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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 10
Name: abtya◆0e058c75 ID:4760e2f6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/03 21:29
夢から目覚めた沙耶がまず最初にしたのは、現状の確認だった。
(おもに拳剛との付き合いによって)鍛え抜かれた状況把握能力が惜しみなく発揮される。
まず最初に自身を確認。とりあえず、両手両足はがっちりと縛られていた。その上で身体はコンクリの床に無造作に放り出されている。おおよそ花の女子高生にするような仕打ちではない。訴えたら勝てるレベルである。
続いて周りを確認する。どうやら沙耶が今居るのはだたっ広い部屋のど真ん中のようだった。ドラム缶やらコンテナやらが乱雑に置かれているところをみると、どこかの工場の中なのかも知れない。
そしてその工場のど真ん中で転がる沙耶の周りを、黒子姿の者たちが囲っていた。各々がナイフや短ドスなどの何らかの武装をしており、その姿はさながら現代版忍者と言った風貌である。法治国家日本っぽくない光景だ。この人たちは戦国時代からタイムスリップでもしてきたのだろうか。逆戦国自衛隊か。

これはもう、ちょっと命の危機を感じるレベルでヤバい状況だ。沙耶の口から思わずため息がもれる。
しかしながら一方で彼女が、まぁなんとかなるんだろうなぁとか思っていたのも事実だった。

何故なら、アレがもうすぐそこまで迫っていたからである。



「沙耶ぁあああああああっ!!!」

絶叫とともに天井をぶち抜き空から飛来する影。拳剛だ。額に青筋を浮かべ、太眉を大きく吊り上げて、さながら仁王様のような憤怒の表情で沙耶めがけて落ちてくる。その横には一体全体どこの誰なのか、時代錯誤の甲冑を着込んだ鎧武者も一緒に付いて来ていた。

拳剛と鎧武者が沙耶の元へと一直線に突っ込む。
突然のことに不意を突かれたのか、黒子たちの身体は一瞬だけ硬直する。
それは瞬きするよりも僅かな時間であったが、二人にはそれで十分だった。コンマ零秒以下の交錯にて、拳で剣でしたたかに、ド突き、凪ぎ、殴打し、打ち据え。沙耶の半径3メートル以内に居た黒子を問答無用にぶっ飛ばす。
最後の一太刀を打ち抜きざま、鎧武者が叫んだ。

「一人そちらへ抜けたぞッ」
「ちいっ!」

そう、敵もただやられるだけではない。吹き飛ばされる黒子に隠れるように、撃破されなかった付近の黒子を走らせていた。黒子は交戦のわずかな隙を突き、転がる沙耶の元へ駆け寄ると、その身体を引き上げ羽交い絞めにし、ナイフを突き付ける。
すぐさま突っ込んで行こうとする拳剛を、黒子が沙耶を盾にするようにして制した。

「止まれ!人質がどうなっても……」

だが拳剛は聞かない。代わりに沙耶に向け一言だけ叫ぶ。

「動くなよ沙耶!」
「りょーかいっ!」
「おい、止ま」

拳剛は制止を意に介すことなく一息に間合いを詰めると、黒子がナイフを人質に突きたてるよりも速く、「沙耶の」胸部に掌打を叩き込む。
一瞬の後。沙耶ではなく、背後で沙耶を羽交い絞めにしていた黒子が、内側から爆ぜるような音とともに吹っ飛んだ。どういうわけか直接食らったはずの沙耶はケロリとしている
それが東城流の「通し」によって起きた衝撃の貫通だと理解していたのは、その場では拳剛と沙耶の二人のみであった。
「通し」とはすなわち、衝撃を与える対象を自在に取捨選択する技術である。かつての東城流の拳士はこの技をもって甲冑を着込んだ武者の臓腑を粉砕したというが、先代により昇華された技を以てすれば今沙耶と黒子にしたように、打点より離れた一点にのみ衝撃を集中させ、それ以外には全く負担をかけないという離れ業も可能なのであった。

