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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 17
Name: abtya◆0e058c75 ID:598f0b11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/23 23:40
時は拳剛とクレアの決闘が始まる時刻にまで遡る。

沙耶は、現在自分がおかれた状況に困惑していた。

(なんだこれは)

学校が終わり、ちょっと用事があるので一緒に来てくれないかと太刀川に誘われたことがそもそもの始まりだった。ここ数日で太刀川と仲良くなった沙耶には断る理由はない。快く了承して付いて行くと、連れてこられたのは先日の誘拐騒動を思い出すような廃工場えだった。
中には沙耶をさらったエイジと現代風忍者が再び集結していた。今回は全身甲冑姿の侍衆も増えている。その数、総勢60名程度。全員が何らかの武装をしており、さながらどこぞの事務所に殴りこみをかけるかのような緊張した雰囲気だ。この前エイジに誘拐された時を思い出す様な光景であるが、そのときよりもカオス度が遥かに増している。

その混沌たる状況の中で、現在沙耶は甲冑姿の太刀川とお茶をしている真っ最中だった。
また何か厄介事に巻き込まれたのだろうか。そんな不安が沙耶の脳裏をよぎる。しかし今回はエイジと現代風忍者も、前回の時のように沙耶を簀巻きにして地面に放り出すというような暴挙には出ていない。むしろ客分として丁重にもてなされている。
よってそこまで心配することは無いのだろうが、しかしこの状況でのほほんとしていられるほど、沙耶の肝は据わっていない。

「へいへい、どうした東城君、リラックスリラックス」

エイジが落ちつかない様子の沙耶を見て、緊張をほぐしにかかる。だが刃物携えた筋骨逞しい男達に囲まれて緊張するなという方が無理な話である。薄井のおちゃらけたその様子に、沙耶は軽く眉をひそめて尋ねた。

「薄井君、これはどういうことなの?」
「ひ・み・つ」
「片玉潰すぞ」

茶化す様な態度をとるエイジに、慣れない状況に少々緊張気味の沙耶が、思わずドスの効いた声を出してしまったのも仕方のない事だろう。

「お、おおぅ。最早片方しかない玉を躊躇なく粉砕宣言……流石は等々力拳剛の相方」

内股になって顔を青くするエイジ。どうやら悪意があるわけではないらしい。沙耶は思わずため息をつく。

「もう一度聞くけど。なんで私はこんな場所に連れてこられたの?」

今度は甲冑姿の太刀川を見つめて言う。沙耶の口調に、太刀川は申し訳なさそうにあやまった。

「いきなり連れてきてしまって申し訳ありません。実はあなたの身に危険が迫る可能性があるのです。ここに来てもらったのは、その危険から東城さんを守るためなんです」
「危険?」
「ええ、詳しくは話せないのですが。」
「ああ、そうかそういう。わかった、なんとなく予想はついた」

恐らくは拳剛関連だと沙耶は当たりをつけた。どうやら太刀川とエイジ達は好意で沙耶を保護してくれているようだった。エイジだけならばまた悪意を持ってさらわれたのだと考えるが、太刀川がいるならばそれはないだろうと考える。太刀川との付き合いは短いが、沙耶としては友人と呼べる程度には彼女を理解できたつもりであった。

「そっか、助けてもらってるのに失礼な事言っちゃった。ごめん」
「まぁ一度は誘拐されたわけだし、そうなるのも無理はないと思うよ」
「さらった張本人がそれを言うな」

太刀川が刀の柄でエイジを小突く。

「まぁほんの数時間で終わるからさ、ちょっとだけ待っててよ」

やはりおちゃらけた様子で、エイジはそう言うのだった。






*************






「そろそろ、等々力と風見クレアの決闘が始まるころかな」
「仕掛けてくるとなれば今だろうな。気を抜くなよ薄井エイジ」
「分かっているさ、任務は果たす」

太刀川の諫言に、言われるまでもないとエイジは頷いた。このミッションが護国衛士、憂国隠衆双方の目的達成の命運を握っているということは、エイジ自身重々承知している。

これから等々力拳剛と風見クレアが行う、龍脈の鍵をかけた決闘。その決闘に拳剛が勝てば龍脈の鍵は守られるが、クレアが勝てば鍵の封印は解けて彼女達の手中に堕ちる。しかし、拳剛の実力を知る太刀川や隠衆の者達は、拳剛の敗北はまずないだろうと考えていた。
むしろ太刀川達衛士・隠衆連合軍が恐れていたのは、決闘以外の方法、例えば強奪、あるいは人質を取っての恐喝などによって鍵が奪われることだ。現状、巨乳党には対結界・封印の能力を持つ者が少なくとも一人はいることが確認されている。つまり敵は、わざわざ正式な手順を踏んで鍵を手に入れる必要はないということだ。無理に拳剛との決闘に勝たずとも、無理矢理奪って鍵の封印を解いてしまえばそれで事足りる。
よって現在、連合軍の最重要任務は巨乳党による鍵の奪取を防ぐことだった。そのために拳剛から鍵を預かり、更にはもっとも人質として狙われる可能性の高い東城沙耶を護衛している。

