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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 18
Name: abtya◆0e058c75 ID:598f0b11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/14 00:39
己が野望を阻む者を全て排除した黒典は、八雲町の山奥に鎮座するとある神社に来ていた。龍脈の鍵である沙耶も一緒である。意識を失っている沙耶は黒典の肩に担がれている。

「ここが龍の顎(あぎと)……」

一見何の変哲もない古びた社にしか見えないが、黒典はそうでないことを理解していた。境内には大地の底から湧きあがる気が満ち満ちている。この神社一帯が龍脈の力の噴出口なのだった。その場所を指して『龍の顎(あぎと)』と呼称する。

「では作業に移るとしようか」

ここが目的の場所であることを確認した黒典は、龍脈を解放すべくただちに行動を開始した。

龍脈を使用するには、まず龍脈の地上への通り道を塞ぐ『蓋』を外し、次に『龍脈の鍵』を以って大地深くに眠る龍脈の本流を呼び寄せる必要がある。本来ならば『蓋』自体が強力な封印であり、それを解除するのにも多くの手順を踏まなくてはならなかったが、黒典の能力を以ってすればその手順はスキップすることが可能だ。

まず黒典は『黒』を周囲にばらまき、大地から噴き出る力の中心の探索を開始した。『蓋』の正確な位置を確認するためである。おびただしい量の黒の粒子が辺り一帯にしみこみ、周囲の気を浸食していく。
龍脈の通り道を塞ぐ『蓋』とは、物理的なものではない。術によって創りだされた概念的な結界の一種である。術によって構成されているのならば、黒典の『黒』の能力を使えば探し出すのは容易い。ものの数分で、黒典は目的の『蓋』を発見した。
黒典はすぐさま『黒』を使い、『蓋』の封印の浸食を開始する。地の底から吹き出す力を塞ぎ、覆い隠すための堅固な結界であるはずの『蓋』は、漆黒によって染め上げられ、そしてあっさりと崩壊した。
龍脈の噴出口を封じていた『蓋』が排除され、押しとどめられていた力が一気に解放される。瞬間、先ほどまでとは比較にならないほどの力が境内一帯に噴出した。噴き出した高密度の気は金の粒子となって空に立ち上り、さながら天を貫く柱の如き様相をなす。
天空に伸びる柱を見上げ、黒典は思わず感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

「すさまじいな。さてその力、如何ほどのものか試させてもらおう」

言い終わると同時、黒典は立ち上る龍脈の気を浸食すべく、『黒』を発動する。
天を貫く黄金の柱は無数の黒の粒子に取り憑かれ、次第にその輝きを失ってゆき、最後には柱自体が漆黒の粒子と化した。どす黒く染まった柱はついには崩壊し、主である黒典の肉体へと収束される。

「ぐッ……!!」

染め上げられた粒子を己が身体に取り込んだその瞬間、黒典は全身の体液が沸騰するかのような錯覚に陥った。あまりに強すぎる気を一気に体内に取り込んだため、肉体が一瞬拒絶反応を起こしたのだった。だがそれも直ぐに収まり、膨大なエネルギーは完全に黒典の支配下へと置かれる。唯の草木や動物の気を『黒』で喰らって強化したときをも遥かに超えるエナジーが体中を駆け巡った。

「なるほど、これが龍脈の力……」

その恐るべき力に、黒典は知らずの内に唇を吊りあげる。だがこれですら、龍脈の力の極一部に過ぎない。
大地の奥深く眠る龍脈は、そのままでは地上に現出するのは微々たる量だ。龍脈が本来持つ、『世界の理すら歪めるほどの力』には程遠い。黒典の目的を為すためには、龍脈の本体を使う必要があった。流石の黒典の『黒』も、大地の奥深く押しとどめられている力に干渉するほどの射程はない。よって、同種の気の力を呼び水として龍脈の本流を地上に導く必要がある。
同種の気の力、すなわちそれこそが、今回の騒動の中心となった物。沙耶の胸部にある龍脈の鍵である。

