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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 1
Name: abtya◆0e058c75 ID:d092c0e5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/21 10:01
沙耶の一日は、寝ぼすけの幼馴染の拳剛を文字通り叩き起こすことから始まる。
海外出張で家を空けがちな彼の両親から頼まれた、重要任務である。

「起っきろー拳剛!朝だよー!!」

勝手知ったる幼馴染の家。
沙耶はいつものように拳剛の部屋へ突入すると、寝ぼすけの目を覚まさせるべくカーテンと窓を開け放つ。暖かい光が差し込み、次いで四月のまだ冷たい空気が部屋中を満たした。
一方、部屋の主の拳剛はと言えば、いきなりの光に呻きながら、身長2m、体重120kgの巨体を窮屈そうに縮め、頭から布団を被る。徹底抗戦の構えである。
自前の阿呆みたいな筋肉とふかふかの布団で守られた鉄壁の要塞。こうなればこの巨体はちょっとやそっとでは起きない。
沙耶はやれやれとため息をつきながら、とりあえず頸部と思しき部位に手刀を落とした。

「ぬがっ!?」
「おら起きろー」

ホールドが緩んだ隙に、沙耶はちゃっちゃと布団をはぎにかかる。
拳剛はうぬうぬと唸りながら抵抗を続けているが、そのたびに手刀を入れられ布団をはがれていく。ものの数十秒で掛け布団は完全に沙耶の手中に収まった。
肌を刺す冷たい外気。拳剛は残された敷布団の上で、その巨大な体をダンゴムシのように丸める。
だが侵略の手は止まらない。止めを刺さんと、沙耶は敷布団の端をしっかりとつかむ。

「お、お代官、どうかそれだけは……それを奪われてはもう眠ることができませぬ」
「じゃあ起きなよ、うりゃっ!」

お馬鹿なこと言う寝太郎を無視し、まるでテーブルクロス引きのように沙耶が敷布団を引き抜くと、上に乗っていた拳剛はゴロゴロと転がり、部屋の壁に激突した。
要塞崩壊。残されたのは畳で無残に転がる拳剛のみである。

「よし、終わりっと」

引き抜いた布団を手早く畳む。後は拳剛にチョップの一つでも食らわせて文字通りたたき起こせば、これでいつもどおりに任務完了である。
だがこの日はここからがいつもとは少し違っていた

「あれ、なんだこの傷?」

部屋の端の拳剛を見と、その寝巻きの下から傷がのぞいていることに沙耶は気づいた。
この無鉄砲な幼馴染が傷を負うこと、それ自体はそんなに珍しくない。実際、拳剛が武術の鍛錬で痣だらけになることなどしょっちゅうである。
だがこの傷は普段のそれとは様子が異なった。
近づいて寝巻きをめくってみると、拳剛の上体に幾条もの赤い線が走っているのが確認できた。まるで刃物に切られたような痕である。幸いどの傷も深くは無いが、数が多い。

「しかもこれ多分、最近できた傷だよね」

傷はかさぶたになるかならないかという状態だ。何週間も前にできたものとは考えにくい。少なくとも昨日か一昨日位のものだろう。
拳剛が何をしたのかは分からないが、しかし何かしたのは確実だった。それも刃物を相手にするような危険なことを、だ。
沙耶はびしりと寝ぼすけの脳天にチョップをかます。ついに観念して拳剛はまぶたを開けた。

「うむぅ、沙耶おはよう」
「うん、おはよう。ところで拳剛、この傷はなあに?」

沙耶の清清しいまでの超笑顔。その表情にただならぬものを感じたのか、拳剛の顔から冷や汗がたらりと垂れる。


「何した。吐け。」
「な、何のことだかさっぱりだな」

拳剛の目が盛大に泳ぐ。幼馴染のこの態度が、隠し事があるときのそれなのだということを沙耶は熟知している。
故に、彼女は切り札を切った。

「そっか、朝ご飯はいらないか」
「どうか話させてください」

刹那。その神速の反射神経を以って、拳剛の土下座が炸裂した。
健全な男子高校生にとって、朝ごはんとはすなわち生命線に等しい。それを握られている以上、彼にできるのはもはや無条件降伏のみだった。








そして朝飯中。

「えぇっ、道場破り!?」
「うむ、昨日ポストに果たし状が入っていてな、ちょっと仕合ってきた。」

飯を餌に事の拳剛から真相を聞きだしていた沙耶は、色々と想定外の答えに思わず素っ頓狂な声を出していた。ご飯茶碗持ったままピタリと固まる。

「なかなか腕の立つ武者殿だったぞ。あ、ご飯おかわり」
「あ、うん……ってあれ、『武者』?」

拳剛がずいと茶碗を差し出す。沙耶は我に返り、茶碗にご飯をよそって返そうとするが、寸前で再び止まる。

「もしかして、というかやっぱり。拳剛、武器相手に戦ったの?」
「うむ、いかにも。勝負はつかなかったがな、いい仕合だった。」
「あ、アホーっ!!」
「うむっ!?」

正面で満足げに頷く阿呆に、身を乗り出してチョップする。大して効いていない。というか思いのほか力を入れすぎて沙耶の手の方が痛い。
ひりひりする手をさすりながら、沙耶は目の前のお馬鹿に怒鳴りつける。