「鍵と東城沙耶は死守するぞ」
「ああ」

太刀川とエイジが己の任務を確認しあう。そこに、先日まで争っていた者同士のわかだまりなど存在しない。方法は違えど、衛士と隠衆は共に護国ために行動している者達であるからだ。
二人は無言でこつんと拳を合わせる。

まさにその瞬間だった。突如として工場内に爆音が響き渡った。とてつもない衝撃がその場にいた全員に襲い掛かかる。
それと同時に工場を覆っていた結界が消失したことを、術者であるエイジは察知した。それは先日の隠衆対拳剛の戦いのときに起こった結界消失とまったく同一の現象だった。

「総員、戦闘態勢」

突然の襲撃に、しかし連合軍が揺るぐことはない。第三勢力による襲撃は想定通りの事態だ。巨乳になるという目的だけで衛士や隠衆を越える一大勢力を築いた者達が、よもやその悲願を達成するための保険をかけておかないはずがない。むしろ何もしないという方が考えにくかった。
太刀川の号令に従い、その場の人間は警戒態勢から臨戦態勢にシフトする。それぞれが得物を鞘から抜き放ち、抜き身の刃を構えた。

「等々力拳剛に連絡は?」
「この前携帯を壊していたから無理だろう」

エイジの問いを、太刀川は軽く首を振って否定する。拳剛の携帯は先日エイジが沙耶の携帯から電話をかけてきた後に本人によって衝動的に粉砕されている。よって携帯電話による連絡は不可能だ。もっとも時間的に考えれば決闘が始まっている頃であるので、携帯が無事であったとしても連絡をとるのは不可能であっただろうが。

「東城さんは?」
「大丈夫だ、予定通り隠し部屋に案内した。少なくとも戦闘に巻き込まれる心配はないよ」
「そうか」

その会話を最後に、エイジと太刀川はそれぞれ苦無と刀を構え、爆煙の向こうから来るであろう者達に備える
敵は巨乳党。その規模は護国衛士、憂国隠衆のいずれをも凌ぐ。一体どれだけの数の襲撃者が来るのかはまったく予想がつかなかった。100か200か。あるいは1000人を超える大軍勢ということもありうる。連合軍の緊張は否応なしに高まった。

だが以外にも、爆発の黒煙の中から出てきたのはたった一人の男だった。長身痩躯、八雲第一高校の指定学ランに身を包み、顎と口元に立派な髭をたくわえたその男。
黒瀧黒典である。

「やぁ、ごきげんよう。この国の守護者たちよ。龍脈の鍵を頂きに参上した」

黒典は薄笑いを浮かべ、芝居がかった様子で頭を下げる。想定外の事態に、まず口を開いたのはエイジだった。

「黒瀧黒典か。まさか君一人かい」

その問いはその場にいた全員の内心を代弁していた。護国衛士と憂国隠衆は、国の霊的防衛を担う戦闘集団である。故に、方向性の違いはあれどメンバー全員が超人と呼ばれるにふさわしい実力を有する。その衛士と隠衆の連合軍の元に、黒瀧黒典はただ一人で殴り込んで来たのだ。狂気の沙汰以外のなにものでもない。
だが黒典はエイジの言葉を肯定する。

「ああ、一人だとも。これは巨乳党とは全く関係のない行動なのだから、当然だろう」
「関係がない?」

黒典の言葉は、太刀川達の意表をついたものだった。

「まず、風見クレアの名誉のために言っておこう。彼女は決闘で負けたならば龍脈からは手を引くと決めている。無論、党員達も了承済みだ。故に彼らは風見クレアと等々力拳剛の決闘に、いかなる形であろうとも横槍を入れるつもりはない」
「へぇ、そりゃ潔いことだ。だけど君の行動はまるっきり矛盾していないかい」

黒典は巨乳党に属する人間のはずだ。巨乳党が鍵を拳剛との決闘以外の方法で手に入れるつもりがないというのならば、黒典が鍵を狙って連合軍を襲撃するのは理屈に合わない。黒典は行動と言葉が完全に食い違っていた。
そんなエイジの皮肉を、黒典は小さく首を振るって否定する。