拳剛は解放されて倒れそうになる沙耶をその分厚い胸板で抱きとめると、すぐさま彼女を縛るロープ引きちぎる。

「無事か沙耶!」
「うん、まぁ大丈夫」

パンパンと服に付いたほこりを払いながら、若干余裕を持って沙耶は答える。コンクリートの床で寝かされていた為少しばかり身体は痛んだが、怪我はなかった。
もっとも状況はさっぱりわからなかったが。一般的な女子高生と比較すれば、いわゆる荒事というものには非常に頻繁に関わってきた沙耶であったが、その彼女の経験を以てしても今の状況を十全に理解しきるには足りなかった。
無論拳剛の方も沙耶のその困惑は理解していたが、だがここは敵地。説明している暇はないのである。ゆえに沙耶が口を開くよりも早く、その華奢な体を担ぎあげる。

「わっ、ちょっ、拳剛!?」
「話は後だ、とにかく今は脱出する」
「先に行け等々力、殿は任せろ」

鎧武者は周囲を囲む黒子を牽制しつつ、厳つい外見にそぐわぬ涼やかな声で叫ぶ。

「すまん、頼んだ太刀川!」
「太刀川って……え!?転校生の!?」

最強巨乳受け身マスター。だが確かに言われてみればあんな声だった。なんつー格好をしているのか。沙耶は思わず目を疑った。
全身を緋色の大鎧に包み、手には真剣。職質を受けたら一発で捕まる恰好である。というか刀はともかく、鎧はどうやって持ってきたのだろうか。

「行くぞ、しっかり捕まっていろよ」
「う、うん」

沙耶の戸惑いよそに、拳剛は天井に空いた大穴向けて跳躍する。
黒子達がそれを追おうとするも、太刀川に牽制され動くことが出来ない。

その時どこからともなく声が響いた。

『逃がすと思うかい?』

その声にわずかに遅れて、何かに気付いたかのように太刀川が叫ぶ。

「!?まずい等々力、結界が復活した!!」
「ぬうっ!?」

忠告は、だが少しばかり遅い。
既に弾丸の如き速度で跳躍した拳剛は、光の粒子の壁によりその行く手を阻まれていた。うっすらと輝く半透明の壁が、紫電と火花を散らしながら拳剛の勢いを止める。
数秒の拮抗の後、完全に速度を殺された拳剛は沙耶もろともにはじき返され、地面へと叩きつけられた。

『まさか結界が破られるとはね。折角人質までとったっていうのにさ』

再びどこからか声が響く。
沙耶はその声に聞き覚えがあった。この状況の、おそらくは元凶であろうその人物。

「その声、やっぱり薄井君!」
「ウスイ…….転校生か!そうか、貴様も鍵を狙う者だったか!」

拳剛はむっくりと起き上がりあたりを見回すが、しかし声はすれど姿は見えない。少なくとも工場内に居るのは間違いないだろうが、内視力で捉えられないところをみると、どうやら薄井エイジは相当な隠行の使い手らしかった。

『そうだよ?ま、一手目は残念ながら失敗したけどね。
まさか普通に強襲して人質を奪還しようとするとは、こっちとしてもちょっと予想外だったよ。てっきり陽動作戦でもとるものかと思っていたけど、まさかただ上から突っ込んでくるとはねぇ』
「見事な作戦だっただろう?」
「そういうのは作戦とは言わないよ拳剛」

上から突っ込むとか、単なる突貫である。
というか、頭の切れそうな太刀川もいたのに何でそんな行動に出たのか。もしかして彼女も脳筋ということなのだろうか。沙耶の中で太刀川の分類が拳剛と同じところに配置された。本人が知れば不本意極まりないだろうが。
エイジは続ける。

『ま、人質は駄目だったけど、鍵を持つ君がこの場所に来てくれた時点でもう思惑通りではあるんだよね。下手に二手に分かれたりしなかった分、こっちとしては有難いぐらいだ。
………なんたって、後は奪うだけなんだからね』