黒典は龍脈の顎の中心に、鍵である沙耶を置く。その刹那、沙耶の胸がまばゆいほどの閃光を放った。その閃光に呼応するかのように天は震え、地は鳴動する。沙耶の胸に埋め込まれた鍵にいざなわれ、大地深くに眠る力が目を覚ましたのだ。

そして、地上に存在する全てのエネルギーすら及ばぬほどの圧倒的な力が、沙耶めがけて地下深くから地上へ向けゆっくりと上昇を始める。同時に、黒典の『黒』すら霞むほどのどす黒くおぞましい何かが、その流れに混じって地上へと這いずりあがろうとしていた。





****************




時を同じくして。

「う……ぁ」

全身に走る激痛によって、等々力拳剛の意識は覚醒した。
超音速の竜巻による切創、爆発で飛び散ったつぶてによる割創、圧搾空気弾による挫傷と裂創、そして黒典の拳による座創など、およそ人体が負い得るあらゆる創傷に全身を蝕まれていたために、拳剛は意識が混濁してほとんどまともな思考ができない状況であった。だが命の危機に瀕して、拳剛は反射的に周囲を確認する。その視界に最初に飛び込んできたのは、倒れ伏す自分の傍らに、杖を片手に佇む風見クレアだった。

「気がつきましたか、等々力拳剛」

そう言ってクレアは拳剛の顔を覗き込むと、手に持った杖を拳剛の傷口にかざす。すると杖はまばゆい光を放ち、その光を浴びた拳剛の傷がゆっくりと回復を始めた。

「風見、クレア……お前何、を……?」
「じっとしていて下さい。今、術で治療しています。」

クレアに制されるまでもなく、満身創痍の拳剛の身体は倒れたまま動くことはできなかった。
混濁した思考の中、拳剛は記憶を辿る。エイジに鍵と沙耶預けて決闘に臨んだ事。死闘の末限界ぎりぎりでクレアを倒したこと。そして現れたのが―――――

「……黒瀧、黒典」

瞬間、拳剛の脳裏にその時の光景がフラッシュバックする。現れた黒典、あっけなく打ち伏せられたクレアと拳剛、そして連れ去られる沙耶。
全身の血が沸騰する。拳剛は腹の底から湧き出る憤怒に身を任せ、動かないはずの身体を無理矢理に動かし、立ち上がろうとする。身体の至る所が肉の千切れる音と骨の軋む音を響かせるが、しかし今の拳剛にそんなことはどうでもよかった。

「沙耶ッ!!!沙耶はどこだっ!!!!」

起き上がろうとする拳剛を、クレアの細腕が無理矢理に抑えつける。

「動かないで!貴方の身体は生きてるのが不思議な位の重傷なのですよ!治療が終わるまで大人しく……」
「早く、助けに行かねば……!沙耶が、沙耶がっ!!」

だが拳剛は制止を振り切りなおも立ち上がろうとする。
刹那、拳剛のアゴをクレアの裏拳が打ち抜いた。脳幹を揺さぶる思わぬ衝撃に、拳剛の巨体は力なく崩れ落ちる。

「冷静になりなさい等々力拳剛、その身体で黒瀧黒典を追ってなにができるというです」
「だが、だがッ!!」
「一時の感情に身を任せ、全てを失うつもりですか」

クレアの言葉で、拳剛の中の熱は冷水をぶちまけられたかのように一気に鎮まった。
黒典は強い。少なくともクレアの細腕の攻撃程度で倒れる今の拳剛では、足止めにすらならない。黒典にとっては路傍の石程度にも感じないはずである。そんなことでは、沙耶を助けることなど夢のまた夢だろう。
ぐうの音も出ない正論に、最早拳剛は反論することはできなかった。

