうだ」
「!?それって、女性の胸にしか興味を持たなくなったとか、そういう?」
「ああ、そういえば沙耶のおじいちゃんておっぱい好きだったよね」

小学校のころからの友人である友奈は得心行ったように頷く。だが髭首を振る。

「いや、そういう話は聞かんな。
私が知っているのは。それまで穏やかで争いなど好まなかった東城流先代が、ある時を境に次々に他流派へと挑みはじめ、その道場の看板を奪って行ったということだ。
奪われた大量の看板は、今も東城流の道場の蔵に保管されていると聞く。取り戻そうにも、蔵は頑丈な錠前で守られていて誰も手が出せないのだとか。
実際はどうなのかね?」

黒典は、口元に手を当てたままじろりと沙耶を見る。
沙耶は少々気圧されつつも頭を振った。

「さ、さぁ。道場のことは拳剛に任せてるから、私には分からないよ」

それは事実だ。今は拳剛が東城流の代表なので、沙耶にはわからない。
家の敷地に重厚な錠前のかかった蔵があるから、もしかしたらそこにあるのかもしれないが。

それよりも、沙耶としては祖父が道場破りをしていたことはという事の方が気になった。
沙耶も彼がそのような事をしていたとは初耳である。
少なくとも、祖父は二人の前では穏やかな人だったのだ。

「そのおじいちゃんが変わった時期って、大体いつごろなの?」
「大体13,4年前というところか。」

夢の中で、道場の掛け軸が「乳」でなかったときと一致する。
やはりあの記憶は間違っていなかったようだ。少なくとも13,4年前は、祖父はまともだったのだ。

「齢60を過ぎた老人が、次々と各地の名のある道場の看板を奪って行ったのだ。当然東城源五郎の名は瞬く間に世に轟いたよ。」

要するに。無名とばかり思っていたが、思ったよりも祖父の名は知られていたらしい。

「なんで沙耶のお爺ちゃんはそんなことしたんだろうね」

首を傾げる友奈の問いに、髭は首を振った。

「さてな。廃れ行く一門が惜しくなったか、はてまた己の持つ力を確かめたくなったか。
あるいは東城流の技をより高みに押し上げようとしたか」

多分そうなのだろう。心眼から内視力へと進化した技がそれを物語っている。
だがやはり、理由がわからない。何故祖父は変わってしまったのか。祖父に一体何があったというのだろうか。
記憶の箱をひっくり返しても、答えは見つからない。沙耶は思わず黙り込む。
微妙な沈黙。
静寂に耐えかねたのか、友奈は何か話題になるものを探しキョロキョロと周りを見渡すと、黒典とクレアのお弁当に目をつけた。

「ふ、二人のお弁当よくできてるね。誰が作ってくれてるの?」

友奈の言葉に、沙耶も二人のお弁当を見る。確かにどちらもおいしそうだった。
クレアのお弁当は洋風で、海老やらなにやらが入っていてかなり豪華である。
一方黒典のお弁当は出し巻き卵や煮物で占められており、家庭的な印象を受ける。

「シェフが」
「妻が」
「え?」

クレアと黒典の答えに沙耶と友奈は一瞬固まる。
シェフってなんだシェフって。というか髭面は妻帯者なのか。
口からでかかるツッコミを耐える。わざわざ藪を突く必要は無いだろう。
一方エイジは何事もないように二人の弁当のぞくと、

「へぇ、確かにおいしそうだ。一つもらいっと!」

卵焼きと海老を二人の弁当箱から奪取し、口に放る。

「お、やっぱりどっちも美味……」

そして言い終わる前に二つの拳が顔面にめり込み、エイジは目にも留まらぬ速さで後方へ吹っ飛んだ。

「汚い手で人の食事に触れないで下さいな」
「小物が、私の愛妻弁当に手をつけるな」
「き、厳しいね二人とも」

ぴくぴくと動くイケメン見て友奈が冷や汗を垂らす。
騒ぎをよそに、沙耶はちゃっちゃとお弁当を食べ終わっていた。

「じゃ、私は拳剛にお弁当届けてくるよ」

空になった自分の弁当箱を学生鞄に突っ込み、重箱を持って席を立つ。
拳剛が太刀川に何の用があったのかは知らないが、流石にもう話も終わっているはずだ。
さっさと弁当を持っていって、あの大食漢の胃袋を満たしてやらねばならない。
沙耶が席を立つと、殴り飛ばされたエイジもよろよろと起き上がる。
顔からちょびっと鼻血が出ていた。