その瞬間、場の雰囲気が一気に変わった。肌を刺すような空気があたりを包む。

『さて、おとなしく鍵を渡してくれれば怪我をしないで済むけど。俺あんまり血生臭いのは嫌いだしさ。どうする?』

言葉に合わせ、周囲を囲む黒子たちが一斉に沙耶たちに切っ先向けた。
だが囲む無数の刃に臆すことなく、拳剛は笑う。

「先生から託されたこれは、貴様らのような外道には渡せんよ。返り討ちにしてくれるわ」
『へぇ言うね。けどその余裕、一体どこまで続くかな?』

エイジのその言葉と同時に、突如辺りが暗くなった。窓から差し込む光すら消え、さながら新月の晩のような闇が部屋を覆う。
近くに居るお互いがなんとか辛うじて視認できるレベルの暗さ。全身黒づくめの黒子たちの姿など、もはやかけらも見えなくなっていた。
拳剛が、ふむと顎をなでる。

「光を消したか。しかしただの暗闇ではないな、どうも視難い。太刀川、これは?」
「おそらく隠行の効果を含んだ暗闇だ」
「隠行って、要するに姿を隠すってことだよね」
「ええ、そうです。ここで奴らの動きを察知するのはおそらく至難の業でしょう」

確かに、姿が見えないだけでなく、衣擦れの音や息遣いとか、そういった物も感じられない。黒子たちは数十人はいたはずなのに、これは奇妙なことだった。
突如三人の背後より風切り音が迫る。拳剛と太刀川は即座にそれに気付き、飛来した物体をはたき落とす。甲高い音を立てて、2、3の欠片が地に落ちた。
落下したそれ沙耶が拾い上げる。暗くてよくは見えないが、どうやら薄い鉄の板ようだった。

「あ、これ手裏剣か」

得心いったように沙耶が頷く。どうやら相手は本格的に忍者じみているようである。

「ほぉ、そんなものを投げてくるか。太刀川といい奴らといい古風だな」
「のんきなことを言っている場合か。奴らの獲物には大抵毒が仕込まれている、一発でも貰ったらそこで終わりと思え」
「む、それは物騒なことだ」

その言葉の割にのんきな様子で答えながら、拳剛は再度飛来してきた手裏剣を指で捕える。ついでに沙耶の方に飛んできた別の刃を掴んだ投剣ではじき落とす。さらに別の方向から沙耶と拳剛を狙った投擲を、太刀川の刀が叩き落とした。
闇の中から攻撃が矢継ぎ早に迫る。

「埒が明かんな」

そう言って、ふむと顎をなでると、拳剛はのっそりと歩きだした。
飛来する刃を迎撃しながら太刀川がそれを呼びとめる。

「!?おい等々力、どうするつもりだ!」
「このまま飛び道具で攻め続けられたら厄介だ、やられる前に一人ずづ直接叩く。沙耶は頼んだ」
「いや、ちょ、待……」

何を阿呆なことを言っているのか。太刀川は思わず絶句する。敵のフィールドでむやみに動くなど、正気の沙汰ではない。その上術の影響で視界も効かない。そんな中で不用意に突っ込めば、タコ殴りにされることは間違いないだろう。
太刀川は止めようとするも、しかし闇より迫る無数の攻撃の対処に手が離せない。
そうこうする内に拳剛の姿は闇に溶けて消える。

そして数秒後。絶叫があたりに響いた。続いてそれに重なるように野太い笑い声が続く。さらに轟音と、破裂音。そして最後にこの世の終わりにでも出遭ったかのような、断末魔の如き悲鳴が3回ほど聞こえると、音は止んだ。
数十秒の間、沈黙が辺りを支配する。

