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No.32435の一覧
[0] 衛宮邸の平和な一日[ダニエル](2012/03/25 22:05)
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[32435] 衛宮邸の平和な一日
Name: ダニエル◆b441d9ed ID:7a3e60e3
Date: 2012/03/25 22:05
気持ちのいい風が肌をなで、春の心地良い日差しが縁側を照らすある日。空には雲が浮かび流れていく。衛宮邸は今日も平和だ。
「おーい藤ねえ。飯食ったあとすぐ寝っ転がるなよなぁ・・・」
「いいじゃんせっかくの休みなんだしー」
仰向けに寝転がった藤ねぇを見て、士郎は思わずため息をつく。
「それにねー春眠暁を覚えずって言うじゃない。こーんな気持ちのいい天気なんだし寝なきゃ損よ損」
「まあ確かに気持ちのいい天気ですよね。でも先生、そんな風に寝っ転がるのはお行儀が悪いですよ?」
さすがの藤ねえも、桜に注意されてまで寝転がっていられないのか「はーい」とダルそうに言いながら身を起こす。
「それじゃ桜。後片付けはやっておくから。朝練だろ?」
「はい。ありがとうございます先輩。それじゃいってきます。」
桜を見送り、また寝転がった藤ねえを横目で見ながら台所に食器を運ぶ。少し手に余る量の食器に手伝いを頼みそうになり

「ーーー」

彼女はもう居ないことを改めて思い出した。
我ながら女々しいやつ、そんな感想を抱きながら、台所に立つ。
シャーと、少しばかり冷たい水が食器についた汚れを洗剤と共に落としていく。汚れが落ちていくのを見ている間に、心は落ち着いた。
聖杯戦争が終わって、彼女がいなくなってからもう二ヶ月ほどが経った。普段は平気なのだがふと油断した時にこうなってしまう。
別に辛いとかそういうわけじゃない。ただ、彼女はもう居ないんだという実感が、まだ全身に行き渡ってないのだろう。
俺は彼女に―――
「シロー!!」
威勢のいい声で思考がかき消される。振り向くと視界の下の方にぴょんぴょん跳ねる銀色の頭が見えた。
「ああイリヤか。どうした?」
いつもの私服に着替えてきたイリヤは
「一緒にお昼寝しよー!?」
と、まるでどこかのダメな虎に毒されたかのようなことを言った。
「あーとりあえず離してもらわないと洗い物が進まないよ」
「はーい」とおとなしく手を離し、何かを期待するような顔で、にこにことしている。そんな顔をされてお願いを無碍に断れるはずもなくー

気がついたら縁側で三人揃って寝っ転がっている状況だ。
(どうしてこうなった・・・)
藤ねえはすでに爆睡。イリヤも満足気に士郎の腕を枕にしている。
「シロォー・・・パパァー」
(・・・俺はいつからパパになったんだろう・・・とか思ってたら俺も眠くなってきたな・・・あれ、そういえば遠坂って何時くらいに帰ってくるんだっけ・・・)
なにかを思い出そうとしながら、士郎は睡魔に耐え切れず意識を手放した。

-----------------------------------

「・・・っ・・・ロウ?シロウ、どうしました?」
「ああいやなんでもない、ごめん少しぼーっとしてたみたいだ」
何故だかぼーっとしてしまっていた。白昼夢というのはこんな感じなんだろうか。セイバーが目の前にいる、そのことがひどく気になって・・・
「まったく、料理の最中にそうなっては困ります。ほらシャキッとしてください。今日はイリヤスフィールの誕生日なのですから。」
「あーごめんごめん。大丈夫。よし、イリヤが帰ってくる前に仕上げるぞー!!」
しかしその違和感の正体を突き止める前に、不思議な感覚は消えてしまった。消えてしまったのなら仕方ない。
(今日はイリヤの誕生日。イリヤはあと少しで帰ってくる。その前に料理の仕上げをしちゃわないと。)
違和感を感じたことは忘れ料理に取り掛かる。といっても、あとは皿を並べるくらいなものでそれはセイバーが手伝ってくれるおかげでもう終わるだろう。
車の音が聞こえる。どうやらイリヤが到着したようだ。皿を並べ終わったセイバーとアイコンタクトを取り玄関へ向かう。
ガラガラ
「「「ただいまー」」」
パンッ
「誕生日おめでとうイリヤ!!」
「誕生日おめでとうございますイリヤスフィール!!」