「いいや、矛盾していないさ。私は既に党を脱した」

まぁ無断ではあるがね、と黒典は付け足す。

「私が巨乳党に属していたのは、龍脈の鍵の在り処を知るためだ。それが明らかになった以上、私にあそこに残る理由は無い。最早、我が信念を偽る必要は無いのだ」
「なるほど、アンタ鍵の在り処を知るためだけに風見クレアに与しているフリをしてたのか。案外狡いな」

エイジは理解した。つまり最初から黒典は龍脈の鍵の在り処を知り、それを手に入れるため巨乳党の同志のフリをしていたのだ。

「卑怯者の謗りは甘んじて受け入れよう。だが我が宿願を果たすためなら私は手段を選ばない。雌伏の時は既に過ぎた、今こそ我が信念を貫かせてもらおう」

黒典の全身から漆黒の粒子がほとばしる。それは工場の屋根を突き破って大気を揺らしながら天まで立ち上り、爆散し、四方八方へと降り注いだ。

「改めて名乗ろう。我が名は黒瀧黒典。全ての乳に虚ろなる平等を与える者。すなわち我こそは―――――虚乳党」

空間がどす黒く染まるほどの圧倒的存在感。衛士と隠衆という一級の戦士達と唯一人で相対してなお、黒典の表情には欠片のおびえも恐怖も存在しない。その瞳にあるのは、今にも喉笛を喰い千切らんとする肉食獣の如き危険なきらめきのみである。
その場にいた全員が、黒瀧黒典という男が只者でないことを理解した。太刀川とエイジ、そして衛士隠衆連合は、その怪物に圧される事なく武器を構える。

「貴様の信念などに興味はない。だが鍵を狙うというのならば容赦はせん」
「多勢に無勢で悪いけど、数の暴力で押し切らせてもらうよ」
「数の暴力?」

太刀川とエイジの言葉に、黒典は大きく唇を歪めて嗤う。

「覚えておくといい少年少女よ。有象無象がいくら纏まろうが、絶対的な力の前には無意味であるという事を」


その言葉を皮切りに、戦いの火ぶたが切って落とされた。
まず真っ先に動いたのは憂国隠衆であった。エイジを含む数人の男がそれぞれ印を組み、戦場に無明の闇を生み出す。それは、先日の拳剛の戦いで使用されたものと同一のものであった。すなわち、敵である黒典のみの視界を奪うまやかしの妖術である。
突如として視界の一切を奪われた黒典だが、それによってその口元から余裕の笑みが消える事は無かった。

「ほう、めくらましの術か。なかなか良くできているが、残念ながら」

黒典が指を鳴らす。同時に、彼の全身から立ち上る暗黒の粒子がまやかしの闇を喰らい、結界は雲散霧消する。

「私には通用しない」
「やはり結界は効かないか」

あっさりと先制攻撃が無効化されたエイジだが、それは予想していたことだ。あくまで今の術は確認作業に過ぎない。すなわち、黒瀧黒典の能力が、連合軍が今最も危惧している結界・封印破壊能力であるということを確かめるためだ。

「これで奴が結界破壊の能力者で間違いないな」
「ああ、確定だ。つまりコイツさえ倒してしまえば、もう鍵の封印が強引に解かれることは無いってことだ」

ここで黒瀧黒典を排除しておけば、たとえ龍脈の鍵が強奪されたとしても鍵を守る封印が解かれることは無くなる。連合軍の第一目標が、『鍵及び東城沙耶の死守』から『黒瀧黒典の排除』へとシフトする。

「奴さん龍脈に相当ご執心みたいだし、退く気はないだろうね。丁度いいからここで袋にしてやる」
「奴の能力を考えれば小細工は逆効果だ。正面から斬り伏せる。」
「了解だ。サポートする、行け太刀川怜」

太刀川をはじめとする護国衛士が、黒典目がけて一気に間合いを詰める。全ての攻撃が一撃必殺であり、獲物の命を刈り取る牙。その牙が黒典の全方位から同時に迫る。
黒典が動こうとする。その瞬間、迫り来る衛士たちの陰から無数の鎖分銅が伸び、迎撃せんとする黒典の両腕を絡め取り・拘束する。隠衆の支援攻撃だ。今度はエイジが笑みを浮かべる番だった。

「捕まえた」

衛士達の僅かな隙間を通すように分銅を飛ばすことで、肉の壁で攻撃を隠し、寸前まで黒典に反応させなかった。先日の拳剛との戦闘では様々な要因が重なったため真っ向からの殴り合いとなりその力は十分に発揮されなかったが、本来彼らが戦闘において得意とするのはこういった支援行動である。故にその本領は、前衛部隊である太刀川怜ら護国衛士と組んではじめて発揮される。