「等々力……?おい、等々力ッ!!?」

太刀川が叫ぶ。だが返事はない。良くない予感が彼女の脳裏をよぎる。

「まさかやられたのか……!?」
「いやぁ、多分大丈夫じゃない?」

額に汗を浮かべ真剣な表情の太刀川とは対照的に、沙耶はのほほんとしている。
そして沙耶のその言葉通り、拳剛は戻ってきた。

「無事かとどろ……え?」

安否を確認しようとした太刀川は、そこで目を疑った。
拳剛は黒子を5,6人まとめてずるずると引きずっていたのだ。しかも半数は股間が拳形に陥没している。

「あの、それは何だ?」
「隠れていた隠衆。案ずるな、峰打ちだ」
「峰とかないじゃん拳剛頭からつま先まで全身凶器じゃん」
「キレる十代だ」

もっとも峰だろうがそうじゃなかろうが、がっつり致命傷であろう者もいるのだが。主に男として。
太刀川が目を丸くする。

「見えるのか?」
「視界良好感度良し。おっぱいも男っぱいも、しっかりくっきり視えている。」

拳剛の内視力はおっぱいへのテンションによってその性能が上下する。どうやら美乳かつ巨乳の太刀川が横に居ることで、術による闇の中でも正常に機能するだけのクオリティになっているらしかった。
太刀川はと言えば、それを聞いて感心半分呆れ半分と言った様子だった。

「……敵に回すと厭らしいが、味方となるとこうも頼もしいとはな」
「そこは”恐ろしい”、と評するところではないか?」
「いやまぁあながち間違ってないよね」

拳剛は黒子を無造作に放ると、再び太刀川たちに背を向けた。

「さて、ではもう一回行ってくる。薄井は視えんが、まあその他の奴らは後2、3回もやれば片付…..」


「いいや、させないよ」
「!!!?」

何の予兆も前触れも、その息遣いすら感じさせずに、突如として薄井エイジが拳剛の目の前に現れた。内視力すら反応しないほどの穏行に気配が感じ取れず、拳剛はほんの一瞬だけ拳を振り上げるのが遅れる。だがその一瞬が勝負を分けた。
拳剛の迎撃より早く、エイジの指先が拳剛の額に触れる。

「おやすみだ、等々力拳剛」

エイジの指がこつんと拳剛の額を叩くと、拳剛のその身体は力なく崩れ落ちた。ドスンという音を立てて、体重120kgの巨体が地に横たわる。

「拳剛ッ!?」
「等々力っ!? ......チィッ!!」

太刀川が反応し、エイジに向かって神速の一太刀を放つ。
だが太刀川が抜ききるより早く、エイジは危なげなく太刀川の間合いから離脱する。そしてその姿は再び闇の中に溶けるように消えた。

「拳剛、ねぇ大丈夫拳剛!?」

沙耶は拳剛をゆすって起こそうとするが、しかし拳剛は一向に目覚めない。
外傷はない。薄井エイジにされたのも、額をこつんと小突かれただけ。だが拳剛は完全に意識を失っていた。

「太刀川さん、拳剛が起きないよ!?一体どうしちゃったのさ!!?」
「おそらく薄井エイジに術にかけられています!」

拳剛はもともと術の類に関しては全くの無知である。例えばこれが太刀川であったらそういうものに対する対策と言うのも把握しているため、こう簡単にはいかなかっただろう。だが拳剛はそういう対策を知らないため、あっさありとエイジの術中に嵌ってしまったのだ。

「そ、それって大丈夫なの!?」
「分かりません、術次第だとしか言いようが………!!」

焦る二人の会話を面白がるような様子で、どこからともなくエイジが笑う。

『安心しなよ、あの一瞬じゃそんな複雑なのには嵌められない。残念ながらね。ちょっと眠って貰っただけさ。』
「ちぃっ、目眩ましの類か!」
「目くらまし!?……ってなに!?」
「幻覚を見せられているということです!眠っているだけですが、術をとかねばずっとそのままだ!」
「ちょ、まずいじゃん!拳剛起きてよ!寝てる場合じゃないって!」

沙耶が拳剛の額をべしべしと叩く。だが拳剛は一向に起きる様子はない。

『無理だと思うけどね。今かけたのは、対象が心の底から望む幻を見せる術だ。自らの底にある純粋な願望を拒絶せねば眠りから覚めることはない。
その単細胞君にはちょっと難しいんじゃないかな?』
「望むもの……ああ、確かに無理かも」