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気がついて最初に感じたのは暖かさだった。車特有の心地良い揺れの中、目を開ける。
「あら、イリヤ。よく寝てたわねぇ」
目を開けて最初に飛び込んできたのは、愛しい母の笑顔だ。
「おや、眠かったら寝ていてもいいんだよ?」
運転席からは、渋い、しかし優しげな声が聞こえる。
「あれ?えーっと・・・」
一瞬現状が飲み込めない。どこか温かい日差しの中で眠っていたような気がする。
「どうしたのイリヤ?寝ぼけているのかしら?」
「ううん、なんでもない。ちょっと疲れちゃってたみたい」
(そう、今は模試の帰りで少しつかれていただけ。少し寝たのでもう大丈夫なんだから。)
頭を振って違和感を投げ捨てる。日はもう暮れて夜景が目に入ってくる。
「模試の手応えはどうだったんだ?」
「ばっちりね。結果が来るのは来月だけど、いい結果取れてるはずよ。」
「そう、イリヤはさすがねぇ。私はロンドン塔とかにはいってないけれど、イリヤには行ってもらいたいもの。」
「まあアハト翁にしっかり教えてもらったんだ、落ちることはないさ。」
「そうねぇ・・・聖杯での悲願の成就が不可能になってしまった以上、地道に代を重ねるしかないものね。」
「でも、ロンドンに行ったらシロウとも離れなきゃいけないのよね・・・いやだなぁ・・・」
「はははイリヤは士郎の事好きだなぁ。でも愛しの弟さんにも魔術の素養はあるんだ。それに遠坂のお嬢さんとも親交がある。きっと一年遅れくらいでロンドンにも行けるさ」
「あの子の魔術系統は本当に不思議よねぇ・・・固有結界からいろいろなものを引き出して具現化。しかもその物質は現世に固定化できてしまうんだもの。」
「ああ、普通じゃ考えられない投影だ。しかし普通の魔術はからっきしだからね、一芸とかで入るしかないだろう。」
「シロウならなんとかなるわよ。なにせ私の弟なんだから!!」
「まあ、血はつながってないけどな。そら、着いたぞ。」
車のドアを開ける。以前は一旦足を車内におろしてからでなければ届かなかった床。しかし今は自然と座席から足を下ろすことができる。
意識するでもなく、自然と三人で歩き出し玄関へと向かう。
玄関のドアを開け、「ただいまー」と言いいながら、玄関を開け放ったイリヤは
パンッ!!
「誕生日おめでとうイリヤ!!」
「誕生日おめでとうございますイリヤスフィール」
視界を埋め尽くす色とりどりの紙吹雪に目を丸くした。

----------------------------------


立ち尽くすイリヤ。さすがにクラッカーはやり過ぎだったかと思うと
「シ、シローありがとう!!」
飛びついてきた。身長差がある程度あるといっても不意を打たれ、支えきれず倒れそうになる。
「あぶっ「危ないっ」
とっさにセイバーが支えてくれたお陰で、事なきを得る。
「あーもーありがとう!!シロウだーいすき」
士郎を押し倒した状態で離さないイリヤ。
「あらあらイリヤは士郎が大好きなのねぇ」
「まったくシロウとイリヤスフィールは仲が良すぎです。」
「・・・・・」
みんなにはやし立てられて恥ずかしい。あと切嗣の沈黙がやたら怖い。
「お、おいイリヤそろそろどいてくれないか」
「うーん」
最後にひとしきり頬ずりをした後立ち上がる。
「わたしの誕生日ってこと覚えててくれたんだ・・・」
「当たり前だろ。さ、ご馳走も用意してるんだ。」
そういいリビングへ歩いて行く士郎、そしてその後ろについていくイリヤとそれを見守るように歩いて行くセイバー。三人を眺めながら父は
「イリヤと士郎は本当に仲がいいわよねぇ」
「正直、仲よすぎじゃないかなぁ・・・」
「あら、不満なの?私はイリヤと士郎が恋人になってもいいと思ってるけど?」
「ぐっ・・・いや、変な奴に捕まるくらいなら・・・士郎ならたしかに信頼はできるしな・・・あいつは真っ直ぐだ、真っ直ぐすぎるくらいに」
「あら不安なの?大丈夫よ。私達がいるもの」
「・・・そうだな。士郎が間違ったら僕達が正せばいい。」
「ええ、それじゃご飯が冷めてしまう前に食べに行きましょう」
「ああ」
と、少しばかり早すぎる心配をしていた。父が思っていたよりこの心配は実現することになるのだが、それはまた別の話。