「ほう、良いコンビネーションだ」

喜色すら混じる声色で黒典が言う。両腕を封じられ、回避も防御も不可能。この絶体絶命にも思われる窮地にも黒典は泰然自若なる態度を崩さない。

「終わりだ」

太刀川の言葉と共に、黒典の肉体を裂き・突き・抉り・削ぐために、数多の白刃が繰り出される。神速を以って繰り出されるその刃全てをただ無防備に受けることしかできない黒典は、肉体の型すら留めず鮮血と共に絶命する、はずだった。

だが振り下ろされた刀身は、黒典の身体にたった一つの傷すら負わせることはなかった。全ての攻撃は確かに黒典の肉体に直撃したが、しかしその一つとして、黒典の皮一枚も斬り裂くことはできなかったのである。
衛士達の表情が驚愕に染まる。

「終わり、かね?」

射殺すような黒典の眼光に、咄嗟に太刀川は飛びずさる。次の瞬間、黒典は自身を拘束していた鎖を無造作に引きちぎり、周りに群がっていた男達にむけて拳を繰り出した。それは型もなにもない出鱈目な突きだった。しかしその拳速は衛士達の斬撃すらも凌駕する。そしてその攻撃に直撃した衛士は例外なく、堅守を誇る甲冑ごと肉体を拳で穿たれ、工場の端まで吹き飛ばされた。
ギリギリのところで回避した太刀川の背中を冷たいものが伝う。

「成程、言うだけの事はある」

ただ一度の交錯。それだけで、百戦錬磨であるはずの衛士の3割は地に伏していた。

「うげぇっ……なんだよあの堅さとパワーは」

目の前の惨状に、エイジは思わず顔を青くした。真っ向勝負を得意とする衛士の攻撃をものともせぬ防御力、気で編まれた甲冑ごと獲物を粉砕するパワー。いずれもが異常極まりない。おそらく、剛力無双を誇る等々力拳剛ですら、単純な肉体強度では黒典の足元にも及ばないだろう。黒瀧黒典という男は、想像以上の怪物であった。
冷や汗を流しつつ頬を引きつらせるエイジとは対照的に、太刀川は冷静に敵の力量を分析する。

「気の力が桁違いだな」

黒典は拳剛のように筋肉がおおいわけではない。むしろ細身だ。だというのにこの剛力。これはつまり、黒典の気脈の出力が途轍もないということの証拠だった。事実、立ち上る気は物理的な圧力すら伴って場の人間を威圧する。
太刀川やエイジだけでなく、連合軍の誰で一人として、これほどの気脈を持つ人間は見た事がなかった。

「だが逆に言えばそこに隙がある」

つまるところ、黒典はただの馬鹿力だ。そしてその動きは素人同然。ならばいくら速かろうが強かろうが、『武』を修めた太刀川達ならば対応することは可能だった。それに、気の力で刃が通らないと言っても全身がそうであるわけがない。気脈による身体の強化は、身体の本来の能力を強化する形で行われるからだ。瞳や口といった、元々脆い部分には攻撃は通る。
勝算は十分あった。

「突き崩すぞ」

太刀川の号令に従い、再び連合軍の攻撃が開始される。
黒典は驚異的な身体能力を持つ。迂闊に密集すればまとめて倒される。よって、先ほどのように全員で同時に決めに行くことはしない。連合軍は人数で勝る事を盾に、一撃離脱を断続的に繰り返す。狙うのは攻撃の通るであろう部位のみである。両眼、口、あるいはうなじや金的といった、元々の肉体強度が低い急所だ。
連合軍は黒典を囲うように陣形を取り、全方位からヒットアンドアウェイを繰り返す。

一方黒瀧黒典はあえて積極的に攻勢に出ることなく、防戦に徹していた。間断なく襲い来る攻撃の全てをその超絶たる反応速度を以って回避する。眼球を抉らんとする切先を首だけで避け、腱を断とうとする一閃を踏みつけて受け止め、喉元を抉らんとする刺突を両の指で受け止める。歩法もなにもない無茶苦茶な動きであるが、それでも太刀川達の攻撃はかすりすらしない。それどころか、離脱が遅れた者には甲冑ごと肉を抉る怪力で力任せに殴りつけることさえしてみせる。そこには多対一の状況で追い詰められている様子など欠片も見当たらなかった。その余裕たるや、この死闘を楽しんでいるようにさえ思えるほどである。

「どうした諸君、これでは私を打倒することなど永久に出来はしないぞ」

黒典が哂う。その言葉が示す通り、戦いが始まってから黒典は一つも傷を負っていない。一方連合軍は最初の一合で味方が数多く削られ、現在も黒典の反撃により一人また一人と倒れていっている状況である。
しかし黒典の嘲笑に、逆に太刀川は不敵にほほ笑んだ。