「……すまん」
「じっとしていて下さい。時間がないので全快とはいきませんが、せめて戦闘可能なレベルまでは治して見せます」

そうして、拳剛の治療が再開された



数十分後。クレアの懸命な治癒により、拳剛の身体にあった無数の傷はあらかた癒えていた。

「施術完了です。身体の調子は……」

クレアの治療が終わったことを知らせるよりも速く、閉じられていた拳剛の双眸が見開かれる。
拳剛はそのまま全身の筋肉を躍動させて飛び起きると、剛腕を大きく振りかぶり、そして裂帛の気合と共に全力の拳を大地へと叩きつけた。『通し』を伴う拳撃は、衝撃を爆散させて地盤を粉砕し、大地に巨大な地割れを生じさせた。
咄嗟に空中へ飛翔することで難を逃れたクレアは、拳剛の拳撃の痕を見て苦笑を浮かべた。

「問題、ないようですね」
「十分だ、有難う風見クレア」

試し撃ちで自身の傷が十分に癒えている事を確認すると、拳剛はクレアに礼を言う。
クレアの魔法の効果はすさまじいものだった。あれほどの大怪我を追っていたはずの拳剛の身体は、八割方回復していた。流石に全身のところどころに鈍い痛みが残っているものの、戦闘に支障をきたすレベルではない。

「俺はすぐに黒典を追う」
「待って下さい等々力拳剛、鍵を使って龍脈の力を呼び出せる場所は限られています。彼奴が向かったのはおそらく……」
「場所なら分かっている、最短経路で走破する」

拳剛の内視力は既に沙耶の乳を捉えている。黒典によって結界から解き放たれた沙耶の乳の気が放つ鮮烈な光は、遥か彼方にいる拳剛の眼に届いていた。追跡は容易い。
大地に両手を突き、クラウチングスタートの構えを取る。全身の筋肉が膨張し爆発せんとする、その時。

「待って下さいと言っているでしょう」
「ぬおっ」

突風が拳剛の行く手を阻んだ。クレアの『風』だ。思わぬ妨害に、拳剛は思わずいきり立った。

「何をする風見クレア!」
「等々力拳剛、『最短経路』では遅すぎます。『最短距離』を行きましょう」
「おい、それはどういう」

クレアの発言の意図を拳剛が尋ねようとしたその時、拳剛の身体が柔らかな風に包まれ、宙に浮かんだ。まるで重みがないかのように筋骨隆々な拳剛の身体が空を漂う。

「ちょっと苦しいかもしれませんが、我慢して下さいね」
「……なるほどな。よし頼む」

クレアが何をしようとしているのかを理解した拳剛はニッと笑いを浮かべる。
合意を得られたクレアは、高らかに杖を掲げた。強くしなやかな風が拳剛に絡みつく。寸分の狂いなく巨塊の筋肉を固定するその風の渦は、巨大な大砲の砲身だ。

「射角よし!方角よし!」

クレアは杖と呪文を操り、風の大砲の目標を調整する。着弾点は『龍の顎』。砲弾は、拳剛。

「風向きよし……ぐッ……」

術を行使するクレアの口から鮮血がこぼれた。足元に血反吐をぶちまけながらも、手に携えた杖を支えに、クレアは必死に倒れまいとする。

「風見!」
「大丈夫、行けます」

クレアは口元を拭い、拳剛の叫びにはっきりと答える。だが実際、その言葉は空元気でしかない。拳剛の治療をするために、クレアは自身の治療は必要最低限しか済ませていなかったからだ。本来ならば術を行使することはおろか、動くことすら許されぬ身体である。立っているのさえ不思議なほどだ。それでもクレアは倒れない。今この状況で自分が倒れるということがどういうことか、クレアは十分理解していた。
その瞳から彼女の意志の固さを見てとった拳剛は、出かかった言葉を咄嗟にこらえる。額に大粒の脂汗を浮かせながらも、クレアは気丈に頬笑みを浮かべた。

「等々力拳剛」
「なんだ」
「黒瀧黒典は、自らを虚ろなる乳の党と名乗りました。彼奴はこの世から全ての巨乳を消し去るつもりです。
この世から巨乳が無くなれば、ありとあらゆる貧乳は夢を追うことはできなくなる。そこにあるのは絶望だけです。どうかあの男を止めて下さい」
「ああ、任せろ」