沙耶には拳剛が見ているであろうもの即座に理解する。そして拳剛がそれを拒絶することなどできないだろうことも、容易に予想できた。

『さて、君たちの『眼』は潰させてもらった。この視界の効かない暗闇の中で、一体いつまで持つかな?』
「チィッ!!」

太刀川が舌打ちする。拳剛と違い、太刀川はこの闇で憂国隠衆の姿が見えていない。攻撃の接近に際する空気の揺れや風切り音でなんとか反応しているものの、かなり一杯一杯だ。
その上さっきまでは一人で一人を守っていたのが、今は太刀川一人で拳剛と沙耶の二人を守っているのだ。長く持たないだろうことは誰の目から見ても明らかだった。
闇の中から攻撃が間断なく迫り、太刀川の身体に目に見えて傷が増え始める。押され始めているのだ。このまま押し切られるのも時間の問題だろう。
加えて言えば黒子たちの目的はあくまで拳剛の持つ鍵。一度でも接近を許せば、鍵だけ奪われそこで終わってしまう可能性もあるのだ。
まさしく八方塞だった。

「拳剛!こら起きろってば拳剛!!」

沙耶の叫びが辺りにむなしく響いた。



*******************


拳剛は気づけば見知らぬ場所にいた。
さきほどまでは真っ暗な廃工場の中にいたはずだが、今彼がいるのは明るい青空の下の、広大な草原だった。

(薄井エイジと接触してからの記憶がない……)

拳剛は薄井に懐に入られたあたりから記憶が飛んでいる。なのでここが一体どこなのか、皆目見当もつかなかった。
とりあえず現状を把握せねばならない。
そう思った拳剛が状況確認しようと辺りを見まわした、まさにその時だった。

(な……!?)

拳剛の瞳が、驚愕からこれでもかというほどに見開かれた。
突如、どこからともなく現れた無数の人影が拳剛を囲んでいたのだ。
一体全体どこから沸いて出たのか、地平線まで続く程の人だかりが拳剛の周囲360度を埋め尽くしていた。
全員容姿背恰好はバラバラであり、とくに共通した特徴はない。しいて言えばほとんどが女性で、そして巨乳が多かった。

だが拳剛が驚いたのはそこではない。その地平線を埋め尽くすほどの数の人々。その一人一人が、内視力を使わずともわかるほどの美乳の持ち主たちだったのだ。
人に想像し得る大よそ全ての種類の超美乳が、拳剛の周りを埋め尽くしていた。

貧乳巨乳微乳超乳無乳白乳黒乳爆乳美乳魔乳奇乳男乳子乳凸乳凹乳偽乳垂乳牛乳細乳太乳歪乳乱乳揺乳剛乳柔乳 etc……

(ま......まずいっ!?)

見渡す限りの乳の群れ。
一体全体何故こんな状況になっているのか、拳剛には予想もできなかったが、だがそこは間違いなく乳の求道者にとっての楽園だった。しかしだがだからこそ、拳剛にとってこの状況は最悪なのだ。
とっさに眼を閉じる。が時既に遅し。絶世の美乳たちを認識した拳剛の体は、脊髄反射的に内視力を発動していた。

内視力は、乳への執念とも呼べるほどの強い渇望によってのみ開眼する。拳剛の理性を超えた部分で根付いたその本能が、本体の意思を離れ一人歩きするのも、無数の美乳に囲まれたこの状況に在っては至極当然と言える。
だが、今この状況このタイミングでのそれは、あまりにも危険だった。

何故ならば、『量が多すぎる。』

「がっ…….あ゛ッ!!!?」

乳への渇望が地平線まで行き渡り、拳剛の内視力が無限の彼方まで飛翔する。
無限とも言える膨大な数の乳のサイズから、形状、重量、色、匂い、肌触り、味、黒子の位置、果ては反発係数から弾力係数まで。無限の理想の乳の無限の情報が、脳の容量を全く無視して侵食する。
内視力の暴走。至高の乳たちに辿り着いた内視力は、今や主であるはずの拳剛の制御すら振り切り、乳を漁っていた。
無限とも言える量の乳の情報、人間の許容限界を遥かに超えたそのデータは、極限の超過負荷を拳剛の脳と身体に与える。
心臓が弾けそうなほどに脈拍を刻む。過剰に送り出された血流は過剰な圧力を伴い、身体の各部で血管を食い破る。
刃の前であっても怯まぬ拳剛の鋼鉄の肉体は、内部からの浸食によって崩壊を始める。

「がッ………ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

おびただしい量の鮮血が、晴天の空を赤く染めた。






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