「いや、そうでもないさ」
「強がりかね、それとも何か策があるのか」

太刀川と会話する黒典に衛士の一人が背後から這うように迫り、その金的目がけて太刀で斬り上げる。しかし、黒典は超速反応を以ってその攻撃をたやすく感知し、あっさりとその斬撃を足で受け止めた。

「背後から襲ったところで意味もないのは、もはや分かり切っているだろうに」
「片足、浮いたな」
「なにを言って……」

黒典が太刀川の言葉を聞き返すより速く、今度は別の衛士が黒典の膝裏の関節部に斬撃を叩きこむ。その攻撃自体で絶大な気の力で守られた黒典の肉体が傷つくことはない。故に黒典はその攻撃を感知しつつも、防御も回避もしなかった。しかし膝の稼働方向に加えられた衝撃によって、片足立ちだったその身体は大きく後ろへとのけぞることとなる。

「ぬっ」

そのとき、初めて黒典は連合軍の狙いに気がついた。だがすでに遅い、嵌める型は既に完成している。
今度は正面から、4名の衛士が黒典向けて突貫する。黒典は迎撃しようとするが、片足で後ろにのけぞった状況では、いくら超絶なる膂力を持とうともまともな攻撃ができるはずもない。拳を繰り出すも、撃破できたのは突っ込んできた内の2人のみ。辛くも迎撃から免れた残りの衛士二人は、黒典の首に両サイドから腕を回し、そのまま敵の大きく反った上体を全力で地面に叩きつけた。同時に倒れた黒典の両腕を抑え込み、動きを封じる。
地が陥没するほどに強かに背面を打ちつけられ押し倒されたた黒典だが、やはりその肉体にはダメージはない。また、両腕を屈強な戦士に押さえつけられていようとも、一瞬あればそれ以上の剛力でその拘束を外すことは黒典には可能であった。
拘束を外し、立ち上がり、迎撃の体勢を整える。わずか一瞬有ればそれが適う。だがその一瞬を太刀川が与えるはずがなかった。

「黒瀧黒典、覚悟ッ!!」

神速の跳躍で間合いを詰めた太刀川が、黒典の眼球向けて太刀を突き下ろす。
太刀川の一閃は黒典が拘束を解くよりも速く、その頭蓋を穿つだろう。両腕の拘束を外さねば脳が貫かれ、拘束を外しても脳が太刀川の攻撃を回避できずに貫かれる。
よって、黒典のとった行動は至極単純だった。すなわち、回避と迎撃を同時に行ったのだ

「ぬぅん!!」

裂帛の気合いと共に、黒典は両腕の衛士を力任せに太刀川めがけて叩きつけた。太刀川の刃の切先は黒典の眼球を貫く代わりに、二人の戦士の肉を抉り、さらに彼女の身体は二つの肉塊をぶつけられたことにより大きく体勢を崩した。

「しまっ……!!?」
「惜しかったな、太刀川怜」

その刹那の間に体勢を立て直した黒典は、拳を大きく振りかぶる。その腕にこめられた気の力は、二人の衛士と太刀川をもろともに粉砕してなお余りあるほどのものだ。太刀川の脳裏を死の一文字がよぎる。

「さらばだ、護国の刃」

黒典の全身全霊を込めた一撃が、太刀川向けて振り下ろされる。
まさに、その瞬間だった。

「ああ、さよならだ。ただしお前がな」

音もなく、匂いもなく、熱もなく、影もなく、空気の震えすら伴わずに、薄井エイジは黒瀧黒典の背後に現れる。
これがさきほどまでの黒典であれば、なんなく反応してエイジは肉塊と化していただろう。しかし今黒典は、太刀川という己が命を脅かした脅威に向け全神経を集中させていた。その差が、黒典の反応を僅かに鈍らせた。

「ッ!?」
「おやすみだ、黒瀧黒典」

黒典が回避行動に移るより速く、その頭部をエイジの指が叩く。
瞬間、黒典の意識は幻にとらわれた。その全身が脱力し、再び大地へと倒れる。
薄井エイジは触れさえすれば相手を幻の中に落すことができる。そしてこの幻術は結界や封印と異なり、相手の脳内に直接作用して効果を発揮する。黒瀧黒典の結界・封印破壊能力では、この術を解くことは不可能だった。
とはいえ、等々力拳剛のような例もある。幻術にかけたからといって安心はできない。止めはきっちり刺しておく必要がある。

