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No.32424の一覧
[0] ポケモン HGSS シロガネ山にて[オレンジ](2012/03/25 12:47)
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[32424] ポケモン HGSS シロガネ山にて
Name: オレンジ◆00ce55b0 ID:6581d172
Date: 2012/03/25 12:47
ぼくも ちょうてんに たどりついた▼

 頂上はひどい吹雪だった。洞窟の暗がりに慣れた目に、氷の粒の反射が痛い。かばった手の向こうにちらりと人影が見えた。こんなところに立ち尽くしているのは誰だろう。頂上にはもう誰もいないと思っていた。
 バクフーンがううと低く唸った。四つん這いになって緊張した背中がぼっと音を立てる。赤く燃え始めた炎の周りでちらちらあられが溶ける。おかしい。何か警戒している。
 上着の裏には十六個のバッジが輝いている。リーグの認めた十六人のジムリーダーを倒した証だ。その第一戦めから共に戦ってきたバクフーンには、恐れるトレーナーなどいないはずなのに。
 身につけた五つのモンスターボールがかたかたと音を立てる。震えている。数多い仲間の中でも、最も信頼をおいたポケモンたちが震えている。ひどい寒さにもかかわらず、額に汗が流れた。
 バクフーンに声をかけて歩き出す。かけた言葉はむしろ自分を奮い立たせている。心臓が波打つ。こんなふうになったのは、初めてバトルに臨んだとき以来だ。気付くとぎゅっと拳を固めていた。
 ランニングシューズの裏がきしきしと音を立てる。降り積もった雪に足跡が残る。警戒しながらも、バクフーンはその足跡を踏んでおとなしくついてくる。
 ひゅうひゅうと吹き付ける冷たい風。まるで、ここを出て行けと言っているみたいだ。頂上の一本道は高すぎて、下を見ようとすると目がくらむ。こんなところにいるあなたは誰なんだ?
 一本道の最後は、岩を刻んだ石段になっていた。人影はその一番上に立っている。背中を向けて黙り込んで、まるで誰かが登ってくるのを待っているみたいだ。一つ深呼吸して、階段に足をかけた。
 一足一足、白い息を吐きながら登る。その度に雪がぎゅっと音を立て、足跡を確実に刻み付ける。バクフーンの鼻がふんと鳴る。石段の頂上に辿り着く。
 背中を向けた人影は、赤い帽子をかぶっていた。手を伸ばせば届くところまで来たのに、振り向こうともしない。まるで今ここにもう一人いることに気付いていないみたいだ。
 喉の奥が鳴った。彼にはきっと、自分から話しかけなければならない。そうしなければ、ここにいることすら認めてくれない。冷たい空気を吸い込んで、最後の一歩を踏み出した。
「                 」
 かけた言葉は吹雪く風に持っていかれた。しかし、彼はゆっくり振り向いた。帽子の陰の瞳に「もう一人」の姿が映る。小さな光がその上にきらめく。堅い唇が動いて、戦いの合図を告げる。
「             」
 投げられたモンスターボールが開き、黄色い光が吹雪の中に躍り出る。


****************


 グレン島で偶然出会ったトキワジムリーダーは、寂しそうな顔でマグマに埋もれた街を見つめていた。声をかけると、「おう」と振り向いて笑顔を見せた。
「おまえすごいな! レッドと戦って、勝ったらしいじゃないか!」
 何も答えない顔を見て、軽く肩を叩く。
「気にすんなよ。おれも一度チャンピオンになった男だからわかる。あいつはおまえに負けたことを恨んじゃいねえよ。ハッパかけられたって思ってもな」
 トキワジムリーダーは確信を持ってうなずいた。
「あいつは何度だって這い上がってくる。何ならもう一度シロガネ山に行ってみな。あいつは必ず待っている。いつだって人より高いところにいやがるんだ。認めたくねーけどな」
 やわらかい風が吹いて、頬をやさしく撫でていった。バクフーンが鼻を突き上げて、懐かしそうな顔をする。
「マサラはまっしろ はじまりのいろ」
 つぶやいて、トキワジムリーダーは一歩下がった。モンスターボールを取り出して、ぽんと軽く投げて受け止める。
「行く場所決めてねーならマサラタウンに行ってみろよ。カントーのはじまりのまちだ。研究所におれのじーさんがいるからな。多分、なんかいい情報教えてくれるぜ」
 にっと笑ってボールを開いた。鋭い声をあげて、よく育てられたピジョットが翼を羽ばたかせる。
「おれはトキワのジムに戻る。また戦おうぜ。日曜の夜じゃないとからだがあかねーからな。そのころにまた、電話してくれよ!」
 トキワジムリーダーを乗せて、ピジョットは悠々と北に飛び去っていく。誰もいなくなった街跡に、潮騒の音が広がる。
 バクフーンに話しかけると、甘えた目でこちらを見た。渡っていく風に、懐かしいフレーズが浮かぶ。もう一度、新しいはじまりに立ってみるのもいいかもしれない。やってみたいことはまだいっぱいある。
「行こうか」
 声をかけると、バクフーンはゆっくりとうなずいた。青空に向かって、弾みをつけてモンスターボールを投げ上げる。


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