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ご馳走を食べ終わり縁側で三人並んで月を眺める。
「あーおいしかったー。さすがシロウね」
「士郎の料理は本当に美味しいからなぁ。僕はイリヤも料理の練習したほうがいいと思うけど。」
「シロウがいるからいいのー!!」
士郎とセイバーは道場で夜の稽古に励んでいる。時折聞こえる景気のいい音は士郎が面をもらっている音だろう。
「大おじさまは料理なんかより魔術の練習をしたほうがいいていうに決まってるもん」
「たしかにアハト翁はそういうだろうな・・・でも自分の好きなようにしていいんだぞイリヤ?アハト翁の言うことなんか気にするな」
「そうねぇ・・・気にするなって言うのは大げさだけれど・・・自分のしたいようにするのは大事よ」
「そっかぁ・・・うん分かったぁ・・・」
「あれ、また眠くなってきたのか?まあ模試の後じゃあ仕方ないか・・・そら、こんなとこで寝ると風邪ひくぞ」
「うーん・・・切嗣だいすきぃ・・・」
「はは、父さんもイリヤのこと大好きだぞ」
父の腕の中は暖かく、そして心地よかった。
だからか、それとも本当に疲れていたのか、イリヤの意識は闇に溶けていった・・・

---------------------------------

パシィ、気持ちのいい音が響く。また一本取られてしまった。相変わらず手も足も出ない。
「さぁシロウもう一本です」
「ああ」
再び構える。士郎の動きは目に見えてよくなっていた。
「なあセイバー、試しにこれでやってみてもいいか?」
二本の短い竹刀を手に取り構える。その構えは、いままでの士郎の構えの中で最も様になっていた。
「む、二刀ですか。いいでしょう色々なことに挑戦してみるのも悪くはないでしょう。」
お互いに構える。
「では、いきます。・・・ハッ!!」
セイバーは、まずは小手調べと上段から斬りかかる。しかし小手調べといっても、そのスピードは常人では受けることすらままならないスピードだ。それを――
「フッ!!」
士郎は二本の竹刀を使い巧みに受け流し、返す刃で胴を狙う。
(俺、こんな動きできたのか・・・)
自分でも驚くほど自然に動けた。明らかに先ほどまでの衛宮士郎ではない。
しかしそこはセイバー。受け流した筈の竹刀が跳ね上がり渾身の胴を吹き飛ばす。そうして持ち上がった竹刀は、稲妻のような速度で振り下ろされてくる。
「ツッ」
吹き飛ばされた腕はそのままに、もう片方の竹刀でガードを試みる。だが
スパァン
頭から星が散る。片腕で、しかも無理な体制でのガードはたやすく吹き飛ばされてしまった。
「シロウ。今の動きは良かったです。普段とは段違いでした。」
「いててて・・・でもやっぱセイバーには手も足も出ないな」
「いえ、今は思わず少し本気を出してしまうほどでした。今の構えはシロウに合っているのかもしれません。」
「それはたしかに・・・なんだかしっくりきたな。よしもう一本だ!!」
「その心意気です。」

「あーやっぱ適わない・・・」
「いえ動きはだんだんと良くなってきています。特に二刀流に変えてからの動きは見違えるようです。」
「なんか自然と体が動くんだよなぁ・・・」
「それはいい傾向です。戦いの時には考えを張り巡らせる暇などありませんから。それではこの一本で終わりにしましょう。」
「ああ。」
なんだかとても気分がいい。セイバーからは一本もとれていないのに、なぜだろう。
「それじゃいくぞ!!」
向かい合い構える。体が自然と動く。セイバーに打ちかかり、受けられ、反撃を受け流し反撃する。
その型は、かつて赤い衣をまとい、戦場を駆けたあの男と同じものだった。
正真正銘、これが衛宮士郎の本気。衛宮士郎の武術の到達点。セイバーと渡り合えるほどの境地。
しかし、それでも届かない。右の手の竹刀がはじき飛ばされていく。左手だけではセイバーの剣は防ぎきれない。ならば―――
「投影開始」
撃鉄を落とす。魔術回路を起動させ魔力を循環させる。セイバーの攻撃は0,5秒後には到達するだろう。幸い投影するべきものは今も左手に持っている。
そこから基本骨子を読み取ることもなく―――投影は終わった。
「なにっ!?」
驚くのも無理は無い。先程はじき飛ばしたはずの竹刀が袈裟斬りを受けているのだ。
とっさに距離を取るセイバー
「なるほど、投影ですか。いいでしょう。ただし竹刀以外のものを投影するのは禁止です。」
この衛宮士郎は知らないはずの景色。黒い鎧を身にまとうセイバーと、真剣で斬り合い、斬り伏せる結果。そんな幻視を振り払うように
「ああ、もちろんだ。これは試合なんだから。」と口にする。
試合を再開する。投影を駆使し、セイバーと打ち合う。時にはわざと竹刀を弾き飛ばされ、そうして作った隙に打ち込んでいく。これでようやく互角。
そう衛宮士郎の振るう剣術は、投影を使う前提の剣術。鍛鉄の英霊が極めし絶技。故にこれが完成形。これでこそ、セイバーと真っ向から渡り合える。
「なぁセイバー!?」
「なんですかっ!シロウ!?」
「なんだか自分でも分からないけど、ありがとう!!」
「なんですか突然?こちらこそ、感謝せねばならないことばかりです!!」
「いや、それでも何だか言いたいんだ。ありがとうなセイバー!!」
長く続く均衡。実力が拮抗した者同士の剣舞。しかし、それもあっけなく終わりを告げる。
「クッ」
はじき飛ばされる竹刀。それを複製しようとして―――
(あ、魔力切れ・・・)
スパァンと、セイバーの本気の上段が脳を叩く。
「あ、シロウ!?」
セイバーもとっさには止められなかったのだろう。
「シロウ!?大丈夫ですかシロウ!?」
心配するセイバーの声に応えようとして
(あれ、意識が・・・)
士郎の意識は急速に薄れていった。