「太刀川怜」
「わかっている」

エイジと太刀川はそれぞれの得物を構え、力なく倒れる黒典の眼球めがけて刃を振り下ろした。



そしてその刃が黒典の瞳を抉らんとしたその瞬間、黒瀧黒典の全身からどす黒い粒子が噴出した。
すさまじい闇色の粒の奔流は、物理的な衝撃を伴い二人の戦士を弾き飛ばす。

「くっ!?」
「なッ!!?」

宙高く弾きあげられた二人は、すぐさま空中で体勢を立て直し着地する。おのおのが今起きた現象を確認しようとするが、しかし黒の粒子が辺り一帯を覆い、視界が開けない。

「一体、なにが……?」
「太刀川、右だっ!!!」
「ッ!!?」

太刀川のすぐ横で、黒の靄の中で僅かに動いた影を確認したエイジが即座に叫ぶ。だが太刀川がそれに反応する前に、黒の粒子を突き破って現れた拳が、太刀川の鎧を貫いて鳩尾に抉り込まれる。
肋骨が粉砕する音を感じながら、太刀川は工場の端まで殴り飛ばされた。

「見事だ、護国の刃達よ」

漆黒の粒子の織りなす巨大な柱に包まれながら、目覚めた黒瀧黒典がゆっくりと姿を現した。
それはありえない光景だった。エイジの顔から色が失われる。

「おいおい、まさかあの極僅かな時間で幻術を解いたのか」

エイジは確かに黒典を幻術に落した。それは間違いない。そして、黒典に止めを刺す刃を振り下ろすまでは十秒も間はなかった。つまり黒典は、その僅か数秒の間でエイジの術を破ったということになる。これはあり得ないことだった。
エイジの困惑を見透かすかのように黒典は頬を歪め、そして訂正した。

「解いた?違うな、『浸食』したのだ」
「浸…食?」
「そうだ」

茫然と聞き返すエイジに、黒典は満足げに頷く。

「諸君は私の能力が『結界破壊』と『超出力の気脈』の二つだと思っているようだが、それは間違いだ。私が有する能力はたった一つ。『気の浸食』だ。
私はこの力を『黒』と呼んでいる。あらゆる気脈はこの黒の粒子に浸食され、我が支配下に置かれる」


『気』は生けとし生ける者全てが持つ力、生命エネルギーの発露だ。人間だけにとどまらず、草木や獣、あるいはこの星自身も宿している。そのポテンシャルは絶大だが、実際に運用できるのは自分自身の気脈のみである。他の生命体の気力を自分の物として扱うことは非常に難しい。
この原因は気の力がその生命体固有の形質を持ってことに由来する。気はそれぞれ固有の波長のようなものを持っており、自身の気脈の波長とは異なる形質を持つ気脈は扱うことができないのだ。
だが黒典はそれに当てはまらない。彼の能力は他者の気の波長を自分の気の波長に合わせる事ができ、それによりこの世にあふれる気の力を無制限に使用することができる。更に、妖術や魔法等といった気から構成される術も自らの支配下におけるわけだ。

(はっ、理不尽極まりないな)

エイジは怯えるのを通り越してあきれ果ててしまった。要するに黒典は燃料タンクがガソリンスタンドと直結したF1カーのようなものだ。フルパワーハイパワーで永遠にエンジンを駆動し続ける事が出来る。その上あらゆる術や魔法を無効化し、自身の気力に変換することができる。まさしく無敵の能力。魔王とでも形容するのが相応しいか。

「主力は堕ちたが。まだやるかね諸君」
「誰が、堕ちたと?」
「ほう」

黒典が声のした方を見やる。太刀川がよろめきながら立ちあがっていた。黒典は笑みを深める。

「私の攻撃を受けてよく立ったものだ。だが無理はしない方がいいな。先日の隠衆との戦いでの負傷はまだ完全には癒えていないのだろう?全快していればあるいは、私に手傷程度は負わせることができたかもしれないがね」

黒典の言葉に太刀川は否定を返し、エイジもそれに続いた。

「我らは護国の刃。この程度で退くわけがあるまい」
「流石に腕の一本ぐらい落としとかないと、奴に面目が立たないかな」

衛士と隠衆の士気は下がったが意志は折れていない。元より国の守護に命を捧げた者達。絶対に敵わぬ敵と相対した程度で今更怯むはずもない。
黒典の唇が吊りあがる。

「その意気やよし」

そして、勝敗の定められた戦いが始まった。





*********





「傷を負うのは、久しぶりだな」

自分以外に立っている者がいなくなった工場内で、黒典は誰に言うでもなく呟いた。数十名の戦士たちは、今は全員力尽き地に倒れ伏していた。
戦いの中で、黒典の右腕には鈍い痛みが蓄積していた。ダメージともいえぬそれを、賞賛の意をこめてあえて『傷』と言った。