風の砲身に全身を固定されながら、拳剛は力強く頷く。

「そしてこれは巨乳党の党首としてではなく、東城沙耶さんの友人としてのお願いよ。拳剛君、どうか沙耶さんを助けてあげて」
「無論だ」

言うまでもないというような拳剛の答えに、クレアは満足そうにほほ笑みを浮かべた。

「では、行きます!」
「応!!!」
「『発射せよ』!!!」

号令が下され、拳剛の身体は竜巻の大砲により超音速で打ち出される。同時にクレアの魔法によって龍の顎まで超音速の気流の道が形成され、筋肉の塊を一気に目的地へと運んだ。

拳剛の姿が夕暮れの彼方へと吸い込まれるのを確認すると、クレアは力なく地面に両膝をつく。そして今にも倒れそうになる身体を杖でなんとか支えながら、口を開いた。

「楓」
「ここに」

党首の呼びかけに応え、その場にいた唯一の巨乳党の党員が姿を現す。一見男性かと見間違うほどに凛々しい容姿のその女性は、拳剛をクレアとの決闘の場へ送り届けた例の執事だった。主に呼び出されたその女性・楓は、淡々と現状を報告する。

「全員、事の顛末はモニターで確認しています」
「そう」
「党首、命令を」

そう言って楓が差し出したレシーバーを受け取ったクレアは、少しの間沈黙した後、その党員への直通連絡回線へむけて宣言する。

「総員、戦闘態勢。目標、龍の顎(あぎと)」

そして万感の思いを込めて、クレアは呼びかける。

「同志たちよ。私をまだ党首だと思ってくれているのならば、どうか共に闘って下さい。全ての乳を守るために」


乳を愛する者たちが立ち上がる。



******


ほぼ同刻。衛士・隠衆連合軍の本拠地にて。
太刀川は全身の痛みと共に目を覚ました。混濁する思考で周囲を確認すると、隠衆の術師によって治療されている最中であった。

「状況は、どうなった……」

治癒術者の制止も聞かず、太刀川は立ち上がる。
視界に飛び込んできたのは倒れ伏す仲間たちの姿。それを目にした太刀川は、自分たちが任務に失敗したのだということを理解する。
愕然とする太刀川へ、一人の男が声をかける。薄井エイジだ。

「おう、起きたかい太刀川」
「薄井、鍵は」

結果など聞かずとも分かっているというのに、太刀川はそれでも聞かずにはいられなかった。太刀川の予想通り、エイジは首を横に振る。

「奪われたよ。隠し部屋はもぬけの殻だった」
「もぬけの殻?」

隠し部屋とは、拳剛の鍵と東城沙耶を隠していた地下室のことだ。エイジの言葉に太刀川は首をかしげる。もぬけの殻と言うことは、つまり黒瀧黒典は鍵を奪っただけではなく、同時に沙耶もさらっていったということだ。
黒瀧黒典の目的はあくまで龍脈のはず。東城沙耶という一般人の少女などは等々力拳剛に対する人質程度にしか使えない。なのに、何故黒典は沙耶をさらったのか。
太刀川の疑問に、エイジが答えを提示する。

「東城沙耶が、龍脈の鍵だったんだよ。いや、正確には彼女の中に鍵が埋め込まれていた、かな」
「!?どういうことだ」
「隠し部屋に設置しておいたカメラに映像が残っていたのさ。東城沙耶の胸部には、視認できるほどの密度の気の力が封印されていた。あれは間違いなく龍脈の鍵だ」
「そんな、まさか沙耶さんが……」

愕然とする太刀川。だがよくよく思い返せば思い当たる節がなかったわけでもなかった。最初に拳剛に龍脈の鍵の話をした時の彼の奇妙な反応は、つまるところ彼の守る鍵が龍脈の鍵ではないということに他ならなかったのだ。先代の鍵の守り手、東城源五郎が鍵を託せる人間が拳剛以外に居ないという思い込みから、そのときの太刀川は真実に気づくことはできなかったが。
エイジはやれやれと肩をすくめる。