----------------------------

「あれまぁみんなこんなに良く寝ちゃうとは・・・効き過ぎたのかしら?これ・・・」
なにか聞こえる
(あれ・・・遠坂の声・・・?)
「しかしそろそろ起きてもらわないと困るわ・・・私のせいで昏睡なんてなられたら困るもの」
(あーそっか、確か縁側で三人で昼寝して・・・ん?私のせいって・・・どういうことだ?)
「やっぱりあの宝箱から出てきたアイテムは信用ならないわねぇ。ほらっみんな起きて!!」
ユッサユッサ
意識が浮上していく。直前まで見ていた夢のことは意識から消えてゆく。
「ふわぁ~・・・うん?おはよう遠坂」
「おはよう士郎。二人でお昼寝とは気持ちよさそうねぇ」
「ああ・・・イリヤにせがまれてなぁ。まさかあんなに寝ちまうなんて・・・ってか今何時だ?」
太陽は随分高くまで昇っている。たしか寝たのは十時くらいだから・・・
「ああ今は一時よ。私が家から戻ってきてみれば、みんなぐっすり眠ってたってわけ。」
「げっもうそんな時間か・・・昼飯作らないと。てか、遠坂はいつごろ戻ったんだ?たしか昼前には戻るとか言ってなかったっけ?」
ユッサユッサとイリヤを揺すりながら聞いてみる。
「え、ええ、十二時くらいには戻ってたわよ?」
「ふーん・・・そういえばさっき私のせいで昏睡なんて~みたいなこと言ってなかったか?あれ、どういうことだよ」
「え、いえ、別に何でもないのよ。あ、それよりイリヤ、おきたのね?」
「うーん・・・ちょっと前から起きてたわよ・・・」
「あらそうなの。なら起きればよかったのに」
「いやぁリンが士郎の寝顔を観察しているのを邪魔するのはしのびなくって」
「ハァ!?何言ってんのよ、別に私そんなことしてないわよ!!」
顔を真赤にして反論する遠坂。どうやら士郎の寝顔を見ていたというのは本当らしい。士郎まで赤くなっている
「まあいいわ、なんだかすっきりしてるし。特別に不問にしてあげる」
「あら、これ本当に効き目合ったのね」
背中で隠していたものを取り出す。
「なんだよそれ、お香か?特に匂いは感じないけど」
「いやー実は家を整理してたら出てきてねぇ。取説によるとかの宝石翁が作ったものらしくて、寝てる時に使うといい夢を見られるって。」
「そんな怪しい物を許可も取らずにつかったの!?まったく・・・起きなくなったらどうするつもりだったのよ?」
「いやー大丈夫だと私は信じていたわ。うん」
「おい、つか藤ねぇは?一緒に寝てなかったか?」
「?藤村先生なら向こうで寝てるわよ?」
遠坂の指をさす方向を見ると、廊下の端で大の字で寝る藤ねぇが。寝相であそこまで転がったのか、それとも自分で移動したのかはわからない。
どうせ料理を始めれば起きるだろう。藤ねぇは放っておいて立ち上がる。
胸の奥にあったつっかかりはいつの間にかなくなっていた。本当に遠坂のお香が効いたのだろうか。
もう夢ははっきりとは思い出せないが、なにかずっと言いたかったことを言えたような感覚だ。
「うーん、それじゃあ昼飯でも作るか。遠坂も食べるだろ?」
「あら、私も手伝うわよ?」
「イリヤだって手伝うー」
「ははっじゃあ手伝ってもらおうかな。」
談笑しながら三人で台所に向かう。

春の気持ちいいそよ風が吹くこの日。空は晴れ渡り雲ひとつない。衛宮邸は今日も平和だ。


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