「天晴れだ、護国の刃達」

その言葉を最後に、黒典は目的の物があるであろう場所へ向けて歩き始める。

黒典の『黒』は先ほどの戦いで周囲に広く拡散されていた。それを通して、黒典はこの付近にあるものを大まかに把握している。例えば、この工場内に窓がいくつあるかだとか、出入り口は何か所あるかだとか、あるいは隠し扉がどこにあるかだとか。

「ここか」

黒典は工場の端にある廃材の置かれた区画に着いた。よく見れば、廃材の下に鋼鉄製の扉があることがわかる。黒典は無造作に床を踏みつけた。轟音と共に床は粉砕され、その下に隠されていた地下への階段が顕わとなる。
階段を下っていくと、頑丈な鋼鉄製の扉で閉ざされた部屋があった。再び黒典は扉を蹴破る。
部屋の中に居たのは、黒典も知っている少女・東城沙耶だった。

「あれ、髭面さん。何でこんなところに……」
「悪いが眠っていてもらおう、東城沙耶よ」

沙耶が言葉を言い終わるより速く、黒典の手刀が沙耶の意識を刈り取る。意識を失った沙耶は、力なく床に倒れ伏した。
黒典部屋の中を見回すと、部屋の端に金庫があるのを見つける。重厚な扉によって守られたそれを黒典は拳撃によって粉砕し、中におさめられていた物を取りだした。古びた巾着袋の中に入れられていたそれは、拳剛が連合軍に預けていた鍵である。

黒典は無言で『黒』を発動させ、拳剛の鍵に施された封印を解除にかかる。おびただしい量の黒の粒子が封印へと吸い込まれ、そしてそれを破壊する。鋼の引きちぎれるような音と共に中から現れたのは、龍脈の鍵などではなく、小さな鉄の鍵だった。

「やはり、な」

だが黒典は驚いた様子はなく、むしろその事実にかえって納得した様子であった。黒典は、最初から拳剛が龍脈の鍵を持っていないことに気づいていたのだ。
黒典の能力『黒』は、あらゆる気の力を察知し浸食する。それ故、黒典は拳剛の内視力ほどではないにしろ、気脈の流れを感じ取ることができる。故に、拳剛の持つ鍵の中に、気の力が存在しないことはいち早く察知していたのだった。
そして黒典には、本物の鍵がどこに存在するのかも大よその予想が付いていた。

「等々力拳剛の鍵は偽物だった。しかし東城源五郎に龍脈の鍵を託せる様な人間は他にはいない……ただ一人を除いては」

黒典が再び『黒』を発動させる。黒の粒子が襲い掛かったのは、沙耶の胸部だった。
黒典は拳剛の鍵に気の力がないのに気付くとほぼ同時期に、東城沙耶の胸に何らかの隠蔽用の封印が施されていることに気づいていた。その封印を黒典の『黒』が浸食する。
無数の暗黒が沙耶の胸に吸い込まれ、鉄の鎖が軋むような音を上げる。数秒後、封印は完全に浸食され砕け散った。
それと同時に、まばゆく輝く光が沙耶の胸に現れる。それは、実体化するほどに超高密度に圧縮された、気の力の結晶であった。


「ようやっと見つけたぞ、龍脈の鍵よ」


少女の胸に秘められた秘密が今、白日のもとに晒された。






**********






そして時刻は再び、拳剛とクレアの決闘が終了した時刻に戻る。

「沙耶を離せッ!黒瀧黒典!!」
「我が悲願を叶えるための鍵、手放すとでも思うか?
……忠告したはずだ、我が友・等々力拳剛。君の敵達は手段を選ばぬとな」

その言葉に、拳剛は黒典が全てを知っている事を理解した。拳剛は絶句する。

「何故だ。何故、気づいた」
「私も君ほどではないが気の力には敏感でね。君の持っていた鍵の中身が龍脈の鍵でない事は最初から気付いていた。君が鍵の持ち主でないとなれば、おのずと答えは決まるだろう。
君と風見クレアの決闘までは、義理を立てて行動は起こさなかったがね」
「沙耶さんが、本当の龍脈の鍵だったのですね」

いつの間にか起き上がっていたクレアが、茫然とつぶやいた。黒典の言葉で、クレアもまた全てを察したようだった。

「おや、随分と落ちついた様子だが『党首殿』。いいのかね、等々力拳剛は君を騙していたのだぞ?」

その台詞に、拳剛は顔を伏せる。黒典の発言はあまりに正鵠を射ていた。拳剛は唯の鍵を龍脈の鍵を偽っていた。もちろん負ければすべての嘘は明るみに出て、消去法的に沙耶が本物の鍵を持っていることは判明していただろう。だがそれで偽りが許されるわけではない事は拳剛自身が重々承知していた。
だがクレアの答えは淡々としたものだった。