「まぁ等々力拳剛に一杯喰わされたってわけだ。東城沙耶を守るために、必死で真実を隠し通そうとしたってことだろうね。もうバレたわけだけど。
そして、その先でアイツが何をやろうとしていたのかも、東城源五郎の晩年の行動を考えれば大体予想がつく」

龍脈の鍵の真実が明るみになった今、かつて年老いた東城源五郎が道場破りまがいのことをしていた理由は、エイジも太刀川も既に察しがついていた。

「これからどうするのだ」
「言うまでもないだろそんなことは。東城沙耶が龍脈の鍵だったとして、結局やることは変わらない。龍脈を守り、そして穢れを祓う。戦える者を連れてすぐに出るぞ」
「おそらく、我々は負けるぞ。それでも行くのか」

黒典の力は強大だ。自陣ので、かつ完璧な布陣で臨んだにも関わらず、たった一人に圧倒されたのだ。再び挑んだところで結果はわかりきっている。
だがそんな太刀川の言葉を、エイジは鼻で笑った。

「おいおい似合わないぜ太刀川、そう言う小物な言葉は俺が言うべきセリフだろうに」
「薄井」
「行くさ。任務は果たす。龍脈の鍵を、東城沙耶を奪還するぞ。でないと、もうひとつの玉まで潰されちまう」

そう言って青い顔で内股になるエイジに、太刀川は笑みを浮かべる。

「そうか。そうだな。行こう、龍の顎へ」

護国の刃が立ち上がる。

********


場面は、再び龍の顎へと戻る。

ゆっくりと地上へと迫る龍脈の力。その顕現を待っていたその時、黒典の感覚が天空より飛来する物体を感知した。
黒典は咄嗟にその方角を確認する。そこには、西に沈まんとする太陽があった。真っ赤に燃える夕日が黒典の瞳を灼く。その灼熱の中に黒の点が一つ。点は見る間に大きくなり、ぼやけた点から次第にはっきりとした形へと姿を変える。
すさまじい速度で迫るそれを視認しながら、黒典は自問する。

「鳥か?いや、鳥にはあのような無骨な両腕などはない、丸太のような両脚などありはしない。
そしてなにより、鳥は少女の名を叫ぶことなどありはしない」

迫る影は、鼓膜を破るような大轟音で絶叫しながら黒典向けて一直線に落下する。
黒典の脳裏に、一人の男の姿がよぎる。その姿が、次第に大きくなる夕日を背負った影と重なった時、黒典はその名を叫ばずにはいられなかった。
三日月形に歪んだ唇が、堂々たる重低音でその男の名を紡ぐ。

「等々力、拳剛!!!」

「沙耶ぁあああああああああああああっ!!!!!」

少女の名を声の限りに叫びながら、拳剛が着弾する。秒速500mで地面に激突した筋肉の砲弾は、爆風を伴ってその衝撃で大地を陥没させ、地盤を粉砕した。
そしてもうもうと立ち上る土煙りの中から、拳剛は姿を現した。

打倒したはずの拳剛が復活し、そして今自分に立ち向かってきている。そのことに黒典は、何故か歓喜の表情を浮かべるのを止める事ができなかった。唇を笑みに大きく歪めながら黒典が問う。

「私とやり合おうというのか、等々力拳剛!!勝てぬ戦いだとわかっているだろうに、何故そこまで必死になる」
「全ての乳のため。そして、ただ一つの乳のため」

ほとんど反射的に、拳剛は答えを返していた。

「行くぞ黒瀧黒典。貴様の野望、粉砕してくれる」

龍脈の守護者としての、友としての、そして一人の男としての。その全ての責務を果たすべく、拳剛は己が両拳を構える。黒典が高らかに叫んだ。

「来たまえ、等々力拳剛!龍脈の守護者よ!!今度こそ本当の決着と行こうではないか!!!」

二人の男の、信念を貫くための戦いが始まる。


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