「いかにも、じゃないぞ馬鹿!だ、大丈夫なの!?」
「ああ。まあ多少傷は負ったがな、ほら、見ての通りピンピンしているだろう」
「そ、そっか、そうだね。良かったぁ」

ほっと胸をなでおろす。
確かに、拳剛はバットで殴るとバットのほうがへし折れ、トラックがぶち当たればトラックのほうが大破するような怪物である。
ある意味憂慮するだけ無駄というものであるが、それでも幼馴染としては心配なものは心配だった。

「にしても、武器使いが無手に勝負を仕掛けるなんて、畑違いもいいところじゃないか
それに、拳剛も拳剛だよ。何でそんな挑戦受けちゃうのさ」
「挑まれたのだから逃げるわけにも行かないだろう。
仮にも俺は道場を任されている身だぞ、責任というものがある」

えへんと胸をはる拳剛。が、沙耶がジト目で見つめると目をそらした。額に冷や汗が輝いているのを、沙耶は当然見逃さない。

「……本当は剣を使う人と戦ってみたかっただけでしょ」
「うむ。実はそれもある」
「この脳筋め」

俺よりも強い奴に会いに行く、を地で行く男である。もっともこの生真面目な幼馴染の性格からして、責任を感じていたというのも嘘ではないだろうが。

「しかし、その人はなんで東城流なんか狙ったのかな。
一昔前ならいざ知らず、今の落ちぶれたウチの看板なんか狙っても、価値なんかないだろうに。」

東城流もかつては全国に名をとどろかすほどの拳術の名門であった。
しかし時代の流れと共にその勢いは衰え、先代である沙耶の祖父源五郎の手によってがっつり止めを刺された結果、今や門人は拳剛一人。
新たに門下生が入門する気配もなく、道場の命運は文字通り風前の灯である。
このキングコングと戦って、得られるのがこんなちんけな道場の看板一枚だけなのだから、正直割に合わないと言わざるを得ないだろう。
だがそんな沙耶の言葉に対し、拳剛は頭を振った。

「いや、武者殿欲しかったのは看板ではない。俺が先生から受け継いだ、とある品だ」
「とある品?なにそれ」
「うむ?むむぅ、いやそれは……」

拳剛は、沙耶のその問いに今度は露骨に目をそらすと、おもむろにテレビのリモコンに手を伸ばし電源をつけた。
テレビでは丁度全国版のニュースが終わり、地方のニュースが始まっているところだった。拳剛はそれを見てわざとらしく大声を出す。

「やややっ沙耶よ、青南町の工事現場で足場が崩壊したそうだぞ。幸い工事は休みで怪我人はいなかったようだが。
それに浜崎通りの交差点で車の追突事故だそうだ。どちらもウチのすぐ近くだ、最近は事故が多くて怖いなぁ沙耶よ。」
「ねぇ」
「後はなんだ、八雲町郊外の雑木林の木が一晩のうちにまとめて吹っ飛んでいただと?あ、これは俺だな犯人」
「おい」
「お、沙耶見てみろ。このニュースキャスターなかなかの美乳だぞ。右おっぱいの黒子がチャーミングだな」
「おいコラ」
「こっちのコメンテーターのご婦人はと。……も、もしやこれはノーブラか!公共の電波でなんと破廉恥な!録画しておこう」

拳剛、いそいそと保存用と書かれたビデオテープを取り出すと、デッキに差し込み録画を開始する。
沙耶はフルフルと拳を震わせると、そのまま思いっきりテーブルに叩きつけた。拳剛の肩がビクッと跳ね上がる。

「うぅうむっ!?」
「おいコラ拳剛、乳を覗くな話そらすなっ!何よ、その品のことは私には言っちゃまずいの?」
「い、いや、そういうわけではない。しかし沙耶に話すのはちょっとな」
「なんでだよ良いじゃないか、教えてよ。
私のおじいちゃんから貰ったって言うなら、私にだって知る権利はあるだろ!」
「む……」

その言葉とその剣幕に、思わず拳剛は押し黙る。
沙耶には両親の記憶が無い。彼女がまだ物心つくよりも前に二人とも他界したからだ。それ故、彼女にとって血の繋がる家族とは祖父源五郎のみであった。しかしその源五郎も2年前に亡くなり、頼れる親族もいない沙耶は今や一人ぼっちである。
そんな沙耶なのだから、彼女が自分の唯一の肉親が遺したものが何かを知りたくなるのも無理はないだろう。
拳剛もそれを理解している。故に彼はため息を一つ吐いてから、重い口を開いた。