「私は負けたのです。龍脈の鍵を懸けた戦いで、鍵の守護者と全霊を以って戦い、そして敗北した。本物の鍵がなんであれ、最早私に龍脈の力を手にする資格はありません。
私には本当に許せないのは貴方です、黒瀧黒典」
「何に怒る。私が真実を隠していたことにかね?」
「いいえ、それは違います。黒瀧黒典、信念の在り様はどうあれ、貴方は巨乳党のためにその力を尽くしてくれました。貴方は同志では無かったかもしれませんが、少なくとも私たちの仲間ではあった。だから、貴方が信念を偽っていたのは赦しましょう。貴方にも貴方の事情があったのでしょうから」

瞬間、クレアの表情が憤怒に染まる。

「私が許せないのは、あなたが我らの決闘を穢したことです。横から鍵を奪い去り、我らの信念の死闘を茶番劇に仕立て上げた。到底許せる事ではありません」

決闘の勝者である拳剛の手に収まるべき龍脈の鍵。それが今、一人の男によって奪われた。命と信念を懸けて戦ったからこそ、クレアにはそれが許せない。

「黒瀧黒典、私は巨乳党党首として貴方を断罪します」

クレアの台詞に黒典は唇を歪めてほほ笑んだ。

「やめておいた方がいい。二人ともまともに動けるような身体ではないだろう?よもや、そのような満身創痍で私に勝てるなどとは思ってはいまい」

黒典から黒い粒子が立ち上る。闇色の粒は、囲に拡散し、再び黒典の身体へと収束する。同時に黒典の全身から突風を巻き起こすほどの途轍もない気がほとばしる。
その波動を肌で感じながら、満身創痍の二人は杖と拳を構えた。

「等々力拳剛。彼は、黒瀧黒典は他人の気を喰らいます。気を放出さえしなければ、少なくとも自分の気を浸食されることはありません。内気を練って対応して下さい」
「成程、それが奴の能力か」
「ええ、凶悪な力です。気をつけて下さい。彼の本気は私にも……」

その瞬間、クレアは一瞬にして間合いを詰めた黒典に殴り飛ばされる。ゴム毬のようにバウンドしながら弾き飛ばされたクレアは、岩壁に叩きつけられてそのまま意識を失う。拳剛との決闘でのダメージは、黒瀧黒典を相手にするにはあまりにも重すぎた。

「おしゃべりとは随分余裕だな。」
「風見クレアっ!!?」
「次は君だ、等々力拳剛」

黒典の猛攻が拳剛を襲う。それは単なるがむしゃらな突きの連打だった。だが速い。左腕が折れ、片腕だけで受けているとはいえ、内視力による先読みをする拳剛が対応しきれない拳速だ。
黒典の拳撃の嵐に拳剛は遂に一撃を受け損ねる。轟音を立てて衝撃波を伴い、拳剛の腹部に黒典の拳がめり込んだ。拳剛の口が鮮血を吐きだすのを見て、黒典は哂う。

「まだやれるかね?いいのが入ったが」
「入ったんじゃない、入れさせたのだ。」

瞬間、拳剛は腹筋を以って腹部に刺さる黒典の拳を締め上げる。そして残った手を左腕で押えこみ、黒典の両腕を封じた。

「これで動けんな」
「やるな、肉を切らせて骨を断つというわけか」
「貴様は骨が断たれる程度で済むと思うなよ」

拳剛の右腕が唸る。『通し』を伴う無数の拳打が黒典の全身を襲う。その一撃一撃が必殺の拳。標的の肉を抉り骨を砕き内臓を爆発させる魔弾だ。常人が喰らえば人の形すら残らないだろう。
拳剛の唯一の誤算は、黒瀧黒典は常人ではなく、怪物だったということだ。

(効いていない……ッ!!?)

拳剛の表情が驚愕に染まる。拳剛の必殺の拳の連打に対しても、黒典はほぼ無傷だった。傷らしい傷など、頬に一筋鮮血が垂れているのみである。

「見事な連打だった。少し効いたよ―――次は私の番だな」

その言葉と共に、押さえつけられている黒典の両腕が膨張した。拳剛が抑えきれないほどのパワーによって、即座に拘束は外される。

「そら行くぞ!!」

無造作に放たれた黒典のアッパーが拳剛の顎を抉った。ただ一発の突きによって、拳剛の120kgの巨体が軽々と宙を舞う。

「さらばだ等々力拳剛。私は私の道を往く」

黒典のその言葉を最後に、拳剛の意識は闇に沈んだ。
愛する少女を守れなかった絶望をその胸に溢れさせながら。

「さ……や……」


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