「な、なら俺は保健室に行こうかな、思わぬ傷を負ってしまったからね。悪いけど東城君、屋上ついでに連れて行ってくれないか」
「え?うん、まぁいいけど」

一瞬の思案の後、沙耶は答える。
屋上に行く前に保健室に寄るだけなら、別にたいした手間ではない。
この男はヘタレでお調子者ではあるようだが、幸い髭の人とは違い普通の感性の持ち主のようだ。
断る理由はなかった。

「じゃあ行ってくるね」

黒典とクレアと友奈に別れを告げ、沙耶はエイジと共に教室を後にした。




****************




少し時を遡り、再び場面は屋上の拳剛と巨乳に戻る

「―――――沙耶が狙われている、だと」

巨乳の言葉に、思わず拳剛は眉をひそめる。あまりにも唐突で訳がわからなかった。
誰が、何の目的で、そんなことをしようというのか。
困惑まじりの拳剛の言葉に、巨乳が頷く。

「そうだ。正確には東城沙耶を筆頭とした、お前に関わりの深い者達が、だが」

淡々と言う巨乳に、拳剛は怒気をはらんだ声で問う。

「理由はなんだ、何故俺の周りの者を狙う」
「わからんのか、奴らの目的は私と同じだ。」

巨乳が拳剛一瞥する。一瞬の黙考の後、拳剛は正答へとたどり着いた。

「――――――――狙いは、鍵か!」




*******************



場面は、もう一度沙耶の下へ戻る。

クラスルーム前の階段を下り、目指すは一階の端の端、教室から離れた位置にある保健室だ。
昼休みももう残り少ないし、とっととエイジを届けて屋上に行かなくてはならない。
とはいえ何もしゃべらないのも気まずいわけで。

「そういえば薄井君って、なんでこの高校に転校してきたの?」

適当に話題を見繕って話しかける。エイジはというと、その問いに簡潔に答えた。

「仕事の関係でね」
「仕事?両親の転勤できたの?」

エイジの言葉に沙耶は首を傾げる。
妙な話だ。沙耶たちの住む八雲町ふくめ、この辺りはド田舎だ。近くに転勤で来るような大きな会社や工場は無いはず。
エイジは沙耶の言葉に首を振る。

「いやいや。仕事って言うのは、『俺の仕事』のことさ」
「え?」

学生の仕事は学業だろう。それともアルバイトとかのことを言っているのか。
どういうことか聞こうとする前に、エイジが先に口を開く。

「最近この辺り、事故多いでしょ」
「え?ああ、まぁそうだね」

確か今朝のニュースで工事現場の事故や車の追突事故のことをやっていた気がする。


「この一週間で20件」
「?」
「ニュースで取り上げられた、八雲町近辺で起きた事故の件数さ。報道されていないものを含めれば、その数はもっと増えるだろう。
――――龍脈の穢れの進行は、思ったより速いみたいだ。」

話の意図が良く掴めない。が、どうも雲行きが妙である。
沙耶の額に冷や汗が流れる。
もしかするとこの人も、ちょっとアレな人なのかもしれない。
そんな考えが首をもたげた。

「あの、保健室着いたよ?もう行っていいよね」

保健室の前に着いた沙耶は、エイジを置いてさっさと行こうとする。
が、去ろうとする沙耶の肩をエイジが掴んだ。
細身の彼からは考えられないほど、強い力。離すことができない。
危険を感じた沙耶が叫ぼうとすると、今度は空いているほうの手で口をふさがれ、無理やり壁に体を押さえつけられる。
助けを求めようにも、教室から離れたこの辺りに人通りはない。
エイジは抑揚のない口調で続ける

「だから急いで龍脈の鍵を手に入れなければならないってのに。
護国衛士に加え、目的もわからない第三勢力までが、もうこの高校まで乗り込んできやがった。
東城源五郎が唯一の弟子に託したあれは、何があろうと奴らに渡すわけには行かない。
――――――もう、待ってはいられないんだよ」

エイジの言葉は徹頭徹尾、沙耶には訳がわからなかった。
だが逃げなきゃ不味いということは判る。
沙耶は必死でもがくが、しかし強い力で壁に押し付けられ身動きができない。
ヘタレが何かをつぶやく。聞いたこともない言葉だった、もしかしたら日本語ですらないかもしれない。
まるで何かの呪文のような――――――

そこまで考えたところで、沙耶の意識はぷっつりと途切れた。





嵐が、今まさに二人を呑み込もうとしていた。


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