「…………先生が俺に託されたのは、とある『鍵』だ」
「鍵?それって、」

何の鍵と沙耶が続ける前に、拳剛は彼女を制する。そして彼にしては珍しい真剣な瞳で、まっすぐに沙耶を見据えた。

「なんのための鍵かは教えることはできん。
俺の手の内にある間は鍵の詳細については誰にも口外しないと、先生と約束したのでな」
「むぅー…………そっか、じゃあそれは聞かないよ」
「うむ。そうしてもらえるとありがたい」

拳剛は嘘を言わない。特に、今のようにまっすぐに視線を合わせているときは。よくも悪くも眼に出てしまう男なのである。沙耶は長年の付き合いからそれを理解していた。
だからその拳剛が話せないというならば、残念ではあるが、沙耶としてもこれ以上詮索する気は無かった。

「先生は、もしその鍵の存在を知り、なおかつそれを欲しがる奴がいたら。くれてやれと言っていた。ただし条件付だがな」
「それってつまり、拳剛に勝てばその鍵をもらえるって事?
だからその人は拳剛に勝負を挑んできたの?」
「そういうことだ。武者殿が何を思って『鍵』を手に入れようとしているのかは知らんがな。
……あんなもの、極々一部の人間以外には意味の無い物のはずなのだが」
「その人、また来るのかな」

沙耶の問いに拳剛は頷く。

「間違いなく来る。理由は知らんが、武者殿はどうしても鍵が必要なようであったしな。
決着がつかなかった以上、近いうちもう一戦交えることになるだろう」

拳剛は拳をぎゅっと握り締め、その巨体を震わせる。その表情はどこか嬉しそうだ。この男はよくも悪くも喧嘩好きなのだ。沙耶は武者震いする幼馴染のその姿に、少しだけ不安を覚えた。

「……拳剛が強いのはわかってるけどさ、あんまり無茶しないでよ。」
「心配してくれるのか」

拳剛は驚く。このしっかり者の幼馴染ががそういう言葉をかけるのは滅多に無いのだ。
沙耶は俯き、照れながら頷いた。

「そりゃあ、するよ。幼馴染だもん」
「そうか。ありがとう。
沙耶をあまり心配させないよう、俺も心を砕くとしよう」

妙な沈黙が流れる。

「……あっ、まずい!?」
「どうした」

時計見ると、もう学校に行く時間になっていた。話し込んでいて時間が過ぎているのに気づかなかったのだ。急いで家を出なくてはならない。
とはいえまだ家事も済んでいない。拳剛は思わずうなる。

「まだ掃除機もかけていないし風呂掃除もまだだというのに、難儀なことだ」
「時間がないからしょうがないって、家帰ってからやるしかないよ。ほら拳剛、カバン持って!」
「ううむ、仕方あるまい」
「あ、そうだ」

拳剛に向けカバンを放り、自分のカバンも手に取る。そのまま玄関へダッシュしようとした沙耶だったが、突然立ち止まった。忘れ物があったことを思い出したのだ。

「行く前にアレやっとかないと」
「うむ?どうした沙……」
「せいっ!!」

拳剛が言い終わるよりも早く。沙耶は先ほどのニュースを録画したテープをビデオデッキから取り出すと、裂帛の気合と共に踏みつけて粉砕する。

「よし、行くよ!」
「保存用ォ――――――ッ!!!?」
「あっはっは―――――!!」

絶叫する拳剛の手を取り、笑いながら沙耶は駆け出した。





もはや沙耶にはたった一人の肉親すらいない。
それでも彼女は、穏やかなこの日常を愛していた。
こんな日々がずっと続けばいいと、そう願って止まなかった。
だが沙耶は気づいていなかった。
二人の平穏を脅かす者が、すぐそこにまで近づいていることに。



とある場所。長い黒髪を後ろで一つに束ねた両胸チョモランマの少女が、深刻な顔をしている。
「龍脈の汚染が思ったより激しい。早く鍵を手に入れねば。だがそのためにはあの男ともう一度………………うぅ。
あ、もう登校の時間か。……クラスにはうまく馴染めるだろうか」



別の場所。噛ませ犬臭い金髪のイケ面が怪しく微笑む。
「なるほどね、鍵は東城流が守っていたか。龍脈の開放のためにその鍵、俺達が頂くとしよう。
……さて、そろそろ新しい学校に行く時間だね」



また別の場所、上体に起伏が皆無な金髪の女性が、静かに笑みを浮かべる。
「護国衛士さんが動いてくれたおかげで鍵の在処は分かった。後は手に入れるだけ。全ては我等が目的のために。
……あらもうこんな時間、早く行かくてはね。初日から遅刻してしまうわ」



更に別の場所。推定年齢40歳、ラスボス風味の髭面が高らかに笑う。
「革命の時は来た!!待っているがいい鍵よ。お前を必ず我が手中に収めてみせようぞ。
……おや、我が新たな学び舎へ向かう時間が来たようだな。ふふっ、いくつになっても新たな体験には心躍るものだな!」



鍵を巡る戦いが始まろうとしていた。
激突の時は、割と近い。


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